『SPACE BATTLESHIP ヤマト』:2010、日本

西暦2199年、太陽系火星域。沖田十三が指令を務める宇宙艦隊は、激しい攻撃にさらされていた。彼が「もう我々には、奴らに勝てる船は 無い」と漏らした直後、ゆきかぜ艦長の古代守から入電が届いた。彼は「このままでは犬死です、我々が盾になります、その間に撤退を」 と沖田に告げる。沖田は「お前にはまだやらねばならんことがあるんだ」と反対するが、守は「貴方と戦えたことは誇りです」と言って 通信を切る。ゆきかぜは沖田艦を逃がすため、盾となって撃沈された。
5年ほど前、火星域に突如として出現した正体不明の敵ガミラスは、地球に向けて無数の遊星爆弾を送り続けていた。青く美しかった地球 は放射能に汚染され、人類は絶滅寸前の危機にさらされていた。人々は地下に逃れて生き延びようとしていたが、破滅の時を待つばかりと なっていた。そんな中、古代進は地下都市で暮らし、サルベージ業者として地表でのレアメタル回収を行っていた。その日、地表に出た彼 は、落下した通信カプセルを発見した。だが、防護服が破れて高濃度放射能に触れたため、意識を失った。
地球防衛軍はカプセルを回収し、古代は放射能洗浄を受けることになった。カプセルを分析した真田志郎は、設計図が入っていたことを 沖田に告げた。沖田から古代の容体を問われ、真田は助からないだろうと答えた。だが、高濃度放射能に汚染されたにも関わらず、古代は 元気だった。彼は沖田がいると知り、怒鳴り込んで来た。古代は守の弟であり、兄を盾にして生き延びた沖田を憎んでいた。
古代が沖田に突っ掛かろうとすると、ブラックタイガー隊隊員の森雪が殴り飛ばした。古代は雪から「民間人の貴方に何が分かるんです」 と責められ、軍の人間によって連れ出された。一方、地球防衛軍司令長官の藤堂平九郎は、人間を脱出させるための船を用意していた。 沖田は彼と会い、「この船を私に下さい」と申し入れた。困惑する藤堂に、沖田は「一部のエリートがわずかな時間を生き延びるために 使うのではなく、人類の希望のために役立たせてください」と頼んだ。
藤堂はテレビで全世界の人々に向かって会見し、通信カプセルに重要なメッセージが含まれていたことを明かした。それは大マゼラン星雲 にある惑星イスカンダルからのもので、放射能除去装置を提供する用意があるという内容だった。しかも、イスカンダルからは、短期間で 移動できる技術供与もあった。地球が放射能で滅びるまで、長くても1年に迫っていた。藤堂は「イスカンダルからの申し出は最後の希望 なんだ」と語り、理解を求めた。
藤堂は、防衛軍が志願兵を募集していることも発表した。そのテレビ中継を見ていた古代は、志願兵に募集した。かつてチームを率いる 戦闘機パイロットだった彼は、戦闘班長に任命された。そんな彼に雪は反発を示し、「何か企んでるんですか」と不信感を抱いた。その時 、ガミラスのミサイルが地球の近くに現れた。沖田は宇宙戦艦ヤマトを緊急発進させ、技術班班長の真田に波動砲の発射実験を行うことを 指示した。古代は波動砲の発射を任された。発射した途端に船のシステムがダウンするが、ミサイルの撃滅には成功した。
沖田はクルーに対し、24時間後にワープテストを行うと告げた。休憩時間、古代は旧知の仲である航海班班長・島大介と娯楽室で会話を 交わす。そこへチーム古代の隊員だった加藤や山本、古屋たちがやって来た。彼らが古代の下で飛べることへの喜びを語って騒いでいると 、別のテーブルにいた雪が「少し静かにしてもらえませんか」と冷淡に告げる。古代が「ここは娯楽室でもあるわけだから、そんなに迷惑 ってわけでもないだろう」と言うと、雪は「なんで戻ってきたんです。古代艦長がいなくなった時、なんでいなかったんです?ようするに 、怖くて逃げてたんでしょ」と彼を批判した。
沖田はクルーに対し、火星軌道に入ったところでワープテストを行うと通達した。ワープは成功するが、直後にガミラス艦隊が現れた。 ワープ直後のため、波動砲の使用は不可能だった。そこで沖田は連続ワープを行うことに決め、機関長の徳川彦左衛門から充電に20分が 必要だという報告を受けた。コスモタイガー隊は指示を受けて発進し、敵空母を撃墜した。しかし雪の機はエンジンが損傷し、動かなく なった。雪は「私のことは置いていってください」と通信するが、古代は救出に行くことを決める。彼は「持ち場に戻れ」という沖田の 命令に背き、「ワープまでには戻ります」と告げて出撃した。
