『シン・ウルトラマン』:2022、日本

日本に巨大不明生物が出現し、「ゴメス」と命名された。想定を遥かに超える甚大な被害が出たが、自衛隊が総力戦で駆除した。新たな巨大不明生物が出現し、「マンモスフラワー」と命名された。官民学の総力を上げて弱点を発見し、炭酸ガスと火炎放射の両面攻撃により駆除に成功した。巨大不明生物第3号「ペギラ」は冷凍ガスを放出し、東京の都市機能は麻痺した。女性生物学者の弱点発見が決め手となり、駆除に成功した。
超自然発生巨大不明生物は敵性大型生物「禍威獣(カイジュウ)」と改名された。第4号「ラルゲユウス」を取り逃がした政府は防災庁を 設立し、同時に禍威獣災害対策復興本部を設立した。防災庁内には5名の専門家による禍威獣特設対策室、通称「禍特対」が設置された。禍特対は室長の宗像龍彦、専従班・班長の田村君男、作戦立案担当の神永新二、汎用生物学者の船縁由美、非粒子物理学者の滝明久という陣容だ。彼らは第5号「カイゲル」を自衛隊との連携攻撃で駆除し、第6号「パゴス」も初の指揮で駆除に成功した。
第7号が山中に出現し、専従班は現地対策本部に到着して自衛隊から指揮権が移動した。第7号は変電所を襲い、電気を食べて姿を現した。田村は経産省と電力会社に連絡し、変電所の電源を切ってもらった。すると第7号は変電所を去り、住宅地で暴れ始めた。田村は自衛隊に要請し、「ネロンガ」と命名された第7号の頭部に集中攻撃を浴びせるが、ダメージを与えられなかった。専従班は新たな策を何も打ち出せず、頭を抱えた。神永は集落に取り残された子供に気付き、保護に向かった。
大気圏外から来た正体不明の飛翔体が地上に激突し、爆風から子供を守った神永は後頭部に大きな石の直撃を受けた。激突地点から黒煙が上がり、銀色の巨人が立ち上がった。巨人は両腕を交差させて光線を発射し、ネロンガを倒して上空へ飛び去った。神永は怪我一つせず、子供を抱えて下山した。公安調査庁から専従班に配属された浅見弘子は、田村から巨人対策の担当を指示された。彼女がバディーを組むことになった神永に挨拶すると、感情の無い奇妙な言葉が返って来た。
浅見が田村に提出した調査報告書では巨人に「ウルトラマン」という仮称が付いており、「正体不明」とだけ書かれていた。防災大臣の小室肇は、ウルトラマン出現に伴って行動が活発化した米国向けの報告書を作成するよう宗像に指示した。地底禍威獣が出現し、専従班は現地対策本部に赴いた。禍威獣の進行方向には、地下核廃棄物貯蔵施設があった。ガボラと命名された禍威獣に対し、田村は米軍から購入した地中貫通型爆弾を自衛隊のステルス戦闘機に投下してもらう。しかし全くダメージを与えられず、ガボラは地上に出た。
神永は本部を飛び出し、ベータカブセルを使ってウルトラマンに変身した。ガボラが放射節物質の光線を口から放つと、ウルトラマンは施設の爆発を防ぐために体で受け止めた。ウルトラマンはガボラを殴って昏倒させ、抱え上げて宇宙へ消えた。専従班が本部で作業をしている時、突如として停電が起きた。そこへ外星人のザラブが出現し、「周囲に強力な電磁波を伴ってしまった」と謝罪した。彼はデータを全て復元し、来訪の目的を問われて「この国との友好条約だ」と答えた。首相の大隈泰司は面会の要求に応じ、ザラブと握手を交わした。
神永は警察庁警備局公安課の加賀美から、友好条約は不平等な許諾内容であること、最初の締結国になるために日本政府が条件を飲んだことを知らされた。ザラブは神永の前に現れ、人類を争わせて自滅させる計画を明かした。ザラブは神永の正体がウルトラマンだと知っており、計画には邪魔なので眠らせた。ザラブは偽ウルトラマンを出現させ、基地を破壊させた。さらに神永がウルトラマンに変身する複数の動画をネットにアップし、正体を暴露した。
神永の車は放置された状態で発見されるが、本人は行方不明で連絡も付かなかった。ザラブはウルトラマン抹殺計画の提案書を大臣たちに見せ、自分が知っている情報を教えた。ザラブは神永を廃ビルで監禁するが、ベータカプセルを持っていなかった。ザラブはウルトラマンに変身できないと確信し、安心して廃ビルを去った。浅見が鞄を開けると封筒が忍ばせてあり、中にはベータカプセルが入っていた。神永は事前にベータカプセルを隠し、「君に託す」という浅見へのメッセージを添えていた。 専従班は防災庁の指令を受けて、ウルトラマン抹殺のために出動した。加賀美は浅見に接触し、神永から連絡するよう頼まれていたことを伝えた。浅見は加賀美から廃ビルの場所を知らされ、田村の許可を得て別行動を取った。彼女は廃ビルへ行き、神永を救出した。神永はベータカプセルでウルトラマンに変身し、偽者に化けていたザラブを倒して空へ飛び去った。神永は行方をくらまし、世界各国が彼の身柄を確保しようと躍起になった。
浅見は無断欠勤するが、巨大化した姿で街に出現した。専従班の面々が現場に駆け付けて話し掛けるが、催眠状態の浅見は反応しなかった。彼女は建物の破壊を開始し、どこからか「これは私のデモンストレーション」という声が響いた。声の主は「この技術はウルトラマンだけの物ではない事実を貴方たちに伝えたいだけです」と語り、再度の連絡を示唆した。音声が途絶えた直後、浅見は倒れ込んで動かなくなった。専従班の解析により、浅見の体は人間と異なる細胞で構成されていることが判明した。
声の主であるメフィラスが専従班の前に現れ、この星に福音を与えに来た外星人第0号だと自己紹介した。彼はウルトラマンより先に地球へ来ていたこと、プレゼンテーションの準備を整えていたことを説明した。宗像が「外星人である確証が欲しい」と言うと、メフィラスはベータカプセルと同じ原理のベータボックスを使って浅見を元のサイズに戻した。意識を取り戻した浅見は、巨人化していた時の行動を何も覚えていなかった。
メフィラスは特命全権大使として大隈と面会し、「巨大化による対的性外星人からの自衛計画」を説明した。浅見は巨人化した自分の動画がネットで拡散したことから、メフィラスに腹を立てた。メフィラスは彼女に謝罪し、全ての動画を一瞬で削除した。メフィラスは神永と会い、「私と一緒に、この星のために働きませんか」と持ち掛けた。神永が「君の話次第だ」と返すと、メフィラスは「外星人には無条件に従うしか無いという私の理想的な概念を人類に植え付けるのに、君は役立ってくれた。おかげで人類は強力無比な兵器に転用できる有効な生物資源と分かった」と語る。そして彼は、他の知的生命に荒らされる前に人類を独占管理しておきたいのだと説明した…。

