『ストロベリーナイト』:2013、日本

警視庁捜査一課殺人犯捜査十係姫川班の姫川玲子が部下の菊田和男とバーで飲んでいると、入院している係長の今泉春男から連絡が入った。中野東署管内で男の死体が発見されたと聞き、姫川と菊田は現場のアパートへ向かう。姫川班の葉山則之、石倉保、湯田康平は、既に現場へ入っていた。被害者は小林充という男で、龍崎組仁勇会の下部組織、六龍会の構成員だ。鑑識課の小峰薫によると、死後1週間は経過しているという。第一発見者は被害者と内縁関係にあった住人の女性で、海外旅行から戻って死体を発見していた。
小林は体に複数の刺し傷があり、右目は切り裂かれていた。同じ手口による殺人事件が、5日前に三鷹、3日前には業平橋で起きていた。現場にやって来た管理官の橋爪俊介は、合同捜査本部が設置されることを告げた。一方、龍崎組若頭補佐で直系傘下「極清会」会長でもある牧田勲は、側近の川上義則を引き連れ、中国料理店で男と会っていた。牧田は不動産会社社長の槇田功一という偽の肩書きを持っており、男は真っ当な会社だと信じていた。しかし牧田は本性を現し、川上に男を恫喝させて書類への署名を要求した。牧田が店を出ると子分が歩み寄り、小林が殺されたことを報告した。
合同捜査本部には、捜査十係日下班の日下守、組対四課の片山正文や宮崎真一郎、それに中野東署の井岡博満も現れた。彼は昇任したはずだが、懲戒処分を受けて異動になっていたのだ。捜査一課長の和田徹が部屋に現れ、会議が始まった。被害者が全て龍崎組の構成員だったことから、組対四課は内部抗争だと断定する。龍崎組では組長の龍崎神矢が長期入院中であり、若頭で仁勇会会長の藤元英也が実質的に組織を仕切っていた。藤元を快く思わない面々もいるため、勢力争いに絡んでの事件だと決め付けたのだ。
姫川は連続殺人事件だと断定することへの疑問を提示し、日下も彼女に同調した。片山たちが組対だけで捜査することを要望すると、和田は情報共有の徹底を条件に承諾した。会議が終わって全員が部屋を去った後、姫川は忘れ物を取りに戻った。部屋の電話が鳴ったので彼女が受話器を取ると、相手は機械で作られたような感情の無い声で「小林充を殺したのは柳井健斗、26歳」と告げて切った。姫川は今泉の見舞いに赴き、電話のことを話す。柳井健斗の名前を聞いた今泉は、「ちょっと俺に預からせてくれ」と述べた。
次の日、姫川は橋爪から呼び出され、「柳井健斗には触れるな」と指示される。橋爪の言葉で、姫川は上層部の命令があったことを知る。しかし納得できない彼女は、その命令に従おうとはしなかった。一方、龍崎組では定例会が開かれ、幹部の三原は藤元が組を売るような行動を密かに取っている藤元を激しく糾弾する。牧田が仲裁に入ると、藤元は「いい気になってると潰すぞ」と凄んだ。藤元が去った後、牧田は憤りを示す三原を制して「俺に考えがある」と口にした。
姫川は資料室の林克彦に柳井健斗のことを尋ね、彼が9年前の事件に関わっていることを知る。しかし事件解決後、資料は全て処分されていた。姫川はネットや当時の雑誌を当たり、事件について調査した。刑事部長の長岡征治は和田と橋爪を呼び、「9年前の事件のことが蒸し返されたら、警察の威信は地に落ちます」と告げて徹底的な隠蔽を命じた。菊田は単独行動を取る姫川に、何を調べているのか教えてほしいと要求した。姫川は「小林充を殺したのは柳井健斗です」と告げ、密告電話のことを明かした。
姫川は菊田に、9年前の事件について語る。三鷹のアパートで一人暮らしをしていた健斗の姉・千恵が殺され、父親の篤司が強姦殺人の容疑で警察から事情聴取を受けた。千恵が家を出たのは、死んだ母親の身代わりとして性的虐待を繰り返す父親から逃げるためだったというのが警察の見解だった。しかし殺害を否定した篤司は、健斗の眼前で警官の拳銃を奪って自害した。菊田は姫川に、篤司にアリバイがあったという噂が出たことを教える。それを聞いた姫川は、9年前の犯人が千恵の恋人だった小林ではないかと睨んだ。
警察が9年前の失態を隠すために柳井健斗の関与を排除しようとしていると確信した姫川は、彼を追うことに決めた。菊池は危険すぎると考えて反対するが、姫川は「貴方は何も聞かなかった、何も知らない」と強い口調で告げた。彼女は単独行動を続行し、健斗のアパートを突き止めた。健斗が帰って来ないので、彼女は車で張り込むことにした。一方、捜査会議の指針に沿って聞き込みを行った菊田たちは、小林は三下のチンピラであり、抗争で殺されるような人間ではないという情報を得た。
姫川は健斗の部屋を訪れた牧田を発見し、駆け寄って声を掛けた。相手が刑事だと知った牧田は、不動産会社社長の名刺を差し出した。姫川は取り調べのように、矢継ぎ早に質問を浴びせた。牧田は姫川を健斗のバイト先である漫画喫茶まで案内し、彼女の名刺を貰った。漫画喫茶店員の内田貴代に話を聞いた姫川は、健斗が先週から無断欠勤していることを知った。貴代は健斗の恋人で妊娠しており、それを打ち明けたから彼が逃げたのではないかと考えていた。
捜査五係の勝俣健作は長岡の指示を受け、健斗の捜索を開始した。牧田は龍崎の見舞いに訪れ、藤元を後継者に据えると告げられる。反発を感じる牧田だが、素直に従う素振りを見せた。姫川はレストランで牧田と会い、健斗のことを詳しく尋ねた。姫川は牧田に、健斗が別の仕事をしていたらしいという貴代から仕入れた情報を教えた。牧田と別れた姫川の前に菊田が現れ、藤元が殺されたことを報告した。これを受け、捜査本部の方針は完全に内部抗争の線で固まった。
牧田は龍崎組幹部の水谷と島本に呼び出され、藤元を殺した犯人として疑われる。潔白を主張する牧田だが、証拠の提示を要求された。姫川は葉山たちから捜査を手伝わせてほしいと言われるが、詳しいことを話そうとはしなかった。姫川が日下に呼び出されて今泉の病室へ行くと、勝俣と橋爪がいた。勝俣や今泉たちは、健斗から手を引くよう要求した。姫川が拒否すると、今泉は「和田さんを守りたいんだ」と口にする。今泉や橋爪たちは、「和田学校」の生徒だった。
藤元殺しの現場近くで発見された拳銃からは、健斗の指紋が検出されていた。しかし長岡が了承しない限り、指紋は表に出さないという。和田は現在の捜査一課を作った功労者であり、今泉や橋爪たちは彼を尊敬していた。引退を控えた和田に汚点を残したくないというのが、彼らの考えだった。和田は保身を考えて動く人間ではなく、姫川の動きを知った上で自由にさせていることも今泉たちは話す。今泉は頭を下げてお願いするが、姫川は拒絶した。
牧田は健斗に電話を掛けるが、繋がらなかった。牧田は健斗と会った時のことを回想する。健斗は姉が抱えている苦しみを知り、恋人である小林に助けてもらいたいと考えていた。しかし小林は千恵が篤司と性的関係を持っているのを目撃し、逆上して彼女を殺害した。それを知った健斗は小林を殺そうとしたが、失敗に終わった。そこで彼は、牧田に情報屋として協力し、それと引き換えに小林の殺害を依頼していたのだった。
牧田はホテルのロビーで姫川と会い、健斗の情報を少しだけ流して調べさせようと目論む。そこへ仁勇会の連中が現れて突っ掛かって来たため、牧田は姫川を連れて立ち去ろうとする。しかし仁勇会の連中が執拗に絡んで来たため、牧田は彼らを蹴散らした。その際、牧田の体に彫られた刺青を姫川は目撃する。姫川に詰め寄られた牧田は、自分の素性を明かした。姫川は激怒し、その場から立ち去った。
姫川が牧田と会っていたという情報を葉山は後輩から聞かされ、菊田に伝えた。菊田は極清会に乗り込み、牧田に健斗との関係を尋ねる。姫川は牧田に電話を掛け、面会を求めた。電話を切った牧田は、菊田の訪問理由が「姫川に近付くな」と要求することであり、彼が姫川を愛していることを指摘した。そして彼は「でもアンタじゃ無理だよ。アンタは彼女の闇を知らない。もし知ったとしても理解は出来ない。だってアンタ、人、殺せないでしょ」と告げる…。