航海班の相原が、ガミラスの大編隊が向かっていることをキャッチした。沖田は島に、ギリギリで回避して古代たちを回収するよう命じた ヤマトは古代と雪を回収し、ワープした。古代は沖田から「勝手な行動で艦の全員を危機に晒した」と批判され、「これが俺のやり方です 。俺は部下を見殺しにしません」と反発した。沖田は「営倉にぶちこめ」と命じる。営倉に入れられた古代の様子を見に来た徳川は、昔の 沖田に似ていると指摘し、「お前、意外に艦長に向いているのかもしれんな」と言う。そこへ船医の佐渡が現れ、沖田が古代を助けるため にギリギリまで待って危険な方法を選んだこと、ゆきかぜ航海士だった沖田の息子も守と共に犠牲となったことを話す。
沖田はクルーに対し、太陽系を離れる前に交信室で地球と最後の交信をすることを許可した。営倉を出て交信室へ向かった古代は、旧知の 仲である第三艦橋クルーの安藤と遭遇した。交信室から出て来た雪が「感謝なんかしてませんから」と勝ち気な態度で言うと、古代は軽い 口調で「あのさ、もっと気楽にいかない?」と告げた。娯楽室へ赴いた雪は島と出会い、古代に憧れて入隊したのに幻滅したことを語る。 すると島は、自分が古代と出撃した際の出来事を語る。2人は遊星爆弾の進路を変えたことで有頂天になったが、第二宇宙ステーションを 直撃してしまった。そこには古代の両親と島の妻が住んでいた。それが原因で、古代は軍を辞めたのだという。
ヤマトはワープを成功させるが、直後に1機のガミラス戦闘機を確認する。しかしエンジンは停止しており、攻撃の意思は見られない。 ワープに巻き込まれたのだ。沖田は古代に、戦闘機を捕獲して調査するよう命じた。刹那、彼は胸を押さえて倒れ込んだ。医務室で彼を 診察した佐渡は、かなり病状が進行していることを告げる。沖田が「あと、どれぐらいですか」と尋ねると、佐渡は間もなく薬でも抑え 切れなくなることを説明した。
真田たちはガミラス戦闘機を調べて生命反応が無いことを確認するが、中から未知の生命体が飛び出した。空間騎兵隊の斉藤始たちが 慌てて銃撃すると、生命体は動かなくなったる。だが、そこから放出された光が斉藤を直撃し、その体を乗っ取った。デスラーと名乗る 存在は、斉藤の口を借りて「ヤマトの諸君、地球は我々のものだ」と言う。何者なのかと問われ、彼は「お前たちがガミラスと呼んでいる アレだ」と答える。「あの結晶体がお前なのか」という質問には、「我々は個であり、全体である」と述べた。地球攻撃の理由を古代が 尋ねると、「改良しているのだよ」と笑う。古代が斉藤をパルスガンで失神させると、デスラーは体外に出て消えた。
沖田は古代を医務室に呼び、艦長代理をするよう促す。古代は「俺には貴方のような指揮は出来ません」と拒むが、沖田は「俺の真似を する必要は無い。お前のやり方でやれ」と言う。回収した戦闘機から位置を確定する電波が発射されていたため、ガミラスの艦隊がやって 来た。古代は艦長代理として指示を出すが、被弾して第三艦橋と接合部が損傷した。古代は救助隊を向かわせろと命じる。安藤から通信が あり、第三艦橋に閉じ込められていること、怪我人もいることが古代に伝えられた。
古代は波動砲を用意させ、大型母艦を攻撃した。母艦を撃滅したヤマトだが、真下から巨大なエネルギー反応が観測された。レーダーに 写らないステルス機が、ヤマトの下に来ていたのだ。そのままではヤマトが爆発するため、古代は雪に「ミサイルを撃って第三艦橋を切り 離せ」と命令した。ステルス機を撃墜した後、古代は沖田の元へ行き、「俺は艦長代理として、どうすれば良かったんでしょうか」と口に した。沖田は「結果は悔やむためにあるんじゃない。君は立派に艦長代理を務めている」と述べた。
古代は雪の部屋へ行き、自分の命令を詫びた。雪は泣きながら、「艦長代理は、やるべきことをやっただけです」と言う。古代は涙を堪え 、彼女を抱き締めて「すまなかった」と告げた。雪が何か言おうとすると、古代はそれを遮ってキスをした。ヤマトはワープを行い、すぐ 近くにイスカンダルが見えるところまで辿り着いた。だが、イスカンダルの方向から大艦隊が現れる。敵のミサイル攻撃により、波動砲の 砲口が塞がってしまった。古代は真田の反対を無視し、ワープで逃げることを選んだ。
ヤマトがイスカンダルの裏側にワープすると、そこから見る惑星は地球にそっくりだった。だが、撃って来たのはガミラスのミサイルだ。 島は「俺たちはイスカンダルじゃなく、ガミラスに来てしまったのか」と呟き、斉藤は「これは罠じゃないか。イスカンダルも放射能除去 装置も嘘だったんだ」と憤る。すると真田は「俺が通信カプセルを分析した時、放射能除去装置の情報は入っていなかった。誰かが後から 付け足した可能性がある」と語った。
島と斉藤は、沖田に事情を訊こうと考えた。すると佐渡が立ちはだかり、「今はそんな状態じゃないの」と制止した。島たちは納得せず、 古代にも賛同を求めた。しかし古代は、上陸の準備を指示した。驚く島たちに対し、古代は「これが本当に罠なら、そこに辿り着かせない 理由があるはずだ。だから攻撃してくるんだ。だったら、カプセルで送られてきた座標の位置へ行くべきだ」と力強く告げた…。

