『ザ・オーディション』:1984、日本

サンライズ・プロモーションでマネージャーをしている北森修平は、路上で兵藤裕三子という少女をスカウトした。彼はテレビ局のADをしている親友の間宮秀丸に頼み込み、裕三子をドラマに出演させてもう。しかし裕三子の芝居が下手すぎてディレクターは腹を立て、間宮は北森に何とかするよう要求した。北森は裕三子のオッパイと尻を触り、怒りの感情を引き出そうとする。そのおかげで怒ることは出来た裕三子だが、今度はやり過ぎてセットを壊してしまった。
北森はサンライズ・プロモーションの社長である伍代章造に、裕三子は歌手の方が向いているのではないかと釈明する。北森は伍代から、過去のスキャンダルについて改めて指摘される。かつて北森はロックバンドの「レイカース」でボーカルを担当し、大人気の存在だった。しかしタレント志望の女性をホテルに監禁したという記事が週刊誌に掲載され、一気に失墜したのだった。北森は捏造だと主張するが、伍代は活字になったことか問題であり、真実など何の意味も持たないのだと告げた。
週刊誌で北森に監禁されたと書かれた村木早苗は同情票を集めて矢島オフィスからデビューし、今では人気スターになっていた。北森はマネージャーに転身したが、伍代は仕事もロクに出来ない中途半端な人間だと扱き下ろした。腹を立てた北森は事務所の入り口を破壊し、プロダクションを去った。彼はサーキットへ行き、元妻の七瀬玲子と会う。玲子はレースチームのエンジニアで、風間杏子というレーサーを担当していた。北森は玲子に誕生日プレゼントを差し出し、仕事を辞めたことを話す。玲子は呆れて冷たい態度を取り、車でサーキットを後にした。
北森がテレビ局のロビーで間宮と話していると、早苗がマネージャーの江崎や事務所社長の矢島と一緒に現れた。江崎が嫌味を浴びせると、北森は矢島に「アンタが仕組んだんじゃないか」と詰め寄る。矢島は負け犬の遠吠えだと笑い飛ばし、激昂して掴み掛かろうとした北森を間宮が制した。間宮は北森に、足を洗って田舎へ帰れと告げた。北森が帰宅すると、裕三子が現れた。彼女は北森を追って、サンライズ・プロを辞めたのだ。北森は「俺と一緒にいたって、ロクなことは無いよ」と告げ、彼女を追い払った。
北森が家に入ると、早苗から電話が掛かって来た。早苗は泣きそうな声で、「私は有名になるためなら何だってする」と言う。自分を罵るよう彼女が要求すると、北森は無言で電話を切った。彼がベランダに出ると、裕三子がラジカセで音楽を流して踊っていた。彼女は北森に、芝居をするより歌ったり踊ったりする方が向いているのだと話す。北森は裕三子を家に招き入れ、ギターを弾いて歌を聴かせた。裕三子は北森に、自分がスターになって大きな家をプレゼントすると告げた。
翌日、北森は間宮から、芸能界が矢島に牛耳られていると聞かされる。しかし北森は「今年の新人賞を見てろよ。必ず矢島に勝つ。あいつ圧力掛けられないような強力なスーパーグループ作るんだよ」と宣言した。間宮は玲子と会い、北森の宣言を伝えた。玲子は3年半前に、北森と離婚していた。次の日、北森は間宮と裕三子を連れて原宿へ行き、ホコ天で踊っている小早川範子に声を掛けた。彼は範子に名刺を渡し、気が向いたら電話してくれと告げた。
北森はタレントスカウトキャラバンを見学し、三枝幸恵という少女に注目した。幸恵は一緒に審査を受けた女性が目立って笑いを取る様子に落ち込み、泣いてステージから走り去る。北森は後を追い、彼女に声を掛けた。北森が玲子のアパートへ行くと彼女は外出中で、杏子の妹の沙織が留守番をしていた。沙織はサンライズ・プロに入るつもりで上京したが、北森が辞めたせいで困っていた。彼女が高校を辞めたこと、北海道の歌のコンクールで優勝していることを聞いた北森は、すぐにスカウトした。彼は杏子と会い、承諾を貰った。
