『サイドウェイズ』:2009、日本&アメリカ
土曜日。斉藤道雄はアメリカにいる親友から結婚式の招待状が届き、飛行機でロサンゼルスに向かった。かつて道雄はロサンゼルスに留学していたことがある。高校教師を1年で辞めて、英語のスキルアップのために1年間のホームステイをしていた時期があるのだ。留学を終えた後、道雄は予備校で勤務していたが、経営者が問題を起こして倒産した。1年前には同棲相手が出て行った。道雄は脚本家で、かつては連ドラの仕事をしたこともあるが、最近はシナリオスクールの講師の仕事の方が多い。新しい脚本を書いたが、プロデューサーの反応は鈍かった。
かつて英語を学んでいた道雄だが、空港で話し掛けられると自信無さげな対応しかできなかった。。一方、車で迎えに来た親友の上原大介は、すっかりアメリカンナイズされており、英語も堪能だった。道雄と大介は、留学中に知り合ってからの長い付き合いだ。大介は俳優を目指してアメリカに残ったが、1本の主演作を得ただけで、それ以降は鳴かず飛ばずだった。今はレストランの雇われ店長をしている。そこはフレンチ・ジャポネスクの店で、ガイドブックの常連だという。
ひょんなことから大介はレストランのオーナーの娘と付き合い始め、トントン拍子で婚約し、1週間後の土曜日には結婚式を控えていた。それまでの間、道雄と大介はノンビリとウエストコーストをドライブ旅行する予定になっていた。結婚式で出すワインを選びたいと大介が言っていたからだ。道雄にはワインの産地ナパ・ヴァレーへ行ってみたいという希望があった。ところが大介は、ラスベガスへ行くつもりだった。「ワインなんて酒屋に行けばあるんだよ」と大介が言うので、道雄は残念に思いながらもナパ・ヴァレー行きを諦めた。
ドライブ旅行へ出発する前に、大介は婚約者であるローラ・クーパーの元に立ち寄った。彼女の父であるボブの本業は不動産屋だ。道雄は豪邸に圧倒されながら、中に入った。ローラの母アリスや祖母に話し掛けられ、道雄は短い言葉を返した。大介はローラの家族に、道雄が日本ではトップクラスの映画脚本家だと紹介した。道雄がナパ・ヴァレーへ行くことを語ったので、大介はクーパー家の手前、彼に話を合わせた。道雄は大介の様子を見て、クーパー家の面々から逃げ出すために自分をダシに使ったと気付いた。
ローラの邸宅を去った後、大介が「ラスベガスに行く」と主張したので、道雄は腹を立てて「車から降ろせ」と要求した。大介は「まずラスベガスに行って、状況を見てナパ・ヴァレーへ向かおう」と言い、彼を丸め込もうとする。大介は道雄のホストファミリーであり、自分も世話になったラッセルの家に5年ぶりで立ち寄った。しかし妻のリンダは、ラッセルが亡くなったことを2人に話した。
ラッセルの使っていたムスタングを見つけた道雄と大介は、若い頃を懐かしむ。「あの車で麻有子とデートするって大騒ぎしてたじゃん」と大介が言うと、道雄は「誰かのせいでデートがダメになって、ヤケ酒飲んだなあ」と笑う。するとリンダは、ワイナリーで働いている麻有子からポストカードが届いたことを話し、それを2人に話す。さらに彼女は、ムスタングを使って麻有子の元へ行くよう促した。オンボロのムスタングだったが、いざ走らせるとエンジンは快調だった。
大介は麻有子がナパの近くに住んでいると知り、行き先をラスベガスから変更した。「見ず知らずの女をナンパするより、友達を通した方が確実にナンパできる」というのが彼の考えだった。麻有子はアメリカで暮らす商社マンの娘で、当時、日本の大学受験を予定していた。道雄は家庭教師を頼まれて彼女と出会い、心を惹かれた。試験勉強の合間を見計らって、大介を含めた3人でサンタモニカを満喫した。そんな1年間だった。大介から麻有子に会うよう促された道雄だが、歯切れの悪い返事しか出て来なかった。道雄と大介は麻有子がいるはずのワインショップへ行くが、仕事で出張中だった。翌日はナパ・ヴァレーを巡ることにして、2人はモーテルに泊まった。
日曜日、道雄と大介はナパ・ヴァレーのワイナリーを次々に巡る。道雄はワインを堪能して喜ぶが、大介はワインよりも女性を口説くことに貪欲な姿勢を見せた。夜、2人はレストランに入り、大介は奥の席にいる日本人らしい女性2人組に気付いてナンパする。若い方のミナ・パーカーと喋っていた彼は、もう一方の女性が麻有子だと気付いて驚いた。麻有子とミナは、道雄たちのテーブルに移った。ワインバーに誘われた道雄は、「せっかく店を予約してくれたワイナリーの人に悪いだろう」と大介に話した。
