『好きっていいなよ。』:2014、日本

2013年の東明高校学園祭「紅輝祭」が開催され、1年B組の黒沢大和は目玉イベントであるアイドル・コンテストに参加した。女子生徒たちの黄色い悲鳴に迎えられた大和は、ダントツの人気で優勝した。大和は自分がモテモテであることを自覚しており、友人の中西健志と参加した合コンでも一番の美人に惚れられる。しかし「向こうがメアドを聞いてほしいオーラを出していたから」という理由で、大和はメアドを交換しなかった。
学生たちが学園祭に盛り上がる中、1年D組の橘めいだけは全く楽しんでいなかった。彼女は単独で行動し、静かに佇んでいた。それを見つけた健志は、わざと体をぶつけて「お前、いたんだ」と嘲笑する。めいが無言で立ち去った後、健志は大和に「面白いだろ。あいつの声、誰も聞いたことねえって話だよ」と告げる。「すげえ暗いし、あいつ絶対、今まで男いねえよ」と健志が言うと、大和は「そうかな。すげえの持ってそうだけどな」と口にした。
翌朝、朝礼に向かう途中でめいを見つけた健志は、後ろからスカートを引っ張って嫌がらせをする。めいは回し蹴りを浴びせようとするが、誤って大和を攻撃してしまった。彼女は大和が犯人だと誤解しており、「しつこいんだよ、バカ、死ね」と罵った。周囲にいた女子たちはめいを責めるが、大和は彼女を気に入った。めいの靴箱には、攻撃的な言葉を綴った手紙が何通も入れられた。彼女が辟易した様子で手紙を捨てていると、大和が現れた。
めいは大和から唐突に「友達になろうよ」と言われ、「嫌です」と即答した。しかし大和は携帯番号をメモし、「いつでも連絡してよ」と強引に渡した。めいはアルバイトをしているパン屋へ行き、店長のなつみから「なんかあったでしょ?」と問われて「何でもないです」と答える。客として訪れたスーツ姿の男は、店を出た後、めいを気にするような様子を見せた。翌日、めいは大和に「めい、なんで電話くれないの?」と話し掛けられ、「するなんて言ってない。電話嫌いなの」と告げるた。
大和が「ダチとは電話するでしょ」と言うと、「友達なんていない。人はすぐ裏切るし、学校は誰かを標的にしなきゃやってられないバカばっかりだし、そういう奴らと仲良くしたいなんて思ってないから」とめいは話す。大和が「みんながみんな、そんなんじゃねえんじゃねえの」と述べると、めいは「同じだよ。都合のいい時だけ人の名前呼んで、呼んだ時には来てくれない。そういうもんだよ」と冷たく告げ、その場を去った。
その夜、パン屋の仕事を終えて帰路に就いためいは、昨日のスーツ男に気付いた。めいが不安を抱きながら書店に入ると、男は外で待っている様子だった。めいは母に連絡しようとするが、留守電になっていた。携帯電話に登録しているのは、他に自宅とパン屋の番号だけだった。困った彼女は、大和に電話を掛けて助けを求めた。書店に来た大和は事情を聞かされると、めいを外へ連れ出した。彼はスーツ男に見せ付けるように「愛してる」と言い、いきなりキスをした。
初キスだと知った大和が「ごめん」と詫びると、めいは動揺を抑えつつ「いい、謝らなくていいから」と告げる。「ホントに来てくれると思わなかったら」と彼女が言うと、大和は「昔、なんかあったの?」と尋ねる。めいは彼に、小学校時代の出来事を話した。友人たちが学校で飼っていたウサギに雑草を食べさせた時、めいは見ていただけだった。翌日にウサギが死亡すると、めいは友人から罪を被せられ、居合わせた誰も助けてくれなかった。大和は「今日は違ったじやん。必要になったら、掛けていいよ」と告げ、笑顔を浮かべた。
翌朝、登校しためいは大和から「おはよう」と挨拶され、「おはよう」と返した。その様子を見ていた健志と友人の及川あさみは、興味津々で大和に「友達になったの?」と問い掛ける。大和がピースで応じると、あさみは友人の竹村海や武藤愛子とめいの様子を観察に出向いた。めいは大和から「放課後、みんなで行くんだけど来ない?」とカラオケに誘われ、あさみも現れて「行かない?」と告げた。カラオケ店へ出掛けためいは、あさみから「大和のこと、好きなの?チューした?エッチした」と矢継ぎ早に問われて困惑する。あさみが「あさみはチューだけだけど」と言うので、めいは「一回だけ」と告げる。
あさみはめいに、大和が女子生徒の大半とキスしていることを話した。「あさみは大和にとったら、挨拶程度のことなのかもね」と言うが、ショックを受けためいは店を去る。大和が追い掛けると、めい「どうして、あの時キスしたの」と問い掛ける。あさみの言っていた噂を彼女が確認すると、大和は「好き勝手言われてるなあ。俺は、したいと思った子としかしないよ」と言う。大和はめいにキスし、「なんかしたくなっちゃった」と屈託の無い笑顔で告げる。
