『水曜日が消えた』:2020、日本

煙草の匂いで目を覚ました斎藤数馬は、棚に置いてある吸い殻と「ごめん あとよろしく」というメモを見て「またか」と嘆息した。隣に見知らぬ女性が寝ているのに気付き、彼は慌ててベッドから転がり落ちた。数馬は「どういうこと?」と憤慨する女性に謝り、家から出て行ってもらった。彼は苛立ちながら散らかっている靴を揃え、「(月)へ 知らない人をベッドに入れるな!(火)」というメモを棚に貼った。シャワーを浴びた数馬は熱さに腹を立て、浴室のドアに「シャワーの温度を上げたら戻して(火)」とメモを貼った。
部屋の掃除に取り掛かった彼は、「適宜、水をお願いします (金)」というメモに気付く。その上には矢印のメモもあり、数馬は鉢植えに水をやった。彼は曜日ごとに荷物を分類し、朝食を取った。彼は薬を飲み、ノートに貼ってある魚拓を見て「自由だなあ、日曜日は」と呟いた。出掛ける準備をした数馬は、ベランダにいる修理業者を見つけて絶叫した。「雨どいの修理って、今朝って話でしたよね?」と業者に確認され、彼は「すいません」と謝罪した。
数馬を目を覚ますと必ず火曜日で、バッハの曲が流れており、瓶と缶を捨てる日だ。ただし、それは彼が「火曜日の数馬」だからだ。曜日ごとに7人の数馬がいて、自分の知らない別の曜日の自分と同じ肉体に同居しているのだ。火曜日は図書館が休刊日なので、火曜日の数馬は入ったことが無い。彼は病院を訪れ、主治医の安藤と面談して検査を受けた。事務室に移動した安藤は、研修で来ている教え子の新木を数馬に紹介した。事故が原因で数馬が7つの人格になってから、16年が経過していた。
数馬が自宅に戻って部屋を片付けていると、一ノ瀬という女性が訪ねて来た。彼女は数馬の友人で、7つの人格になっていることを知っていた。一ノ瀬は編集者で、作家の原稿を待つために数馬の家を利用していた。退屈そうに時間を潰す数馬を見た彼女は、他の人格のように好きなことを見つけるよう勧めた。すると数馬は、「治療中だよ、僕らは。みんな忘れてる」と苛立ちを見せた。彼が「夜は早いし、旅行にも行けない。毎日言ってることが違うから友達も出来ない。火曜は店が休みで図書館にだって入れない」と愚痴をこぼすと、一ノ瀬は「やっぱつまんないな、アンタは」と呆れた。
夜、数馬は町に流れるドボルザークの曲を聴きながら、水曜日のために燃えるゴミをまとめ、別の曜日のために今日の出来事をノートに書き残した。眠りに就いた数馬は、次の朝を迎えた。すると部屋が綺麗に片付いており、煙草の匂いもしなかった。いつもより早い時間にゴミ収集車が来たため、彼は慌てて外へ出る。しかし間に合わず、会ったことの無い女性から会釈されて数馬は困惑した。町のアナウンスで水曜日だと知った彼は、家に戻って電話を掛けようとする。しかし数馬は思い留まり、図書館へ出掛けた。
初めて図書館に足を踏み入れた数馬は、嬉しそうに周りを眺めた。彼が高い棚にある本を取ろうと手を伸ばすと、その朝に会釈した瑞野という女性が取ってくれた。彼女は司書で、「今日はいつもと違うんですね」と言う。数馬が戸惑っていると、瑞野は「シャカシャカしてないんですね」と服の違いを指摘した。瑞野が立ち去ると数馬は慌てて「その洋服も素敵です」と大声で叫び、静かにするよう注意された。本を借りるためにカウンターへ赴いた彼は、残りは取り寄せだと告げられた。数馬が見とれたまま全く動こうとしないので、瑞野は困惑の表情を浮かべた。
図書館を出た数馬は帰る途中、ベースを持っている眼鏡の中年男性に凝視される。彼は花屋の店主に勧められた花を購入し、浮かれた気分で帰路に就いた。飛び跳ねていた彼は転倒するが、特に怪我も無く、すぐに立ち上がった。夜、数馬は瑞野からの電話で金曜日には本が届くと聞き、今度の水曜日に取りに行くと告げた。彼は水曜日の筆跡をなぞり、「いつもの普通の水曜日でした」という嘘をノートに記す。眠りに就いた彼が目を覚ますと、眼鏡の中年男性がベッドの隣にいた。「続き、する?」と言われた彼は悲鳴を上げ、男性を追い出した。鏡を見た数馬は女装していることに気付き、それが月曜日の組んでいるバンドの衣装だと知った。
