『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』:2021、日本

殺し屋のファブルは、標的の男を次々に殺害した。立体駐車場にいた川平という金髪男は、仲間が立て続けに殺されたことを電話で知った。彼は焦りを見せながら、後部座席に佐羽ヒナコという少女を乗せている車の運転席に戻った。そこへファブルが現れ、川平の喉を切って殺害した。川平はアクセルを踏んだまま倒れ込み、車が猛スピードで暴走を始めた。ファブルは車に飛び付き、意識を失ったヒナコを抱き上げた。車は駐車場から転落し、ファブルはヒナコを抱えて脱出した。彼はヒナコを残し、その場を後にした。
4年後、大阪。NPO団体「こどもみらい」の代表を務める宇津帆は公民館のシンポジウムに参加し、「子供たちが安心に暮らせる社会を作りたい」と語る。彼は助手として同行している車椅子のヒナコについて、聴衆に「5歳の時に公園の遊具から転落して下半身不随になった」と嘘を語った。しかし誰も彼の嘘には気付かず、参加者は素晴らしい人物だと思い込んでいた。シンポジウムの後、宇津帆は優希という聾唖の少女に手話で話し掛けた。優希も宇津帆の本性を知らず、笑顔で会話を交わした。
その夜、宇津帆は部下の鈴木と新入りの井崎を伴い、過保護に育てられた若い男を捕まえていた。若者は助命を嘆願するが、宇津帆は殺害して遺体を埋めた。宇津帆は若者の親から二千万円を引き出しており、若者が東南アジアへ行ったように偽装する目論みだった。彼は井崎を信用できない鈴木に対し、元真黒組なのでファブルと関わりがあるのだと説明した。さらに彼は、自分がファブルに狙われながらも生き延びていることを得意げに語った。
翌日、宇津帆はヒナコを連れて事務所を出ると、役所の職員たちと会って仕事の話をする。ヒナコは公園へ赴いて鉄棒を掴もうとするが、バランスを崩して車椅子から落ちた。佐藤明として暮らすファブルは自転車で通り掛かり、その様子を見ていた。気付いたヒナコが何も手を貸さないことを批判すると、ファブルは「頑張ってるのに、邪魔しちゃ悪いと思って」と告げた。ファブルが「時間は掛かるが、歩けるようになる」と口にすると、ヒナコは「偽善」と睨み付けて去った。
ファブルは洋子の元へ行き、4年前に東京で起きた殺人事件について教えるよう要求した。洋子が川平の事件に触れると、ファブルは自分が助けた少女がヒナコだと気付いた。翌日、ファブルがオクトパスに出勤すると、田高田と清水岬はクリスマスのイラストの仕事が来ていることを教えた。ファブルはサンタクロースの存在も知らなかったが、その仕事を受けることにした。ヒナコが公園で鉄棒を掴もうとしているとファブルが現れ、低い方から始めるよう助言した。ヒナコは「偉そうに」と怒鳴り、公園を去って事務所に戻った。鈴木は彼女から「公園にストーカー男がいる」と聞き、「兄貴ってことにして追っ払ってやる」と告げた。
宇津帆は井崎に、ヒナコが高校時代に両親を強盗に殺されたこと、復讐だけが生き甲斐であることを教えた。彼らは盗撮と盗聴の調査を無料で実施している会社の人間を詐称し、マンションへ戻って来た岬に声を掛けた。岬が調査を断ると、井崎は隠し持っていたスタンガンを使おうとする。それに気付いた宇津帆は、穏やかな口調で岬を説得した。ファブルが公園に行くと、鈴木が現れた。彼はヒナコの兄だと言い、「妹に近付くな」と顔面に蹴りを浴びせて去った。
宇津帆と井崎は事務所に戻り、盗撮カメラに写る岬の姿を確認した。ファブルは田高田に頼まれ、事務所にチラシを届けた。宇津帆は彼がヒナコと知り合いだと気付き、部屋に招き入れた。出されたコーヒーを熱がるファブルの様子を見て、ヒナコは笑った。その様子を見た宇津帆は、激しい嫉妬心を抱いた。ファブルが去った後、彼はヒナコに性交渉を要求した。ファブルは洋子の部屋に立ち寄り、4年前の仕事で本来は6人を殺すはずだったが途中で中止になったことを明かす。その6人目が宇津帆であり、ファブルは分かった上で彼と普通に接触していた。
宇津帆は興信所の人間を詐称して貝沼の母親に電話を掛け、「息子さんのことでお話ししたいことがあります」と告げた。ヒナコは公園へ赴き、低い鉄棒を掴んで立ち上がった。成功した彼女は喜んで周囲を見回すが、ファブルがいないので落胆する。しかしファブルは、木陰から密かに観察していた。宇津帆は芸能プロダクション社長役の井崎を同席させ、貝沼&母親と会った。宇津帆は井崎が岬をモデルに復帰させようと考えていること、身辺調査で部屋に仕掛けられたカメラが発見されたことを説明する。映像には仕掛ける時の貝沼の顔が写っていたが、それだけでなく宇津帆と井崎が設置したカメラの映像も含まれていた。貝沼は「これは僕じゃない」と否定するが、宇津帆は「誰も信じませんよ」と告げて母親に示談を持ち掛けた。
貝沼のアパートを張り込んだ鈴木は、精神的に危険な状態にあることを宇津帆に伝えた。岬を殺す恐れもあると聞かされた宇津帆は、それを容認する言葉を伝え、その後で貝沼を拉致するよう命じた。翌日、出勤した貝沼は、包丁で岬を刺し殺そうと目論む。しかし気付いたファブルに阻止されると、寄声を発して外へ飛び出した。ファブルが追うと、鈴木が貝沼を車で拉致した。ファブルは鈴木と接触し、貝沼を引き渡すよう要求して「明日まで待つ」と通告した。
鈴木からファブルについて電話で聞かされた井崎は、貝沼を脅して情報を聞き出そうとする。貝沼は「妹の家しか知らない」と言い、洋子の住所を教えた。鈴木は洋子の家へ乗り込むが、軽く撃退された。貝沼は隙を見て逃亡を図るが、焦った井崎に車でひき殺された。洋子の家を訪ねたファブルは、縛られている鈴木を目にした。ファブルは鈴木に指示して井崎に連絡させ、貝沼が死んだことを知る。彼は鈴木の縄を解き、帰るよう告げた。
事務所に戻った鈴木は、井崎を始末したこと、佐藤の正体がファブルだったことを宇津帆に報告した。ファブルが近くにいたと知って喜ぶ宇津帆に、鈴木は拳銃を向けて覚悟を聞かせるよう要求した。宇津帆は4年前に川平が弟であることを明かし、激しい復讐心を見せた。次の日、ヒナコは公園で高い鉄棒を使って立とうとするが、失敗して車椅子から落ちた。彼女は近くにいたファブルに気付き、助けないことを批判した。ファブルが最初に会った時と同じ言葉を口にしたので、ヒナコは軽く笑った。ファブルはヒナコの脚の状態を確かめ、動くイメージが大切だと助言した。宇津帆はヒナコに盗聴器を仕掛けており、ファブルとの会話を聞いていた。
宇津帆がファブルを葬るための計画を練っていると、ヒナコが事務所に戻って来た。彼女は宇津帆の様子を見て、「貴方が何をしようとしているか、何となく分かってる。もう佐藤とは会わない。だから佐藤と周りの人には危害を加えないで」と頼む。すると宇津帆は彼女に、両親を殺したのは佐藤だという嘘を吹き込んだ。翌朝、宇津帆が拳銃を用意していると、ヒナコは「私にも銃を貸して」と頼む。宇津帆は彼女に拳銃を渡し、一緒に事務所を出た。彼はファブルに電話を掛けて正体を知っていることを伝え、ヒナコのことを話し合うために事務所へ来るよう指示した。宇津帆は事務所に爆破装置を仕掛けており、二の矢として大量の刺客も待機させていた…。

