『Star Light』:2001、日本

高階郁子は空を飛ぶ飛行機を見上げ、「行って来るからね」と呟いた。彼女はオーディション会場に赴くが、応募用紙に自分の写真では なく友人・小池こず絵の写真を貼り付けていたため、監督とプロデューサーから咎めを受けた。もちろん、そんなことをすれば不正で失格 になる。だが、それには彼女なりの理由があった。友人の写真を貼った理由を問われ、彼女は事情を語り始めた。
時間を遡る。郁子はタレントになる夢を抱き、スターライトスタジオに通い始めた。レッスン初日、彼女はスタジオへ向かう途中で同年代 の少女にぶつかられ、露店に突っ込んでしまった。だが、その少女は謝りもせず、郁子を睨んで立ち去った。その出来事のせいで、郁子は 初日から遅刻してしまった。スタジオに入ると、先程の少女が生徒の中にいた。それが、こず絵だった。
ダンスのレッスンを終えた郁子は、長谷川春奈という生徒と知り合いになった。2人が廊下で休憩していると、生徒の大道悠太が、同じく 生徒の藤沢明子と池田ひとみのパシリをさせられていた。春奈は明子たちを非難するが、軟弱な悠太の態度にも腹を立てた。屋上に行った 郁子は、そこで歌っていたこず絵の歌唱力に感心し、声を掛けた。「どうしてそんなに上手く歌えるの」と尋ねた郁子に、こず絵は「何度 も歌うこと」と答えた。
郁子は別居中の父・俊一の元を訪れ、来月分のレッスン代を貰った。母の和子は「今は勉強に集中すべき時期」と考えており、スタジオに 通うことなど許してくれるはずがない。そのため、郁子は和子に内緒でスタジオに通っている。郁子、こず絵、春奈、悠太の4人は、 w-inds.のライブに出掛けた。ライブを見た4人は、あんなステージで、いつか歌い踊りたいと夢を膨らませた。
発表会に向けた練習が始まるが、悠太は明子&ひとみの嫌がらせを受けた。こず絵は体調が悪くなり、付き添いの郁子と共にトイレへ 行った。すると、そこに男子便所と間違えてw-inds.の緒方龍一が入ってきた。w-inds.のメンバーはダンスレッスンのため、スタジオを 訪れていた。彼らのレッスンを見学した郁子とこず絵は、その素晴らしさに圧倒された。
郁子とこず絵は休憩所へ行き、w-inds.の慶太の音域を賞賛する。すると、それを聞いていた生徒の生頼愛子が「音域だけが全てじゃない」 と口を挟んだ。彼女は自信たっぷりに、「デビューはしていないけど、アタシはプロ」と言い切った。彼女に誘われて、郁子とこず絵は 外国人ばかりが集まるバーへ赴いた。すると愛子がステージで歌っており、外国人客の喝采を浴びていた。
愛子の歌を聞き、こず絵は「自分も上手くならなきゃ」と良い刺激を受けるが、郁子は気が重くなってしまった。自信を失った郁子は、 レッスンにも全く身が入らなくなった。そんな中、w-inds.の3人が彼女に声を掛けた。彼らの励ましを受け、郁子は意欲を取り戻した。 発表会の日が訪れ、生徒たちはステージで歌い踊った。こず絵の母・美津子は控え室を訪れ、娘の体調を心配した。
春奈と悠太は路上でダンス・パフォーマンスをするが、警官に見つかって逃げ出した。ダンス講師の井上三太に「まだ路上で踊るレベル じゃないだろう」と注意された春奈は、「先生は号令を掛けているだけで踊れもしないのに、言われたくない」と反発する。すると井上は 音楽を流し、ダンスを披露した。彼の優れたダンスを見せ付けられた春奈は、無言でスタジオを飛び出した。
次の発表会を控え、選抜組のメンバー7名が講師・津島美咲の口から発表された。そのメンバーの中に、郁子とこず絵が選ばれた。7人は 翌週から、新しいクラス編成でレッスンに入る。郁子はスタジオの廊下で、映画『Starlight』のオーディションのポスターを見つけた。 合格すれば、主演のw-inds.と共演することが出来る。郁子はこず絵を誘い、一緒に受ける約束を交わした。
選抜組から外れた愛子は、美咲に不満をぶつけた。「今の状態でデビューするのは貴方のためにならない」と言われても愛子は納得できず 、「デビューできないならスクールを辞める」と告げた。実際、彼女はスクールを辞めた。春奈は郁子に、「才能が無いし、辞めようかと 思う」と弱気な言葉を漏らした。テレビ番組のオーディションがあり、各クラスから一名ずつ代表者を出すことになった。明子&ひとみは 悠太を推薦するが、もちろん嫌がらせだった。しかし悠太は、オーディションを受けることにした。
郁子は愛子と面会し、スクールに戻るよう説得する。だが、愛子は「もう疲れちゃった、歌も辞める」と口にした。スタジオに行った郁子 は、自分が援助交際しているというメールが広まっているのを知った。こず絵が犯人だと吹き込まれた郁子は、彼女と仲違いしてしまう。 そんな郁子に、美咲は信頼することの大切さを説き、「あんなメールを出すのに本名を使う人はいない」と告げる。
郁子は和子にスクール通いを知られ、辞めるよう要求される。反発した郁子は家を飛び出し、俊一の元へ赴いた。俊一は郁子を泊め、夢に 燃えていた若き日のことを語る。悠太がテレビ番組のオーディションを受ける日、郁子は春奈と共に応援に訪れた。会場の外に愛子の姿を 見つけ、郁子は彼女に声を掛けた。愛子は郁子に、メールの送信者が自分だと打ち明けた。郁子の才能に嫉妬していたのだという。愛子は 昔から歌っていたために癖が付いてしまい、それがマイナスになっていることを美咲から告げられていた。
郁子は愛子を連れて、会場の客席に座った。こず絵も来ていたが、郁子とは険悪な関係が続行している。悠太の順番が来るが、テープから 音楽が流れない。明子&ひとみが摩り替えたのだ。彼女達が冷やかす中、悠太の父・正彦が会場に現れ、息子を元気付ける。正彦が手拍子 を始めると、客席にいた面々も後に続いた。郁子、こず絵、春奈、愛子の4人はステージに上がり、悠太と一緒にパフォーマンスを披露 して会場の喝采を浴びた。
映画『Starlight』のオーディション日が近付くが、こず絵は郁子と一緒に受けることが出来なくなってしまった。体調を崩し、入院して しまったのだ。郁子は美津子から、こず絵がミトコンドリア病を患っていることを知らされる。2年前に発病したのだが、好きなことを やりたいというこず絵の気持ちを汲んで、スクールに通わせていたのだ。こず絵は手術を受けるため、渡米することになった。郁子は彼女 に「こず絵と一緒にオーディションを受ける」と告げ、会場へ向かった…。

