『神秘の法』:2012、日本

21世紀、経済的・軍事的に世界一の超大国となった東アジア共和国内部でクーデターが発生した。軍部出身のタターガタ・キラーが皇帝に就任し、帝国ゴドムが誕生した。帝国内では情報が完全にコントロールされ、国民は世界統一の理想を掲げる皇帝を熱狂的に迎え入れた。かつて超大国だったアメリカ合衆国は既に弱体化しており、国連も固唾を飲んで見守るしか無かった。西暦202X年、出雲。修学旅行に来ていた高校生たちと引率の教師は、海中から突如として浮上する複数の潜水艦を目撃した。生徒たちがネットにアップした画像は、サーバーを監視していたゴドムによって瞬時に削除された。
潜水艦は超音波にも全く反応せず、自衛隊もアメリカ合衆国も気付いていない。秘密技術をゴドムに持ち込んだのは、貿易会社の女社長を務める張麗華だ。潜水艦の構造は技術チームだけの極秘事項で、幹部にさえ知らされていない。ゴドムは南台の首都である望北市に軍事侵攻し、ニュース番組のクルーによる取材を中止させた。わずか3日で、ゴドムは南台を制圧した。地球医師団の獅子丸翔やジュリアたちは国際協定に基づいて南台に入り、怪我人の救助活動に当たる。ただし、ゴドム兵が厳しく監視の目を光らせており、浦野チーフは翔たちに「おそらく一両日中にも退去を命じられるだろう」と言う。
地球医師団は表向きの看板であり、その正体は国際秘密結社「ヘルメス・ウィングス」だった。視察に訪れている最高責任者のジェネラルを目にした翔の脳裏に、彼が発砲を受ける映像が飛び込んで来た。ジェネラルと握手を交わした翔は、「このままでは日本も1週間以内に占領されるでしょう」と告げるが、自分の見た映像については言わなかった。ゴドムの潜水艦は、日本の領海でアメリカ軍空母を撃沈した。緊急閣僚会議を開いていた日本の閣僚は愕然とするが、何も動くことが出来なかった。
特殊な大陸間弾道ミサイル300本の発射準備が整っているというゴドムからの警告を受けたアメリカのトムバックス大統領は、大勢の犠牲が出るという予測を聞かされ、報復措置を断念した。ジェネラルはタターガタ・キラーの正体を探らせていたが、全く情報が掴めなかった。18ヶ国がゴドムへの従属を表明する中、ゴドム指令本部では「問題はアメリカとロシア、インド」という意見が幹部から出た。しかし最終破壊兵器の完成は近付いており、それがあればゴドムに反抗できる国は無くなるという自信をキラーは持っていた。
最終破壊兵器とは分かりやすく言えば、摂氏6兆度の火の玉を作り出して敵国に投げ込むような爆弾のことである。その気になれば、大陸を丸ごと消してしまうことも出来る。その存在を初めて知った麗華は、動揺を隠せなかった。「それを使えば、やがて地球は誰も住めない星になってしまう。地球を滅ぼすつもりですか」と麗華は言うが、キラーは笑っって「ほんの少し実験してみせるだけだ。これは君たちの願いと矛盾することではあるまい」と述べた。
翔たちは気概のある保守派の政治家をゴドムの刺客から警護しながら、車で移動する。翔は予知能力で敵の動きを読み、待ち伏せしている道路を回避した。ゴドムはヘルメス・ウィングスが動き回っているという情報を入手し、キラーは「邪魔者は許すな」と幹部に指示した。ヘルメス・ウィングスは事前に警備を強化していたが、世界中の拠点が次々に襲撃を受けた。東京支部の翔たちの元にジェネラルが現れ、内部にスパイがいる可能性が高いことを告げた。
ジェネラルは「私に何かあっても希望の灯を消してはならない」と言い、翔を次期総督に指名した。困惑する翔に、ジェネラルは「世界の希望の光になってほしい」と述べた。ジェネラルは翔に、「代々、引き継がれているミッションがある。聖なる印を探すのだ。救世主の印とも呼ばれている。それが世界を救う鍵になる。どうやら南米のチチカカ湖に沈んでいる古代インカの遺跡にあるらしい」と話す。
ゴドムの特殊部隊が東京支部を襲撃したため、翔たちはジェネラルを連れて逃亡する。しかし裏切り者だった浦野がジェネラルを銃殺し、翔も始末しようとする。そこへインドから来た僧侶が駆け付け、催涙ガスを使って翔を救出した。長老のダラニは翔を見つめ、「2500年間、貴方を待ち続けていた」と言う。後継者のボーディは、「仏陀が再び生まれると言う予言を信じて、待ち続けていた」と話す。
ダラニは「貴方が再誕の仏陀なのです」と言い、最近になって発見された伝説の壺を見せる。オーパーツである壺の中には、翔が仏陀の再誕であることを示す預言書が入っていた。「仏陀とか、救世主とか、僕にはサッパリ分からない」と翔が言うと、ダラニは「仏陀とは、悟りを開かれた者。この世とあの世の真実を悟り、人々を心の教えで幸福へと導かれる御存在。救世主とは、文明の危機の時代に現れ、人々を救い、新たな時代を切り開かれる御存在。貴方は仏陀と救世主の両者を併せ持つ存在と予言されている」と語った。
