『THE LAST MESSAGE 海猿』:2010、日本
福岡沖の玄界灘で、大規模な事故が発生した。海上保安庁事故対策本部に現れた警備救難部救難課長の下川は、課長補佐の柏原に投入勢力 を尋ねる。柏原は、巡視船6隻、航空機4機、特救隊2個隊、七管および八管の機動救難隊、さらに韓国海洋警察庁3部隊も事故現場へ 向かったことを報告した。係長の青木は、「東アジア海洋石油開発の方たちが到着しました」と下川に告げた。
下川は「台風の最新進路予想図をくれ」と柏原に要求する。そんな下川たちの元に、事故現場が40分後に暴風域に入るという連絡が届いた 。一方、第十管区海上保安本部機動救難隊の仙崎は、バディーの吉岡、隊長の北尾、東アジア海洋石油開発の桜木たちと共に、松井機長の 操縦するヘリで現場へ向かっていた。事故現場は、日韓間排他的経済水域にある水上のプラント施設「レガリア」だ。
ヘリがレガリアに着陸すると、北尾は隊員たちに「25分後には必ず戻れ」と指示した。桜木は「台風が来る前にレガリアをスリープモード にします。火は完全に消して下さい」と北尾たちに求めた。救難隊員の山路は、韓国海洋警察庁のパク・ソギョン隊長を北尾に紹介した。 隊員たちが持ち場へ向かう中、桜木は立ち入り禁止区域に入っていく。「誰か助けて下さい。怪我をして動けない人がいます」という女性 の声がスピーカーから聞こえたため、仙崎と吉岡は東側ローデッキへ向かった。
官邸内の内閣危機管理センターでは、東アジア海洋石油開発・レガリアプロジェクト事業本部長の遠藤がレガリアに関する説明を行って いた。レガリアは天然ガスを海底から汲み上げて不純物を取り除き、純粋なガスを生産する、海に浮かぶプラント施設だ。内閣参事官の 吉森は、事故の概要を説明するよう要求した。井戸の修復作業のためにレガリアの近くに滞在していたドリルシップが高波に煽られ、舵が 取れないままレガリアの東側に激突したために事故は発生していた。
ドリルシップは船首部分が水没し、レガリア南東に接触したままの状態になっている。既に避難経路を塞いでいる火は鎮火されており、 下川は現場海域が暴風域に入る前に全員退避をさせなければならないと考えていた。しかし吉森は、それよりもレガリアが無事なのかを気 にした。下川は吉森に、桜木が台風に備えて生産システムをロックすることを説明する。吉森は「日韓共同で開発し、ロシアから技術提供 を受けている。国家規模の重大なプロジェクトであり、絶対に施設を守らなければならない」と強い口調で述べた。
東側ローデッキに到着した仙崎と吉岡は、常駐医の西沢夏と作業員の木嶋を発見した。もう一人の黒田は、足の骨を追って動けない状態 だったが、夏が応急手当をしていた。仙崎は吉岡に黒田を救助させ、ヘリデッキへ向かわせる。夏たちが自分でヘリデッキまで行けると 言うので、仙崎は戻ることにした。柏原は下川に、261名の避難は完了、残り67名になったことを報告した。現場が暴風域に入るまで、あと 10分と迫った。下川は救難の指揮船「ちくぜん」の内藤艦長に、10分でヘリでの救助を完了させるよう指示した。
仙崎は桜木の元へ戻り、ヘリで退避するよう言う。だが、桜木は「バラスト排水の最終チェックがまだです」と告げて作業を続行する。 南側メインデッキで火災発生の連絡が入ると、桜木は慌てて別の場所へ行き、次々にボタンを押し始めた。すると避難勧告のアナウンスと 共に、施設内のシャッターが次々と閉じられていく。仙崎は桜木を連れて外に出ようとするが、目の前のシャッターが下りていく。しかし 第七管区海上保安本部機動救難隊の服部が現れ、2人を助けた。服部は潜水士になって2年目の24歳だ。
仙崎たちは、シャッターが閉じてヘリデッキへ行けなくなった夏、木嶋と合流した。この5人だけがレガリアに取り残されてしまった。 波が高く、待機している巡視船は近付けない。もはやヘリを飛ばすことは出来ない状況になった。仙崎は全員を食堂に集め、吉岡と通信 した。レガリアの稼働データが送られて来なくなったため、通信手段は無線だけになっていた。仙崎は「のんびりやり過ごすよ」と軽く 言い、吉岡は「その内、サクッと助けに行きますから」と明るく告げた。