家を出た数馬は休館中の図書館を通り過ぎる時、急にバランスを失って倒れそうになった。病院で検査を受けた彼は、安藤に「何かあった、先週?」と訊かれて動揺する。それが小さい魚拓を見ての発言だと知り、数馬は愛想笑いで誤魔化した。数馬が病院を去った後、新木は病院は行動報告書を見て「これって、管理になってるんですか?」と安藤に尋ねる。安藤が「管理じゃないよ。共有だよ。彼らが生活に困らないための」と説明すると、新木は「彼ら」という表現に引っ掛かった。
斎藤家を訪問した一ノ瀬は、図書館の本を見つけて「なんで」と疑問を口にする。数馬は「代わりに借りてもらった」と咄嗟に嘘をつき、怪しむ一ノ瀬に「意外に仲がいいんだよ」と告げた。普段とは違うと感じた一ノ瀬が「なんかあった?」と訊くと、彼は「別に」と否定する。数馬が「他の曜日って、怖くないのかな。外に出たり、誰かに会ったり」と口にすると、一ノ瀬は「幸せになれよ」と笑った。夜、数馬は水曜日に目を覚ます方法を考えるが何も思い付かずに苛立った。
数馬が就寝して目を覚ますと、水曜日の朝だった。彼はシャカシャカする服に着替え、ゴミを出しに行くが間に合わなかった。彼は瑞野と遭遇して挨拶を交わし、図書館へ出掛けた。生き物の絵本が展示されているコーナーを数馬が見ていると、瑞野は「この前はありがとうございました」と礼を言う。数馬は火曜日が関わっていると悟り、適当に話を合わせた。「楽器されてるんですね。確認の電話をした時、後ろが賑やかで」と言われた数馬は、瑞野が月曜日に電話を掛けたと知る。彼は慌てて「月曜日は駄目です。電話は水曜日で」と頼み、取り寄せてもらった本を受け取った。
図書館を出た数馬の前に一ノ瀬が現れ、「火曜日だよね?」と告げた。数馬は慌てて否定するが、火曜日との明確な違いを指摘される。安藤に報告していないと知った一ノ瀬が「マズいでしょ」と電話を掛けようとすると数馬は「やめてよ」と止める。必死に説得を試みる下手な説明を聞いた一ノ瀬は、数馬が瑞野に恋心を抱いたのだと気付く。「あとちょっとだけ」と数馬が懇願すると、一ノ瀬は「少しでも変なことが起きたら教える」という条件で協力を承諾した。
図書館に戻った数馬が瑞野をデートに誘う様子を、一ノ瀬は離れた場所から見守った。来週の水曜日にデートする約束を交わした数馬は、一ノ瀬に相談する。一ノ瀬はバレないような方法を問われて助言するが、楽しそうな数馬を見て複雑な表情を浮かべた。帰宅した数馬は、捏造した報告書を書いた。以前の報告書を確認した彼は「こんなの書いたっけ?」と情報が増えているように感じるが、そのまま放置した。就寝した数馬が目を覚ますと、火曜日の朝だった。
病院を訪れた数馬は事務室の椅子に乗って棚の上のディスクを取ろうとするが、バランスを崩して落下した。新木が駆け付けて「大丈夫ですか」と呼び掛けると、数馬は起き上がって「すみません。昔の映像とか借りれないかなと思って」と言う。安藤の許可が必要だと新木が告げると、「そうですよね。すみません」と数馬はディスクを散らかしたことを謝った。数馬が安藤の検査を受けている間に、新木は内緒でファイルをコピーした。
夜、数馬は初めてコンビニで買い物をしてから、一ノ瀬と会う。彼が「2日あると世界が違う」と漏らすと、一ノ瀬は「帰って夜中っぽいことでもするか」と提案した。2人はカップラーメンやスナック菓子を食べながら、夜更かしして一緒に映画を見た。同じ頃、新木は数馬のファイルを確かめ、脳のデータを調べていた。「もし、このまま水曜が消えたままだったら、やっぱりマズいよねえ。どう考えても」と数馬が呟くと、一ノ瀬は「いいんじゃない。水曜のことなら教えるし。病院に黙ってるのも協力する」と返す。数馬が「なんで一ノ瀬は僕に構うの?」と訊くと、彼女は「それは、友達だからだよ。同級生は大事にしないと」と答えた。
