『そして、バトンは渡された』:2021、日本

みぃたんは友達思いの泣き虫な女の子で、いつもみぃみぃ泣いていた。梨花は目的のためなら手段を選ばない魔性の女で、高校の同窓会で1人の男に狙いを定めて近付いた。優子は笑顔の絶えない高校3年生で、無駄に振りまく笑顔が余計に敵を増やしていた。森宮は競争が苦手なサラリーマンで、手柄を横取りした同僚が昇進しても黙って見ているだけだった。優子はクラスの女子から嫌われており、数年しかピアノを習っていないのに卒業合唱の伴奏を押し付けられた。優子からピアノ伴奏の話を聞かされた父の森宮は状況を理解しておらず、頼りにされているんだと告げた。
みぃたんは授業参観日に来た父の水戸秀平に、なぜ自分だけママがいないのかと質問した。秀平は「お空の上にいる」と言い、亡き妻である香織の写真を見せた。森宮と優子は仲良しの親子だが、「優子ちゃん」「森宮さん」と呼び合っていた。再婚しないのかと優子が訊くと、森宮は「優子ちゃんを嫁に出すまでは、父親としての使命を全うしなきゃ」と述べた。ある日、みぃたんが帰宅すると室内が華やかに飾り付けられており、梨花が来ていた。秀平はみぃたんに、会社でチョコレート作りを手伝ってくれている友達だと紹介した。みぃたんが梨花に懐くと、秀平は彼女と再婚した。
卒業合唱で伴奏する生徒たちが集められ、音楽を担当する美人先生からレベルを確かめるために好きな曲を弾くよう指示された。優子は他の生徒の上手さに動揺し、緊張でミスを重ねた。早瀬賢人の演奏を聴いた彼女は、心を奪われた。秀平は梨花とみぃたんに、自分のチョコを作る夢を叶えるため、1ヶ月後にブラジルへ移住する計画を伝えた。梨花は相談も無く勝手に決めたことを責め、みぃたんと日本に残ると告げた。秀平が「ホントの親は俺だ」と言うと、彼女は「みぃたんに決めてもらおう」と持ち掛けた。みぃたんは友人に相談した上で梨花と残ることを選び、秀平に涙で別れを告げた。
優子は進路相談の際、栄養士になるために短大へ進む考えを担任教師に説明した。担任教師は四年生の大学に推薦できる学力があるので反対するが、優子は早く資格を取って独り立ちしたいのだと述べた。進路相談を終えた彼女が隣の教室を覗くと、早瀬が美人先生と話していた。早瀬が料理専門学校に行く考えを語ると、音大に進むと思っていた美人先生は驚いて反対する。「お母様が許さないでしょう」と美人先生が言うと、早瀬は「俺はあの人の所有物じゃありませんから」と返した。
優子は下校しようとする早瀬に声を掛け、「音大に進むべきだと思う。だってピアノ、凄かったもん」と言う。優子が自分だけ上手く演奏できなかったと漏らすと、早瀬は真面目な顔で「一番あのピアノに馴染んでた。俺は好きだよ」と告げた。早瀬は立ち去り、優子は彼が落とした楽譜を拾った。みぃたんは梨花に連れられてアパートに引っ越すが、パパに会えなくなったので沈んだ気持ちを抱えていた。彼女が泣き出すと、梨花は「こういう時こそ笑っておかなきゃ。笑っていればラッキーが転がり込むの」と説いた。
早瀬は母からコンクールに出場するよう言われるが、「私の仕事の時からの夢だったの」という言葉に「そういうの押し付けないでくれ」と反発して去った。その会話を耳にした優子は、早瀬に楽譜を渡して「どんな曲なの?」と尋ねた。早瀬はロッシーニだと教え、音楽室に彼女を連れて行って曲を聴かせた。クラスの女子2人から意地悪されても笑う優子の姿を見ていた彼は、「鏡の前で何度も練習したみたいな笑顔だった」と指摘した。
早瀬は優子に、母に反発している間に表情を忘れたと語る。優子は「親と喧嘩したこと無いから羨ましい」と言い、森宮と戸籍上は実の親子だが血が繋がっていないことを明かした。すると早瀬は、「お互いを尊重できて、実の親子よりよっぽどいい」と口にした。みぃたんは秀平に手紙を書いたが全く返事が来ないので、すっかり落ち込んでいた。梨花は全く気にせず、何着もの服を購入した。浪費癖のせいで米が底を突いても、彼女は能天気な態度を崩さなかった。
