『STAND BY ME ドラえもん2』:2020、日本

未来の日本。大人になったのび太はしずかとの結婚前夜、ジャイアン、スネ夫、出来杉との飲み会を終えた。出来杉は急な出張で披露宴に顔を出せなくなったが、ジャイアンとスネ夫は出席する予定だ。自動運転の車で帰路に就いたのび太は、浮かない表情で「ドラえもん」と呟いた。その上空を、タイムマシンで未来へ来ていた小学生ののび太とドラえもんがタケコプターで飛んでいた。ドラえもんが「結婚式を見るのは、また今度にしない?」と持ち掛けると、のび太は「そうだね。早く現代に帰ろう。会いたくなっちゃった。僕の時代のしずかちゃんに」と告げた。
現代の日本。のび太は誕生日に浮かれた気分で帰宅するが、机の下から0点の答案を見つけたママに叱られる。厳しく説教されたのび太は、号泣して自分の部屋に入った。ドラえもんが「仕方ないよ、悪いのは君の方なんだから」と言うと、のび太は「でも今日は誕生日なんだ。そうだ、僕はこの家の本当の子供じゃないんだ」と口にする。のび太は自身の名前にも疑問を抱くが、ドラえもんは呆れて相手にしない。ドラえもんは秘密道具の点検中で、興味を持ったのび太は「忘れん棒」に触る。ドラえもんが慌てて取り上げ、これで叩くと少し前からのことを忘れる道具だと説明した。
のび太が「それでママを叩けば、あんなに怒られずに済んだのに」と愚痴を漏らすと、ドラえもんは2学期に頑張るよう諭した。のび太は大量に0点の答案を隠していることを明かし、ドラえもんを呆れさせる。そこへ未来デパートから秘密道具のサンプルが届き、ドラえもんとのび太は試しに使ってみた。それは入れかえロープという道具で、ロープの端を持った者同士の意識を入れ替えることが出来た。のび太は体に何かが飛び込み、意識を失って倒れた。すぐに起き上がったのび太は「こういうことか。大成功」と興奮し、「ちょっと僕らを助けに行って来る」とドラえもんに告げてタイムマシンに飛び乗った。
すぐに戻って来たのび太は、「僕、どうしてた?」とドラえもんに尋ねる。のび太は「僕とドラえもんに送ってもらったはず」と告げるが、ドラえもんは「何を言っているのかサッパリ分からないよ」と首をかしげた。ママがお使いを頼みに来たので、ドラえもんとのび太は天井に隠れた。透明なドラえもんが引き出しから飛び出し、たずね人ステッキを盗み出した。透明なドラえもんはタイムマシンで去るが、ドラえもんとのび太は全く気付かなかった。
ママが部屋を去ってから、のび太は答案用紙を天井裏に隠した。ツギハギだらけのクマのぬいぐるみを見つけたのび太は、それを直してくれたおばあちゃんのことを思い出した。のび太が幼稚園児の頃、おばあちゃんは亡くなっている。のび太はアルバムを開いて写真を眺め、泣いてばかりいる自分をおばあちゃんが何度も助けたり慰めたりしてくれたことを回想する。おばあちゃんに会いたくなったのび太がタイムマシンで昔へ行くと言い出すと、ドラえもんが制止した。いきなり大きくなった姿を見たらビックリさせてしまうと言われたのび太は、「遠くから見るだけならいいだろ?」とドラえもんを説き伏せた。
のび太はドラえもんと共に、自身が3歳の時代へ向かった。2人はおばあちゃんの部屋を覗くが、無人なので他の部屋も調べた。ママが掃除している部屋に入り込んだドラえもんとのび太は、怒鳴られて外へ飛び出した。2人は3歳ののび太が空き地でジャイアンとスネ夫に苛められて泣き出し、しずかに慰められる様子を目撃した。腹を立てたのび太はジャイアンとスネ夫を殴り付け、ドラえもんが慌てて引き離した。おばあちゃんが歩いて来るのを見たのび太は感激し、声を掛けずに見送った。
おばあちゃんは3歳ののび太に頼まれ、花火を買いに行っていた。帰宅したおばあちゃんは、オモチャ屋を回ったが花火は夏しか売っていないとのび太に謝る。のび太が駄々をこねて「嫌い、あっちへ行け」と怒鳴り、しずかちゃんは腹を立てて去る。のび太は3歳の自分に憤慨し、「おばあちゃんをいじめるな」と声を荒らげた。そこへママが出て来て睨むと、のび太は「僕はのび太なんだ」と釈明する。ママは頭がおかしいのだと思い込み、3歳ののび太を連れて家に入った。
ドラえもんはのび太を諭して、現代に戻ろうとする。しかしのび太は諦め切れず、タイムマシンから飛び降りた。のび太は家に忍び込もうとするが、3歳の自分に見つかったのでおばあちゃんの部屋に隠れた。おばあちゃんは全く慌てることもなく、のび太を押し入れに匿った。おばあちゃんはのび太について問われ、いつまでも世話は出来ないと話す。「せめて学校に行く頃まで生きられればいいんだけどねえ。ランドセルを背負って登校する姿を見たい」とおばあちゃんが漏らすと、のび太はちょっと待ってて」と告げて去る。タイムマシンに飛び乗ったのび太は現代に戻り、ランドセルを背負った。
のび太はおばあちゃんの元へ戻り、「信じられないかもしれないけど、僕、のび太なんです」と話す。おばあちゃんが「やっぱりそうかい。そんな気がしてましたよ」と言うと、のび太は喜んで膝に抱き付いた。「のびちゃんの小学生姿を見たら、欲が出ちゃったよ。アンタのお嫁さんを、一目見たくなっちゃったねえ」とおばあちゃんが言い出すと、のび太は会わせてあげると約束した。ドラえもんが迎えに来ると、のび太はおばあちゃんを未来に連れて行くと告げた。
ドラえもんが「また未来が変わっているかもよ」と懸念を示すと、のび太はタイムテレビで未来を見せてもらった。すると未来ののび太は結婚式場に現れず、ジャイアンが電話しても出なかった。のび太とドラえもんはタイムマシンに乗り、未来へ赴いた。結婚式が行われるホテルの前では、ウェティングドレス姿のしずかが大人のび太を心配していた。スネ夫が「自信を無くして逃げたんじゃ?」と口にすると、しずかは「そんなことない。のび太さんは必ず来ます」と反発した。
