『死に花』:2004、日本

東京都多摩市黒川にある「ハートフルケアライフ らくらく長寿園」は、入居一時金9000万から2億、月々の経費が25万という高級有料 ホームだ。そんな老人ホームに住む80歳の源田金蔵は、仲の良い73歳の菊島真、72歳の伊能幸太郎、78歳の穴池好男、73歳の庄司勝平を 集め、オーダーメイドで用意した自分の棺桶を見せた。源田は彼らに、葬式は全て自分で演出するつもりだと明るく語った。
らくらく長寿園に新人ヘルパーの井上和子が初出勤した日、99歳を迎えた青木六三郎の白寿を祝うパーティーが催された。会場には菊島や 伊能たちの他に、64歳の未亡人・明日香鈴子、源田の恋人・遠山貞子、赤星周次郎と静江夫妻、鴨下太一と光代夫妻といった入居者たちが 集まった。和子は職員のの梅岡千香子や月村俊介たちと共に、準備を進める。女好きの穴池は和子に目を付け、偶然を装って尻を触った。 事務長の阿保親雄が挨拶し、青木が登場した。源田は菊島に、青木が家族全員を亡くしていることを話した。
数日後、源田が亡くなり、メモリアルアーティスト社の代表者・黒井順一と女性スタッフが老人ホームへやって来た。源田は生前、葬儀の 計画を黒井の会社に託してあったのだ。葬儀は宴会のような形で始まり、モニターに写った源田が挨拶をする。彼の紹介で、学生時代の バンド仲間がジャズを演奏した。源田の呼び掛けにより、そこはダンス・パーティーの会場になった。菊島は会場の外で呆然と座っている 貞子を見つけ、ダンスに誘った。
葬儀が終わり、棺桶に入った源田は火葬場へと送られた。しかし焼き上がった遺体を確認に来た職員は、遺骨が2つあることに仰天した。 貞子が大量の睡眠薬を飲み、棺桶に潜り込んでいたのだ。菊島は鈴子に、形見分けとして源田から日記を貰ったことを話す。穴池は菊島に 、葬儀の後は女を口説くチャンスだと持ち掛けた。菊島は鈴子と話し、「これから、どう生きたいですか」と尋ねた。鈴子は「私たち、 もう一花も二花も咲かせなければいけないんじゃないでしょうか」と言い、菊島を温泉旅行に誘った。
菊島は鈴子と共に温泉へ出掛けるが、彼女を抱こうとしても勃起しなかった。翌朝、菊島は源田から託された「死に花」というノートを 鈴子に渡し、先に老人ホームへ帰らせた。菊島が老人ホームへ戻ると、伊能、穴池、庄司が集まってサクランボ銀行への強盗計画について 話し合っていた。それは源田のノートに記されていた計画だ。鈴子は彼らにノートを見せてしまったのだ。伊能たちは、意欲満々という 様子だった。そこに現れた鈴子は、面白そうだったからノートを見せたのだと、あっけらかんとした態度で言う。
菊島、伊能、穴池、庄司の4人は、サクランボ銀行西永代支店の下見に出掛けた。彼らはウォータージェットで壁に穴を開け、トンネルを 掘って金を盗む計画を立てた。ウォータージェットの購入に必要な資金は、元映画プロデューサーの菊島が支払うことにした。かつて制作 が中止になった映画があり、そのための金を使うと彼は言う。伊能は銀行強盗に必要な文献を集めるため、図書館を訪れた。女性係員に 「銀行強盗でもするつもりですか」と冗談を言われ、彼は狼狽した。
菊島たちは穴を掘り始める位置を決めるため、測量を装って支店の近くへ赴いた。すると、川べりにはホームレスの小屋があり、それが 障害になることが判明した。伊能はホームレスの先山六兵衛と交渉し、計画への参加を持ち掛けた。すると先山は、桃の缶詰めと引き換え に承諾した。穴池がウォータージェットを使おうとすると、水圧で吹き飛ばされた。すると先山は「昔は水道屋に勤めていた」と言い、 ウォータージェットを軽々と使いこなした。
トンネルを掘る作業を進める中、想定外の事態が発生した。サクランボ銀行がセントラル・アーバン銀行と統合することになったのだ。 菊島たちが支店へ行くと、そこには「合併に伴い 10月31日(金)を営業最終日とし 閉鎖致します。」と書かれた貼り紙があった。あと 1ヶ月で、支店は閉鎖されてしまう。その前に菊島たちは、計画を遂行する必要があるのだ。スケジュールに狂いが生じた菊島たちは作業 を急ぎ、老人ホームでは疲労困憊の状態となった。
ある日、恋人と喧嘩別れした和子は、弁当を持った穴池が歩いて行くのを目撃した。不審に思って後を追い掛けた和子は、トンネルを発見 した。中に入った和子は、生き埋めになっている穴池を発見した。慌てて人工呼吸すると、意識を取り戻した穴池は舌を入れて来た。和子 は慌てて突き飛ばし、事情説明を求めた。誤魔化そうとする穴池だが、和子に「舌を入れたことを事務長に報告する」と脅され、計画の ことを明かした。すると和子は興奮した様子で、「すげえな、年寄りって」と口にした。
翌日、菊島がトンネルを掘っていると、側面が崩れて空洞が出現した。そこで彼は、4体の白骨と少女を模した人形、それに古い家族写真 を発見した。不鮮明な写真を見せられた伊能は、修復する技術があることを語る。鈴子と和子も加わって作業は進められ、ついにトンネル は支店の床下にまで到達する。いよいよ銀行への侵入が翌日に決まり、菊島たちは浮かれた気分で老人ホームへ戻る。だが、天候の変化に 気付いた菊島は、台風が迫っているのではないかと不安にかられた…。

