『死刑台のエレベーター』:2010、日本

手都グループ会長夫人の手都芽衣子は、手都グループ傘下「国際医療ボランティア機構」の医師・時籐隆彦と電話で話していた。埠頭に いる時籐に、彼女は「私たちはずっと一緒よ」と言う。電話を切った後、時籐の元に「大佐」と呼ばれる黒人が来て、芽衣子から預かった 箱を渡した。リボンで飾られた箱を開けると拳銃が入っており、「いつもの店で待っている」という手紙が添えられていた。大佐は時籐に 「だからあの女はやめとけと言ったのに」と言い、その場を去った。
11月13日、国防長官が来日し、軍のレセプション・パーティーに出席するため横浜を通過する。警護のために横浜中の警官が駆り出され、 市内は一部で交通規制が敷かれている。手都ビルに到着した時籐は、常連であるヘアーサロン「クレオ」の美容師・松本美加代からビラを 渡される。エレベーターで手都グループ総務部長・泉仙一に話し掛けられ、アフリカに病院を建てると会長に直訴したことについて皮肉を 言われる。時籐はエレベーターを降り、国際医療ボランティア機構のオフィスへと入った。
手都グループ会長の手都孝光は、会長室にいた。彼は旧知の間柄である新開組組長・神健太郎の訪問を受け、手都ビルの売却を求められて いた。手都は叩けば埃の出る身だったが、「ここは僕の歴史そのものだ」と売却を拒否した。同じ頃、交番勤務の警官・赤城邦衛は新開組 の組員たちに殴り掛かって逆襲を食らった。赤城は立ち去ろうとした組員の一人をブロックで殴打し、仲間たちに暴行された。赤城は拳銃 を抜くが、殴られて倒れ込んだ。組員たちが拳銃を奪って立ち去るのと入れ違いに、赤城の恋人である美加代が現れた。
手都は最終便で上海に向かう予定があり、それまでの時間を会長室で一人で過ごすことになっていた。そのスケジュールを、時籐は芽衣子 から聞いていた。午後5時からの15分間、道路規制でビル周辺は車も人もほとんどいなくなる。時籐は秘書に「書類を作るから、電話は しばらく止めてくれ」と告げる。秘書は彼に、「どれぐらいですか?週末は会長の方針で、5時半にはビルの電源を全て落とすことに なっています」と言う。時籐は「15分だ」と述べた。その時点で、5時5分になっていた。
時籐はロープを使って上の階に登り、神が去るのを確認してから会長室へ赴いた。時籐が拳銃を向けると、手都は「何が望みだ」と冷静な 態度で尋ねた。時籐が手都エチオピア病院建設における資金寄付合意書を見せると、彼は粛々とサインした。手都は芽衣子との関係を 知っており、時籐をなじった。時籐は彼を射殺し、自殺に偽装するため拳銃を握らせる。時籐はベランダに戻るが、ロープが引っ掛かって 外れなかった。秘書がドアをノックする音が聞こえたため、時籐はロープを放置して部屋に戻った。
時籐は秘書と共にビルを出ると、車に乗り込んだ。だが、そのまま裏口に回り、車を停めてビルへと駆け込んだ。その時、赤城は美加代を 伴って組員たちを追い掛け、駐車場で話している神や情婦の中井朔美たちを観察していた。赤城の傍らにいた美加代は、ビルへ入っていく 時籐の姿を目撃した。ロープを回収した時籐は、エレベーターに乗り込んだ。しかし守衛の遠野が電源を落としたた、エレベーターは途中 で停止してしまった。
神と朔美が車で出て行くのを見た赤城は、キーが付いたままの時籐の車に乗り込み、美加代に「早く乗れよ」と告げた。近くのカフェで 待っていた芽衣子は、目の前を通り過ぎる時籐の車に気付いた。助手席に美加代の姿を見つけた彼女は、車内に残された時籐の携帯電話に 掛けてみた。美加代は電話を掴むが、赤城が「出るな」と言うので、道に捨てた。芽衣子は泉から声を掛けられ、無視して去ろうとした。 すると泉は、「知ってるんですよ、貴方とドクターTのこと。僕を敵にしたいですか」と言う。彼は横浜シーサイドホテルの名刺を渡し、 そこへ来るよう促して立ち去った。
美加代は車内にあったライカに興味を抱き、信号で車が停止した際、神たちの車を撮影した。神は面白がって車を急発進させ、猛スピード で走り出した。赤城は慌てて後を追うが、対向車にぶつかりそうになり、急ブレーキを掛けた。神は車を停め、「大丈夫か」と笑った。彼 は赤城と美加代を連れてコテージに入り、フロント係に「一組追加」と言う。朔美から名前を問われた美加代は、時籐の名刺を渡した。 そのため、レジストレーション・カードには朔美と共に時籐の名前が記された。
街を徘徊した芽衣子は雨に濡れ、大佐の営むバーに入った。美加代はライカで4人の写真を撮影し、部屋を出て行った。神は赤城が朔美の 前の男だと知っても、余裕の態度を示した。彼は「温泉に入って来る。その間に、ややこしい話は終わらせておけ」と朔美に告げ、部屋を 出た。芽衣子は大佐に泉の写真を見せ、後のことを任せてバーを去った。ロビーに出た美加代は、写真館経営者の古山から声を掛けられた 。大佐は泉を暴行し、「明日中に街を出ろ」と脅した。
「君のためだったら何でもするから」とヨリを戻そうとする赤城に、朔美は「だったら、あの人を殺せる?」と問い掛けた。赤城は拳銃を 構え、余裕の態度を示す神を射殺した。赤城は激しく罵る朔美も射殺し、美加代を連れてコテージを後にした。芽衣子はバーへ行き、時籐 とは医大時代の同期である工藤浩一、その恋人・並木遙と会った。遙は彼女に、時籐の車を夕方に見たことを告げた。助手席に乗っていた 女がクレオの美容師だということも、彼女は知っていた。
芽衣子は工藤と共にカウンターへ行き、彼の話を聞く。工藤は、時籐が医療ミスで患者を死なせてから危険地帯へ積極的に赴くように なったこと、手都グループに雇われて人体実験で金を貰うようになったことを話した。手都医療グループの田辺がバーに現れ、芽衣子に声 を掛けた。悪酔いした工藤が殴り掛かり、乱闘騒ぎになってしまった。時籐の車を乗り捨てた赤城は、美加代を連れてアパートに戻った。 美加代は酒に薬を混ぜて飲み、赤城との心中を図った。翌朝、神と朔美の死体が発見され、神奈川県警の刑事・恩田真紀子や横浜署の刑事 ・柳町宗一らが動き出した。カードの名前や乗り捨てられた車から、時籐は重要参考人として警察に追われる身となった…。

