『空へ ―救いの翼 RESCUE WINGS―』:2008、日本

1994年、伊豆諸島、神津島。雷雨の中で、川島遥風の母・千恵子は苦痛に耐えていた。本土から航空自衛隊の救難ヘリコプターがやって 来て、学校の校庭に着陸した。ヘリから降りた隊員たちは、千恵子を担架に乗せる。母を心配する遥風に、隊員は優しく「大丈夫だよ、 お母さんはすぐに大きな病院へ運ぶからね」と声を掛ける。救難ヘリコプターは千恵子を乗せ、島から飛び立った。遥風はヘリを追い掛け 、転倒してしまう。ずぶ濡れになりながら立ち上がった彼女は、「お母さん」と叫んだ。
2008年、石川県白山上空。23歳となった遥風は、小松救難隊の救難ヘリUH-60Jを操縦する新人パイロットとして訓練を積んでいた。緊張 して操縦桿を握る彼女を見て、隣にいる菊田靖男は、「肩の力を抜け」と言う。飛行班長の鷹栖美那は通信を入れ、「3名の内、1名は 意識不明の重体」と告げる。メディックの瀬南孝太郎たちが降下して救助する様子を眺めながら、遥風は母がヘリで運ばれた時のことを 回想した。瀬南たちが戻った後、機体がケーブルに当たりそうになり、激しく揺れた。菊田が遥風から操縦を代わり、機体を立て直した。 菊田は「訓練だからと言って気を抜くな」と遥風を叱責した。
小松基地に戻った遥風は、瀬南から「しっかりしてくれないと、安心して救難活動は出来ませんよ」と説教された。遥風がジョギングして いると、第6航空団第306飛行隊のF-15Jパイロット・横須賀剛が声を掛けて来た。彼は「F転によろしくな」と口にした。遥風が整備小隊 の友人・勝沼碧と話していると、UH-60Jのパイロット・織田龍平が来て「いつまでも失敗にこだわるな」と彼女は励ました。
織田は元イーグルの操縦士で、ヘリのパイロットになったのは上からの命令だった。遥風が横須賀のことを告げると、彼は航空学生からの 同期だと説明した。遥風は女子隊員宿舎へ行き、友人の碧、横山姪子の2人と話す。「幹部と言っても、いいことなんて無いんだよ。瀬南 2曹には、お説教されるし」と彼女が愚痴を漏らすと、姪子は「彼は遥風のことが好きなんだよ」と告げる。姪子は、碧が横須賀に惚れて いることを指摘した。
数日後、嵐の中で漁船・第十五伊勢丸が座礁し、小松救難隊は派遣要請を受けて出動した。遥風にとって、これが初の実戦任務となる。 機長を務める早稲田繁夫が救難ヘリを船上へ近付け、メディックの柿崎大輔が船に降下した。彼は甲板にいた3名から、もう一人の乗員・ 杉山が船室に残っていることを聞く。柿崎は3名をケーブルでヘリへ吊り上げ、杉山の捜索に向かった。しかし燃料が限界に達したため、 小松基地から任務の中止が通告された。
現場から離脱しようとした直後、遥風は甲板に出て来た杉山を発見した。遥風は「もう一時アプローチして下さい」と頼むが、早稲田は 「無理だ」と冷徹に告げて基地へ戻った。翌日、遥風は菊田に「引き返す決断をするのも任務の内だ」と言われ、「人が救えなかったこと が悔しいです」と漏らす。落ち込んでいる遥風に、瀬南は阪神大震災で妹が死んでいることを語り、「だが、感傷や憧れで救難をやっては いけないんだ」と諭した。
剣岳の北部断崖で、強風に煽られた登山者・川西が滑落する事故が発生した。要請を受け、瀬南や織田、早稲田たちが出動する。一方、 遥風は先輩の大塚と共に、くも膜下出血の恐れがある少女を輪島沖の舳倉島から緊急搬送する任務へ赴いた。剣岳では ヘリに不具合が生じ、機体が突如としてバランスを失った。川西を吊り上げていた瀬南は壁に激突して怪我を負うが、何とか救出活動を 無事に終えた。織田は早稲田から、「お前一人が乗ってるんじゃないんだ」と怒鳴られた。
基地に戻った織田は、菊田から「君のせいばかりとは言えない」と告げられる。続けて菊田は、「しかし機体の不具合には前兆がある。 それを読み取るのもパイロットの役目だ」と説いた。碧は自分の整備ミスが原因だと考えて落ち込み、遥風は姪子と共に励ました。遥風と 姪子が自衛隊員行き付けのスナック「ゑりこ」で飲んでいると、カウンターでは織田が荒れていた。そこに現れた横須賀が「ヘリパイに なって腐ってるんじゃねえよ。何を背負ってるんだ。俺に言ってみろ」と話し掛けると、織田は無言で立ち去った。
遥風は横須賀に、「横須賀さんの後輩の碧も、今回の件で落ち込んでるんです」と告げる。横須賀が「救難も色々と大変だな」と軽く 笑って去ったので、姪子は「ファイターパイロットって何考えてるか全然分からない」と不満げに漏らす。翌朝、横須賀は碧の元へ行き、 バイクの調子が悪いと言って修理してもらう。彼は「たまには一緒に走らないか」と、碧をツーリングに誘った。横須賀と一緒にバイクを 走らせた緑は、元気を取り戻した。
離島から緊急搬送した少女・彩から、お礼の手紙が遥風に届いた。だが、それを手に取った直後、遥風は姪子から、彩が肺炎を起こして 今朝亡くなったと知らされる。遥風は手紙を読み、嗚咽を漏らした。遥風が酷く落ち込んでいることを鷹栖から知らされた菊田は、3日間 の休暇を命じた。遥風はスナック「ゑりこ」の娘・マキに声を掛けられ、「悲しいことは全部ここに置いていっちゃいなさい」と励ましを 受けた。久しぶりに実家へ戻った遥風は、幼い頃に描いた救難ヘリの絵を目にした。
瀬南の怪我が治り、仲間たちは現場復帰のパーティーを開いた。織田は横須賀に、「この前、何を背負ってるんだと言ってたよな。F-15の 時は、操縦席の後ろに国家を背負ってた。今は人の命を背負ってるんだ。ここにいる奴らと一緒にな」と静かに言う。姪子は碧と横須賀が 婚約したことを発表し、遥風たちは拍手で2人を祝った。遥風は碧と姪子から、「次は遥風と瀬南の番だね」とからかわれた。
新日本海運の貨物船で火災が発生し、遥風たちは出動した。降下した柿崎たちは、船長が操舵室にいることを乗員2名から知らされる。 救助活動中に船内で爆発が発生し、救難ヘリの風防に穴が開いた。織田は右目の上から出血し、視界不良となった。一方、小松基地には 横須賀の操縦するF-15Jがレーダーロストしたという報告が入った。鷹栖は救難捜索機U-125Aに乗り込み、横須賀の捜索に向かう。遥風が 操縦するUH-60Jも、現場へ向かった…。