めいは「そんな好きの気持ちもないキスなんて、こっちは嬉しくも何ともないんだから」と批判するが、また大和はキスをした。彼は「今のは挨拶代わりのキス」と言い、続けて「今のは可愛いなあと思った人へのキス」「今のは進展した人へのキス」などと説明しながら3度のキスを繰り返した。「まだ一杯あるけど、違い分かる?俺のこと好き?なんも言わないと本気チューしちゃうぞ」と大和が話すと、めいは「心臓が痛い」と口にする。大和は笑って「それは好きってことなんじゃないですかね」と言い、またキスをした。
ある日、めいが大和に誘われて一緒に帰ろうとしていると、あさみが健志に「バカ、嫌い」と怒鳴っている声が聞こえた。走り去るあさみを見た大和は、健志が冗談のつもりで彼女を傷付けたことを知る。大和が呆れると、健志は「無条件で好かれるお前には、俺の気持ちなんか分かんねえだろうよ」と声を荒らげて立ち去った。大和はあさみの元へ行き、健志をフォローする。めいは健志に声を掛け、大和について「無条件で好かれてるわけじゃないと思う」と述べた。
翌日、あさみの大きなオッパイを女子たちが嘲笑っていると、健志が「自分たちが小さいからって、ひがんでるんじゃねえぞ」と怒鳴る。女子たちが馬鹿にした笑みを浮かべて「やりたいって、おっぱいと」と口にしたので、健志は失敗したと落ち込む。めいは健志から話を聞き、あさみが他の人に見せない表情を彼には見せていると感じる。めいから気持ちを素直に伝えるよう助言された健志は、あさみに告白する。あさみは彼の気持ちを嬉しく思い、付き合うようになった。
ある日、めいとデートに出掛けた大和は、雅司と愛子に遭遇する。雅司がデートだと言おうとすると、愛子は不機嫌そうに「ふざけんな」と口にする。4人でボウリングに行き、愛子はめいと2人になって憎しみをぶつける。「大和と付き合いたい奴は山ほどいる。中途半端なアンタだけ、大和の隣に陣取ってさ」と彼女は言い、「エッチした仲の私じゃなくて、なんてアンタが」と呟いた。めいは彼女の言葉を引きずったまま、大和と2人でボウリング場を出た。
大和は雑誌の女性編集者に「モデルに興味は無い?」と声を掛けられ、連絡先を渡された。めいが「隣に私なんかがいて恥ずかしくないの?なんで私なんかを好きになったのか分からない」と言うと、大和は出身中学校へ連れて行く。彼は親友がイジメの標的になった時に虐める側へ付いてしまったこと、密かに会っていたこと、親友が転校してしまったことを話す。大和は「めいはさ、自分の魅力に気付いてないよ。俺はとっくにめいのことが好きなんだぜ」と告げ、不安を吐露するめいにキスをした。
愛子は「ムシャクシャする」と苛立ちを示し、雅司に誘われてラブホテルに入る。しかし彼女の気持ちは大和に向けられたままで、雅司が思いを伝えても響かなかった。翌日、愛子は学校の屋上で大和と話し、彼に好かれるために2ヶ月で17キロも落としたせいで腹部に醜い跡が残ったことを明かす。「愛子の気持ちに応えられない」と言われた彼女は、めいに「私はアンタを認めない」と告げる。すると、めいは「今はそれでいいです。大和への気持ちは、誰にも負けたくない」と強気な態度を示した。「勝手にやれって」と吐き捨てた愛子に、雅司は真剣な思いを伝えて「俺を見ろよ」と告げた。
春が訪れ、めいたちは2年生に進級した。めいとあさみは愛子から、新入生に金髪の面白い男子がいることを聞かされる。3人が新入生を見に行くと、そこへ大和が現れた。金髪男を見た大和は、それが中学で転校した竹村海だったので驚いた。海は笑顔で声を掛けるが、大和は複雑な表情を浮かべる。留年した理由を尋ねると、海は体を鍛えていたせいで出席日数が不足したのだと話す。海が自分のことを怒っていないと知り、大和は安堵した。
海はクラスメイトの女子から大和がめいと付き合っていると聞かされ、興味を抱いた。たまたまパン屋に立ち寄った彼は、めいがいたので驚いた。海は彼女に「虐めていた奴らに仕返ししてやろうか。俺はアンタの気持ち分かるよ」と言い、自分が仕返しのために体を鍛えたことを明かす。すると、めいは「仕返ししたいなんて思ってない。仕返しって、ただ相手と同じことをしてるってだけだよ。それは人に面と向かって話せること?大和に話せる?」と責めるように問い掛ける。
海は復讐心を抱いていた男の通う高校へ行き、彼に姿を見せた。だが、相手が海と気付かない男は、「すいません」と弱々しい態度で謝罪した。立ち去る彼を見て、海は当惑の表情を浮かべた。そのことを海はめいに話し、「バカバカしくなった。昔のことは、終わりにした」と口にした。2人が話す様子を見たあさみは、大和に「仲がいいんだね」と告げた。一緒に遊ぶめいや大和たちの仲良しグループに、海も参加するようになった。めいと海の親しげな様子を見た大和は、不安を抱いた。後日、海はめいに「好きだ」と打ち明けた…。

