『ザ・ファブル』:2019、日本

ある夜、暴力団の組長が料亭で外国人グループを設定していた。殺し屋のファブルは黒の目出し帽姿で顔を隠し、2人の見張りを一瞬で倒した。同じ頃、相棒のヨウコはバーで河合という男とテキーラの飲み比べをしていた。河合は下心丸出しで挑むが、ヨウコは余裕で相手を潰した。ファブルは座敷にいる連中を次々に始末し、料亭を去った。ヨウコが運転する車に戻った彼は、テレビを付けるよう指示した。ジャッカル富岡というお笑い芸人のギャグで彼は大笑いするが、ヨウコは何が面白いのか全く理解できなかった。ファブルは埠頭へ行き、使ったナイトホークの銃身を海に捨てて新品と交換した。
ファブルとヨウコは居酒屋の個室でボスと会い、次の指令を受けようとする。しかしボスは「1年ほど休んで潜れ」と言い、佐藤明と洋子という兄妹として暮らすよう指示した。彼は身分証を渡し、昔から契約している大阪の組織で世話になるよう告げた。ボスはファブルにインコを渡し、「それを育てて普通に生きることを学べ」と語る。ファブルは殺し屋としての能力を鍛えるための訓練だと捉えるが、ボスは「休業中に殺しはするな」と釘を刺した。
殺し屋のフードとコードは料亭へ行き、都市伝説となっているファブルの仕業だろうと推測する。フードはファブルを倒せば自分たちが都市伝説になると考え、コードと共に行方を追うことにした。ファブルはヨウコの車に乗り、大阪へ向かった。真黒カンパニーという看板を掲げる真黒組の浜田組長は若頭の海老原を呼び、殺し屋を預かることを明かした。海老原の弟分で武闘派の小島が出所することを思い出した浜田は、面倒なことになると感じた。
海老原は社長室でファブルとヨウコに会い、社宅へ案内した。彼は組員のクロに、浜田に極秘の指示を出した。クロは2人のチンピラに連絡を入れ、ファブルを襲わせた。ファブルはわざと攻撃を受けて鼻血を出し、泣いて弱者を装った。チンピラたちが去った後、ファブルは通り掛かった清水岬という女性から「使いますか」とハンカチを差し出されるが断った。フードとコードは料亭の死体処理を頼まれた会社を襲撃し、現場に落ちていたスマホにファブルの姿が写っていることを知った。
翌日、海老原はファブルを倉庫に連れ出し、待たせておいた元プロレスラーを殺すよう要求した。ファブルは3秒で相手を叩きのめすが、殺害は拒否した。海老原が拳銃を突き付けると、彼は「この1年、誰も殺さず普通に暮らしてみたい」と告げる。強い決意を感じた海老原は、ファブルを受け入れることにした。焦りを悟ったファブルの質問を受けた海老原は、浮気した女を殺して8年の懲役刑になっていた弟分の小島が出所することを明かした。海老原が岬に気付くと、ファブルは「知り合いですか」と尋ねる。海老原は彼女が病気の母のために昼も夜も働いていることを語り、近付かないようファブルに釘を刺した。彼はファブルに、働くよう促した。
小島は風間という男を襲撃し、彼の部屋で脅しを掛ける。彼が岬の写真集を見つけると、風間はAVに出そうとしたが事務所を辞めたことを話す。小島は借金の返済を要求し、風間が全額を返せないと知って射殺した。ファブルは仕事を捜して面接に行くが、古着屋と運送屋で立て続けに不採用となった。花屋へ行こうとしていた彼は、岬と遭遇した。岬は鼻血を出して泣いていた男だと気付き、自分の会社が花屋に近いので案内を買って出た。
風間の死を知った砂川は手下の松沢から、小島の姿が目撃されたことを聞いた。彼は海老原が裏で糸を引いていたことにして、彼の会社を乗っ取ろうと考える。岬はファブルを自分が働く小さなデザイン企画会社「オクトパス」へ連れて行き、社長の田高田に紹介する。田高田が時給800円という雇用条件を提示すると、ファブルは即座に受け入れた。小島が真黒カンパニーへ挨拶に行くと浜田は500万円を渡し、海老原は久々の再会を喜んだ。砂川が嫌味を飛ばすと、小島は挑発的な態度を取った。
田高田は居酒屋でファブルを歓迎する飲み会を開き、岬と社員の貝沼悦司も参加した。ファブルは貝沼が岬のスカートの中を盗撮していることに気付き、密かに妨害した。彼が枝豆を皮ごと食べたので、岬と田高田は驚いた。しかしファブルはスイカも皮ごと食べるのが当然だと思っており、トカゲや虫を食べたこともあった。帰宅した彼は隠しておいたサバイバルナイフを取り出し、幼少期を思い出した。彼はボスに命じられて単独で山に入り、1ヶ月のサバイバル生活を送った。彼が生き抜いて森を出ると、ボスは命令に背いた男を処分するため車で運んでいた。彼は男を車の外に出し、ファブルに拳銃を渡して見張らせた。ボスが目を離した隙に男はファブルを制圧し、拳銃を奪う。ボスは男を射殺し、肩を撃たれたファブルを抱き締めて「俺の許可なく死ぬな」と告げた。
ファブルは岬から電話を受け、鍵を忘れて家に入れないのでヨウコの所に泊めてほしいと頼まれる。ファブルは酔っ払ったヨウコが岬を遊び道具にしている様子を見た後、海老原の家へ赴いた。岬に近付いてしまったことを詫びるためだ。応対に出た小島がナイフを向けるが、彼は全く動じなかった。海老原は入浴中に不整脈で倒れ、ファブルは救急車を呼んで去った。海老原は心筋梗塞の疑いで入院することになり、売春の仕事を始めると言う小島に「俺が退院するまで待っとけ」と命じた。
岬はチラシのイラストを描くが、なかなか満足できなかった。彼女はファブルを呼び、試しにイラストを描かせた。その幼稚な絵を田高田と岬は気に入り、チラシに採用した。時給が100円上がり、ファブルは喜んだ。小島は岬のアパートへ行き、売春の仕事をするよう脅しを掛けた。海老原はクロから、小島が売春を始めようとしていること、砂川が人を集めていることを知らされた。砂川はフードとコードに声を掛け、会社を転覆させるための手伝いを依頼した。
小島はチンピラを雇い、岬のバイト先の店長を襲撃させた。さらに彼は母親を監視していることを示す写真を岬に送り付け、彼女が要求に従わざるを得なくなる状況に追い込んだ。岬は小島のマンションを訪れ、契約書への署名を迫られた。そこへフードと砂川の手下の松沢が現れ、小島と岬を拉致した。ファブルは海老原から、嫌な予感がするので小島のマンションだけでも調べてほしいと頼まれた。マンションへ乗り込んだファブルは室内の様子を調べ、小島と岬が誘拐されたことを見抜いた…。