監督は手塚昌明、原作はアニメーション「よみがえる空―RESCUE WINGS―」(バンダイビジュアル)&コミックス「レスキューウイングス 」トミイ大塚著(メディアファクトリー刊)、脚本は内藤忠司&水上清資&手塚昌明&大森一樹、脚本協力は石井博士、 エグゼクティブプロデューサーは頼住宏、プロデューサーは鍋島壽夫、製作管理は室岡信明、ラインプロデューサーは松田康史、 協力プロデューサーは杉山潔、撮影監督は加藤雄大、編集は川島章正、録音は井上宗一、照明は柴田信弘、美術は瀬下幸治、 VFXプロデューサーは小川利弘、VFXスーパーバイザーは荒木史生、音楽は和田薫。
主題歌「君の声」歌:柴咲コウ、作詞:田口俊&柴咲コウ、作曲:崎谷健次郎。
出演は高山侑子、三浦友和、木村佳乃、渡辺大、井坂俊哉、金子賢、浅田美代子、中林大樹、中村俊太、春田純一、宮川一朗太、中村雅俊、 鈴木聖奈、瀬戸早妃、佐藤仁美、大石たみ子、ゆきの、渡辺優奈、井上肇、安部賢一、田島俊弥、松沢蓮、山田百貴、土屋士、片山亨、 山中アラタ、仲野茂、深作覚、新家子一弘、岡けんじ、石丸ひろし、大橋寛展、永井裕久、松元大地、浜田大介、稲垣真一(石川テレビ) 、小野孝弘、加藤竜次、石崎チャべ太郎、舘成樹、棒剛太、福島敏朗、岩間元嗣、高野力哉、山口大和、川瀬忠行、程嶋しづマ、春田幸子、 高橋鶏鳴、吉田象ら。