仙崎と吉岡の通信を耳にした服部は、「どうして落ち着いていられるんですか」と尋ねる。仙崎は彼に「俺たちが顔引きつってたら、あの 人たちはもっと不安になるだろ。ここにいる間は、俺たちはバディーだ」と告げる。仙崎は桜木たちに、台風が通り過ぎるまで救助が 来ないことを告げる。「沈んだらどうするの?」と不安を訴える木嶋に、桜木は「バラスト排水も完了している。20メートル級の高波が 来てもびくともしないよ」と落ち着き払って言う。
桜木が「あの時、シャッターを閉めなかったら大変なことになっていましたよ。あのままならガスタンクが引火してレガリアは吹っ飛んで いた」と言ったため、夏と木嶋は彼がシャッターを閉じたことを知った。木嶋が激怒して「お前のせいで閉じ込められたんじゃねえか」と 掴み掛かるので、仙崎が止めに入った。「避難が先でしょう」と夏に責められた桜木は、「このレガリアは国家プロジェクトで、1500億円 も掛けて作られた。だから守らなきゃならないんだ。国の最重要施設なんだよ」と言い放つ。
対策本部に気象庁から最新の台風進路予報が入電し、下川たちは台風がレガリアを直撃すると知る。そこへ青木が気になる報告を持って 来る。ドリルシップから警告音が鳴っているというのだ。吉森は下川からの電話で、「韓国政府とロシア政府が状況説明を求めているので 、官邸まで来てくれ」と告げられた。一方、警告音の報告について考えていた遠藤の部下たちは、「もしかしてドリルシップが掘削坑と 繋がったままなんじゃないか」「もし、それで防噴装置が作動していないとしたら」と口にした。
桜木と夏、木嶋の険悪な雰囲気を仙崎がなだめようとしている時、激しい揺れと共に天井が割れ、大量の油が降って来た。それが収まった 後、桜木は「ブローアウトだ」と告げる。ドリルシップの掘削坑から海底のオイルが噴き出したのだという。彼は「止める方法は無い。次 のブローアウトの勢いは、こんなもんじゃない。レガリアも一緒に吹き飛ばしてしまうだろう」と語る。仙崎が「止める方法を考えて 下さい」と言うと、桜木は少し考えてから「ドリルシップの中に入り、バルブを閉めるしかない」と告げた。
仙崎は服部を連れて、ドリルシップに入ることを決めた。仙崎は落下しそうになった服部を助け、ドリルシップに辿り着いた。服部は 怖がってミスを繰り返し、「もうダメです」と弱音を吐く。服部が逃げ出す中、仙崎は一人で必死にバルブを閉めた。服部は泣き出し、 「俺には、もう無理です。憧れて海上保安官になったんじゃないんです。何やっても続かなくて、ずっと逃げ続けて来たんです。海保に 来たのは、公務員なら親も文句言わないだろうって、それだけの理由なんです」と吐露した。仙崎は「俺だって怖いよ」と震える手を見せ 、「俺たちはバディーなんだよ。お前は、一人じゃないんだよ」と声を掛けた。
桜庭たちの元に戻った仙崎は肩を負傷しており、夏の手当てを受ける。仙崎は家族のことを訊かれ、妻・環菜と生後10ヶ月の息子・大洋の ことを語る。彼は切迫早産で母子が共に危険だったことを話し、「その時、自分が死んだら、この子と妻はどうなるんだろうって。初めて 、この仕事をやっていることが怖くなって」と言う。それから彼は「でも、保育器の中の大洋を見た時、パパはお前のために海保を辞めた と言われても嬉しくないだろうなって思って、それで吹っ切れたんです」と言葉を続ける。それを服部は、密かに聞いていた。