優子がショーウィンドーに展示されているグランドピアノを眺めていると、通り掛かった森宮が気付いて「やっぱりピアノ欲しいんだ」と告げる。優子は防音付きの家に引っ越す必要があるのだと説明し、「無理でしょ。ダメならダメで怒ればいいじゃん」と苛立った。森宮が困惑の表情で「怒るの苦手だしさ」と漏らしていると、早瀬が通り掛かった。彼は優子の家にピアノが無いことを知り、なのに素晴らしい演奏だったと褒めた。森宮は早瀬を家に招き、ギョウザを振舞った。
みぃたんは梨花に、何歳まで生きるのかと質問した。梨花が動揺していると、みぃたんは「兄弟もいとこもいないから、ずっと死なないでほしいの」と告げた。梨花は彼女を抱き締め、「大丈夫だよ。ママはすっごく丈夫だから」と語った。優子はクラスの合唱曲が『旅立ちの日』に決定したので教室で試奏するが、ミスを繰り返したのでクラスメイトから嘲笑された。みぃたんは友人たちがピアノ教室に通い始め、なかなか一緒に遊べなくなった。彼女は梨花にピアノを習いたいと言うが、すぐに「でも無理だよね。分かってる」と付け加えた。梨花は少し考えてから、「何とかしよう。頑張ってみる」と口にして再婚相手を探し始めた。
森宮の会社に梨花が現れ、「お願いがあるの」と切り出した。すると森宮は、「じゃあ、俺の頼みも聞いてくれる?」と告げた。森宮は優子をレストランに呼び出し、女性に会わせようとする。しかし時間になっても女性が現れず、優子は「やっぱり騙されたんだよ」と言う。梨花は高齢の資産家である泉ヶ原茂雄と再婚し、みぃたんを豪邸へ連れて行く。邸宅にはグランドピアノが置いてあり、みぃたんは梨花から自由に弾くよう告げられた。
梨花はみぃたんに、「新しいパパのためにも、返事もくれないパパにお手紙書くの、最後にしない?」と提案した。みぃたんは悩むが、結局は梨花の提案を受け入れた。優子に意地悪を繰り返していた女子2人は、急に優しく接するようになった。2人は優子に、美人先生から家庭事情を聞いたことを明かした。みぃたんは豪邸へ通う女性講師から、ピアノを教わるようになった。優子は早瀬にピアノを教えてもらい、少しずつ上達していった。梨花は体調が優れず、すぐに疲れた様子を見せるようになった。
森宮は優子に預金通帳を見せ、「この金でピアノを買って、防音付きの家に引っ越そう」と言い出した。優子は困惑し、「ピアノは卒業合唱でおしまい。私は料理の道に進むんだよ」と告げた。森宮が父親らしいことを満足に出来ていないと漏らすと、優子は彼の影響で料理の道に進むことを決めたのだと語った。梨花は「しばらく戻りません」とメモを残し、泉ヶ原の邸宅から姿を消した。みぃたんは沈み込み泉ヶ原と家政婦の吉見は何とか元気付けようとする。しばらくして戻って来た梨花は、「景色の綺麗な高原の農場で、住み込みで働かせてもらってた。しばらく、そこにいる」とみぃたんに話した。
梨花が週末婚の形を取ることを告げると、泉ヶ原は了承した。梨花はみぃたんに、大量のプレゼントを用意していた。みぃたんが「ママがいなくて寂しかった」と言うと、彼女は「この家にいると息が詰まるの」と述べた。梨花は何とかすると言い、新しい彼氏を探していることを明かした。優子は希望の短大に合格し、早瀬が東京音大に受かったことを知った。彼女は森宮から合格祝いで時計をプレゼントされ、お返しの形で食器セットを渡した。優子は早瀬が女性といるのを目撃し、ショックを受けた。
梨花はみぃたんに、「東大出の男を同窓会で捕まえたから、結婚する」と嬉しそうに話した。森宮は卒業式に出席し、優子のピアノ演奏を聴きながら過去を振り返った。梨花との挙式当日、彼は幼い娘がいるのを初めて知った。困惑を隠せない森宮だが、みぃたんも一緒に家族になることを決めた。大学に進んだ優子は、アルバイトをしながら独り暮らしを始めた。大学を出た彼女は一流レストランに就職するが馴染めずに辞め、大学時代にバイトをしていたキッチン吉田で働き始めた。
ある日、配達に赴いた優子は豪邸に到着し、幼少期のことを思い出した。そこは早瀬の家で、優子は彼が母と喧嘩して飛び出す様子を目撃した。優子が店に戻ると、早瀬が食べに来ていた。早瀬は大学を辞めたこと、料理人の修行中であることを優子に語った。優子は心の中を見透かされ、恋心を告白した。梨花は早瀬と付き合い始め、森宮に結婚の意思を打ち明けた。相手の早瀬が大学を辞めてヨーロッパで料理修行中だと聞いた森宮は、「そんな風来坊じゃ、振り回されるだけだ」と結婚に反対した…。

