『That's カンニング! 史上最大の作戦?』:1996、日本

日本理科大学の教室で、有機化学の中間試験が実施された。教科担任である右田の号令で、生徒たちは試験に取り掛かる。木村見次は 真面目に試験を受けるが、森下由美、亀井鶴之助、力丸一道、中松匠、江崎忍、利根川翔といった面々は試験監督である小峰助手の目を 盗み、用意しておいた仕掛けを使ってカンニングをする。木村は由美がカンニングしていることに気付き、激しく動揺した。
別の部屋から監視していた右田は、亀井のカンニングに気付いて彼を捕まえた。カンニングを許し難い犯罪行為だと考える右田は、亀井を 無期停学処分にした。由美は実験で爆発を起こすが、それは良くあることだった。木村は教室を出て来た彼女に声を掛けた。「進路は 決まっているの?」と問われ、木村は「大学院で鯰田研究室に入ろうと思ってる」と答える。鯰田教授は宇宙学の研究者だ。
木村は亀井を不憫に思い、一緒に右田の元へ言って処分の軽減を頼む。しかし右田は冷徹な態度で拒否した。右田はシグマハウスの寮生で ある2人に、「あそこには問題児が多いな」と告げて立ち去らせる。右田は秘書の水谷礼子と教授室で関係を持った後、理事長室へ赴いた 。彼は理事長に、ホテルの建設計画を語る。右田と理事長は、シグマハウスを潰してホテルを建設しようと目論んでいた。
木村は宇宙学研究室へ行き、鯰田に「亀井はどうなるんですかね」と問い掛けた。しかし鯰田は的中助手と共に宇宙理論に夢中で、木村の 話を全く聞いていなかった。小峰は右田の元へ行き、彼の論文に鯰田の分子形成論と酷似した部分が多いことを指摘した。すると右田は 「きっとなまずだがアイデアを盗んだんだ」と怒鳴る。しかし実際は、右田が盗作していたのだった。「マダム・バブーシュカの占いの 部屋」をやっている亀井は、寮生に「お告げがあった。この寮が存亡の危機に見舞われる」と言うが、誰も相手にしなかった。
右田は教授会に出席し、「シグマハウスの利用者は少なく建物は老朽化しており、寮生の成績は最低です。効率の良い土地利用をすべき です」と語って寮の廃止を訴えた。理事長が「前期試験の成績が良ければ存続、ダメなら廃止を前向きに検討してはどうか」と意見を述べ 、教授会の賛同を得た。その夜、木村が部屋にいると、由美が窓から入って来た。木村が驚いていると、「マンションを追い出された。 今夜だけ泊めてくれない?」と彼女は言う。
木村が困惑していると、寮長の珍さんが現れて「俺が許可する」と告げる。彼は由美に食事を用意し、「部屋は幾らでも空いているん だから、いつまでもいてくれていいのよ」と部屋を与えた。翌朝、寮生たちは由美がいるのを知って色めきたった。そこへ鯰田が来て、 シグマハウスが廃止されるかもしれないことを告げる。コンピュータオタクの中松は、パソコンを使って成績を書き換えようとするが、 右田によってブロックされてしまった。
由美は偵察のため、右田の研究室へ赴いた。彼女が「成績悪いし、大学院に進むのは難しいかな」と媚びるように言うと、右田は「僕の 研究室に来れば」と提案した。彼は由美に、書類をシュレッダーする仕事を任した。由美が渡されたのは、鯰田の論文を盗作した証拠文書 だった。帝都建設の加藤部長が研究室に来たので、由美は話を盗み聞きする。そして彼女は、ホテルの建設計画と、シグマハウスだけで なく鯰田研究室も壊す目論みを知った。
由美から報告を受けた木村は、そのことを鯰田に話す。しかし彼は右田が自分の論文を盗作していることを知らされても、まるで気にする 様子を示さない。木村は「亀井が重い処分を受けたのも寮生だからです」と言うと、鯰田は「カンニングは美学だ」と口にした。そして彼は は、自分が大学生の頃、巨大な太陽フレアの出現した年に、特殊な紫外線と反応する薬品を用意してカンニングしようとしたことを語る。 しかし当日が雨だったので、計画は失敗に終わったのだという。
木村は右田に、そろそろ亀井を復学させてほしいと頼んだ。すると右田は、「寮生の全員が試験でオールAを取れたら復学させるが、ダメ なら寮は廃止だ」と告げた。木村は強い口調で「分かりました、全科目でAを取って見せますと」と言い切った。彼はシグマハウスに戻り 、寮生と由美に「カンニングで行こう」と告げる。寮生たちは、それぞれがカンニングの手口を考え、その準備を進めた。
前期試験が始まり、木村たちは珍さんや的中の手も借りて、順調にカンニング作戦を展開していく。右田は寮生が全ての科目でAを取って いると聞き、カンニングだと確信した。彼はパチンコ店にいた亀井を捕まえ、復学と引き換えに協力を持ち掛ける。さらに彼は、由美が スパイだと見抜き、わざと有機化学の試験内容を「シュレッダーしてくれ」と渡した。木村たちは用紙を回収し、正解を記憶する。しかし 有機化学の試験当日、右田は由美に渡したのとは全く異なる問題を出した…。