監督は樋口真嗣、脚本は庵野秀明、総監修は庵野秀明、監督補は摩砂雪、副監督は轟木一騎、准監督は尾上克郎、製作代表は山本英俊、製作は塚越隆行&市川南&庵野秀明、共同製作は永竹正幸&松岡宏泰&緒方智幸、企画は塚越隆行&庵野秀明、原作監修は隠田雅浩、エグゼクティブプロデューサーは臼井央&黒澤桂、プロデューサーは和田倉和利&青木竹彦&西野智也&川島正規、協力プロデューサーは山内章弘、ラインプロデューサーは森賢正、プロダクション統括は會田望、撮影は市川修&鈴木啓造、照明は吉角荘介、美術は林田裕至&佐久嶋依里、編集は栗原洋平&庵野秀明、VFXスーパーバイザーは佐藤敦紀、ポストプロダクションスーパーバイザーは上田倫人、CGアニメーションスーパーバイザーは熊本周平、録音は田中博信、整音は山田陽、アクションコーディネイターは田渕景也、コンセプトデザインは庵野秀明、音楽は宮内國郎&鷺巣詩郎、主題歌『M八七』は米津玄師。
出演は斎藤工、長澤まさみ、有岡大貴、早見あかり、西島秀俊、田中哲司、山本耕史、竹野内豊、嶋田久作、岩松了、堀内正美、山崎一、益岡徹、小林勝也、利重剛、長塚圭史、和田聰宏、塚本幸男、ヨシダ朝、國本鍾建、横田栄司、屋敷紘子、鍛治直人、西原誠吾、中野順一朗、真田幹也、細川洋平、森優作、宮崎翔太、村本明久、赤堀雅秋、久松信美、キンタカオ、大場泰正、島津健太郎、日比大介、平原テツ、村上新悟、柏谷吉洋、吉田亮、井上雄太、TERUら。
声ノ出演は高橋一生、山寺宏一、津田健次郎。