監督は犬童一心、原作は太田蘭三(角川書店刊)、脚本は小林弘利&犬童一心、製作は横溝重雄&大里洋吉&早河洋、企画は遠藤茂行& 宮下昌幸&木村純一、プロデュースは伊藤満、プロデューサーは木村立哉&橘田寿宏&福吉健&松田康史、音楽プロデューサーは北神行雄 &安東義史、アソシエイトプロデューサーは久保田修&西口なおみ、撮影は栢野直樹、照明は磯野雅宏、美術は磯田典宏、録音は浦田和治 、編集は阿部亙英、イラストは水口理恵子、音楽は周防義和。
主題歌:元ちとせ「精霊〜nomad version〜」作詞:HUSSY_R、作曲:間宮工、編曲:Dr.KyOn。
出演は山崎努、宇津井健、青島幸男、谷啓、長門勇、藤岡琢也、森繁久彌、松原智恵子、星野真里、加藤治子、小林亜星、吉村実子、 白川和子、岩松了、土屋久美子、ミッキー カーチス、高橋昌也、鳥羽潤、戸田菜穂、大和田獏、依田司、大石美佳、大下容子、中森祥文、 中村靖日、佐藤佐吉、枝光利雄、小川俊彦、山田良隆、長沢一樹、大沢ちさと、吉田能里子、ポール カミンスキ、北村英治、江草啓介、 稲葉國光、近藤和紀ら。


太田蘭三の同名小説を基にした作品。
監督は『金髪の草原』『ジョゼと虎と魚たち』の犬童一心。
菊島を山崎努、伊能を宇津井健、穴池を 青島幸男、庄司を谷啓、先山を長門勇、源田を藤岡琢也、青木を森繁久彌、鈴子を松原智恵子、和子を星野真里、貞子を加藤治子、赤星を 小林亜星、静江を吉村実子、光代を白川和子、阿保を岩松了、千香子を土屋久美子、黒井をミッキー・カーチス、鴨下を高橋昌也、月村を 鳥羽潤、図書館の女性係員を戸田菜穂が演じている。
青島幸男、藤岡琢也、森繁久彌は、これが最後の映画出演となった。

主人公が金持ちしか入れない高級な老人ホームに入って悠々自適な生活をしている連中なので、ちょっと感情移入が難しい。
そういう連中が、「生き甲斐」のために金を盗もうとするんだよな。
いや、別にさ、主人公が貧困にあえいでいなきゃダメだとか、もっと悲しみや苦しみを抱えた老人じゃなきゃダメだとか、そんなことを 言うつもりは無いのよ。裕福に暮らしている老人たちが、道楽として何かを始めるということでも、それは別にいいのよ。
ただし問題は、その行動が「金を盗む」ってことなんだよな。
これが泥棒以外の道楽なら全く違ったんだろうけど、「金持ちが金を盗む」って、もうねえ、何をどう応援すりゃいいのかと。

なんか変に落ち着いた雰囲気に包まれているんだけど、もっと弾けてほしいなあと感じる。
例えば源田の葬儀のシーン、意外な趣向が凝らしてあるのに、最初から何となく、ほっこりしたムードになっている。入居者は全員、 スンナリと受け入れている。
そうじゃなくて、最初は唖然としたり仰天したりして、でも一つ間を取ってから、あるいは誰か1人が受け入れ態勢になってから、全員が 源田の用意した趣向を楽しもうという気持ちになるという展開にして、そこから「穏やかな雰囲気」に入っても、それは遅くないと 思うのだ。
あと、そのダンスパーティー、無駄に長いよ。
北村英治カルテットの演奏を、そこまでたっぷりと聴かせる必要も無いでしょ。演奏の音だけ残して、そのまま火葬場のシーンに雪崩れ こんでもいいし。

貞子の骸骨が見つかるシーンも、とりあえずはギャグシーンとして消化&昇華してほしいのだ。
で、瞬間的にギャグとして表現し、次のカットに入ってから、しみじみモードに入ればいい。
とにかく、いちいち「弾けないなあ」と感じさせられる。全体的に、おとなしい表現になっている。
菊島が勃起しなかったシーンなんて、物悲しさがあるわけでもないし、だったらホントは「笑えるシーン」になっているべきなんじゃ ないかと。
でも、そこも喜劇としての演出プランが見えない。

