『少女たちの羅針盤』: 2011、日本

新進女優・舞利亜はマネージャーの平良弘明と共に、生まれ故郷の広島県福山市へ戻って来た。そこで廃墟となったホテルを貸し切り、 ネットシネマの撮影が行われるのだ。ホテルに到着すると、監督の芽咲吾朗は「舞利亜ちゃん、あの羅針盤にいたんだよね。女子高生 4人組の、伝説の劇団」と言う。平良は羅針盤について初耳だった。福山市出身の芽咲は羅針盤のことだけでなく、その中で死者が出て いることも知っていた。
手違いで最終決定稿は舞利亜の元に届いておらず、芽咲は「少しずつ渡すわ」と一部を差し出す。「あの子を殺したのはわたし・・」と いうセリフを見て舞利亜が驚くと、芽咲は全面的に書き換えたことを説明した。舞利亜が「私の役って、犯人に襲われて逃げ惑うヒロイン ですよね」と確認すると、彼は「ヒロインだけど、真犯人。襲ってくるのは、君が殺した女。まあ亡霊みたいな女。君は仲が良かったその 子を殺したんだよ、4年前に」と言う。4年前、舞利亜は羅針盤のメンバーを殺していた。
4年前、銀星学院演劇部の楠田瑠美は、「先輩のせいで予選落ちした」と部長を激しく批判した。「時間オーバーですよ。そんな初歩的な ミスで失格。自分の役に酔って、これでもかっていうタメ芝居。他の先輩たちだって分かってるのに、なんで私が吊し上げられなきゃ いけないんですか」と、彼女は生意気な態度で言い放つ。そこへ顧問の渡見恵子が来て「また貴方なの。部に混乱を持ち込まないでくれる 。銀星の演劇部で何よりも大事なのは規律なの」と冷徹に告げるが、なおも瑠美は反発した。
激しい怒りを覚えた瑠美は、親友の北畠梨里子、通称“バタ”と来栖かなめの2人に「決めた。私、劇団立ち上げる」と宣言した。具体的 なプランは何も無かったが、「付いて来てくれるでしょ」と彼女は強引に誘う。瑠美は2人を連れて深井高校へと赴いた。参加した コンクールで、芝居が上手くてオーラのあった江嶋蘭をスカウトするためだ。「無理。演劇部とバイトで忙しいし、興味ない」と蘭が 断っても、瑠美は強引な態度を崩さなかった。
4人は劇団てん・ぐりがえりの10周年記念公演『蓮池の罪人』を見に行く。かなめの姉・なつめもやって来た。なつめは芸能人で劇団の 座長・大黒とは知り合いだった。かなめとなつめは小さい頃に両親が離婚し、別れて暮らしているが、仲良しなのだという。4人は大黒の 手厳しい批判を浴びるが、すぐに瑠美は「劇団の名前を決めよう」と言い出す。メンバーの名前に東西南北の文字が入っていることから、 かなめが「羅針盤ってどうかな」と提案し、それに決定した。
かなめは早速、羅針盤のホームページを作成した。自分のブログでも宣伝しているという。瑠美はバタたちを誘い、店が閉まった後の 商店街へ行く。そこには練習しているダンサーや演奏しているストリート・ミュージシャンがいた。瑠美は3人に「私たちも、ここで やらない?」と持ち掛け、ストリート演劇を始めるが、誰も集まらなかった。翌日、彼女は「舞台っぽさが無かった。ここは舞台だって、 もっとハッキリさせないと。日常と特別を分ける。衣装とか照明で」と告げた。
後日、蘭は3人を集め、廃墟になっている古アパートへ連れて行く。そこは、かつて母の千代子が務めていた会社の社宅だった。会社が 潰れて廃屋となっており、そこを練習場所に使おうというのだ。蘭は3人に、金銭的に余裕が無くて銀星に通えなかったことを明かす。 すると瑠美は、「学校なんて関係ない。私たちは蘭と一緒に芝居できることが嬉しいの」と告げた。みんなで練習していると、なつめが 差し入れを持って来た。
瑠美たちは衣装や照明を用意し、舞台設備を整え、改めてストリート演劇を行った。羅針盤の芝居『光の指す方へ』を上演していると、 次々に観客が集まって来た。芝居が終わると、観客は拍手で称賛した。口コミで羅針盤の人気は広まるが、大音量で邪魔をする女子たちが 現れる。それは、かなめが公立の中学にいた頃にイジメていた女子たちだった。彼女のブログにも、嫌がらせの書き込みが繰り返されて いた。負けん気の強い瑠美は「やろうよ」と3人に呼び掛け、場所を変えて上演した。
第6回ステージバトルフェスティバルへの出場を、瑠美は誰にも相談せずに決めた。プロデューサーの武本正弘が羅針盤に関心を抱き、 参加をオファーしてきたのだという。参加費の2万円が必要だったが、瑠美は蘭に「ここを紹介してくれたじゃない。だから経費として 出すよ」と告げる。すると蘭は険しい顔で、「参加費はバイトの給料入ったら払う。私だけ惨めな思いさせないで」と口にした。かなめと 蘭が去った後、バタは瑠美に「蘭のことだけどさ、中途半端な理解は返って相手を傷付けるよ」と告げる。転寝した瑠美を見た梨里子は、 そっと唇を重ねた。気付いて目を覚ました瑠美は困惑する。
ある日、かなめの家で練習することになった。瑠美は脚本を2つ用意し、「どっちか選んで」と言う。かなめと蘭は「どっちもいい」と 言うが、バタは「両方とも上手くまとめているけど、今までと同じことやっても仕方がない。新たな企画で勝負すべきだよ。別の顔を出す べきだよ」と主張した。瑠美が「台本も書かないで文句だけ言わないでよ」と声を荒げると、彼女は「書いたよ」と言い、自作の脚本を 取り出した。『生死のサカイ』という題名のシナリオは、ストリートの時とは全く違う物だった。
瑠美は素直に称賛し、その脚本で行くことに決めた。稽古を始めてすぐに、瑠美は役を変更する。自分の相手はかなめ、梨里子の相手を蘭 と指名した。反発するバタに、彼女は「イメージと違ったの」と告げる。帰宅した蘭は、千代子から「部活以外で芝居をやる余裕なんて あるの?」と批判された。蘭は「今、投げ出したら他の人にも迷惑かけるの。私にも責任ってものがあるの」と言い返した。シャワーを 浴びながら瑠美とのキスを思い返したバタは、幾つものリスカ跡が残る左手首を剃刀で切った。
ステージバトルの当日、バタは瑠美を呼び出し、「私のこと避けてるでしょ。どうしてあんなことしたのか、自分でもビックリして」と 述べた。「ビックリしたのはこっちだよ。確かに避けてたよ。だってこっちだって、どうしたらいいか分からなくなるでしょ」と、瑠美は 非難めいた口調で告げる。バタが壁に左腕を打ち付けようとするのを制止した瑠美は、「やめて、本番前なの。傷口が開いたら困る」と 言う。ハッとするバタに、彼女は「かなめだって知ってるよ。おっきい時計して誤魔化してるつもりでも分かる」と告げた。
バタは「私、冷静ぶってるけどホントはこんなんじゃないんだって。それなのに、瑠美もかなめもどんどん強くなって」と弱気な様子を 見せた。瑠美に「どんな風に見えたっていいじゃない。バタはバタなんだから。あんな凄い脚本書けるんだから。欲張り過ぎだよ」と 言われて、バタは目を潤ませた。大勢の観客が会場に集まる中、4人は芝居をやり終えた。すると観客はスタンディング・オベーションで 絶賛した。しかし彼女たちは優勝することが出来なかった。最初から優勝が決まっている出来レースだったからだ。
瑠美たちは悔しさを堪えてストリート演劇を続けようとするが、警官が来て撤去を命じられる。さらに蘭は母の不倫相手で実の父親である 大物実業家の御蔵総一郎から、後継者として演劇を辞めて全寮制の学校に入ることを強要される。瑠美はバタとかなめから演劇部に戻る ことを提案されるが、頑なに拒絶した。蘭はステージバトルで名刺を貰っていた芸能事務所のプロデューサーに電話を入れ、映画の オーディションを受けることになった。彼女はかなめに付いてて来てもらい、上京した。ところが監督がかなめを見て、オーディションに 参加していない彼女を合格させた。かなめは3人の応援を受け、映画への出演を決めた。だが、彼女は何者かにレイプされ、学校やネット で激しい中傷を受けた末に自殺してしまう…。

