『ストロボ・エッジ』:2015、日本

高校生の木下仁菜子は電車に乗り、隣の車両にいる同級生の一ノ瀬蓮を眺めていた。蓮が妊婦に席を譲って立つ姿を目にした仁菜子は、隣の車両に移動した。彼女は蓮に会釈し、じっと見つめる。駅に到着して蓮が降りると、仁菜子は走って後を追う。彼女は蓮に呼び掛け、笑顔で「私、蓮君が好きです」と告白する。「でも俺、付き合ってる人がいるから」と蓮が言うと、仁菜子は「うん。知ってた。私がただ伝えたかっただけだから。スッキリした」と話す。「これからも今まで通り喋ってくれる?友達として」と彼女が告げると、蓮は「うん、もちろん」と答えた。
仁菜子が蓮を好きになったのは、列車内で落とした彼にスマホのストラップを踏まれた時だった。チャームを壊してしまった蓮は謝罪して「弁償します」と言うが、一目惚れした仁菜子は自己紹介した。後日、蓮は仁菜子の教室へ来て自分の選んだストラップを渡した。仁菜子は中学時代から親しくしている是永大樹に告白されるが、「ごめん、付き合えない」と断った。仁菜子が蓮を好きだと気付いている大樹は、「あいつ、彼女いるよ」と教えた。その恋人とは、大樹の2つ年上の姉である麻由香だった。
仁菜子は親友の上原さゆりと遠藤つかさから、「やめちゃいな、そんな報われない恋なんか」と助言される。しかし仁菜子は気持ちが抑えられず、駅で告白したのだった。告白したのは春休み直前で、高校2年になった仁菜子は蓮と同じクラスになった。つかさ&さゆりから挨拶して来るよう背中を押され、仁菜子は教室に入った。すると安堂拓海という男子生徒が彼女を見て、大声で「春休み直前に蓮に振られてた子だ」と言う。仁菜子は困惑するが、彼は「この学校じゃ、みんな知ってるよ」と告げる。
蓮は何も気にしていない様子で、「1年間、よろしくね」と仁菜子に言う。仁菜子は女子生徒の岡田や近藤たち5名から声を掛けられ、「みんな蓮君に振られた仲間なの」と聞かされる。彼女たちは仁菜子に仲間意識を持ち、「ムカつくでしょ」と問い掛ける。5人が蓮がモデルの麻由香と付き合っていることを悪く言うので、仁菜子は「なんで好きになった人のこと、そんな風に言えるの?」と反発する。「何一人でいい子ぶってんの。振られたのに彼女気取り?」と嘲笑された仁菜子が泣き出す様子を、拓海が見ていた。彼は通り掛かった蓮に、「彼女、お前のこと庇って泣いてんだぞ」と教えた。
クラスのイベントで買い出し係の立候補者が出なかったため、担任教師は蓮と仁菜子を指名した。拓海は立候補し、3人で買い出しに行く。そこに麻由香が車で現れ、4人でカフェで休憩することになった。麻由香は仁菜子のストラップに気付くと、蓮の一緒に買いに行った時のことを話した。麻由香は楽しそうに話すが、仁菜子は辛い気持ちを押し殺した。蓮と麻由香が仲良く歩く様子を、後ろから付いて行く仁菜子は切ない表情で見つめた。
仁菜子の様子に気付いた拓海は、信号が赤に切り替わるタイミングで嘘をついて呼び止め、蓮と麻由香だけが横断歩道を渡るよう仕向けた。拓海は「逃げよっか」と言い、仁菜子の腕を掴んで走り出した。公園で立ち止まった仁菜子は、拓海の気遣いに礼を述べた。翌日、拓海は蓮から「お前のノリに木下さんを巻き込むな」と苦言を呈される。蓮が「あの子は、お前が中途半端に付き合ってきた子たちとは違う」と言うと、拓海は「そんなこと言う権利も資格も、お前には無いんじゃないの」と返した。
仁菜子は大樹から、父が再婚すること、自分は賛成するが麻由香は「いつか家族で暮らせる日が来る」と信じていたことを聞かされる。蓮の帰りが早くなったことについて、「大樹はバイト始めたらしいよ。それに、ここんところ毎晩、姉ちゃんに会いに来てる」と言う。蓮は麻由香に、「俺が付いてるから大丈夫だよ」と優しく告げた。蓮は麻由香と毎晩会うために無理をしており、大樹は仁菜子たちの前で「いつ寝てるんだろうって思うよ」と口にした。
