『シュート!』:1994、日本
田仲俊彦、通称トシは、静岡県の市立掛川高校に通う1年生のサッカー部員だ。今、彼は掛川駅のホームにいた。彼は自宅に電話を掛け、 母親に「これから掛川を出て東京へ行く。もう掛川に残る意味は無い」と告げた。「まだ転校先も決まっていないのに」と母は引き止める が、トシの気持ちは変わらなかった。電話を切ったトシは、向かい側のホームに先輩部員・久保嘉晴の幻を見た。久保はユニフォーム姿で ボールを持ち、「トシ、サッカー、好きか?」と問い掛けて消えた。
時間を遡る。トシはサッカー部に入ったが、雑用ばかりをやらされていた。ある日、ユニフォームを選択していると、唇を怪我した不良の 同級生・遠藤一美が水飲み場にやって来た。彼女が血を洗い流す横で、トシは何気無くリフティングをやり、思い切りボールを蹴った。 それを見ていた一美は、「面白い、サッカー?」と問い掛け、「いっそパツキンにしちゃえば?」と告げて去った。
後日、トシがサッカー部の部室に行くと、一美がバリケードを張っていた。彼女は「要求を飲まないと通さない」と言っているらしい。 その要求とは、サッカー部のマネージャーになることだった。要求が受け入れられた一美は、トシの自宅に押し掛けて「サッカーを教えて」 と告げた。彼女はサッカーのことを何も知らなかったのだ。トシは、自分が掛西中でサッカーをやっていた頃の映像を見せた。トシは ゴールキーパーの白石健二や右ウインガーの平松和広と共に、県大会のベスト4まで進出していた。
仲間と一緒に水飲み場で洗濯をしていたトシは、「いつになったらボールが蹴れるんだろう」と漏らした。すると一美は、「ゴールを 決めたかったら、まず自分でシュートすることだよ」と告げる。その後、部室の黒板にトシの名義で「総体予選のレギュラー2年だけじゃ ズルイです」と書かれた2年生への挑戦状が貼り出された。それは1年と2年の試合を要求するもので、負けたら退部すると書いていた。 トシは2年生の神谷篤司や大塚繁樹らに呼び出され、試合を受けてやると告げられた。
だが、その挑戦状はトシが書いたのではなく、一美が作ったものだった。「絶対に勝てない」と漏らすトシに、一美は健二と和広を誘う よう告げる。だが、トシは「あいつらはサッカー辞めたんだよ」と言う。和広は医者になるために学習塾へ通っており、トシと一美が サッカー部に誘っても断った。和広はトシに、「久保さんに憧れて掛川高に入ったことを後悔している」と告げた。
一美から久保のことを訊かれたトシは、「あの人はベイブ・オブ・サッカーだ」と告げた。久保が率いるサッカー部がベスト8に入った 試合を見て、トシと健二と和広は掛川高に入ることを決めたのだ。久保はサッカー部のキャプテンだが、今は病気で休んでいた。一美は 暴走族の集会場所に赴き、健二と会った。中学時代、彼が起こしたケンカのせいで、サッカー部のベスト4進出はパーになっていた。 一美はトシに借りを返すためサッカー部に入るよう求めるが、健二は拒絶した。
試合当日、1年生チームはトシのドリブルシュートで先制するが、その後は連続で4点を決められた。しかし途中で健二と和広が現れ、 サッカー部に入部して1年生チームに加わった。彼らの活躍もあって1年生チームは1点差まで追い詰めるが、終了直前にトシが放った シュートは神谷に止められた。しかし神谷はトシを退部させようとはせず、「もっと練習してスタミナを付けろ。次のインターハイだけは 1年からも選ぶからな」と告げた。
ある日、トシが練習に赴くと、そこには久保の姿があった。トシの脚部の筋肉に触れた久保は、「左の方が右よりも威力のあるシュートが 打てるはずだ。軸足が開く欠点を直せ」と告げた。立ち去る時、久保は振り向いて「トシ、サッカー、好きか?」と告げた。インターハイ のレギュラーメンバーが発表され、掛西中トリオも選ばれた。久保は「チームプレーに一生懸命になるな。チームと1つになるんじゃなく、 サッカーと1つになるんだ」と部員に説いた。
サッカー部がミニキャンプを行っていると、久保の恋人・北原美奈子がやって来た。美奈子は久保に、「また遠くに行ってる」と告げた。 彼女はトシの元へ行き、久保が「トシが入って全国大会も夢じゃない」と言っていることを教えた。トシと健二と和広は東京へ行き、 チケットを持たずにJリーグの試合を見るために国立競技場に忍び込んだ。舞台裏でヴェルディ川崎のラモス瑠偉、武田修宏、藤吉信次を 見た3人は興奮した。3人はディスコに行ったりナンパしたりして、朝まで遊び呆けた。
