『少年メリケンサック』:2009、日本

メイプルレコードの契約社員・栗田かんなは、動画サイトでハードコア・パンクバンド「少年メリケンサック」のライブ映像を発見した。 彼女は社長・時田英世の元へ走り、「面白いバンド見つけました」と弾んだ声で言う。2人は2年前から新しいバンドの発掘作業を続けて きた。かつてパンクをやっていた時田は、少年メリケンサックが気に入った。時田が過去にやっていたバンドのボーカリストだったTELYA は、現在はビジュアル系の歌手として活躍しており、メイプルレコードの利益の8割を稼いでいた。
時田は現在のパンクを「ファッション・パンクだ」と認めない。一方、かんなはパンクというジャンルが理解できない。時田はかんなに 契約の延長を告げ、その代わりに何が何でもアルバムを1枚作れと指示した。 かんなは恋人のマサルに、仕事を続けることを話した。マサルはストリート・ミュージシャンをやっているが、全く売れる気配が無い。 翌日にかんなが持ち込んだ彼のテープも、時田には「詩も曲もつまんねえ」と投げ捨てられた。時田から「少年メリケンサックと連絡は 取れたのか」と訊かれ、かんなはオフィシャルホームページを見つけたことを報告した。ホームページには、ベーシスト・アキオの連絡先 が書いてあった。時田は「契約したらディレクターだぞ、連絡を取れ」と告げた。
かんなが電話を掛けると、高円寺の居酒屋「江戸っ子」に掛かった電話を受けた男から、かんなは「店の方に来てもらっていいですか」と 言われる。かんなが店に行くと、電話を受けた相手はただの店員だった。その店員は、ベロベロに酔っ払っている男に声を掛けた。髪も ヒゲもボサボサの50歳の男が、アキオだった。動画サイトにアップされていたのは、25年前の解散ライブの映像だったのだ。
かんなは店を去ろうとするが、そこに時田から電話が掛かってきた。時田は「契約したら全国ツアーだ。例の動画をウチのサイトにアップ したら問い合わせが殺到した」と言われる。全国のプロモーターから、ライブをやってくれという電話が掛かっていた。かんなは「契約 できなかったらお前の契約を切る。契約するか回転寿司か、よーく考えろ」と告げられた。アキオは彼女に「再結成してやってもいいが、 オリジナルメンバーを集めろ。ハルオはベースだ。そして俺はギターを弾く」と言う。
ハルオはアキオの弟だった。そして、ハルオにギターを教えたのはアキオだった。かんなが田舎で酪農をやっているハルオに会いに行くと 、すっかり容貌が変わっていた。「オラの中では終わってるから」と、ハルオはバンドの再結成を断った。かんながアキオに会ったことを 言う、彼は「俺を差し置いて先に兄貴に会ったのか」と急に怒り出す。ハルオは「あんな腐れ外道のバンドで演奏する気は無い」と牛糞を 投げ付け、「兄貴に伝えろ、親父は死んだ」と口にした。
かんなは時田に頭を下げて辞めようと考えるが、会社のサイトでは「10万アクセス、全国ツアーもソールドアウト」と大々的に宣伝されて おり、既に様々なグッズも作られていた。かんなが同棲中のマサルに相談すると、「かんなが逃げ出したら10万人を裏切ることになるん じゃないかな」と言われる。彼に励まされ、かんなはもう少し頑張ろうと考えた。彼女はアキオに会い、ハルオに参加の意思が無いことを 報告した。かんなは「新しいメンバーを募集してはどうか」と提案をするが、アキオに拒否された。
かんなはアキオに、時田に会ってほしいと持ち掛けた。そうすれば時田の夢も冷めて、ツアーを諦めるだろうと考えたのだ。しかしアキオ は「じゃあ会えないな。スタジオを用意しろ。2人は俺が連れて来る。お前はハルオを連れて来い。俺らが最高のライブをやれば、嘘は嘘 じゃなくなる」と言う。かんながスタジオでメンバーを待っている時にドラムのセッティングをしている男がいて、それがヤングだった。 そこへジミーが現われるが、彼は障害者だった。若い頃、ライブ中にアキオとハルオがケンカを始め、ギターとベースで頭を殴られて、 障害が残ってしまったのだ。ジミーは、マトモに話すことさえ出来ない状態だった。
ハルオが来ないまま、3人での演奏が始まった。25年前も決して上手いとは言えなかった少年メリケンサックだが、それよりも遥かに ボロボロの状態で、ジミーに至っては最後まで全く歌うことが出来なかった。かんなは「こんなんじゃ、お話になりません」と激怒する。 そこへハルオがギターを持参して表れ、「黙ってベース弾け、このブタ野郎」とアキオに言う。アンプのノイズが響くと、ジミーが車椅子 から立ち上がり、マイクを握った。何を言っているのか全く分からないが、少なくともメロディーは取っていた。
かんなは「死ぬ気で練習したら何とかなるかも」と考え、メンバーを車に乗せてツアーに出た。名古屋に到着したかんなは、ライブ会場の 関係者に少年メリケンサックの面々をスタッフとして紹介した。少年メリケンサックのライブを見るため、会場には不良が大挙してやって 来た。時田も会場に来るが、かんなは「危険だから」と楽屋に入れなかった。いよいよステージに少年メリケンサックが登場すると、観客 は静まり返る。アキオが話し始めると、観客は物を投げてブーイングした。4人は構わず演奏を始めるが、ボロボロだった。
かんなは演奏を聴かずに会場を出て、飲み屋で酔い潰れた。ライブが終わった後、かんなが店に戻ると、アキオとハルオがケンカをして いた。時田は「キャンセル料が発生するからツアーは続けろ。終わったらバンドもお前も契約破棄だ」と告げた。アキオが「そんな眠たい ことを言ってるからパンクが終わったんじゃねえのか」と生意気なことを言うと、時田は「金の取れるライブをやってから言えよ。マトモ に1曲でも演奏できたか。1人でも喜んでる客がいたか」と告げて立ち去った。
大阪のライブ会場にやって来た少年メリケンサックは、時田が呼び寄せた人気バンド「GOA」の前座をやることになった。GOAの面々 は少年メリケンサックを知っており、伝説のバンドだと持ち上げたアンコールでのセッションを持ち掛けられ、アキオは喜んで承諾した。 しかし彼らの悲惨な演奏を見たGOAは、幻滅した態度になった。酷評を耳にしたハルオは、GOAが演奏している最中にステージへ行き 、彼らに殴り掛かった。それを見たアキオとヤングも加勢して大暴れし、警察沙汰の騒ぎになった。
次のライブ会場がある広島に到着した時、かんなは耐え切れなくなって逃げ出した。アキオたちは必死に街を駆け回り、何とかライブ会場 を探し当てた。かんなはマサルのライブ会場へ赴くが、つまらないので2曲で去った。少年メリケンサックのライブ会場へ足を向けると、 彼らはマトモに演奏しており、観客が熱狂していた。かんなが久しぶりに部屋に戻ると、マサルはバイト先の後輩・ユキと浮気していた。 彼は「恋人と別れた」と嘘をついて浮気したくせに、かんなの部屋に女を連れ込んでいた。
かんながライブ会場へ向かう車内で泣くと、アキオたちはマサルの作った歌を嫌がらせのように合唱した。一行は仙台に到着した。その 場所に、ハルオは因縁があった。かつて少年メリケンサックだけでは食べていけなかった頃、彼はスカウトされてロケットビートという 別のバンドでも活動していた。ある日、彼は美保という女に誘惑され、熊のヌイグルミをプレゼントされた。だが、そのヌイグルミには 覚醒剤が隠されており、彼は警察に逮捕されたのだ。
ハルオがライブ会場の前で昔を思い出していると、そこに美保が現れた。彼は自分の息子を紹介した。その父親はアキオだった。一方、 実家に戻ったアキオは、父親が生きていることを知った。さらに父の介護士の話で、ハルオが自分のことをロサンゼルス在住の有名な音楽 プロデューサーだと周囲に言いふらしていたことも知った。仙台でのライブが始まる中、かんなは時田からの電話で、テレビ番組への出演 が決まったことを知らされた。だが、アキオとハルオが演奏中にケンカを始め、2人とも片腕を骨折してしまう…。

