『Zアイランド』:2015、日本

雨の夜、宗形組組長の宗形博也は幹部の武史や組員の信也を引き連れ、高級クラブを去ろうとしていた。しかし車を回すよう命じられた子分は殺害され、連絡が取れなくなっていた。事情を知らない武史が様子を見に行っている間に、信也は宗形の行動をホステスたちに自慢する。宗形は関西から進出した竹下組の事務所へ乗り込み、脅しを掛けたのだ。そこへ竹下組幹部の反町が子分の内田とジョーを伴って現れ、宗形たちを襲撃した。武史が慌てて駐車場から戻ると、既に町田たちは去っていた。翌日、武史は逮捕されて連行される町田たちを襲うが、警官隊に取り押さえられた。
十年後、宗形は小さな運送会社を経営し、信也を雇って働いている。同じ頃、吉田という男が、銭荷島の若者たちにドラッグを売り捌いている。武史が出所すると、宗形と信也が出迎えに現れる。武史は娘である日向の面倒を見てもらっていることで、宗形に礼を言う。その頃、日向は親友のセイラと共に家出し、銭荷島を訪れていた。医者のしげるは島民たちを診察し、「咳が止まんないし、熱が下がんない。みんな同じ症状だなあ」と言う。彼は元カノである看護婦の直美とヨリを戻そうとするが、冷たく拒絶される。
宗形は武史をアパートへ連れ帰り、日向から電話があったこと、「しばらく帰らないから捜さないで」と言われたことを話した。武史は「家出じゃないですか」と驚き、放っておいた宗形に激怒した。吉田は恋人の恵と暮らす家へ戻り、激しく咳き込んだ。彼は色んな薬を混ぜて自分の体に注射し、泡を吹いて倒れた。しげるは元カノの恵から連絡を受けて駆け付けるが、診察しようとせず「これ、死ぬよ」と軽く言う。吉田は絶命するが、直後にゾンビとして復活した。
恵は吉田に襲われ、ゾンビになった。しげるが自転車で逃走すると、吉田が走って追い掛けた。銭荷島の若者たちに絡まれた日向とセイラは、得意の格闘技で撃退した。そこへ中年警官の伊勢崎が現れ、後輩の白川に逃げる日向とセイラを追うよう指示した。残った伊勢崎は、走って来た吉田に噛み付かれた。しげるが逃げた後、若者の1人は恵に噛み付かれた。町田は対立組織の幹部である大村と会い、チンピラだった吉田がブツを持って逃げたことに触れる。町田は吉田が男にブツを捌いて金を作ってから逃げたのではないかと推理しており、そのことを質問する。町田はナイフを突き付けて男を脅し、吉田が恵の田舎へ逃げると言っていたことを教えた。
白川は日向とセイラに追い付き、反抗的な態度を示す2人に拳銃を構えた。彼が「ピストルを撃ちたくて警官になったんだ」と言うので、日向は低姿勢で謝罪した。宗形は武史の別れた妻である桜と会い、日向が家出したことを話す。すると桜は日向から電話があり、家族にとって思い出の場所である銭荷島に行くと言われたことを話す。宗形は武史、信也、桜と共に、銭荷島へ向かうことにした。白川が派出所に連行した日向とセイラを帰そうとすると、しげるが逃げ込んで来た。
そこへゾンビ化した伊勢崎が現れ、白川に掴み掛かる。白川が突き飛ばすと、しげるが「早く撃って」と告げる。白川は発砲し、伊勢崎を撃退する。ゾンビ化した若者たちが襲い掛かって来たので、4人は慌てて逃げ出した。町田は竹下組若頭の木山から、恵の故郷が銭荷島だと知らされる。町田は厄介事を自分たちに任せる木山に反発するが、組長に頼まれて仕事を承諾した。組長は両者の対立をたしなめ、木山にも島への同行を命じた。病院にもゾンビの群れが乗り込み、首筋を噛まれた直美は逃走した。
次の日、銭荷島へ向かうフェリーには、宗形の一行と竹下組の連中が乗っていた。白川たちはゾンビの群れを避けながら、漁師である作田の家へ避難する。セイラは日向とはぐれたことに気付くが、しげるが捜しに行くことを止める。しげるはゾンビの発生について説明するが、作田は全く信じようとしなかった。日向は思い出の神社でタイムカプセルを発見し、武史が書いた手紙を読んで涙した。彼女は襲って来たゾンビたちを叩きのめし、「私は家に帰るんだから」と口にした。
フェリーから降りた宗形たちは、ゾンビに襲われて困惑する。そこへ白川が駆け付け、ゾンビを撃った。ゾンビの群れが現れたので、一行は作田の家に逃げ込んだ。一方、竹下組の連中もゾンビに襲われ、崖下へ転落したジョーを残して逃走した。宗形たちは日向を捜すため、彼女が宿泊している旅館へ出向いた。白川は武器を入手するため、狩猟用ライフルを持っている金持ちの別荘へ作田&しげると共に向かう。桜、信也、セイラは食料を調達するため厨房へ行き、宗形は武史と共に日向の宿泊している部屋へ向かう。
崖下から抜け出したジョーは、襲って来るゾンビを次々に退治する。吉田を発見したジョーは、顔面に傘を突き刺して殺害した。ジョーは女に襲い掛かるが、相手がゾンビだったので耳に噛み付かれる。彼が苦悶していると、ドアを破ってゾンビ軍団が飛び込んで来た。宗形と武史はゾンビと遭遇し、音に反応することを学んだ。吉田の家を見つけた反町は、「もう竹下組辞めさせてもらいますわ」と言い、木山に銃弾を浴びせた。合流した宗形たちは各自の武器を選び、旅館を出て日向を捜索する…。