監督・VFXは山崎貴、原作は西崎義展、脚本は佐藤嗣麻子、 製作統括は信国一朗、企画は中沢敏明&濱名一哉、エグゼクティブプロデューサーは飯島三智&阿部秀司&市川南、プロデューサーは 東信弘&山田康裕&石丸彰彦&安藤親広、共同製作は渡辺香&島谷能成&小林昭夫&亀井修&辰巳隆一&仲尾雅至&羽雁彰&北山有一郎& 石井博之&島村達雄&加太孝明&二宮清隆&松田英紀&松本哲也、撮影は柴崎幸三、編集は宮島竜治、録音は鶴巻仁、照明は吉角荘介、 美術は上條安里、VFXディレクターは渋谷紀世子、軍事アドバイザーは小川和久、 軍事指導は越康広&長谷部浩幸、音楽は佐藤直紀、主題歌『LOVE LIVES』:Performed by Steven Tyler。
出演は木村拓哉、黒木メイサ、山崎努、柳葉敏郎、緒形直人、池内博之、マイコ、堤真一、高島礼子、橋爪功、西田敏行、矢柴俊博、 波岡一喜、斎藤工、三浦貴大、浅利陽介、田中要次、須田邦裕、飯田基祐、二階堂智、藤田弓子、大和田健介、原田佳奈、 宇都隼平、石川紗彩、佐々木一平、沢井美優、杉浦文紀、上野なつひ、廣瀬裕一郎、東海林愛美、岩田知幸、松本まりか、村松知幸、 山林真紀、進藤健太郎、田村直子、南圭介、日野誠二、水上潤、高味光一郎、柳東士、吉川勝雄、天川真澄、石塚良博、木村啓介、澤山薫 、小林拓生、高嶋寛、橋本望、小山弘訓、中西台次、井手規愛、白川ゆり、桐山靖信、野々目良子、今野ひろみ、谷口大悟、岩手太郎、 吉田弘一、小林親弘、山根舞、中山玲、唐澤龍之介、上村圭将、津村英哲、石田康弘、仲村辰朗、最所美咲ら。


1974年から1975年に掛けて放送され、その後も続編シリーズや複数の映画版が作られたTVアニメ『宇宙戦艦ヤマト』を基にした実写映画 。
TBS60周年記念作品として製作されている。
監督は『ALWAYS 三丁目の夕日』『BALLAD 名もなき恋のうた』の山崎貴。
脚本は『アンフェア the movie』の佐藤嗣麻子。
古代を木村拓哉、雪を黒木メイサ、沖田を山崎努、真田を柳葉敏郎、島を緒形直人、斉藤を池内博之、相原をマイコ、守を堤真一、佐渡を 高島礼子、藤堂を橋爪功、徳川を西田敏行が演じている。