監督は菅原浩志、原作は谷俊彦、脚本は斉藤ひろし、製作総指揮は松下千秋&佐藤信彦、企画は重村一&久板順一朗、プロジェクト プロデューサーは宅間秋史&小林壽夫&小牧次郎&宮澤徹、撮影は栢野直樹、美術は沖山真保、録音は桜井敬悟、整音は小野寺修、 照明は長田達也、編集は冨田功、ラインプロデューサーは渡井敏久、助監督は前田哲、音楽は佐橋俊彦。
出演は山口達也、安室奈美恵、升毅、松尾貴史、麿赤児、荒木定虎、山本太郎、宝井誠明、藤木直人、葉山力樹、由利徹、中村嘉葎雄、 徳井優、白島靖代、片岡五郎、西沢利明、市川勇、鈴木晋介、近藤芳正、菅原大吉、桝井省志、神子修一、長谷川安弘、岩井弘、小関広介 、小柳友貴美、竹内哲、津久井啓太、吉村美紀、岡本博幸、大森立嗣、SANDY LAIRD、水上彩、柴初美、伊藤幸子、青柳省吾、伊東由香、 安保良雄、川端裕美、萩原政樹、佐藤典子、蒲生純一、坂本文美、加藤昌彦、吾妻三江、横山敬、冨山絵里香ら。


谷俊彦の短編小説『東京都大学の人びと』(ひがしきょうとだいがくのひとびと)を基にした作品。
全く内容が違うとは言え、タイトルからしても、「学生がカンニングでテストに合格しようとする」という大枠からしても、1980年の映画 『ザ・カンニング[IQ=0]』から着想を得ているんだろうと思ったが、違っていたのね。
監督は『ぼくらの七日間戦争』の菅原浩志。脚本は『遊びの時間は終らない』『とられてたまるか!?』の斉藤ひろし。
木村をTOKIOの山口達也、由美を安室奈美恵、右田を升毅、的中を松尾貴史、鯰田を麿赤児、亀井を荒木定虎、力丸を山本太郎、中松を 宝井誠明、江崎を藤木直人、利根川を葉山力樹、珍さんを由利徹、学長を中村嘉葎雄、小峰を徳井優、礼子を白島靖代、加藤を片岡五郎、 理事長を西沢利明が演じている。
ちなみに若き日の鯰田を演じているのは、麿赤兒の息子で大森南朋の兄・大森立嗣だ。

この映画、フジテレビと東映が共同で制作した「ぼくたちの映画シリーズ」の1本である。
「ぼくたちの映画シリーズ」はフジテレビ系のドラマ「ボクたちのドラマシリーズ」の発展形で、「人気アイドルを主演に起用した ティーンズ向け作品」というコンセプトが踏襲されている。
1995年に『花より男子』と『白鳥麗子でございます!』が公開され、翌年には本作品と『友子の場合』が公開された。