インターハイが始まり、掛川高は順調に勝ち進んで準決勝に辿り着いた。試合前、準決勝の相手である掛川北高校キャプテンの斉木誠は 神谷に声を掛け、「サッカーはチームプレーだ。それをたっぷりと教えてやるぜ」と挑発的に告げた。神谷はトシから斉木のことを質問 され、同じ中学のサッカー部だったことを告げた。神谷はワンマンプレーで斉木から嫌われており、サッカー部を辞めた。そこでドイツ 帰りの久保と出会い、「まっさらな学校に入ってチームを作らないか」と誘われたのだという。
試合が始まると、掛川北は広瀬清隆のナックルシュートで2点を先制した。久保はスイーパーの位置に下がり、ゴールラインに張った。 久保が健二のフォローに回ったことで追加点は奪われずに済んだが、掛川高も得点が取れないままに前半が終了した。ハーフタイム、久保 はトシに「左を使ってみろ」と告げた。後半に入り、神谷のクロスにトシが左足のボレーで合わせて1点を返した。
ナックルシュートを防いだ久保は、そのままドリブルで11人を抜いて同点シュートを決めた。しかし直後、彼は心臓を押さえて倒れた。 神谷に抱えられた久保は、トシに「お前に左に懸かってる。自信を持て」と告げてピッチを後にした。試合終了直前、トシは右からの クロスにオーバーヘッドで合わせ、チームを勝利に導いた。試合を終えたトシたちは、顧問の磯貝先生から久保の死を告げられた。その ショックから立ち直れず、チームは決勝で藤田東に0対4の惨敗を喫した。
全国高校サッカー選手権大会に向けた練習が始まる中、チームにはブラジル帰りの馬堀圭吾が加わった。彼は「同じ練習を繰り返すのは ナンセンスだ」と言い放ち、練習メニューに従わない。トシが「このチームは久保さんが作ったチームなんだ」と言うと、馬堀は「いつ までも死んだ人間にこだわってどうすんだよ」と冷笑した。久保のことを引きずるトシは励ます一美を怒鳴り付け、彼女はマネージャーを 辞めた。トシは磯貝から「久保の遺志だ」と言われ、久保が付けていた背番号10のユニフォームを渡された…。監督は大森一樹、原作は大島司、脚本は橋本以蔵、製作は櫻井洋三&ジャニー喜多川、プロデューサーは田沢連二&椿宜和、 プロデューサー補は足立弘平、撮影監督は高間賢治、編集は池田美千子、録音は橋本泰夫、照明は上保正道、美術は 金田克美、サッカー指導は前田秀樹&成嶋徹&鬼塚忠久&大場吉之、音楽は土方隆行、音楽プロデューサーは佐々木麻美子、 エンディングテーマ「泣きたい気持ち」はSMAP、スペシャル・サッカーアドバイザーはラモス瑠偉。
出演は中居正広、木村拓哉、稲垣吾郎、森且行、草なぎ剛、香取慎吾、古尾谷雅人、野際陽子(声の出演)、水野美紀、小高恵美、 前田耕陽、堂本光一(kinki・kids)、堂本剛(kinki・kids)、ラモス瑠偉、武田修宏、藤吉信次、上田耕一、栗田よう子、東銀之助、 吉田照美、野村祐人、真瀬樹里、井ノ原快彦、星英徳(現・夏芽海)、長野博、国分博、大谷幸生、 前田秀樹、成嶋徹、永井秀明、高間晋、寺田徹、山中健二、島田広倫、大空博人、大橋孝史、浦井美弥子、田中豊、高野信治、野地将年、 三浦伸生、鏑洋高、千葉直人、谷中淳、尾崎盛幸、渡部大輔、西村健太郎、大塚裕、柏木タカシ、小田嶋学、小谷欣也ら。
週刊少年マガジンに連載された大島司の同名漫画を基にした実写映画。
アイドルグループのSMAP(まだ6人組だった時代)が初主演した作品。
原作は四部編成だが、この映画は原作の第一部が連載中に製作されている。当然、第一部以降の物語は描けない。ゆえに、トシが 高校一年の頃の物語を描く第一部の途中までをベースにしている。
監督は『ゴジラVSキングギドラ』『継承盃』の大森一樹、脚本は『スケバン刑事』『孔雀王』の橋本以蔵が担当している。
SMAPの配役は、トシが中居正広、久保が木村拓哉、馬堀が稲垣吾郎、健二が森且行、神谷が草なぎ剛、和広が香取慎吾。ジャニーズJr. (当時)の面々も何人か出演しており、井ノ原快彦が掛川高1年生FWの佐々木豊、長野が斉木を演じている。他に、磯貝を古尾谷雅人、 一美を水野美紀、美奈子を小高恵美が演じており、トシの母の声を野際陽子が担当している。出来ることならば、原作漫画を読まない状態で観賞することが望ましい。