監督は佐藤祐市、原作は『インビジブルレイン』(光文社文庫刊) 誉田哲也 著、脚本は龍居由佳里&林誠人、製作は亀山千広&細野義朗&市川南&山田良明&高橋基陽、エグゼクティブプロデューサーは種田義彦、プロデューサーは成河広明&土屋健&高丸雅隆&江森浩子、アソシエイトプロデューサーは佐藤未郷、撮影は川村明弘、照明は阿部慶治、映像・カラリストは高梨剣、録音は金杉貴史、編集は田口拓也、選曲は藤村義孝、美術デザインは塩入隆史、美術進行は藤野栄治、音楽は林ゆうき。
出演は竹内結子、西島秀俊、大沢たかお、三浦友和、小出恵介、宇梶剛士、丸山隆平、田中哲司、石橋蓮司、鶴見辰吾、金子賢、武田鉄矢、田中要次、半海一晃、津川雅彦、渡辺いっけい、遠藤憲一、高嶋政宏、生瀬勝久、染谷将太、金子ノブアキ、伊吹吾郎、今井雅之、柴俊夫、、中林大樹、井上康、岡本あずさ、潮見諭、花王おさむ、菅田俊、神尾佑、小須田康人、飯田基祐、横山美雪、渡辺憲吉、岡本玲、阿部亮平、松本実、青柳翔、松上順也、田崎トシミ、龍坐、栗田将輝、上谷健一、岩鬼安武、坪谷隆寛、三枝龍司、関谷知大、中田敦夫、河本タダオ、内田恵司、五刀剛、吉藤健太郎、平野靖幸、笹木重人、原元太仁、筑波竜一、日野出清、村上和成、黒石高大、中松俊哉、広瀬彰勇、内田量子、平子北斗、山本禎与、浅井未来ら。