監督・脚本は日向朝子、原作は葉月かなえ『好きっていいなよ。』(講談社『デザート』連載)、製作総指揮は大角正、製作代表は秋元一孝&鈴木伸育&野崎研一郎&佐野真之&宮本直人、企画・プロデュースは吉田繁暁、プロデューサーは田渕みのり&福島大輔、アソシエイトプロデューサーは石田聡子&池田史嗣、撮影は月永雄太、照明は木村匡博、美術は西村貴志、録音は栗原和弘、編集は橘樹陽児、音楽は高見優、音楽プロデューサーは高石真美、主題歌はワン・ダイレクション「ハッピリー」。
出演は川口春奈、福士蒼汰、市川知宏、足立梨花、永瀬匡、西崎莉麻、山本涼介、八木アリサ、菊池亜希子、渡辺満里奈、永池南津子、寺門ジモン、川岡大次郎、桐嶋美結、三浦透子、阿部菜渚美、松野高志、小林ユウキチ、荒木次元、倉持聖菜、青木美香、渡辺りかこ、櫻田厚一、横田剛基、渡辺佑太朗、西村匠平、宮崎紗也絵、田中美帆、難波美沙貴、網野ちひろ、矢野優花、橋本有紗、若林航平、飯田祐真、宮坂光、河原美結、小林ゆうき、山本実果、島ゆいか、菅野莉央、日下部美和、黒澤吉彦ら。


講談社の『デザート』に連載されている葉月かなえの同名少女漫画を基にした作品。
監督&脚本は『森崎書店の日々』『フォーゴットン・ドリームス』の日向朝子。
めいを川口春奈、大和を福士蒼汰、海を市川知宏、愛子を足立梨花、健志を永瀬匡、あさみを西崎莉麻、雅司を山本涼介、健志の中学時代の友人でモデルの北川めぐみを八木アリサ、なつみを菊池亜希子、夏子を渡辺満里奈、編集者を永池南津子、編集長を寺門ジモンが演じている。

少女漫画が原作なので、女性たちに夢を与える内容になっている。
「ずっと無口で陰気だと言われており、周囲と距離を置いていた女子が、学校一のイケメンのモテ男から惚れられる」なんてのは、もちろん現実の世界では「絶対に」と断言してもいいぐらい有り得ないことだ。
しかし少女漫画の世界では、リアリティーなど求められない。むしろ、ファンタジーな世界観であることの方が普通である。
中途半端な現実感を持ち込むぐらいなら、徹底して荒唐無稽にやるってのが、少女漫画に限らず、漫画においては望まれるスタンスだ。