脚本・監督は品川ヒロシ、製作統括は井上伸一郎&岡本昭彦、製作は安田猛&戸田義人&小沼修、企画は菊池剛&藤原寛、企画プロデュースは福地公美、プロデュースは水上繁雄&中村直史、プロデューサーは二宮直彦&千綿英久、ラインプロデューサーは山形亮介、撮影は柳田裕男、照明は宮尾康史、美術は小出憲、編集は須永弘志、録音は小川武、特殊造形監修は西村喜廣、VFXスーパーバイザーは鹿角剛、音楽は福田裕彦、主題歌『Z〜俺等的逆襲〜』は湘南乃風。
出演は哀川翔、鈴木砂羽、木村祐一、宮川大輔、鶴見辰吾、中野英雄、風間俊介、窪塚洋介、RED RICE(湘南乃風)、大悟(千鳥)、玉置浩二、西方凌、川島邦裕(野生爆弾)、山本舞香、水野絵梨奈、般若、篠原ゆき子、シシド・カフカ、榊英雄、深水元基、不破万作、三浦誠己、RYO、山本勇気、河本準一(次長課長)、小沢仁志、森下千里、青木和代、NARU、三浦マイルド、丹野珠里、辰巳ゆい、由愛可奈、西沢愛菜(子役)、佐渡稔、井上結華、山中猛、小野寺大夢、玉城泰拙(セブンbyセブン)、宮平享奈緒(セブンbyセブン)、金子隼也、今井大樹、白井陽光、牛鵬政徳、三浦藤子、斎藤和彦、枝波加奈子、広沢誠、本間博子、池雅彦、佐藤千鶴、谷崎美佳、佐藤寿晃、KAHO(Angel Generation)ら。


品川ヒロシが『ドロップ』『漫才ギャング』『サンブンノイチ』に続いて脚本&監督を務めた長編4作目。
主役の宗形を演じるのは、芸能生活30周年を迎えた哀川翔。
桜を鈴木砂羽、反町を木村祐一、吉田を宮川大輔、武史を鶴見辰吾、しげるを風間俊介、白川を窪塚洋介、ジョーを川島邦裕(野生爆弾)、内田を大悟(千鳥)、信也をRED RICE(湘南乃風)、木山を中野英雄、日向を山本舞香、セイラを水野絵梨奈、恵を篠原ゆき子、配送先の責任者を河本準一(次長課長)、作田を般若、直美をシシド・カフカが演じている。
竹下組組長役で小沢仁志、エンドロールに入る直前のゾンビ役で玉置浩二が1カットだけ登場する。
武術指導は、IUMA日本振藩国術館代表の中村頼永とインストラクターの面々が担当している。

タイトルからして『ワールド・ウォーZ』を意識していることは明らかだが、「亜流映画を作ろう」という分かりやすい方向性には全面的に賛同する。
ただ、ブラッド・ピットに比べれば、主人公の哀川翔は「ゾンビ映画との組み合わせの意外性」という意味では弱い。
ホントだったら、そこは役所広司とか佐藤浩市みたいに、「その手のジャンル映画には絶対に出ないだろう」と思うような役者が欲しいところだ。
哀川翔の場合、既に『東京ゾンビ』に出ちゃってるからね。

品川ヒロシが今までの3作と違い、初めて雇われ監督として仕事をしている。
では今までの作品と違いがあるのかというと、大差は無い。形としては雇われだが、プロデューサーのコントロール下に置かれているわけではないので、今までと同じスタンスで仕事をしたってことだろう。
あと、相変わらず自分で脚本を書いているっても大きいかな。
ただ、もう引き出しの少なさがハッキリと露呈しているので、そろそろ他人の脚本で撮るとか、プロデューサーの制御下で演出するということに挑戦した方がいいんじゃないかなと。