水曜日、数馬は瑞野と映画館に出掛け、一緒にレイトショーを楽しんだ。瑞野は初めて会った時から気になっていたと明かし、「生き物の絵本、嬉しかったです」と嬉しそうに話す。瑞野は「気付いたら貴方のことばかり考えてました。良かったら、他の日も会えませんか」と語り、数馬に恋心を打ち明ける。しかし数馬には、途中で彼女の言葉と視界が途切れ途切れになった。彼は激しく動揺し、「帰らないと」と言って逃げ出した。
数馬が就寝して目を覚ますと、火曜日の朝だった。彼が病院へ行くと安藤は不在で、事務室から大勢の職員が資料を持ち出していた。新木が事務室にいたので、数馬は事情を尋ねた。すると新木は、安藤が数年前から記録データを改ざんしていたことが発覚し、調査を受けていると話す。数馬に異変が起きているにも関わらず、安藤は病院に報告していなかったのだ。新木は数馬に、「この数週間、これまでより報告書の内容が合ってます。バランス感覚の変異の他に、何か異常を感じたことはありますか」と質問した。改めて報告書を確認した数馬は、やはり自分が書いていない情報が追加されていることを確信して「止まってる?いつから?」と呟いた。
「大丈夫。全部元通りだ」と自分に言い聞かせて眠った数馬だが、目を覚ますと水曜日の朝だった。家の中を調べた数馬は、楽器が置いてある部屋で昏倒した。彼が意識を取り戻すと、木曜日の朝になっていた。数馬は水曜日の上着のポケットを探り、図書館の展示コーナーの飾りを見つけた。図書館へ出掛けた彼は、瑞野に謝ろうとする。しかし先に瑞野が「この前は変なこと言っちゃって。忘れてください」と去ろうとするので、数馬は慌てて飾りを渡す。彼が「持ってたんです。ポケットに。きっと、次の水曜日に返そうとして。でも、水曜日に来たのは僕でした。貴方が待ってた水曜日の僕じゃなくて」と言うと、瑞野は「何の話をしてるんですか?」と戸惑いを見せた。数馬は「返します。きっと。貴方が好きだった水曜日を」と告げ、その場から走り去った。
数馬は夜道を歩きながら検査同意書を開き、病院に電話を掛けた。彼は新木を呼んでもらおうとするが、途中で眩暈が起きて倒れ込んだ。気付くと電話は切れており、道に同意書が落ちていた。改めて電話を掛けようとする数馬だが、また眩暈が起きて倒れ込む。携帯画面に目をやった彼は動画が表示されていることに気付き、再生ボタンを押した。すると月曜日が画面に向かって語り掛け、「こういうの初めて?薬を飲んで眠れば、しばらくは収まる」と軽い調子で語った。
数馬は急いで病院へ行こうとするが、また意識を失った。目を覚ますと携帯には月曜日の新たな動画が残されており、「そっちが火曜から水木って繋がってった時、こっちでは月曜から日土金って繋がってったんだ」と馬鹿にしたような態度で説明する。さらに彼は、カメラを仕掛けて監視していたこと、偽日記も辻褄を合わせるように書き直していたことを話す。「病院に戻らないと。大変なことが起きてる」と数馬は動画を撮影し、また意識を失った。
意識を取り戻した数馬が動画を確認すると、月曜日は「病院は消えるのが正しいって思ってる。と呆れたように言い、黙ったままで生きていこうや」と持ち掛ける。数馬は抵抗を試みるが、月曜日の「知ってるか。誰かと一緒に何かするって、メチャクチャ楽しいぞ。それが普通なんだろうな。でも初めてだった。お前もそうだろ?誰かと出会った。世界が変わった」という言葉に動きが止まる。しかし「まっ、そっちが消えたら、後はこっちが上手くやっといてやるって」と月曜日が不敵に笑うと、「分かるよ。でもダメだ。水曜も木曜も大事な物があって、大事な人がいて。僕のせいでお別れも出来なかった。だから返してあげなくちゃダメなんだ」と反発する…。

