『チェケラッチョ!!』:2006、日本
沖縄。高校生の伊坂透、南風原唯、玉城哲雄、本部暁は、唯の姉・美奈とアンディー・クラレンスの結婚式に参加している。式の会場は、 透の家の敷地だ。ジャンケンで負けた透は、ある仕事を押し付けられて嫌がるが、唯に脅される。唯の父・稔は会場に現れず、家でヤケ酒 を飲んでいる。透の父・平介が連れ出しに行くと、彼は「俺と3つしか違わない男を息子とは思えない」と泣き出した。
唯が「もう1組の幸せなカップルを呼びたいと思います」と言うと、暁と女装の透が並んで登場した。哲雄の父・克治は、暁の父・修一郎 に向かって「目立ちたがりやは遺伝するみたいだな」と嫌味を言い、2人はケンカになる。初恋の相手を取り合ってからのライバルだが、 どっちもフラれている。透の母・和子、唯の母・恵子、暁の母・聡美たちが止めに入るが、克治と修一郎は掴み合いを続ける。すると美奈 がマイクで怒鳴り付け、一同を静かにさせた。直後、アンディーが三線の演奏を始めた。すると音に合わせて全員が踊り出し、険悪だった 雰囲気は一気に明るくなった。
翌日、水族館の清掃バイトをしていた透は、水槽の中で泳いでいる年上の女性・中村渚に気付いて心を奪われる。姿を消した彼女を捜して 水槽に飛び込むと、渚は既に外へ出ていた。息が続かずに透は失神してしまい、1年前に死んだ唯の祖母・ちさの出て来る夢を見た。ちさ は「アンタはファーストキスをしたおなごと情熱的なラブをする運命だ」と言い、姿を消した。直後、唯が現れたので透がキスしようと すると、暁が現れてキスを迫った。
暁のキスに抵抗した透が意識を取り戻すと、そこには渚がいた。透が溺れたので、人工呼吸してくれたのだ。「覚えてねえ、勿体ねえ」と 透は頭を抱える。渚は「ここで泳いでたこと、内緒ね」と告げて去った。翌日、透は学校で担任の喜屋武茂雄から進路指導を受けるが、 具体的な目標を何も考えていないので叱責される。休み時間、彼は屋上で哲雄と暁に会い、「進学か就職しか無いのかなあ」と漏らす。 そこへ唯が現れ、とインディーズでナンバー1の人気を誇るバンド「ワーカホリック」のライブに誘う。3人とも乗り気ではなかったが、 「ファンの女の子は可愛いって言うけどな」と聞かされて態度を豹変させた。
放課後、透たちが学校を出ると、美奈が待っていた。5人は源河一の運転する個人タクシーに乗り込み、古座へ向かう。ライブハウスに 入ると渚がいたので、透は3人を紹介した。透と渚が人工呼吸とはいえキスしたと知った唯は、トイレへ行って「何がマウス・トゥー・ マウスか」と吐き捨てる唯。ライブが始まり、透たちは大いに盛り上がった。メインMCの多良間涼太がペットボトルを投げると、観客は 奪い合いになった。
ライヴの後、仲間とはぐれた透は、渚を見つけて近付いた。すると彼女は「こっちから出よう」と言い、透の手を引っ張って裏口から外に 出た。透は彼女にメアドを教えてもらう。帰りのタクシーで、透、哲雄、暁は自分たちがステージに立って女性客の歓声を浴びる姿を妄想 し、バンドをやろうと決める。3人は音楽室から楽器を盗み出し、それぞれに練習を始める。透がギター、哲雄がベース、暁がドラムを 担当することにした。練習を始めた直後、暁はワーカホリックの前座バンド募集のチラシを発見した。
透たちは近所のおばぁたちに集まってもらい、演奏を聴いてもらう。それは酷いものだったが、おばぁたちは拍手して「良かったよ」と 誉めた。暁は透と哲雄に、前座バンドに応募したら採用されたことを明かす。そのライブは2週間後だ。メインMCを決めることになり、 3人とも乗り気だったが、唯から「自分でラップを考えるのよ」言われると途端に尻込みする。ジャンケンで負けたのは透だった。彼は 嫌がるが、暁に「渚さんはワーカホリックのファンだから前座も見るぞ」と言われて「やります」と口にした。
