『ZIPANG』:1990、日本

二百両の賞金首になっている大盗賊・地獄極楽丸の人相書きを、瓦版屋が賞金稼ぎの連中に向かって放り投げた。大勢の面々が群がる中、鉄砲百合が現れる。彼女は鉄砲を威嚇発砲し、「お宝首は頂く」と強気に宣言する。彼女は賞金稼ぎたちを鋭く見据え、弟分の菊丸を引き連れて立ち去った。一方、仲間の研造、文七、鍵玉、鳥介と一緒にいた極楽丸は、賞金目当ての連中に取り囲まれた。極楽丸が全員を始末した後、文七は「俺の睨んだ通り、この辺りには大変なお宝が眠っていやすぜ。間違いねえ」と言う。これまで何度も文七の言葉を信じて馬鹿を見て来た研造たちは、疑いの目を向ける。だが、文七は自信満々で、黄金が眠っていることを告げた。
極楽丸たちは古墳に入り、仕掛けを動かして扉を開く。しかし極楽丸が奥の部屋に足を踏み入れた途端、扉が閉じてしまう。極楽丸が視線を向けると、地面には黄金の剣が突き刺さっていた。極楽丸は引き抜こうとするが、びくともしない。叩き斬ろうとすると、火花が散って小爆発が起きる。柄に触れた極楽丸が見上げると、天井の裂け目の向こうに妖しい満月が浮かんでいた。極楽丸が我に返ると、刀は地面から抜けていた。刹那、壁が迫って押し潰されそうになるが、極楽丸は別の壁を黄金剣で破壊して脱出した。
地上へ出た直後、極楽丸は百合の発砲を受けて倒れ込んだ。だが、弾丸は刀の柄に当たっただけだった。極楽丸は百合の美しさと気の強さが気に入った。役人たちが来たので、極楽丸は百合に「おめえに惚れたぜ」と告げ、仲間と共に逃走した。同じ頃、古墳の棺に安置されていた半身刺青の男が蘇っていた。極楽丸たちが黄金剣を持って移動する様子を、忍者軍団を率いる服部半蔵が観察していた。半蔵は黄金剣を写真に収め、手裏剣に入れて江戸城へ飛ばした。
徳川家康は儒学者の林羅山に黄金の国「ジパング」のことを聞かされて以来、自分の物にしたいと考えるようになっていた。羅山によれば、黄金の剣を手にした者が、黄金の国の扉を開くのだという。そこへ半蔵からの手裏剣が届き、羅山はプロジェクターで写真を確認した。極楽丸は堂々と後を追って来る百合に気付き、「賞金稼ぎなんて辞めちまって、俺たちと一緒に楽しくやんねえか」と誘う。百合が発砲すると、極楽丸は1発目を飛んで回避し、2発目は刀で払い落とした。極楽丸は「惚れた女は斬れねえよ」と言い、百合の髪飾りを貰って代わりに横笛を渡し、その場を去った。百合は憤慨し、唇を噛み締めた。
竹林を歩いていた極楽丸と仲間たちは、異様な雰囲気を感じた。潜んでいた忍者軍団が極楽丸に襲い掛かり、黄金剣を奪おうとする。極楽丸を追跡していた百合は「あいつの首は、あたいが頂くんだよ」と言い、拳銃を発砲する。そこへ半身刺青の男が現れ、黄金剣を奪う。男は剣を高く掲げ、雄叫びを上げた。その隙に忍者集団が襲い掛かり、黄金剣を奪う。極楽丸が忍者の腕を切り落とし、黄金剣は百合の近くまで飛んで地面に突き刺さった。
半蔵が黄金剣を奪い取った直後、強風が浮いて彼の体が浮き上がった。半蔵は動揺し、近くにいた百合の体を掴んで地上に留まろうとする。忍者軍団は半蔵の足を掴み、極楽丸は百合の腕を掴んで引き留めようとする。極楽丸の腕が離れた直後、百合と半蔵と忍者軍団は姿を消してしまった。半身刺青の男は古代の言葉で、「俺を連れて行け」と絶叫した。百合たちは竹林に落下するが、それは先程とは別の場所だった。百合を捕まえた半蔵が竹林を抜けると、遠くには砦が見えた。
砦へ向かった半蔵は、椅子に座っている死体を見つけた。半蔵が黄金剣を地面に突き刺すと、死体は蘇り、古代語で喋り始めた。それはジパングの王だった。ジパングの戦士たちが現れ、半蔵を捕獲した。百合はジパングの女戦士マワラメに捕まって昏倒させられ、砦へ連行される。極楽丸は半身刺青の男に、百合の居場所を尋ねた。男は身振り手振りで教えようとした後、「ジパング」と口にした。マワラメと戦士のトバツ、アシュラ、ラゴラは、百合をジパング王の元へ連行した。
ジパング王は百合に黄金を見せた後、「教えてくれないか。恋とは何だ」と問い掛けた。百合は馬鹿にして笑い、「側女にでもなれって話なら、もっとマシな口説き方おしよ」と生意気な態度を取る。ジパング王は激怒し、百合の首を絞める。ジパング王には一瞬、百合の顔に女王が重なって見えた。一方、半身刺青の男は砂漠で大きな石を運び始めた。「おめえ、天へ行くつもりか」という極楽丸の質問に、男はうなずいた。極楽丸と仲間たちは、男の作業を手伝った。
檻に入れられた百合が横笛を吹くと、その音色はストーンサークルの石を通じて極楽丸たちの耳に届いた。マワラメは百合を檻から出し、ある場所へ案内する。そこにはジパングの女王がおり、「この岩戸を開くべき人を待っているのです」と言う。女王は自分の首飾りを外し、「その人に、これを届けて下さい。そして、私がいつまでも待っていると伝えて下さい」と依頼した。半蔵は檻から脱出し、忍者軍団と合流した。夕暮れ時、半身刺青の男が石に乗って剣を掲げると、極楽丸たちはジパングへ移動した…。