監督・脚本は宮藤官九郎、プロデューサーは岡田真&服部紹男、アソシエイト・プロデューサーは長坂まき子、プロデューサー補は植竹良 、エグゼクティブプロデューサーは黒澤満、製作は中曽根千治&橋荘一郎&白井康介&平井文宏&木下直哉&福原英行&水上晴司&御領博 &中井靖治&鈴木大三&竹田富美則&桜井良樹、撮影は田中一成、編集は掛須秀一、録音は林大輔、照明は吉角荘介、美術は小泉博康、 スタイリストは伊賀大介、擬斗は二家本辰巳、音楽は向井秀徳、音楽プロデューサーは津島玄一。
エンディングテーマは「守ってあげたい」(作詞:松任谷由実/作曲:松任谷由実/歌:ねらわれた学園(向井秀徳&峯田和伸)。
出演は宮崎あおい、佐藤浩市、木村祐一、ユースケ・サンタマリア、田辺誠一、勝地涼、田口トモロヲ、三宅弘城、峯田和伸(銀杏BOYZ)、 ピエール瀧、哀川翔、烏丸せつこ、犬塚弘、中村敦夫、遠藤ミチロウ、仲野茂、日影晃、佐藤一博(MARQUEE/urasuji.)、平間至、 箭内道彦、佐藤智仁、波岡一喜、石田法嗣、広岡由里子、池津祥子、児玉絹世、水崎綾女、細川徹、安孫子真哉(銀杏BOYZ)、 チン中村(銀杏BOYZ)、村井守(銀杏BOYZ)、星野源(SAKEROCK)、田中馨(SAKEROCK)、伊藤大地(SAKEROCK)、 浜野謙太(SAKEROCK)ら。