監督は江口カン、原作は南勝久「ザ・ファブル」(講談社「ヤングマガジン」連載)、脚本は渡辺雄介、製作は大角正&今村司&藤島ジュリーK.&谷和男&有馬一昭&角田真敏&田中祐介&坪内弘樹&和田俊哉&赤座弘一&大鹿紳&小櫻顕&毛利元夫、エグゼクティブ・プロデューサーは高橋敏弘&伊藤響、企画・プロデュースは吉田繁暁&藤村直人、プロデューサーは宇高武志&佐藤満、ラインプロデューサーは毛利達也、音楽プロデューサーは茂木英興、撮影は田中一成、美術は小泉博康、照明は三重野聖一郎、録音は反町憲人、編集は和田剛、ファイトコレオグラファーはALAIN FIGLARZ&岡田准一、スタントコーディネーターは富田稔、主題歌「BORN THIS WAY」はLady gaga。
出演は岡田准一、佐藤浩市、木村文乃、山本美月、福士蒼汰、柳楽優弥、光石研、佐藤二朗、安田顕、向井理、木村了、井之脇海、藤森慎吾(オリエンタルラジオ)、宮川大輔、モロ師岡、六角精児、加藤虎ノ介、南出凌嘉、好井まさお(井下好井)、粟島瑞丸、伊藤公一、成田瑛基、武野功雄、倉本美津留、藤原光博(リットン調査団)、水野竜也、中村尚輝、火野蜂三、海老沢七海、吉崎綾、宮田佳典、大沼美和子、光宣、福田望、齋藤圭祐、渡部龍平、中村祐志、金森規郎、山元駿、的場司、江刺家伸雄、前川和也、河野マサユキ、三浦景虎ら。


南勝久の同名漫画を基にした作品。
監督は『ガチ☆星』『めんたいぴりり』の江口カン。
脚本は『MONSTERZ モンスターズ』『ジョーカー・ゲーム』の渡辺雄介。
明を岡田准一、ボスを佐藤浩市、ヨウコを木村文乃、岬を山本美月、フードを福士蒼汰、小島を柳楽優弥、浜田を光石研、田高田を佐藤二朗、海老原を安田顕、砂川を向井理、コードを木村了、クロを井之脇海、河合を藤森慎吾(オリエンタルラジオ)、ジャッカルを宮川大輔が演じている。
鉄板焼き屋の店長役でモロ師岡、バーのマスター役で六角精児が出演している。

冒頭、都心の高層ビル街が写し出され、カットが切り替わると料亭のシーンになる。そのため、その料亭が高層ビルの中にある店のように思えてしまう。
実際は違うのかもしれないが、その内装や和服姿の仲居の姿も含めて、「ハリウッド映画に登場する、間違った感覚で描写された日本料理店」のような印象を受ける。暴力団が接待しているのが外国人グループってことも含めて、そんな雰囲気になっている。
でも、たぶんモノホンの料亭なんだろうから、そこは「高層ビル街から料亭」というカットの切り替えは避けた方がいいんじゃないかと。
料亭の外景を見せてから、中の様子に切り替えた方がいいんじゃないかと。

