『Sweet Rain 死神の精度』:2008、日本

ある教会の葬儀。そこへ一人の男・千葉が入って来て座ると、隣に座っていた少女が「おじさんは死神でしょ」と言う。少女に「おじさん がみっちゃんを殺したの」と問われ、千葉は「いや、死神は誰も殺さない。死ぬことが予定された人間に近付いて、話をするだけ。その 人間が死に値するかどうかそれを判定するのが仕事だ」と答える。少女が「みっちゃんはまだ10歳だったんだよ」と言うと、「命の重さは 関係ない」と千葉は告げる。
千葉は少女に、死神が受け持つのは不慮の死を迎える人間だけで、葬儀に来るのは相手が子供の時だけだと説明した。「みっちゃんにお花 をあけて」と少女が差し出された花を千葉が受け取ると、瞬時にして枯れてしまった。千葉は「私には無理だ」と言い、白い手袋を着用 した。千葉が「行こうか」と言うと、少女はうなずいて立ち上がる。死んだのは、その少女・ミチコだった。号泣する母を見たミチコが 「お母さん、大丈夫かな」と漏らすと、千葉は「どうしてあんなに泣くの?」と尋ねる。「きっと、もっと一緒にいたかったから」と言う ミチコだが、千葉は「そういうものかな」と全く理解できない様子を見せた。
千葉は相棒の黒い犬を連れて天国の電話ボックスを開け、地上に降りた。1985年、今回の判定対象は27歳のOL・藤木一恵だ。「実行」 するか「見送り」を選ぶかは、全て千葉次第だ。バーテン電器株式会社のお客様サービスセンターで苦情係をしている一恵は、地味で 冴えない女性だった。そんな彼女には、いつも指名で電話を掛けてくるクレーマーの男がいた。一恵は帰宅してシャワーを浴びながら、 左腕に残る2つのリストカット跡に目をやった。
次の夜、仕事を終えた一恵に、千葉は偶然を装って接触する。傘を振った時に相手の服を濡らしてしまったように装い、「クリーニング代 でも」と言うが、一恵は「結構です」と去ろうとする。思わず千葉が触れてしまうと、一恵は失神した。一恵がコインランドリーで意識を 取り戻すと、千葉は勝手に上着を乾燥させていた。千葉は彼女に夕食を御馳走した。一恵は、指名のクレーマーがエスカレートし、一日に 何度も掛けて来るようになったことを愚痴った。
一恵は千葉と別れる際、「今日は楽しかったです」と言う。しばらく歩いてから、彼女はコインを投げ、また千葉と会えるかどうか占おう とした。その時、2人組の若者が現れ、一恵に襲い掛かろうとした。そこへ千葉が現れ、2人組を失神させて一恵を助けた。彼は一恵の手 を取り、その場から走り去った。千葉が「死ぬことについて、どう思う?」と訊くと、彼女は「全くいいこと無いから、たまに本気で 死にたくなります」と答える。千葉は微笑し、「もう先のことは心配しなくていい」と告げた。
CDショップでミュージックを堪能していた千葉は、他の死神たちと遭遇した。「実行」したばかりの死神・青山は、その相手女性とキス している写真を自慢げに見せる。千葉は青山の行動が理解できず、「こんなことして楽しいのか」と尋ねた。すると青山は「幸せな気分の まま、終わらせてやりたいじゃねえか。特に若い女はな」と答え、「このミュージックで彼女を追悼したんだよ」とシングルCDを見せる 。CDの裏には、女性歌手が音楽プロデューサー・大町健太郎と一緒にいる写真が使われていた。
青山は千葉に、「ミュージックの良さはプロデューサーで決まるんだよ。その声を発掘したプロデューサーこそが偉大なんだよ」と説明し 大町に見出された歌手は全て成功していることを語る。一方、クレーマーは一恵の自宅にまで電話を掛けて来た。一恵は怖くなって、すぐ に電話を切る。しかし翌日、クレーマーは会社にも掛けて来る。「テープがラジカセから出て来ない。代わりに唄ってくれないか。それが ダメなら、そろそろ会ってくれ」と言われ、一恵は慌てて電話を切った。
また千葉は一恵と会い、話をする。一恵は子供が遊んでいるオモチャの車を見て、自動車事故を思い出す。「私の周りの人って、みんな私 を残して死んじゃうんです」と彼女は言い、両親も、引き取ってくれた親戚夫婦も、ようやく会えた恋人も死んだことを話す。「どうして 私だけ生き残っちゃったんだろう」と一恵は漏らした。翌日、彼女は上司にクレーマーへの対策を頼むが、「脅迫されてるわけじゃない から」と軽く受け流されてしまった。