2006年に放送された連続TVアニメ『よみがえる空―RESCUE WINGS―』とトミイ大塚の漫画『レスキューウイングス』を基にした作品。
監督は『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』『戦国自衛隊1549』の手塚昌明。
遥風を演じた高山侑子は、これが映画初出演。
菊田を三浦友和、美那を木村佳乃、瀬南を渡辺大、織田を井坂俊哉、横須賀を金子賢、千恵子を浅田美代子、柿崎を中村俊太、早稲田を 春田純一、碧を鈴木聖奈、姪子を瀬戸早妃が演じている。

冒頭シーンの描写は中途半端で、遥風は「母を救ってくれたから憧れを抱いて救難パイロットになった」ということのはずなんだけど、 そこがボンヤリしちゃってる。
冒頭シーンを「だから遥風は救難パイロットになりました」というところへ繋げたいのであれば、ヘリで運ばれたのを追い掛けて 「お母さん」と叫んで終わったらダメでしょ。
それだと、それによって母親が救われたのかどうか分からないじゃないか。
そこは母が手術を受けて助かったことを描き、その上で遥風がパイロットに感謝して、いっそのことハッキリと「私もパイロットになる」 と言わせるぐらいのことをやってもいいのよ。

序盤の訓練シーン、遥風は瀬南たちが降下して救助する様子を眺めながら、ヘリで運ばれた母を追い掛けて倒れ、起き上がって叫んだ時の ことを回想する。
そんなタイミングで回想を入れるのなら、冒頭シーンを削除して、そこで千恵子が運ばれるシーンを初めて入れればいい。
冒頭で描いているなら、そこの短い回想は要らない。
何か新しいシーン、冒頭で描かれた続きのシーンが描かれるのならともかく、同じカットなんだからさ。

杉山を見殺しにして立ち去った後、落ち込んでいた遥風は、瀬南の言葉を聞いて、あっという間に笑顔になっている。
いやいや、それは立ち直るのが早すぎるだろ。
そりゃあ、それも任務の内だと割り切らないと、これからの仕事はやっていけないだろうと思うよ。
だけど、人を見殺しにしたのは初めてなのよ。っていうか、そもそも初めての実戦だし。
そこでのショッキングな出来事を、そんなに簡単にスパッと割り切れるのかよ。
なんか、すげえ軽薄で冷たい人間だと思えてしまうぞ。
そういうことがあったら、もっと引きずらなきゃダメだろ。人の生死を軽く扱っているように思えてしまうぞ。

高山侑子は本作品を撮影した当時15歳だったが、遥風のキャラ設定は23歳だ。
それは無理があるだろうと思ったが、実際に見てみると。そんなに違和感は感じなかった。
ただし、それは老けているということになるわけで、「美人女優」としては、いいのか悪いのかビミョーなトコロだ。
っていうか、15歳の女の子を主演に起用するなら、「女子高生がひょんなことからパイロットに」という荒唐無稽な話にしちゃった方が いいんじゃないかと思ったりするんだけどね。

ただし、そういう荒唐無稽が出来ない事情があるんだよな。
それは「原作があるから」ということではなく、「防衛省の全面協力を得て作られているから」ってことだ。
防衛省にとって都合の悪い筋書き、航空自衛隊が誤解を受けたりするようなシーンは作れない。
逆に、防衛省や航空自衛隊の機嫌を取るような内容に仕上げなきゃいけない。
だからヘリが着地する様子を丁寧に描いたり、全く必要性の無いF-15Jの飛行シーンに時間を割いたりする。