透は不安で一杯だったが、アンディーからラップを教えてもらう。また渚と出会った透は、彼女に誘われて洋服を買いに出掛けた。3人の バンド名は、おばぁたちの多数決で「098」に決定した。透はライム作りに苦労し、前日になっても哲雄と暁がガッカリするようなモノ しか用意できなかった。その夜、ホテルで働く渚から、透に電話が入った。渚は応援の花火を彼に見せ、「下手でも楽しめばいいよ。 そうすれば聴いている人にも、きっとハートが伝わるよ」と告げた。
透がライブの夢を見ていると、ちさが出現して「新しいお告げさ。ファースト・キッスのラブは上手く行かないさ」と告げた。その翌日、 ライブハウスへ赴いた唯は、トイレで渚と会った。唯が話していると美奈が個室から出て来て、外に連れ出す。美奈は「なんであいつ 知ってんの?涼太の彼女」と言う。出番の直前、涼太が自分たちを「ロックフェス3年連続優勝」と紹介するので、透と哲雄は暁が嘘を 書いて応募したと知った。
透たちは緊張しながらステージに上がるが、酷い演奏に観客が物を投げ付け、涼太コールが起きた。ワーカホリックがステージに現れ、 涼太は透「カッコだけじゃねえかよ。空っぽなんだよ、ここが」と言い放って、胸にマイクを突き付けた。暁がカッとなって殴り掛かるが 、逆に引きずりおろされて客に殴られた。翌日、透たちは保護者と共に学校へ呼び出され、停学処分となった。「空っぽって何かな」と 考え込んでいた透は、美奈の言葉で渚が涼太の恋人だと知った。
透は唯から「気になるんなら確かめて来ればいいさ」と言われ、「俺は俺で考えてる。お前は好きな奴がすげえ奴と付き合ってても、簡単 に好きだって言えるのか」と反発する。唯が「言えるよ」と告げると、彼は「強がるな。だったら今すぐ、そいつに言って来いよ」と挑発 した。すると唯は緊張しながら、透に告白しようとする。しかし透がキョトンとしているのを見て腹が立ち、海に蹴り落とした。
海から上がった透は渚と遭遇し、彼女の家に招かれる。渚が透にシャワーを浴びさせていると、涼太が車で現れて「荷物取りに来た」と 言う。風呂から出て来た透は涼太と遭遇し、慌てて釈明する。しかし涼太は彼を無視するように、荷物を受け取って立ち去った。渚は透に 、涼太と別れたことを明るく話す。「東京に帰ることにしたんだ。色んな事が嫌になって、3年前に逃げて来ただけなんだ」と彼女が口に すると、透は「何だよ、それ」と声を荒げて走り去った。
その夜、透はライブを終えた涼太の前に現れ、「渚さんに、東京に行くなって言ってあげて下さい」と頼む。「あいつが帰りたいって 言ってるんだから、いんじゃないの」と涼太が淡白に言うと、透は「何なんだよ、アンタだって、まだ渚さんのこと好きなんだろ」と 掴み掛かる。すると涼太は「好きとか嫌いとか、そんなことだけじゃ、やってけねえんだよ」と怒鳴り、彼を殴り倒した。
涼太が「お前は渚の人生を背負えるのか。バイトしなきゃ食ってけない田舎のミュージシャンに付いて来いって言えるのか」と言うと、透 は「人を好きになるのは理屈じゃねえだろ」と反発した。その様子を、全て唯が見ていた。涼太が去った後、透は唯に「俺さ、今日、 いっぺんに2つ分かった。俺は確かにガキンチョだよ。でも空っぽじゃねえ。なんかズキズキ痛いもん」と述べた。唯は彼をギュッと 抱き締め、「その気持ち、ガツンと歌ったらいいさ。応援するからさ」と告げた…。監督は宮本理江子、原作・脚本は秦建日子(新潮社刊)、製作は亀山千広、企画・プロデュースは大多亮、エグゼクティブプロデューサー は関一由&島谷能成&細野義朗、プロデューサーは宮澤徹&瀧山麻土香&和田倉和利、撮影は柴崎幸三、照明は吉角荘介、録音は南徳昭、 美術は川村泰代、編集は深沢佳文。
エンディングテーマ「Walk on」、挿入曲「HTSTERIC TAXI」「HUB☆STAR」「以心電信」「NATURAL POP」 ALL MUSIC / WRITTEN BY ORANGE RANGE。
出演は市原隼人、井上真央、平岡祐太、柄本佑、陣内孝則、平田満、玉山鉄二、樹木希林、KONISHIKI、伊藤歩、山口紗弥加、川田広樹 (ガレッジセール)、ゴリ(ガレッジセール)、柳沢慎吾、松重豊、大島さと子、筒井真理子、種子、福田加奈子、山城初子、屋良静子、 井波孝仁ら。