まず冒頭のシーンから、掴みに失敗している。
どうやら品川監督はアクションが好きなようで、だから自信を持って演出しているんだろうとは思うのよ。ただ、まず銃撃戦でスローモーションを使っている時点で、「これってヤクザ映画でしたっけ?」と言いたくなる。
なんでゾンビ映画のはずなのに、ゾンビが出て来ないシーンでスローモーションなのかと。
あと、狙いは宗形のはずなのに、なんで周囲にいるホステスたちが銃弾を浴びているんだよ。下っ端ならともかく、「そういうの」を専門にしている連中が3人で一斉に発砲しておきながら、下手すぎるだろ。
それと、さんざん発砲した後に刃物で襲うってのも、バカなのかと。

襲撃シーンの後、「翌朝になって武史が報復しようする」というシーンがある。
じゃあ宗形たちは死んだのかというと、死んでいないのよ。宗形どころか、信也も死んでいない。
あんだけ銃弾を浴びて、おまけに刃物で突き刺されたのに死なないって、ゾンビより恐ろしい生物になってんじゃねえか。
一方の反町たちも、そこで宗形を殺さず、死んだのを確認せずに立ち去るって、ボンクラすぎるだろ。すぐに誰かが来て逃げなきゃいけなかったとか、そういう状況じゃないんだからさ。

宗形も信也も重傷を負っただけで回復するんだけど、そこでタフすぎる生命力を見せ付けちゃうのは、どう考えても得策じゃないぞ。
っていうか、もっと根本的な問題として、その抗争劇が邪魔だわ。後の展開を考えると、そういうのはホントに要らない。
これってさ、ようするに「ヤクザがゾンビと戦う」というアイデアで勝負すべき映画であって。
まあ考え方によっちゃあ陳腐だし、かなり単純なアイデアではあるのよ。でも、そこを荒唐無稽な面白さとして飾り付ければ、B級テイスト溢れる傑作になった可能性はあるのよ。

ところが、品川監督は余計な要素を色々と持ち込んでしまい、肝心の「ヤクザとゾンビの取り合わせ」という面白さを消してしまった。
何しろ、宗形がゾンビと接触する段階では組を解散しており、現役のヤクザではないのだ。
だから、せっかく主人公をヤクザにしたのに、自分で台無しにしているのである。
そこは「ヤクザの現役組長と組員たちがゾンビと戦う」という話にすべきでしょ。そうじゃないなら、ヤクザという要素を持ち込む意味が無いわ。

十年後に飛ぶと、宗形が沼田鉄工所の所長から叱責されるシーンが描かれる。
ここは「かつてはヤクザの親分だったけど、今は理不尽に怒鳴られても低姿勢で仕事をするようになっている」ってことを示すのが目的のはずだ。
ところが、所長がボケをカマしてくるので、そこの中身がブレてしまう。
それ以降も、会話で笑いを取ろうとする箇所が何度も訪れる。
それは品川監督の持ち味だろうし、やり方次第では映画の魅力に繋がるだろう。でも、残念ながら流れを停滞させる無駄話に留まっている。

そのシーンが終わった後、吉田が若者たちにドラッグを売っている様子が描かれる。それは銭荷島の出来事なのだが、描かれた時点では場所が良く分からない。
で、宗形と信也が出所する武史を出迎えるシーンの後、今度は日向とセイラが島にいる様子を入れる。一応、台詞として「島」という言葉は出しているが、やはり銭荷島ってことは分からない。どの辺りにある島なのかも良く分からない。
そういうことを考えると、手順がよろしくない。
先に誰かが「銭荷島へ行く」と決める手順を用意し、どこにあるのかを提示し、そこへ向かう様子を描いてから、初めて銭荷島が登場する流れにした方がいいんじゃないかと。そういう手順が無いもんだから、いきなり島を写し出されても、ピンと来ないのよ。

あと、いきなり銭荷島にいる日向を登場させたら、「信也の娘が日向である」「宗形が日向の面倒を見ている」という設定も弱くなるぞ。
まずはオープニングで「信也に娘がいる」ってことを提示し、十年後に「宗形が日向の面倒を見ている」という様子を描いて、それから「日向が前科者の父親を嫌って家出した」という展開に移るべきじゃないかと。
色々と手順を飛ばしているのは、上手い省略ではなく雑な描写でしかないわ。

日向たちが登場した後、しげると直美のシーンになる。
しげるが「咳が止まんないし、熱が下がんない。みんな同じ症状だなあ」とサラッと言うけど、それって「ゾンビ発生」に繋がる重要な前フリじゃないのか。扱いが軽すぎるわ。
後から「大勢の患者が来ている」という様子を見せるけど、それなら2人の無駄話は削除した方がいい。
あと、それも銭荷島なんだけど、分かりにくいんだよなあ。そうやって何度も銭荷島の人々を描くのなら、その前に宗形を島へ向かわせるべきだわ。で、「宗形が銭荷島へ向かう」ということを提示した後で、島の人々の様子を描くべき。
そうすれば、かなり綺麗に整頓できたはずだ。