もちろん、「バカバカしい」「嘘臭い」という批評も、決して外れているわけではない。実際、この映画に限ったことでは無いが、基本的に少女漫画を原作とする映画ってのは、その大半がバカバカしさで出来ていると言っても過言ではない。
しかし、それを言ったら全てが終わりになってしまう。
少女漫画を原作とする映画を観賞する上で何よりも大切なのは、「そのファンタジーな世界観を受け入れ、全てを委ねてしまう」という心構えだ。
ある意味では、それは覚悟であり、決意だ。それが出来ない人は、脱落するしか無い。
「バカバカしさを楽しもう」という気持ちになれば、この映画を楽しむことは、そんなに難しくないはずだ。

そして、もう1つ、この映画には重要なポイントがある。
それは、福士蒼汰が主演しているってことだ。
表記としては川口春奈との並列表記だが、少女漫画が原作であることを考えても、メインとなる観客は女性であり、そうなると福士蒼汰の方が重要性は遥かに高い。
そして、この映画は「福士蒼汰が主演している」という要素が、ものすごく大きな意味を持っているのである。

福士蒼汰は2011年9月から2012年8月まで放送された『仮面ライダーフォーゼ』でTVドラマ初主演を務め、2013年のNHKの連続テレビ小説『あまちゃん』で人気が高まった。
そんなノリノリの状況の中で公開されたのが、この映画だ。
かつて前田日明が「アントニオ猪木なら何をやっても許されるのか」と口にしたが、何をやっても許される人間など世の中に存在しないだろう。
しかし福士蒼汰なら、少なくとも本作品が公開された頃の福士蒼汰なら、大抵のことは許されると思う。

初対面の女性に対して、いきなりキスをするなんてのは、普通に考えれば酷い行為だ。
セクハラどころの騒ぎじゃなくて、訴えられたら確実に負けるような所業だ。
例えば、寺門ジモンが初対面の女性にいきなりキスをしたら、とうだろうか。相手の女性が嫌がることは、間違いないと言っていいだろう。
それは寺門ジモンに限ったことじゃなくて、あまり容姿のよろしくない男性が相手なら、ほとんどの女性が嫌がるだろう。

しかし、これがイケメンだったら、どうだろうか。それも、テレビに出演して人気絶頂の、若くてピチピチしたイケメンだ。
向こうからすると初対面だが、こっちは相手のことを良く知っている。しかも、いつもテレビで見ていて「カッコイイ」と思っていた相手だ。
それなら、いきなりキスされても、嫌がるどころか、むしろ喜ぶんじゃないだろうか。浮かれてしまうんじゃないだろうか。
つまり、そういう相手としての男性が、福士蒼汰というわけだ。
言ってみれば、これは福士蒼汰を堪能するためのアイドル映画なのだ。

冒頭、めいについて健志は「あいつの声、誰も聞いたことねえって話だよ」と言う。
しかし、めいは大和に無理を浴びせる際、あっさりと第一声を発する。しかも、大和から声を掛けられて、これまた簡単に会話を交わしている。「心を閉ざし、周囲の人と話そうとしない」というキャラ設定のはずだが、大和の前では随分と簡単に喋っている。
それはキャラ設定からすると、ヌルい描写と言えなくも無い。
しかし、そこは「相手が福士蒼汰なら、つい喋っちゃっても仕方が無い」と捉えておけばいいのだ。

パン屋のシーンでは、めいが普通に喋っているし、笑顔まで見せている。
「心を閉ざし、誰とも喋らず無表情を貫く」ってのは、始まって10分も経たない内に崩壊しているってことになる。
そもそも、本当に心を閉ざしているなら、誰とも話したくないのなら、接客しなきゃいけないパン屋の仕事なんてするわけがないのだ。
しかし、彼女をパン屋で働かせておかないと、後の展開に支障が出る。
だから、そこは「心を閉ざすのは学校限定」という、かなり都合の良すぎる解釈で受け入れるべきなのだ。