仁菜子は拓海に「そろそろ限界なんじゃないの、蓮のこと」と問われ、「私が勝手に好きなだけだから。友達でいられれば、それでいい」と言う。「人って欲張りなんだよ。本当に好きなら先を望んで当然。でも蓮に彼女がいる。見返りも求めずに、見つめるだけでいいっていう気持ちは、その内に限界が来るよ」と拓海は語るが、仁菜子は「私の限界を決めるのは安堂くんじゃない」と反発した。蓮は疲れが溜まり、駅で倒れてしまう。彼は麻由香の両親が離婚した時、彼女に「これからずっと、俺が傍にいるから」と約束していた。
ベッドで目を覚ました蓮は、仁菜子が付き添ってくれていたことを知る。「カッコ悪いよな。偉そうに支えてやるって言っておきながら」と蓮が漏らすと、仁菜子は「いいんだよ、たまには頑張らなくても」と明るく告げた。帰りの電車で仁菜子が寄り掛かって眠り込むと、蓮は自分の駅を乗り過ごして見守った。目を覚ました仁菜子が謝ると、蓮は「俺も寝てた。だから謝んないで」と言う。列車を降りた仁菜子は階段でつまづき、蓮に抱き止められる。蓮は仁菜子を抱き締めるが、すぐに離れた。
麻由香はマネージャーから、7月30日はエッジ・オブ・ザ・ワールドのパーティーがあるので空けておいてほしいと言われる。大きな仕事に繋がると言われた麻由香は即決でOKし、蓮に「仕事で花火大会に行けなくなった」と話す。拓海は仁菜子に「その内に限界が来るよ」という発言を謝罪した。仁菜子が「許す」と笑顔で言うと、拓海は「俺も辛い恋をしたことがあるからさ」と口にする。彼は中学時代に付き合った相手が親友だったこと、そいつに近付くために利用されたことを明かした。
拓海は「ある日、その子と親友に裏切られた。それからは、適当にしか女の子と付き合えなくなった」と言い、「だから今の恋は頑張るって決めたんだ」と述べた。拓海は半ば強引に、仁菜子と花火大会へ行く約束を取り付けた。拓海は蓮のバイト先であるレストランへ行き、「本気で好きになったから」と言う。その証拠として、彼は携帯電話にある女子のデータを全て消去した。花火大会に出掛けた仁菜子は拓海から「吹っ切る努力も必要だよ。他の誰かを利用しても」と言われるが、そんなズルいこと出来ないよ」と笑った。
中学の後輩だった杉本真央に話し掛けられた拓海は、怒りをぶつけて立ち去った。仁菜子が後を追うと、拓海は自分を利用した元カノが真央だと教える。彼はキレた行為を反省し、「悪いのは俺なんだ。真央の一番になる努力もしないで、その恋から下りた俺がダメ。その親友のことも許せなくて、突き放した」と語る。彼は自分を擁護してくれた仁菜子を抱き締め、「蓮を思う気持ちなんか、俺が全部消してあげる」と告げた。仁菜子が困っていると、彼は「返事は今は要らない。でも、その内きっと、限界が来るよ」と告げて去った。
仁菜子は蓮が働くレストランへ行き、彼が麻由香と楽しそうに話す様子を眺めた。窓の外に視線をやった蓮は、仁菜子が涙ぐんでいるのに気付いた。しかし少し目を離している間に、仁菜子は立ち去っていた。後日、麻由香は蓮を呼び出し、「お父さんのこと、もう全然平気。あの頃の私とは違う。もう大丈夫」と告げた。別れ話を切り出された蓮が当惑して「なんで?」と問い掛けると、彼女は蓮の胸を指差して「ここに違う誰かがいるでしょ。無理に消そうとしないでいいんだよ」と言う。「麻由香のためにする努力が、間違ってるって言うの?」と蓮が吐露すると、麻由香は「その努力は、私のためじゃない。あの約束を破らないためだけの物だよ」と指摘した。
2学期が始まり、真央が転校してきた。彼女は仁菜子の視線が蓮を追っているのに気付き、「好きなんですか」と尋ねる。「私は別に」と仁菜子が誤魔化していると、拓海がやって来た。彼は仁菜子を先に行かせて、真央に「あの子に何かしたら許さない」と凄んだ。仁菜子はさゆりとつかさから、蓮が麻由香と別れたことを聞かされる。チャンスだと言われた仁菜子は、「今はいいや、蓮君の気持ちを考えたら」と遠慮した。
鶴岡八幡宮へ遠足に出掛けた日、蓮は麻由香と別れたことを仁菜子に話した。彼が「麻由香の気持ちを無視して、俺の独りよがりを押し付けてた」と言うと、仁菜子は「相手のことを第一に考えて、自分が無理してでも我慢すればいいと思って。それが蓮君のいい所だと思う。きっと麻由香さんも分かってるんじゃないかな」と語った。蓮は麻由香に借りていた本とCDを返し、「俺も自分の変化を認めるべきだった。今までありがとう」と告げた…。

