『湘南爆走族』:1987、日本

神奈川県茅ケ崎にある波打際高校には、雑誌にも取り上げられるほど人気の暴走族“湘南爆走族”の面々が通っている。リーダーの江口洋助は手芸部部長でもあり、副部長の津山よし子と互いに惹かれ合っている。親衛隊長の石川晃は、三好民子と付き合っている。原沢良美、丸川角児、桜井信二を含めた総勢5人が湘爆のメンバーだ。
ツーリングに出掛けた湘爆の5人は、暴走族“地獄の軍団”を率いる権田二毛作から、横浜の暴走族“横浜御伽”が湘南進出を狙っていると聞かされる。だが、そんなことよりも、湘爆の面々は富士山ツーリングの資金を稼ぐバイトに気持ちが行っている。
城崎挺士が率いる横浜御伽は、ついに湘南へと姿を現した。地獄の軍団を叩きのめした城崎は、次のターゲットを湘爆に定めた。だが、城崎の妹・奈美は、密かに江口への好意を抱いていた。湘爆の面々が浜辺で遊ぶ姿を、奈美は遠くから見つめた。
民子の前に、中学時代の先輩である神林が現れた。横浜御伽のメンバーである彼は、民子を口説こうとする。神林は、晃と民子のデート中にも姿を現した。晃は神林を叩きのめすが、まるでヤクザみたいだと民子に非難されてしまう。
江口はよし子と共に、横浜に絹糸を買いに出掛けた。その帰り、横浜御伽の前原達が絡んで来た。大事な絹糸を台無しにされた江口は、挑発してきた前原を一発でKOする。怒った城崎は、湘爆を呼び出せと神林に命じた。「明日の5時、横浜御伽の倉庫に来い」と挑戦状を叩き付けられた晃は、たった1人で倉庫に乗り込んで行く…。

監督は山田大樹、原作は吉田聡、脚本は山田大樹&和泉聖治、企画は翁長孝雄&坂上順&佐藤和之、撮影は佐々木原保志、編集は田中修、録音は林鑛一、照明は渡辺三雄、美術は大嶋修一、音楽は若草恵、音楽プロデューサーは嵐ヨシユキ&高桑忠男&石川光、主題歌は桃太郎。
出演は江口洋介、織田裕二、清水美砂、杉浦幸、我王銀次、村沢寿彦、佐藤健、翔、竹内力、森一馬、須藤正裕、加藤麻里、杉本彩、国広富之、松崎しげる、阿藤海、新井康弘、梅津栄、榎木兵衛、小鹿番、佐久間哲、
渡辺航、背負込障子、十八娘正美、小沢一義、岩澤雄一、宮田州、鈴木祐二、伊藤量、金井貢、藤嶋千広、香川大輔、田辺達也、渥美博、吉野大比古、
湊広子、嶺川貴子、田辺英之、中上知嘉、玉井千鶴、桑名優香、山形雄子、天木英津子、片平里子、船田めぐみ、佐藤やよい、吉江るり子ら。


『少年KING』に連載されていた吉田聡の人気漫画を映画化した作品。山田大樹は、これが初監督。江口を江口洋介、晃を織田裕二、よし子を清水美砂、民子を杉浦幸、原沢を我王銀次、丸川を村沢寿彦、桜井を佐藤健、権田を翔、城崎を竹内力が演じている。

江口洋介は役名と一字違いの同姓同名だが、この映画をきっかけに芸名を付けたわけではない(この映画の前に、既に彼はデヴューしていた)。ようするに、高樹沙耶とか長谷川愛みたいなパターンではないということだ(分かりますかね、この意味)。
最初に湘爆のメンバーではなく権田を登場させてしまう辺りからして、もう失敗は始まっていると感じる。で、湘爆のメンバーを1人ずつ紹介していくのかと思わせておいて、「晃、他のメンバー、また晃」と、晃に2シーンを使ってしまうというバランスの悪さ。

最初の登場シークエンスで、彼らの性格を示すほどの描写は無いし、名前さえ良く分からないという始末。原作を読んでいなければ、そいつらが湘爆のメンバーだということさえ分かりにくい。そもそも、最初に女子高生が「湘爆が雑誌で取り上げらている」というシーンを用意するのなら、もっとハッキリと見せた方がいいのに、なんか弱いし。
で、5人が登場して、江口が手芸部を抜け出してツーリングに出掛けるまでがアヴァン・タイトル。だったら、せめて5人が湘爆だということと、それぞれの名前ぐらいは明確に示そうよ。安易な方法だけど、思いきりテロップに頼ってもいいし。

タイトルの後も、権田がマヌケなプロモーション・ビデオを撮影してケガをするシーンを持って来て、湘爆より彼のキャラクターを見せている。肝心の湘爆は、原沢のヌボーっとした天然キャラぐらいしか見えていない。しかも原沢のそれは、キャラクター設定としての個性が出ているというよりも、我王銀次という役者が持っている個性だ。
そんな感じで、いつまで経っても湘爆の個性が見えないまま、それどころか丸川と桜井に関しては名前さえ良く分からないまま、どんどん時間が過ぎていく。最後まで見ても、江口と晃以外の3人は単なる数合わせで、全く活躍の場は与えられていない。

で、ロクにキャラ描写もやらない一方で、唐突に先代湘爆の茂さん&マコの回想という、全くメインストーリーに無関係なシーンが挿入されたりする。そんな暇があったら、もっと江口&よし子の恋愛とか、奈美の恋とか、そういう所を肉付けしようよ。
奈美を江口に接触させるシーンを増やせばいいものを、終盤に抗争を止めさせようと会いに行く以外は、2度に渡って遠くから見つめるだけ。だから当然、よし子を含めた三角関係のドラマも生まれない。奈美の恋心は、ほとんど意味が無いものになっている。

晃と民子の恋愛に神林が絡むとか、晃が1人で横浜御伽の倉庫に乗り込むとか、彼の扱いが江口よりも大きくなっている。挿入歌を織田裕二に歌わせているぐらいだし、クレジットでも江口洋介と同列に表記している辺りから見ても、彼を売り出そうという意識が強く込められた作品なのかもしれないが、なんか違うだろ。
シリーズの一編じゃないんだから、まずは江口を大きく扱うべきでしょ。そんでヒットすれば、続編で他の所に手を付けていけばいい。だから、この作品では、江口&よし子&奈美の三角関係に横浜御伽との抗争を絡めて、そこをメインに描けば良かったのよ。

 

*ポンコツ映画愛護協会