人気脚本家の宮藤官九郎が『真夜中の弥次さん喜多さん』に続いて監督を務めた作品。
かんなを宮崎あおい、秋夫を佐藤浩市、春夫を 木村祐一、時田をユースケ・サンタマリア、マサルを勝地涼、ジミーを田口トモロヲ、ヤングを三宅弘城、若き日のジミーを峯田和伸 (銀杏BOYZ)が演じている。
また、立ち飲み屋の大将役で元ザ・スターリンの遠藤ミチロウ、ガサ入れの警官で元アナーキーの仲野茂、生花店の店員役で THE STAR CLUBの日影晃が出演している。

クドカンが脚本を担当した映画を何本か見てきて思うのは、「この人は取り上げている題材 やジャンルに対する愛情&リスペクトが全く無いんだなあ」ってことだ。
『ドラッグストア・ガール』ではラクロスに対しての愛情やリスペクト、『ゼブラーマン』では特撮ヒーロー物に対しての愛情や リスペクト、『舞妓 Haaaan!!!』では芸妓の世界に対しての愛情やリスペクトが感じられなかった。
その世界に関する描写がすげえテキトーで、ディティールも粗い。
映画を見る前に、田口トモロヲ(元ばちかぶり)がバンドのボーカル役で出演しており、他にも遠藤ミチロウ(元ザ・スターリン)、 仲野茂(元アナーキー)、日影晃(THE STAR CLUB)も出演していることを情報として得ていたので、「クドカンは自分でバンドもやって いるし、今回はパンクへのリスペクトがある映画を作ったのかな」と思っていたが、相変わらずだった。
「好きです!パンク!嘘です!」というキャッチコピーは、まさにクドカンの本作品に対するスタンスをピッタリ言い表していると 思う。
この人は、パンクへの愛情やリスペクトなんて全く無いのだ。

冒頭、若き日の少年メリケンサックのライブ映像が写し出される。これが「動画サイトの映像」としてではなく、スクリーン全体に表示 された状態で動画が始まっているので、「25年前のライブにしては映像がキレイすぎるだろ」というところで引っ掛かる。
かんなが見ている動画は劣化しているという設定なのかもしれんけど、そこはもう少し表現の方法を考えるべきだろう。
っていうか、ホントはもっと映像が劣化しているはずなので、その時点で「今のバンドなのか?」と怪しんだり調べたりすべきであって、 全く何も調べず、その動画を見た直後に、かんなが時田に知らせに行っている時点でボンクラすぎる。
時田にしても、どういうバンドか全く調べさせずに、まだ会ったことも無いのに全国ツアーを組んでチケットやグッズを作るなんて、 有り得ない。

かんなが時田の元へ行った後、彼女が「お世話になりました」と言って立ち去ろうとするネタを天丼でやっているんだが、そもそも時田が 呼び止める理由が全く無い。
かんなは、そんなに優秀な社員なのか。そんな設定じゃないよね。
そこは、かんなが優秀な社員じゃないと、ネタとして成立しない。
あと、かんなは辞めたがっているのか。で、辞めたいけど新しいバンドを1つ発掘しないと辞めさせないと社長に言われていたり したのか。
そういう設定もハッキリさせておかないと、そこはギャグとして成立しないんだよ。