翔は「仏陀とか救世主とか、突飛すぎますよ」と戸惑っていると、ダラニは「現代人がどれだけ真実を知っているというのか。自分が何者であり、何のために生まれ、何のために生きて行くのか。自分自身のことさえ何も分かっていないというのに。それを自分自身で知ろうとせずして、誰が教えてくれるというのか」と語り、『八正道』という書物を差し出した。ダラニは「仏陀が残された人類最大の遺産だ。本当の自分を知るための秘宝でもある」と説明する。
徳島を訪れた翔は、大きな木の下で座禅を組んだ。すると彼の脳内に、未来の映像が飛び込んで来た。奈良の甘橿丘へ出掛けた彼は、桜の木に囲まれて座禅を組んだ。すると彼の前に、木花咲耶姫の霊が出現した。木花咲耶姫は翔に、「霊こそが人間の本質」「霊界は広く、幾重にも重なり合っている」「究極の高次元に救世主が住んでいる」「救世主が立てば悪魔も立つ」「悪魔は地上にも現れ、人々を自由に操ろうとしている」などと語った。
「真実を知らせるべき宗教がその役割を果たせないでいる。だからこそ真実を伝える救世主が必要」と語る木花咲耶姫に、翔は「未来を変えることは出来ないのでしょうか」と問い掛ける。木花咲耶姫は「一つ言えることは、何もしなければ何も変わらないということです」と告げ、姿を消した。一方、麗華はキラーに計画の中止を訴えるが、相手にされなかった。するとキラーは特殊なパワーを使って彼女の首を締め、「私に逆らう者を、この地球上に存在させておくわけにはいかない」と告げて服従を要求した。すると麗華も特殊なパワーで対抗し、その場を去った。
日本海遠洋を帝国ゴドムの第三艦隊が進む中、政府緊急対策本部はアメリカが安保条約の破棄を通達して来たという報告を受けた。首相が迎撃の許可を出さなかったため、小松基地から離陸した自衛隊の戦闘機は次々に撃墜された。木花咲耶姫は雲を操り、ゴドムの戦闘機の上陸を妨害した。キラーは対空ミサイルを発射させるが、全艦隊が謎の雲に包まれる。激昂したキラーは、海に巨大な竜を出現させた。雲はヤマタノオロチに変身し、その竜に対抗した。
ヘリコプターで出雲へ降り立った翔は、人々にゴドムの侵攻を知らせて避難するよう訴える。ゴドム軍の上陸を察知した木花咲耶姫がヤマタノオロチを呼び戻すと、キラーは竜を消した。ゴドム軍が人々を連れ出す中、翔は予知に現れた少年を目撃した。翔は少年の元へ走り、彼が撃たれるのを防いだ。丘へ移動した翔が「やっぱり侵略は止められなかった」と漏らすと、木花咲耶姫は「貴方が諦めれば、希望は消えます。貴方だけが、希望の光なのです」と述べた。
ゴドムは日本の各地に侵攻し、5ヶ月後には国名を極東自治区と改称した。改めて座禅を組んだ翔は、自らの前世である古代インカの王、リエント・アール・クラウドと出会った。翔が「どうすれば世界は滅亡せずに済むのでしょうか」と尋ねると、彼は「それは貴方と地球人類の愛と寛容さに懸かっている。この言葉の真なる意味を人類が悟った時、新たな時代の扉が開かれるであろう」と述べた。リエント・アール・クラウドは翔に秘儀を授け、「明日の夜、この場にて行ずるが良い」と告げて姿を消した。
翌日、翔はヘルメス・ウィングスのメンバーから、チチカカ湖の湖底で救世主の印が発見されたとの報告を受けた。その杖の映像を見た翔は、リエント・アール・クラウドが出現させた物と同一であることに気付いた。その夜、翔が木の下で行じると、金星人のユチカがやって来て「貴方はUFOを呼び寄せる秘儀を行じた。だから来たのです」と告げた。ユチカは翔に、ゴドムが宇宙人の力を使っていることを教えた。さらに彼は、かつて自分が金星で翔に仕えていたことを語った。
ユチカは「帝国ゴドムへ参りましょう。そこに鍵を握る女性がいるのです」と言い、翔をUFOに乗せた。翔は麗華の前に現れ、彼女が宇宙人であることを見抜いた。麗華が攻撃的な態度を取ると、翔は天使たちを召喚して特殊なパワーを披露した。翔は「ゴドムが世界を支配すれば全人類が不幸になる」と言い、協力する理由を尋ねた。すると麗華は「私の本当の名前はシータ。貴方たちが琴座のベガと呼ぶ惑星から来ました」と話す。
ベガは平和な星だったが、琴座には高度な文明を持つ他の国が2つあった。三つ巴の戦いが始まり、ベガの王であったシータの父は平和のために尽くした。だが、強力な破壊兵器が惑星の地殻にまで影響を与えたため、人々は地下に逃れて生き延びた。シータと父は別の星への移住を決意し、リエント・アール・クラウドの許可を貰った。中国人貿易商として地球での生活を始めたシータは、3年ほど前に初めてキラーと出会った。キラーはシータが宇宙人だと見抜き、地球へ来た目的を尋ねた。キラーはシータと、「ベガ星人の技術を使って世界を統一する代わりに、移住の地としてアフリカ大陸を提供する」という取引を交わした。
シータは翔に、「彼は変わってしまいました。まるで何かに取り憑かれたように。今では、ベガで使われた最終破壊兵器まで完成させようとしています」と語る。翔は人間や地球への愛を語り、シータは「私たちも本物の地球人になろう」と考える。木の下で座禅を組んだ翔は、レプタリアンと呼ばれる宇宙人の陰謀を知った。その星に住む物が自ら文明を破壊しようとする時、そこに介入することは宇宙協定に違反しない。そこでレプタリアンはキラーに最終破壊兵器を使わせ、地球を支配して人間を食糧にしようと目論んでいたのだ…。