めいは大和に、「都合のいい時だけ人の名前呼んで、呼んだ時には来てくれない。そういうもんだよ」と告げる。
実のところ、ちょっと不自然さのある台詞である。ただ、後の展開に繋げる伏線なので、ある程度の強引さは甘受しよう。
「ストーカーに気付き、他に登録した番号が無いので大和に助けを求める」ってのが初めて電話を掛ける目的ってのは、なかなか都合の良すぎる展開だ。しかし、そういう都合の良さは、決して批判される類のモノではない。むしろ、手放しで歓迎できる。
いや、これはマジで、そう思うのよ。「これは」なんて書いちゃったら他はどうなのかと問われそうだけど、それはともかくとして。
そこで「呼んだ時に、大和は来てくれる」ってことで前述の伏線を回収しているのも、綺麗な処理だと思うよ。これもマジで。

めいは大和が携帯番号を渡そうとした時、拒もうとする。しかし強引に渡されると、それを受け取っている。
本当に嫌なら、後から捨てることも出来る。しかし、ポケットから出して確認した後、溜息をつきながらも再びポケットに戻している。
つまり、本気で拒んでいるわけではないのだ。
もちろん、これを「過去の出来事が理由で心を閉ざしているが、本当は人と繋がりたいと思っていることの表れ」と解釈することは出来る。
だが、それよりも「相手が福士蒼汰だったら、そりゃあ携帯番号は貰うでしょ」と捉えた方が分かりやすい。

大和は最初から「めい」と下の名前で呼んでいるが、相手がブサメンだったら不愉快だろう。でも、相手が福士蒼汰なら、それは何の問題も無い。ただ嬉しいだけだ。
大和はストーカー撃退策として、めいを書店から連れ出すと、いきなりキスをしている。ハッキリ言って、メチャクチャな奴だ。ホントに嫌なら、その場でビンタしたり、激昂したりしてもいいはずだ。しかし、めいはドギマギして「分かってるから」と言うだけだ。
「ホントに来てくれると思わなかったら」と彼女は口にしているが、「ホントに来てくれた」ってことで全てを受け入れたったことだ。
っていうか、まあ「相手が福士蒼汰なら、いきなりのキスも嬉しいだろ」ってことだ。

大和から「昔、なんかあったの?」と問われためいは、小学校時代のことを語る。もう彼女は、すっかり心を開いている。
繰り返しになるが、冒頭で「あいつの声、誰も聞いたことねえって話だよ」と評されていたヒロインなのに、大和への態度は簡単に変化している。
それは普通に考えると、「あまりにも拙速な展開」と言えなくも無い。
しかし、「相手が福士蒼汰なら、普通の女子はそうなっちゃうでしょ」と考えれば、すんなりと腑に落ちるはずだ。

「めいは大和から不意にキスされ、それが初キスだったのに、彼を嫌いになったりしない。
っていうか、むしろ好きになっている。
恋愛劇のパターンからすると、「いきなりキスした相手に嫌悪感を抱くが、次第に惹かれて行く」という流れを歩んでも良さそうなものだが、そこを使わない。
だから、なおのこと「相手が福士蒼汰なら、大抵の女子はいきなりキスされても、それが初めてのキスでも、喜んで受け入れるでしょ」ってことが分かりやすい。

あさみは自分が大和とチューしたことや、ほとんどの女子生徒とキスしたことを話す。
「ほとんどの女子とキスした」という部分の真偽は不明だが、あさみとのキスは事実だし、かつて愛子とは肉体関係を持っている。冒頭の健志との会話からしても、チャラさがあることは確かだ。
普通に考えれば、そういう男子は決して好感の持てる奴ではない。
しかし少女漫画ってのは大抵の場合、「ちょっと性格や行動に問題のある男子」にヒロインが惚れるのだ。
「嫌なトコもあるけど、意外に優しい」というギャップ萌えとか、「私の前だけでは他の女子の時と違う」というスペシャリティーとか、そういう要素が女子をキュンキュンさせるのだ。

