『THE 焼肉 MOVIE プルコギ』:2007、日本
料理対決番組『焼肉バトルロワイヤル』では、巨大焼肉チェーン店「トラ王」の御曹司・トラオが焼肉キングとして連勝を続けていた。 トラオの母であるトラ王グループ会長は、全国各地で焼肉店を次々に買収し、チェーン展開を広げていた。買収の手口は、かなり荒っぽい ものだった。一方、北九州ではプルコギ食堂という小さな店が繁盛していた。プルコギ食堂は“焼肉の達人”と呼ばれる韓老人が営む白肉 (ホルモン)専門の店で、一番弟子であるタツジと韓老人の孫娘・ヨリが切り盛りしていた。
トラ王会長は北九州の店舗だけ売り上げが極端に悪いことを知り、トラオと部下の原田を派遣した。プルコギ食堂の向かいにあるトラ王の 店は、花火を上げたりセクシーな女性にビラを撒かせたりするが、客足は全く伸びなかった。トラオと原田は、双眼鏡でプルコギ食堂の 様子を観察していた。タツジは韓老人から、肉の焼き方について「目はアテにするな、耳で焼け」と言われていた。
神戸から一人の男がプルコギ食堂に訪れ、韓老人に焼肉対決を要求した。男は最高級神戸牛のロース肉で挑み、韓老人はハラミを焼いた。 男が焼いた肉を一口食べた韓老人は、すぐに立ち去ってしまった。在日韓国人のタツジは18年前に生き別れとなった兄を捜しており、昔の 写真をネットに掲載して情報を募っていた。だが、手掛かりとなるような情報は無く、諦める気持ちになりつつあった。
トラオはテレビ番組でアカ肉至上主義を宣言したが、プルコギ食堂の客足には何の影響も無かった。ある日、トラオはプルコギ食堂を訪れ 、ハラミとケンニップを注文した。ケンニップを食べた途端、トラオはハッとした。トラオは韓老人に、“焼肉バトルロワイヤル”への 出演を持ち掛けた。トラオが店を悪く言ったことにタツジは腹を立てるが、韓老人は「興味が無い」と静かに断った。
原田は部下を引き連れて全国を巡り、脅迫と破壊行為によって焼肉店を次々に買収した。鶴橋でおばちゃんが営むホルモン焼店にも、一味 は現れた。トラオはチェーン店で畑中という優れた女性コックを見つけ、次から番組でサポートに付くよう指示した。トラオや原田たちは プルコギ食堂を訪れ、韓老人と会った。韓老人は焼いていたコプチャンをトラオに食べさせた直後、息を引き取った。
タツジは『焼肉バトルロワイヤル』の収録スタジオに乗り込み、トラオに番組での勝負を要求した。トラオはタツジの名前を確認し、その 要求を承諾した。だが、タツジは本番が近付く中、まるで勝てる気がしなくなってしまう。そんな中、ヨリは原田に拉致されるが、裏社会 のボスだったプルコギ食堂の常連客・ヤンさんが助け出した。いよいよ本番当日、1回戦の前菜対決で、審査員の反応ではトラオの圧倒的 な優勢だった。2回戦のスープ・鍋対決でも、タツジの料理は芳しい反応を得られない。ただし、ケンニップの反応だけは良かった。次に トラオの料理が運ばれるが、彼が漬物として出したケンニップはタツジの物と同じ味だった…。監督はグ・スーヨン、原案はハーロマ、脚本は具光然、製作は片岡公生&原田雅弘&石井晃&小西啓介、プロデューサーは小林勝絵、 アソシエイトプロデューサーは渡辺正純&金澤秀一&畠中美奈、エグゼクティブプロデューサーは紺野健二&高橋増夫&尾越浩文&森重晃 、撮影は無州英行、編集は高橋和久&渡辺勝郎、録音は安藤邦男、照明は小山田智、美術は仲前智治、 料理監修は服部幸應(服部栄養専門学校)、フードコーディネーターは結城摂子(マンダリン工房)、音楽はMaMiMery。
主題歌『NAVEL』:作詞・作曲/山崎まさよし、Performanced by 山崎まさよし。
出演は松田龍平、山田優、ARATA(現・井浦新)、田口トモロヲ、桃井かおり、田村高廣、倍賞美津子、津川雅彦、ムッシュかまやつ、 竹内力、前田愛、矢沢心、リリー・フランキー、服部幸應、きよ彦、山本譲二、坂井真紀、忍成修吾、和田聰宏、野添義弘、川田利明、 斉藤洋介、笹野高史、関根大学、仁科貴、あじゃ、長江英和、有吉弘行、紺野千春、木下ほうか、佐伯新、佐伯公誠、 松尾れい子、三浦綺音、平栗里美、諏訪太朗、阿部朋矢、大岩永徳、富永研司、沖原一生、パク ソヒ、 荒木恵、悠乃、浜菜みやこ、田辺ひかり、二宮直子、門谷洋一、伊藤博幸、芦田昌太郎、 ERIKU、久璃あさ美、光成菜穂、山下カヲル、古澤弘年、紀伊修平、施井史、渡辺智明、 小川楓雅、鷹野茉里杏、ささの貴斗、ささの堅太、ささの友間、ささの翔太、高橋烈也、嘉村航ら。