監督・脚本・VFXは吉野耕平、製作は沢桂一&新井重人、エグゼクティブプロデューサーは伊藤響&福家康孝、企画・プロデュースは櫛山慶&谷戸豊、プロデューサーは田中誠一、撮影は沖村志宏、照明は岡田佳樹、美術は丸尾知行、録音は山田幸治、編集は佐藤崇、CG/VFXは金子哲、音楽は林祐介、音楽プロデューサーは和田亨、主題歌『Alba』は須田景凪。
出演は中村倫也、石橋菜津美、中島歩、休日課長(ゲスの極み乙女。/DADARAY/ichikoro)、きたろう、深川麻衣、指出瑞貴、佐藤五郎、永滝元太郎、笠松基生、堰沢結愛、後藤晴菜(日本テレビアナウンサー)、小松勇司、中野麻衣、佐野祐徠、森山のえる、吉田紗弥花、金井凛空、大山ひなた他。


数多くのCMやミュージック・ビデオを手掛け、2012年と2019年には「日本の映像作家100人」に選出されたこともある吉野耕平が監督・脚本・VFXを務めた映画。
2016年には城戸賞の最高位を受賞した経験もある吉野耕平だが、これが映画監督デビュー作となる。
数馬を中村倫也、一ノ瀬を石橋菜津美、新木を中島歩、高橋を休日課長(ゲスの極み乙女。/DADARAY/ichikoro)、安藤をきたろう、瑞野を深川麻衣が演じている。

「曜日ごとに別の自分がいる」という設定から、ノオミ・ラパスが主演を務めた2017年の映画『セブン・シスターズ』との類似について指摘している人もいる。ひょっとしたら、『セブン・シスターズ』から着想を得たのかもしれない。
しかし、『セブン・シスターズ』は「7つ子が曜日と同じ名前を与えられ、1人の女性を演じる生活を続ける」という設定なので、まるで異なっている。そして良くも悪くも、物語の内容も全く違っている。
まあ「良くも悪くも」と書いたけど、悪いよね。
『セブン・シスターズ』が傑作だったとは思わないし、むしろ色々と欠点の多い作品だったとは思う。ただ、それでも本作品とは比較にならないぐらいマシだ。

「7つの人格があって、曜日ごとに1日ずつ変化する」という情報だけを知った段階だと、「中村倫也が7つの人格を演じ分けるのか」と思うかもしれない。
しかし実際のところ、ほぼ火曜日の人格だけで終始する。終盤になって、携帯画面の中で月曜日が出て来るのと、最後に他の曜日がチラッと顔を出す程度だ。
「7つの人格が曜日ごとに暮らしている」という設定から期待されるような物語や趣向は、色々と思い浮かぶかもしれない。
しかし残念ながら、あらゆる期待に応えてくれないのである。

序盤、数馬はベランダにいる修理業者を見つけて絶叫し、「雨どいの修理って、今朝って話でしたよね?」と確認される。だけど、これは状況設定に無理がある。
幾ら業者が「翌朝に修理してね」と依頼されたとしても、訪問した時にインターホンぐらい押して住人に確認を取るでしょ。
もっと言うなら、訪問前に電話で確認を取る業者だって多いだろ。
だから「ブラインドを開けて外を見たら、ベランダで業者が作業を始めている」ってのは、不自然極まりないのよ。

7つの人格を持つ主人公は、メモとノートを使って情報を共有している設定だ。
それについて「ノートの文字だけが互いを知る手掛かり」というナレーションが入るけど、スマホなりパソコンなりを使えばいいだろうに。なぜ手書きのメモとノートだけに頼るのか。何らかの理由で電子機器が使えないとかじゃなくて、普通にノートパソコンを使うシーンも出て来るんだし。
もしかして、「1日で記憶が無くなる障害の持ち主」が出て来る類の映画を参考にしたのか(あえて具体名は避けておく)。
でも、それとは主人公の状況が全く違うでしょうに。そして時代も違うでしょうに。