監督は江口カン、原作は南勝久『ザ・ファブル』(講談社「ヤンマガKC」刊)、脚本は山浦雅大、製作代表は高橋敏弘&沢桂一&藤島ジュリーK.&菊川雄士&有馬一昭&角田真敏&田中祐介&坪内弘樹&昆野俊行&加藤智啓&森要治&小櫻顕&廣瀬健一、エグゼクティブ・プロデューサーは吉田繁暁&伊藤響、プロデューサーは藤村直人&宇高武志&佐藤満、共同プロデューサーは谷生俊美、ラインプロデューサーは下村和也、撮影監督は直井康志、美術は小泉博康、照明は田中洵、録音は田辺正晴、アクション監督は横山誠、ファイトコレオグラファーは岡田准一、VFXスーパーバイザーは小坂一順、編集は和田剛&板倉直美、音楽はグランドファンク、音楽プロデューサーは茂木英興、主題歌は『Rain On Me』Lady Gaga & Ariana Grande。
出演は岡田准一、堤真一、木村文乃、平手友梨奈、安藤政信、佐藤浩市、安田顕、井之脇海、佐藤二朗、山本美月、黒瀬純(パンクブーブー)、好井まさお(井下好井)、志水心音、橋本マナミ、宮川大輔、室田真宏、宍戸美和公、伊藤祐輝、橋本知之、黒石高大、松角洋平、宮島三郎、タイソン大屋、藤本悠輔、酒井靖史、三元雅芸、加賀谷圭、松田逸平、真青ハヤテ、山下駿、藤井祐伍、石井靖見、鬼頭辰吉、荒井雄一郎、小原和也、田中信彦、こしげなみへい、半田美樹、ほのら、日比美思、美来美月、山下瑞季、原妃とみ、今藤洋子、花澄ら。


