『シン・仮面ライダー』:2023、日本

本郷猛はルリ子をオートバイの後ろに乗せ、2台の大型トラックに追われて山道を逃走していた。ルリ子は爆発で吹き飛ばされ、組織のクモオーグと手下たちに捕まった。そこへバッタオーグに変身した本郷が現れ、手下たちを次々に殺害した。セーフハウスにルリ子を運び込んだ本郷は、自分の行為に狼狽する。彼はルリ子が自分を連れ出したことを思い出し、この体は何なのかと問い詰めた。そこへ緑川弘博士が現れ、組織が開発した昆虫合成型オーグメンテーションプロジェクトの最高傑作だと教えた。
緑川は自分が本郷を協力者として選んだこと、研究グループが新たな体にアップデートしたことを説明する。本郷が特別な力を与えた理由を尋ねると、彼は「君が望んでいたからだ」と答えた。緑川は組織を倒す計画を手伝ってほしいと頼み、ルリ子は自分の娘だと教えた。彼は本郷のために、改造オートバイのサイクロン号を用意していた。そこへクモオーグが現れ、ルリ子を気絶させ、本郷の動きを封じた。緑川は「ルリ子を頼む」と本郷に言い残し、クモオーグに殺害された。
クモオーグは小屋に爆弾を仕掛け、ルリ子を連れ去った。本郷は変身して後を追い、仮面ライダーと名乗ってクモオーグを倒した。ルリ子は彼に、組織の名がショッカーであること、4人のオーグメントが残っていることを教えた。2人が予備のセーフハウスに行くと、政府の男と情報機関の男が待っていた。彼らは本郷とルリ子に、ショッカー構成員の排除に手を貸してほしいと持ち掛けた。ルリ子はショッカーの創設者が日本の大富豪であること、今の組織を率いているのが世界最高の人工知能「アイ」であることを本郷に教えた。
アイが生み出した外世界観測用自律型人工知能の「ジェイ」は、1年後に「ケイ」へとバージョンアップされた。創設者は人類を幸福に導く究極の命令を与えて自殺し、アイは「最も深い絶望を抱えた人間を救済する行動モデルが、人類の目指すべき幸せだ」と設定した。そこでケイは、世界で最も進んだ技術を使い、偏った個人を救済していく組織として秘密結社のショッカーを創設したのだ。ルリ子は政府と情報機関の男たちとの契約を承諾し、拳銃を受け取った。
政府の男と情報機関の男は、コウモリオーグのアジトを突き止めていた。ルリ子は迷いを抱える本郷が戦闘で当てに出来ないと感じ、自分だけでアジトへ向かった。彼女はコウモリオーグに銃を突き付けて降伏を要求するが、バットヴィルースに感染して支配されてしまった。そこへ本郷が駆け付けると、コウモリオーグは自分の命令でルリ子が死ぬことを説明した。服従を要求された本郷は、ヘルメットを外す。コウモリオーグはバットヴィルースに感染したと確信し、ルリ子を殺すよう命じるが、本郷には全く効いていなかった。プラーナの力によって、バットヴィルースは無害となっていたのだ。
感染したように装っていたルリ子はショットガンを発砲し、仮面ライダーは逃げるコウモリオーグを追って退治した。政府の男と情報機関の男は特殊部隊を差し向け、サソリオーグと手下たちを一掃した。本郷とルリ子はハチオーグの討伐に向かい、社会実験と称して町民を洗脳していることを知った。ハチオーグと親しかったルリ子は、ショッカーを抜けるよう要求した。ハチオーグは拒否して町民に包囲させ、本郷はルリ子を連れて撤退した。
ルリ子はノートパソコンで作業をしながら、チョウオーグが羽化する前に基礎プログラムの上書きだけでも済ませておきたいのだと本郷に話す。さらに彼女は、自分がショッカーに作られた生体電算機であることを明かした。町民が押し寄せると、本郷はプランがあるので1人でアジトに乗り込んでくれとルリ子に頼んだ。ルリ子はアジトの屋上にハチオーグを呼び出し、仮面ライダーは飛行機から飛び降りた。ルリ子は投降を呼び掛けるがハチオーグは拒否し、仮面ライダーと戦う。仮面ライダーはハチオーグを追い込むが、ルリ子のために殺さずに済ませようとする。そこへ政府の男と情報機関の男が現れ、サソリオーグの毒を込めた銃弾でハチオーグを殺害した。
本郷とルリ子は潜伏のため、政府の男と情報機関の男が用意したセーフハウスへ移動した。次の標的であるチョウオーグは、ルリ子の兄のイチローだった。イチローの最終目的は全人類のプラーナを完全掌握し、ハビダットへ送り込むことだった。そのために彼は、最後の人間になろうと考えていた。イチローは子供の頃、無差別殺人犯に母親を殺されていた。そのため、彼は人間を信用していなかった。ルリ子の母は人間ではなく、組織の人工子宮だった。
ルリ子は本郷と共にチョウオーグのアジトへ乗り込み、兄を説得しようとする。しかしイチローは耳を貸さず、ルリ子のパリハライズを無効化して気絶させた。彼は本郷と戦おうとせず、一文字隼人を差し向けた。一文字はジャーナリストだったが、イチローがカスタムした強化型の第2バッタオーグになっていた。本郷はルリ子を連れて撤退するが、第2バッタオーグが追って来たので仕方なく戦う。ルリ子は一文字をパリハライズし、洗脳を解いた。そこへルリ子の記憶に無い3種合成型オーグメントのカマキリ・カメレオンオーグが現れ、彼女をナイフで突き刺した。一文字は止めを刺そうとするカマキリ・カメレオンオーグを阻止し、仮面ライダーを名乗って戦う…。