CMディレクターのグ・スーヨン(具秀然)が監督し、弟の具光然が脚本を務めた作品。
タツジを松田龍平、ヨリを山田優、トラオをARATA(現・井浦新)、原田を田口トモロヲ、韓老人を田村高廣、トラ王会長を桃井かおり、鶴橋のホルモン 焼屋のおばちゃんを倍賞美津子、審査員長の目黒川を津川雅彦、ヤンさんをムッシュかまやつ、司会を竹内力、レポーターを前田愛、畑中 を矢沢心、料理評論家をリリー・フランキーが演じている。
また、審査員役で服部幸應、きよ彦、山本譲二、坂井真紀が出演している。トラオの斜に構えたようなキャラ造形は、明らかに失敗だ。
クールなのは構わないが、心に秘めた熱さや野心は見えるようにしておくべきだろう。
トラオの場合、けだるい雰囲気が出すぎているのよね。
そうじゃなくて、「俺が一番」という自信に満ちた男じゃないと、バトルが盛り上がらないよ。
喋り方がボソボソしているのもマイナスだし。
クールなのはいいけど、もっとハキハキと喋れよ。冒頭の『焼肉バトルロワイヤル』の対決で、トラオはケンニップに肉を包んで塩釜で焼く料理を作っている。その際、肉の真ん中の部分 だけを使い、外側部分についてはリポーターが「捨てるんですか」と言っている。
これをトラオは否定していないので、捨てるシーンは無いが、捨てていると解釈すべきなんだろう。
焼肉店の料理人として、そんなに簡単に肉を捨てていいのか。
「トラオは悪玉だから」ということで、肉を捨てるような奴にしてあるのなら、まだ理解できないこともない。後で肉を大切にするタツジ の姿を見せて、対比を付ければいい。
だけど、そうじゃないんだよね。意図的なら、肉を平気で捨てるシーンを描写するはずだから。ただ無頓着なだけだ。
その証拠に、タツジが床に落ちた肉を掃除するシーンがある。それは韓老人から肉の焼き方でダメ出しされた直後だから、韓老人が焼き方 のダメな肉を床に捨てたと解釈するしかない。
こっちサイドも、勿体無いことを平気でやっているのだ。
焼肉を題材にしておいて、肉の扱いに無頓着ってのは、致命的な欠陥でしょ。あと、冒頭の『焼肉バトルロワイヤル』の調理シーンでも、試食シーンでも、料理が全く美味しそうに見えない。シズル感も無い。
それに、食べる際の料理や口元のアップも無い。
審査員は、どのように美味しいのか、どんな味なのかという具体的なコメントを何も言わない。ただ「美味い」と言うだけだし、リアク ションも薄い。
そこは具体的なコメントが必須だし、リアクションも誇張して描写すべきだろう。
具体的なコメントが無いと、トラオの勝利が何の説得力も無いものになってしまう。プルコギ食堂に場面が移っても、客が焼いているホルモンがアップで写らない。
だから、料理が美味しそうには見えない。
タツジは女性客に「牛の胃が4つあるって知ってる?」と、ミノやセンマイについて説明を始めるが、その部位の実物は見せない。
「小腸はコプチャン」とトングでコプチャンをつまむが、これもアップで撮らない。
また、その部位にどのような特徴があるのか、どんな味なのかも説明はしてくれない。
だから、部位の違いが全く伝わらない。そんな風に、とにかく最初から最後まで、隅から隅まで、焼肉に対する愛や興味を、これっぽっちも感じない。
焼肉好きが作ったとは、とても思えない。
その後、ヨリが調理するまかない飯はアップにしているのに、なぜ肝心の焼肉をアップで見せないのか。
トラオが原田を伴って2度目にプルコギ食堂を訪れるシーンで、ようやく焼かれているコプチャンがアップになるが、遅いよ。
あと、この映画を見ても、ちっとも「美味しそう」だと思わないし、焼肉が食べたいと感じないんだよな。冒頭の対決シーンの後にはトラオが5連勝した様子が写るが、そこで彼が作った料理は紹介されていない。
彼が常に活気的な焼肉メニューを生み出す驚異的な料理人だというアピールは、全く出来ていない。
ただ「連勝街道まっしぐら」というのを番組司会者のセリフによって説明するだけで、観客を巻き込むための仕掛け、納得させるための 仕掛けが、何も用意されていないのだ。トラオの番組での快進撃と並行して、会長は強引な買収工作を展開しているという描写になっている。
しかし冒頭の時点で番組は4回目の放送であり、トラオは4連勝しただけだ。わずか1ヶ月で、次々に店を買収して新装オープンしていく なんて、そりゃ不可能だ。
そこの無茶をギャグで処理しているのかというと、何もしていない。ただ粗いだけだ。