監督は林海象、原作・脚本は林海象&栗田教行、製作は堤康二、企画は山下雄大、プロデューサーは久里耕介、美術監督は木村威夫、撮影は田村正毅、衣裳デザインは伊藤佐智子、照明は上田成幸、録音は宮本久幸、美術は丸山裕司、美術協力は竹内公一、編集は井上治、殺陣は伊奈貫太、特殊メイク・造型は江川悦子、SFXスーパーバイザーは浅田英一、視覚効果は中野稔、ストーリーボードは雨宮慶太、古代語指導は佐佐木隆、降り付けは花柳糸之、笛指導は福原百華、音楽は浦山秀彦&熊谷陽子(現在は「めいなCo.」)、テーマソング「ENDLESS RAIN」by X。
出演は高嶋政宏、安田成美、平幹二朗、鰐淵晴子、東千代之介、成田三樹夫、三上博史、ベンガル、佐野史郎、十貫寺梅軒、浦上照彦、長崎真純、修健、ユキオヤマト、秋吉満ちる(現・Monday満ちる)、沢田謙也(現・澤田拳也)、和田卓也、中山正幻、きたろう、いしかわじゅん、中本恒夫、中本龍夫、片桐はいり、キラーカーン、忍竜、川村禾門、渡辺哲、平出千博、辻あきひろ、渡辺力、阿南健二、正狩炎、寺岡のぶよし、小川幸彦、飯濱一夫、山下伸二、安保由夫、中村成彦、桝田栄次郎、谷本あきら、向井匡輔、三須昭彦、松本光弘、アイデン・ヤマンラール、吉中六、坪谷達郎、森岡隆見、北斗辰典、村上久勝、深作覚、横内直人、辻井啓嗣、剣持誠、島田淳、橋本和博、大竹浩二、豊臣将、赤坂義裕ら。


『夢みるように眠りたい』『二十世紀少年読本』で注目を浴びた林海象が監督&原作&脚本を務めた作品。
彼と共に原作&脚本を担当した栗田教行は、後に天童荒太のペンネームで人気小説家になる。
極楽丸を高嶋政宏、お百合を安田成美、ジパング王を平幹二朗、女王を鰐淵晴子、家康を東千代之介、羅山を成田三樹夫、研造をベンガル、文七を佐野史郎、鍵玉を十貫寺梅軒、鳥介を浦上照彦、菊丸を長崎真純、半身刺青の男を修健、半蔵をユキオヤマト、マワラメを秋吉満ちる、トバツを沢田謙也、アシュラを和田卓也、ラゴラを中山正幻が演じている。
成田三樹夫は、これが遺作となった。

