『シグナル100』:2020、日本

聖新高校3年C組では、教師の下部が国語の授業をしている。榊蒼汰は樫村怜奈を見つめ、頬を緩ませている。それに気付いた小泉はるかは、樫村に教えようとする。江崎大和と小山内夏生が見つめ合っていると、下部は「見つめ合うのは10秒以内にしときなさい」と穏やかに告げる。水谷雫が「恥ずかしい」と興奮すると、下部は「授業中は禁止だぞ」と言う。関克美は「彼氏の身にもなってよ」と立ち上がり、生徒たちは大笑いする。しかし和田隼は全く関わらず、携帯ゲームに没頭している。放課後、サッカー部の練習に参加した榊は、和田が屋上から生徒たちを指鉄砲で撃つ真似をする姿を目撃した。
11月3日。C組の生徒たちは特別授業で登校し、視聴覚教室に集合させられる。遅刻した吉川絵美が教師に駆け込むと下部がいて、DVDを持って行くよう指示した。下部が「頼んだぞ」と言って吉川の額を軽く叩くと、彼女は催眠術に掛かった。吉川は視聴覚教室に入り、DVDを再生した。すると室内に大音量が響き、スクリーンには意味不明な映像が流れた。映像が終わると、山本英司の「遅刻だよ」という言葉を聞いた吉川は泣きながら飛び降りて死んだ。
山本は携帯電話で救急車を呼ぼうとするが、自分の左手首を噛み千切って死んだ。関克美や水谷雫たちは、一斉にベランダから飛び降りて死んだ。そこへ下部が現れ、「この世には何の前触れも無く起きることがある。それは自殺にも言える。もしかしたら自殺した原因は、単純かもしれない。例えば、自殺する催眠に掛かっていたとしたら?」「全員が特定の行動を取ると自殺する催眠に掛かっている」と説明し、ホワイトボードに「シグナル」と書いた。
携帯で母親に連絡しようとした小泉は、舌を噛み切って自殺した。和田は携帯を使うのがシグナルだと言い当てるが、下部は「シグナルは100個ある」と告げた。「催眠解けよ」と下部に掴み掛かった久保田は、頭を何度も壁に打ち付けて死亡した。下部は生徒たちに、他人に暴力を振るうのもシグナルだと教えた。「意味分かんないんだけど」と泣き喚いた米村麗華は、花瓶で自分の頭を殴り付けて死んだ。下部は「泣くこともシグナルです」と言い、部屋から出て行った。
数名の生徒が下部を追い掛けようとするが、「教室から出ることもシグナルかもしれないよ」と言われて動けなくなった。少し経ってから和田が何食わぬ顔で教室を出て行き、無事だと知った他の面々は下部の捜索に向かった。助けを呼びに行こうとした萩野里未が自分の首をねじ切って死亡し、生徒たちは学校の外に出ることもシグナルだと気付いた。そこへ下部が現れ、「催眠のことを第三者に教えることもシグナルだ。誰かに助けを求めたら死ぬ。残りのシグナルは教えない」と話す。さらに彼は、保護者に「文化祭の準備で学校に泊まるから心配ない」と伝えたことも教えた。
園田樹里が催眠を解く方法を教えてほしいと要求すると、下部は付いて来るよう告げて教室に戻った。彼は「最後の1人になれば催眠は解ける」 と言い、社会勉強だと思うよう告げる。樫村が「だから何?」と口にすると、下部は激怒して怒鳴り散らした。樫村が「自分で正しいことしてるとでも思ってるんですか」と批判すると、彼は「先生の進路指導だけを信じなさい」と説いた。「アンタの思い通りにはならない。みんなを返して」と樫村が罵ると、下部は「死んだ者は生き返らない」と微笑を浮かべてベランダから飛び降りた。
生徒たちが不安を吐露していると、森聡志が立ち上がって「落ち着こう。催眠が解ける方法、きっとあるから」と呼び掛ける。小宮山澪織は腹を立て、「どうやって見つけんの?何も出来ないくせに、偉そうなこと言ってんじゃねえよ」と怒鳴った。箕輪紀子が「みんなで協力して考えた方がいいよ」と口にすると、樫村は「調べに行く」と言い出した。すると5人の男子が協力を買って出て、二手に分かれて動くことになった。樫村たちが教室を出て行ったあと、箕輪は小宮山から謝罪を受けると「分かればいいから」と鋭く睨んだ。
和田は図書室へ行き、英語の本を手に取ろうとしている井沢学を見つけて「自分だけ生き延びようとしてたのか」と口にした。樫村たちは教室に戻り、下部の荷物が全て無くなっていたこと、パソコンは配線が切断されていたことをクラスメイトに報告した。そこへ和田が井沢を伴って駆け込み、「催眠について色々分かったぞ」と言う。彼はアメリカの凶悪事件について書かれた本があったことを語り、視聴覚で流れたのは1980年代のカルト団体がマインドコントロールに使った映像だと説明する。