のび太は何とかするようドラえもんに詰め寄り、大人のび太に化けるよう提案された。のび太は「無理だよ」と怖じ気付くが、ドラえもんはタイムふろしきで大人に変身させた。しずかたちに見つかったのび太は、「道を間違えちゃって」と咄嗟に誤魔化した。ドラえもんはスモールライトで小さくなり、のび太に同行した。式場に入ったのび太は緊張で固まってしまうが、ドラえもんの助けで我に返る。披露宴でスピーチを求められたのび太は焦り、原稿が控室にあると嘘をついて会場を抜け出した。
のび太が「大人のび太を見つけ出すしかない」と言い出すと、ドラえもんはたずね人ステッキを使おうと考える。しかし秘密道具の点検をしていたため、部屋に置いて来たと気付く。タイムマシンがある公衆トイレへ戻ろうとしたドラえもんとのび太は、大人のび太が前の夜に乗っていた自動運転車を発見する。中を覗くと誰もおらず、ドラえもんは「まさか」とトイレへ駆け込んだ。するとタイムマシンが消えており、ドラえもんは大人のび太が盗んで過去へ逃げたのだと悟った。
この時代から帰れなくなったことに気付いたドラえもんとのび太は、激しく狼狽する。途方に暮れたまま夕暮れ時を迎えたドラえもんは、タマシイム・マシンに気付いて「何とかなるかもしれない」と言い出した。それは魂を別の時代に自分に転送できる道具で、ドラえもんは「のび太くんの魂を僕らが出掛ける前に送り込む」と説明する。その時ならタイムマシンがあるので、それを使って戻ろうという作戦だ。のび太はいれかえロープを試していた自分に憑依し、タイムマシンで未来へ戻った。ドラえもんは魂が戻ったのび太とタイムマシンに乗り込み、連れて来たのび太の記憶は忘れん棒で消去した。
ドラえもんは透明マントで姿を消し、たずね人ステッキを回収した。たずね人ステッキを使ったドラえもんは、大人のび太が現代にいると知る。ドラえもんとのび太は空き地で佇む大人のび太を発見し、家に連れ帰る。なぜ結婚式から逃げ出したのかと問われた大人のび太は、将来のことを考えて怖くなったのだと話す。しずかを幸せに出来ないかもしれないと感じ、考える時間が欲しくてタイムマシンに乗ったと説明する。大人のび太は「自信が付いたら結婚式の前に戻ればいい」と軽く言うが、ドラえもんとのび太から結婚式に来ていないことを聞かされて頭を抱えた。
ドラえもんがタイムテレビで1年後を見てみると、しずかが「きっといつかは帰ってきて、何があったか説明してくれる。そう信じてる」と大人のび太を待ち続けていた。大人のび太は「これは君のためなんだよ」と泣き出し、いずれ自分を忘れて幸せになれるはずだと言う。しかしドラえもんが「もっと未来のしずかちゃんも見てみる?」と尋ねると、「嫌だ。知らない人と家庭を築いてるしずかちゃんなんか見たくない」と嘆いた。
大人のび太は「この時代の君が昼寝ばっかりしてるから、僕もこうなったんだ」とのび太を批判し、「君の頃に戻って、やり直せたらな」と呟く。ドラえもんは「それなら簡単だけど」と告げ、入れかえロープを差し出した。大人のび太はのび太と入れ替わり、遊びに出掛けた。空き地で野球をしているジャイアンやスネ夫たちを見つけた大人のび太は、自信のある様子で混ぜてもらう。追い掛けて来たドラえもんとのび太は上手くなっているのだろうと考えるが、大人のび太は下手なままだった。大人のび太はジャイアンに「どういうつもりだ?」と激怒されるが、嬉しそうに逃げ回った。
ドラえもんとのび太が部屋に戻ると、未来デパートからセールスマンのナカメグロが来ていた。彼から入れかえロープを返却してほしいと言われたドラえもんは、「何か問題でも?」と質問する。ナカメグロは「とんでもございません」と否定するが、既に使ったと知らされると激しく狼狽する。彼はドラえもんとのび太に、設計ミスがあって使ってから1時間で意識が消えることを明かした。ドラえもんとのび太はタケコプターを使い、急いで大人のび太を連れ戻しに向かった。
大人のび太は不良の中学生たちとぶつかるが、生意気な態度を取った。怒りを買った彼は、慰謝料として2000円を要求される。余裕の態度で2000円札を差し出す大人のび太だが、未来の紙幣なので殴られそうになる。大人のび太は近くに停めてあったスクーターに命令するが、音声認識が無いので動かない。しかしレバーを回したので暴走し、不良たちは追って来る。その様子を、しずかが目撃した。大人のび太はバイクから振り落とされ、不良たちに追い詰められた。
のび太は一時的に意識を失って墜落しそうになり、ドラえもんが助けた。大人のび太はピンチに陥るが、しずかが駆け付けて不良たちに「弱い者いじめはやめなさい」と声を荒らげた。しずかが凄まれると、大人のび太は「しずかちゃんから離れろ」と不良を攻撃する。だが、すぐに反撃を浴びて、すっかり怯えてしまう。そこへジャイアンとスネ夫が現れ、大人のび太に加勢した。大人のび太たちはボロボロになりながらも、不良グループを撃退した。その直後に大人のび太は意識を失い、のび太もドラえもんの前で気絶した。
ドラえもんはどこでもドアを出して「大人ののび太くんのいる所」と叫ぶが、目の前に倒れているのび太のことだと認識されてしまった。そこで「大人ののび太くんの心が入った、子供ののび太くんの所へ」と指示すると、大人のび太の元へ移動することが出来た。ドラえもんはしずかたちに手伝ってもらい、慌てて入れかえロープを使う。しかし既にタイムリミットは過ぎていたため、2人ののび太は元の状態に戻らない。ドラえもんは「僕との思い出も無しにしちゃうのか。それでもいいのか。僕はそんなの嫌だよ」と呼び掛け、泣き出してしまう。すると入れかえロープが反応し、のび太と大人のび太の魂は無事に元へ戻った…。