『宇宙戦艦ヤマト』を実写映画化するという企画の段階で、もうダメな作品に仕上がることは、ほぼ確定的と言ってしまってもいい。
それは果敢なチャレンジではなく、無謀な挑戦だ。
大人気だったということは、それだけ大勢の人々の印象に残っている。
だから、どうしても「アニメ版と比較して云々」という観賞になってしまう。
そうなれば、「ここがイメージと違う」「ここがアニメ版と違う」といった、否定的な意見が多くなることも確実だ。

さらに困ったことに、この作品はキムタクのスター映画として作られている。
ようするに、昔の銀幕のスターである片岡知恵蔵や市川右太衛門などの主演作と同様ってことだ。
「お客さんは主演の大物スターを目当てに見に来るのであり、そのスターの活躍を見せることが何よりも重視される」ということで 作られるのがスター映画だ。
「俳優が用意されたキャラクターを演じようとする」というよりも、スターはいつも同じような感じで、スターに会わせてキャラクターや 物語が用意される、という形になる。

キムタクは何をやってもキムタク以外の何物でもないが、それは「いかにもスターらしい」ということでもある。
例えば石原裕次郎だって、何をやっても石原裕次郎だった。
だから、キムタクが常にキムタクであろうとも、スターとしてのオーラがあるのなら、それはそれで構わない。
ただし、彼の主演作として『宇宙戦艦ヤマト』が企画されたのは、大きな問題だ。
繰り返しになるが、『宇宙戦艦ヤマト』は人気アニメだったので、主役である古代進のイメージも出来上がっている。
だから、そっちに寄せて芝居をやるべきであって、「何をやってもキムタク」では困るのだ。

実際、この映画の古代は、キムタクに合わせてキャラ造形されているようにしか感じない。
地球を救う使命を帯びているのに、雪に「もっと気楽にやんねえ?」とか言っちゃう。
古代を「熱血で真面目な男」から「チャらくて軽い奴」に変更したせいで、「なんであんなリーダーシップの無い奴に艦長代理を任せる のか」と引っ掛かってしまう。
あんな奴に付いて行きたいとは思えないぞ。
ただ、そこはキムタクが悪いと言うよりも、キムタク主演で『宇宙戦艦ヤマト』を企画した人間が悪いよな。
その罪は重い。

冒頭では、戦闘によって古代の兄が犠牲になるシーンが描かれている。
派手なアクションから入りたいという気持ちは、分からないではない。
ただ、そのバトルに観客を掴む力が無い。正直、何が起きているのかも良く分からないし。
そこに限らず、その後も戦闘シーンは多く用意されているが、パッとしない。
迫力に欠けるし、動きは単調だし、艦隊戦が一度も無いってのも物足りない。

冒頭シーンに戻って、そこで守が盾にならなきゃいけないってのも良く分からない。そこまで追い詰められている印象を受けないのよね。
しかも、死を決意して特攻を指示する守の様子は見せず、戦艦が撃沈されるのを描くだけ。
そんで、それを見ている沖田は無表情だし、「古代」と言うだけで、ほぼリアクションが無い。
特攻の前に、守が「このままでは犬死にです」と言ってるが、まさに「犬死に」だ。
そんなシーンから始めるぐらいなら、「無限に広がる大宇宙」というナレーションから始めた方がいいでしょ。
そうすりゃ『宇宙戦艦ヤマト』のファンが喜ぶだろうし。

最初の盛り上がりシーンになるはずのヤマト発進に、まるで高揚感が無い。
なんせ建造している様子は無くて、既に完成していたものだし。
「イスカンダルの科学技術が産み出した波動エンジンを搭載し、宇宙戦艦ヤマトを建造する」という手順は省略されているのよね。
で、それなのに、発進前に船の外観を画面に写すことも無い。
「その船がガミラスに知られたようだ」とか言われても、どの船なのかと。それがヤマトという名前であることさえ、分からない状態 なんだぜ。
古代が「これは?」と訊き、沖田が「そうだ、ヤマトだ」と答える会話も変でしょ。
それだと、まるで「あの、お前も知っているヤマトだぞ」という感じだけど、そこで初めてヤマトという名前が登場しているんだからさ。