インディーズ映画で注目を浴びた監督がビッグ・バジェットの作品を任された時に陥りがちなのが、「助監督やスタッフとして大作映画の製作現場に携わったことが無いので、どうやってスケール感や壮大さを醸し出せば良いのか分からず、チープな仕上がりになってしまう」という失敗だ。
この映画からも、そういう雰囲気がプンプンと漂って来る。
っていうか、ジパング王の家来が4人しかいないってのは、予算の問題とも思えないし(忍者軍団はエキストラだろうけど大勢いるんだし)、どうにかならんかったのか。

冒頭、勾玉を首から下げて、中南米の部族みたいな刺青をした男が、変な甲冑に身を包んだ騎馬隊に襲われて戦う。
そこへ別の甲冑の男が現れ、右腕の装置みたいな物がカパッと開いて刺青男の顔を包み込み、刺青男は武器で突き刺されて絶叫する。
この冒頭シーンはとても謎めいているが、観客を引き付ける力は感じない。
ただ「ワケが分からない」というだけで、軽くスルーして、さっさと次のシーンへ気持ちを向けてしまう。

タイトルが表示されて現在(と言っても、もちろん現代ではないが)のシーンになり、三上博史が瓦版屋で1シーンだけ登場する。
その隣には、いしかわじゅんが腕組みで立っている。どうやら似顔絵師の設定らしいが、絵を描くシーンは無いし、台詞は一言も無い。
人相書きを巡る争いの中に鉄砲お百合が現れ、立ち向かって来る賞金稼ぎを踏み付けて凄むという展開になるが、安田成美の動きはキレもスピードも全く無い。歩き出すシーンからして、下半身は写っていないのに、モタモタしていることが分かるぐらいだ。
まあ下駄だから歩きにくいという事情はあるんだが、そもそもアクションの得意な女優じゃないんだから、せめて別の履物にしておけばいいのに。
最初のアクションで「ああ、こりゃダメっぽいぞ」と思わせちゃったら、それは映画として痛いでしょうに。

場面が切り替わると、仮面を付けた地獄極楽丸が舞を披露しており、デビルマンの出来損ないみたいなメイク&髪型のきたろうと、その子分である中本恒夫&中本龍夫が凄む。どうやら賞金狙いのようだが、3人だけでなく、大勢の連中が武器を構える。
きたろうの「死に急ぐのは、テメエたちの方だ」という声で全員が武器を構えるので、子分なのかと思ったが、色んな格好の連中がいるので、同じグループには見えない。
そこは「きたろう率いる山賊」か何かにでもして、格好は統一感を出した方がいいんじゃないの。それと、別に賞金目当てで襲い掛かるという形じゃなくてもいいしね。
バラバラの連中が賞金目当てで一斉に襲い掛かろうとするってのは、ちょっと変だよ。だってさ、倒したとして、賞金は誰が貰うのか、山分けにするのかってので揉めるでしょ。
そういうことを考えれば、「みんなで一斉に」というのは変だ。「俺がやる」「いや俺が」ということで、極楽丸に襲い掛かる前に揉めても不思議ではない。

「地獄の一丁目か。そいつは俺にお似合いだぜ」と余裕の表情で言い放った極楽丸が高くジャンプして鳥居を飛び越えると、舞の時に使用していた着物やカツラを脱ぎ、別の服を着て皮手袋を着用する。
耳をヒクヒクと動かし、額の傷から人差し指を前に出し、横笛を懐から取り出してクルクルと回し、それを吹く。
その辺りの演出は、まるで特撮ヒーロー物のようになっている。
ストーリーボードを雨宮慶太が担当していることも、関係あるのだろうか。

「極楽丸の刀には番号があって、相手によって刀を交換する」という設定で、そこのアクションシーンでは刀を取り換えながら戦っている。
ただ、それが上手く作用しているのかというと、まるで効果的じゃない。何しろ、「この刀は飽きた」ということで、別の刀に交換してしまうのだ。
おいおい、相手によって刀を使い分けるんじゃねえのかよ。ただ飽きたから別の刀にするだけなのかよ。
「用途によって刀を使い分ける」ということなら面白味があったかもしれんが、そんな理由で色んな刀を使っても、「刀を無駄&雑に使ってるだけだろ」と言いたくなる。
大体さ、途中で小刀の二刀流にしているけど、普通に長い刀を使った方が絶対に戦いやすいだろ。