監督は金澤克次、脚本は加藤正人、脚色協力は湯河健太&野島瑞樹、製作は春日たかし&柳沢隆之&鈴木ワタル、プロデューサーは 竹村幸男&桑島雅直&大橋孝史、プロデューサー補は泉洋次&田代雅裕、制作担当は小川祥、製作総指揮は平哲夫、撮影は谷川創平、 編集は村井秀明、録音は吉田憲義、照明は金子康博、美術は遠藤光男&青木光子、 演技指導は左奈田恒夫、ボーカル指導は麻田ゆき、ダンス指導は菊池直子(オールテンポ)、ピアノ演奏は扇谷研人、音楽は神津裕之。
主題歌『Paradox』 詞・曲・編は葉山拓亮、唄はw-inds.。
挿入歌『always love』唄はMAX、詞は森浩美、曲・編はT2ya。
『Forever Memories』 詞・曲・編は葉山拓亮、唄はw-inds.。
『Somewhere in Time』 詞・曲・編は葉山拓亮、唄はw-inds.。
出演は滝裕可里、今村白雪(現・白雪)、三橋伴美、平慶翔、中ノ森文子、w-inds.、DA PUMP/KEN、MAX、hiro、田村直美、朝加真由美、 名高達男、大島さと子、岩城滉一、ティファニー・ロビンソン、新井裕一、那波隆史、野地将年、吉浦進二、玉麻尚一、石津沙結子、 窪田啓子、小池珠美、福下恵美、石毛宏枝、北原百合亜、島沙織、竹田有佑、板橋直樹、山本聡、渡義昭、西敦 "Mickie" のりこ、 柴田宏、Bobby.L.Aら。