それと、その「お世話になりました」の天丼とか、時田が組んでいたバンドのメンバー紹介で時間を使っているけど、そこはモタモタ しちゃダメなのよ。
かんなが少年メリケンサックを発掘したんだから、契約を結ぼう、見つけに行こうという流れをサクサクと進めるべき。そこでやってる ネタは、その後でやればいいことだ。
あとTELYAに関しては、そこで初登場させるんじゃなくて、先にレーベルの稼ぎ頭として登場させておいて、「そんなTELYAが意外にも」と いう形にしておかないと。
先に「かつてパンクバンドのボーカルだった」ということを紹介してから現在の彼を登場させても、笑いとしての力が無い。
順番が完全に逆だ。

かんなはパンクというジャンルが理解できない設定らしく。時田が「こいつら本物だ」と少年メリケンサックのことを言うと「ド下手 ですよ」と顔をしかめるが、彼女が「面白いバンド」と見せに来たのに、そのリアクションは変だろうに。
それなら、時田が見つけた設定にでもしておけよ。
かんなはパンクが全く分かっていないんだから、時田に命令されて、「怖そうな人たちだから殴られるかも、犯されるかも」とビビり まくりながら契約に向かったり、彼らと接したりする、という流れにでもした方がいいんじゃないのか。
かんなは時田から「今すぐ連絡を取れ」と言われて「今じゃなきゃダメですか。7時から送別会があるんです」と嫌そうにしているが、 だったらバンドの映像を見せに行くのも変だろ。もう送別会の当日なら、今さら仕事しなくてもいいはずだ。
で、その辺りでは一刻も早く辞めたがっていた感じがあるのだが、その後に契約期間の延長を告げられ、嬉しそうに「ありがとうござい ます」と言っている。
どういうことなのかと、困惑してしまう。
その時点で、「かんなは契約社員で、2年で契約が打ち切りになるところだった」という設定が全く伝わっていないので、いちいち 引っ掛かるのよ。

翌日、かんなは時田から少年メリケンサックのことを訊かれて「オフィシャルホームページを見つけた」と言うが、そんなの、契約しろと 言われた直後に調べられることだろ。
っていうか、そんなの時田でも出来る。
そのサイトにアキオの連絡先が書いてあることを、時田がクリックするまで、かんなが気付かないってのもメチャクチャだ。
導入部だけでも、話の作りが粗すぎて超テキトーだ。

時田が動画をサイトにアップしたら問い合わせが殺到して、全国のプロモーターからライブをやってくれと電話がジャンジャン来ているが 、そんなことは有り得ない。
社長の陣頭指揮で売り出しているのに、かんな以外の会社の人間が誰も会わないままツアーに出るとか、そんなのも有り得ないっての。
ここでヘタクソすぎる嘘をついちゃうと、すげえ陳腐になるのよ。
そりゃあ荒唐無稽な作品だってのは分かるけど、ついてもいい嘘、ダメな嘘、嘘をついてもいいポイント、ダメなポイントがある。
そういうことをクドカンは全く考えず、無神経にヘタクソな嘘をつきまくっている。

かんなは時田から「契約するか回転寿司か、よーく考えろ」と言われて困った顔をしているが、序盤で「明日からどうする?」と訊かれた 時には「結婚を視野に入れ、さしあたって実家の回転寿司を手伝います」と笑顔で言っていたじゃねえか。
だったら、なんでそこでは嫌なのか。
その辺りは、「契約か回転寿司か」と迫られる場面がダメなんじゃなくて、導入部の粗さが後に響いている。
アキオは「再結成してやってもいいが、オリジナルメンバーを集めろ。ハルオはベースだ。そして俺はギターを弾く」と言い出すが、なぜ ベーシストがギターを演奏すると言い出すのか。そこで変な捻りは要らない。
そこでアキオがハルオにギターを教えた頃の回想が入るが、そんなのも全く要らない。そこにギャグがあるわけでもないし。
その後も、かつてのマネージャーだった金子欣二が語る形で、若い頃のアキオたちの様子が何度も挿入されるが、そこは全て削ってもいい。

ジミーとハルオが始めた少年アラモードというバンドがアイドルみたいな売り出し方をされたというのは、「赤ずきんちゃん、乗りなよ」 という歌詞からしても、明らかにレイジーが元ネタだろうけど、そういうのも要らないわ。
回想シーンに関しては、その場その場で小ネタをやりたいだけとしか感じない。
たたでさえ散漫なのに、回想が入る度に、ますます散漫な印象が強まる。
仙台では、回想シーンを原因にして現在の兄弟ゲンカに持ち込むのだが、そこも上手く機能していない。
正直、過去のシーンって全て要らないんだよな。