監督は緒方明、オリジナル作品は1957年「死刑台のエレベーター」、脚本は木田薫子、脚本協力は猪爪慎一&村井さだゆき&保坂大輔、 製作は辻幹男&橋荘一郎&北尾知道&尾越浩文&井上隆由、エグゼクティブプロデューサーは葉梨忠男、プロデューサーは小椋悟、 アソシエイト・プロデューサーは安斎みき子&井上潔、撮影は鍋島淳裕、編集は矢船陽介、録音・整音は星一郎、照明は三重野聖一郎、 音響効果は今野康之、美術は磯見俊裕、美術デザイナーは鈴木千奈、特撮監督は尾上克郎、VFXプロデューサーは大屋哲男、 VFXスーパーバイザーは道木伸隆、音楽はYouki Yamamoto、ギター演奏は渡辺香津美。
主題歌:『ベッドタイムストーリー』Jazztronik feat. YUKI 作曲:野崎良太、作詞:YUKI、編曲:YUKI。
出演は吉瀬美智子、阿部寛、玉山鉄二、北川景子、柄本明、津川雅彦、りょう、平泉成、笹野高史、熊谷真実、田中哲司、堀部圭亮、 町田マリー、小市慢太郎、山田キヌヲ、上田耕一、福井博章、渡辺陽介、テイ龍進、諏訪太朗、原金太郎、斉藤陽一郎、並樹史朗、 川瀬陽太、村松和輝、塚原大助、千葉誠樹、原田裕章、今村有希、伊藤久美子、赤池高行、近藤孝宜、坂田龍平、白井雅士、中村貴子、 林摩耶、飯田貴和、吉岡睦雄、松丸友紀ら。