監督は庵野秀明、原作は石ノ森章太郎、脚本は庵野秀明、製作は村松秀信&西新&野田孝寛&緒方智幸&古澤圭亮&藤田浩幸&菅井敦&香田哲朗&池邉真佐哉&飯田雅裕&池田篤郎&田中祐介、スーパーバイザーは小野寺章、エグゼクティブプロデューサーは白倉伸一郎&和田倉和利、企画・プロデュースは紀伊宗之、プロデューサーは小出大樹、ラインプロデューサーは森徹&森賢正、アソシエイトプロデューサーは川島正規、コンセプトデザインは庵野秀明、デザインは前田真宏&山下いくと&出渕裕、扮装統括・衣裳デザインは柘植伊佐夫、撮影は市川修&鈴木啓造、照明は吉角荘介、美術は林田裕至、録音は田中博信、アクション監督は田渕景也、装飾は坂本朗、VFXスーパーバイザーは佐藤敦紀、編集は辻田恵美、脚本協力は山田胡瓜、特撮班・監督は尾上克郎、副監督は轟木一騎、准監督は尾上克郎、音楽は岩崎琢。
出演は池松壮亮、浜辺美波、柄本佑、森山未來、斎藤工、竹野内豊、長澤まさみ、塚本晋也、松尾スズキ、手塚とおる、西野七瀬、本郷奏多、上杉柊平、仲村トオル、安田顕、市川実日子、谷遼、大西賢斗、志波昴星、平野舞、村本明久、加藤千尚、武本健嗣、山中良弘、梅舟惟永、上杉美浩、川崎琴之、橘レイア、山田あや乃、小田桐麗奈、竹下ひな乃、粟大和、佐藤翔、早川進人、檜山玲音、山本主税、米田敬、渡辺潤、進藤光希、西田裕輔、村田佑輔、朝日玲奈斗、伊藤浩志、イワゴウサトシ他。
声の出演は松坂桃李、大森南朋。


石ノ森章太郎の漫画『仮面ライダー』と、TVシリーズ『仮面ライダー』を基にした作品。
仮面ライダー生誕50周年企画作品として製作された。
『シン・ゴジラ』で総監督や脚本、『シン・ウルトラマン』では総監修や脚本を手掛けた庵野秀明だが、「監督」として参加する映画は2004年の『キューティーハニー』以来となる。
本郷を池松壮亮、ルリ子を浜辺美波、一文字を柄本佑、イチローを森山未來、情報機関の男を斎藤工、政府の男を竹野内豊、サソリオーグを長澤まさみ、緑川を塚本晋也、SHOCKERの創設者を松尾スズキ、コウモリオーグを・手塚とおる、ハチオーグを西野七瀬、カマキリ・カメレオンオーグを本郷奏多が演じている。
ケイの声を松坂桃李、クモオーグの声を大森南朋が担当している。

スタントチームGocooの田渕景也がアクション監督として参加しているが、せっかく彼が考えたアクションのコレオグラフィーを庵野監督は撮影に入ってから不採用にした。
じゃあ自分なりのアイデアがあるのかというと、そういうのは何も無かった。そのため、不採用を通告してから、その場で考えて試すという形になった。
すぐには思い付かない上にプランもコロコロと変わるので、その度にスタッフと出演者は待たされる羽目になった。
自分のイメージとは違うけど、具体的なイメージが自分の中にあるわけではないから、そんなことになるのだ。
そういうのってアニメ監督だと良くあるんだけど、実写映画だと珍しいかもしれない。