回想シーンだけでなく、現在のシーンでも、やっぱり「小ネタをやりたい」という意識が先行している印象を受ける。村祭りでジミーが 「毒殺、毒殺(撲殺かな?)」と叫んで、子供たちが合唱しているってのも、その絵が面白そうだから入れたというのは分かるけど、 繋がりとか流れが皆無。
行き当たりバッタリ感が甚だしい。弾け切れていないし、テンポも悪い。
それって、実はクドカンが脚本を担当した『舞妓 Haaaan!!!』でも見たような光景だったりするんだよな。
キャラはハイテンションなのに、どこか弾け切れない。
その理由は、構成がグダグダで行き当たりバッタリだからだ。

かんながメンバーを捜しに行く、集めるという展開は、全く無い。ジミーとヤングは、あっさりと集まってくる。
それは手抜きとしか思えない。
「かんなが捜しに言ったら、こんな風に変貌していました」という見せ方をすべきだろう。
ハルオにしても、アキオとケンカしていたのなら、あっさりスタジオに現われるのは違うでしょ。そこは、「かんなの力でバンドに連れて 来る」という作業が必要でしょ。
バンドが再結集する流れの中で、かんなが無力に等しいってのはダメすぎる。
っていうか、アキオとハルオが険悪な仲という設定自体、要らないんじゃないかと感じる。
そこはオアシスのギャラガー兄弟を意識しているのかな。パンクじゃないけど。

「傍若無人な中年パンク野郎たちにヒロインが振り回される、困らされる」というところに面白味があるんじゃないかと思うが、それを 考えると佐藤浩市はミスキャスト。
彼が暴れても、パンクの感じがしない。
木村祐一も同様で、この人はアッパーな怖さじゃないのよね。
何をやらかすか分からないというハチャメチャな恐怖・不安を、かんなに与えるようなキャラであってほしい。
あと、荒くれ者なのって基本的にアキオだけなんだよな。ハルオはアキオに対して突っ掛かるだけで、それ以外では特に問題児じゃない。
ジミーもハチャメチャな奴ではない。
ジミーなんかはヤク中にでもしておけばいいのに。あと、ろれつが回らないようなキャラじゃなくて、障害者でもいいから、ちゃんと 歌えるキャラにしておくべきだよ。
実は歌詞が「ニューヨークマラソン」じゃなくて「農薬飲ませろ」だったというネタをやりたいがために、そんな設定を持ち込むなよ。
せっかく田口トモロヲを起用しておきながら、勿体無いじゃねえか。大体、「ニューヨークマラソン」の滑舌が悪くて「農薬飲ませろ」に 聞こえるって、無理がありすぎるし。

ボロボロの演奏だった少年メリケンサックだが、広島のライブではマトモにパフォーマンスしており、観客も盛り上がっている。
そこは、まず「なぜ急にマトモに演奏できるようになったのか」というところに疑問が沸く。
かんなが「やれば出来んじゃん」と言っているが、「やる気になったらマトモに演奏できるようになりました」ってことなのか。そんなん で納得できるかよ。
あと、観客が熱狂しているのも理解し難い。
だって、実際にサイトの奴らとは全く違うんだから、それに対して拒否反応があるはずだ。
「最初はブーイングだったけど、実際の演奏が素晴らしいので盛り上がった」という流れが描かれていれば納得できるけど、かんなが会場 に行ったら既に盛り上がっているという描写なんだよね。

クライマックスも無ければ、クライマックスに向けての流れも無い。
本来ならクライマックスが来るべきポイントにはテレビ番組でのライブが用意されているが、クライマックスとして成立していない。
なぜなら、盛り上がる要素が皆無だからだ。
なんせアキオとハルオが2人でギターを演奏し、マサルがベースを担当するんだぜ。
なんでだよ。
オリジナルメンバーにこだわってきたのに。
しかも、それまでマサルはギターしか演奏していなかったのに。

むしろ、「オリジナルメンバー全員が結集して代表曲をパフォーマンスする」という形こそ、クライマックスにふさわしいんじゃないのか 。
違う楽器を演奏するのも要らないし、余計なメンバーはもっと要らない。
本気で盛り上がるクライマックスだと思って演出しているとすれば重症だし、アンチ・クライマックスとしてやっているのなら、やっぱり 重症だ。
「2人で一人前」ということで、兄弟に2人でギターを演奏させるというアイデアを、さもナイスなアイデアのように描写しているけど、 セックス・ピストルズの再結成なんて酷評できないぐらい、サイテーなアイデアだからね。

(観賞日:2010年10月27日)

 

*ポンコツ映画愛護協会