和田はクラスメイトに、最後の1人になるのが催眠を解く方法であること、団体が禁じた行動については本に書いてあることを教える。彼が「50個のシグナルが書かれていた」と言うと、井沢は驚いた表情を浮かべた。和田は井沢に指示し、黒板に50個のシグナルを書かせた。和田は「残りの50個は下部が新たに付け加えたんだろう」と語り、「ケータイを使う」の項目を書き加えた。「学校から外に出る」も下部が加えたシグナルだと榊が気付くと、和田は「残りの48個を割り出して、それを避けて生活すれば、催眠を解く方法が見つからなくても、とりあえず死なない」と述べた。
和田が「残りのシグナルを図書館で調べてみようと思う」と言うと、君津早苗が同行を希望した。園田が「図書委員だし英語も分かるし」と一緒に行くことを告げ、羽柴健太は「じゃあ俺も」と口にした。和田が「飯とか飲み物とかどうする?」と言い出すと、羽柴は野球部の部室にスポーツドリンクがあることを教える。すると和田は「そっちを頼む」と言い、藤田陽太郎と日野匠が手伝いを買って出た。榊も西園寺聖也や藤春昴、桐野玄と共に、サッカー部の部室へ行くことにした。しかし部室に飲み物は無く、彼らは野球部の部室を見に行く。すると藤田と日野が首を吊って死んでおり、床には彼らが飲んだスポーツドリンクが転がっていた。
和田は窓から榊たちの様子を確認した後、自分に好意を寄せる君津を連れ出してキスをする。彼は君津に自分の性器を触らせ、シグナルを発動させて死に追い込んだ。その様子を覗いていた井沢も、自分の性器を握ったまま死亡した。そこへ園田が現れて日本語版の本もあったことを語り、「和田くんの考えてること、理解した」と言う。教室に戻った桐野は、「和田と井沢は怪しい。俺ならシグナルを見つけても全部は教えない。彼は和田たちが50個だけ教えて信頼させ、残りの50個で優位に立つつもりではないかという推理を語る。他の生徒を自殺に追い込む策略だと彼が語っていると、話を聞いた樫村は「疑わないで信じないと。友達なんだから」と告げた。
箕輪が教室に駆け込んできて、君津と井沢の遺体があったことを知らせた。桐野は和田を見つけて追い掛け、理科室に入った。そこに樫村も現れる中、桐野は「スポーツドリンクを飲むのもシグナルなんだろう?」と和田に質問する。和田がスポーツドリンクを飲むのを見た桐野は、彼に続いた。すると和田は口に含んでいたスポーツドリンクを吐き出し、騙された桐野はシグナルの発動によって死んだ。和田が理科室を去った後、樫村はやって来た榊に和田の仕業だと教えた。
園田は教室に戻り、本には64個のシグナルが書かれていたことを明かす。彼女は自分と和田で他の生徒を管理すると言い、本を見せることを拒否した。か森聡志が園田の持っていた本を奪うが、それは漫画だった。シグナルの発動により、彼は死亡した。そこへ和田が来ると、園田は「全部話した。みんな死にたくないから私たちに従うって」と告げた。西園寺は余裕で口笛を吹く和田を見つけ、挑発されて掴み掛かる。すると和田と園田の指示を受けた生徒たちが取り囲み、西園寺は「7人以上から同時に指を差される」というシグナルで死亡した。樫村が和田の説得に向かうと、榊が同行した。江崎と小山内が死んでいるのを見つけた2人は、あることに気付いた。
樫村と榊が教室に戻ると、別のカップルも死んでいた。壁に貼ってあった36か条のルールが剥がされていたので、2人は協力して内容を思い出した。樫村と榊が教室を出ると、4人の生徒が不安そうに現れた。樫村は「私に考えがある」と言い、体育館へ赴いた。すると箕輪が和田や園田ら6人を率いて現れ、「本当に邪魔」と憎しみをぶつける。箕輪は一斉に指を差して樫村を殺そうとするが、そこへ榊たちが駆け付けて合計7人になった。
園田は「早い者勝ちってこと?」と不敵な笑みを漏らし、樫村を指差そうとする。しかし和田だけが加わらず、「おまえの作戦か?」と樫村に問い掛ける。樫村は「残りのシグナルが全部分かったから」と言い、36か条のルールがシグナルだったと話す。和田グループの生徒たちは樫村がメールを書き留めた紙を奪い取るが、その中には「学校で朝を迎える」という項目もあった。樫村は協力して催眠を解く方法を考えようと呼び掛けるが、箕輪は「騙されないで。こいつに騙されるな」と拒絶した。和田は全てのシグナルに気付いていたのが自分だけだと勝ち誇り、生徒たちに缶ビールを浴びせて自殺に追い込んだ。
ビール攻撃を逃れた園田は和田に襲い掛かるが、シグナルが発動して死んだ。箕輪は榊を殺そうとするが、シグナルによって死んだ。和田は逃亡し、残ったのは榊、樫村、藤春の3人だけだった。榊は体育館から逃げ出した和田を追い掛け、「最初からみんなに言えば、もっと協力して催眠を解く方法が分かったかもしれないのに」と訴えた。すると和田は、「まだそんなこと言ってるのか。催眠を解く方法なんて最初から無い」と話す。2人は幼馴染で共にイジメを受けており、榊が和田に自殺しようと持ち掛けたこともあった。しかし高校に入ると榊がサッカー部とばかり仲良くするようになり、和田は「お前と話しかったんだよ」と吐露する…。

