『すべては君に逢えたから』:2013、日本

12月、東京。大友菜摘は友人からの電話で、クリスマス・イヴにカラオケ大会があると言われる。バイトがあるので断った彼女は、憧れの三上先輩が恋人と別れてカラオケ大会に来ることを聞かされる。告白するよう促された彼女は、「絶対に無理」と言う。電話を切った彼女は、大島琴子が営むケーキ屋のバイトに向かう。山口雪奈はメイクを済ませ、仕事に向かう。宮城県ゆりあげ地区では、津村拓実が仕事を始める。ウェブデザイン会社の社長を務める黒山和樹は、部下たちに厳しいダメ出しをする。彼は秘書の女性に、泣けるDVDを借りて来るよう頼む。新幹線の運転手である宮崎正行は、那須塩原を通過する。
寺井茜は好きな物について独り言を呟きながら、岸本千春が働く児童養護施設「すばる学園」に戻る。佐々木玲子は豊洲地域交流センターで芝居の稽古を積んでいる。デザイナーのアシスタントをしている雪奈はショーで使われるウエディング・ドレスのアクセサリーとブーケ全てのデザインを任される。建設会社の現場主任である拓実は復興市場を完成させるため、予定の遅れを取り戻そうと頑張っている。玲子は遠距離恋愛中の拓実に電話を掛け、イヴのブライダル・ショーのチケットを送ると告げる。「何時に行けるか分からないから」と拓実は言うが、玲子は「チケットは送っとくから」と告げる。「来週、出張でそっち行く」と拓実が話したので、玲子は喜んだ。
東京駅のエスカレーターに暗い顔で乗っている玲子の横を、和樹が駆け足で追い抜いて行く。正行は仕事を終えて、東京駅へ戻る。彼は上司から「本当に残念だ」と言われ、後輩から花束を贈られた。同僚たちの拍手を受けて、彼は最後の勤務を終えた。帰路に就いた彼は、少年野球をしている一人息子の幸治に手を振る。妻の沙織がやって来て、「お疲れ様でした」とねぎらいの言葉を掛けた。茜はベッドの上で、サンタクロースの絵本を読んだ。
拓実が東京へ来る日の朝、雪奈は彼からの電話で笑顔になる。和樹は秘書にDVDを返し、「泣けたよ。DVD選ぶセンスだけはいいね」と告げる。「今日はどうします?」と訊かれ、彼はシニカルで笑える話をリクエストする。千春は茜から「クリスマス・イヴ、サンタさん来てくれるかな」と問われ、「きっと来てくれると思うよ」と答える。「サンタさんに会えた人は誰もいないんだよ」と千春に言われると、茜は少し残念そうな様子を見せる。菜摘はケーキ屋が40年前から営業していると知って驚き、ケーキ作りを始めた理由を琴子に尋ねる。「素敵なチョコレートケーキに出会って、大失恋を忘れることが出来た」と彼は語る。
正行はケーキ屋へ行き、いつものクリスマス・ケーキを予約する。彼は幸治から「また会社休んだの?」と問われ、退職したことを初めて息子に明かす。幸治は両親に、小さい頃の話を家の人に訊いて書く宿題が出たことを話す。彼は23日に4年1組の教室で二分の一成人式があることを話し、招待状を差し出した。幸治が去った後、寿命に関して弱気な言葉を吐く正行に、沙織は明るく務めて「余命なんて当てにならないでしょ」と告げる。
茜はクラスメイトから「お父さんとお母さんいないの?」と問われ、「いる」と答える。「いつ会った」という質問に「会ってないけど」と彼女が言うと、クラスメイトは「いないってことじゃん」と指摘する。そこで茜は「サンタさんに会ったことなくても、サンタさんはちゃんといるでしょ。お父さんとお母さんだって、ちゃんといるもん」と告げる。しかしクラスメイトの母親が迎えに来たので、茜は寂しそうな表情を浮かべる。
すばる学園では毎年、クリスマスに観劇会が開催される。今年は『しあわせのとり』の上演が予定されており、出演者の玲子は打ち合わせで千春に会う。玲子は彼女に、その芝居を最後に女優を諦めて高知に帰郷することを話す。彼女は最後の贅沢として、未経験のオシャレな店に行ってみようと考えていた。玲子は高級レストランに入った直後、和樹も同じ店に来た。料理を食べた玲子は思わず「美味しい」と声を発し、和樹の視線に気付いた。
バーのカウンターで和樹と隣り合わせになった玲子は、「偶然ですね」と笑顔で話し掛ける。しかし和樹は彼女が金目当てで近付いたと決め付け、「ホントに偶然かなあ」と冷たい口調で言う。和樹の嫌味っぽい言葉に憤慨した玲子は、「ホントは彼と来るはずだったけど死んじゃった」と泣きながら芝居を始めた。和樹が動揺するのを見てから、玲子は店を去った。雪奈はブーケがドレスに合ってないとデザイナーに言われ、やり直しのために残業を余儀なくされる。拓実からの電話で、打ち合わせの後で食事をすることになったと彼女は聞かされる。拓実は「飯だけじゃ済まないと思うし」と言うが、何時でもいいから連絡してほしいと雪奈は告げる。