監督は廣木隆一、原作は咲坂伊緒『ストロボ・エッジ』集英社マーガレットコミックス刊、脚本は桑村さや香、製作は市川南、共同製作は岩田天植&野崎研一郎&井上義久&弓矢政法&吉川英作&高橋誠&宮本直人、エグゼクティブプロデューサーは山内章弘、企画プロデュースは臼井央&春名慶、プロデューサーは川田尚広&大西孝幸、プロダクション統括は佐藤毅、撮影は山田康介、美術は内京子、録音は深田晃、照明は かげつよし、編集は菊池純一、音楽は世武裕子。
主題歌『愛唄〜since 2007〜』whiteeeen 作詞・曲:ReeeeN。
出演は福士蒼汰、有村架純、山田裕貴、佐藤ありさ、入江甚儀、黒島結菜、忍成修吾、山田キヌヲ、淵上泰史、小篠恵奈、松尾薫、岡本杏理、今野鮎莉、西平風香、綾乃美花(現・田原可南子)、白石岬、中村有沙、寺田伽藍、小林優斗、藤井望尋(現・弥尋)、中谷太郎、大矢剛康、亀井有馬、大石悠馬、高橋悠、岡駿斗、風見梨佳、山田朝華、高橋朋伽、滝ジュリアナ、橋本美和、MIOW、近藤誠司、池田良、日暮丈洋、古谷佳也、三島ゆう、小川朝子、小嶋喜生、湯舟すぴか、星乃小夜利、安部一希、佐藤辰也、池亀佑哉、阿部智也、大桃准耶ら。


『別冊マーガレット』に連載されていた咲坂伊緒の同名少女漫画を基にした作品。
監督は『だいじょうぶ3組』『100回泣くこと』の廣木隆一。
脚本は『劇場版 BAD BOYS J -最後に守るもの-』の桑村さや香。
蓮を福士蒼汰、仁菜子を有村架純、拓海を山田裕貴、麻由香を佐藤ありさ、大樹を入江甚儀、真央を黒島結菜、さゆりを小篠恵奈、つかさを松尾薫が演じている。
他に、エッジ・オブ・ザ・ワールドのブランド・マネージャー役で忍成修吾、麻由香のマネージャー役で山田キヌヲ、担任教師役で淵上泰史が出演している。

この映画の約4ヶ月前に、同じ原作者の漫画を基にした『アオハライド』が公開された。
どちらも東宝の配給で、製作委員会の参加企業も博報堂DYメディアパートナーズやジェイアール東日本企画など6社が共通している。また、撮影監督まで同じ山田康介を起用している。
プロデュースの陣容が同じなのはともかく、撮影監督を一緒にするってのは、どうなんだろうなあ。当然のことながら「似たような映像」になることは確定的で。
同じ原作者の漫画を実写化するから、あえて同じ映像で撮ろうってことだったのかなあ。

『アオハライド』と比較すると、メイン2名のキャスティングは完全に本作品が上。それも圧倒的な勝利である。
『アオハライド』では本田翼と東出昌大がメインの高校生を演じていた。撮影当時、本田翼は22歳で東出昌大は26歳。
年齢的に厳しいということ以上に、「映画の中の高校生役に全く合っていない」という大きな欠点を露呈していた。
青春恋愛映画における高校生の「若々しさ」や「キラキラ感」に欠けており、学生服姿はコスプレにしか見えなかった。