監督は竹葉リサ、原作は宮月新&近藤しぐれ『シグナル100』(白泉社・ヤングアニマルコミックス)、脚本は渡辺雄介、製作は村松秀信&藤田浩幸&島田明&與田尚志、プロデューサーは石黒研三&橋本恵一、アソシエイトプロデューサーは柳迫成彦&高柳亮博、キャスティングプロデューサーは福岡康裕、音楽プロデューサーは津島玄一、ラインプロデューサーは石川貴博、プロダクションマネージャーは杉崎隆行、撮影は谷川創平、照明は李家俊理、美術は平井淳郎、録音は高野泰雄、編集は高橋信之、音楽はJin Nakamura、主題歌はyukaDD(;´∀`)『Carry On』。
出演は橋本環奈、小関裕太、瀬戸利樹、中村獅童、若月佑美、前原滉、栗原類、恒松祐里、甲斐翔真、中尾暢樹、福山翔大、中田圭祐、山田愛奈、北村優衣、工藤綾乃、中島健、鈴木つく詩、白石拳大、三上紗弥、市川理矩、小出水賢一郎、さいとうなり、宮下一紗、安田啓人、神田穣、東啓介、真崎かれん、駒形咲希、宗綱弟、吉田仁人、戸苅ニコル沙羅、山本彩加、大森つばさ、河井つくし、中島来星、黒澤胤也、宮本夏花ら。