ファブルが見張りを倒す時、画面の外から白い線が高速で伸びて来る。最初は「何かの武器なのか」と思っていたが、そういうことではない。どうやら、ファブルが標的を倒す時の「意識の動き」みたいなモノを、線や文字で表現しているようだ。
ただ、決して分かりやすいとは言えないし、効果的だとも思えない。
ガイ・リッチー監督辺りに影響を受けたのかもしれないけど、趣向としては失敗だね。
しかも、その演出って最初だけで終わっちゃうし。
持ち込んだのなら、ちゃんと最後まで続けようぜ。

ファブルが料亭で戦うパートと並行して、ヨウコがバーで河合を潰す様子が描かれている。
でも、ヨウコの様子を挟んでいる意味が全く無い。
彼女が同じ任務で別行動を取っているわけではないし、それがファブルの任務遂行を手助けすることに繋がっているわけでもない。ただ単に、遊びとして河合と飲み比べをしているだけだ。
そっちで緩和を描いて、ファブルの任務遂行と「緊張と緩和」ってことで上手い作用になっているわけでもない。

もっと問題なのは、ヨウコというキャラクター自体の必要性が全く感じられないってことなんだよね。
彼女はファブルの相棒のはずだが、ほとんど役に立っていない。ファブルと一緒にいるシーンも少なくないが、そこまで重要性が高いとは言えない。
ファブルが大阪での生活を始めると、ますますヨウコの存在価値は乏しくなる。
彼女の登場シーンを全て削っても、何の支障も無い。それどろか、むしろ削った方が明らかに話がスッキリと整理されるのだ。

ヨウコだけでなく、他にも不要に感じるキャラは何人かいる。
例えばコード。こいつ、まるで要らないよね。フードだけで事足りるよね。
「フードの相棒」としての存在意義も、ほとんど感じないし。フードが何かを喋る時に、それを受けるキャラがいなきゃダメってわけでもないし。この2人のやり取りが、絶妙な面白さを生んでいるわけでもないし。
「原作の主要キャラだから」ってことだけで深く考えずに登場させ、ちゃんと使い切れずに面倒な障害物と化しているんじゃないかと。

ギャグパートの大半も、無くした方がいいんじゃないかと感じる結果になっている。
ジャッカルのギャグにファブルが大笑いする序盤のシーンからして、こっちは「スンッ」という気持ちになってしまう。ジャッカルのギャグが寒いだけでなく、それにファブルが大笑いするという描写も寒いことになっている。
たぶん原作ならシリアスとコミカルのバランスは絶妙なんだろうと思うけど、映画だとギャグパートが上滑りしちゃってる。
そこを「笑うトコですよ」と強調しようとしたのが失敗で、もっとサラッと見せて「とぼけた味わい」に留めておいた方が良かったんじゃないか。

ファブルが飲み会から帰宅すると、幼少期の回想シーンが挿入される。終盤に繋がるシーンなので、必要性があることは分かる。しかし、それは理解した上で、それでも「要らないな」と感じる。
それ以降も何度か幼少期の回想シーンが入るが、全て邪魔だ。
ファブルの過去なんて、どうでもいいわ。そこでキャラの肉付けを図るより、現在進行形の出来事に集中した方がいい。回想シーンを全てカットすると、終盤の展開に影響が出るけど、そこも変更すればいい。どうせ、そんなにドラマとして盛り上がる内容になっているわけではないし。
あと、「急にボスとの絆」で着地させても、そこに向けた流れが回想シーンを含めても弱すぎるし。

ファブルの回想シーンで、ボスは肩を撃たれた彼を抱き締めて「俺の許可なく死ぬな」と言っている。
だけど、そもそも男の拘束が甘い上、不用意に背中を向けて隙を作っているから、処分しようとしていた男がファブルを制圧して拳銃を奪っちゃうわけで。
それって、ボスが意図的に、ファブルが危機に陥る状況を作っているように思えちゃうんだよね。
でも抱き締めて心配そうに声を掛けるので、だったら油断しまくっているボスの行動は不自然だよ。

小島は卑劣な方法で岬を脅して売春させようとするんだから、こいつはファブルに制裁されるべき存在のはずだ。ところが小島は砂川たちに捕まって暴行され、被害者の立場に回ってしまうのだ。
それにより、彼の犯した醜悪な罪が脇に追いやられてしまう。おまけに彼が砂川と戦う展開まであるので、どう見りゃいいのかと困惑してしまう。
最終的には海老原が小島を射殺してケジメを付けるけど、そういう問題じゃないのよ。岬に対する卑劣な行為は、ファブルにボコボコにされるぐらいのことが無いとチャラにならないのよ。
海老原が小島を射殺する結末は、なんか「いい話」みたいになっちゃってるけど、そうじゃないだろうと。

終盤の戦闘シーンで、ヨウコは少しだけ参加している。でも、そこまで来たら、もうファブルだけに任せちゃった方がいい。中途半端にヨウコを参加させても、余計に彼女の存在意義の薄さが際立ってしまう。
しかも彼女が関わるのって、岬が追い詰められてピンチに陥っているのを助けるための行動なのよね。
そこはファブルに全て担当させた方がいいでしょうに。
「ヨウコを出した以上は何かさせないと」という意識が、クライマックスを邪魔する要素になっているのよ。

(観賞日:2020年10月9日)

 

*ポンコツ映画愛護協会