『スノープリンス 禁じられた恋のメロディ』:2009、日本
クリスマス前夜の東京。老婦人の早代が帰宅すると、会社を辞めた孫娘の康子が家出して訪れていた。康子は早代に、見知らぬ老紳士から 預かったという封筒を渡した。早代が封筒を開けると、中身は原稿用紙の束だった。早代は眼鏡を掛け、そこに記された文章を読み始めた 。原稿用紙には、雪深い北国の村に暮らしていた小学生時代の早代と、幼馴染・草太の体験た出来事が詳細に綴られていた。
1936年(昭和11年)、裕福な家庭に育った早代は、ピアノを練習した後、母のきよに許可を貰って外出した。早代は大木の絵を描いている 幼馴染・草太の元へ赴いた。草太は祖父の正吉が作った絵の具を使い、木の根っこを熱心に描いていた。そこへ早代のクラスメイトの男子 3人が来て、貧乏で学校へ行けない草太をからかった。草太は彼らに雪玉を投げ、早代と共に逃げ出すと水車小屋に入った。
小屋の外で声がしたので、草太と早代が様子を窺うと、中年男が死んだ犬を捨てて去るところだった。2人が外に出ると、その犬の子供 らしき犬が残されていた。草太はチビと名付け、早代と一緒に可愛がった。1年後、チビは大きく成長し、炭焼きをする正吉と草太の 仕事を手伝うようになっていた。草太は早代と小屋に行き、彼女が持って来たビスケットを一緒に食べた。そこへ有馬商会の会長である 早代の父・政光が現れ、「こんな所に勝手に入ってはいかん」と静かに注意した。
早代は夕食の時、「どうして草太と遊んではダメなの?」と父に尋ねた。政光は「もっと学校の友達と遊んだ方がいい」と告げ、反発する 娘を「言うことを聞きなさい」と叱り付けた。ある日、正吉と荷車を引っ張っていた草太は、サーカス団が公演の準備を進めている現場を 見た。その中に萩尾という男の姿を見つけた正吉は、草太に「サーカスはダメだ。行っちゃいかん」と険しい顔で告げた。
政光は学校にピアノを寄付し、教師から促された早代は同級生の前で演奏した。具合の悪くなった正吉の代わりに炭を売りにいった草太は 、帰り道に財布を擦られた。正吉のために卵を買おうとした時、彼は財布が無いことに気付いた。その様子を、萩尾が目撃していた。草太 は日が暮れるまで捜し回り、中身が空っぽになった財布を見つけた。帰宅した草太が泣いて事情を話すと、正吉は「ワシたちより金を必要 とした人がいたんだ。人を憎んだり恨んだりしてはならん」と優しく告げた。
早代が炭焼き小屋へ遊びに来て、草太をサーカスに誘った。早代に代金を恵んでもらうことを嫌った草太は、こっそり忍び込んでサーカス を楽しんだ。楽屋に侵入した草太と早代は、団員に見つかって注意された。ピエロの萩尾は「今回だけは許してやろう」と言い、草太に紙 に包んだ物をプレゼントした。中身が卵だったので、草太は「あのピエロ、神様だ。心の中を全て見られてる」と驚いた。
早代は同級生の男子3人から、「丸池の近くに絵の具になる夜空色の土があるので、それを草太に教えてやれば喜ぶ」と告げられた。草太 と早代は彼らと共に、丸池へと向かう。線路を歩いていると向こうから汽車が来たので、5人は慌てて回避した。すっかり汚れて帰宅した 早代を見た政光は、一緒にいた草太に激しい怒りを示した。草太は夜中にサーカス小屋に行き、詩を読んでいた萩尾に話し掛ける。彼は卵 のお礼として、自分が描いた絵を萩尾に渡した。
原稿用紙を康子に渡した老紳士が、老いた早代の元を訪れた。老紳士は萩尾の息子だった。彼は、萩尾が幼い頃からサーカスにいたこと、 村の娘と出会って男児が生まれたこと、村を出てサーカスに戻ったこと、その男児が草太と名付けられたことを話した。老紳士は萩尾と 再婚した女との間に生まれた息子で、草太の腹違いの弟だった。萩尾は10年ぶりに村に来て、草太と再会したのだった。