「番組が始まる前から強引な買収はやっていた」という設定なのかもしれないが、そうだとしても、それが伝わりにくいんだから、 やっぱり粗いってことだ。
トラオと原田が北九州に派遣され、橋の向かい側で繁盛している店を見るシーンで、初めてプルコギ食堂を登場させた方がいい。それから タツジやヨリたちを紹介すればいい。
トラオの4連勝&強引な買収シーンの後でプルコギ食堂が繁盛している様子が描写されているが、これは構成として上手くない。なんか ダラーっとしていて、主人公の登場シーンとしての力もゼロに等しいし。トラオが望遠鏡でプロコギ食堂を覗くと、タツジが韓老人からコプチャンの焼き方でダメ出しをされている。
だが、最初にプルコギ食堂が写ったシーンで、タツジは女性客のホルモンを焼いている。
ってことは、韓老人は、まだ焼き方が一人前じゃないタツジが客の肉を焼くことを容認しているという解釈になってしまうぞ。
それはおかしいでしょ。
そういうトコロも、やっぱり無頓着だよなあ。神戸から来た男は韓老人に挑戦するが、韓老人はホルモンの達人なのに、なぜロース肉の奴が挑戦するのか、良く分からないぞ。なんで 挑む必要があるんだよ。
あと、その勝負も冒頭の『焼肉バトルロワイヤル』と同様、何がどう美味しいのか全く分からない。
それと、そこは「ロースを一口食べただけで韓老人が立ち上がった」というだけで神戸の男が敗北したことになっているが、優劣がどこに あるのか全く伝わらない。
互いに食べ合うんじゃなく、第三者に食べさせてコメントさせろよ。トラオはテレビでアカ肉至上主義を宣言し、その後で「ホルモン好きの男が見合いでフラれる」とか「ホルモンを勧めた男が商談で失敗 する」というのをギャグとして見せているが、完全に上滑り。
他にも、ヨリが男とデートしたり、タツジがパチンコ店で男と会ったりと、色々なシーンが盛り込まれるが、メインの話を邪魔していると しか思えない。
鶴橋のおばちゃんの店は何度も写るが、何のために挿入しているのかサッパリ分からない。
一方で、肝心の「全国展開を進める店の御曹司・トラオと達人の弟子・タツジが戦う」というメインの話は進行がノロく、ものすごく浅薄 なモノになっている。タツジが捜している兄がトラオだというのは、兄を捜している設定が提示された時点でバレバレだ。
で、そのバレバレであることを有効に使うわけでもなく、ただ適当にやっている。
原田は北九州の売り上げの悪さについて「次の手は売ってあります」と会長に言うが、その次の一手が見えないままタツジとトラオの バトルに突入する。
原田は店を破壊して買収するが、そんなことをすれば警察沙汰になるだろうに、「なぜ警察沙汰にならないのか」という問題は無視して いる。
畑中はサポートに付くようトラオから言われるが、この女は急に登場しているので、どういう奴なんだかサッパリ分からない。トラオとタツジの料理対決では、せっかくトラオにケレン味のある調理法をやらせているのに、それを実況してくれないから、いかに奇抜 なことなのかが全く伝わらない。
一方のタツジは料理対決の本番に至っても、自信が無いまま挑んでいる。これは大失敗。本番当日までは、壁にぶつかったり悩んだり してもいい。だけど本番までに、その壁を乗り越えて来いよ。気持ちで負けてんじゃねえよ。
しかも、それまでに勝てるメニューを考案することも、特訓して料理人として上達することも無い。そんな状態で対決に入っても、そりゃ 盛り上がらないよ。だって、勝てる要素がゼロじゃねえか。
実際、2回戦が終了した段階で、タツジはトラオに全く歯が立たないという状態だ。そして相変わらず、審査員は味について何も具体的な コメントを言わない。
あと、最後の対決は、ただ焼肉を焼いてるだけだよな。しかも、そこでベストの焼き加減でも、審査員のテーブルに運ばれるまでには時間 が掛かるから、肉が硬くなるだろうに。
料理番組として、大きな欠陥があるぞ。とにかく、ちっとも弾けていないってのはキツいでしょ。なんで妙にウェットなんだよ。
この映画で弾けないってのは、絶望的にセンスが無いぞ。
結果的に弾けきれなかったとしても、弾けた映画にしようとする意識は必要でしょ。それが感じられないのよ。
ラストの対決も、トラオが試合放棄で終わりって、どういうつもりだよ。この映画でアンチ・クライマックスにするなんて、アホすぎる ぞ。
まあ松田龍平とARATAを起用している時点で、弾けた映画になる可能性は著しく低いけどさ。(観賞日:2010年9月11日)