宮月新&近藤しぐれによる同名漫画を基にした作品。
監督は『春子超常現象研究所』『オルジャスの白い馬』の竹葉リサ。脚本は『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』『ザ・ファブル』の渡辺雄介。
樫村を橋本環奈、榊を小関裕太、和田を瀬戸利樹、下部を中村獅童、小泉を若月佑美、関を前原滉、山本を栗原類、箕輪を恒松祐里、西園寺を甲斐翔真、藤春を中尾暢樹、桐野を福山翔大、羽柴を中田圭祐、園田を山田愛奈、小宮山を北村優衣、野島を工藤綾乃、久保田を中島健、君津を鈴木つく詩、井沢を白石拳大が演じている。

たぶん多くの人が、「これって『バトル・ロワイアル』だよね」と感じるんじゃないだろうか。竹葉リサ監督も、『バトル・ロワイアル』を意識して演出したらしい。
原作が明らかに『バトル・ロワイアル』の模倣なので、そこを無理に避けようとするのではなく、開き直って「模倣ですけど何か?」という方針を取ったんだろう。
「オマージュではないのか」と思う人がいるかもしれないけど、絶対に違うと断言できる。
紛れもなく、これは『バトル・ロワイアル』の安易で粗雑な模倣だ。

『バトル・ロワイアル』では担任教師が生徒たちに殺し合いを強要していたが、こちらは下部が自殺の催眠を掛けている。
「そもそも催眠で自殺させることは可能なのか」という部分に関しては、「そこをマジに考えちゃダメ」と言っておく。
それはともかく、「殺し合いの強要」と「自殺の催眠」だから大きく異なるんじゃないかと思う人がいるかもしれないが、全く同じだ。
すぐに「生徒たちが他の面々を自殺させるための行動を取る」という展開が始まるので、そうなると、もはや「他殺」であり、「殺し合い」でしょ。
つまり、『バトル・ロワイアル』と何ら変わらないのよ。

冒頭シーンで、早くも「間違えている」と感じる。
何が間違いかと言うと、下部が穏やかに語り、生徒たちと仲良くしている様子を描いていることだ。
そんな姿を見せておいて、次のシーンで吉川に無感情で「遅刻するなといつも言ってるだろ」と告げる様子を描くと「キャラが変わってるじゃねえか」と言いたくなるのよ。
「それまでは優しい先生を装っていて、本性を現した」ってことなのかもしれないけど、だとしたら、その趣向も含めて間違いだと言っておく。
最初に下部の優しく穏やかな雰囲気を見せるのなら、そのままの態度で「生徒たちに自殺の催眠を掛けるイカれ野郎」になるべきだ。

最初のシーンや視聴覚室で待っているシーンでは、何名かの生徒のキャラや関係性を軽く紹介している。
でも、それで充分だなんてことは到底言えない。あまりにも申し訳程度なので、ほとんど情報が頭に入って来ない。
また、大半の生徒の名前が分からないから、そこで少し特徴を示したところで顔と名前を一致させる助けにはならない。
ただし、どうせ36名もいるので、全員を覚えるのは無理。さらに言うと、覚える必要も見分ける必要も無い。
なぜなら、大半は死ぬために出て来ただけの雑魚キャラに過ぎないからだ。

下部が生徒たちに自殺の催眠を掛ける理由は、何も用意されていない。ここは原作と異なり、「ただのイカれた男」ってことになっている。
しかし不幸中の幸いで、下部が薄っぺらいキャラになっていても、話も薄っぺらいので「作品に合致している」と感じる。
大半のキャラは、死ぬシーンになって初めて存在をアピールするような状態になっている。
それどころか、死ぬシーンが訪れても、なお誰だかサッパリ分からない奴さえいるほどだ。