雪奈は仕事を終えて帰宅するが拓実と連絡が付かず、そのまま翌朝を迎えてしまった。目覚めた雪奈が電話を掛けると、拓実は先輩に付き合っていたことを話す。「何時でもいいから連絡してって言ったじゃん」と彼女が文句を言うと、拓実は「お前が良くても俺は朝イチで帰らなきゃいけないし」と面倒そうに話す。雪奈は東京駅へ行ってチケットを渡し、「充電」と言いながらギュッと抱き付く。先輩の女性が来たので、拓実は一緒にホームへ向かう。雪奈が「いってらっしゃい」と呼び掛けても、拓実は振り返らなかった。
和樹は姉である沙織からの電話を受け、正行が余命3ヶ月だと医者に言われたことを聞かされる。沙織は「想像付かないんだよね」と言い、泣き出してしまった。和樹は昼食に出掛けたレストランで玲子を目撃し、昨日の態度を謝罪した。玲子は困惑しながら「ホントにもういいですから」と言うが、お詫びをさせてほしいと和樹は告げる。
菜摘は琴子から好きな人について問われ、大学のサークルの先輩だと答える。告白したのか訊かれて「しません、自分に自信が無いから」と菜摘が言うと、琴子は告白すべきだと説く。「その人が運命の人かもしれないじゃない」と彼女が言うので、菜摘は運命の人に会ったことがあるか質問する。琴子は「ある」と答え、若い頃に駆け落ちしようとした相手がいることを話す。男は由緒ある家柄で、親の決めた結婚相手がいた。49年前のクリスマス・イヴに東京駅で待ち合わせたが、男は来なかった。それから会わなかったので、理由は聞かないままだ。「大昔のことよ、もう思い出すことも無いわ」と琴子は口にした。
算数のテストが悪かったのにゲームに興じる幸治を見て、正行は「先にやるべきことをやろう」と告げる。幸治がゲームを続けるので、彼は声を荒らげて叱責した。幸治は「うっせえな、仕事行けよ」と反抗し、その場を去った。やり直したブーケにOKが出て、雪奈は喜んだ。雪奈は拓実に連絡を取ろうとするが、返事は無かった。和樹は弁当を差し入れするため、玲子の稽古場を訪れる。和樹は玲子が練習している様子を見学し、微笑を浮かべる。「また会えるかな。お芝居やる時に知らせてくれたら」と和樹は言い、名刺を渡す。すると玲子は申し訳なさそうな表情を浮かべ、彼が死んだというのが嘘だと告白する。彼女は謝罪するが、和樹は「君は芝居する資格なんて無いよ」と非難して立ち去る。
どれだけメールや留守電を入れても拓実が返事をくれないので、雪奈は彼のいる民宿へ出向いた。雪奈が愚痴をこぼすと、「仕事で色々あってさ」と拓実は面倒そうに告げる。「もう平気だから、先輩に愚痴聞いてもらってスッキリした」と彼が言うので、雪奈は不機嫌になる。「そんなんじゃないから」と拓実は告げるが、「もういいよ、疲れてんだよ」と無愛想に言う。拓実の「雪奈には分かんないんだよ、チャラチャラした仕事とは違うから」という言葉に、雪奈は腹を立てた。すると拓実は「めんどくせえなあ」とため息をつき、雪奈と言い争いになる。拓実が別れを示唆する言葉を口にしたので、雪奈は民宿を立ち去った。
12月23日。朝から具合の悪そうな正行に、幸治は「来なくていいから」と告げる。しかし正行は沙織と共に、二分の一成人式の見学に赴く。作文を朗読することになった幸治は、正行と沙織が来たのを確認して笑顔を浮かべた。彼は教壇の前に立ち、「お父さんのように立派な新幹線の運転手になりたいです」と発表した。仕事に集中できない雪奈の様子を見たデザイナーは、自分の遠距離恋愛の経験があること、疲れ果てて終わってしまったことを話した。仕事の一段落した拓実は、夜中に雪奈の写真を眺めた。
12月24日。菜摘と琴子は朝からクリスマスケーキの飾り付けをする。すばる学園の面々は、市川教会でパーティーの準備を始める。正行はケーキ屋へ行き、予約しておいたケーキを受け取る。彼はグラウンドヘ行き、沙織が見守る中で幸治とキャッチボールをする。夜、千春や茜たちは玲子の芝居を観劇する。雪奈はブライダル・ショーの仕事に取り組み、、拓実は遅れて会場に現れる。仕事を終えた和樹は、玲子から手紙が届いていることに気付く…。

