『スチームボーイ』:2004、日本

アラスカ。ロイド博士と息子のエディは蒸気の実験を行っていた。ロイドは「このままではセンターバルブが持たない」という息子の反対 押し切り、全てのバルブを開けて圧力を上げる。機械が損傷したため、慌ててエディはバルブを閉じようとするが、蒸気の大量噴射に 巻き込まれた。1866年、イギリスのマンチェスター。ケリガンの工場でボイラーが故障した。ピートの手伝いをしている少年レイは、中に 入ってバルブを閉める。蒸気が大量噴射し、暴走は止まった。しかし機械の損傷が激しかったことにケリガンは激怒し、ピートとレイに 「破損部品の代金はお前らの給料から引くからな」と告げた。
レイは新聞売りをしている親友デビッドと出会い、真鍮製のバルブを拝借してきたことを明かした。アレックスと仲間たちは、レイの祖父 ロイドと父エディを馬鹿にした。レイはアレックスに殴り掛かり、「2人ともアメリカで研究してるんだ」と声を荒げた。彼は母と暮らす 自宅に戻り、発明に取り組んだ。夕食の時間、母はレイに、幼馴染の少女エマと弟トーマスを1週間預かることを告げた。
翌日、アメリカで研究をしているロイドから箱が送られてきた。箱を開けると、金属の球体“スチームボール”と図面が入っていた。直後 、オハラ財団のアルフレッドとジェイソンが訪れ、「本当はスチームボールをロンドンの博覧会に送るはずだったが、手違いがあった」と 説明した。しかしレイは「自分が帰るまで誰にも渡すな」と記されたロイドの手紙を読んでいたため、引き渡しを拒絶した。その手紙には 、「特に財団の人間には絶対に渡すな」とも書かれていた。
そこへロイドが現れ、レイに「そのボールを奴らに渡してはならんぞ。そのためにエディは死んだ」と告げる。彼は「ボールと図面を 持ってスチーブンソンの所へ行け。絶対にロンドンへやってはならん」と叫び、アルフレッドたちを妨害する。エマに引っ張られて外に 出たレイは、自分の発明した蒸気自転車を使おうとする。そこへ自走蒸気機関が突っ込んできたため、慌ててレイは逃げ出した。追跡を 受けたレイは、蒸気機関車に乗り移った。機関車に乗っていたデイビッドという男の運転によって、自走蒸気機関は川に落下した。彼は ロバート・スチーブンスンの部下だった。
ロバートとデイビッドは、ロイドの手紙が届き、彼と落ち合うためにマンチェスターにへ来たのだと説明した。ロバートは、ロイドとは 20年来の研究仲間だという。レイがスチームボールを見せたところへ、気球に乗ったオハラ財団の連中が襲ってきた。ネットで捕獲された レイは、ボールを奪い合って揉み合う。するとバルブが開き、そこから高圧の蒸気が噴射されて家屋を破壊した。慌ててレイはバルブを 閉めた。そのままレイは連行されていった。
ロンドン。豪華客船で到着したオハラ財団の会長の孫娘スカーレットは、丁重に迎えた社長のサイモンに「何よ、ここ。天気は悪いし、川 は汚れてて臭いし、最低ね」と文句を言う。レイが一人で待たされている食堂へ、スカーレットとサイモンがやって来た。2人が食卓に 座ったところへ、レイが死んだと聞かされていたエディが現れる。彼は自分の仕事ぶりを見せると言い、レイを連れて行く。2人が昇降機 に乗ると、スカーレットが追って来た。
エディはレイに、詳しいことを語り始めた。かつて彼とロイドは、超高圧を作り出す純度の高い安定した液体を探していた。3年前、彼ら はアイスランドの洞窟でそれを発見した。1863年の実験によって、超高圧の蒸気を高密度の状態で封じ込めることに成功した。エディは 「アイルランドで作ることが出来たボールは全部で3個。それで城の全ての動力をまかなっている」とレイに語った。エディは、自分の 発明がエネルギーのロスを無くすシステムであり、それを使え空を飛ぶことさえ出来ると述べた。
エディはレイを最上階へ連れて行き、「スチーム城のコントロール・ルームだ」と告げた。レイがスカーレットに誘われてバルコニーに 出ると、そこからは博覧会場が一望できた。エディは「博覧会場は素晴らしいが、このスチーム城の前には、ガラクタにも等しい」と言う 。レイが「何なの、そのスチーム城って」と訊くと、エディは「スチーム城の力は細分化され、ありとあらゆることに使われていくことに なる。長く苦しい労働から人間を解放し、自然の災害にさえ立ち向かうことが出来る。やがてはお前が城を継ぐことになる。完成は目前に 迫っている。博覧会までに完成させたい。手伝ってくれ」と語った。