脚本家・山田太一の娘で、フジテレビのドラマ制作センター所属のディレクターとしてTVドラマを制作してきた宮本理江子が、初めて 監督を務めた劇場用映画。
原作・脚本として秦建日子の名前が表記されているが、先に原作小説があったわけではない。
小説と脚本は同時進行で執筆されており、主人公も内容も異なっている。
透を市原隼人、唯を井上真央、哲雄を平岡祐太、暁を柄本佑、平介を陣内孝則、稔を平田満、涼太を玉山鉄二、ちさを樹木希林、 アンディーをKONISHIKI、渚を伊藤歩、美奈を山口紗弥加、茂雄を川田広樹(ガレッジセール)、一をゴリ(ガレッジセール)、修一郎を 柳沢慎吾、克治を松重豊、和子を大島さと子、恵子を筒井真理子、聡美を種子が演じている。ワーカホリックの涼太以外のメンバーは、 クラブ系バンドのDef ROCKSTA(2010年で無期限活動休止)が演じている。映画の舞台は沖縄だが、沖縄である必要性や意味は全く無い。沖縄出身ではない俳優陣に、沖縄の言葉を喋らせている意味は全く無い。
あえて意味を探すなら、観客が「沖縄」という要素に食いつくことを狙ったというトコロだろう。
っていうか、まず間違いなく、それが狙いだ。
「沖縄を舞台にすれば、それだけで訴求力が上がるんじゃねえか?」という安易な考えがあったんだろうってのが、透けて見える。
いや、透けて見えるどころか、ハッキリと見える。なぜ最初のシーンが美奈とアンディーの結婚式なのか、そこからして疑問。
最初のシーンってのは、メイン4人のキャラであったり、ラップの魅力であったり、そういう物語の根幹に関わる部分をアピールするため のモノであった方がいい。それなのに、何を描く狙いがあるシーンなのかボンヤリしている。
メインの4人は登場するけど、その時点では彼らが高校3年生であることも分からないし。
それに、周囲の大人たちも同等ぐらいの扱いで紹介されている。あと、そこで「喧嘩騒ぎで嫌なムードになっていたが、アンディーが三線で沖縄民謡を演奏して全員が踊り出し、ガラリと雰囲気が明るく なる」という展開を用意すると、「沖縄民謡って素晴らしいね」ってことになっちゃうでしょうに。
冒頭で沖縄民謡が流れて来た時点で違和感はあったんだけど、この映画で「沖縄民謡が雰囲気を明るくする」という魅力を示して どうすんのよ。だったら、メイン4人が沖縄民謡に取り組む映画にしなさいよ。
あと、その冒頭シーンでは、美奈が年の離れた外国人と結婚したとか、それを稔が認めていないとか、平介がペンションを潰して別の仕事 をしているとか、透たちの家族の設定が提示されているが、後の展開に繋がっておらず、まるで活用されていない。
これが連続ドラマなら、その辺りまでフォローできるだけの時間的余裕があったのかもしれないが、117分の尺に対して、あまりにも欲張り 過ぎている。結婚式のシーンの後、透が渚と出会うシーンがあって、その次にようやく進路指導のシーンがあるんだけど、どう考えても手順がマズい。
流れを考えると、まず結婚式は無くてもいい。
どうしても入れたいなら(どうしても入れたいと考える理由はサッパリ分からないが)、後回しにすべき。
まずは、4人が高校3年生で卒業後の進路を迫られる時期に来ていることを、早い内に示すべきだろう。「進路が決まっていない」という部分以外の展開を転がしていくのは、そこを処理した後にすべき。透が渚と出会うのも、バイトしながら 「進路、どうすっかなあ」と悩んでいるとか、そういうタイミングにした方がいい。
ただ、そんな風に感じたのは、こっちが勝手に「透が進路で悩む中でバンド活動を開始し、音楽と取り組む中で、やがて将来の道筋を 決める」という流れになると思ったからだ。
しかし実際には、透がバンドを始めても、それと「進路に悩んでいる」という設定は、まるで関連しない。序盤で「進学か就職しか 無いのかなあ」と言っていたけど、それ以降は全く悩まないし。
それに結局、透がバンド活動の後で進路についてどう考えるようになったのかは、まるで分からないのだし。ちさの夢を透が見るシーンが挿入されているが、ホントに意味が無い。