監督は今掛勇、原案は大川隆法、原作は『神秘の法』、脚本は「神秘の法」シナリオプロジェクト、製作総指揮は大川隆法、総合プロデューサーは本地川瑞祥&松本弘司、総合プロデューサー補は三宅亮暢&伊藤徳彦、キャラクター・デザインは佐藤陵&須田正己、美術監督は川口正明、VFXクリエイティブ・ディレクターは粟屋友美子、色彩設計は野地弘納、撮影監督は原田勉之、3D撮影監督は呉新、アニメーション・プロデューサーは守屋昌治&石山タカ明&植田基生、音楽は水澤有一。
テーマ・ソング「It's a Miracle World」 作詞・作曲:大川隆法(霊示:リエント・アール・クラウド)、編曲:水澤有一、歌:CORUSPICE。
イメージ・ソング「木花開耶姫のテーマ」作詞・作曲:大川隆法(神示:木花開耶姫)、編曲:水澤有一、歌:日比野景。
声の出演は子安武人、藤村歩、平川大輔、柚木涼香、三木眞一郎、家中宏、土田大、雪野五月、銀河万丈、清川元夢、川島得愛、堀内賢雄、宗矢樹頼、真山亜子、宮林康、高瀬右光、伊藤美紀、金光宣明、荻野晴朗、浜田賢二、平野俊隆、酒巻光宏、ジェーニャ、林和良、倉持竜也、後藤秀人、新田英人、沢井エリカ、槙口みき、庄子裕衣、竹内想、斎藤楓子ら。