萩尾は夜空色の絵の具のことを草太から聞き、一緒に丸池へ行くことにした。土を見つけた草太に、萩尾は自分が一番好きな物を見つけて 描くようアドバイスした。正吉は具合が悪化して寝込んでしまい、草太は炭を運ぶ仕事を続けた。草太は夜中に早代の家へ赴いた。彼の姿 に気付いた早代は、こっそり抜け出そうとした。きよは早代を見つけるが、「お父様が戻るまでに帰って来るのよ」と優しく送り出した。 早代は草太に「付いて来て」と言い、夜の学校へ忍び込んだ。窓から月光が差し込む中、早代はピアノの演奏を草太に聴かせた…。監督は松岡錠司、脚本は小山薫堂、製作は上松道夫&喜田川擴&野田助嗣&島本雄二&町田智子&井上伸一郎&石井博之&水野文英& 吉田鏡&荻谷忠男&高田達朗&伊藤裕造&拓一郎&玉廣俊企&岡正和、企画は中沢敏明&飯島三智、プロデューサーは椎井友紀子& 大野貴裕、エグゼクティヴプロデューサーは亀山慶二、共同プロデュースは関根真吾、庄内担当プロデューサーは宇生雅明、撮影は大塚亮 、編集は普嶋信一、録音は阿部茂、照明は木村匡博、美術は原田満生、音楽は山梨鐐平、 音楽プロデューサーは高桑晶子(T-TONE INC.)、「月の光」ピアノ演奏・指導は吉井朋子。
主題歌「スノープリンス」作詞:野島伸司、作曲:藤沢ノリマサ/クロード・ドビュッシー、編曲:増田武史、歌:スノープリンス合唱団。
出演は森本慎太郎、桑島真里乃、香川照之、檀れい、マイコ、岸惠子、中村嘉葎雄、山本學、浅野忠信、でんでん、有福正志、小沢象、 清水優、吉満涼太、金子清文、河村悠椰、荒井健太郎、藤原健太、安藤咲良、宴堂裕子、宇野祥平、末広ゆい、佐久間利彦、國井有、 池上幸平、池田肇、岡政雄、岡真理子、佐々木浩文、佐々木幸子、本間美智、田村健太郎、佐久間正明、佐藤正喜、高橋絵美、 五十嵐ゆかり、佐藤健子、伊田一、戸塚深智、伊川彗、富永海帆、伊田貴子、石河朋樹、吉田麻耶、菅原伸、佐藤威久斗、佐藤碧、 木村日咲、伊藤稔、橋本道春、豊田満、橋本慶治、橋本せつ、鈴木陽子、佐々木久弥ら。
『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』の松岡錠司が監督、『おくりびと』の小山薫堂が脚本を務めた作品。
草太を森本慎太郎、小学生の早代を桑島真里乃、政光を香川照之、きよを檀れい、康子をマイコ、現代の早代を岸惠子、正吉を中村嘉葎雄、老紳士を山本學、 萩尾を浅野忠信、卵売りをでんでん、政光が頭を下げる大物実業家を有福正志、小学校の校長を小沢象が演じている。日本版『フランダースの犬』という触れ込みで公開されたが、明らかにTVアニメ版『フランダースの犬』から着想を得ているのに、原作 としてのクレジットは無い。
あと、『フランダースの犬』だけじゃなくて、タイトルでも想像が付くかもしれないが、『禁じられた遊び』と『小さな恋のメロディ』も 混ぜている。
そこに『スタンド・バイ・ミー』も加えて、適当にシェイクしたら出来上がりだ。まず最初に年老いた現代の早代が登場し、原稿用紙を読んで回想に入る。その回想シーンで幼い草太と早代が登場し、そこからチビと 出会うまでが、かなり慌ただしい。
そんなに無理をするぐらいなら、最初から草太か早代が飼っていることにでもしておけばいい。チビが捨て犬だったことは、物語において 特に意味のある設定ではないし。