1966年に放送された円谷プロダクション製作の特撮ドラマ『ウルトラマン』をリブートした映画。
企画&脚本&総監修の庵野秀明や監督の樋口真嗣など、『シン・ゴジラ』の主要スタッフが再結集している。
神永を斎藤工、浅見を長澤まさみ、滝を有岡大貴、船縁を早見あかり、田村を西島秀俊、宗像を田中哲司、メフィラスを山本耕史、大隈を嶋田久作、小室を岩松了、内閣官房長官を堀内正美、加賀美を和田聰宏が演じている。
ウルトラマンの声を高橋一生、ゾーフィを山寺宏一、ザラブを津田健次郎が担当している。

冒頭、『ウルトラQ』風のタイトルバックで「シン・ゴジラ」という文字が出る。そこから切り替わると、今度は『ウルトラマン』と同じタイトルバックで「シン・ウルトラマン 空想特撮映画」と出る。そこから1分ぐらいのダイジェスト映像とテロップにより、ネロンガが出現するまでの経緯がザックリと説明される。
ものすごく足早な説明なので、『ウルトラマン』を知らなきゃ絶対に付いていけない。
でも『ウルトラマン』は有名な作品なので、見ていなくても何となく分かるという人は多いだろう。
あと、冒頭の説明に付いていけなくても、それ以降の展開が全く理解できないってことは無い。

ある種類の開き直りってことなのかもしれないが、冒頭の約1分で『シン・ゴジラ』に輪を掛けて足早になってるなと感じる。
「分からん人は置いて行きますよ」というスタイルだ。
庵野秀明はDAICON FILM時代に『帰ってきたウルトラマン マットアロー1号発進命令』という自主映画を撮っていたぐらいなので、たぶん『ゴジラ』よりも『ウルトラマン』に対する思い入れの方が強いんだろう。
そんな愛着からマニア心が爆発し、「大々的に全国上映されるメジャー資本の商業映画」としてのバランス感覚は完全に失っている。

ネロンガ対策会議の話し合いシーンは、実相寺昭雄の演出スタイルを感じさせる。ただ、それ以降の会議シーンでも、ずっと同じようなカメラワークなんだよね。
そうなると、仮に実相寺昭雄を意識した演出だとしても「何度もやるのは違うわ」と言いたくなる。仮に実相寺スタイルを意識していない演出だとすると、それはそれで「間違った演出」でしかないし。
あと、実は会議シーン以外でも、カメラワークは実相寺スタイルっぽさがあるんだよね。だけど実相寺監督だって、担当した全てのエピソードで同じ演出をやっていたわけじゃないからね。
なので本作品でも、一部で実相寺カメラワークを使っても、それ以外は別の演出スタイルを取った方がいいでしょ。

怪獣を「禍威獣」、科特隊を「禍特対」と言い換える辺りのセンスは、いかにもオタク的な感覚だなあと感じるけど、同時に「そういう変な捻りとか要らないから」とクールに言いたくなる。
普通に怪獣と科特隊のままでいいでしょ。
原作をリスペクトしてマニアックなネタを色々と盛り込む一方、変なトコで「俺たちのウルトラマン」としての強いクセを出そうとする感覚は、何なのかねえ。
そうそう、「感覚」と言えば、浅見が気合いを入れる時に自分の尻を叩く設定とか、その時に臀部をアップにする演出とかは、なんか時代遅れな感覚だなあと感じてしまうなあ。

浅見が登場してから約2本ぐらいは、顔を映さずに話を進める。「たまたま顔が映らないアングルが続く」ってことじゃなくて、意図的に顔の映らないカットを重ねているのだ。
でも、これは変なトコで映像に凝って、完全に外しているだけだ。
そういう演出は、「大物ゲストの登場」とか「意外なキャストの登場」なら意味がある。だけど、長澤まさみの出演は最初から分かり切っていることだから、何の効果も無い。
まだ「長澤まさみだけど見た目に意外性が」みたいなネタがあればともかく、ごく普通の外見だし。

購入した地中貫通型爆弾の支払いに関して、宗像が「ウチではなく防災庁に回すように」と指示するシーンがあるが、こういうネタは邪魔なだけだなあ。
『ウルトラマン』のマニアックなネタとは全く関係が無いし。
ザラブが友好条約を求めた後、閣僚たちが各自の思惑を口にするシーンがある。そして日本は諸外国より優位に立つために動くわけだが、ここでの政治風刺の描写も邪魔だなあ。
『ウルトラマン』でも社会批判のメッセージを込めたエピソードはあったけど、それとは全く系統が違うんだよね。