1957年にルイ・マル監督が撮ったフランス映画『死刑台のエレベーター』のリメイク。
芽衣子を吉瀬美智子、時籐を阿部寛、赤城を玉山鉄二、美加代を北川景子、柳町を柄本明、手都を津川雅彦、朔美をりょう、神を平泉成、 遠野を笹野高史、恩田を熊谷真実、泉を田中哲司、工藤を堀部圭亮、遙を町田マリーが演じている。
監督は『独立少年合唱団』『いつか読書する日』の緒方明。
それにしても、「手都(てと)」って、風変りな役名を付けたもんだな。

そもそもリメイクしようという企画の段階で、苦しいものがあると感じる。
しかも現代に舞台を置き換えてのリメイクなんだもんな。
まず冒頭、「大佐」と呼ばれる黒人が時籐に拳銃を届けるシーンで苦笑してしまう。なぜ届ける役が黒人なのか。
これがコメディーとか、あるいは荒唐無稽を狙ったアクション映画とか、そういうことなら話は分かる。でも、たぶんマジなサスペンスと して作っているんでしょ。それで黒人を配置するってのは無いわ。
横浜だから外国人が多いってことなのかもしれんが、そういう問題じゃない。
そりゃあ現在では多くの外国人が日本に暮らしているけれど、まだ日本映画に外国人を登場させる場合、違和感と隣り合わせにあるって ことを、製作サイドは肝に銘じた方がいいと思うよ。
ただし、もしかすると製作サイドは、かつて日活がやっていたムード・アクション映画みたいなテイストで作ったのかもしれないけど。

リボンで飾られた箱に拳銃を入れているというクサいギミックも、やはり苦笑を誘う。
そもそも、日本で殺人をやる時に、なぜ拳銃をわざわざ用意するのかと。
もっと簡単に手に入って、証拠の隠滅が容易な凶器が、幾らでも考えられそうなものだぞ。
オリジナル版の凶器が拳銃だからって、そこに固執する必要は無いはずでしょ。
「ヤクザと繋がりのある会長だから、拳銃を使って自殺しても不思議ではない。だから拳銃を使った」ということで納得しなきゃいかん のか。
そういう歩み寄りを観客に求められても困るぞ。

赤城とヤクザのトラブルはメチャクチャだ。
揉める原因となった出来事は描かれていないが、ヤクザのセリフを信じるなら、いきなり赤城が殴り掛かったらしい。なぜなのか。
あと、いきなり殴り掛かって来たにしても、ヤクザが警官をボコボコにするのは考えにくい。
これが世間知らずのバカな学生とかならともかく、ヤクザは組織に属しており、警官に暴行することがどういうことか理解しているはず だ。
余程のことが無い限り、彼らは警察に対して荒っぽいことはやらない。
リンチして拳銃を奪うとか、メチャクチャだ。

しかも、そこに通り掛かった美加代に対しては、口止めしようとか、襲撃しようということもなくスルーしている。
美加代は「赤城君」と駆け寄っており、拳銃を奪った警官の知り合いであることが明確なのに、どういう感覚なのか。
こいつらの思考回路が全く理解できない。
親分である神が、子分たちが持って来た拳銃を見て「制服警官の拳銃か、こいつはお宝だ」とニンマリしているのも、神経を疑う。
そんな感覚の親分だったら、そんなに長くトップに君臨し続けることは無理だったと思うぞ。
こいつ、神奈川県で最大勢力を誇る暴力団の親分なんでしょ。かなりの武闘派組織なのか、そいつらは。