原作を読んでいたら、「こんなのはトシじゃねえ」「こんなのは久保じゃねえ」という違和感のオンパレードで、怒りを覚えるか、脱力感 に見舞われるかのどちらかになる可能性が濃厚だ。
もしも不幸なことに、既に原作を読んでいるとしたら、それとは全く別物だと割り切る努力が必要だ。もしくは、「これは悪い夢だ」と 諦めるしかない。
っていうか、そもそも、そんな無理をしてまで本作品を見る必要は無い。
SMAPのファンでもなければ、わざわざ見る価値を見つけ出すのは難しい映画だから。SMAPが主演ということは、6人全員を主要キャストとして登場させなきゃいけない。
なので、実年齢と役柄の年齢は無視した配役になっている。
中居と木村は同い年だが1年と3年だし、森と香取は同じ1年生で、草なぎが2年生になっている。
でも、それ以前に「こいつは**じゃねえよ」というところでの引っ掛かりが大きすぎて、そこは大して気にならない。序盤、トシが水飲み場でリフティングをしてから思い切りボールを蹴り飛ばすと(そんなことしたら先輩に怒られると思うが)、ボールが 光る。
そのシーンでトシのサッカーの上手さをアピールしているつもりなら、全く不足している。
リフティングにしろボールを蹴ることにしろ、特に優れた技術というわけではない。
もちろん素人と比較すれば、リフティングを軽々とやってのけるのは優れた技術になるが、トシは「サッカー選手の中でも特に秀でた人材 」として見えなきゃダメなはずでしょ。一美がトシと会った後、次のシーンで部室にバリケードを張ってマネージャーになる要求をしているが、そんな手間を掛ける必要は 無い。まだトシのパーソナルさえマトモに紹介されていない内に、一美がマネージャーになるエピソードに時間を割くのが賢明とは 思えない。
いっそのこと、もう始まった段階でマネージャーになっていても構わないぐらいだ。なぜなら、トシと一美の恋愛劇まで手を広げる余裕は 無いからだ。
なのに、その後も恋愛劇をチョイチョイ絡めてくる。これが邪魔でしょうがないんだ。クライマックスでさえ、そこに軸足を置いた描写に なっている。
そうじゃなくて、トシと久保の関係を軸にすべきでしょうが。
だから、まず何よりも「トシが久保に魅了された」というのを最初に強くアピールすべきなんじゃないの。そして観客にとっても、久保は 神々しいぐらいの存在でなくちゃいけないはずだ。
だけど、「久保は桁違いにスゴい」というのは、映画を見ても全く感じられない。挑戦状が貼り出された時点で、原作を知らないと「なんで2年生限定で対戦を申し入れるの?3年生はどうでもいいの?」と疑問を抱く ことになるんじゃないか。
掛川高は創設2年目で3年生がいないという説明は、劇中には無かったように思うが。
あと、そこまでにトシの実力も全く説明されてないよな。
中学で県大会のベスト4に進出したことがチラッと示される程度で。掛西中トリオが久保のプレーを見て掛川高に進学したのに、なぜ健二と和広がサッカーを辞めているのかが分からない。
健二は暴走族に入り、和広は勉強に励んでいるんだけどさ、だったら掛川高に進学した意味が無いんだよな。
久保に憧れて高校に進学して、その後にサッカーを辞めるきっかけとなる何かが無いと、そこは不可解なことになってしまう。1年生と2年生の試合が始まると、まずトシがドリブルで敵を次々に抜いてシュートを打つ。次に神谷がドリブルで敵を次々に抜いて シュートを打つ。
どっちも同じことをやっている。
で、今度は「トシがドリブルで次々に抜くが神谷が止める。神谷がドリブルするとトシが戻ってボールを奪う。今度はトシがドリブルを 仕掛け、神谷が戻ってボールを奪う」という繰り返しになる。
そこにバカバカしさしか感じない。
サッカーって、1対1だけで成立してるスポーツじゃないのでね。1年生と2年生の試合が終わるまで、久保は回想シーンでチラッと登場しただけ。
なので、なぜ久保が神格化されているのか、それが全く伝わらない。
ようやく練習に現れ、それを見たトシたちが圧倒されるが、こっちは「それほどでもないだろ」という感想しか浮かばない。
1年対2年の試合と同様、相変わらず「優れたプレー」はドリブル突破からのシュートだけで表現されているし。
それに、ボールタッチもトシや神谷と大して変わらないし。っていうか、トシにしろ健二にしろ和広にしろ、どこがどんな風に優れた選手なのかがサッパリ分からない。