この映画は何の説明も無いまま、アクションから始める構成になっている。
アクションを最初に配置して観客を引き付けようとするのは、アクション映画だと良く見られる手法だ。
ただ、肝心の「トラックに追われていたら前方をトラックが塞いでいて、爆発が起きて云々」というアクションは、何がどうなったのか良く分からないんだよね。
それに続くバッタオーグと戦闘員の格闘も、やっぱり分かりにくいし。
カット割りとカメラワークが、映像を分かりにくくしているんだよね。

バッタオーグは上着を羽織った状態で戦い、殴られた戦闘員は血しぶきを上げる。
良く知られている『仮面ライダー』とは全く違うので、それを最初に見せたいという狙いはあったのかもしれない。
ただ、それなりのインパクトはあるものの、メリットとデメリットを考えると「費用対効果はイマイチじゃないかな」と感じる。
それとさ、あの状況で、どうやってクモオーグから逃れてルリ子を連れ出せたのかね。
本郷と緑川の関係性も、ハッキリとは説明されていないし。

本郷たちがセーフハウスに移動すると(そもそも、この段階ではセーフハウスであることさえ分からない)、緑川が「昆虫合成型オーグメンテーションプロジェクト」とか「プラーナ」といった特殊な用語を使いながら詳しく解説するパートになる。
だけど、何を説明されているのか良く分からない。話の流れを停滞させてまで、グダグダと語る必要性も感じない。
その辺りはオタクの悪いトコが出ているなあと。お前は押井守か、あるいは紀里谷和明なのかと。
そんな余計な理論武装が、話の面白さや厚みに繋がっているわけでもないし。
荒唐無稽を下支えするために、ディティールを丁寧に整えることは、やってもいいと思うのよ。でも、そういう作業にもなっていないし。

特撮TVドラマの『仮面ライダー』とは大きく異なる描写が、幾つもある。
前述した血しぶきの表現もそうだし、ヘルメットを装着している時に本郷の声が籠もって聞こえるのもTVシリーズでは無い表現だ。
ヘルメットで口が塞がれるので、声が籠もるのは理屈ととしては正しい。だけど台詞が聞き取りにくいデメリットと天秤に掛けた時、そんなトコのリアリティーとか要らないわ。
他にもヘルメットの後ろから頭髪が出ているとか、サイクロン号が変形するのを「CGでござい」って感じで表現するのも、TVドラマと異なる表現の何もかもがカッコ良くないんだよね。

あと、仮面ライダーが地味で陰気で、ちっとも華や魅力が感じられないのは大きな痛手だ。
庵野監督がキャラを決め切れずに上手く指導できなかったのか、本人の理解不足なのかは分からないけど、池松壮亮の芝居にも大きな問題がある。
「陰のある男」とか「深い苦悩を抱える男」じゃなくて、ただの台詞棒読みで感情が見えにくい奴になっている。
どこかで大きく変化するので、それを強調するための狙いでもあるのかとも思ったのよ。
だけど最後まで、ずっと同じなんだよね。

予備のセーフハウスに着くと、今度はルリ子が政府の男&情報機関の男との会話シーンで、ショッカーについてクドクドと説明する時間に入る。
そういうのも、「めんどくせえなあ」とウンザリするだけ。それは緻密なディティールじゃなくて、余計な情報になっている。
それと、なんちゃらオーグたちの死に様は、どれもマヌケでカッコ悪い。
コウモリオーグを撃つ直前のルリ子に「ところがギッチョン」などと言わせている辺りからすると、たぶん意図的に滑稽さを持ち込んでいるんだろうと思われる。しかし残念ながら、完全に外している。
この作品に、そういう中途半端な緩和は不釣り合いなだけ。

ルリ子がバットヴィルースを無害化できているのに、感染したフリをする意味が全く分からない。全くの無意味でしょ。その場で撃った方が、コウモリオーグを始末できる可能性は高いんじゃないかと。
たまたま本郷が来たから「実は芝居でした」と明かすタイミングもあるけど、来なかったらどうする気だったんだよ。
っていうかコウモリオーグにしても、ルリ子を支配下に置いた後、本郷が来なかったらどうする気だったんだよ。
っていうか「バットヴィルース」というネーミングも何だかなあ。『シン・ウルトラマン』の時の「ゾーフィ」に似たセンスを感じるわ。そういうのは、オタクの悪い部分だなあ。