北森は「新生レイカース」として範子、幸恵、沙織、裕三子を集め、昔からの知り合いである津川奈緒子に肉体改造のトレーナーを頼んだ。彼は古い洋館に4人を案内し、そこで暮らすよう告げた。サンライズ・プロの20周年記念パーティーに顔を出した北森は、招待客の矢島が記者たちと話している様子を目にした。新生レイカースをデビューさせる北森の計画について記者たちが触れると、矢島は余裕の態度を見せた。北森は早苗から「全て私が悪いんです」と言われ、「君はただの操り人形だ。操ってるのはあいつだ」と告げた。矢島のスピーチを聞いた彼は腹を立て、会場を後にした。
新生レイカースはダンスの練習を積み、北森が手配したスタジオでレコーディングする。北森は4人のために作った曲に自信を持っていたが、矢島オフィスから圧力を掛けられているレコーディング責任者の立花は浮かない顔だった。それでも北森は4人に、「年末の新人賞、この曲だってよ」と明るく告げた。江崎は立花と会い、2千枚だけプレスして宣伝活動はしないよう要求した。北森は玲子と会い、矢島の圧力で思うように新生レイカースを売り出せていないことを語った。
北森は4人を売り出すため、オリンピアレコードのオーディションに参加させた。新生レイカースは踊りながら歌を披露し、合格の自信を持った。しかし北森の元には、不合格の通知が届いた。一方、矢島は早苗の時代が終わったと考え、森あかねという新人に5億円を投じて大々的に売り出した。北森は古巣のポップスターレコードを訪れ、プロデューサーの山脇に新生レイカースを売り込んだ。彼は土下座して頼むが、山脇は「浪花節は嫌いでね」と断った。
範子が洋館にいると、妹が訪ねて来た。「来ちゃダメって言ったでしょ。しっかりママの看病してる?」と範子が言うと、妹は母が死んだことを伝える。矢島がレストランであかねと夕食を取っていると、範子が乗り込んで来た。彼女はテーブルクロスを引き抜いて食器を壊し、あかねを怒鳴り付ける。矢島が批判すると、範子は「貴方の愛人、小早川良子は私の母親です」と告げる。矢島がシラを切ると、彼女は泣きながら「お父さん」と漏らした。
範子は割れた皿の破片を握り、左腕を切って血を流した。彼女は「この血の半分は貴方の血です。ここでお返しします」と言い、矢島の顔に血を擦り付けた。矢島が「北森の所で上手くいかないから、私の所に入りたくて、こんなことをするのか」と訊くと、彼女は「私は夢にまで見たお父さんに認めてほしくて歌って来た」と言う。範子は「でも、これからは呪い、軽蔑し、復讐するために歌うわ」と告げ、店から走り去った。
杏子はレース前の最後のテスト走行を行うが、事故を起こして死亡した。北森はガレージに閉じ篭もっている玲子を発見し、声を掛ける。玲子は何の反応も見せず、北森はガレージ越しに「12月27日、新人賞の発表がある。その日は俺自身の決着を付ける日だ。必ず勝つ。元気出せ。俺の夢に賭けてみろよ。俺ともう一回、やり直すんだ」と語った。北森はオーディションの審査員に片っ端から接触してレイカースを売り込むが、まるで相手にされなかった。
北森は審査員を買収するため、大金を用意した。間宮が「買収に成功してレコードを出しても、ヒットするとは限らない」と言っても、彼は耳を貸さない。間宮は玲子にプロポーズしたことを明かし、「彼女は仕事でオーストラリアへ行く。俺は何もかも捨てて付いて行く」と言う。北森は全く反応せず、間宮は憤慨して去った。北森は審査員に大金を配り、新生レイカースをスター84オーディションに参加させる。自信満々だった北森だが、矢島が裏で手を回したためレイカースは不合格となった。北森は激昂して矢島に殴り掛かるが、彼の部下たちに激しい暴行を受けた。矢島は北森をトイレに連れ込み、「この世界は食うか食われるかだ。勝った奴が真実なんだ」と言い放って何度も蹴り付けた…。