あと、「別人格が一緒に暮らす」という状況は、最近になって始まったことじゃなくて、幼少期からずっと続いているんだよね。
成長と共に性格や行動に変化が訪れるにしても、月曜日の数馬の自堕落な生活なんかは、最近になって始まったことでもないはずでしょ。
だったら、火曜日の数馬は今までに何度もメモを残して注意しているはずでしょ。それで全く改まらないんだから、今さらメモで改善を要求しても全く意味が無いでしょうに。
それは観客に説明するためだけの、不自然な行動になっちゃってるぞ。

数馬が病院で両手を伸ばして歩くのを安藤がビデオで撮影しているが、何の検査なのかサッパリ分からない。そんなので脳の障害の治療に役立つとは、到底思えない。
後で何度も「バランスを崩して倒れる」というシーンがあるので、実際は関係があるんだろう。でも、検査の様子を見ていても、そこに「あたかもリアリティー」を感じられないのよね。
本作品は、その辺りのディティールの作り込みが浅薄なのよ。
もはや浅薄どころか、「ディティールって強いの?」とアラレちゃんみたいに能天気な感覚でしか考えていなかったんじゃないかとさえ思うぐらい、そこへの意識が全く見えてこない。

数馬が安藤の検査を受ける場所は、およそ病院には見えない。無駄に広い部屋に安藤しかいなくて、病院らしい設備は何も置いていないし。
病院のシーンで安藤と新木以外のスタッフが働いている気配が皆無ってのも、ものずこく不自然に思えるし。
ある意味、無機質な雰囲気もあるので、SFっぽさは出ているかもしれないよ。だけど仕掛けを考えても、そういうことよりは「病院としてのリアリティー」を優先した方がいいでしょ。
SFっぽさを強調したいのなら、今度は逆に「意匠が全く足りていない」ってことになるし。

水曜日だと知った数馬が病院への電話を思い留まって図書館へ行くのは、段取りとしては理解できる。
だけど、そこまでに「一度ぐらいは図書館へ行ってみたい」「他の曜日のように自由に過ごしたい」という強い渇望を充分に表現できていない上に、そこでの逡巡も皆無に等しい。
そのため、表面的で薄っぺらい展開と化している。
他の曜日と違い、ずっと指示通りに規則正しい生活を続けてきた奴が、そんな時だけ罪悪感ゼロでルールを逸脱して好奇心を満たそうとするのは、キャラ設定がブレているとも感じるし。

完全ネタバレだが、数馬の人格は次々に消滅しており、終盤に入ると水曜日と月曜日だけしか残っていない。水曜日の数馬には少しずつ異変が起きており、そんな謎の真相として、そういう答えが用意されているわけだ。
だから言わずもがなだろうが、そこは本作品にとって最も重要なポイントになっているはずだ。
ところが、そんな種明かしの手順が下手なので、「衝撃の真相」がボヤけてしまっているのだ。
せっかくの仕掛けなのに、「何だか分かりにくい」という状態になっているのだ。

終盤、火曜日の数馬は他の人格が消えることを望む月曜日に対し、「水曜も木曜も大事な物があって、大事な人がいて。僕のせいでお別れも出来なかった。だから返してあげなくちゃダメなんだ」と反発する。
彼は他の曜日の生活を想像し、痛みや悲しみを感じているのだ。
でも他の曜日が抱える「大事な物や人との関係」は、わずかな痕跡が見える程度だ。
っていうか、もっと言っちゃうと、彼は好きになった瑞野が水曜日と両思いだと気付き、「じゃあ水曜日を戻してあげないと」と思うだけだ。

その後には「安藤は7人の人格を守るために記録を改ざんしていた」と気付いたり、一ノ瀬が罪悪感を抱いて近付いたと知ったり、数馬には幾つかの情報が入る。
ただ、全てを総合しても、「全ての人格を取り戻すべき」という答えに至るのは、「なんだかなあ」と言いたくなるわ。多重人格は精神障害なんだから、1つの人格になるのがベストなんじゃないかと。
それを「全ての人格を取り戻す方が幸せ」という答えに辿り着かせるには、よっぽど説得力のある物語が用意されていないと無理だよ。
そんな物語が見当たらないことは、もはや言うまでもないよね。

(観賞日:2022年1月16日)

 

*ポンコツ映画愛護協会