大介は「食ってから行こう」と告げ、麻有子とミナは先にワインバーへ向かった。麻有子は高校生の頃とはすっかり変わっており、大介は「かっこいい女になった」と感じていた。しかし道雄は、「柔和で色んな色に染まっていない感じ」という自分のイメージとは全く違う麻有子にショックを受けて、ワインを飲みすぎて泥酔した。大介は麻有子に電話を掛け、そっちに行けなくなったと告げた。彼はミナに電話を代わってもらい、彼女の電話番号と勤めているカフェの名前を教えてもらった。
月曜日。道雄が目を覚ますと、大介はメモを残してミナの働くカフェへ先に出掛けていた。道雄もカフェに行き、彼と合流した。道雄から「変な気起こすなよ」と忠告されても、大介は全く耳を貸さなかった。大介はボブからの電話で仕事を頼まれ、道雄に「車借りるぞ。俺が戻るまで適当にナパ・ヴァレーを楽しんでくれ」と告げて去った。大介は麻有子からの電話で、ワインの受け取りに付き合ってほしいと頼まれた。彼は道雄に電話を入れ、「麻有子を行かせるから、来たら付いて行け」とだけ告げた。
道雄は車で待ち合わせ場所に来た麻有子を見て、「昔の麻有子だ」と口にした。道雄は麻有子に付き添い、ワイナリーに向かった。彼女がワインを受け取って、ようやく道雄は用件を知った。麻有子は道雄に、老舗デパートの息子である夫と離婚したことを打ち明けた。さらに彼女は、別れる予感を感じていた時に関係修復の目的でナパ・ヴァレーを旅行したこと、それから1ヶ月後に離婚したこと、面倒なことは全て日本に置いて来たことを語った。
「日本が懐かしくなったりしない?」と道雄が尋ねると、麻有子は「そんな暇無かった。ここに来て4年、やっとある程度のポジションが取れたの」と話す。道雄は麻有子に、同棲相手に出て行かれたこと、引き留めなかったことを話した。夜、麻有子は受け取ったワインを出してホーム・パーティーを開き、友人たちを招いた。ミナは道雄に、麻有子が日本で出す店の店長にならないかとワイナリーから持ち掛けられたこと、それを断ったことを話した。道雄はミナから「先生がプッシュしたら日本に行くかもよ」と言われるが、腰の引けた態度しか見せなかった。一方、大介はミナからアプローチされ、その夜はモーテルに戻らなかった。道雄は家を去る時、麻有子から「今日はありがとね」と抱き付かれて軽くキスをされ、激しく動揺した。
火曜日、麻有子は道雄を自社のワイナリーに案内する。しかしショップの方でトラブルが起きたという連絡が入り、麻有子は戻らなければならなくなった。その夜に彼女がワインを選んだ結婚式があるのだが、花嫁の父親が今からレア物のワインを揃えろと要求しているという。「今からじゃ無理」と頭を抱える麻有子に、道雄は「ワイナリーに無いなら、レストランでも小売店でもいい。知り合いのコレクターから揃えるのもいいんじゃないか。とにかく手伝うよ」と提案した。
道雄と麻有子は様々な場所を片っ端から当たり、要求されたワインを何とか揃えた。道雄はワインを届けに行く麻有子を見送り、カフェへ赴いて大介と合流した。「今日はちゃんと帰って来いよ」と道雄が言うと、すっかりミナにのぼせている大介は「モーテルどころかLAにも帰りたくねえよ」と口にした。道雄は「フォローしきれなくなる前に目を覚ませ」と苦言を呈して出て行くが、大介は軽く受け流し、にやけた顔でミナに話し掛けた。
道雄は仕事を終えた麻有子から、夕食に誘われた。麻有子が料理を作るというので、彼は買い物に付き合った。家に戻った麻有子は、受験していたアドバンスド・ワイン・プロフェッショナルの合格通知が届いていたので大喜びした。道雄は彼女と一緒になって喜び、「お祝いしなきゃ。やっぱり俺が作る」と告げた。食事の後、2人はワインを飲みながら会話に花を咲かせ、いい雰囲気でキスを交わした。
調子に乗った道雄が「日本へ帰って来たら?」と軽く口にすると、麻有子の顔が険しくなった。道雄が気付かずに説得を続けると、麻有子は「私がアメリカで働いていることを理解してくれてると思ったのに」と悔しそうに告げた。「帰って来る気は無いの?だったら、さっきのキスは?」と道雄が漏らすと、麻有子は「キスはキスよ」と鋭い口調で告げた。すっかり気まずい空気になってしまったため、道雄は「飲み直しましょう」という麻有子の誘いを断ってモーテルへ戻ることにした。