台風直撃まで2時間と迫る中、下川は柏原や青木たちから「これ以上、巡視船を待機させるのは危険です。現場から離脱させた方が」と 進言される。遠藤たちは「レガリアを置き去りにするんですか」とざわめくが、下川は巡視船に離脱を指示した。レガリアでは、仙崎たち が会話を交わしていた。桜木は父親を亡くした時のこと、夏は恋人を取られてレガリアに逃げてきたことを話す。そんな中、レガリアが 燃え始めた。あと1時間は暴風域を抜けず、救助ヘリを飛ばすことが出来ない状況の中、火はガスタンクの下まで迫った…。監督は羽住英一郎、原作は佐藤秀峰、原案は小森陽一、脚本は福田靖、製作総指揮は亀山千広、製作は加太孝明&水口昌彦&島谷能成& 亀井修&小笠原明男、プロデューサーは臼井裕詞&安藤親広、アソシエイトプロデューサーは小出真佐樹&上原寿一、撮影は佐光朗、 編集は松尾浩、録音は柳屋文彦、照明は水野研一、美術は清水剛、特殊効果は宇田川幸夫、VFXスーパーバイザーは石井教雄、音楽は 佐藤直紀、主題歌はEXILE『もっと強く』。
出演は伊藤英明、加藤あい、佐藤隆太、時任三郎、石黒賢、鶴見辰吾、香里奈、加藤雅也、吹石一恵、三浦翔平、濱田岳、勝村政信、 中原丈雄、二階堂智、青木崇高、海東健、平山祐介、安居剣一郎、堀部圭亮、斎藤歩、斉藤慶太、北村栄基、小林勝也、小須田康人、 津村和幸、笠兼三、パク・ソヒ、松岡哲永、杉山聡、川岡大次郎、野元学二、佐藤貢三、鹿内大嗣ら。
佐藤秀峰の漫画『海猿』を基にした劇場版シリーズ第3作。
監督の羽住英一郎、脚本の福田靖、仙崎役の伊藤英明、環菜役の加藤あいは、劇場版第1作から全作に携わっている。
吉岡役の佐藤隆太と下川役の時任三郎はテレビ版から、北尾役の石黒賢は劇場版第2作からの登場。他にも、松原エリカ役の香里奈、渡辺 マサヤ役の青木崇高、三島優二役の海東健、山路拓海役の平山祐介など、これまでのシリーズに出演していた面々が何人か登場する。
他に、吉森を鶴見辰吾、桜木を加藤雅也、夏を吹石一恵、服部を三浦翔平、木嶋を濱田岳、遠藤を勝村政信、内藤を中原丈雄、柏原を 二階堂智、青木を安居剣一郎、松井を堀部圭亮が演じている。
なお、今回は完全に「いちげんさん、お断り」の作りになっている。つまり、登場人物の役職や相関関係の説明は皆無なので、これまでの シリーズを見ていない限り、全く把握できないということだ。前作は「これがシリーズ完結」と銘打って公開されたはずだが、まるで政治家の公約の如く、何事も無かったかのように堂々と続編が製作 されている。
ってことは、前作はポンコツだったのだが、それでも大ヒットを記録し、「まだ稼げる」とフジテレビが考えたってことなんだろう。
で、1作目も2作目もポンコツだったのだから、3作目がポンコツに仕上がることは濃厚だ。
だから本作品は「どこが、どんな風に、どれぐらいポンコツなのか」という観点から見ることになる。
こちらの期待を裏切らず、キッチリとポンコツ大作映画に仕上げて来た製作サイドには拍手を送りたい。韓国やロシア政府も絡んで来る問題なのだが、その2つの国は顔が見えない状態になっている。
セリフの中では登場するが、2つの国の政府高官が事故処理に口を出してくるとか、日本の方針に反対するとか、そういうことは全く 描かれない。
正直、この2つの政府が絡んでいる設定にした意味は皆無と言ってもいい。
っていうかさ、そもそも玄界灘に日韓が共同で天然ガスのプラント施設を作るとか、そんなの有り得ないし。
そりゃあ荒唐無稽な話ではあるんだけど、それは頭にお花畑が咲いているような平和ボケの設定だよなあ。タイトルの直後、ヘリが荒れる福岡沖玄界灘へ向かっていること、そこで何かしらの事故があったことは分かるが、どういう事故なのかは 全く分からないまま、すぐに海上保安庁事故対策本部のシーンに切り替わる。
音楽やキャラの芝居で緊張感を作り出そうとしているが、それがボンヤリした状態でしか観客側には伝わって来ない。何に対する緊張 なのか、どういう緊張なのかが分からないからだ。
その段階で全てを詳細に説明しろとは言わない。っていうか、それはむしろ後回しにすべきだ。
ただし、例えば船が遭難したとか、何かの施設が壊れたとか、その程度の提示はあるべきだ。
そういう最低限の情報さえ与えてくれないのだ。