そのお告げがあったから透は渚に惹かれたわけじゃなくて、その前から惹かれている。ファーストキスに関するお告げが無くても、透は渚 にアプローチしようとしていただろう。
2つ目のお告げに関しても、それがあろうと無かろうと、透の行動には何の影響も及ぼしていない。
渚といい雰囲気になっているけど、透がお告げのせいで不安になるとか、そういう影響を及ぼすようなことは全く無い。ライブハウスで渚と会った透が浮かれて、唯が心を乱されてトイレに行き、それを見た哲雄の心も揺れるというのは、ライブの前に見せる べきではない。
「透たちがワーカホリックのライブに魅了される」という展開が重要なはずなのに、そこの意味が薄れてしまう。
恋愛模様と「透たちがライブで盛り上がり、ワーカホリックに魅了される」というのは、完全に切り離して、別のシーンで描くべきだ。
それと、ライブの帰り道、透たちは興奮しているが、透に関しては渚と話したりメアドを貰ったりしたことでも浮かれているわけで、 「ライブに対する興奮」という部分がボヤけてしまう。っていうか、そもそも、「ライブで3人がすっかり魅了される」というところの説得力って、まるで感じないんだけどね。
そういうのって表現が難しいモノではあると思うのよ。
だけど、それにしても何の工夫も無く、ただ「ライブが始まると3人が盛り上がっている」という様子を平坦に描いているだけなんだよな。
彼らがライブに行くのは初めてなのかどうか、ラップを聞くのは初めてなのかどうか、そういうことも良く分かっていないし。ライブの帰り道、暁が「バンドだよー」と言った後、透たちは「ステージで演奏した自分たちが女性客の歓声を浴びている」という妄想を 膨らませ、バンドをやろうと決める。
つまり「女にモテるため」というのがバンド活動の動機になっているけど、ライブで盛り上がっていた時は、そういう感情は 無かったはず。純粋に、ワーカホリックのライブに対して興奮していたはずだ。
最初に興奮していた時のモチベーから、いつの間にかズレちゃっているんだよね。
透たちがバンドを始める動機を、「女にモテるため」ということにしておくのなら、例えば「透たちは、ワーカホリックには女のファンが 多いと唯から言われる」→「半信半疑だったけど、ライブハウスに行ったら女性客ばかり」→「バンドがキャーキャー言われているのを 見て、自分たちも始めようと考える」という順番にすべきじゃないのか。
純粋にワーカホリックのライブで自分たちがノリノリになるようなシーンは、入れちゃダメでしょ。透たちのバンドがワーカホリックの前座に応募して採用されるのは、無理がありすぎる。
ワーカホリックってインディーズでは人気のバンドなんでしょ。だったら応募してくるバンドも多いはず。
あと、透たちの演奏も聴いていないのに前座を決めるってのも、甘すぎるでしょ。
暁が「ロックフェスで3年連続優勝」と詐称したからって、それを信じて、それだけで採用するって、アホじゃん。透たちが楽器の練習を始めてから初ライブまでが、無駄に長すぎる。
その間に、初心者だった彼らがゼロから楽器の演奏方法を学んで、少しずつ上達していくという経緯がグラマラスに描かれているなら、その ために時間を割くのは大いに結構だ。しかし実際には、練習風景はテキトーに挿入されているだけで、あまり中身の無いシーンがダラダラ と続くだけなのだ。
それと、最初のライブは散々な出来栄えなんだから、練習した時間を長く割いているのは意味が無いし。
「初心者がいきなりライブをやって失敗した」ということなんだから、前座に採用されたら、さっさとライブシーンに移った方が いい。アンディーのラップとか、透と渚とのデートとか、そんなのは無駄に時間を費やしているとしか思えない。
アンディーにラップを教わって、それで透が上達しているわけでもないんだし。透は渚の恋人が涼太だと知っても、ライバル意識を持つのではなく、「すげえ人には敵わない」と完全に負けモードに入ってしまう。