構成として、強盗計画が明らかになるまでが無駄に長い。
温泉に行く展開とか、そういうのはカットしてもいいでしょ。さっさと強盗計画が残されていたことを明らかにして、そこから「それを 実行しようかどうか悩んだり迷ったりする」とか「仲間集めをする」というところで尺を使った方が効果的なのではないか。
青木の白寿の祝いとか、菊島と鈴子の恋愛劇に関しては、その流れの中で挟めばいい。
で、そこで「老後の人生って何なのか」「自分たちは老人ホームで死を漫然と待つのではなく、もう一花も二花も咲かせたい」という考え に至り、強盗計画を実行しようとする、という流れに持って行けば良かったのではないか。

計画を知った全員が、最初からやる気満々というのは、どうにも気持ちが乗っていきにくい。
だってさ、それは重大な犯罪行為なのよ。
「もし失敗したらどうするのか」「もし捕まったらどうなるのか」という危惧を誰も持たないのは不可解。
あと、トンネルを掘る重労働があったり、機材を集めるためには資金が必要だったりするのに、そういうことは全く考えておらず、もの すごく楽観的だし。
なぜ源田がそんな計画を用意しておいたのか、それについて誰も疑問に思ったり、調べようとしたりしないのも違和感があるぞ。

そこにも関連することなんだけど、なんかキャラの差別化もイマイチなんだよね。
もっと誇張して、それぞれの個性を出してほしかった。例えば穴池のエロじじいっぷりも、なんか物足りないし。
みんな、行儀が良すぎる。もっと荒っぽい不良老人とか、もっとクレイジーな考え方の老人とか、そういう「常識的な老人」の枠を大きく はみ出したキャラにした方が面白くなったんじゃないかと。
冷静沈着な常識人のポジションは、菊島に任せておけばいいんだし。

鈴子が他の老人たちに計画を明かしてしまったのに、それに対して菊島が仏頂面で黙っているだけというのは、どうなのよ。
そこは何かリアクションさせるべきじゃないのか。「ホントは怒りたいけど、相手が惚れた女だし、あっけらかんとしているので、怒るに 怒れない」といった感じの反応を示した方がいいんじゃないのか。
どうであれ、とにかくノーリアクションは無いわ。
そこは1つ、喜劇にできる箇所を損している。

先山が登場するのが映画開始から約53分後というのは遅いし、逆に計画への参加が決まるのは早すぎる。
登場して話し掛けたら、すぐに参加が決まっているんだよな。キャラ紹介や、他の連中と仲良くなるまでの時間帯が全く用意されて いない。
だから、「水道工事をやっていたからウォータージェットの扱いが得意」「テントを隠れ蓑に使える」という御都合主義のためだけに投入 されたキャラのように見えてしまう。
っていうか実際、そうじゃないのか。そのシーン以降、彼の必要性って全く無いでしょ。

序盤に登場した和子が、源田が死んだ辺りから後半に入るまで、ほとんど消えているというのはキャラの扱いとしてダメでしょ。
もっと彼女を積極的に活用しないと、わざわざ原作に無いオリジナルキャラを投入した意味が弱くなってしまう。
使い方は色々と考えられるが、例えば「老人たちの不審な行動に早い段階で気付き、探りを入れる。老人たちはバレないように誤魔化し 続けていたが、とうとうバレてしまう」という形にすれば、もっと和子の関与は大きくなるはず。
菊島たちが計画を進めていく中で、和子は偶然に穴池を発見するまで、全く必要性の無いキャラに成り下がっているのだ。

和子がトンネルを発見するシーン、彼女が生き埋めの穴池を救出する様子と、菊島と鈴子が話している様子をカットバックで描くという 構成は上手くない。そこは、「和子が計画を知る」というところにポイントを絞ったシーンにすべきだよ。
あと、金庫破りの計画を知った和子が、「すげえな、年寄りって」と興奮した様子で言うのも引っ掛かる。なんで簡単に受け入れ ちゃうの。なんで驚いたり、止めようとしたりしないのか。
老人たちの犯罪行為を、基本的に「物語の案内役」の役割を果たしているキャラが、そんなに簡単に是認しちゃったらダメでしょ。
この映画、老人たちにストップを掛けようとするキャラが、全く登場しないんだよね。それはマイナスだなあ。
それは和子が担うべき役割ではなかったか。

計画が開始されてからは、それなりに問題も起きてはいるものの、すぐに解決する。大きなトラブルやミス、想定外の展開やアクシデント は、銀行の合併以外に見当たらない。
そして、「計画がバレるかも」「このトラブルのせいで失敗するかも」という危機感や緊張感は全く無い。
コメディーではあっても、ある程度のハラハラドキドキはあった方が良かったと思うなあ。
何しろ、まるでメリハリが無いんだよな。平坦に、淡々と話が進んでいくのだ。
なんか、もっと面白い映画になりそうな素材なんだけどなあ。勿体無いなあ。

(観賞日:2012年2月11日)

 

*ポンコツ映画愛護協会