ロバートは英国軍元帥と面会していた。元帥は「オハラ財団は世界各国に新式の武器を売っている。博覧会の参加が決まった後で聞いた ことなので、対応に苦慮している」と語る。「財団の科学技術が我が国の脅威になろうとしているんです」とロバートは言うが、元帥は 「戦は機械でするものではない」と軽く受け流す。それよりも彼は、博覧会の裏で武器の売買が行われることを懸念していた。
父の手伝いを始めたレイは、スカーレットから飼い犬コロンブスの室内散歩機が壊れたから修理してほしいと要求される。「なんで僕が」 とレイは渋い顔をするが、ロイドが作ったと言われ、修理することにした。しかしカムが無いため、スカーレットに誘われ、似たような 部品を探しに行くことになった。外に出てはいけないと指示されていたが、2人は深夜に城を抜け出して博覧会の会場に向かった。そこで スカーレットは、レイが母に宛てて書いた手紙が捨てられていたことを話した。
次の日、レイが父に手紙のことを尋ねると、「自分の手紙と一緒に送ってもらうよう頼んだ。毎月、母さんには手紙を出している」という 答えだった。そこにロイドが牢を破って逃亡しているという知らせが入り、エディは部下と共に立ち去った。レイがエディの元へ行くと、 エリア7のナンバー53のバルブを閉めてくるよう指示される。レイがエリア7へ行くと、そこにはロイドの姿があった。
ロイドはスチームボールがエディの手に渡ったと知り、急いでバルブを開けようとする。レイが制止しようとすると、「すっかりエディに タラし込まれたな。これは悪魔の発明だ」と彼は言う。ロイドはレイを、戦争用の大量殺戮兵器がある場所に案内した。レイが浮かれた 様子で「すごい、これで敵をやっつけるんだね」と口にしたので、ロイドは「本来の人間には敵も味方も無い」と叱責した。
ロイドはレイに、「兵器の開発に集まった金を回収するため、世界中の軍事関係者が集まる博覧会で財団は兵器を是が非でも売らねば ならんのだ」と説明した。レイが「スチーム城は本当に素晴らしい発明だと思うし、お父さん、もしかして財団の人たちに騙されてるん じゃないかなって」と漏らすとロイドは「お前の目で見て決めろ」と告げた。レイは、バルブを開けるロイドに同行した。
レイたちの前にエディが現れ、「科学は全ての進歩に寄与せねばならない。兵器もその一つではないですか」とロイドに告げる。ロイドが 「科学は人間の愚かな行為に手を貸すものであってはならんのじゃ」と反論する。エディはレイに「事故に遭って蒸気の渦に巻き込まれた 時に悟った。科学は力なのだ。そしてスチーム城が科学の究極的な力なのだ」と説いた。そこへアルフレッドたちが来て、ロイドに発砲 した。足を怪我したロイドは、レイにハンドルを回せと指示した。
レイはロイドの指示に従って行動し、スチームボールを取り出した。レイはロイドに「ボールを持って逃げるのじゃ。全てはお前に託す」 と言われ、川へと脱出した。デイビッドは船にレイを救助し、各国の軍事顧問の面々が城に入っていく様子を見せた。ロバートが現れた ので、レイは財団が発明した兵器を使って博覧会を潰そうとしていることを説明する。「科学は人の幸せのためにある」と言うロバートに 、レイはボールを渡す。しかし渡した途端、ロバートは「人の幸せのためには、国家を守らねばならない」と述べた。
スカーレットは連行されるロイドと遭遇した。ロイドは「財団は戦争のための兵器を作っておる。レイはそれを知って出て行ったのじゃ」 と言うが、スカーレットは「どこがいけないのよ。お金を儲けるためなら当たり前でしょ」と反発した。スコットランドヤードの警官隊が 城へ突入しようとすると、サイモンはドアを開き、軍事顧問の面々にデモンステレーションを行うと告げた。
レイはデイビッドに案内され、ロバートの工房へ赴いた。そこには蒸気戦車の試作機があり、ロバートはスチームボールをセットした。 サイモンが差し向けた蒸気兵の軍団が、城から逃げ出した警官隊に発砲した。デイビッドが蒸気戦車が出動して反撃すると、サイモンは アルフレッドに飛行兵団を出撃させる。レイはデイビッドが目を話した隙に、スチームボールを取り外した。
デイビッドがレイを殴ってスチームボールを奪い返したところへ、飛行兵団が襲撃してきた。デイビッドが負傷して工房が混乱している間 に、レイはスチームボールを持ち去った。サイモンは水中兵団を出動させ、さらに攻撃力を強化した。そんな中、エディは圧力の集中を 指示して「発動」を宣言した。彼はスチームボールが無いにも関わらず、スチーム城を操縦して浮上させた…。