本作品でメインの男女を演じたのは、福士蒼汰と有村架純。学年で言えば福士蒼汰が本田翼より1つ下、有村架純が2つ下ってことになる。
わずか1歳か2歳の差でしかないが、それ以上に「映画の中の高校生役に合っているかどうか」という部分が重要なわけで。
前述した『アオハライド』にしても、千葉雄大は何の問題も無かった。っていうか、原作ファンも大歓迎したピッタリのキャスティングだった。
福士蒼汰と有村架純は「この映画の高校生役に合っている」という意味で、『アオハライド』に完全勝利している。
「高校生の爽やかでピュアな恋愛劇」を描く上で、その素養を感じさせてくれる両者と言っていいだろう。

この映画、冒頭で通過儀礼のようなシーンが用意されている。そこを受け入れられるかどうかで、この映画を楽しめるか否かが決まると言ってもいい。
そこで無理だと思ったら、観賞をストップして別のことに時間を使うのもいいだろう。
中盤まで到達した辺りで「これは自分に合わない」と気付かされたら、そこまでの時間を無駄にしたことになる。
だけど冒頭で「この映画が自分に合うか合わないか」をハッキリと判断させてくれるシーンを用意してくれているんだから、かなり親切な作品と言ってもいいだろう。

その通過儀礼のようなシーンってのは、仁菜子が電車を降りた蓮を追い掛けて告白するシーン。
「周囲に乗客がいる中で平気で告白する神経って、どうなのよ」と引っ掛かったら、もうアウト。
付き合っている人がいると知りながら告白する大胆不敵さに嫌悪感を抱いたら、これまたアウト。
「私がただ伝えたかっただけだから。スッキリした」と仁菜子は言うが、自己満足のためだけに蓮を困らせる行動を取ることに否定的な感想を抱いたらアウト。
「これからも今まで通り喋ってくれる?友達として」と彼女は告げるが、「恋人がいると知っていて、これからも友達として付き合ってほしいと思っているなら、そもそも告白すべきじゃないだろ」という感想が湧いたら、やっぱりアウト。
そこで貴方は、本作品の観賞を続けるかどうかを判断できる。

私は幸いにも、そこを受け入れることが出来た。
ただし、それはドラマとして賛同できるとか、告白にキュンキュンしたとか、会話劇や演出が優れているからOKだったとか、そういうことでは断じて無い(そもそも受け入れることが出来たと前述したが、ギリギリのレベルではあるのだ)。
そこを私が受け入れることか出来たのは、「有村架純が仁菜子を演じているから」という一点に尽きる。
彼女が告白シーンを演じているから、「だったら仕方が無いか」という気になっただけだ。

ぶっちゃけ、ドラマとして告白シーンを受け入れやすくさせることだけを考えれば、冒頭に配置するのが望ましいとは言えない。
なぜなら、「付き合っている人がいるから断られると分かっているのに、そんな場所で告白してしまう」という仁菜子の心情に共感させるためのドラマが全く無い状態だからだ。
そもそも、この2人の関係性もサッパリ分からないわけで。なので、ザックリ言っちゃうと「突拍子も無い告白シーン」になってしまうわけで。
告白シーンを効果的に使いたいのなら、ちゃんと経緯を描いておいた方が得策だ。
そこを犠牲にしてまで観客への通過儀礼を用意してくれたんだから、製作サイドには感謝しておこう。

告白シーンでタイトルが入った後、仁菜子が蓮に一目惚れしたシーンが描かれる。だから、そこからは「仁菜子が蓮と親しくなっていく様子」が描かれるのかと思いきや、すぐに「仁菜子が大樹から告白されるシーン」が入る。
だが、そこで大樹は初登場なので、「そんなことより、お前は誰なんだよ」と言いたくなる。
告白シーンってのは、まずキャラ紹介をして、双方の関係を描いて、感情の高まる経緯を描いて、それから描くのが通常だろう。
この映画、通過儀礼として存在する仁菜子の告白シーンだけでなく、大樹の告白も「前振りゼロ」の状態で配置している。
意外性はあるが、それは決して歓迎できる類の意外性ではない。ただ唐突なだけだ。

なお、この辺りは分割画面を使うなど映像面で凝ったことをやっているが、それも全く効果的には機能していない。むしろ、なんか邪魔だ。
そこを過ぎると分割画面は終了するし、とりあえず落ち着いた時間帯に入る。
導入部の展開は、テンポ良くサクサクと進めることで観客を引き込もうという狙いがあったのかもしれない。ただ、そうだとしても、「すんげえ慌ただしい」という印象しか無い。
「告白したトコから本格的に話が始まる」という構成なので、そこを短く収めようとするのは仕方が無いのかもしれない。ただ、「それにしても」という感想が湧いてしまうぐらい慌ただしいのだ。
まるで告白までのシーンが前篇で、そこを「前作のおさらい」としてダイジェスト処理しているかのような状態なのだ。