監督は前田哲、原作は瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』(文春文庫刊)、脚本は橋本裕志、製作は高橋雅美&池田宏之&沢桂一&堀義貴&中部嘉人&高津英泰&弓矢政法&渡辺章仁&細野義朗&森要治&坪内弘樹&昆野俊行&加藤智啓&小櫻顕&廣瀬健一、エグゼクティブプロデューサーは下枝奨&伊藤響&菅井敦、プロデューサーは田口生己&飯沼伸之&白石裕菜、アソシエイトプロデューサーは古林茉莉、撮影は山本英夫、照明は小野晃、美術は倉本愛子、編集は高橋幸一、音楽は富貴晴美、音楽プロデューサーは千陽崇之。
出演は永野芽郁、田中圭、岡田健史、市村正親、石原さとみ、稲垣来泉、大森南朋、木野花、戸田菜穂、朝比奈彩、安藤裕子、萩原みのり、原扶貴子、中井千聖、カトウシンスケ、渡辺佑太朗、オクダサトシ、羽鳥心彩、宮里真央、山崎竜太郎、向里祐香、ぎたろー、大城龍永、竹内龍臣、若林茉莉奈、大本葵、鬼塚俊秀、奥田圭悟、岡田六花、川田琥太郎、マユ・ソフィア、高橋勝典、菊地荒太、小切裕太、高田靖士、古賀勇希、内田杏、前田織音、野村星、福田明子、まどか、MANUら。


本屋大賞を受賞した瀬尾まいこの同名小説を基にした作品。
監督は『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』『ぼくの好きな先生』の前田哲。
脚本は、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』でも前田哲と組んだ橋本裕志が担当している。
優子を永野芽郁、壮介を田中圭、早瀬を岡田健史、泉ヶ原を市村正親、梨花を石原さとみ、みぃたんを稲垣来泉、水戸を大森南朋、吉見を木野花、早瀬の母を戸田菜穂、美人先生を朝比奈彩、香織を安藤裕子が演じている。

たぶん、っていうか間違いなく、「血の繋がりを越えた、家族の愛と絆の感動的な物語」として仕上げようとしているんだろう。
だけど、実際の内容は全く違うんだよね。胸糞の悪さがフルスロットルの物語で、ちょっと話題になった「親ガチャ」を連想させる内容だ。
「子供は親を選べない」という典型的なパターンの話だ。大人たちの身勝手に振り回されながらも、愛想笑いで何とか乗り越えようとする少女の物語だ。
それを「可哀想な話」に思わせないように作っているけど、優子のけなげさが余計に不憫を感じさせる。

冒頭、森宮が同僚の昇進を眺めるシーンで、小学校時代のクラス対抗リレーが回想として挿入される。そしてナレーションで、「バトンを落とした時の焦りと絶望を思い出す」と語り、『そして、バトンは渡された』というタイトルが出る。
でも、こういう入り方だと、後の展開に上手く繋がっていないでしょ。そこで示される「バトン」の意味は、タイトルの「バトン」と全く違うでしょ。
森宮が思い出したバトンは、「調子に乗ると失敗するから、なるべく事を穏便に済ませよう」という生き方の象徴みたいな物だ。でもタイトルの「バトン」は、「大人たちが優子を引き継いでいく」という意味なのよ。
そもそも、「優子を物みたいに扱っているのか」ってのも気になるけどさ。自分たちの思いを受け継ぐために、その道具として優子を使っていることになるわけで。