監督・編集は八木竜一、原作は藤子・F・不二雄、脚本・共同監督は山崎貴、製作は伊藤善章&梅澤道彦&丸澤滋&西新&和田修治&中沢利洋&市川南&藤田浩幸&阿部秀司&島村達雄&加太孝明&清水厚志&多湖慎一&森君夫&寺内達郎&三吉吉三&平城隆司&佐藤吉雄&繻エ美樹、エグゼクティブプロデューサーは伊藤善章&梅澤道彦&阿部秀司、プロデューサーは赤津一彦&守屋圭一郎&渋谷紀世子&高橋麗奈、アソシエイトプロデューサーは森文彦&天野賢&勝山健晴&八木征志&後藤正太郎&田中聡敏、絵コンテは八木竜一&山崎貴、アートディレクターは花房真、CGスーパーバイザーは鈴木健之、音響監督/サウンドデザイナーは百瀬慶一、3Dキャラクター監修は むぎわらしんたろう&小林順子、音楽は佐藤直紀、主題歌『虹』は菅田将暉。
声の出演は水田わさび、水田わさび、大原めぐみ、かかずゆみ、木村昴、関智一、妻夫木聡、宮本信子、バカリズム、羽鳥慎一、三石琴乃、松本保典、田原アルノ、折笠愛、山崎バニラ、萩野志保子、高木渉、吉野裕行、愛河里花子、山口太郎、松本健太、浅利遼太、川原瑛都、守屋楽弥、金子誠、大下昌之、岡部悟、滝谷将太、井吹茅紘、咲々木瞳、宮崎珠子、中村源太、柴山大星、鈴江梨紗ら。