コンセプトから分かるだろうが、ようするにアイドル映画だ。だから、何よりも アイドルを魅力的にアピールすることが重視されている。
この映画の場合、ビリングトップは山口達也だが、実質的には安室奈美恵を見せるアイドル映画と言ってもいいだろう。
だから入浴シーンというサービスカットもある。ただし、お色気的なサービスは、その程度。
一応、試験中に色仕掛けで教授の目を釘づけにしておくシーンもあったりするけど、映像的には足を出しているだけ。
まあ歌手であってセクシー系のアイドルではないしね。

ただ、お色気云々という部分は別にしても、安室奈美恵が魅力的に感じられる形になっているのかというと、そこの意識は今一つ不足して いるように思える。
そもそも、この内容だと、由美の存在意義が薄いんだよな。
男子寮の連中の問題だから、こいつはカンニングに参加する必要も無いし。
「男だけだと色気が無いから、とりあえず女を入れておかなきゃマズいだろ」という程度の扱いに思える。
だからって、山口達也の魅力が存分に発揮されているとも言い難いし。

前述のように「アイドルを魅力的に見せる」ってことがアイドル映画で最も重要視すべき事柄だが、だからってシナリオがあまりにも グダグダではマズい。
この作品、冒頭から大勢がカンニングをしているが、その時点でダメでしょ。
別に「カンニングを助長するような内容はダメだ」とか、「学生は品行方正じゃなきゃいけない」とか、そんな頭の固いことは 言わないよ。でもさ、いきなりカンニングから始まると、後から「寮を廃止に」という教授会の方針が決まっても、そいつらに同情したい 気持ちにはなれないのよ。
「寮生は風変わりな奴ばかりで右田に睨まれてるけど、そんなに悪いことしてるわけじゃない」というキャラにしておけば、右田の計略 で寮の廃止計画が進められた時に、彼らに同情し、カンニングで試験を突破しようとする行動にも気持ちが素直に乗って行けたかもしれん 。
でも、右田がシグマハウスを攻撃目標にする前から寮生がカンニングをやらかしているので、「そりゃ右田に睨まれても仕方がないん じゃないの」と思ってしまう。

それと、いきなりカンニングのシーンから始めるんじゃなくて、まず先に主人公や周辺キャラクターの紹介を した方がいいんじゃないかとも思うのよ。
そりゃあ、カンニングのシーンを見せてからタイトルを入れたい気持ちも、分からないではないけどさ。
ただ、最初にカンニングのシーンから始めてしまうと、真面目に試験を受けている木村よりも、 そいつらの方が先に目立ってしまうでしょ。

そこでカンニングが見つかった亀井は無期停学処分にされて困っているけど、それは自業自得としか感じない。
そりゃあカンニングにしては重い処分ではあるのだが、しかし亀井には同情の余地が全く無い。
先に右田が陰険で卑劣な先生であることを見せて、一方で亀井が優しい奴であるとか、気弱だったりという部分を見せておけば、かなり 印象が変わったかもしれない。
亀井に同情できないってのも、いきなりカンニングシーンから始めたことの弊害である。

右田が木村と亀井に「あそこ(シグマハウス)には問題児が多いな」と言う時点で、まだシグマハウスがちゃんとした形で登場していない ってのも、構成として上手くない。
一応、タイトルロールで寮に木村がいる様子は写っているのだが、彼が部屋を飛び出してが来るだけで終わっている。
そうじゃなくて、まずはシグマハウスで寮生たちが生活している様子を見せておくべき。で、シグマハウスは風変わりな奴ばかりだけど、 木村だけは真面目というのを示すべき。
しばらく進んでから寮生が部屋にいる様子が写るが、手順が遅い。