原案 脚本 監督は大友克洋、脚本は村井さだゆき、企画は大友克洋&渡辺繁、 製作は川城和実&宗方謙&高須武男&森隆一&近藤邦勝&吉井孝幸&島谷能成&長瀬文男&島本雅司、プロデューサーは小森伸二&富岡秀行、 アソシエイト・プロデューサーは上埜芳披&森島太朗&東聡&田中渉&源生哲雄&指田英司&瀬田一彦&川又武久&東節子、 エグゼクティブ・プロデューサーは渡辺繁&滝山雅夫&角田良平&千野毅彦&濱名一哉&内田健二&高野力&村上比呂夫、 総作画監督は外丸達也、作画監督は入江篤&松田勝己&粟田務&清水保行&江口寿志、メカ・エフェクト作画監督は橋本敬史、美術監督は木村真二、 演出は高木真司、CGI監督は安藤裕章、テクニカルディレクターは松見真一、色彩設計は中内照美、コンポジット・チーフは佐藤光洋、 編集は瀬山武司、音響監督は百瀬慶一、音楽はスティーヴ・ジャブロンスキー。
声の出演は鈴木杏、小西真奈美、津嘉山正種、中村嘉葎雄、児玉清、沢村一樹、斉藤暁、寺島進、稲田徹、相沢恵子、小林沙苗、 日比愛子、森ひろ子、阪脩、 津田英三、中嶋聡彦、柳沢栄治、長嶝高士、松本大、麻生智久、黒田崇矢、伊藤健太郎、朴[王へんに路]美、西脇保、今村直樹、 服巻浩司、進藤尚美、立野香菜子、小林由美子、仮屋昌伸、小谷津央典、近藤孝行、星野貴紀、斉藤貴美子、白石涼子、樋口あかり、 佐藤利奈、かわのりょうこ、土井敏之(TBSアナウンサー)、安東弘樹(TBSアナウンサー)ら。


自らの漫画を基にした映画『AKIRA』で監督を務めた漫画家・大友克洋の長編2作目。
公式タイトルは『スチームボーイ STEAMBOY』となっているようだが、オープニングでは「STEAMBOY」とだけ表示される。
「製作期間9年、総製作費24億円を投じた」というのが本作品の売りになっている。
レイの声を鈴木杏、スカーレットを小西真奈美、エドワードを津嘉山正種、ロイドを中村嘉葎雄、ロバートを児玉清 、デイビッドを沢村一樹、サイモンを斉藤暁、アルフレッドを寺島進が担当している。

鈴木杏は、どうしようもなくダメなわけではないが、声がキャラや作品に馴染んでいるとは言い難い。第一声で「プロの声優ではない」と 分かる。
他にも、普段は俳優をやっている面々が何人か声優として起用されているが、一人を除いて今一つの仕事ぶり。
特に中村嘉葎雄は滑舌が悪く、何を言っているのか聞き取りにくい箇所が幾つかある。
例外は小西真奈美。最初のセリフを聞いても、プロの声優と全く遜色が無い。
この映画はポンコツだけど、彼女の仕事ぶりだけは手放しで称賛できる。いや、ホントに素晴らしい。
あえて繰り返そう、ホントに素晴らしい。

大友監督は低年齢層にも受けるような映画を目指したらしいが、だとすれば、それが実現できているとは思えない。
例えばエディがレイに「超高圧を作り出す純度の高い安定した液体を探していた」だの、「超高圧の蒸気を高密度の状態で封じ込めること に成功した」だのと語るシーンがあるが、ホントに子供向けなら避けるだろ。
正直、無駄に分かりにくいという印象しか受けないぞ。
低年齢層にも受けるような映画を目指した理由は、「予算が掛かるからマニアックな作品を避け、広く観客を呼べるような内容を狙った」 ということらしい。
監督は、慣れないことをやろうとして、しかも「資金回収のために」という、自らの創作意欲とは無関係な理由だったことによって、 方向性が中途半端になったのではないか。
っていうか本人としては、蒸気で動く機械さえ描くことが出来れば、それで満足だったのかもしれんけどね、『MEMORIES』の「大砲の街」 と同じで。