原作だと、トシは右足のパワーシュート、和広はテクニカルなプレーといった特徴があるんだが、映画ではプレースタイルの違いが全く 描き分けされていない。
久保がトシに「右より左の方が強いシュートが打てるはず」と言うけど、そもそもトシが右のパワーシュートを得意にしていることが全く 表現されていないんだよね。
あと、そこで久保が「トシ、サッカー、好きか?」と原作では重要な意味を持っているセリフを言うけど、全く決まらない。「これが重要 な意味を持つセリフですよ」というのをムリヤリにアピールしようとして、上滑りしているという印象。掛西中トリオが国立競技場に行ったり東京で遊び呆けたりするシーンは、完全に時間の無駄遣い。
まだ国立競技場はJリーガーの出演という意味があるにしても、遊ぶシーンは何のために入れたのかサッパリ分からん。
で、そこで時間を無駄遣いして、インターハイは準決勝までをバッサリと省略してしまう。
そうじゃなくて、掛西中トリオが加わって久保も復帰した新チームがどれほどのモノなのか、それをお披露目するための試合が必要でしょ 。そのために1回戦でも練習試合でもいいから、1つ試合を挟むべきだ。掛川北との試合前、広瀬が野球のボールでリフティングする様子を見た和広が健二に「あいつ、すげえぞ」と言っているが、それほどでも ないでしょ。
いや、「ワシでも出来る」という意味じゃないよ。
ただ、トシのリフティングの時と同じで、「素人から見ればスゴいけど」というモノだ。
なぜ普通にリフティングをしているだけで、「すごい選手」ということにしてしまうんだろうか。斉木は試合前に「サッカーはチームプレーだ。それをたっぷりと教えてやる」と言い放つが、試合が始まるとナックルシュートという広瀬 の個人技だけに頼っている。
一方、久保からハーフタイムに「左を使ってみろ」と言われたトシは「いや、左はまだ」とためらうが、いざシュートが打てる体勢に 入ったら、ホントは左も右も無いはずなんだよね。
利き足はあってもいいけど、左でシュートできるチャンスに、わざわざ右に持ち替えていたらタイミングが遅れるからね。
左しか使わないって、マラドーナじゃないんだし。
いや、そりゃあ物語として、そこで左に固執するのは分かるんだけどさ。ゴールラインでナックルシュートを防いだ久保が、そのままドリブルで11人を抜いてシュートを決めるシーンは、冷静に考えると「バカ」 の一言だよな。
たまたま全員を抜けたからいいけど、自陣のゴール近くで相手がいるのに全てドリブルでかわそうとするなんて、リスクが 大きすぎるもんな。
ゴール前まで行ってシュートを打つにしても、味方の誰かにボールを預けてオーバーラップし、パスを受けるという形の方が、絶対に いいと思うぞ。
まあ、それを言い出すと、原作をバカにすることになって来るんだけどさ。詰め込みすぎは明らかで、特に後半に入ってからは、「美奈子がトシを久保の代わりにしようとする」「トシと一美のケンカと仲直り」 「久保を引きずるトシの反抗期と立ち直り」「チームから浮いていた馬堀が馴染む」など、色々な要素を持ち込みすぎて、どれもマトモに 処理できないまま終わっている。
とりあえず、恋愛関連と馬堀の途中加入はバッサリと削ぎ落とすべきだったな。
クライマックスは高校サッカー選手権大会予選の藤田東との試合だが、途中でトシが駅から会場に駆け付けると、健二と和広が近寄って 話し始める。
試合中なのに、タッチライン沿いで長々と喋り続ける様子は、アホにしか見えない。そもそも、ユニフォームも着ていないトシがタッチ ラインまで近付いたら審判に注意されるだろ、普通は。
あと、幾らなんでも観客席がガラガラすぎるぞ。県大会にしても、サッカー王国の静岡県でしょ。もうちょっと観客がいてもいいんじゃ ないのか。そもそもサッカーというのは、映画で扱うには難しいスポーツだと私は思っている。
理由は、サッカーは選手全員が常に常に動き続けるスポーツだからだ。
映画でスポーツを題材に取り上げる場合、「静と動」のコントラストがあるモノの方が撮りやすいのではないか。
具体的に挙げると、野球やアメフトは向いていて、サッカーやラグビーは難しいと思う。
だから「サッカー映画の傑作」と呼ばれるような作品には、お目に掛かったことが無い。
『勝利への脱出』はサッカーを扱っているが、あれは「脱走」という要素が絡んでいるし、そもそも傑作だとも思わないし。(観賞日:2010年1月12日)