水曜日、大介は前日と同様に、ミナの家で目を覚ました。既にミナは出掛けており、麻有子を迎えに行くというメモが残されていた。大介がモーテルに戻り、浮かれた様子で「ミナと一緒に帰国して日本で店を開く」と話すので、道雄は呆れ果てた。麻有子とミナが車で2人を迎えに来て、4人は田園地帯へピクニックに繰り出した。道雄はミナから「マユコとなんかあった?」と問われ、「一歩踏み込んだら地雷だった。そんな感じ」と告げた。
夜になってピクニックから戻った時、大介は道雄に「俺、このまま結婚していいのかなあ」と漏らした。道雄は本気にせず、「まさかマリッジ・ブルーとかじゃないよな」と笑い飛ばしたが、大介は真剣に考え込んだ。道雄は日本からの電話でシナリオのドラマ化が決定しそうだと知らされ、喜びを噛み締めた。木曜日、麻有子は大介が結婚することを知り、道雄に「どうして話してくれなかったの」と詰め寄った。道雄は弁解するが、麻有子の怒りは収まらなかった。また道雄が日本へ戻って来るよう説得を試みたので、火に油を注ぐ結果になってしまった…。監督はチェリン・グラック、原作はレックス・ピケット、脚本は上杉隆之、オリジナル脚本はアレクサンダー・ペイン&ジム・テイラー、製作は亀山千広、プロデューサーは宮澤徹&和田倉和利、共同プロデューサーは大西洋志、撮影はゲイリー・ウォーラー、編集はジム・ムンロ、美術はリチャード・C・ロウ、音楽はジェイク・シマブクロ。
出演は小日向文世、生瀬勝久、菊地凛子、鈴木京香、モーガン・スナイダー、ジャン=クリストフ・ルベール、ペギー・ロード・チルトン、ラリー・ヘインズ、ガブリエル・デストリエス、マヤ・ウォーターマン、ニック・ロバーツ、マルゴー・シングルトン、マシュー・アスナー、アンナ・イーストデン、ミシェル・マンハート、フレッド・スパイカー、セオドア・カーン、ドナ・スカラ、ジャミー・ロフティス=キャラハン、テリー・ジョアニス他。
数多くの映画賞を獲得して高い評価を受けた2004年のアメリカ映画『サイドウェイ』を、フジテレビが20世紀フォックスと組んでリメイクした作品。
これまで日本とハリウッドの両方で多くの映画の助監督や第二班監督を務めて来たチェリン・グラックが、初監督を務めている。
脚本担当の上杉隆之も、これが映画デビュー作品。
道雄を小日向文世、大介を生瀬勝久、ミナを菊地凛子、麻有子を鈴木京香、ローラをモーガン・スナイダーが演じている。『サイドウェイ』が2004年の作品で、これが2009年の公開。わずか5年後のリメイクだ。
ハリウッドでも、わずか数年前の外国映画をリメイクするというケースが増えつつある。それに関しても肯定的な考えは持っていないが、しかし商業的には理解できる部分もある。
アメリカでは字幕文化が根付いておらず、だから英語圏ではない外国映画を多くの人が見ているわけではない。
そのため、リメイク版を公開した際、そのオリジナル版を多くの人が既に観賞しているということも、そんなに無いものと思われる。しかし日本では、字幕で外国映画を見るという習慣が根付いている。映画館やDVDなどで、多くの人々が外国映画に触れているという状況がある。
『サイドウェイ』は数多くの賞を獲得して話題になった作品であり、既に観賞している人も大勢いるだろう。
そんな中で、わずか5年後に日本版リメイクを作るというのは、「そもそも映画人の魂として、どうなのか」とは感じるし、商業的に考えても、あまり賢明とは思えない。
実際、このリメイク版は、それほど大きな話題にもならずにコケているし。『サイドウェイ』は見ていないので、大まかなプロットしか知らない。
だが、そんな状態でも、リメイク版で明らかにおかしいと感じる点がある。それは、旅の舞台をカリフォルニアにしていることだ。
オリジナル版は、アメリカ人の中年男性2人がカリフォルニアのワイン・ツアーに出掛けるという話だった。
それを日本人キャストでリメイクするのであれば、旅の舞台は日本にすべきではないのか。旅で巡る場所をオリジナル版と同じカリフォルニアに設定したことによって、道雄に関しては「ほとんど言葉の分からない異国を旅する」という要素が乗っかってくる。
何から何までオリジナル版と同じにしろとは言わない。
そんなことをするぐらいなら、リメイク版を作る必要なんて無いからだ。
しかし、そこで「言葉の通じない異国を旅する」という要素を乗っけるのは、もはやリメイクじゃなくなってしまうんじゃないかと感じる。他にも気になる箇所があって、それは道雄と麻有子のキャラクター設定だ。