一恵が仕事を終えて会社を出ると、クレーマーが尾行してきた。彼は「ちょっと一緒に来てもらえませんか」と言い、強引にカラオケ店へ 連れ込もうとする。一恵は慌てて逃げ出すが、袋小路に追い詰められた。そこへへ千葉が現れ、さらに赤塚という女が追い掛けて来る。 その女はレコード会社の社員だった。彼女は一恵に、クレーマーの無茶な行動を詫びた。クレーマーの正体は大町だった。彼は一恵に、 声に惹かれ、歌を聴きたいと思ったのだと説明した。千葉は「見送り」を決定した。
2007年、次の判定対象は40歳のヤクザ・藤田敏之だ。千葉は情報屋として、藤田の子分・阿久津と接触する。阿久津の案内で、千葉は藤田 が身を隠しているアパートへ赴いた。藤田は兄貴分を殺した対立組織のヤクザ・栗木に復讐するため、行方を追っていた。千葉の「死ぬ ことについてどう思う?」という質問に、藤田は「そんなに怖くねえよ。それに、ヤクザは頭じゃなくて反射神経で動く。筋を通さない なら死んだ方がマシだ」と答えた。
阿久津は電話を受け、「ちょっとタバコ買いに出て来ます」と嘘をついて部屋を出る。彼は組織の兄貴分と会い、「明後日までの辛抱だ」 と指示を受ける。千葉から栗木の居場所を聞いた藤田は、そのマンションへ出掛けようとする。阿久津は慌てて「あんな奴の情報を真に 受けちゃダメですよ」と制止する。その時、藤田に叔父貴から電話が入り、話し合いでケリを付けることになったことが告げられた。藤田 は激怒して電話を切り、命令に背いて復讐に行こうとする。
阿久津は藤田に頭を下げ、「まず俺が偵察してきます。もう少し、ここにいて下さい」と頼んだ。千葉は阿久津と共に、栗木が用心棒を 雇って隠れているマンションの偵察に向かう。車内から観察していると、一恵の歌がカーラジオから流れて来た。阿久津は狼狽した様子で ラジオを止める。阿久津は千葉に、藤田の身を心配し、栗木の元へ乗り込んでほしくないと考えていることを明かす。彼は「あそこに栗木 はいなかったことにしてくれ」と千葉に頼んだ。
阿久津は藤田の元へ戻り、栗木はいなかったと報告した。しかし阿久津を外出させた藤田の質問を受けた千葉は、栗木がいたことを認めた 。藤田は千葉に、阿久津の母親は有名な歌手だったが、とっくに引退して生死も分からないことを話す。さらに彼は、明日には組が栗木と 手打ちをすることになったので、そこに乗り込むつもりだと話す。阿久津は組の兄貴分から、「お前、ちゃんと藤田の監視をしてるか。 藤田は明日、始末する」という連絡を受けた。
阿久津は千葉を連れ出し、「今から栗木を殺りに行く。ウチの組が藤田さんを売ったんだ。手打ち式があるなんて嘘なんだ」と言って車を 走らせる。千葉が淡々とした口調で「藤田の前にお前が死ぬぞ」と告げると、彼は「これ以上、藤田さんを裏切れねえ」と言う。しかし車 を降りようとしたところで、栗木の手下たちに襲われた。千葉と阿久津はビルの地下室に連行され、椅子に縛り上げられた。
栗木が阿久津を暴行して「藤田の携帯を教えろ」と要求すると、千葉がすました顔で藤田の番号を教えた。栗木は藤田に電話を掛け、 阿久津を捕まえたことを話して、1人でビルへ来るよう要求した。ふと千葉が目をやると、栗木の傍らには青山の姿があった。千葉は 阿久津に、「心配するな、ここで死ぬのは藤田じゃない」と言う。ビルに駆け付けた藤田は、栗木と手下たちを射殺した。結局、千葉 は「実行」を選び、藤田は交通事故で死亡した。
2028年、今度の判定対象は、美容師をしている70歳の老女だ。老女は海沿いにポツンと建つ美容院を営んでいる。彼女は何年も故障して いたお手伝いロボットの竹子を、ロボット業者を呼んで修理してもらった。千葉は客として店を訪れた。老女に「何しに来たんだい。髪を 切りに来ただけじゃないでしょ?」と言われた千葉は、「ついでに海の景色を描こうと思って」と答えた。しかし雨が降っており、景色 など見えなかった。千葉が地上に下りた時は、いつも雨が降っているのだ。
老女は彼の髪を洗いながら、「アンタさ、死神だろ」と指摘する。うろたえる千葉に、彼女は「どういうわけか、私が愛した人はみんな 死んでいくの。だからアンタみたいな奴とは馴染みが深いんだ」と言う。老女は「息子だけは何とか生きてるみたい。でも一生会えない けどね。私は子育てを放棄しちゃったの。だから息子は私を恨んでる」と語る。老女は、息子の居場所も知らないのだという…。