冒頭シーン、ロイドとエディが何をやっているのか全く分からない。
いや、何かの機械を操作していることぐらいは分かるよ。でも、それが何をする機械なのか、何を目的としているのかが全く理解 できない。
そこを曖昧模糊にして話を始めることで、観客を掴むことに失敗していると感じる。
説明不足と言えば、レイが登場した翌日のシーンで、何かの機械を動かして「出来たよ」と言っているが、それが何の機械なのか 分からない。
そこはちゃんと分かるようにしておくべきでしょ。

ケリガンの工場も、ピートも、新聞売りの友人デビッドも、いじめっ子のアレックスたちも、序盤に登場して以降、二度と登場 しない。
それ以外にも、エマやレイの母が序盤以降は全く話に絡んでこないとか、エディが毎月、レイの母に手紙を送っていると言っていたことの フォローが全く無いとか、猫のコロンブスが途中でフェードアウトするとか、レイが修理を頼まれた室内散歩機の存在が忘れ去られている とか、色々と手落ちを感じる。
あと、話にメリハリが無い。

ロイドがアルフレッドたちから逃げるよう告げると、レイはエマに引っ張られて外に出るが、自分の発明品を使うためにモタモタしている 。わざわざ取りに戻っった上、それを動かすために時間をロスしている。
そんなことより早く逃げろよ。
っていうか、「お母さん」と心配していたので、母を助けに戻るならまだ理解できるけど、発明品を使いたいがために戻るとか、もう アホかと。
それなら、そこまでに「その発明品はちゃんと動くことが確認されている」というモノにしておけよ。
なんで初めて使うものを、一刻も早く、しかも確実に逃げないとヤバい状況で使おうとするのか、そのセンスは理解不能。

レイが食堂にいるとスカーレットたちが入ってくるが、それが城の中だということが、エディの説明が始まるまでは全く 分からなかった。
何しろ、レイの座っている食堂が写る前に、その建物を外から捉えたショットが無かったのでね。
普通、それは入れるよな。
スカーレットの乗った船が来るシーンで建物の上部は見えていたが、それがレイのいる場所だということは、その映像では伝わらない。

エディはレイに「科学の恩恵を待ち望む人々は世界中にいるのだ、世界はスチーム城を待っているのだ」と説くが、具体的に、それが完成 したら世界の人々にとって何のメリットがあるのか、イマイチ伝わって来ない。エネルギーのロスを無くすとは言ってたけど、もう少し 具体的に説明してくれないと。
実は彼の話って、説明しているようで、説明していないんだよな。肝心なことが抜けている。
「長く苦しい労働から人間を解放する」というが具体的に、何がどうなって労働から解放されることになるのか。
エディの演説は、たぶん「エネルギーのロスが少ない」→「無駄な作業が減る」→「労働から解放される」ということなんだろうと、後で 考えれば分かってくるけど、見ている段階では、なんかボンヤリしているんだよな。
その演説には説得力が無い。「具体的なことは何も言っていない」という印象を受ける。
それに、彼らの発明したスチームボールが人々に恩恵をもたらすとしても、なぜ城という形を取る必要があるのか、城が完成すると具体的 に何がどのように人々のために役立つのか、それは全く説明していないのだ。

そんな分かったようで全く分からない説明を受けて、レイは簡単に転び、エディの手伝いを始める。それまではロイドの指示に従い、危険 なチェイスをやってまでスチームボールを守ろうとしていたのに。
で、ロイドと再会すると、今度は彼の言葉を受けて、また簡単に立場を変えてしまう。
ただ主体性が無くて、周囲の意見で簡単にコロコロと考えを変える奴にしか見えない。
実際、そうだし。
それでも、「最初は周囲の意見に応じて簡単に立場を変えており、フラフラしていたが、やがて本人の中で考えが固まり、強い決心に 基づいて行動する」という変化があれば、少年の成長物語としての意味が見えてくる。
ところが、こいつは最後までフラフラしたままで、まるで自分の考えというモノが無いのだ。
そんな風に、自らの考えを持たないレイには、主人公としての魅力が全く無い。

善玉には善玉としての魅力、悪玉には悪玉としての魅力が無い。 善玉の代表となるべきキャラはもちろんレイなのだが、何かに対して真っ直ぐな信念を持っている性格設定にしておけばいいものを、 まるで信念が無い。
別に科学に対する信念じゃなくてもいいのよ。例えば誰かを助けたいとか、何かを守りたいとか、そういうことでいいのよ。
しかし、そういう信念を全く持ち合わせていない。