藤子・F・不二雄の漫画『ドラえもん』を初めて3DCGで映像化した2014年の映画『STAND BY ME ドラえもん』の続編。
監督の八木竜一、脚本&共同監督の山崎貴は、前作からの続投。
ドラえもん役の水田わさび、のび太役の大原めぐみ、しずか役のかかずゆみ、ジャイアン役の木村昴、スネ夫役の関智一、ママ役の三石琴乃、パパ役の松本保典、しずかのパパ役の田原アルノ、しずかのママ役の折笠愛らの声優陣は、通常のTVアニメ『ドラえもん』と同じ顔触れ。
大人のび太の声を妻夫木聡、おばあちゃんを宮本信子、ナカメグロをバカリズム、入れかえロープを羽鳥慎一が担当している。

序盤、ドラえもんは「床は散らかってるから」という理由で、重力ペンキを使って天井を下にしている。
これ、まるで必要性の無い設定で、床に秘密道具を並べても何の支障も無い。そこで天井に貼り付いている設定にしてあるのは、のび太がジャンプして壁に張り付き、画面を回転させる演出をやりたかっただけだ。
これは他のシーンでも大いに引っ掛かる方向性で、例えば大人のび太が不良に絡まれて「僕は大人だから、こんな物にも乗れるんだ」と言い出すのはスクーターの暴走シーンを描きたかっただけでしょ。
「まず描きたい映像ありき」が全て悪いとは言わないけどさ、なんかブライアン・デ・パルマと似たような悪癖になっちゃってるぞ。

のび太は誕生日にママから説教され、「ホントの母親ではないのかも」と言い出す。
なので、そこを使って物語を進めるのかと思いきや、そうではない。なんだか良く分からない手順が入り、のび太はママに対する疑惑など完全に忘れ去る。そして、あっさりと「おばあちゃんに会いたい」という話に切り替わる。その日が誕生日ってことも、まるで無意味な要素になる。
で、じゃあ「おばあちゃんとの関係」で話を進めるのかと思いきや、すぐに「未来のび太の結婚式を何とかする」という方向へ転がる。
原作から多くのエピソードを寄せ集めて1本のストーリーを作った結果、支離滅裂な展開になっている。