監督は本木克英 、脚本は橋部敦子、製作総指揮はウィリアム・アイアトン、製作は上木則安&遠藤真郷&島村達雄&宮田謙一&宮本直人&千代勝美、エグゼクティブ・プロデューサーは久松猛朗、プロデューサーは小池賢太郎&松橋真三、アソシエイトプロデューサーは相原勉、共同プロデューサーは山田周、撮影は橋本尚弘、編集は川瀬功、美術は金勝浩一、照明は後藤謙一、録音は栗原和弘、音楽は池頼広、主題歌「守ってあげたい」は ゆず。
出演は玉木宏、高梨臨、木村文乃、東出昌大、本田翼、市川実和子、甲斐恵美利、時任三郎、大塚寧々、山崎竜太郎、倍賞千恵子、小林稔侍、今野麻美、川口覚、小澤真利奈、岡本あずさ、竹森千人、松本公成、とむ畑中、田実陽子、市村涼風、信太真妃、松本来夢、大橋律、REIKA、Valery、夢子、山本ソニア、劇団め組、武田久美子、馬場真彦、能村祥代、西村香、清水丈史、武田洋平、秋本一樹、亀川雅史、新榮進悟、大澤智恵子、若尾義昭、小宮詩乃、越智友己、篠田光里、クシダ杏沙、辰巳直人、中泰雅、小玉さつき、石毛もいら、太田いず帆、福田ゆみ、津村知江、柿本拓実、伊波麻央、矢部裕貴子、灰谷悠子、藤井麻理子、鎌田将司、栗原昴己、栗原圭巧、堀内峻瑞、假野剛彦ら。


東京駅開業100周年記念企画として製作された映画。
監督は『鴨川ホルモー』『おかえり、はやぶさ』の本木克英。
TVドラマ『僕の生きる道』や『フリーター、家を買う。』などを手掛けた橋部敦子が、映画初脚本を担当している。
和樹を玉木宏、玲子を高梨臨、雪奈を木村文乃、拓実を東出昌大、菜摘を本田翼、千春を市川実和子、茜を甲斐恵美利、正行を時任三郎、沙織を大塚寧々、幸治を山崎竜太郎、琴子を倍賞千恵子、琴子が駆け落ちしようとした男の兄・松浦泰三を小林稔侍が演じている。
クロージング・クレジットでは「イヴの恋人」「遠距離恋愛」「クリスマスの勇気」「クリスマスプレゼント」「二分の一成人式」「遅れてきたプレゼント」という6つのタイトルが表記され、それぞれでメインとして扱われるキャストの名前が出る。
「イヴの恋人」は玉木宏&高梨臨、「遠距離恋愛」は木村文乃&東出昌大、「クリスマスの勇気」は本田翼、「クリスマスプレゼント」は市川実和子&甲斐恵美利、「二分の一成人式」は時任三郎&大塚寧々&山崎竜太郎、「遅れてきたプレゼント」は倍賞千恵子&小林稔侍だ。

しかし粗筋を読めば分かるように、そういう6つのエピソードが順番に描かれるオムニバス形式ではない。同時進行で進められていくし、それぞれのエピソードが始まる時に「イヴの恋人」や「遠距離恋愛」といったタイトルが表記されることも無い。
だからエンディングで6つのタイトルが表記されると、ちょっと違和感が否めない。
特に「クリスマスの勇気」というエピソードで本田翼が主演扱いされていることに関しては、「そこも1つのエピソードとして扱うのかよ」と言いたくなる。エピソードらしいエピソードなんて、何も無いのよ。
それは「遅れてきたプレゼント」も同様で、終盤に小林稔侍が登場するけど、そこまでに物語らしい物語なんて無いのよ。ただ倍賞千恵子が「かつて駆け落ちを考えた相手がいた」と喋るだけなのよ。