監督は新城卓、脚本は中岡京平&川村俊明、製作総指揮は山本又一朗、企画は小倉斉&後藤又雄、製作は室岡信明、製作担当は森重晃、振付は一の宮はじめ、撮影は栃沢正夫、照明は岩木保夫、録音は吉田庄太郎、美術は斎藤嘉男、編集は岡安肇、音楽は馬飼野康二。
出演は世良公則、志穂美悦子、池部良、浜田範子、鈴木幸恵、岩間さおり(現・岩間沙織)、板谷裕三子、宝田明、加藤嘉、中尾彬、北原遥子、優ひかり、有森也美(現・有森也実)、深水三章、小林稔侍、細川俊之、新井康弘、本田博太郎、石丸謙二郎、福家美峰、斉藤康彦、麻丘あゆ美、光石研、藤田まみ、陶隆司、吉本多江、生島ヒロシ、高橋佳子、志賀正浩、月田真美子、石川慎二、佐伯万里子、浦田行雄、ルアリアンズ、堀井正人、ブレイカーズ、立原義人、STRIX、峰祐介、大越多美子(ウイングス)、チャップ、福崎和宏ら。


アイドルグループのセイントフォーが主演を務めた映画。
『OKINAWA BOYS オキナワの少年』でデビューした新城卓が、翌年に手掛けた2作目の映画となる。
脚本は『プルメリアの伝説』『夜明けのランナー』の中岡京平と、これが唯一の作品である川村俊明の共同。
北森を世良公則、玲子を志穂美悦子、間宮を平田満、伍代を池部良、範子を浜田範子、幸恵を鈴木幸恵、沙織を岩間さおり(現・岩間沙織)、裕三子を板谷裕三子、矢島を中尾彬、奈緒子を北原遥子、杏子を優ひかり、あかねを有森也実が演じている。

セイントフォーを巡っては、当時の所属事務所だった日芸プロジェクトが実質的な詐欺行為を繰り返していたことが、後になって明らかにされている。
セイントフォーは1982年の『あなたもスターに!』というオーディションで約3万人から選ばれているが、これが無差別にダイレクトメールを送り付ける形でのオーディションで、応募者から数十万円の登録料を取っていた。
そして本作品でもセイントフォーの妹分を募集するDM形式のオーディションを実施して高額の登録料を取り、合格者からはレッスン料を徴収していた。
セイントフォーのメンバーは給料も充分に貰えず、かなり苦しい思いをしていたらしい。

冒頭、パトカーが停まり、何か問題を起こしたらしい車の運転手が婦警から質問を受けている。そっちを見ていた裕三子は向き直り、北森に「君、名前は?」と尋ねる。仕事を問われた北森が「子守りをやってます」と答えると、裕三子はキャハハと笑う。
泥棒を追い掛ける若者たちが走り過ぎると、北森は追跡に加わる。街ではバレードが開催されており、北森は泥棒を見失う。すると自分が泥棒扱いされ、慌てて否定する。
ここでタイトルロールに入り、セピア色の画面で北森がレイカースとして活動していた頃の映像が映し出される。
しかし当時の演奏の音は流れず、別のBGMが流れる。
この導入部で、既に失敗している。

北森が裕三子をスカウトしたのなら、それを普通に見せるべきでしょ。まず、「彼女のどこにタレントとしての素質を感じたのか」ってのが、その見せ方では全く分からないぞ。
あと、冒頭のパトカーは何の意味があったのか。そして泥棒を追い掛けた北森が泥棒に間違えられるというエピソードには、何の意味があるのか。まるで要らないでしょ、そういうの。
あと、アヴァン・タイトルで4人の内の裕三子だけ登場させるのもバランスが悪いよ。全員を登場させるか、北森だけで終わらせるかの二択でしょ。
そこで北森のバンドマン時代を描くのなら、それはそれで有りだし。

スキャンダルで北森が完全に消えるのは分かるけど、それで早苗が同情票を集めてスターになるってのも無理があるだろ。
「ホテルに監禁された」というゴシップだと、言い方は悪いけどデビュー前の時点で既に「傷物」になっちゃったようなイメージが付いてしまうわけで。
「被害者なのに、そんな言い方は酷いだろ」と思うかもしれないけど、それが芸能界の現実だからね。
どうやら早苗は清純派として売り出されているみたいだけど、それは無理だと思うぞ。