「台風の最新進路予想図をくれ」という下川のセリフで、ようやく台風が迫っていることが分かるが、それも先に示しておいた方がいい ような情報だし。時系列を組み替えていて、後から事故発生時や仙崎たちが向かうまでの経過を描写するのかと思いきや、それは全く無い。
何がどうなって事故が起きたのか、その事故によって仙崎たちが到着するまでにどういう出来事が発生していたのか、それは描写されず、 遠藤がセリフで説明するだけ。
事故の発生シーンが無いって、それは完全に手落ちでしょ。
一刻も早く本題に入りたかったのかもしれないけど、ホントにいきなりで、助走が皆無なんだよな。普通、まずレガリアとは何なのか、そこで何が行われているのかという「平穏な状態」を示しておいて、さらには仙崎の日常シーンも少し 描いておいて、それからトラブル発生へと移っていくべきでしょうに。
まだ環菜も登場していないのに、どんどん話を先に進めるのよね。
序破急で言うところの「序」が全く無いんだよな。
まさか製作サイドは、仙崎と吉岡がビデオ撮影でふざけている短いアヴァン・タイトルだけで、「序」の役割が成立しているとでも 思ったのか。何度か環菜の様子が写るが、これがあまり意味を持ったシーンになっていない。
夫婦愛、家族愛を描きたいという意識はあったのかもしれないが、ぶっちゃけ、邪魔でしかない。
「仙崎に家族がいなかったら、船内で夏との恋愛劇も描けただろうに」という感想しか出て来ない。
っていうか、仙崎と夏の恋愛劇を描くことが不可能なんだから、夏は別の男(っていうか桜木と木嶋しかいないけど)と恋人か夫婦関係と いう設定にでもしておいた方が良かったんじゃないの。仙崎はテレビ版と2作目で吉岡とバディーを組んで来たのに、今回は彼ではなく服部とバディーを組む。
この展開には呆れてしまった。
同じバディーのままだと、観客に飽きられるとでも思ったのか。新しいキャラを登場させたいなら、バディーではないキャラとして出せば いいだけだ。吉岡が既に死亡しているならともかく、まだ健在で、劇中に登場しているのに、仙崎を別のキャラと組ませるって、どういう センスなのか。
1作目からシリーズを通してバディーの重要性を描こうとしてきたはずなのに(実際に出来ているかどうかは別にして)、そんなに簡単に バディーをチェンジしてしまうのか。
それは自分で自分を否定しているようなものだぞ。遠藤の部下たちが「ドリルシップが掘削坑と繋がったままなんじゃないか」「もし、それで防噴装置が作動していないとしたら」と口に した途端、皆の血相が変わる。
だが、その言葉がどういう意味なのか、何を喋っているのか良く分からない。
防噴装置が作動していないとしたら、何が起きるのか。
そもそもドリルシップ自体、どういうものか良く分からないし。
とにかく説明が不足している。レガリアとドリルシップの構造も良く分からないから、仙崎たちがどこにいるのか、どういう風に動いて いるのかも分かりにくいし。服部の見せ方は間違っている。
彼は経験不足で臆病なキャラなのだが、初登場のシーンでは仙崎と桜木を救っている。
それはダメでしょ。それだと、服部は勇敢で適切な判断の出来る救難隊員のように見えてしまう。
以降の展開において臆病な性格をアピールしていくのであれば、最初に異なった印象を観客に持たせるのは望ましくない。最初のキャラ 紹介の段階で、臆病者であることを示すべきだろう。
ようするに、「仙崎たちを助ける」という形で登場させたことが間違いなのだ。仙崎は弱音を吐く服部に「俺だって怖いよ。俺たちはバディーなんだよ。お前は、一人じゃないんだよ」と説くが、セリフの繋がりとして 、それって変じゃないかな。
「俺だって怖い」という言葉の後には、「怖いけど、こういう理由で立ち向かわなくちゃいけない」というセリフが続くべきだと思うん だよな。