監督は筧昌也、原作は伊坂幸太郎『死神の精度』(文藝春秋刊)、脚本は筧昌也&小林弘利、エグゼクティブプロデューサーは奥田誠治& 阿部秀司、プロデューサーは堀部徹&神蔵克&倉田貴也、アソシエイトプロデューサーは小出真佐樹、撮影は柴主高秀、照明は蒔苗友一郎 、録音は藤本賢一、美術は清水剛、編集は伊藤伸行、VFXプロデューサーは石井教雄、音楽はゲイリー芦屋。
主題歌『Sunny Day』歌:藤木一恵、作詞:小林夏海、作曲:田中隼人、編曲:Maestro-T。
出演は金城武、小西真奈美、光石研、石田卓也、富司純子、吹越満、村上淳、嶋田久作、奥田恵梨華、菅田俊、田中哲司、みれいゆ、 唯野未歩子、森下能幸、山本浩司、川岡大次郎、小野花梨、吉居亜希子、村岡希美、古屋暢一、廣川三憲、山中聡、黒田耕平、皆福百合子 、佐藤澪、山岸彩子、江藤大我、野貴葵、山中崇、小川竜平、荒井健太郎、宮川響、眞島秀和、藤川俊生、杉山彦々、社城貴司、野間口徹 、深水元基、古山憲太郎、林田麻里、松田章、浜幸一郎、法福法彦、高橋かすみ、榎本由希ら。


第57回日本推理作家協会賞短編部門を受賞した伊坂幸太郎の小説『死神の精度』を基にした作品。
原作は6編で構成された短編集で、映画は第1作『死神の精度』、第2作『死神と藤田』、第6作『死神対老女』を取り上げて構成されて いる。
千葉を金城武、一恵を小西真奈美、藤田を光石研、阿久津を石田卓也、老女を富司純子、大町を吹越満、青山を村上淳、竹子を奥田恵梨華 が演じている。
監督は『美女缶』『ハヴァ、ナイスデー』の筧昌也、脚本は筧監督と『雨鱒の川』『死に花』の小林弘利による共同。

冒頭、教会に入って来た千葉が座った途端に少女が「おじさんは死神でしょ」と言うが、この段階で演出センスに疑問を抱く。
そこは何か1つ別のカットでも入れて、もう少し間を取ってから言わせるべきでしょ。
焦りは禁物なのよ、そこは。
なぜなら、そこは最初に、観客に対して「教会に入って来たのは人間である」と思わせるための時間が必要だからだ。
まだ入って来た男の顔さえ見せていない内に「死神でしょ」では、「人間だと思わせておいて死神」というギャップが生じない。

あと、死んだ10歳の少女が、死神に対してそんなに冷静でいられるものだろうか。
死んだ少女と無関係の部外者ならともかく、その本人なのだ。
自分を死に追いやった相手に対して、泣いて抗議したりしないものだろうか。
やけに大人びた対応に、不自然さを感じてしまう。
っていうか、そこで「実は千葉と話していたのが、死んだ少女だった」というサプライズ感って、果たして必要かなあ。

もはや映画じゃなくて原作への意見になっちゃうんだろうけど、千葉の設定って変じゃないか。
死神は人間を死なせるかどうかを判定することが仕事なんでしょ。だったら、その人間を観察するというのが、行動として適切なはずだ。
だけど千葉はターゲットに対して、かなり積極的に関わっていくよね。ただ接触するだけじゃなくて、相手の感情を左右するような行動を 取ったり、そういうことも平気でやっているよね。
それは任務の内容からすると、アウトなんじゃないのか。
だってさ、もしかすると、千葉の行動や言葉によって、その人間が大きく変化することだってあるでしょ。
そうなると、その人間の運命を変えてしまうことにも繋がるわけで。

千葉は一恵に「ナンパのつもりですか」と責められ、「大丈夫、ここは船の上じゃない」と返す。
千葉は「人間の言葉が理解できない場合もある」という設定なんだけど、そこは違和感がある。
「新しい言葉に付いていて行くのは大変だ」と言ってるけど、「ナンパ」は分からないのに、「クレーマー」という言葉はスンナリと 受け入れているのは変だ。
それと、「私、醜いですから」を「見にくい」と誤解するのは、そもそも一恵が自分を「醜いですから」という言葉で表現していることが 不自然。
普通、そこは「ブスだから」とか「キレイじゃないから」という言葉をチョイスするだろう。