ドラえもんとのび太は過去へ戻っておばあちゃんを捜索する時、平気で姿を晒して室内を動き回る。
でも、姿を消せる透明マントもあれば、存在が認識されなくなる石ころぼうしもあるはずで。そういうのを、なぜか使わないのか。
「遠くから見るだけ」と言っていたんだから、堂々と家の中を捜し回っている時点で変だし。
そしてママが掃除している部屋に飛び込んでも、まるで慌てずに堂々と話すんだよね。
イカれてんのか、お前たちは。

のび太は子供のび太が泣かされる様子を見て激怒し、ジャイアンとスネ夫を殴り付ける。ドラえもんは慌てて引き離すけど、それだけで済ませちゃダメだろ。
そりゃあ、ジャイアンとスネ夫にも充分に非はあるけど、だからってのび太が2人を殴るのはドイヒーな行動だろ。
しかも、のび太は幼少期の自分が泣かされたことへの怒りだけで動いているわけじゃないからね。今の自分が学校で転ばされたことへの怒りも、幼少期のジャイアンとスネ夫にぶつけているのよ。
それはダメでしょ。

のび太は子供のび太と一緒にいるママに怪しまれると、「僕はのび太なんだ」と言い出す。もちろんママは信じず、頭がおかしい人間だと感じて家に入る。
たぶん、ここはギャグとして描いているんだろうけど、演出が下手だから全く笑いが生まれていない。
っていうか、ここに限らず、もっと言えば前作から引き続いて、ギャグとして描いているシーンは、ことごとく外しているよね。
笑いの作り方を、根本的に間違えているんじゃないか。

おばあちゃんはのび太がランドセルを背負って戻って来た時、「のびちゃんの小学生姿を見たら、欲が出ちゃったよ。アンタのお嫁さんを、一目見たくなっちゃったねえ」と口にする。
だけど、相手は小学生ののび太なのに、いきなり「嫁が見たい」ってのは飛躍が過ぎるだろ。
これって、原作だと「現代に戻ったのび太がしずかに求婚して嫌がられる」というギャグに繋げているのよね。そこでオチを付けているから、おばあちゃんがヤバい奴にならずに成立しているのよ。
そもそも、「アンタのお嫁さんを、一目見たくなっちゃったねえ」というトコから「この後日談を描こう」ということで企画が始まったらしいけど、その時点で大きく間違っている気がするぞ。

おばあちゃんはのび太がドラえもんと話していると、「大変なことになってないかい?無理なお願いをしたんじゃ?」と言う。
でも、そこは「嫁が見たい」という発言を冗談として無かったことにするぐらいにしろよ。
なんでマジで叶えてもらおうとしてんだよ。「ゆっくりでいいからね。ここで待ってるからね」って、なんでのび太にプレッシャーを掛けてるんだよ。
そんなの、のび太のおばあちゃんのキャラを考えると、適正な振る舞いとは到底思えないぞ。

自動運転の車で帰路に就いたのび太が、浮かない表情で「ドラえもん」と呟くシーンが序盤に用意されている。この時点で、「この映画は間違っている」と感じる。
大人になったのび太は、ドラえもんと完全に決別したはずなのよ。
半年前も再会できる機会はあったのに、そこでハッキリと「ドラえもんは子供時代の自分の友達だから」ってことで断っているのよ。もうドラえもんに頼らずに生きていくと決意し、明確な成長を示したはずなのよ。
それなのに、今回ののび太は子供時代に戻っているじゃねえか。
そして子供時代のダメな部分だけを引き継いでいるじゃねえか。