優子は進路相談の場で担任教師から「貴方、いつも笑って誤魔化してるけど、辛いことがあったら話して」と言われると、「先生は私が辛い思い出話をして泣いたりしたら満足なんですか」と笑顔で返す。
ここでの担任教師は、「優子が四年制大学に進まないのは家庭環境に問題があるからだ」と決め付けている。
なので、それを否定する形で描くのは理解できる。
ただし、「いつも笑って誤魔化してる」という指摘に関しては、決して間違っちゃいないのだ。

あと、「じゃあ家庭には何の問題も無いのか」と考えた時、そうとも言い切れないでしょ。
森宮は優子がクラスで意地悪されていることに、全く気付いていない。仮に気付いたとしても、事勿れ主義なので、何も出来ずに傍観するだけで終わるだろう。
また、前述の「笑って誤魔化してる」という件は、幼少期に梨花が「こういう時こそ笑っておかなきゃ。笑っていればラッキーが転がり込むの」と説いたのが原因だ。
そのせいで優子は無駄に笑顔を振りまき、敵を増やすことに繋がっている。

優子は担任から四年制大学に行くよう勧められても、「早く独り立ちしたいから」と短大に行くことを決める。それなのに彼女は早瀬が音大ではなく料理専門学校に進もうとしていることを知ると、「音大に進むべきだと思う」と告げる。
どの口が言うのかと。自分は才能が云々とか学力が云々ってのを抜きにして、「早く独り立ちしたい」という意思に基づいて進路を選んでいるのだ。
だったら早瀬だって、自分の意思で決めてもいいでしょうに。
結局、早瀬は音大を受けて、でも馴染めずに辞めてしまう。
音大に進んだのは、少しは優子の言葉が影響していた可能性もあるでしょうに。余計なお節介で他人の人生を狂わせたことになってないか、それって。

意地悪な女子2人組は美人先生から優子の家庭事情を聞くと、途端に優しく接するようになる。それ以降、その2人は「優子の親友」というポジションに収まる。
だけど、彼女たちの態度がコロッと変わったのは、単に同情しただけであって。
それを友情として進めるのは、どうにも腑に落ちなんだよね。
っていうかさ、ずっと意地悪グループの先頭に立っていた連中が家庭事情を聞いた途端に急変するってのも、すんげえ安易で陳腐に感じるし。

自由奔放に飛び回って男を取っ換え引っ換えする梨花だが、最終的には「全てはみぃたんのため」という「愛と優しさの人」として描いている。
だけど、終盤に入って行動の理由が判明しても、彼女の全てを容認するのは無理だ。
例えば、浪費癖が酷い中で生活が苦しくなった彼女は金持ちの泉ヶ原と結婚し、「みぃたんにピアノを習わせるため」という理由が提示される。
だけど、どう考えても「自分が贅沢で楽な暮らしをしたいから」ってのもあるからね。

みぃたんが秀平に送ってくれと頼んでいた手紙を一通も送らずに嘘をついていたのも、「新しいパパのために、手紙を書くのは最後に」と持ち掛けるのも、娘の思いを殺している行為でしかない。
理由を明かさず急に姿を消すのも、「みぃたんの幸せのため」と受け取るのは無理。みぃたんにとっての幸せは、その時点では「梨花と一緒にいること」なんだからさ。
泉ヶ原の家を捨てて別の男の元へ行くと決めた時、みぃたんが難色を示すと梨花は「選ぶのはみぃたん。だけど私は母親よ」と言っており、実質的には選択肢を与えていない。その辺りも、自分の身勝手にみぃたんを付き合わせているとしか感じない。
全てはみぃたんのためでなく、自分のためなのだ。

映画開始から1時間10分ぐらい経過した辺りで卒業式のシーンになり、森宮の回想を使って「実はみぃたんの成長した姿が優子だった」と明らかにする形を取っている。
だけど、よっぽど勘の悪い人じゃなければ、ずっと前の時点で「優子とみぃたんは同一人物」と気付くはず。
そこがバレバレになっているので、卒業式で明かす仕掛けは全くの無意味になっている。むしろ、そこを隠そうとしたせいで、構成が無駄にゴチャゴチャとややこしくなっている。
最初から明かして構成をスッキリさせた方が、メリットは遥かにデカいぞ。