それと、そこまで無理をして出した上、すぐに「チビは成長してチビでなくなった」ということで1年後に飛ぶぐらいなのだから、その 草太たちとチビの関係がメインとして物語が進んでいくのかと思いきや、あっという間にチビはどうでもいい存在になる。
ハッキリ言えば、要らない奴になるのだ。
わざわざキャスト表記の2つ目に「チビ」と出しているぐらいなのに、なんだ、その適当な扱いは。
だったら最初から出さなきゃいい。こいつを出すために、男女の関係描写が犠牲になっているんだし。それだけじゃなくて、1年後になるまで、草太の実家も正吉も登場しないという構成の悪さ。
同級生から早代は「貧乏人」と言われているけど、それが伝わって来ないのよ。
それをまず描くべきでしょ。
早代の家の裕福さアピールも足りないし。
そこの格差を最初に示すべきでしょ。そもそも回想形式にしている意味が全く無い。
回想にしているからには、過去の物語が描かれた後、最後に「それを受けた現在のシーンで、それと関連した出来事が何かある」という形 になるべきだろうに、特に何も無い。
老いた早代が知らなかった事実が、原稿に記されているというわけでもない。
それどころか、途中で原稿が終わっており、萩尾の息子が「その続きを教えてください」ときたもんだ。
あと、マイコの存在価値もゼロだし。そもそも、その原稿を萩尾が書いたという設定に無理がある。
だって、萩尾って草太や早代と、そんなに親しくしていたわけじゃないんだからさ。なぜか、彼が同席しておらず、知らないはずの出来事 が延々と綴られているのよ。
それと1936年の時点で早代は10歳の設定らしいので、現代の彼女は83歳ってことになる。
元気な83歳だよなあ。
ってなわけで、回想形式は色々とマズいことが多い。1年後のシーンで、村の人々は草太に親しげに声を掛けている。
もちろん親しくしてくれる奴はいてもいいけど、それよりも先に、「草太が貧乏人で、そのせいで差別や迫害を受けている」ということを 示すべきでしょ。
「草太が恵まれない環境にあり、早代との格差があり、それでも2人は仲良し」という図式を、早い段階で描くべきなのよ。それが全く 出来ていない。
ひょっとして、最初からそういう図式を描くつもりが無いのか。
だとしたら、もっと重症だ。草太は学校へ行くことさえ出来ないぐらいの貧乏人のはずなのに、見た目が小奇麗。
来ている服は貧乏人らしさをアピールしようとしているが、髪の毛も顔も小奇麗。
あと、終盤は「ちゃんとご飯を食べているのか」と心配されるほどの状況になっているはずなのに、全く顔がやつれている様子も無い。
森本慎太郎の演技力やデ・ニーロ・アプローチに委ねるのは酷だろうから、そこはメイクか何かで細工をしてやらにゃあマズいんじゃ ないのか。草太と早代の互いに対する思いも、あまり見えて来ない。
草太の絵に対する情熱も全く見えない。
絵を描いてる様子はあるけど、それだけでは弱いし。時代背景もイマイチ見えて来ない。
昭和12年と言えば日中戦争が勃発した年であり、田舎の村であっても影響はあったはずだが、「戦争」という要素が全く見えない。
戦争の影響で政光の事業が失敗するとか、召集令状が届くとか、そういうことも無い。
この映画で描かれている場所は日本じゃなくて、架空の世界だったりするのか。あと、「禁じられた恋のメロディ」とタイトルにあるけど、そんな風に見えないし。きよが笑顔で早代を遊びに行かせているし。
きよが娘と草太の付き合いに寛容なキャラにするなら、それはそれでいいけど、先に「禁じられている」という方を示すべきでしょ。
小屋のシーンで交際反対派の政光が現れるけど、そこも穏やかに諌めているだけだし。