オリジナル版の道雄に当たるマイルスと麻有子に当たるマヤは、旅の途中で初めて出会うという関係性だった。しかし本作品では、かつての家庭教師と教え子という関係であり、その頃に道雄は麻有子への好意があったという設定だ。
つまり「かつての恋心が蘇る」という形になっているわけだ。
「初めて出会って惹かれるようになる」ってのと「昔の知り合いと再会して恋心が蘇る」ってのは、まるで別物でしょ。マヤがウェイトレスだったのに対して、麻有子がバリバリと働いているキャリア・ウーマンというのも大きな違いだ。
それもやはり、道雄と麻有子の恋愛劇をオリジナル版と大きく変える要因の1つになる。
繰り返しになるけど、何から何までオリジナル版と同じにしろとは言わない。
だけど、そこはオリジナル版をなるべく踏襲すべきポイントじゃないかと思うのだ。
まるっきり同じにしろということではなく、その関係性は、似たようなモノにすべきではないかと。もちろん、オリジナル版から変更を加えて、それでリメイク版が面白くなっているのであれば、それはそれでOKかもしれない。
しかし残念ながら、そこの変更がプラスに作用しているとは思えない。
まず「日本から遠く離れたアメリカで昔の教え子と再会」という時点で、何となく陳腐な匂いが漂って来る。
旧知の仲ということで、ゼロから関係を作り上げていく必要が無いので、その分、恋愛劇を短時間で盛り上げることも出来るはずだが、そこの設定変更を充分に活用できているとは言い難い。実は、冒頭シーンで既に「あ、なんかヤバいかも」という匂いは漂っていた。
道雄がナレーションで自分のことやアメリカヘ来た経緯を説明するのだが、その最後に「ウエストコーストの風が、重たい気分を晴らしてくれるはずだ」と喋ったからだ。
そりゃ無いわ。
むしろ、そこは「いかにも作られた台詞を喋っています」と強調するぐらいの口調で喋ってくれた方が、それはそれで「自主映画出身の監督が撮った1980年代の映画チック」ということで好意的に捉えることが出来たかもしれない
だけどサラッと言われると、「うわあ。なんか、やっちまってるなあ」という感想しか出て来ない。本来なら、日本人がアメリカを旅するのであれば、そこには「初めての異国」「言葉の通じない環境」という要素も乗っかってくる。
だが、そこは「道雄は以前に留学していたことがあり、それなりに英語も分かる」「大介はアメリカ在住で英語も話せる」という設定にすることで解消している。
でもねえ、わざわざそんな設定まで用意してアメリカを舞台にするって、何なのかと言いたくなっちゃうんだよな。
この映画で、どうしてもアメリカじゃないといけない理由って、どこにあるんだろう。まるで分からないんだけど。実は外国人と話すシーンも、そんなに多くないんだよね。
日本人の4人で会話を交わすシーンが圧倒的に多くて、ますます「じゃあ何のためにアメリカを旅する内容にしているの?」と言いたくなってしまう。
結局のところ、そこにあるのは「アメリカでロケがしたい」「アメリカの景色をバックにした映画を作ってみたい」という、ある意味では幼稚な、ある意味では単純な、ある意味では安易な、つまり、どのように解釈しても、あまり好意的には捉えられない理由だけなんじゃないかと思えてならない。とても中身が薄っぺらい映画なので、ホントに「ただオシャレっぽい雰囲気だけでしょ」という印象だ。
フジテレビが未だにバブル時代の感覚を引きずっているんじゃないか、あの頃のトレンディー・ドラマのイメージで作っているんじゃないか、「アメリカへの憧れを喚起するような、オシャレでトレンディーな映画にしちゃえばいいんじゃねえか?」みたいな軽いノリで作っているんじゃないかと、そんな風に思ってしまう。
っていうか、こんだけリメイク版の出来栄えが悪いと、「ホントにオリジナル版は面白いのか?」と疑いを抱いてしまうほどだ。
でもまあ、きっと月とスッポンぐらいの差はあるんだろうなあ。でも、あんまり見たいという気にならないんだよなあ。
これは、そんな気持ちにさせてしまう映画である。(観賞日:2013年12月9日)
第3回(2009年度)HIHOはくさい映画賞
・特別功労賞:亀山千広
<*『アマルフィ 女神の報酬』『サイドウェイズ』『曲がれ!スプーン』『TOKYO JOE マフィアを売った男』の4作での受賞>