救難ヘリでは初となる女性パイロットが主人公なんだから、本来なら、もっと彼女に意識を集中したシナリオになっているべきだろう。
ところが、他の隊員の活動にもスポットを当てている。
なぜなら、遥風は操縦士なので、実際に降下して救出する役目は別の人が担当するからだ。
そっちにも時間を割いておかないと、「航空自衛隊の活躍」をアピールすることに繋がらないってことなんだろう。

主人公が女性じゃなく男性だったとしても、そんなに変わらない内容に仕上がっただろう。
救難ヘリでは初となる女性パイロットであることに、ほとんど意味が無いシナリオになっている。
男性ばかりのパイロットの中で唯一の女性としての苦労、女性だからこその悩みもあるだろうに、そういうのは全く描かれていない。
彼女が体感する苦労や悩みは、全て「新人としての苦労や悩み」に過ぎない。

滑落者の救助という、ヒロインが全く関与しないミッションまで劇中には盛り込まれている。
それは遥風の任務と並行して描かれるが、遥風の方は何の問題も無くあっさりと任務を終わらせ、もう片方でトラブル発生という サスペンスを作っているのだから、どういう計算なのかと思ってしまう。
そんなのは明らかに作品のバランスを悪くしているんだけど、前述のような理由があるので仕方が無い。

碧が落ち込んで横須賀が励ますとか、遥風じゃない奴の苦悩や落胆のエピソードまで盛り込み、肝心の遥風のドラマが薄っぺらくなって いる。
本来なら、遥風がトラブルに見舞われたり、危険な任務に挑んだり、人間関係で様々なことがあったり、その中で落ち込んだり、 感動したり、苦悩したり、気持ちが荒れたり、そういうドラマが充実しているべきだ。
しかし、そこが不足しまくっている上に、まあ散漫なことと言ったら。

まあハッキリ言っちゃえば、これは航空自衛隊の広報用フィルムなのよね。
ヒロインは、あくまでも訴求力に期待して配置されただけであって、まあ言ってみりゃ客寄せパンダに過ぎない。
高山侑子は、航空自衛隊新潟救難隊の救難員だった父を訓練中の墜落事故で亡くしているのだが、年齢的な無理を通してまで、そういう人 を主演に選んだのは、もちろん、そのバックグラウンドが売りになるからだ。
航空自衛隊のPRフィルムとして考えると、ある意味では、ちゃんと「分かっている」仕上がりとも言える。
だってさ、お役所の広報用フィルムって、総じて陳腐で安っぽいでしょ。
だから、ちゃんと陳腐で安っぽく仕上げているんだよね。

最後のミッションなんて、横須賀の救出だけを描けばいいのに、なぜか直前に貨物船火災のミッションを描き、そこから遥風が横須賀の 捜索現場へ向かうという流れにしてある。
だけど、貨物船のシーンって、ほぼ無意味なんだよね。
そこで織田が右目を負傷しているので、「操縦できるのは遥風だけ」という状況を作る役目は果たしているけど、そのためだけに別の ミッションを挟むってのは、どうにも不恰好だ。
最後の任務が「護衛艦への着艦」というアクションを見せたいがために用意されているってのは、痛いほど分かるけどね。

っていうか、自衛隊のPRフィルムのはずなのに、エンジンの整備ミスでトラブルが発生するとか、戦闘機のパイロットがレーダーロスト して航空機を紛失しちゃうとか、そういうダメな部分を描いちゃってるのはいいのか。
あと、横須賀救出のミッションに関しては、彼を救出した遥風がヘリを護衛艦に着艦させて「良かったね」ということになってるけど、 ちっとも良くないよな。
だってさ、戦闘機を紛失してるんだよ。それって、ものすごく重大な問題だろ。
その戦闘機を見つけ出し、なぜレーダーロストしたのか追究しないと、問題は何も解決しないだろうに。

(観賞日:2011年12月18日)


第6回(2009年度)蛇いちご賞

・新人賞:高山侑子

 

*ポンコツ映画愛護協会