渚の家で風呂から上がって涼太と遭遇した時も、対抗心を燃やすのではなく、慌てて「自分と渚はそういう関係ではない」と釈明して いる。
それはキャラの動かし方として、解せないものがある。
むしろ、渚のことがあったのなら、そこで敵対心を燃やして「渚さんを悲しませた奴には負けたくない」ということがモチベーションに なって練習に熱が入るとか、そういう流れの方が納得できるんだけど。
まあ、それはモチベーションの上げ方としては間違っているけどさ。透は涼太に「何なんだよ、アンタだって、まだ渚さんのこと好きなんだろ」と言うけど、なんで「まだ好き」と決め付けているのか。実際 にそうだったからいいけど、ホントに恋愛感情が冷めて別れていたのかもしれないじゃないか。
まだ涼太が渚に惚れていると、透が断定した根拠は何なのか。それがサッパリ分からないぞ。
そこは、単なる勘や思い込みじゃマズいはず。根拠があって、そんなことを言わなきゃいけないシーンなんだけど、その根拠が 見当たらない。
あと、そこはヨリを戻させようとする前に、「透が渚を自分のモノにしたいと考え、涼太の恋人と知って彼へのライバル心を燃やす。涼太 と別れたと知ってチャンスがあると考えるが、まだ彼女が未練たっぷりだと知り、彼女のために涼太の元を訪れて頼み事をする」という 流れにした方がいいんじゃないか。
とにかく透が涼太へのライバル心、敵対心を燃やす展開が無いのは、手落ちとしか思えない。初ライブのシーンは、単純に「散々な出来栄えで、透たちが現実に打ちのめされてショックを受ける」ということで良かっただろうに。
なんで暁がキレて殴り掛かるとか、サイテーだぞ。カッコだけってのは事実じゃねえかよ。
っていうか、「カッコ」も整っていなかったようには思うけどね。
しかも、その後でさえ、「喧嘩を売って来たのは向こうの方」と自己弁護に終始している。悪いことをしたという 自覚が全く無い。
いや、向こうは喧嘩なんて売ってないし。ただ単に、事実を言ったまでのことだ。
それにカッとなって殴り掛かったのは、暁だろうに。先に手を出したのはお前だぞ。あと、涼太は「ハートが空っぽ」と評していたけど、透たちは、それ以前の問題だよ。まるで技術が伴っていない。
そりゃあね、バンドってのは上手いか下手かという基準だけで評価が決まるわけじゃないよ。例えばザ・ローリング・ストーンズとか、ザ ・ラモーンズとか、そんなに演奏技術が高いわけじゃないけど、でも高く評価されている。
ただし、それでも最低限の演奏能力は必要なのよ。透たちは、ステージに上がるバンドとしてクリアすべき最低ラインにさえ、遥かに 届いていないのよ。
そりゃそうだ、初心者が楽器を持ってから2週間しか経っていないんだぜ。ハート以前の問題だよ。
この映画、そこの部分に目をつぶって、「初ライブの失敗はハートが入っていなかったから」ということにしてあるけど、そうじゃ ねえよ。単純に、あまりにも演奏が下手クソすぎただけだよ。だから、それ以降の透たちに必要なのは、とにかく必死になって練習を積んで、演奏技術や歌唱力、ライムの能力を磨くことにあるんだよ 。
それなのに、透は音楽のことよりも渚のことで頭が一杯になっているし、他の2人も音楽やバンドのことなんて全く考えていない。
透が再びバンドをやろうとするのも、「渚への思いを歌にして伝える」ということが動機であって、音楽への情熱が沸き立ったわけでは ない。
劇中、透も他の2人も、最後まで音楽への情熱には目覚めていない。透たちは再びバンドをやろうと決めるが、そこから必死に楽器の練習をすることは無い。
アンディーが用意したサンプリングマシーンを使うことに決めて、楽器の演奏は放棄してしまう。
その前に「自分たちにしか出来ない音楽をやろう」と言っていたけど、自分たちにしか出来ない音楽って、それなのか。
「冒頭で沖縄民謡を使っていたのは、そういうことだったのか。ひょっとして、沖縄民謡とヒップホップを融合した音楽を作るのか」と 一瞬だけ思ったりしたんだが、まあアホらしいこと。(観賞日:2012年4月7日)