北森がスキャンダルで人気を失った後、それでもマネージャーとして芸能界にしがみ付いている理由がサッパリ分からない。
彼はバンドのボーカルとしてデビューし、ロックシンガーとして活動していたんでしょ。だったら人気が失墜した後は、ロッカーとしての再起を目指すってのが流れじゃないのか。だからマネージャーとして事務所に残るよりも、まだバンドを結成し、ドサ回りから地道に活動を再開した方がいいんじゃないのか。
あと、北森は一気に人気が失墜してマネージャーに転身したはずなのに、住んでいる家は無駄にオシャレで、それなりに大きい一軒家なのよね。もうちょっと生活水準を下げてくれないと、「すっかり落ちぶれた」という印象を受けないぞ。
買収のための大金も、どうやって調達したのかサッパリ分からないし。

裕三子は北森にスカウトされて「君、名前は?」という言葉遣いで質問し、やたらと笑って楽しそうにしている。
そんなに北森との関係性が描かれていない状態なのに彼を追って事務所を辞め、家の前で音楽を流して踊りまくる。家に招かれると、自分が大金を稼いであげると宣言し、好き好きビームを出しまくる。
かなりヤバい奴だと感じるが、もっと凄いのが範子。
北森に名前を訊かれると「ノーバディー」と答え、年齢を問われて「16ビット」と言う。「どこ住んでんのかな」という質問には、上空を指差して「宇宙」と答える。
笑顔で言うわけでもなく、踊りながら淡々と答えるのだが、それが余計に「ヤバい奴」と感じさせる。

裕三子が北森を追い掛けて事務所を辞めるのは、「そんなに慕っていたのかよ」と違和感はあるが、でも「彼にスカウトされた」ということは分かっているので、まだ流れとしては受け入れられなくもない。
しかし範子の場合、スカウトされても全く興味が無さそうな様子を見せていたので、4人が集まる時に普通に並んでいるのが「なんでだよ」と言いたくなる。
そもそも、事務所を飛び出した北森がホコ天を眺めるシーンはあったけど、その時には「範子に目を奪われる」という描写は無かったわけで。なので、なぜ彼女をスカウトしようと決意したのか、それも良く分からないのよね。
残り2人にしても、北森がスカウトする判断基準が適当だわ。
それなら、いっそのこと「他の事務所をクビになったり辞めたりした半端者を集めてグループを作る」みたいな形の方がマシだわ。

っていうかさ、北森はホコ天へ向かう時に「4人組を作るんだ」と言っているけど、なぜ「4人組」に限定しているのか。
3人や5人じゃダメな理由がサッパリ分からない。
しかも、それは「新しいアイドルグループ」として考えているのかと思ったら、「新生レイカース」としてのグループなのよね。
だけど北森が所属していたレイカースはロックバンドなのに、なんで女性4人組のアイドルグループを「新生レイカース」にするのか、ワケが分からんよ。

セイントフォーを売り出す目的で製作された映画のはずだが、実際は完全に「世良公則の主演作」と化している。
トップ・ビリングは世良になっているが、それでも「実質的にはセイントフォーの主演映画」じゃなきゃダメなはずなのよ。
でも、「新生レイカースを売り込むために必死になって強大な組織に立ち向かう、北森の苦悩と苦労の物語」がメインなのよ。
たまにセイントフォーをフィーチャーする箇所もあるが、中身は薄っぺらい。4人の魅力を引き出そうとする意識は乏しい。

例えば、幸恵が練習で怯えて後方宙返りが出来ず、洋館で深夜に特訓するシーンがある。
ここで彼女は成功し、スロー映像の中で絶叫しているが、「なんだこりゃ?」と感じるようなヘンテコなシーンになっている。
ここを「幸恵の成長を描くドラマ」としては描けていない。まるで話の流れに乗っておらず、いびつなエピソードになっている。
そこに限らず、新生レイカースの努力や挫折、友情や反目、変化や成長のドラマは、ほとんど描かれていない。

ホコ天で楽しく踊っていた範子だが、妹が訪ねて来るシーンで、重病の母親がいることが判明する。
で、彼女は「ママの看病してた?」と妹に言うのだが、テメエはホコ天で楽しく踊っていたのに、母親の世話を妹に押し付けていたのかよ。酷い奴だな。
そもそも、そのシーンまで「母親が病気」という情報が出ていないのは、明らかにシナリオとして手落ちだろ。
あと、妹が洋館まで来て母親の死を伝えているが、なぜ電話で伝えようとしなかったのか。いきなり会いに来て「母親が死んだ」と伝えるって、姉も変だが妹も変だぞ。