吉川は下部に「頼んだぞ」と額を軽く叩かれると目が白く光り、顔から笑顔が消える。この時点で、「ああ、催眠に掛かったんだろうね」ってことが何となく分かる。分かりやすいっちゃあ分かりやすんだけど、同時に安っぽさも感じる。
そんな吉川を始めとする数名の生徒は、まだ下部がルールを説明する前に大勢の自殺者が出ている。これはアンフェアだし、その時点で殺人ゲームや催眠実験としての仕掛けは完全に破綻している。下部が「今、ここにいるクラスの36名全員は催眠に掛かっている」と言った段階で、36名もいないし。
っていうかさ、上映時間が88分で、36名ってのは多すぎるでしょ。どう頑張っても、大半は「ただ死ぬためだけの奴」になっちゃうよ。
あと、シグナルが100ってのも多すぎるし。

吉川は催眠が発動すると足を引きずるように歩き、泣きながらベランダを乗り越えて飛び降りる。
つまり、「嫌だけど催眠状態なので仕方なく死ぬ」という形になっているわけだ。
でも催眠に掛かっていたら、まるで自分が望んでいるかのように行動するか、もしくは全く意識が無い状態で行動するか、そういう描写の方が怖さを感じるんじゃないかと思ってしまう。
「嫌なのに体が勝手に動いてしまう」という表現にしてあることが、安っぽさを助長しているように思えるのよね。

下部は「催眠が発動すると潜在能力が目覚めて日頃使っている筋力が倍増する」と説明しており、だから人間では有り得ないような怪力で自殺する奴もいる。
普通だったら、自分で首をねじって死ぬなんて不可能だからね。
その辺りの荒唐無稽さ(というか都合の良さ)は、殺人ショーとして引き付ける力が強ければ「バッカでえ」と笑いながらも甘受できた可能性はある。でも、殺人ショーとしてのケレン味が足りていないのよね。
殺人ショーとしてのケレン味だけでなく、心理戦としての巧みな駆け引き、頭脳ゲームとしての高度な戦略の面白さ、そういった要素も全く足りていない。

下部は飛び降りる前に、「これはある意味、みんなのためなんだ。君たちは小さい頃から、あれしちゃダメこれしちゃダメと言われて育ってきた。でも大人になれば、さらに自由が奪われる。つまり今回のことは、卒業を前にした社会勉強だと思えばいい」と語る。
でも、これが見事なぐらい無意味な演説になっている。
たぶん「サイコパスな犯人」としてのキャラをアピールする狙いがあるんだろうけど、その効果は皆無に等しい。
こいつも生徒と同様、ものすごく薄っぺらい。ほぼ「記号としての悪役」でしかない。

和田は最初に教室のシーンが写った時、クラスメイトに馴染まず距離を取っている様子が描かれている。それ以降も、「仲良くするつもりは無いです」という態度を他の生徒の前で隠そうとしていなかった。
なのに、図書室の本を持って教室へ戻る時だけ急に「みんな、聞いてくれ」と呼び掛けて「クラスメイト」として振る舞う。しかも、井沢と一緒に見つけて調べたように装う。
それは、あまりにも不自然だ。
そこも「一匹狼」としての態度は崩さずに、作戦を実行すべきだろ。

あと、まだ井沢は英語の本を読んでいなかったのに、「そこに催眠に関する情報が書いてある」ってのが確定事項のように話を進めているのも引っ掛かるわ。まあ実際に書いてある設定ではあるんだけど、なんか話の進め方が強引。
それと、本の内容を読んで内容を調べる時間を考えると、和田が教室に戻って来るのは早すぎるだろ。
彼がクラスメイトに語った情報って、ザッと読んだだけじゃ分からないだろ。それに該当する個所を見つけるだけでも、それなりの時間は必要だぞ。
後で「実は日本語版もあった」ってことが明らかにされるけど、それが日本語だろうと英語だろうと、どっちでも調べるための時間は必要だろ。