「俺たちはバディーなんだよ。お前は、一人じゃないんだよ」という風に続くと、「怖いのはお前だけじゃないから、気にするな」という 意味に解釈できるけど、それだと意味が無いと思うんだよな。だって服部は、自分が怖がっていることを恥じているわけではないん だから。
そこで必要なのは、怖がって仕事を放棄しようとする服部に、潜水士として任務を遂行すべき理由を説く言葉だと思うのよ。
しかも、その後、仙崎が息子のことを語っているのを服部が耳にして、それによって服部の気持ちが変化奮い立たせるようになるので、 そうなるとそこでの説得は何の意味も無くなってしまう。服部が仙崎の会話を聞いたら、すぐに何か行動を起こすような出来事を用意するなど、何か「海保としての使命感に目覚める」という場面 が欲しいのだが、かなり長い間、彼は何もすることが無い。
で、さらに桜木たちの話を聞いて、何かを感じたような様子が描かれる。
それをやっちゃうと、仙崎の言葉を聞いていたシーンの意味が弱まってしまう。
おまけに、その桜木たちの話を聞いた直後にも、やはり服部が使命感を発揮するための展開は用意されていない。吉森は分かりやすく「人命より国益を守れ」という立場を取る、ステレオタイプの政治家である。同じ考えの桜木がいて、レガリアでは 分かりやすく、人命優先主義の夏と国益優先の桜木が対立する。
ここで仙崎がどういう立場を取るかと言うと、「対立には関わらず、ただ仲裁するだけ」である。
どちらの立場への賛同も示さない。
「人命か国益か」という対立の図式が明確に示され、それが中心に据えられているのに、主人公が一歩引いた立場というのは、いかがな ものか。ただ、「人命か国益か」ということで下川と対立する立場にあり、彼を官邸にまで呼び出していた吉森だが、かなり長い間、画面から 消えてしまう。
下川が巡視船の離脱を決める時とか、そういうのは対立を描くのに持って来いの状況のはずだが、吉森は絡んで来ない。
で、「5人が助かるためにレガリアを沈める」と仙崎が決めると、桜木は「他に方法は無いんです」と遠藤たちの説得を後押しし、吉森も 「総理とロシアと韓国の大統領を説得して了解を得て下さい」と下川に頼まれると、少しの会話を交わしただけで、すぐに受け入れている 。
「沈めるべき」と誰かが決めてから、そこで「沈めるべきではない」「他に助かる方法は無い」という対立が盛り上がった方がいいと 思うんだけど、そこは淡白に処理してしまう。
デカいテーマを持ち込んでおいて、すげえ安易に処理している。ドリルシップのバルブを閉めるシーンは、たぶん見せ場の一つとして想定されているんだろうが、「それを閉めたら危機が回避される」と いう関連がイメージ的に遠いものなので、あまり盛り上がらない。
現時点で危機が発生しているとか、その前兆がレガリアを襲っているとか、そういうことじゃなくて、「バルブを閉めないと次のブロー アウトが来てレガリアが潰れる」というものなのよね。
何となく、「今そこにある危機」という雰囲気が弱いのよ。全ての巡視船が離脱した後、しばらくの間、「ただ仙崎たちが待つだけ」という状態に入ってしまう構成は、いただけない。
ようするに、それって休憩になってるんだよね。
もう物語も佳境に入って来たというタイミングで休みを取ってどうすんの。
そこで桜木が父親を肺がんで亡くしているとか、夏が恋人を他の女に取られてレガリアに逃げて来たとか、そういうプライベートな設定が 語られるのだが、そういうことを入れるタイミングが悪い。海上保安庁が撮影に協力している手前、「海保が関わった事故で死者を出すわけにはいかない」ということなのか、前作に引き続いて 犠牲者は出ない。
まあハッキリ言って、見ていても「船内に残った誰がが死ぬかも」という雰囲気は微塵も無かったしね。
パニック映画では、「主要キャストの誰かが犠牲になる」というのが物語に大きな起伏を作るために使われる「鉄板」とも言うべき要素 なのだが、そこを禁じられているのは厳しいよなあ。(観賞日:2011年7月9日)
第7回(2010年度)蛇いちご賞
・助演女優賞:加藤あい