拓海が仁菜子を見て大声で「春休み直前に蓮に振られてた子だ」と言ったり、「この学校じゃ、みんな知ってるよ」と告げるのは、表面的には「デリカシーの無い行為」に見える。
しかし、「駅のホームで告ったりしたら、噂になるに決まってるじゃん」という拓海の指摘は正しい。そもそも、駅で告白した仁菜子の行為にデリカシーが欠けているのだ(あと慎重さにも欠けている)。
仁菜子は居心地の悪そうな様子を見せているけど、「そこで気まずくなるぐらいなら、駅で告白しちゃダメだろ」と言いたくなる。「後先考えない行動だったの?バカなの?心底からバカなの?」と言いたくなる。
「つい衝動的に告白しちゃったけど、後でマズいことをしたなあと感じる」という手順でもあれば、まだ理解できなくはない。でも、そんなのは何も無いのでね。

仁菜子が告白するまでの経緯をダイジェスト的に片付けてしまった弊害が、その直後に待ち受けている。
彼女が高校2年になってからが「本格的な物語の始まり」になっているわけだが、そこで最初に登場するのは拓海だ。そして彼は仁菜子に好意を抱き、積極的に絡むようになる。そうなると、おのずと蓮よりも拓海の方がキャラとしてのアピールは強くなる。
そもそも、仁菜子は蓮の顔を見て一目惚れしているので、性格面は全く描かれていない。だから、その時点では「顔はいいけど中身は空っぽ」という状態なのだ。
その状態で拓海を登場させて積極的に動かせば、そうなることは必然と言えよう。

蓮は麻由香とラブラブだし、前述したような事情で内面の魅力が全く描写されていない。
一方、拓海は少しチャラい雰囲気はあるものの、ちゃんと気遣いも出来る優しい男として描かれている。
なので、「だったら仁菜子と拓海が付き合う恋愛劇にすれば丸く収まるじゃん」と言い痛くなってしまうが、そうは問屋が卸さない。何しろ拓海ってのは、少女漫画における「ヒロインの相手役」としては不適格なキャラなのだ。
なので、仁菜子は拓海の気遣いには感謝するが、蓮への思いは揺るがない。

あらかじめ「仁菜子と蓮がカップルになる」ってのは定められているし、そんなことは観客だって百も承知だ。原作を読んでいなくても、誰だって分かることだ。
なので重要なのは、「あらかじめ定められた結末に至るドラマを、いかにスムーズに、いかに説得力のある形で進めることが出来るか」ってことだ。
そして、その重要なポイントで、この映画は失敗をやらかしているわけだ。
キャラとしては不適格であっても、蓮より拓海の方が中身がある状態になっているんだから、それはマズいでしょ。

「分割画面が終わって落ち着いた時間帯に入る」と前述したが、そう感じるのは一瞬だった。分割画面のパートに比べればマシだが、それ以降も余裕の無い進行が続く。
拓海が買い出しから仁菜子を連れて逃げるシーンの後、次のシーンでは拓海が「お前のノリに木下さんを巻き込むな」と拓海を注意する。次のシーンでは、蓮が駅で仁菜子と話す。次のシーンでは、大樹が父の再婚について話す。
その辺りの展開は、幾つかのエピソードが抜け落ちているかのような印象を受ける。
特に、大樹が父の再婚について話すシーンは、「そういう段階に至るのは、まだ早すぎやしないか」と感じてしまう。でもラストから逆算すると、その辺りには配置しなきゃ収まらないんだろう。
ってことは、内容を詰め込み過ぎってことだ。

あと、再婚話が持ち上がったのと同じタイミングで「蓮がバイトを始めた」という要素が示されるが、そこの意味がサッパリ分からない。
何か大きな目的があって、それが仁菜子との恋愛劇に絡むのであれば、話の途中で「バイトを始める」という手順を入れるのもいいだろう。
でも、まるで関係が無いので、「それ要る?」と言いたくなる。少なくとも、そのタイミングじゃないだろうと。
「麻由香が父の再婚に動揺する」という手順があるんだから「心配した蓮が毎晩会いに行く」というだけで良くないか。