サソリオーグが登場するパートは、「どんだけ雑なんだよ」と呆れてしまう。手下を率いて楽しそうに登場したかと思ったら、すぐに退治されちゃうのよね。しかも、退治される様子さえ見せずに終了している。
ルリ子に「サソリオーグの猛毒性化学兵器はプラーナシステムは対応できない。そっちでやってくれて助かる」とは言わせているけど、政府と情報機関だけで倒しちゃダメだろ。
そうなると、「だったら他のオーグメントも本郷とルリ子の力を借りずに倒せるんじゃないか」と思っちゃうぞ。
あと仮面ライダーが簡単に政府機関の犬と化しているのも、それでホントにいいのかと言いたくなるぞ。

ハチオーグのエピソードでは、本郷とルリ子がアジトに乗り込んだと思ったら、すぐに撤退する。そしてダラダラと喋ったら、すぐアジトに戻る。
本郷が「プランがある」と言うので、ぞんなプランかと思っていたら、ルリ子は屋上に直行する。そして、なぜかハチオーグは何も警戒せず、ノコノコとやって来る。すると仮面ライダーが飛行機から飛び降り、ハチオーグの前に現れる。
わざわざ「プランがある」と言わせておいて、その程度の雑な内容。そして肝心なアクションも、ふざけてんのかと言いたくなるような仕上がり。
もちろん、見せ場になるような力は皆無だ。

本郷もルリ子も「ハチオーグを殺さない」と言い出すけど、ハチオーグには投降する気なんて皆無なんだから、それでも向こうが攻撃を仕掛けてきたら、どうするつもりなのかと。
「殺したくない」と言うだけでは、何も問題は解決しないでしょうに。
政府の男と情報機関の男が来てハチオーグを殺害すると、それを「卑劣な行為」のように描写しているけど、むしろ彼らのおかげで収拾が付いているんだよね。
なんか悲劇的な出来事みたいに見せているけど、むしろ笑えない喜劇なのよ。

停滞と退屈を招くだけの会話パートと、映像がゴチャゴチャしていて何が何だか良く分からないアクションパートの繰り返し。この構成って、まるで『CASSHERN』じゃないか。
会話パートを除外した場合、ザックリ言うと「本郷とルリ子が敵のアジトに乗り込んで敵を倒し、次のアジトへ行って敵を倒し」という繰り返しになる。どこの冴えないアクションRPGなんだよ。
とは言え、「次から次に敵と戦うことの繰り返し」という串刺し式の構成であっても、やり方によっては『子連れ狼 三途の川の乳母車』のように面白く仕上がることもある。
でも本作品の場合、肝心なアクションの部分がシオシオのパーなので、どうしようもないんだよね。

あの有名な『仮面ライダー』の主題歌のインスト版が流れても全く気持ちが高まらないんだから、どんだけしょっぱいんだよ。
映画開始から1時間10分ぐらい経った辺りで一文字隼人が登場するが、ここでも「おおっ、2号ライダー」などと興奮することは皆無だ。逆に、「なんちゅう雑な扱いなんだよ」と言いたくなる。
本家の『仮面ライダー』が好きであればあるほど、この映画にコレジャナイ感を覚えるんじゃないか。
こんなことなら、どストレートなファン・ムービーとして作った方が少しはマシだったんじゃないか。
庵野監督がオタク魂をこじらせたのか、変に作家性を出そうとしたのかは知らないけど、完全に空回りしている。

一文字は敵として登場したのに、10分も経たない内に洗脳が解けて味方になる。その直後にカマキリ・カメレオンオーグが出現してルリ子を刺し、一文字は善玉として戦う。
どんだけ拙速な展開なのかと。まだ1号ライダーの話も充分に描いているとは言えない状態なのに2号を出している時点で、完全に失敗なのよ。
そんで、もちろんルリ子が死んだ後も話は続くけど、一気にクライマックスへ畳み掛けるのかというと、さにあらず。ルリ子が映像メッセージでダラダラと喋ったり、本郷が亡き父のことをクドクドと喋ったり、とにかくテンポが悪い。
物語も佳境に突入する中でモタモタするって、どういう計算だよ。何の勝算があったんだよ。

クライマックスにおける1号&2号と0号(イチロー)との戦いでは、素人の喧嘩みたいな揉み合いを始めたり、頭突きを食らわせたりする。
文章で書いただけでも冴えない戦いなのは伝わるんじゃないかと思うが、だから全く見せ場にならない。
どういう計算をしたら、そういうアンチ・クライマックスみたいなアクションシーンが用意できちゃうのか。
最後も敵は倒すんじゃなく、ヌルい感動劇みたいにするし(もちろん微塵も感動しないが)。
そしてイチローだけでなく本郷まで殺すという、「ホントに庵野秀明は仮面ライダーが好きなのか」と疑いたくなるような結末を用意するし。

(観賞日:2025年7月18日)

 

*ポンコツ映画愛護協会