範子が矢島の元へ乗り込み、ここで「範子は矢島と愛人の間に生まれた子供だった」という事実が明かされる。
でも、ここも「母が病気」ってのと同じで、そこまでは何の情報も無かったんだよね。
矢島の娘だと分かっていたのなら、少しぐらい「範子が矢島を気にする」といった描写を入れておけよ。
あとさ、矢島に認めてほしくて歌うのなら、なぜ彼の事務所に入ろうとはしなかったのか。能天気にホコ天で踊って、北森にスカウトされるまでは全く芸能界なんかに興味が無さそうだったじゃねえか。

レストランへ乗り込んだ範子の行動は、粗筋でも書いている通りで、かなりイカれている。
ホコ天で北森にスカウトされる時のシーンも「ヤバい奴」という印象だったが、それとは全く別の意味で「ヤバい奴」になっている。
っていうか、もはや登場シーンとは別人みたいになっちゃってるじゃねえか。
そんで彼女は「これからは呪い、軽蔑し、復讐するために歌うわ」と言うけど、そんな思いで可愛いアイドルソングとか歌ってもらいたくないわ。怖いよ、そんなアイドル。

杏子が事故死した後、北森は玲子に「12月27日、新人賞の発表がある。その日は俺自身の決着を付ける日だ。必ず勝つ。元気出せ。俺の夢に賭けてみろよ。俺ともう一回、やり直すんだ」と語り掛ける。
でも、もっと他に掛けるべき言葉があるだろ。
杏子の死で憔悴している玲子に対して、なんで自分のことばかり喋っているのかと。
「俺の夢に賭けてみろよ。俺ともう一回、やり直すんだ」って、人が弱っているトコに付け込んでヨリを戻そうと目論むなんて、なんちゅう卑劣な奴なのかと。まるで玲子に寄り添う気が無いのよね。

しかも、肝心な沙織の反応に関しては、「杏子が事故死した場所に花束を持って赴く」というシーンだけで片付けてしまうのよね。
それが終わると、彼女は普通にダンスレッスンに参加している。姉が事故死したのに、そのショックを引きずる様子が全く見えないのだ。
沙織に何の影響も与えないのなら、杏子が事故死するエピソードが無意味になっちゃうだろうに。
沙織のパートをドラマティックにするためのエピソードのはずなのに、なんで「玲子がショックを受ける」というトコでほぼ終わりにしてんのかと。

範子は矢島に「呪い、軽蔑し、復讐するために歌うわ」と宣戦布告したのに、北森が暴行を受けて姿を消すと、そんな矢島の事務所からのデビューを目指す。
彼女は矢島に「私は有名になりたい。それだけです」と言うけど、目的が変わってるじゃねえか。彼女は「森あかねに負けたくないんです」とも言うけど、そこでライバル心を燃やす理由も良く分からないし。
そもそも森あかねに勝ちたいと思っているなら、彼女の所属事務所とは別の会社を当たった方がいいんじゃないのか。
矢島は森あかねのライバルにすることを嫌って2人組でのデビューを要求したのに範子は受け入れているし、もうメチャクチャじゃねえか。

終盤、範子は幸恵と組んだファニーズで新人賞にノミネートされ、日本音楽大賞のテレビ生中継に出席する。しかしステージに立った2人は歌おうとせず、範子は「本当はレイカースという4人組だった。北森が育ててくれた」ってことを説明する。
彼女は客席に来ていた沙織、ソロでノミネートされていた裕三子を呼び寄せ、賞は要らないので4人で歌わせてほしいと頼む。当然の流れとしてステージから退出させられるが、観客が一斉に「レイカース」コールを始めるとディレクターは歌わせることを決める。
レイカースがセリから登場すると、なぜか衣装に着替えている。突然の変更なのに、なぜかバンドはレイカースの曲を生演奏できる。舞台にはレイカースのプレートまで用意されている。
なんて準備がいいんだろうか。
っていうか大事な日本音楽大賞を台無しにして自分たちのエゴを通すって、レイカースの行動は最低じゃねえか。
そんなやり方だと、高揚感は湧かないなあ。

(観賞日:2021年3月31日)

 

*ポンコツ映画愛護協会