「麻由香と毎晩会うために無理をする」という展開を入れるためには、「蓮がバイトを始めた」という要素が必要だろう。
しかし、以前からバイトをしていたわけではなく、そのタイミングで急に始めたことになっている。
バイトをしている様子さえ描かれていないのだ。
なので、「無理を続けた蓮が疲れを貯め込む」という展開のためだけに「バイトを始めた」という要素を持ち込んだのはバレバレだし、ものすごく不恰好になっている。

ただし、そもそも蓮と麻由香の関係が薄っぺらいという問題もあり、そこは「バイトが云々」という要素を外しても解決できない。
ホントなら、「父親の再婚話で麻由香が動揺する」という手順の前に、2人の関係をもっと充実させておくべきだ。
何しろ、その時点では、まだ麻由香がモデルとして活動している様子さえ一度も描かれていない。表紙になった雑誌がチラッと写るだけだ。人気モデルなら街を歩いている時に気付かれることもありそうだが、そういう気配も無いし。
「麻由香のモデルという職業が設定だけで終わっている」という一点を取っても、いかにも描写不足かってことだ。

前述した再婚話ってのは、蓮と麻由香の関係に変化をもたらすポイントのはずだ。だが、変化の前には、ある程度の「安定した交際」が必要なわけで。そこが無いまま変化のターンに入ると、「変化」としての意味が弱まる。
ところが、もっと大きな問題があって、それは再婚話が本来あるべき意味での「関係の変化」に繋がらないってことだ。
麻由香は父の再婚で激しく動揺していたはずだが、シーンが切り替わって夏休みに入ると、すっかり元気になっている。パーティーに参加して、新しい仕事がゲットできそうな感触を喜んでいる。父の再婚話なんて、どっかに忘れ去られる(ついでに大樹の存在も、ほぼ忘れられている)。
結局、バイトだけではなく再婚話も含め、「蓮が倒れて仁菜子が付き添い、蓮が仁菜子を抱き締める」という手順のためだけに用意された要素だ。
そこから逆算するのは別にいいとして、「それが終わったら簡単に捨てる」という無造作な扱いが作品の質を著しく下げている。

最初から蓮に恋人がいなかったり、麻由香との関係が破綻寸前だったりすれば、「仁菜子とカップルになる」という着地までの道筋は、そんなに難しくないだろう。
「最初は仁菜子の片思いだったけど、やがて彼女の魅力に蓮も惹かれ始めて」というのをふつうに描けばいい。
しかし蓮は麻由香とラブラブな状態なので、そこから「仁菜子のことも気になり始めて、やがて完全に気持ちが傾いて、麻由香との関係を終わらせて」という手順を踏まなきゃいけないので、なかなか大変な作業が必要になる。
ところが、この映画では意外に楽な感じで、そこの作業が片付けられている。

ただし、それは「見事な作業だった」とか「裏技を使った」ということではなくて、「やるべきことをやらずに手抜き工事で片付けている」というだけだ。
だから、「蓮が仁菜子に少しずつ惹かれていく」という経緯は、まるで厚みが無い。
思わず仁菜子を抱き締めたシーンで「惹かれている」ってことは伝わるが、ただの段取り芝居に過ぎない。
「麻由香との関係を終わらせなきゃいけない」という、最も困難になるはずの障害も、「蓮の気持ちに気付いた麻由香が別れを切り出す」という形で、笑っちゃうほど都合良く片付けられている(その笑いは失笑だが)。

前半だけで役目を簡単に終わらせるなら、そもそも麻由香なんて要らなくないかと思ってしまう。
ただ、彼女との恋愛劇を前半で終了させなきゃいけない事情があって、それは「後半は真央を使って話を進めるから」ってことだ。その話がメインになった時に、麻由香は邪魔な存在なのだ。
だから事情は理解するが、だからって賛同するわけではない。「だったら、どっちかに絞れば良くないか」と思ってしまう。
「どっちか」ってのは、「麻由香を使った話」と「真央を使った話」ってことだ。

原作ファンからすると、「麻由香を使った話」と「真央を使った話」の両方あっての『ストロボ・エッジ』と言いたくなるかもしれない。
しかし、両方を盛り込んだせいで、まとまりが悪いことになっているわけで。
前半と後半で話が分断されており、そこが上手く連携していない。
さすがに、この話を2部作で作るってのも無理があるだろうし、だから思い切って削ぎ落としたり改変したりするのが、ベストとは言わないまでもベターかなと。

(観賞日:2016年9月2日)

 

*ポンコツ映画愛護協会