そもそも、オリジナル版でチンピラだった赤城のポジションを、なぜ警官に変更したのか。
変更したメリットや意味がサッパリ分からない。
チンピラを警官に変更したことによって、「拳銃を奪った連中を見ていたら親分の情婦が元カノで、車で尾行したら、なぜか親分が急に 面白がってカーチェイスを仕掛け、なぜか気に入って同じコテージに泊まらせてくれる」という、無茶な展開が待ち受けている。

時籐が手都に拳銃を向けてから射殺するまでに、ダラダラと時間を掛けている。
しかも仕方の無い時間ではなく、「何が欲しい?」と質問されて、手都エチオピア病院建設における資金寄付合意書を見せ、サインさせる という時間だ。
そんなの、別に要らないでしょ。
15分しか時間が無いのに、殺害だけでなく合意書へのサインも目的だったのか。欲張りすぎだよ。
っていうか、拳銃を用意し、ロープを使って上の階へ行き、15分しか無い中で殺害しているけど、もっと上手い方法が幾らでもありそうに 思えてしまうのよ。
普段は手都の警護が厳重で近付けないとか、そういうことなら分からないでもないけど。

時籐は5時半で電源が落とされると聞いていたのに、なぜエレベーターを使うのか。
そりゃあ「気が動転していたから忘れていた」という理由は考えられるが、単純にアホとしか思えない。
そもそも、芽衣子と時籐の不倫関係は、手都だけでなく泉にも知られている。だったら手都が死んだ後、2人に疑いが掛かることは目に 見えている。
そういう設定にした意味は何なのか。何のプラスも無いでしょ。

赤城が時籐の車に乗り込んだ時、美加代は「何それ、犯罪じゃない?」と軽く言うだけで、すぐに同行する。
常連さんの車を恋人が盗んでいるのに、そんな軽いことでいいのかよ。
「ねえ、警官だってバレちゃうよ」と上着を掛けて制服を隠しているが、そのセリフ回しも、すげえ淡々としていて軽い。そこは、もっと 焦った様子があるべきじゃないのか。
監督は、どういう意図で、そういう「頭が空っぽな女」みたいな芝居を付けたのか。
あと、「なんで警官が頭のおかしな奴みたいな描かれ方になっているのか。だったらチンピラとか犯罪者という設定でいいじゃねえか」と いう疑問符が浮かんでしまう。

翌朝が訪れるまで、基本的に芽衣子はフラフラと歩き回っているだけ。その心情は、ほとんど見えて来ない。
途中で入る幻想的シーンには、何の効果も感じられない。ただでさえ退屈な映画を、さらに退屈にしているだけ。
途中でトレイシーという外国人少女に話し掛けられて英語で話すシーンとか、何の意味があるのか良く分からない。
工藤が時籐のバックボーンを彼女に語るシーンも、だから何なのかと。
彼と田辺の乱闘シーンも、何の意味があるのかと。

大佐は泉を暴行して「明日中に街を出ろ」と脅すが、これも何の意味があるシーンなのかサッパリ分からない。
後の展開に全く繋がっていないし。
そもそも、大佐というキャラそのものが要らないでしょ。
そうそう、忘れていたけど、芽衣子や赤城といった面々の様子だけでなく、時籐が脱出を試みる様子も何度となく挿入されている。
ただ、そこにサスペンスが全く感じられないという問題がある。

ラスト近く、フィルムを現像した柳町は芽衣子に彼女と時籐のツーショット写真を見せ、「会長は自殺じゃない」と言う。
その写真を証拠として、2人が共謀して殺したと断定しているのだ。
しかし、その写真は2人の不倫関係を示しているだけに過ぎず、犯罪の証拠としての直接的な力は持っていないでしょ。
だから、ミステリーの落としどころとしては、実は中途半端なままで終わっているんだよな。

(観賞日:2011年9月26日)

 

*ポンコツ映画愛護協会