南勝久の同名漫画を基にしたシリーズ第2作。
監督は前作に引き続いて、江口カンが担当。
脚本は『亜人』『サイレント・トーキョー』の山浦雅大が担当している。
ファブル役の岡田准一、洋子役の木村文乃、ボス役の佐藤浩市、海老原役の安田顕、クロ役の井之脇海、田高田役の佐藤二朗、岬役の山本美月、貝沼役の好井まさお(井下好井)、ジャッカル役の宮川大輔は、前作からのレギュラー。
宇津帆を堤真一、ヒナコを平手友梨奈、鈴木を安藤政信、井崎を黒瀬純(パンクブーブー)、優希を志水心音、アイを橋本マナミが演じている。

冒頭、ファブルは標的を次々に殺害するが、誰にも目撃されないようにしているし、周囲の人間が巻き込まれるようなことも無い。しかし駐車場の時だけは、ヒナコに犯行を目撃されている上に、彼女を危険な目に晒している。
この時だけは、急にファブルの仕事が隙だらけになっているのだ。
しかし、川平が車に乗る前に始末することは出来たはず。それどころか、彼が1人になるタイミングで殺すことも出来たはず。
そこは「車が立体駐車場で暴走する中、ファブルがヒナコを助けて脱出する」というアクションシーンを描くために、ファブルの行動をマヌケにさせているのだ。やりたいアクションを実現するために、キャラやストーリーを犠牲にしているのだ。

宇津帆は若者を殺害して埋める時、それが過保護な子供を使ったビジネスであることを井崎に喋る。
しかし、具体的にどうやってビジネスにしているのかは、良く分からない。
どうやって過保護な若者を利用しているのか、どういう方法で保護者から金を引き出しているのか、どうやって子供の殺害がバレないようにしているのか。詳細は見えて来ない。
どうせ宇津帆にベラベラと喋らせているんだから、彼が井崎に教える形を取って観客に説明すればいいでしょ。

ファブルは川平の車からヒナコを連れ出した時、彼女が無事だと確認した上で去ったのだと思っていた。しかし洋子が事件を思い出す時、「意識不明の重体だった」と説明している。
ってことは、下手をするとヒナコは死んでいたかもしれないのだ。にも関わらず、ファブルは救急車を呼ぶことも無く、その場から去ったわけだ。
そもそもファブルのバカな行動のせいでヒナコは巻き込まれたんだから、最低限の罪滅ぼしとして救急車ぐらいは呼べよ。そこは一刻を争う状況だろうに。
ヒナコは運良く無事だったけど、ファブルの行動は見殺しにしたも同然だぞ。

ヒナコは鈴木に「公園にストーカー男がいた」とファブルのことを疎ましそうに話すが、「兄貴ってことにして追っ払ってやるよ。お前の安全を守るのも仕事だからな」と言われると「別にいいのに」と迷惑そうに呟く。
でも首を突っ込まれるのが嫌だと思っているなら、なぜファブルのことを教えたんだよ。
そんなのは、わざわざ言う必要も無い情報でしょうに。
自分から教えておいて、「追っ払ってやる」と言われると迷惑がるってのはメチャクチャだろ。

ヒナコは宇津帆の監視下に置かれているのかと思ったが、彼が仕事をしている間に公園へ出掛けている。
後から勝手な行動を取ったとして注意されるようなことも無いので、自由に動き回ることが許されているんだろう。
だったら、そもそも宇津帆が仕事場へ連れて行く必要が無いでしょ。
翌日のシーンではヒナコが1人で公園へ行ったり事務所へ戻ったりしているので、ってことは宇津帆がいなきゃエレベーターを利用したり団地の外へ出たりするのが無理ってことでもないんだし。

ファブルは冒頭の仕事で6人を始末する予定だったのに、途中で宇津帆の仕事がキャンセルされている。
だが、なぜ仕事が中止されたのか、その理由は全く教えてくれない。
終盤になって「実は」みたいな種明かしがあるのかと思ったが、最後まで分からないままだ。
あと、向こうで勝手にキャンセルされたんだから、それは宇津帆が「狙われたのに生き延びた」と自慢するようなことじゃないだろうに。実際にファブルが殺しに来たのに、そこから無事に生還したわけじゃないんだから。