幸福の科学グループの大川隆法総裁による同名著書を基にした長編アニメーション映画。
幸福の科学は1994年から映画製作に乗り出しているが、特に2012年は「映画に力を入れよう」と考えたのか、実写映画の『ファイナル・ジャッジメント』と本作品の2本を公開している。
監督は『太陽の法 エル・カンターレへの道』『永遠の法 The Laws of Eternity』の今掛勇。
翔の声を子安武人、麗華を藤村歩、キラーを平川大輔、木花開耶姫を柚木涼香、ユチカを三木眞一郎、ジェネラルを家中宏、浦野を土田大、ジュリアを雪野五月が担当している。

やってることの大枠は『仏陀再誕』と『ファイナル・ジャッジメント』の焼き直しで、そこに大川隆法先生の宇宙人に関する妄想、じゃなかった自説を盛り込んでいる。
『ファイナル・ジャッジメント』と大まかな筋書きが一緒なので、続けて観賞すると「つまらない」という印象に拍車が掛かること請け合いだ。
まあ幸福の科学の信者でもなければ、その2本を立て続けに観賞しようと思うような奇特な人はいないだろうが。

同じプロットの実写映画とアニメ映画を同じ年に作るぐらいなら、1本に集中した方が良かったんじゃないのかと思ったりもするんだが、そこは何かしらの事情が絡んでいるのかもしれない。
それに関して少し気になったのは、この映画にアニオタである大川総裁の長男・大川宏洋が関わっていないこと。
『ファイナル・ジャッジメント』では企画を担当しているのに、アニメ映画の方に参加しないってのは、何かあるのかなと。
こっちは大川総裁の宇宙人論が色濃いので、それが関係していたりするのかなと。

『ファイナル・ジャッジメント』と同様、今回も地球レベルにおける「世界一を牛耳る悪の巨大国家」とされているのは、大川総裁が忌み嫌う中国だ。
モデルが中国なので、『ファイナル・ジャッジメント』のオウラン国と同様、帝国ゴドムも「軍事的な独裁国家」「厳しい言論統制」「宗教は全面的に禁止」という設定だ。
また、「アメリカ合衆国も国連も、中国の横暴を傍観しているだけで手を出さない」というのも『ファイナル・ジャッジメント』と同じ。
ただし『ファイナル・ジャッジメント』は「なぜ手出ししないのか」という部分に何の説明も無かったが、こちらは「アメリカは弱体化しており、しかも脅しを受ける」という言い訳が用意されている。