そのアクションシーンでは、鞍馬天狗や座頭市や丹下左膳(っぽい連中)、西洋の騎士、子連れ狼の裏柳生みたいな連中などが次々に登場する。
しかし、ただ斬られるために出て来るだけで、パロディーとしての面白味は乏しい。
っていうか、雑多な連中をゴチャゴチャと出すよりも、そこは主人公が初登場し、最初のアクションをやるシーンなんだから、主人公のキャラクターや強さをアピールすることに意識を集中した方がいいんじゃないかと。

文七が黄金のことを口にして、場面が切り替わると、もう極楽丸たちは古墳の奥まで進んでいる。そして、あっという間に極楽丸は黄金剣を手に入れる。
そこの展開は、すげえ駆け足なのね。
黄金剣って家康も探し求めていたブツなのに、あっさりと見つかるのね。
それなら、むしろ「ひょんなことから手に入れる」という形の方がいいんじゃないか。最初の戦闘シーンを賞金絡みじゃなく山賊か何かとの戦いにして、隠れていた古墳や洞窟を偶然にも発見し、そこで黄金剣を見つけるという流れにするとかさ。

百合たちがジパングへ移動した後、極楽丸たちが半身刺青の男と仲間になったり、一緒に夕食を取ったりする様子が描かれ、ダラダラした雰囲気に包まれてしまう。
もう百合が連行され、ジパングが登場したんだから、もっとテンポ良く畳み掛けて行った方がいいだろうに。
さっさと極楽丸をジパングへ移動させて、冒険活劇を繰り広げた方がいいだろうに。
「いよいよ物語も佳境に入っていく」という辺りで、なんで停滞モードに入ってしまうのか。

前述した鞍馬天狗や座頭市っぽい連中に関しては、分かりやすく「パロディー」として登場させているが、それ以外でも、「どこかで見たシーン」や「どこかで見た展開」が連続する。
竹林で地中に潜んでいる忍者軍団ってのは忍者映画で良く見られる光景だし、その連中の中にはトゲトゲの付いた回転する傘を投げて攻撃してくる男もいるが、それは『片腕カンフー対空とぶギロチン』に登場する封神というキャラクターの拝借だし。
ただし、「新鮮味が無いからダメ」とは言い切れない。既視感だらけでも、それを面白く飾り付ければ、魅力的な映画になる可能性は充分にある。
ただ、この映画は、そういう飾り付けが出来ていない。

っていうか、そもそも他の作品から拝借している部分に関しては、「そこへの味付けを工夫したり、捻りを加えたりして、映画を面白くしよう」という意識が、それほど無かったのかもしれない。それよりも、ジパングが絡んで来る部分で独自性を出して、そこで勝負しようという狙いがあったのかもしれない。
しかし残念ながら、タイトルが『ジパング』なのに、そのジパングが絡んで来る展開が邪魔という皮肉な結果になっている。
極楽丸や百合のキャラクターは、上手く使えば、もっと魅力的に輝いたかもしれない。写真撮影が可能な双眼鏡や、江戸城まで飛んで行く手裏剣のようなアイテムも、もっと色々と用意して、『仮面の忍者 赤影』的な、あるいは石川竜先生が描く漫画のような、「架空の江戸時代」を舞台にした荒唐無稽な時代劇作品として、面白いものに仕上がったかもしれない。
でも、そこにジパングという別世界が絡んでくることで、話が散らかってしまっている印象を受ける。

半身刺青の男やジパング王なんて排除して、「個性的なキャラクターによる黄金の剣の争奪戦」として描いた方が良かったんじゃないかと。ぶっちゃけ、黄金の剣って、途中からは、どうでもいいようなアイテムになっているし。
あと、半身刺青の男と女王の恋愛関係がメインになると、極楽丸が物語の中心から外れちゃうんだよな。
それと、半身刺青の男は「女王の所へ行く」という目的で行動できるけど、極楽丸はジパングへ移動してすぐに百合と再会しちゃうから、それ以降はモチベーションが無くなっちゃうのよね。
一応、「男に手助けしてやる」ということが動機になっているんだけど、かなり弱い。

(観賞日:2013年6月12日)

 

*ポンコツ映画愛護協会