野球部の部室で藤田と日野が首を吊って死んでいるシーンなんかは、たぶん「予想外のタイミングで人が死んでいる」というインパクトを狙ったんだろうとは思う。
でも、「シグナルが発動して死ぬ」という瞬間を省略したマイナスの方が、遥かに大きいんだよね。
この映画って極端なことを言っちゃうと、「色んな方法で人が死んでいく」というトコだけが見どころなわけでさ。
いや「極端なことを言っちゃうと」って書いたけど、ホントは極端でも何でもないわ。普通に考えて、それしか無いのよ。

樫村は桐野が和田の策略について語ると、「憶測だけで言っちゃいけない。友達なんだから信じるべき」と説教する。和田が犯人だと確定した後も、「説得してやめさせる」と言い出す。和田たちに殺されそうになっても、「争いはやめよう」と呼び掛ける。
「クラスメイトを信じようとする」とか、「相手の良心に訴えて犯罪を止めようとする」ってのは、ヒロインとしては正しい振る舞いなのかもしれない。
だけど、そんなヌルすぎるヒューマニズムは、この作品では不快感しか抱かせないのよね。
こいつが甘いことを言う度に、「いやウザいわ。すんげえ邪魔だわ。こんな現実の見えていない愚か者は、さっさと殺されればいいのに」と思ってしまうわ。

これは榊も同様で、こいつは終盤になって「最初からみんなに言えば、もっと協力して催眠を解く方法があったかもしれないのに」とか和田に言うんだよね。こいつもヌルいんだよなあ。
そこには「和田と幼馴染だった」という設定があるんだけど、何の伏線も無く終盤になって唐突に「実は」と明かされても「いや要らないわ」と呆れるだけ。
そんな要素、物語を進める上で何の役にも立っていないんだから。
和田が「榊がサッカー部とばかり仲良くするので寂しかった」と言い出すのも、キャラとしてチンケにしているだけだし。

樫村と榊は江崎と小山内が死んでいるのを見つけた時、何かに気付いた様子を見せる。そして教室に戻り、36か条のルールを思い出す。
和田や園田たちと対峙した時、「36か条のルールが残りのシグナル」と説明する。
ここで「遅刻をしない」「授業中にジャージを着ない」といった36か条のルールが示され、それに応じて吉川たちが死んだことが解説される。
でも、完全なる後出しジャンケンなので、謎解きとしての気持ち良さは皆無だ。

最後の3人になった時、榊は樫村に「催眠が解ける薬。教室に戻った時に見つけた」と言い出す。
急にデウス・エクス・マキナみたいなアイテムが登場するが、「なぜ催眠の解ける薬だと分かったのか」という疑問が生じる。その答えは簡単で、真っ赤な嘘なのだ。
ところが和田は、そんな都合のいい話、っていうか絶対に怪しむべき話を、あっさりと信じ込んで榊に始末される。
それまで狡猾に策略を進めていた奴が、そこだけ急にバカ満開になるのだ。

完全ネタバレを書くが、最終的に生き残るのは樫村だけ。つまりシグナルを解く方法は無いので、「最後の1人だけが助かる」という形になるわけだ。
彼女は榊が残した動画を再生し、サッカー部の4人がみんな自分に惚れていたことを知るが、どうでもいい種明かしでしかない。それで泣かれても、こっちは気持ちは全く動かない。
で、最後は5年後に飛び、樫村が下部を拉致して自殺の催眠動画を見せて復讐する。
でも下部が最後まで全く怯えず余裕の態度なので、ちっともカタルシスは無いんだよね。
こんなことなら、いっそ後味の悪いバッドエンドにでもした方が少しはマシかもしれないと思っちゃうぐらいモヤモヤが残るわ。

(観賞日:2021年6月28日)

 

*ポンコツ映画愛護協会