『ノッティングヒルの恋人』や『ブリジット・ジョーンズの日記』の脚本を手掛けたリチャード・カーティスは、2004年の『ラブ・アクチュアリー』で監督デビューを果たした。
クリスマスの5週間前から話が始まり、クリスマス・イヴにクライマックスを迎える構成だった。映画はヒースロー空港から始まり、最後もヒースロー空港で終わっていた。
そんな『ラブ・アクチュアリー』の日本版を意図して製作されたのが、この映画だ。
こちらはヒースロー空港が東京駅に置き換わるが、クリスマス・イヴってのは一緒だ。

『ラブ・アクチュアリー』は、オールスター映画のような様相を呈していた。主要キャストが19人いて、アラン・リックマン、ビル・ナイ、コリン・ファース、エマ・トンプソン、ヒュー・グラント、ローラ・リニー、リーアム・ニーソン、キウェテル・イジョフォー、キーラ・ナイトレイ、ローワン・アトキンソン、シエンナ・ギロリー、ビリー・ボブ・ソーントン、クラウディア・シファー、シャノン・エリザベス、デニース・リチャーズなどが出演していた。
さて、それに比べて本作品の顔触れはどうだろうか。
玉木宏、高梨臨、木村文乃、東出昌大、本田翼、市川実和子、甲斐恵美利、時任三郎、大塚寧々、山崎竜太郎、倍賞千恵子、小林稔侍。
どう贔屓目に見ても「オールスター」ではないし、顔触れとしては本家に全く敵わない。
そもそも日本で『ラブ・アクチュアリー』をやろうとしても、ただでさえ劣化版になってしまうことは確実なわけで。せめて出演者の部分だけでも頑張らないと厳しいだろうに、そこの頑張りが全く足りていない。

『ラブ・アクチュアリー』にしろ、『バレンタインデー』や『ニューイヤーズ・イブ』にしろ、1つ1つのエピソードは決して厚みや深みがあるわけではなかった。しかし、「1つ1つの話が粗筋を映像化したような薄さになっている」という部分が共通しているにも関わらず、『ラブ・アクチュアリー』は傑作に仕上がり、『バレンタインデー』や『ニューイヤーズ・イブ』は駄作になった。
その大きな原因は、「それがショート・ストーリーとして魅力的か否か」という部分にある。
『ラブ・アクチュアリー』は、1つ1つのエピソードがロマンティックな魅力に満ち溢れていた。
カップルをメインの観客層として想定したデート・ムービーだから、そこはとても重要な要素だ。「チャーミングの魔法」に掛けられているかどうかってのが、ものすごく大切なことだ。映画を見た観客が、劇中に登場するカップルに憧れるという、そんな気持ちを喚起するような描写が求められる。
それが『バレンタインデー』や『ニューイヤーズ・イブ』には欠けていた。
そして、この映画にも、それは無い。

「東京駅に始まり、東京駅に終わる」という構成は、実は成立していない。
冒頭、東京駅から和樹、玲子、菜摘は出て来るが、他の面々の初登場は東京駅じゃない。それどころか、千春や茜、琴子、沙織、幸治は最後まで東京駅に行かないままだ。
最後にしても、東京駅で話が締め括られるのは和樹&玲子と雪奈&拓実のエピソードだけ。
『二分の一成人式』は「正行が新幹線の運転手だった」という部分しか東京駅との関連性が無い。『遅れてきたプレゼント』は、「かつて琴子が東京駅から駆け落ちしようとした」という部分だけ。
極め付けは『クリスマスプレゼント』で、東京駅とは何の関連性も持たせていない。
そりゃダメだろ。

東京駅を「皆が集まるランドマーク」として設定しているにも関わらず、冒頭から宮城県ゆりあげ地区を出していることも失敗だろう。拓実は復興市場を作っている設定だが、「震災からの復興」という要素も絶対に要らない。
そういうの、ホントに邪魔だわ。
映画に携わる人々が震災について真剣に考えるとか、それに対するメッセージを作品に込めるとか、そういうのを全否定するわけじゃないのよ。ただ、この映画には邪魔なだけ。
この映画にとって必要なのはロマンティックな魅力であり、「私たちは震災のことを真剣に捉えてします」なんていう言い訳みたいな要素は邪魔。
あと、運転する新幹線が那須塩原を通過するというシーンで正行を初登場させるのも違うなあ。彼の初登場は、東京駅に戻った時でいい。もっと「東京」にこだわった方がいい。