悪玉に関しては、もはや誰が悪玉なのかもボンヤリしている有り様だ。
一応、エディが悪玉のポジションにいるのだが、終盤、スチーム城を止めるためにロイドと協力することで、そこから降りてしまう。
それなら彼のバックに悪党の親玉を配置しておくべきだろうに、それも見当たらない。主人公が戦うべき明確な悪玉が存在しないのだ。
いや、そりゃあ絶対的な悪玉がいなきゃ、空想冒険活劇が成立しないってわけじゃないよ。
だけど、この映画に関しては、必要不可欠でしょ。
エディだけじゃなくてロバートやデイビッドも悪玉の要素があるが、これも話を面白くするためには作用しておらず、無駄にややこしく しているだけ。
っていうか、つまらなくしているだけ。

エディがレイにスチーム城の素晴らしさや人々への貢献を説いた直後に、ロバートと元帥の会話シーンによって、オハラ財団が悪党だと いうことを明かしてしまうのは、あまりにも早すぎないか。
いや、そりゃあ最初にボールを奪いに来た時の荒っぽい手口で、善玉じゃないことはバレバレだけどさ。
それでも、せっかくエディがレイを上手く丸め込んで善玉のフリをした直後なんだから、もうちょっと待ってもいいんじゃないのか。

夜中に博覧会の会場へ行くシーンで、スカーレットは急に浮かれた様子になり、ガラスに写った自分たちの姿をレイに見せる。
ここで彼女のテンションが上がるのは、あまりにも唐突で違和感たっぷりだ。到着した時に街への愚痴をこぼし、その後も文句ばかり 言っていた彼女の態度からすると、その程度のことで浮かれるのは不可解だ。
あと、「ねえ、貴方はどの私がいいと思う?」と尋ねられたレイが、じっと顔を見つめた後、照れたように誤魔化すが、ここで2人の 恋愛劇みたいなモノを見せるのも、やはり唐突で無理がある。
もっと恐ろしいことに、この2人が互いを意識するためのシーンは、そこしか無いのだ。

もう一つ恐ろしいことがあって、わざわざ夜中に抜け出したのに、スカーレットが浮かれてダンスを踊り、手紙が捨てられているのをレイ に教えただけで、特にこれといった出来事も無いまま、シーンは終わってしまうのだ。
手紙が捨てられていることを教える手順なんて、そこへ行かなくても処理できることだ。
何のために、わざわざ夜中に城を抜け出すシーンを用意したのかサッパリだ。
しかも、本当に手紙が捨てられていたのかどうかは、分からないままで終幕を迎えてしまう。

ヒロインであるスカーレットがジャジャ馬で高慢なキャラクターとして登場するのは別にいいけど、最後まで「何も分かっていないバカな タカビー女」のままじゃダメでしょ。
態度としては最後まで生意気でもいいけど、レイと触れ合うことで考えが変化したり、彼に協力したりという流れに持って行く べきでしょ。
一応、終盤で協力はしているけど、それも「強い意志を持って」ということじゃなくて、「トラブルに巻き込まれたから、自分が助かる ために仕方なく」という感じだし。

エディはスチーム城を操縦して浮上させるが、浮上させて、それで何がしたいのか。
大体、ボールが無ければ上手く動かないのは明白なのに、「それを人々に見せ付ければ目的は果たされる」ってことで浮上させるとか、 展開としてマヌケすぎる。
だったらスチームボールの必要性って何なのかと。そこはスチームボールを絶対に必要とする展開にしなきゃダメでしょうに。
そこで使わないことも手伝って、スチームボールの脅威がイマイチ伝わって来ないし。

もうロンドンの街がさんざん破壊された後で「城を停止させて脱出する」というミッションをレイが遂行しても、その意義が薄い。
いや、もちろん停止させなきゃ、それ以上に被害は拡大するんだけどさ。もう大勢の犠牲者が出ちゃってるからね。
それに、レイの行動目的が「大勢の人々を救う」というところに無いように思えるし。
ただし、破壊されている街で、人々が犠牲になっている気配は全く無いけどね。
あと、城から脱出したレイが、破壊された街に対して何の感想も持たず、スカーレットと見つめ合って終幕ってのはヒドい。
それって投げっ放しになってるだろ。

(観賞日:2010年11月8日)

 

*ポンコツ映画愛護協会