監督は長崎俊一、原作は水生大海(原書房刊)、脚本は矢沢由美&谷口純一郎、製作は佐倉寛二郎&仲尾雅至&神原勝成、エグゼクティブ プロデューサーは永田守&海生泰定&久保忠佳、プロデューサーは折目啓伯&粟根祐司&森悟志&宮田昌広、協力プロデューサーは 辻井孝夫、撮影は柳島克己、照明は鈴木康介、整音は弦巻裕、録音は横溝正俊、美術は部谷京子&中山慎、編集は阿部亙英、 劇中劇 作・演出は古川貴義(箱庭円舞曲)、リーガル監修は秋山洋(柳田国際法律事務所)、音楽は佐藤直紀。
主題歌『羅針盤』は矢沢洋子 作詞:矢沢洋子、作曲:オダクラユウ。
出演は成海璃子、忽那汐里、森田彩華、草刈麻有、戸田菜穂、石黒賢、清水美沙、黒川智花、石井正則、前田健、塩谷瞬、金山一彦、 水本諭、池口十兵衛、諏訪太朗、福山和紗、谷野愛美、田島万鈴、岡山みのり、鳥居香奈、松前吏紗、中村結奈、佐々木彩乃、馬屋原彩咲 、中野有華子、喜多村千尋、佐藤ゆみ、河島洋三、宮本雅史、池内雅俊、河内剛紀、稲原春香、糸永直美ら。