自衛隊が全く応戦しない内に、日本が中国に支配されるってのも『ファイナル・ジャッジメント』と同じだ。
ただし、『ファイナル・ジャッジメント』では「なんで自衛隊が動かない内に中国の航空部隊が渋谷へ飛来し、無抵抗で占領されるんだよ」というところに大きな穴があったが、今回は一応、「宇宙人の技術と悪魔のパワーがあるから圧倒できる」という言い訳が用意されている。高校生たちが潜水艦を撮ってネットにアップしても、宇宙人の技術でサーバーを監視しているので瞬時に消去してしまい、情報漏れを防ぐというわけだ。
細かいことを指摘するなら、「超音波に反応しなくてもソナーは感知されるんじゃねえか?」とか「すぐに消去しても、一度はアップされているんだから誰かの目に留まるんじゃないか?」という疑問は残るが、そこも「宇宙人の特殊な技術で情報漏れは防がれている」と解釈すれば終わりだ。
また、今回は「自衛隊の戦闘機が出動するけど、ヘタレな首相が何もしなかったので撃墜される」という描写も入れてある。
その辺りは、『ファイナル・ジャッジメント』よりも真っ当になっている。

ただし真っ当になっているということは、裏を返すと「バカ映画としての面白味は薄くなっている」ということでもある。
幸福の科学出版の映画って、信者以外の人からすると「基本的にはバカ映画として観賞すべき」というシロモノなので、真っ当になるのが全面的に良いことだとは言い切れない。それで「ちゃんとした映画として傑作」と言える作品が生まれるのならともかく、その可能性は著しく低いわけで。
だから、幸福の科学出版がツッコミ所を全て解消してキレイに整った映画を作った場合、「単純につまらないだけの映画」になってしまう恐れがあるんだよな。
幸いなことに、この映画は他の部分で色々とツッコミ所を用意してくれているけど。

緊急閣僚会議で「ゴドムとアメリカが全面戦争になったら日本はどうなる?」という声が上がると、議員の一人が「御存知とは思いますが、日本は何も出来ませんよ。憲法9条によって事実上、国民の命さえ守ることが出来ないようになっているんですから」と言う。
「それは言い過ぎだろ」と思うかもしれないが、大川総裁は憲法9条を変えたがっている右曲がりのダンディーなので、ここも『ファイナル・ジャッジメント』と同様、「何もかも憲法9条が悪いんや」という主張を声高に訴える形になっている。
ずっと弱腰で撃墜許可も出さない日本政府や首相が徹底的に批判されているのも、大川総裁や幸福実現党のスタンスを示す描写だ。
ただし、凡庸な改憲論者や右翼思想の人々と大川総裁が大きく異なるのは、「日本を中国の攻撃から守るためには憲法9条を改正して、戦えるようにすべきだ」と訴えていながら、じゃあ本作品では実際に中国の侵略に対して武力で立ち向かうのかというと、そんな内容には仕上げないってことだ。
「仏陀の再誕である救世主が現れ、神秘のパワーで全てを解決する。それが大川隆法」というのが、大川総裁の考えなのだ。

ようするに、大川総裁の考えに基づくならば、「仏陀の再誕である大川隆法が救世主として日本を救うので、敵国から攻撃されたとしても、政府が武力で立ち向かわなくても大丈夫」ということになる。
ここで賢明な人なら、「困った時に救世主が現れて日本を救ってくれると信じているのなら、憲法9条の改正に固執する必要も無いんじゃないの?」という疑問が湧くかもしれない。
でも、「それはそれ、これはこれ」なのだ。
宗教団体である幸福の科学の教えと、政党である幸福実現党の政策は、ちょっと違う部分がある。
それを同じ映画でゴチャ混ぜにしているもんだから、そういう整合性の取れないことが起きてしまっているのだ。

翔はジェネラルが撃たれる出来事を予知したのに、なぜ知らせないのか。
「突如として脳内に映像が飛び込んでくる」という体験が初めてであり、自分でも何が起きたのか良く分からないということなら、仕方が無い。でも、以前から何度も経験しており、チームの仲間も翔の予知能力を知っていて、それが仕事で使われているという設定なのよ。
だったら、ジェネラルに知らせない理由が見当たらないぞ。せめてチームの仲間には伝えるべきだろ。
ジェネラルが撃たれても構わないってことなのかよ。