終盤、優子の元に梨花からの荷物が届く。
そこには優子が水戸に送ったはずの手紙の束が入っており、梨花が手紙を送っていなかったこと、それどころか「みぃたんが恨んでいて会いたくないと言っている」と嘘の手紙を水戸に送っていたことを明かして謝罪する手紙が同封されている。
手紙には水戸が事業に失敗して帰国していること、結婚して新しい家族がいることも記されており、会いに行ってほしいと綴られている。
だけど、自分で関係を引き裂いておいて、今になって「会いに行って」って、どんだけ身勝手なんだよ。

森宮は梨花から手紙が届いたことを聞くと、彼女を許してあげるよう優子に告げる。彼は「自分も子供を取られたくないという気持ちは分かる」と共感を示すのだが、「だから許すべき」ってのは、勝手すぎる理屈でしょうに。
「もう昔のことだから」とか、そういう問題でもないぞ。
優子は物分かりの良すぎる娘だから梨花を許しているけど、ホントにドイヒーな親たちに育てられてるよな。
泉ヶ原だけは違うけど、こいつはこいつで「梨花の身勝手を全て許す異常な寛容さ」という都合の良さが引っ掛かるし。

優子が再婚した水戸を訪ねるシーンでは、梨花から届いた手紙の束を見せると、同行した早瀬が「みぃたん、元気でいるか?」「みぃたん、学校はどうだ?」などと手紙の内容を簡単に語り、自身の感想を述べる。
今度は水戸が梨花から届いた手紙の束を見せ、同席した妻が「パパはどうしてお返事くれないの?」「パパに会いたい」などと手紙の内容を簡単に語って自身の感想を述べる。
優子が泣き出すと水戸の幼い娘と息子が駆け寄り、「泣いてるの?」」「私のハンカチ貸してあげる」と言う。
ここの露骨な段取り芝居の連続には、思わず苦笑してしまった。
他にも段取り芝居は幾つもあるけど、ここがダントツで臭い。

早瀬は高校時代に母親に反発し、音大受験を拒否して料理学校へ通おうと考える。しかし優子からピアノを続けるべきだと言われ、音大に入る。
しかし馴染めずに退学し、料理人の修行を始める。しかし優子が改めて「ピアノを続けるべき」と言うと、またピアノの道に戻ることを決める。
結婚に反対していた森宮は、早瀬がピアノの道を選ぶと聞いた途端に結婚を認める。
一貫して「ピアノは良くて料理は絶対にダメ」という方針で話を進めているわけだが、どうにも賛同し難い。

この映画の描き方だと、「才能がある人間は本人の意思に関わらず、その道を進むべきだ」と主張しているように感じるんだよね。
早瀬の場合、ひょっとすると料理人としての才能は、絶望的に無いのかもしれない。それに、最終的には「やっぱりピアノが好き」みたいなことも言っているので、それで正解なんだろう。
ただ、仮に料理が好きだったとしても、それでも否定しているように感じるのよ。
あと「親の言うことには従うのが正解」という主張も見えるので、なんか嫌な感じがするし。

映画が終わりに近付く中、優子の病死が描かれる。
そして彼女が長きに渡って病気を患っていたこと、だから優子の幸せを考えて新しい夫を探したり、姿を消したりしていたことが明かされる。
だけど理由が明らかになっても、全ては「みぃたんの幸せのため」と思い込んでいる梨花のエゴにしか感じない。
優子の立場に立った場合、母親が死んでから「死んでいた」と知らされて、しかも病気で長く苦しんでいたことも知らされたら、これからの人生で、ずっと後悔や罪悪感を抱くことにも繋がりかねないぞ。

親の死に目に会えないってのも、優子からすれば悲しい出来事でしょ。
優子は「幼い内に母親を2人も無くすのは可哀想だから」ってことで内緒で姿を消したらしいけど、後から「実は死んでいた。実は病気と闘っていた」と知らされるよりはマシなんじゃないかと。どっちにしろ、母親の死を知らされたら悲しい気持ちになるのは一緒なんだし。
あと結果論ではあるけど、梨花は優子が結婚を考えるような年齢になるまで生きているのよ。
それを考えても、梨花の選択は大きな間違いだったと言わざるを得ないぞ。

(観賞日:2023年4月18日)

 

*ポンコツ映画愛護協会