誉田哲也の警察小説「姫川玲子シリーズ」を原作とするフジテレビ系列で放送された同名TVドラマの劇場版。
原作シリーズの第4作である『インビジブルレイン』を基にしている。
姫川役の竹内結子、菊田役の西島秀俊、國奥役の津川雅彦、葉山役の小出恵介、石倉役の宇梶剛士、湯田役の丸山隆平、勝俣役の武田鉄矢、橋爪役の渡辺いっけい、日下役の遠藤憲一、今泉役の高嶋政宏、井岡役の生瀬勝久、小峰役の田中要次、林役の半海一晃は、ドラマ版のレギュラー陣(半海は第8話のみ)。
他に、牧田を大沢たかお、和田を三浦友和、川上を金子賢、藤元を鶴見辰吾、龍崎を石橋蓮司、長岡を田中哲司、健斗を染谷将太、小林を金子ノブアキ、水谷を伊吹吾郎、宮崎を今井雅之、片山を柴俊夫が演じている。

姫川が捜査本部へ忘れ物を取りに戻り、他に誰もいない時に密告電話が掛かって来るというのは、ものすごく都合のいい展開だ。
まるで、そこに姫川だけがいることを分かっているかのようなタイミングの良さである。
片山たちが捜査本部で姫川に牧田のことを話した時、彼の顔写真を提示しないので姫川は「牧田と槇田は同一人物」と気付かないままってのも、ものすごく都合のいい筋書きだと感じる。
あと、今泉が胃潰瘍で入院しているという、ストーリー展開には全く無関係の設定は何なのか。高嶋政宏のスケジュールの都合で、拘束できる撮影期間が短かったのか。

この映画が公開された当時、『姫川班、最後の事件』という惹句が使われていたと記憶している。
しかし本作品、「姫川班」として捜査に当たる時間は、ものすごく短い。捜査が行われている最中、その大部分において姫川が単独行動を取ってしまうのだ。
だから「宣伝文句と中身が違うじゃないか」と言いたくなる。そもそも、そんな宣伝文句が無かったとしても、TVドラマ版からの流れを考えれば、チームとしての活躍を描くべきじゃないかと思うし。
ぶっちゃけ、この映画版だと、姫川班では姫川と菊田さえいれば話が成立してしまう。
他の面々は、「ドラマ版のレギュラーだから、とりあえず出しておこう」という程度の存在なのだ。

しかも、姫川はただ単独行動を取るというだけではない。もちろん事件の捜査もするのだが、それよりも恋愛に対する意識が強くなっている。
この作品、「姫川個人の物語」というだけに留まらず、「姫川の恋愛劇」になってしまっているのだ。
恋愛の要素を全く入れるなというわけではない。
ただ、ドラマ版から見ていたファンが劇場版に期待するのは、果たして恋愛に重きを置いた内容なのだろうか。そこに大きな疑問を抱かざるを得ない。