宇津帆の悪党としての活動は、意味不明でデタラメにしか思えない。
彼はNPO団体の代表として積極的に活動しており、慈善家として広く知られた存在になっている。そんな奴が、変装もしないで「盗撮・盗聴の調査会社の人間」を詐称して動き回るのは、リスクがデカいだろ。そんな無駄なリスクを負って、何がしたいのかと。
そうじゃなくて、NPO団体の人間として活動する中で巧みに標的を騙し、利用したり金を搾取したりする形を取った方が絶対に得策だろうに。
あと、実際に貝沼がカメラを仕掛けているのに、わざわざ自分たちで新たに複数のカメラを仕掛ける意味も全く無いし。
貝沼が岬を盗撮していると分かったからこそ、岬に接触したんでしょ。だったら、盗撮・盗聴の調査会社を詐称して部屋に上がり込み、新たにカメラを設置する意味がサッパリ分からんよ。

宇津帆が興信所を詐称して貝沼の母親に電話を掛けるのも、その時に本名を名乗るのも、アホでしかない。
っていうか、それなら最初から興信所の仕事だけでいいでしょうに。NPO団体をやっている設定なんて、ほとんど意味が無いでしょうに。
「表向きは善人」という見せ方をしたかったんだろうけど、それを利用してあくどい商売をやっているわけじゃないから、隠れ蓑としての役割を果たしていないのよ。
貝沼の母親から盗撮の件で示談金をせしめるのも、無駄に手間とリスクが掛かっているし。井崎が芸能プロダクション社長を詐称するのも、NPO団体の事務所で貝沼&母親と会うのも、計画が杜撰すぎるし。
なぜ宇津帆はNPO団体で手に入れた評判の良さを利用して、保護者から巧みに金を搾取する方法を取らないのかと。

なぜヒナコが宇津帆の元にいるのか、その経緯がサッパリ分からない。宇津帆がヒナコを手元に置いておくことにした理由も、これまた良く分からない。
「NPO団体の仕事で利用価値がある」ってことかと思ったが、それらしき描写は序盤の1度しか無いし。ヒナコの障害を利用して金儲けを目論んでいるのかというと、そういう様子は無いし。
シンプルに、性的な対象として手元に置いているってことなのか。でも、そういう設定だとしたら、そこはもっとキッチリと作り込むべきだろ。
むしろ、宇津帆がファブルに嫉妬心を抱いてヒナコに性交渉を要求するシーンが、取って付けたような印象になっているぐらいなのよ。

宇津帆がヒナコについて、「両親を殺された復讐だけが生き甲斐だ」と話すシーンがある。
だけど、そんな生き甲斐をヒナコが持っているようには全く見えなかった。ネタバレを書くとヒナコの両親を殺した犯人は宇津帆なのだが、それを使った終盤の展開への流れを上手く作り出せていない。
これまたネタバレだが、終盤に入るとヒナコが宇津帆に復讐しようとして失敗する。だけど、彼女は「銃を貸して」と頼んだ時点で、もう両親を殺したのが宇津帆だと分かっているのだ。
それなのに、なぜ宇津帆がファブルを殺す作戦を開始し、捕まえた洋子を撃ち殺すよう指示するまで、ヒナコは全く仇討ちを果たそうとしないのか。それはタイミングとして変だよ。

っていうか、宇津帆が事務所におびき寄せてファブルを爆死させようとしたり、事務所がある団地に建設作業員を装った大量の刺客を差し向けたりするのも、作戦としてアホすぎるでしょ。
そんなに派手に動いたら、団地の住人に目撃されたり、邪魔になったりするリスクが大きいでしょうに。目撃者の通報で警察が駆け付けることも考えられるし。それに、事務所の住人である宇津帆が関与を疑われるリスクもあるし。
あと、今まで鈴木と手下は井崎しかいなかったのに、大量の刺客はどこから集めたのか。
それと工事用の足場は前日まで無かったはずで、いつの間に設置したのか。

ヒナコが森に移動して洋子を殺すよう指示されてから初めて宇津帆に発砲するのも、宇津帆がファブルを団地におびき寄せて始末しようと目論むのも、どっちも「やりたいアクションシーンありき」で話を作っているから生じた結果だ。
でも、「まずアクションありき」というやり方が悪いとは思わない。
そこからの逆算で全体を構成しても、それで面白いアクション映画が出来上がるのなら何の問題も無い。
でも、この作品の場合、そこからの逆算を何も考えていないのよ。

またネタバレを書くが、終盤に入ってヒナコが窮地に追い込まれた時、ファブルが鈴木に「ヒナコを助けろ。お前はとっくに分かってるはずだ」と告げる。すると鈴木は宇津帆を裏切り、ファブルの味方になってヒナコを助けようとする。
でも、その寝返りは無理があるわ。
彼がベビーフェイスにターンするための前兆なんて、何も用意されていなかっただろうに。
聾唖の少女を囮にする宇津帆の卑劣な作戦さえ容認していたような奴が、そこに来て急に善玉へ鞍替えしようってのは強引すぎるだろ。

(観賞日:2022年9月9日)

 

*ポンコツ映画愛護協会