この映画を製作したフリーゲートプロモーションは、かつてはライジングプロダクションという名前だった。
社長の平哲夫が2001年に脱税事件で逮捕されたことを受けて8月1日に辞任し、翌月1日に社名を変更している。
さらにフリーゲートは2002年に入って社名を変更し、現在はヴィジョンファクトリーとなっている。
劇中でヒロインたちが通っているスターライトスタジオは、そのヴィジョンファクトリーが経営するタレントスクールだ。

郁子役の滝裕可里は、ヴィジョンファクトリーと業務提携しているタレントスクール、キャレス大阪校出身。この作品の後は、モデル・ 女優として活動。こず絵役の今村白雪は、本作品の後、白雪と芸名を変更してファッションモデルになった。春奈役の三橋伴美は本作品の 後、短期間だけアイドルユニット“Hipp’s”のメンバーだったこともある。悠太役の平慶翔は、本作品の後も俳優として活動。ちなみに 女優・平愛梨の弟。
愛子役の中ノ森文子は、2000年に開催された第2回スターライトオーディション2000(九州・沖縄合同スターライトオーディション)で グランプリを受賞し、本作品で映画デビューとなった。2004年にはガールズバンド“中ノ森BAND”を結成している。ちなみに同じ オーディションでライジングプロダクション奨励賞を受賞したのがw-inds.の橘慶太。つまり、グランプリ受賞者の出演作で、奨励賞の 人間が「皆が憧れる大スター」として描かれているわけだ。
他に、美咲を田村直美、和子を朝加真由美、俊一を名高達男、美津子を大島さと子、正彦を岩城滉一が演じている。また、フリーゲートの 所属タレントだったw-inds.、DA PUMPのKEN、MAX、hiroが友情出演している。ダンス講師の井上役は、米米クラブのサポートメンバー だった吉浦進二。
監督は『極道三国志』『一生、遊んで暮らしたい』の金澤克次。

フリーゲートプロモーションのタレントを売り出すための映画ということは、誰が見ても明らかだ。
でも、そんな矢先に平哲夫が逮捕されてしまったわけだ。
辞任が8月で、本作品の公開は同年10月。
見事なタイミングで社長が逮捕されて、映画とは関係の無いところで、つまずいた形となった。
まあ、それが無くても、たぶんコケていただろうとは思うけどさ。
オープニング、郁子が屋上に寝転び、空を見上げて「行って来るからね」と呟くが、このファースト・シーンだけで、既に陳腐さが強烈に 伝わってくるし。

レッスン初日、こず絵は郁子にぶつかっても謝りもせず、「そっちが悪い」的な態度で立ち去ってしまう。
だが、郁子はスタジオでこず絵に会っても怒りをぶつけることも無く、歌に感心して話し掛ける。
で、こず絵は無愛想で一匹狼タイプなのかと思いきや、そこは素直に対応し、郁子たちは普通に仲良くなる。
キャラクター付けがボヤけまくっている。
あと、郁子はスタジオ屋上にいたこず絵の歌声を聞いて「どうやったら、そんなに上手く歌えるの?」と感心して尋ねるが、いやいや、 ちっとも上手くないし。むしろ下手だし。
メインキャストは揃って新人だから、芝居が下手なことには、ある程度は目を瞑ろう。
でも、「歌が上手い」というキャラ設定の人は、本当に歌が上手くないとマズいだろ。そこは説得力を持たせないと。

その後のシーンで4人が一緒にライブへ出掛ける流れを考えると、最初のレッスン日の内に、郁子、こず絵、春奈、悠太の4人はキャラ 紹介を終えておく必要があるはずだ。
でも実際には、まるで出来ていない。名前さえ、郁子しか分からないという状態。
悠太は一人だけ男なので判別は容易だが、春奈に関しては、ロクに顔も覚えられない程度で初登場シーンが終わっている。
最初は全くレッスンに付いて行けなかった郁子が少しずつ上達していくとか、最初は険悪だったレッスン生と次第に友情が芽生えていく とか、そういうドラマ展開は全く無い。
芝居が学芸会レベルだから、シナリオもそれに合わせたってわけでもないんだろうけど。
でも、こんなにペラペラで手抜きのシナリオだと、フリーゲートのタレントたちのプロモーションにならんぞ。

金澤克次監督が何を思いながら本作品を撮ったのか、サッパリ分からない。
アイドル映画のように、話を単純にして、「いかにアイドルを魅力的に見せるか」を意識して作っているわけでもないし。
乗り気はしなかったが、頼まれたから仕方なく撮ったってことなんだろうか。やる気が微塵も感じられない。
まあ、この映画で、やる気を出せって方が難しいかもしれんけど。