しかも、その姫川と牧田によって展開される恋愛劇が、ちっとも魅力的ではないと来てるんだよな。
姫川が牧田をヤクザだと気付かないまま何度も会うのはバカにしか見えないし、正体を知った上で惹かれるのもバカにしか見えない。
彼とカーセックスを始めるに至っては、どうしようもなく呆れるほどバカ。
そもそも姫川のトラウマを考えた時に、その状況で誘って来た牧田を受け入れてカーセックスに及ぶというのは違和感があるし。

「牧田も姫川も地獄を見ており、互いに心の闇を抱えている2人が惹かれ合う」ということにしたかったんだろうが、牧田の抱えている心の闇に関しては、短い回想シーンと姫川のセリフによる説明で、雑に処理されるだけだ。
だから、似た者同士が惹かれ合うってのが全く伝わって来ない。
それに、姫川が牧田のどこに、どの辺りから惹かれていたのかもサッパリ分からない。
たぶん強引なキスからセックスに及ぶってことは、まだ正体を知らずに会っていた頃から惹かれていたんじゃないかとも思うが、そんな気配は皆無だったし。

「姫川が牧田に近付いたのは事件を探るためだ」という言い訳を百万歩譲って受け入れるとしても、結果として姫川が事件解決において全くの役立たずなので、やっぱりバカにしか見えないのである。
姫川が捜査を進めて手に入れた情報ってのは、とっくの昔に警察上層部が知っていることばかりだ。
そして、そのことを姫川が指摘したり糾弾したりする前に、和田が記者会見を開いて全て明かしてしまう。
つまり、今回の事件解決に関して、姫川がいてもいなくても、ほとんど支障が無い。

3つの殺しの犯人に関しては、姫川が捜査して突き止めるのではなく、向こうから勝手に姿を見せてくれる。
面倒なので書いてしまうが、小林を殺したのは牧田で、隠蔽工作は川上。
他の殺しは川上の仕業で、兄貴として慕うする牧田のために、彼の出世に邪魔な連中を次々に殺していたというのが真相だ。
で、それぐらい川上が牧田に心酔しているってのが犯行の動機なんだから、もっと2人の尋常ではない絆の強さについて観客に強くアピールしておく必要があるだろうに、そこがものすごく脆弱。

牧田の犯行に関しては姫川が突き止めているのだが、その証拠ってのが、ものすごく無理のあるブツなのよね。
それは牧田がビビった健斗に代わって(っていうか被害者家族をバカにした小林の言葉に逆上して)殺しを遂行した際、健斗が密かに録音していた音声テープで、恋人の貴代に預けていたのを姫川が入手し、牧田に突き付けるのだ。
健斗が録音していた理由について姫川は「生まれてくる子供のために金を残そうとしたのでは」と言っているけど、あの状況で録音するってのは不自然だよ。
だって、本来は健斗が殺すはずだったわけで、それは自分が殺した証拠になっちゃうのよ。

それに、「これから人を殺します」という状況で、「何かあれば牧田を脅して金を取るための道具になるから、録音しておこう」という考えが沸くかね。
怒りと憎しみをたぎらせ、姉の復讐を果たそうとしているような奴が、そんな余裕を持てるかね。
それと、相手がどんな人間なのかは分かっているわけで、「平気で殺しをやるようなヤクザを脅して金を取れ」という意味で、恋人に証拠を渡すかね。
ホントに金を脅し取ろうとしたら、恋人が危険にさらされることぐらい分かりそうなものだぞ。

描写が脆弱だと感じるのは、牧田と川上の関係だけでなく、「和田学校」関連の部分も同様だ。
今泉たちは和田の生徒であり、「彼を守るためなら何だってする」というぐらいに尊敬しているが、ここの結び付きの強さも、まるでピンと来ない。
和田学校については今泉たちが台詞で軽く説明するだけだし、和田の人物描写もペラペラだ。
終盤の記者会見を除けば、和田が登場せずに今泉たちの台詞で名前が出るだけという扱いだったとしても、まるで支障が無いのだ。

牧田が抱えている心の闇&川上との絆、隠蔽を指示された和田の苦悩&和田学校の生徒たちとの絆、そういった辺りに厚みを持たせて物語を構築していくべきじゃないかと思うんだが、「姫川の物語」ばかりに意識を取られているんだよな。
だけど姫川の恋愛劇なんかより、もっと和田をフィーチャーした方が面白くなりそうなんだよな。
極端な話、姫川を完全に脇へ回して、和田を実質的な主人公として配置してもいいんじゃないかと思ってしまったぐらいだ。

(観賞日:2014年2月4日)

 

*ポンコツ映画愛護協会