第1回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞で優秀作に選ばれた同名小説を基にした作品。
監督は『8月のクリスマス』『黒帯 KURO-OBI』の長崎俊一。
瑠美を成海璃子、蘭を忽那汐里、梨里子を森田彩華、かなめを草刈麻有、渡見を戸田菜穂、御蔵を石黒賢、千代子を清水美沙 、なつめを黒川智花、平良を石井正則、芽咲を前田健、倭駆を塩谷瞬、武本を金山一彦、瀬川を水本諭が演じている。

「ヒロインが過去の殺人を指摘されて脅される」という大枠で、『ラストサマー』を連想した。
ただし『ラストサマー』と違って、この作品では舞利亜の正体が隠されたまま話が進行する(顔も隠されたままだ)。
だから、彼女が脅迫してきた犯人を探るという筋書きは作ることが出来ない。
そんなことをすれば、舞利亜の正体も特定できてしまうからだ。それは終盤まで引っ張らないとならない。

では、回想の中で「殺人を犯した舞利亜は誰なのか」という謎解きが進められていくのかというと、それも無い。
回想の中で描かれていくのは、演劇に情熱を捧げる少女たちの青春ドラマである。そこにミステリーとしての要素は感じない。
やがて、かなめが死亡するが、それは警察によって自殺として処理され、何の事件性も無いということで幕引きになっている。
自殺に関しては理由がハッキリしているので、「なぜ自殺したのか」という部分での推理が進められていくことも無い。

現在のシーンに戻っても、そこで自殺の理由を探るようなことは無い。
っていうか、既に現在のシーンでは、自殺の理由も追い込んだ犯人も分かっている。だからこそ、舞利亜が脅しを受けたのだ。
で、かなめが自殺した時点で、もう残り20分程度。
どうするのかと思ったら、聞き込み調査や証拠集めといった謎解きの経緯は無くて、いきなり解決編へ突入してしまうのだ。
だからミステリーとしては、欠陥品だと言わざるを得ない。

ぶっちゃけ、ミステリーの要素を全て排除して、演劇に懸ける少女たちの、辛さや悲しみ、苦味も含んだ青春ドラマとして全編を構成した 方が、魅力的な映画になったのではないかと感じる。
もっと言っちゃえば、誰も死ぬことはなく、ビターな部分はあっても希望に満ちた終わり方にしてしまった方がいいと感じる。
だけど、ミステリー文学新人賞で優秀作に選ばれているんだから、ミステリーとしての面白味が全く無いというのは、かなり重大な 問題だよな。

こっちにヒントを与えてくれるような謎解きの手順は全く無いにも関わらず、簡単に犯人の予想は付いてしまう。
何しろメイン4人の中に犯人がいるようには到底思えない中で、明らかに異質なキャラが1人だけ羅針盤に関わっているのだ。
他に容疑者候補もいないし、そいつだけが露骨に怪しい。
もう説明が面倒だから完全ネタバレするけど、怪しいのは、なつめだ。
そして、彼女が舞利亜である。

ミステリー作品では、最も怪しい奴は犯人じゃないというのが定番だ。
そこでバレバレのミスリードをやっておき、さらに1つか2つほど、本当に騙そうとするミスリードを用意して、観客や読者の目を真犯人 から逸らそうとするのが、ミステリーにおいて良く使われる手口だ。
しかし本作品の場合、いかにも怪しい奴が、そのまま犯人なのだ。
裏の裏をかいているわけではなく、ただ単にバカ正直なのだ。
その正直さは、ミステリーでは全く賞賛されない。