郁子が意欲を失っている時に都合良くw-inds.が現れて励ましたり、悠太のオーディションに向けた練習にw-inds.が参加して手伝ったりと 、何かに付けてw-inds.を登場させる。
メイン5人衆だけでなく、w-inds.をプロモーションする目的もあったようだ。
そのせいで、映画が散漫になっている。
w-inds.をPRしたいのなら、彼ら主演の映画を別に作れば良かったのだ。
ただでさえ薄い友情の描写が、w-inds.を使いすぎることで、さらに妨害されてしまう。
例えば郁子がw-inds.に励まされて意欲を取り戻すエピソードにしても、そこは本来、こず絵の励ましで意欲を取り戻す形にすべきだ ろう。そういう大事な場面で関与できなくて、何が友情なのかと。
w-inds.を登場させるのは別にいいが、そこまで積極的に話に関与させるべきではなかった。

春奈と悠太は序盤を過ぎると、消えている時間が長くなる。悠太が嫌がらせを受けているとか、春奈がコーチに反発しているとか、そんな 要素もあるにはあるが、大して膨らまない。
だからって、郁子とこず絵の友情ドラマが充実しているわけではない。
全てにおいて薄いのだ。
発表会も、特に何があるでもなく、郁子が目立つわけでもなく、焦点の定まらぬまま終了する。
郁子とこず絵が険悪になった後、それが解消されないまま、悠太の話、さらに愛子の話へと移っていく。
複数キャストの色々な話を並行して描いているつもりなのかもしれないが、単純に「途中で放り出したまま別のことに手を出し、どれも これも散らばっている」としか感じられない。群像劇としては破綻しているし。
一つずつ片付けていった方が良かったように思うけどね。

悠太のオーディションでは、嫌がらせで音が鳴らず、そこに現れた父の手拍子に合わせて全員が手拍子を始める。
なので、それに合わせて悠太が踊り始めるのかと思いきや、なぜか郁子たちが舞台に上がり、歌い踊る。悠太のサポートというよりも、 自分達も一緒に踊っているという感じだ。
いやいや、悠太のオーディションなのに、何をやってんのかと。
愛子は歌に全力を注いでいたという設定のはずなのに、一緒に踊ってるし。
郁子とこず絵の仲違いは、なし崩し的に消滅してるし。
やりたい放題だな。

その後、郁子が一人でオーディションを受ける展開になり、こず絵が入院して手術を受けることになったことが説明される。
一応、こず絵がレッスン中に体調を崩すとか、発表会で母親が心配するとか、そういう描写はあった。だけどさ、そんなの前半だったし、 すっかり忘れていたよ。終盤に入って、こず絵が手術を受ける展開が、あまりにも唐突に思えてしまうぞ。
で、郁子が友人であるこず絵の写真でオーディションを受けることを、感動の友情ドラマに仕立て上げている。
っていうか逆だな。友情ドラマで締め括るのに、そういう話に持って行ったわけだな。
でも、アホらしいの一言に尽きる。
こず絵との約束を大切にしたけりゃ、彼女の写真をポケットにでも入れてオーディションに臨めばいいだけのことだ。
応募書類に別人の写真を貼り付けたら、それは単なる不正だよ。

大体さ、こず絵の写真を貼り付けたら、それは「彼女と一緒に受ける」ってことじゃなく、「彼女の代理で受ける」みたいな感じになるぞ。
そりゃあ友情は大切かもしれんが、しかし「自分の夢を掴むため」という思いもあるはず。
つまり、それは誰よりも郁子のためのオーディションじゃなきゃダメだろ。
そんで監督とプロデューサーは郁子の事情説明を聞き、「そういうことなら特例として認めよう」と言ってしまう。
おいおい、認めてしまうのかよ。メチャクチャだな。
で、郁子がオーディションを受けるのかと思いきや、そこでエンドロールになる。
つまり、郁子がオーディションを受ける様子は描かれないのだ。
なんじゃ、そりゃ。
滝裕可里のダンスや歌が上手くないので、クライマックスに適さないという判断だったのだろうか。
しかし、最後まで彼女がピンで活躍する歌や踊りの場面が無いって、どういうことよ。

(観賞日:2008年8月27日)

 

*ポンコツ映画愛護協会