大町はクレーマーとして電話を掛けまくっていた理由について「どうしても、こっちの身分を明かさず彼女の声を聞きたかったんだ」と 説明するが、まるで理解できない主張だ。
身分を明かそうが明かすまいが、相手の声なんて変わらないでしょうに。身分を明かすことで、何のマイナスが生じるのかサッパリ 分からない。
っていうか、「声に惹かれ、歌手にしたいからストーキングした」という設定自体に無理がある。
声の質が良くても、「歌が上手い」「歌が魅力的」とイコールじゃないからね。声が良くても音痴だったりリズム感が悪かったりする人も いる。それに、電話で聴く声と、実際の声って別物だし。
だから、声が良かったというだけで、そこまで執拗に追い掛けるのは不自然。
気になったのなら、それこそ素性を明かし、一度、歌を聞かせてもらえないか」と申し入れるべきでしょ。

一恵が歌手としてスカウトされたというだけで、千葉が見送りを決定するのも、良く分からない。
だって、千葉って今までは全て実行してきたんでしょ。そして、人間の死が持つ意味なんて分からないという設定なんでしょ。
そんな奴が「彼女はまだ、目的を果たしていない」ということで見送りにするのは解せない。
大好きな「ミュージック」に関することだから、見送ったということなんだろうか。

劇中で明示されているわけではないが、『死神の精度』のエピソードは1985年、『死神と藤田』が2007年、『死神対老女』が2028年という 時代設定になっている。
だが、最初の『死神の精度』の時代考証が見事にデタラメな状態となっている。
死神はミュージックが大好きということで、千葉はCDショップに行くのだが、まだ1985年の時点では、「CDショップ」という形態の店 は無かったはず。
当時は、まだ「レコード店にCDも並んでいる」というのが普通だったはず。CDの視聴システムも、もちろん無かったはずだ。
それと、大町は音楽プロデューサーという設定だが、音楽プロデューサーって、まだ当時は注目されるような職業ではなかったはず。
CDの裏ジャケットに顔が出るなんて変だぞ。

その大町は一恵を「ジャンボカラオケ広場」へ連れ込もうとするが、当時はカラオケボックスもメジャーではなかったはず。
カラオケボックスが初めて登場したのは1985年だが、それは本当に「ボックス」のような、コンテナを改造した施設だった。劇中に出て 来るような、ビルに入っていて「歌い放題、飲み放題」を売りにするようなカラオケ店は、1985年の段階では、まだ無かったはずだ。
あと、ジャンボカラオケ広場って関西を中心に展開しているはずだけど、一恵や同僚たちが話している言葉が標準語であることからしても 、舞台になっているのは明らかに関東圏(っていうか東京だよな)だから、それも変だ。
それより何より、ジャンボカラオケ広場が設立されたのは1986年6月だから、この時代には存在していないはずだし。

一方、2028年のシーンでは、「近未来」の風景を全く描写できていない。
美容室のある場所は「現在の田舎の風景」と全く変わらないし、小学校や周辺の景色も同様。美容室の店内には、扇風機やCDラジカセが ある。
近未来どころか、むしろ現代でもレトロだと感じるような電化製品や家具ばかりが揃っている。
っていうか、2007年のシーンでiPodを登場させておいて、2028年でCDラジカセは変だろ。
美容室としての設備も、現代と何も変化していない。お手伝いロボットだけが異様な存在として、完全に浮いている。
っていうか、そこにロボットというキャラを配置している意味も全く分からないし。竹子がロボットでなかったとしても、物語の進行には 何の支障も無い。

完全ネタバレだが、老女の正体は年老いた一恵だ。
しかし彼女は、まるで別人のようになっている。「アンタさ、何しに来たんだい」とか「何か一つぐらい願い叶えてくれよ」と、まるで 男みたいな口調になっている。
性格や考え方が変化するならともかく、喋り方がそこまでガラリと変わるかね。
そりゃあ40年以上が経過しているわけだから、人間なんてすっかり変わってしまうこともあるだろう。
しかし、それにしても変わり過ぎじゃないかと。
「それまでの人生で何があったのか」が全く描かれないこともあって、その急変ぶりを素直に受け入れることは難しい。

(観賞日:2012年2月8日)


第2回(2008年度)HIHOはくさい映画賞

・特別賞:ワーナー・ブラザーズ映画
<*『L change the WorLd』『Sweet Rain 死神の精度』『銀幕版 スシ王子! 〜ニューヨークへ行く〜』『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』『ICHI』『252 生存者あり』の配給>

 

*ポンコツ映画愛護協会