最初のバトルの後、ワープテストまでの時間で人間模様を描こうとしているのだが、そのために使うのが娯楽室でのシーンって、どういう センスなのかと。
そうじゃなくて、クルーが各自の持ち場で作業をしている様子を描くべきだろうに。
それによって、そいつがどういう役職なのかも伝わるだろうし、「使命を帯びている」「軍人として重要な任務に向かっている」という ことも示せる。
ノンビリとダベっている様子なんて、そんなことに時間を割く余裕は無いはずだぞ。

仮にも軍隊なのに、ヤマトのクルーには規律もへったくれもない。
キムタクだけじゃなくて、ブラックタイガー隊を始めとする他の面々も、かなり軽い。
自分たちが人類にとって最後の希望だという使命感、これが失敗したら終わりだという緊迫感、そういったモノが全く感じられない。
「これ、飲みましょうよ」とか、はしゃいでいる場合じゃねえだろ。
お前ら能天気な大学生なのかと言いたくなるぐらい、悲壮感も無い。
戦争を全く知らない市民クルーなのかと。だとしても、最初の戦闘で現実を理解するはずだし。

佐渡はアニメ版で男ったのが女に変更され、雪も生活班班長からブラックタイガー隊隊員に変更されている。
だが、まず佐渡を女に変更した意味は全く無い。「女ならでは」というドラマが用意されているわけでないし。
雪のキャラ変更も、「黒木メイサには合っている」という以外に何のメリットも感じない。
「強い女」を描くのに、「男勝りで戦闘に参加する」というキャラ設定にしておくのが分かりやすいってのはあるだろう。ただ、アニメ版 の雪は、そういう男勝りな部分は無かったけど、愛する古代のためなら命を投げ出せるような、芯の強さはあったんだよね。
それに比べて、この雪は強がっているだけで、中身の強さは持ち合わせていない。
それどころか、最初は男勝りで勝ち気なキャラだったのに、後半は別人格になっちゃっている。

山崎努は登場シーンからして、重厚とか冷静沈着というのではなく、「やる気が無い」、もしくは「疲れている」としか思えないような セリフ回しになっている。
「全艦ショックカノン発射!」と叫ぶシーンでは、ちゃんと叫んでいるものの、声が高くなってしまうので、それはそれでダメだし。
そこは声が低いままで、重厚なままで、指令を下すというトーンに変えてくれなきゃ困るんだよな。

その山崎が演じる沖田は古代から守の死について非難された時、「生きて帰って来るという仕事もある」と言い訳している。
だけど、そこは黙って申し訳ないという気持ちだけを示せよ。いちいち自己弁護してんじゃねえよ。そんなキャラじゃないはずだろ。
それだけでも引っ掛かるのだが、後半、沖田が大きな嘘をついていたことが判明し、さらに評価を下げる。
なんと、「放射能除去装置がイスカンダルにある」というのは、彼がデッチ上げた嘘だったのだ。

沖田は嘘をついた理由として「古代が放射能でも平気だったから、送り主には放射能を除去する能力があると考えたから」って言うけど、 何の確証も無いままヤマトのクルーをイスカンダルへ向かわせ、地球の人々には「ヤマトが地球を救ってくれるはず」と思わせているのだ 。
たまたま適当な勘が当たったからいいものの、外れていたら、どうするつもりだったんだよ。
希望を与えておいて、絶望のドン底に陥れることになるんだぞ。
そんな沖田に「何もかも美しい」とか言って死なれても、これっぽっちも感動しねえよ。

そこに限らず、中途半端にアニメ版のセリフを持ち込んでいるけど、ドラマが足りていない(もしくはアニメ版と全く異なる)せいで、 余計に浅薄さが際立つ結果となっている。
真田が命懸けで特攻する前に、古代に「お前を弟のように思っていた」と言うシーンも、「そんなに親しい関係になってなかっただろ」と 言いたくなる。
あと、時間が足りない中で『さらば宇宙戦艦ヤマト』の「みんな死んでいく」という展開を持ち込んだせいで、まだキャラが全くアピール されておらず、感情移入が全く出来ないまま、どんどん人が死んでいっちゃうし。