翔は『八正道』という書物を読み(読んでいるシーンは無いが、ダラニから渡された後、たぶん熟読したものと思われる)、大きな木の下で座禅を組む。
それは『ファイナル・ジャッジメント』の主人公と全く同じだ。
『ファイナル・ジャッジメント』での座禅は1度だけだったが、今回は1度目に侵略を予知し、2度目に木花咲耶姫の霊と会い、3度目に悟りを開く。
ただし、1度が3度になったことが映画の面白さに繋がっているのかと問われたら、答えはノーだ。
むしろ座禅を組んで問答するシーンって、普通の映画としては退屈なだけだ。

そもそも、この映画は「中国の脅威を訴えて憲法9条の改正を主張する」という幸福実現党のプロパガンダと、「仏陀の再誕である救世主こそが大川隆法である」という幸福の科学のプロバガンダを両方ともやろうとして、上手く融合させられずに消化不良を起こしている。
さらには、いつの頃からか大川隆法がハマってしまった宇宙人論まで盛り込んでしまったせいで、話が散らかってしまっている。
まあ、「今までの幸福の科学出版の映画は話がまとまっていたのかよ」と問われたら、そんなことは無かったけどね。

ユチカは翔の前に現れると、「貴方はUFOを呼び寄せる秘儀を行じた」と説明する。
でも、UFOってのは未確認飛行物体を示す言葉であり、決して「宇宙人の乗り物」を示す言葉ではない。だから、金星からやって来た宇宙人が、自分の使っている乗り物のことをUFOと呼ぶのは筋が通らない。
ただし、そもそも宇宙人を絡めている時点で筋が通るもへったくれもあったもんじゃないので、そういう細かいことは気にしちゃいけないんだろう。
そんなことを気にしていたら、大川総裁の宇宙人論なんて聞いちゃいられないしね。

シータはベガの人間だったことを翔に明かし、地球に移住して来たことを語る。
そこでは地球への移住方法について「私は宇宙船に乗ってやって来ましたが、それ以外にも魂として地球霊界へ移動して来た者たちもおります。地球霊界において許可を得ることが出来れば、人間の女性の体内に宿り、地球人として産まれて来ることが出来るのです」だの、「許可を得られない魂がウォークインすることもあります。人間の肉体に魂を同居させてもらい、地球での暮らし方を学ぶのです」だの、「ベガ星人の中には姿形を自由に変える能力を持つ者もいます」だのと説明する。
そこまで丁寧な説明なんて、全く必要が無い。
だが、「やたらと説法したがる」というのは幸福の科学出版の映画の悪癖なのだ。
だからシータの話を聞いた翔も、負けじと説法を開始する。
「君が故郷の星の人々を限りなく愛しているのは分かる。だけど、僕もこの地球の人々を限りなく愛している。確かに人間は愚かなこともする。自分のことばかり考えて失敗もする。何度も何度も同じ過ちを繰り返す。人間同士が憎しみ合ったりもする。でも、それでも僕はそんな人たちを愛している。この地球という星に暮らしている仲間だ。この星は限りなく美しい。それは限りない愛に包まれているからだ。様々な肌の色、宗教、文化や価値観、その中で人々は転生輪廻しながら経験を積み、魂を成長させながら生き続けている。そんな魂たちを乗せて、この地球は宇宙の中で青く輝いている。だから、愛さずにはいられないんだ。この星に住む人々を、この青い星、地球を」と、まるで聞かれていないことをベラベラと喋る。

「仏陀の再誕である救世主が行動を起こすと、すぐに世界中の人々が呼応して立ち上がる」というのも、『ファイナル・ジャッジメント』と同じだ。
幸福の科学出版の映画では、世界中の人々は救世主の説法を全く疑わずに受け入れ、彼を信奉するのだ。
そこには宗教の差も存在しない。
なぜなら、仏陀の再誕である大川総裁は、あらゆる宗教を統一することの出来る全世界の救世主だからだ。つまり、幸福の科学こそが、他の全ての宗教を超越した宗教だということだ。
だから全世界の人々が幸福の科学を信仰すれば、救世主である大川総裁が我々を救ってくれるのだ。