無駄なシーンが多い。
例えば右田は木村たちの嘆願を受けている時に荷物が届き、彼らを追い払うのだが、荷物の内容が何なのか良く分からない。
その荷物を持って理事長室に行くのだが、中身を見せるわけではない。
ひょっとすると中身は、理事長室にあったホテル計画のミニチュアだったりするのか。
だとしたら、荷物が届けられる手順は不要だ。最初から理事長室に用意しておけばいい。

亀井が「お告げがあった」と言う展開も、まるで意味が無い。そのお告げが的中したからって、だから何なのかと。
お告げがあろうが無かろうが、物語の展開には何の影響も無い。「マダムのお告げは当たる」ってのが伏線になっていて、後の展開に 繋がるならともか、そうじゃないんだし。
そもそも、亀井が占いの部屋をやっているという設定自体、まるで有効活用されていないんだよな。
右田が亀井を脅して取引を持ち掛けるシーンの意味も無い。礼子が中松を誘惑するのも全く後に繋がらない。
あと、礼子が小峰の説得で寝返るのも、「貴方は右先生に利用されてます」という言葉だけなんだよな。そこは何かしらの仕掛けが欲しい。

木村の部屋に由美が窓から入って来る展開があるが、それはタイミングが遅すぎる。
序盤、由美が木村に、寮のことで「お風呂は部屋にあるの?」などと質問しているが、それって寮に押し掛けて住まわせてもらう気が あったからでしょ。
だったら、その後に挟むシーンは1つぐらいで、質問をした夜にはシグマハウスへやって来るべきだ。
あるいは逆でもいい。
つまり、由美が寮のことを尋ねるシーンのタイミングを、もう少し後にズラすってことだ。

由美が来た翌朝、寮生たちは彼女が来ていると知って色めき立つが、そこで初めて「みんなが彼女に夢中」ってのを示すのもタイミングが 遅い。
それまでに、彼女が寮生からモテモテの存在であることを示しておくべきだ。
あと、由美がシグマハウスへ来るシーンと、教授会で寮の廃止が議題になるシーンは、逆にすべきだろう。
先に由美が来るシーンがあって、翌日に教授会があり、次のシーンでは寮生がシグマハウスの廃止計画を知るという構成にすべきだ。

木村がカンニングで行こうと決めるのが、あまりにも安易だと感じる。
そりゃあ寮生たちは普通に勉強しても無理そうだったし、そもそも勉強にまるで身が入っていなかった。
でも、そこで「最初から諦めていて、全くやる気を見せない」というのでは、それでダメになっても自業自得でしかない。
カンニングで行く行動を観客に賛同させるためには、「敵が卑劣だから、それぐらいのことは許される」という形にしておくべきでは ないかと。
つまり、右田がシグマハウスを陥れるために、真面目に勉強して成績を上げようとしている寮生を姑息な手段で妨害するとか、そういう 手順があった方がいいんじゃないかと。

とにかく、右田の悪玉としてのアピールが不足しているのよ。
彼って、態度や口調は悪いけど、「カンニングは立派な犯罪である」「授業で質問に答えられない奴は勉強が足りない」というのは、 そんなに間違っていることでもない。
論文を盗作するとか、そういうのは卑怯なことだけど、それは寮生に対する直接的な攻撃ではない。
そこの部分で、もっと卑劣な手で追い込んでほしいのよね。

あと、木村は勉強が出来る生徒なんだから、他の寮生と一緒にカンニングをやっているのは不可解だぞ。
彼を真面目で優秀な生徒に設定しているのなら、「右田は寮生だけに、他の生徒たちとは違う特別なテストを要求する。それは木村でも 解けないぐらい難しい問題」とか、そういう設定にでもしないと整合性が取れない。
あと、最終的に寮生と由美はカンニングがバレて単位を剥奪されているけど、有機化学の試験って他の連中もカンニングしてるんだよね。
それなのに木村たちだけカンニング認定されてるのは、ちょっと引っ掛かるぞ。

(観賞日:2012年3月18日)

 

*ポンコツ映画愛護協会