ミステリーとしての欠陥以外にも、粗を感じる部分が幾つかある。
まず芽咲が舞利亜のことを「あの羅針盤にいたんだよね」と言うのは変でしょ。羅針盤が女子高生劇団だったことも、死者がいたことも 知っているのなら、羅針盤が結成された頃は既に舞利亜が女子高生じゃなかったことぐらい分かるはずでしょ。
っていうか、死人のことまで知っているのなら、それが舞利亜の妹ってことも知っているはずだろ。
ひょっとして、監督も瑠美たちの協力者という設定なのか。全く説明が無いから分からないけど。
あと、マネージャーが羅針盤や4年前の事件について全く知らないってのも変だよ。だって、その事件で死んだのは舞利亜の妹なんだよ。

登場した途端、瑠美が嫌な奴にしか見えないってのはマズい。
「なんで私が吊し上げられなきゃいけないんですか」と言うけど、その「部長がミスしたのに彼女が罪を押し付けられて吊し上げられた」 という部分が描写されておらず、いきなり彼女が生意気な態度で激しく先輩を罵倒している様子なので、不愉快な奴にしか見えないぞ。
渡見に注意されて「先生は私が悪いっていうんですか」と反発するけど、そりゃあアンタが悪いよ。
先輩を批判するにしても、言い方ってもんがあるだろうし。

参加を断っていた蘭が参加を決めるまでの心の変遷、経緯は全く描かれず、コンビニバイトの次のシーンでは、もう一緒に芝居を見に 行っている。
大黒と会って厳しく批判されるシーンもカットされているが、そこは必要な箇所じゃないのか。
いきなりストリート演劇を始めるけど、いつの間に脚本を作ったのか。いつの間に練習したのか。
そもそも、どういう芝居をやりたいと考えているのか、それも全く伝わって来ないし。

『生死のサカイ』というシナリオは、ストリートの時とは全く違う物だという設定だが、何がどう違うのかサッパリ分からない。
そんなに変わり映えしていないように見える。
どうしてバタが何度もリスカを繰り返しているのか良く分からないし、キスも唐突。
蘭の家庭環境も、描写が薄い。
御蔵が「蘭には自分の後を継いでもらいたい」と言い出すのも変だよ。そりゃあ女でも後を継ぐことは出来るが、まだ高校生だし、すげえ 不自然。
しかも、その時に初めて会ったんでしょ。

ストリート演劇に「大勢の人々が集まり、喝采を送るほどの素晴らしさ」という説得力を持たせることは出来ていない。
全く面白さを感じないし、演技が上手いとも思えない。
ステージバトルの芝居なんて、たっぷりと時間を割いて描写しているけど、「伝説になるほどの芝居ではない」ということが露呈して しまうので、逆効果だよなあ。
その劇中劇が物語と上手くリンクしているわけでもないし。
ただし「芝居の説得力」に関しては、長崎監督だけじゃなく、たぶん誰がどんな風に演出したとしても無理だったとは思う。
演劇シーンをバッサリと省略しちゃうと、それはそれでマズいようにも思うし、そこの解決方法って思い付かないんだよな。

なつめは練習の差し入れに来ているし、地元の霞銀座商店街のミス・ローズナードとして活動しているんだから、福山市ではないにせよ、 広島県に住んでいるように思われる。
それで「売れない芸能人」って変でしょ。
本当に売れたいのなら、東京へ出ようよ。
地方にいる時点で、本気で売れる気が無いんじゃないかと思ってしまう。
「東京で頑張っていたけど芽が出ないから故郷に戻って来た」ということかもしれないが、それは映画を見ていても分からないし。

なつめの犯行動機には、ちょっと納得しがたいものがあるんだよな。
妹が映画のオーディションに合格したからって、それだけでレイプさせた上に殺すかね。
そりゃあ嫉妬心は沸くだろうけど、映画のオーディションに合格したからって、それだけで成功が約束されているわけでもないんだし。
あと、レイプさせたってことは共犯者がいるわけで、そいつらも断罪しなきゃ中途半端になるんじゃないのか。
自首させたなつめが全て警察に喋ってくれるだろうから、それでOKってことなのか。

(観賞日:2012年1月27日)

 

*ポンコツ映画愛護協会