結婚式や披露宴の様子は、それなりに時間を掛けて丁寧に描いている。だけど、そんなの全く要らないよ。ストーリーとしては何も進んでいないんだし。
百歩譲って、そこに時間を割くとしたら、そこで描くべきは「子供のび太が大人に化けてのドタバタ喜劇」だろう。だけど、そっち方向では、そんなに膨らんでいないし。
普通に結婚式を描いて、感動でもさせようとしたのか。でも本物の大人のびがいない偽りの結婚式だし、そこに向けての流れも皆無なんだし、感動を生むための種は何も無いぞ。
子供のび太が「こんにちは」と元気よく挨拶して全員がズッコケるとか、ギャグの作り方として完全に間違えているし。
しかも大人のび太に続き、子供のび太まで会場から逃げ出すという体たらくで、どうしようもねえぞ。

いれかえロープを試している時や、天井に隠れた時に起きた不思議な現象については、もちろん後で説明が付くようになっている。ただし、これは綺麗に伏線を回収している作業ではなく、ただ辻褄合わせをしているだけに過ぎない。
だから解答が示されても、「謎が解けた」という気持ち良さは全く味わえない。
そんなトコで細工を凝らすより、「タイムリミットが過ぎているのに入れかえロープで2人ののび太が元に戻れる理屈」を用意しておけよ。
そこを「ドラえもんが呼び掛けたらのび太の心に響いてロープが機能した」という精神論だけで強引に突破しても、感動なんか無いぞ。

大人のび太は結婚式から逃げ出したことについて「どれだけ皆が悲しむのか考えなかったの?」と問われると、能天気に「そんなの平気さ。自信さえ付いたら、結婚式の前に戻ればいいんだ」と言う。
そして入れかえロープで小学生の姿になると、ヘラヘラと笑って遊びに行く。
「未来の自分がヘタレにならないように人生をやり直す」という目的は完全に忘れ去り、子供に戻って楽しむことだけに意識が向いている。
ただのクズ野郎じゃねえか。

大人のび太は不良に囲まれると余裕の態度を取り、相手の神経を逆撫でする。しずかに助けてもらった時は反撃するが、すぐにビビる。
不良が退散すると「僕、しずかさんを守れたかなあ」と問い掛け、しずかは守れたと答えているけど、それは大人のび太を甘やかし過ぎているだろ。
そもそも、大人のび太が愚かしい行動を取ったせいで、しずかを巻き込んでいるんだからさ。
それに、不良を撃退できたのも、その大半はジャイアンとスネ夫のおかげだからな。テメエだけじゃ全く守れてないからな。
あと、惚れた相手を守る方法として「殴り合いで勝つ」という行動を描いているのも、どうなのかと思っちゃうし。

未来の結婚式に戻った大人のび太は、自分の身勝手な行動を全く反省せず、迷惑を掛けた関係者に謝罪もしない。
スピーチする前に、まず詫びろよ。
スピーチを聞いた全員が感動する展開にしてあるけど、そこまでに大人のび太のクズっぷりを見せ付けられているので、こっちは不快感しか抱かないぞ。
しずかは途中で中身が入れ替わっていたこと知りつつも全く叱らず「貴方は貴方のままでいいのに」と言うけど、この映画で描かれる大人のび太は「今のまま」じゃダメだろ。変わらなきゃダメだろ。

大人のび太は無事に元の姿に戻ったんだから、さっさと結婚式場へ向かうべきだろう。ところが、「もう一ヶ所だけ寄りたい所があるんだ 。結婚式の挨拶をしなきゃいけないからさ」と言い出し、自分が産まれた日に戻る。現代ののび太も「名前の由来が知りたい」ってことで、彼に同行する。
だけど、今になって名前の理由が気になるのかよ。そんなの、両親に尋ねるチャンスは幾らでもあっただろ。
1作目と同様、「原作から感動できるエピソードを寄せ集めれば感動させられるでしょ」という安易極まりない考えだけで作っているから、そんなことになるのよ。
1つのストーリーとして構築するためにオリジナル要素を加えているけど、そこは総じて最低品質だし。 おばあちゃんをタイムマシンで連れて来て未来の結婚式を見せるとか、最悪なオリジナル要素じゃねえか。

(観賞日:2022年4月12日)


2020年度 HIHOはくさいアワード:第7位

 

*ポンコツ映画愛護協会