それと、「いかにも日本的」と言えるのかもしれないけど、なんだか妙に湿っぽいというか、明るさや元気な雰囲気が足りないんだよね。
もっとハッピー満開で進めた方がいいだろうに、「なかなか会えずに寂しい遠距離恋愛の女」「女優を諦めて帰郷しようとする女」「両親に捨てられた少女」「余命3ヶ月の男と残される妻子」という風に、寂しさや不安や孤独といったネガティヴな気持ちを抱えている連中ばかりなんだよな。
しかも、和樹と玲子はカップルになり、雪奈と拓実はヨリを戻すけど、茜は両親と会えるわけじゃないし、正行は癌が治るわけじゃない。つまり、「最終的にはハッピーが待ち受けていました」という着地にならないのよ。それで日本版『ラブ・アクチュアリー』を目指そうってのは、根本的に間違っていると思うのよ。
『ラブ・アクチュアリー』を目指すなら、構成や展開といった外側の部分よりも、むしろ「ハッピーでロマンティックな愛の物語」という中身の部分を重視しないとダメでしょ。重要なのは皮よりも餡でしょ。
ぶっちゃけ、最もエピソードの中身が薄くて必要性の乏しい菜摘の明るく楽しい雰囲気こそが、この映画に必要なモノだわ。むしろ、そこを膨らませて、ちゃんとした1つのエピソードに仕立てた方がいいよ。

この映画って、総じて女性陣のキャラはそれなりに好感で持てるし、共感も誘うんだけど、男どもが総崩れになっている。
和樹は玲子が金目当てだと決め付け、失礼な態度を取る。嘘の芝居だったことを知ると、玲子が謝罪しても「君は芝居する資格なんて無いよ」と非難する。
でも、そもそも金目当てだと決め付けて、最初に無礼な態度を取ったのは和樹だからね。それを棚に上げて相手だけ非難する和樹には、まるで魅力を感じられない。
拓実はメールや留守電に難の返事もしないだけでなく、常に無愛想で面倒そうな態度を取り続る。「雪奈には分かんないんだよ、チャラチャラした仕事とは違うから」と言い放ち、そこに1ミリの悔恨も反省も見せない。
そんな拓実にも、やはり魅力が感じられない。

正行は余命3ヶ月なのに、そのことを幸治になかなか打ち明けない。クリスマス・イヴになって「自分はもうすぐ死ぬ」と息子に伝えるなんて、すんげえ悪趣味だよ。
あと、正行のエピソードに関しては、「問題が深刻すぎて、他のエピソードへ繋げた時に拒否反応が起きてしまう」という欠点もある。
和樹が沙織から泣きながら正行の余命について聞かされるシーンがあるんだけど、そこは当然のことながらシリアスに描かれている。でも、次のシーンで玲子と遭遇し、「済まなかった。大切な人を亡くされたのに」と謝罪するシーンは喜劇調なんだよね。
だけど、そこで「大切な人を亡くされたのに」と謝罪するのは、正行の余命を涙する玲子から聞かされたことと関連しているわけで。だから、それを喜劇のノリで描かれると、正行が余命3ヶ月という深刻なエピソードまで貶められているように感じちゃうんだよな。
まあ、そもそも「癌で余命3ヶ月」なんて深刻すぎるエピソードを入れたこと自体が間違ってると思うけどさ。

それと、横の繋がりが弱いんだよな。それぞれのエピソードのカップルや家族以外の関係性が、ものすごく弱い。「沙織と和樹が姉弟」「正行は琴子の店の客」「玲子が千春の施設で芝居をする」という以外に、接点が無いんだよね。
そのため、同時進行させても「それぞれのエピソードが交差したり、部分的に重なったりする」という面白味が無い。だから、ホントにオムニバス形式で作った方がいいんじゃないかと思ってしまう。
まあ、それだと「クリスマス・イヴに全ての話がクライマックスを迎える」という形を取れなくなるけど。
でも、企画を考えると、重要なのは「クリスマス・イヴ」という日より「東京駅」のはずだから、そこは『ラブ・アクチュアリー』の模倣に固執するよりも、オムニバス形式を選択した方が良かったんじゃないかなと。
どうせ『ラブ・アクチュアリー』の模倣じゃなくて、『ラブ・アクチュアリー』を模倣したゲイリー・マーシャル監督の『バレンタインデー』や『ニューイヤーズ・イブ』の模倣、というか超劣化版みたいな感じになっているんだし。

(観賞日:2015年5月30日)

 

*ポンコツ映画愛護協会