とにかく時間が足りていないなあと感じる。
だから、古代は元エースパイロットだったとは言え、いきなり戦闘班隊長に任命され、まだ全くヤマトを動かすための訓練も積んでおらず 、その船について全く知識も情報も無いはずなのに、波動砲を撃つという大事な役目を任されるという、不自然なことになっている。
で、時間が足りないのに、「古代は沖田に反発していたが、心情を理解するようになる」とか「雪は古代に反発していたが、恋愛関係に なる」という話を盛り込んじゃってるんだよな。

最初に「反発」から入ると、「理解」や「恋愛」へ変化させていくためには、それなりの手間と時間が必要になる。
だけど時間が足りないので、ものすごくギクシャクしてしまう。
時間が無いんだから、古代は最初から軍人として沖田を尊敬しており、雪とは恋人同士という設定にでもしておけばいいんだよ。
そうすれば、古代と雪がわずかな時間で恋愛関係になり、ガキまで作っちゃうというバカバカしい筋書きも回避できたはずなんだから。

第三艦橋で人が閉じ込められたのに、そこに大勢の人が取り残されている様子を描かず通信だけで済ませるという愚かしさ。
そこは何人ものクルーが残っていることを明確に示してこそ、「ヤマトを救うために彼らを犠牲にする」という辛さ、その命令の重さが 伝わって来るんでしょうに。
人がいることが伝わって来なかったら、ただ単に「壊れた箇所を切除した」というだけになってしまう。

古代が雪にキスをするのは、すげえ唐突。
そこまでに、恋愛感情が高まっていくとか、彼女に惚れるようになるとか、そんな描写は全く無かったのに。
っていうか、時間が足りない中で何を削ろうかと考えた時に、恋愛ドラマは真っ先に削り落としてもいいぐらいだ。
ワープに入る中で改めてキスをするとか、アホかと。
そもそも、艦長代理がキスしている間に、誰の指示で勝手にワープしたんだよ。

監督が得意にしているはずのVFXにしても、ヤマトの巨大さを描き切れていないというところで大きなマイナスがある。ブリッジも 狭いし。
あと、やたらと照明が明るいことによって、艦内セットのチープさが強くなっている。
それと、ハリウッドのSF映画やドラマを意識しているんだろうなあと感じる描写がチラホラと見えるが、それがオマージュじゃなく、 単なる「真似っこ」に見える。
で、そういう描写の多さが、この映画にB級感をもたらしてしまう。

クライマックスとなる陸戦シーンで、アナライザーを戦闘ロボットとして突っ込ませているのは萎える。
だったら「アナライザー」じゃないでしょ。アナライズって「解析」っていう意味でしょうに。
あと、エンディング曲の歌手にスティーヴン・タイラーを起用してしまうセンスも最低だ。
そこでもハリウッド映画を意識したのか。
まあタイトルも「SPACE BATTLESHIP」と英語になってるしなあ。

私はアニメ版ヤマトの熱烈なファンだったわけではないし、特に劇場版に関しては、決して誉められた出来栄えではなかったとも思って いる。
ただ、「アニメ版も粗が多くてツッコミ所が満載だったから、この実写版がそうであってもいい」という意見もあるようだが、それ じゃダメでしょ。アニメ版のクオリティーが低かったからと言って、実写版の質が低くても構わないってことにはならない。
アニメ版に粗があったとしても、だったら実写化する際、そこは改善すべきでしょ。そんなトコを踏襲したからって、何のリスペクトにも ならんぞ。
それに「アニメ版も粗が多くてツッコミ所が満載だったんだからさ」というのは、勝負で負けた奴に「でも頑張ったんだから」と声を 掛けているのと同じようなモンで、慰めにはなるかもしれんが、高く評価するためのポイントにはならんでしょ。

「あの『宇宙戦艦ヤマト』をを実写化しただけでも評価できる」とか言っている人もいるみたいだけど、こんなモノを作るぐらいなら 実写化しない方がいいでしょ。
「久々に国産SF大作映画が作られた」ということを喜んでいる声もあるみたいだけど、こんなに酷い駄作を作ってしまったら、また当分 は国産SF大作が作られなくなっちゃうかもしれないでしょ。
そう考えたら、能天気に喜んでいる場合じゃないはずでしょ。

(観賞日:2011年10月8日)


2010年度 HIHOはくさいアワード:1位


第7回(2010年度)蛇いちご賞

・主演女優賞:黒木メイサ

 

*ポンコツ映画愛護協会