冒頭のダイジェストを除外しても、開始から約40分の時点で2体の怪獣と1体の外星人が登場し、さらには偽ウルトラマンまで出現する。その展開は、あまりにも慌ただしい。
世間のウルトラマンに対する意識、禍特対とウルトラマンの関係など、色んな描写をおざなりにしたままで、「偽ウルトラマン登場」という次の段階に話を進めているのだ。
ザラブのエピソードが終わったら次はメフィラスってのも、どういう計算なのか。
「知略で人間を欺こうと企み、専従班を介して政府首脳に接触する外星人」というキャラが連続するのは、どこに勝算を見出したのか。

「ウルトラマンが現れて怪獣を倒してくれる日本」における基本の状態をちゃんと描いていないので、「ザラブの策略でウルトラマンと人類の関係が覆される」という展開に入っても、そこに緊張感が生まれないのよね。
あと劇中における熱も、そんなに高くないし。
なぜか知らないけど、やけに淡々と話を進めているのよね。どういう意図なのかサッパリ分からんよ。
もっとメリハリや起伏を付けた方が、どう考えても得策だろうに。

「怪獣が出現し、ウルトラマンが退治する」というパターンを繰り返していたら観客を飽きさせてしまうので、変化を付けようとするのは理解できる。
なので、敵を怪獣だけに限定せず、どこかのタイミングで外星人を登場させるのは賛同できる。
それが開始から約40分というタイミングでも、決して早すぎるとは思わない。
ただし、その外星人が「政府閣僚を騙し、自分は戦わずに姦計でウルトラマンを殺そうと企む」というキャラだと、「それは早すぎる」と言いたくなる。

ウルトラマンがザラブを倒した後、世界各国が神永の身柄確保に動くという展開がある(ただし「展開」と書いたが、実際には台詞で軽く説明される程度だが)。
だけど、日本政府に関しては、その前にザラブに騙されてウルトラマンを殺そうとしていた事実に対する何かしらの弁明があるべきだろう。そこの責任を追及する様子が皆無なのも引っ掛かるし。
メフィラスやゾーフィが出て来るエピソードでも、政治や外交の要素を大きく扱おうとしている。御時勢に合わせての脚色なのかもしれないが、だとしても「要らねえ」と言いたくなる。
そっち方面に振り切って重厚に掘り下げるほどの覚悟を感じるわけでもなくて、中途半端に触っているだけだし。

メフィラスのエピソードのベースになっているのは、メフィラス星人が登場する『ウルトラマン』第33話『禁じられた言葉』だ。
だが神永とメフィラスが公園や居酒屋で会話を交わすシーンなどは、『ウルトラセブン』第8話の『狙われた街』を意識した描写だろう。
しかし、『狙われた街』では、メトロン星人が安アパートで人間のように振舞う姿にアンバランスの面白さがあったわけで。
この映画だと神永と話しているメフィラスは人間の姿なので、押井守テイストな会話シーンを延々と見せられるだけになっているのよね。

そもそもメフィラスで『狙われた街』をやっている時点でどうかと思うのだが、どこに面白さを感じれば見出せば良いのかと。
『狙われた街』の美味しいトコを全て捨てて、搾りカスだけで作ったような状態だぞ。
なんかさ、オタクとしての偏愛が先走り過ぎて、長編映画としての完成度や娯楽映画としてのバランス感覚が後回しになっているんじゃないかと。
あと動きよりも会話劇で進める時間帯が、かなり長くなっているのもどうかと思うし。

メフィラスはゾーフィを目撃し、ウルトラマンとの戦いを中断して去る。ゾーフィはウルトラマンに対して、「光の星は地球の廃棄処分を決定したので、最終兵器のゼットンを投入する」と通告する。
「光の星が人類を滅亡させると決定し、ゾーフィを派遣してゼットンを地球に送り込む」とか、『ウルトラマン』という作品の世界観を根幹から破壊してるじゃねえか。幾ら「シン」と付いているからって、そんな横暴すぎる改変は無いわ。
スクラップ・アンド・ビルドの方向性が違うし、ただのリスペクトを欠いた背信行為にしか思えんぞ。
元ネタがあるのは分かるけど、そのまま持ち込んじゃダメなタイプのネタだろ。あと「ゾーフィ」って何だよ。

(観賞日:2024年8月6日)

 

*ポンコツ映画愛護協会