「ほとんどの女子とキスした」という噂について質問された大和は、「俺は、したいと思った子としかしないよ」と告げる。めいが怒って立ち去ろうとすると、いきなりキスをする。
それはTPOを無視した行為なのだが、福士蒼汰が「なんかしたくなっちゃった」と屈託の無い笑顔で告げるんだから、そりゃあ女子はキュンキュンするでしょ。
めいも、そのことを態度で表現している。キスに対して批判的な言葉を浴びせているが、また大和がキスしようとすると、自ら唇を近付けて目を閉じているのだ。
つまり、完全に彼女の受け入れ態勢は出来上がっているのだ。

カラオケ店を出たシーンで、めいと大和は何度もキスをする。
物語としての盛り上がりを考えれば、そこで何度もキスを繰り返すってのは決して望ましいことではない。終盤に「キスよりも強い愛情表現」のシーンでも用意されているならともかく、キスがピークなのだから、そこは勿体ぶって使った方がいいはずだ。
「色んなキスの違いがある」と大和は説明しているが、その違いが観客に伝わるようなことは全く無いんだし。
でも、福士蒼汰が何度もキスすれば、それだけで女子はキュンキュンしちゃうわけだから、それでいいのだ。

めいは「心を閉ざし、誰とも喋らない孤独な少女」という設定で登場するが、あっという間に他人と喋り、友達も出来る。
大和に蹴りを浴びせた時は中傷の手紙が靴箱に何通も入っているが、彼と親しくなった後は周囲の攻撃が全く持続していない。
この映画は、何か問題が発生しても、あっさりと解決する。
「問題発生→すぐに解決」というエピソードを繰り返す串刺し式の構成となっているため、ものすごく淡白で、ドラマの厚みや広がりは全く無い。

例えば、映画が始まってから30分ほど経過した辺りで、あさみが「いつでも守ってくれる王子様が欲しいなあ」と言うと、めいは「中西君は悪い人なの?」と尋ねる。あさみはふざけている健志を見て、「真剣にやるってことが無いんだから」と笑う。シーンが切り替わると、健志とあさみが言い争いになっている。
しかし、この険悪な関係は全く持続せず、10分も経たずに解決する。
この問題を描いている間、めいと大和の関係は全く変化しないし、他のドラマや主要キャラクターも介入してこない。
何か1つの要素を提示すると、他の要素を全く挟まず、そこだけに集中して物語を進行するので、そりゃあ解決が迅速なのは当然っちゃあ当然だ。

最初から最後まで、「1つのエピソードを描いている時は、他の要素が絶対に絡まない」というわけではない。
愛子をフィーチャーしたエピソードの最中、大和が中学時代の出来事を語り、それは次のエピソードに繋がる。モデルにスカウトされるシーンも、後のエピソードに繋がる。
ただ、そのように他のエピソードと連携する箇所は、ものすごく少ない。
基本的には「1つのエピソードを片付けてから次へ」という構成になっているので、スッキリしていて分かりやすいとは言えるが、それがプラスだとは言えない。

ドラマに厚みが無いってのは、もちろん普通に考えれば、映画にとって望ましいことではない。しかし、これは福士蒼汰を満喫し、その言動にキュンキュンするための映画なので、それ以外の部分はオマケに過ぎないのだ。
「だったら福士蒼汰のプロモーション・フィルムを作ればいいんじゃねえの。わざわざ漫画を原作に使って、物語性を持たせた映画にしなくてもいいじゃねえの」と思うかもしれないが、そこは違うんだよね。
やっぱり、一応はドラマ性を持たせて、その中で福士蒼汰が芝居をすることで、見ている女子はヒロインに自分を投影し、「福士蒼汰が私にキスしたり、愛の台詞を喋ったりしてくれる」ってことで、キュンキュンできるわけよ。
ドラマが浅くても、そこは恋する乙女の妄想力が脳内補完してくれるので、問題は無いはずだ。

ちなみに、ここまでの批評を読んで、もしも「この人は本気で、この映画を褒めているのだ」と思ったら、貴方はものすごくピュアな人だと言えるだろう。
その気持ちを、いつまでも大切にしてほしい。
それで幸せになれるかどうかは分からないけど、少なくとも私より幸せな人生を送ることが出来ることは間違いない。
だから一刻も早く、こんなサイトを立ち去り、二度と見ないようにしてほしい。
こんなサイトを見ていたら、貴方の心がどんどん腐っていくだけだ。

(観賞日:2016年2月22日)

 

*ポンコツ映画愛護協会