吉田が泡を吹いて倒れた後、日向とセイラが若者たちに絡まれて「私とセイラ、格闘技やってるんですけど」と言う様子が描かれる。
そこからカットが切り替わると、しげるが恵に呼ばれ、絶命した吉田がゾンビとして復活するのを目撃する様子が描かれる。
その直後にカットが切り替わると、日向とセイラが若者たちに襲い掛かるアクションシーンになる。
つまり、最も肝心な「最初のゾンビ誕生」のシーンを、まるで無関係なアクションシーンと並行して描いているのだ。
どういうセンスだよ、それって。

しかも、その2つだけでもゴチャゴチャしているのに、日向たちが戦い始めると、「宗形と武史が口論する」という様子まで挟まれるのだ。すんげえ邪魔だわ。
まず吉田がゾンビになるシーンは、そこだけを単独で描くべきだ。宗形と武史の口論シーンは、バッサリとカットすべき。日向とセイラが戦うシーンは、相手が若者たちじゃなくてゾンビの時に初めて見せるべきだ。
ついでに書いておくと、せっかく格闘能力を感じさせる2人が戦っているんだから、カットを細かく割るのは避けた方がいい。
それはアクションが出来ない人たちの動きを誤魔化す時には有効だが、格闘能力がある人を使う時はデメリットが圧倒的に多い。

宗形が東京にいる段階で、既に島ではゾンビが次々に誕生する状況が訪れている。
これは決して望ましい形とは言えない。そうではなく、宗形が島を訪れた後に、ゾンビが発生する展開にした方がいい。
「宗形が到着した時点で、既に島はゾンビだらけになっていた」という形を取るのであれば、その状況は先に見せない方がいい。
つまり、宗形が島に到着した時に、初めて「ゾンビの島になっている」ってことを明かす形にした方がいいんじゃないかと。

ぶっちゃけ、宗形が島を訪れるまでの話って、「ほぼ無駄に時間を費やしているだけ」なのよね。
なんで一刻も早く彼を島に行かせて、さっさとゾンビに遭遇させないのかと。
もちろん、「モンスターを登場させるまでに勿体を付ける」という演出が効果的に作用するケースもあるよ。だけど、この映画は、宗形が島を訪れる前にゾンビが登場しているわけで。
つまり、こっちは先にゾンビを見ちゃってるから、宗形が島に行くタイミングを遅らせる意味が無いのよ。

最初のゾンビが誕生したら、そこからはテンポを速めて「人々がゾンビに襲われてパニックが広がる」という展開を進めるべきだろう。
ところが、何しろ主人公である宗形を始めとする大勢の主要キャストが島に来ていないもんだから、ものすごくモタモタしてしまうのだ。
だから、やっぱり宗形が島に来てからゾンビを誕生させた方が良かったのよ。
っていうか、さっさと宗形を島に来させなさいよ。なんで彼が島へ来るまでに、映画開始から55分も掛かっているんだよ。もう前半戦が終わってるじゃねえか。

「家族愛のドラマ」を持ち込みたいのは分かるけど、ちっとも自然じゃなくてギクシャクしまくっている。
武史が島へ向かうフェリーで「幼少期の日向との思い出」を回想するとか、はぐれて1人ぼっちになった日向が「桜からタイムカプセルについて聞かされた出来事」を回想するとか、そういうのが全て「取って付けましたよ」という状態になっている。
しかも、武史と桜が日向を見つけると既にゾンビ化しており、宗形が3人を射殺して軽く片付けてしまうのだ。
だから、家族ドラマは全く膨らまないまま終了している。

冒頭で竹下組との因縁を作っちゃったもんだから、ゾンビが発生した後も、そこを片付けなきゃいけなくなってしまう。でも、描くべきは「ゾンビとの戦い」なので、そんな対立の構図は邪魔なだけだ。
それでも、例えば「過去の因縁を捨てて手を組み、ゾンビと戦う」という形にでもすれば、何とかなったかもしれない。しかし、竹下組との因縁は残したままでゾンビに襲われる話を進めているので、当然のことながら散らかった状態になってしまう。
何しろ島に到着した後も、宗形の一行と竹下組の連中は別々で行動しているのだ。宗形グループだけでも人数が多すぎて上手く捌き切れていないんだから、そりゃあ散らかるのも当然で。
ラスト寸前になって宗形が反町と戦う展開があるが、心底から「どうでもいい」と感じるし、「そんなことよりゾンビとの戦いに集中しろよ」と言いたくなる。

(観賞日:2016年10月11日)

 

*ポンコツ映画愛護協会