ここは、もっと厳しく叱り付けなきゃダメでしょ。祖父の「人を恨んではいかん」とか「嘘をついてはいかん」という教えが、後のストーリー展開、草太の行動に影響を与えるのかというと 、全く無い。
途中で萩尾が父親だと分かるが、祖父が父親のことをどう草太に告げているのかという前提が、そもそも良く分からない。後半になって、 ようやく母が幼い頃に死んだことが明示されるぐらいだし。
あと、萩尾も良く分からないキャラになっちゃってるし。
それと、萩尾が父だというのは中盤で明かさず、終盤まで引っ張った方が良かったんじゃないのか。
まあ、そこを改変したとしても、それだけで映画全体をサルベージできるとは思わないけど。いじめっ子グループが、急に「絵の具になる夜空色の土があるから草太が喜ぶ」と早代に教えたり、「どうして誘ってくれたの」と草太に 訊かれて「友達だから」と答えたりするように変化するのは、ワケが分からない。
正直、草太を騙すための罠かと思ったぐらいだ。
心情が変化するためのきっかけや流れが、何も用意されていない。
そこはさ、例えばピンチの時に草太に助けられたとか、その程度のことでいいでしょ。そういう、少しの配慮でいいのよ。
『スタンド・バイ・ミー』をやりたかったのは分かるけど、そのために無理しすぎだ。
っていうか、そこまでして持ち込んだシーンは、あまりにもパクリが露骨すぎて萎えるわ。「祖父の具合が悪化し、さらに貧しくなって食べ物にも困るようになっていく」というところも、上手く描写されていない。
あと、幾ら絵を描きたいからと言っても、立派な紙を買うために米を買わずに我慢するってのは違和感たっぷりだぞ。
絵に対する情熱や思い入れの強さって、そういうトコで表現するのは間違ってると思うぞ。腹が減っては戦が出来ないんだからさ。
立派な紙を買うための金があるなら、とりあえず食べ物を買えよ。正吉は草太を嫌っているはずなのに、学校へ侵入したことで警察に捕まった彼の身元引受人になったり、壊した標本の弁償金も支払ったり している。
そして2人の付き合いに反対する理由として「早代にはいずれ許嫁が出来る。その時に引き裂かなくちゃいけなくなる。今なら まだ間に合う」と言っている。
それは優しさに感じられてしまう。
だけど、このキャラに優しさは要らないのよ。
正吉が亡くなった後、絵を渡してほしいと来た草太に「自分で渡すか」と優しく声を掛けているけど、そこは怒鳴って追い払うぐらいで いい。そこで草太に「大丈夫か」と心配して声を掛けるぐらいなら、彼一人ぐらい面倒を見てやれよ。他に身寄りが無いことは分かっているん だから。
あと、早代が何とかしてやろうと考えたり、両親に「助けてあげられないの」と言ったりする様子も無いけど、それもどうなのよ 。
なんでテメエは友達と一緒にクリスマス・パーティーをやっているのよ。
「楽しんでいません」という表現はあるけど、それは無神経すぎるだろ。終盤、吹雪が吹き荒れる中、なぜ草太が祖父の小屋に戻ろうとしなかったのか良く分からない。
「どこに行けばいいんだろう」と漏らしているけど、正吉の小屋に行けよ。
彼は大木に寄り添って死んでいるけど、それだと自殺にしか見えないぞ。
そこに例えば「天に召されて幸せに」とかいう宗教的観念でもあるならともかく、そういうのは無いので、こいつの行動がデタラメにしか 見えない。(観賞日:2011年9月20日)
第3回(2009年度)HIHOはくさい映画賞
・最低作品賞
・最低助演女優賞:マイコ
<*『山形スクリーム』『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』『スノープリンス 禁じられた恋のメロディ』の3作での受賞>