最終破壊兵器を壊すためにゴドムへ潜入した翔は、タターガタ・キラーによって十字架に磔にされる。翔は公開処刑されるが、すぐに復活する。
翔は、つまり大川総裁は仏陀の再誕だが、それだけでなくキリストの再来でもあるのだ。
復活する直前、ムー大陸の王であるラ・ムー、アトランティス大陸の指導者であるトス、古代インカの王であるリエント・アール・クラウド、エジプトの神であるオフェリアス、ギリシアの神であるヘルメス、そしてゴーダマ・シッダールタ(釈迦)が現れるが、それは全て翔の前世という設定だ。
ちなみに、それは全て大川総裁の前世でもある。
こちらは「設定」ではなく、幸福の科学の教義における「真実」だ。

エル・カンターレとなった翔とタターガタ・キラーは、それぞれに安い3DCGで描かれた軍団を出現させてバトルを開始する。
そこを3DCGにする必要性があるのかと問われたら全く無いのだが、たぶん使いたかったんだろう。
ただ、竜とヤマタノオロチもCGで描写されているのだが、なぜか軍団だけ明らかに質が落ちるんだよな。
で、キラーが竜を出現させると、木花咲耶姫は富士山を噴火させてヤマタノオロチを呼び寄せる。富士山が噴火するってことは日本は大きな被害を受けるのだが、そんなことはお構い無しなのね。

タターガタ・キラーに憑依したレプタリアンは最終破壊兵器を起動させるが、目論みが外れ、地球の意識が浄化のために動き出して地震や洪水を起こす。
すると翔は落ち着き払って「人類は罪を犯した。その罪とは、信仰薄き罪だ。人は目に見える物が全てだと思い込み、大切な物を見失った。その罪ゆえに、地球は今、危機を迎えている。今、この地球を救えるのは軍事力でもない。経済力でもない。この地球を変えることが出来るのは、地球に住む人間一人一人の心なのだ。一人一人の、目に見えない物を信じる心が必要なのだ。私の言葉を信じてほしい。信じるならば、共に祈って欲しい。地球と、地球に住む全ての人々のために」と訴えて手を合わせる。
また説法である。

世界中の人々は翔を崇拝しているので、素直に祈りを捧げる。
翔は救世主の印である杖を構え、「愛と、知と、反省と、発展の、光よ」と叫ぶ。
すると世界中の光が翔の元へ集まり、地球に平和が戻る。
しばらくは世界中の人々に喜んだり安堵したりする時間を与えてやればいいものを、翔は話し足りなかったらしく、すぐに「この世界は目に見える世界だけではない。我々が住む世界は神秘の世界なのだ。目に見えないが、霊界は確かにあり、神々も、天使も、悪魔も、確かに存在する。また、他の惑星に住む者たちは、この惑星に行き来している。それらが一体となって、この世界が出来ている。それが真実だ」と説法する。

なおも翔のお喋りは続き、「私たち人間は何度も何度も生まれ変わりながら、様々な時代、様々な地に転生輪廻している仲間なのだ。それにも関わらず、なぜ人と人とが憎しみ合う?なぜ民族を超えて愛し合うことが出来ない?国籍や宗教の違いで争うことは、前世において愛した祖国や、かつての家族、友人たちと争っているということかもしれない。愛し合うべき者たちと、なぜ争うのだ。あらゆる人間は等しく尊い。全ての人間は神の子であるからだ。それこそが民主主義の原点なのだ」と説法する。
どうやら大川総裁の中では、我々のような凡人とは民主主義の概念が大きく異なっているらしい。
凡人を超越した感覚の持ち主なので、大勢の犠牲を出す原因を作ったキラーとシータを断罪することもなく、あっさりと許してしまうのであった。

(観賞日:2014年7月8日)

 

*ポンコツ映画愛護協会