『謝罪の王様』:2013、日本

[CASE 1:倉持典子]
東京謝罪センター所長の黒島譲は、「土下座を超える究極の謝罪方法、土下座の向こう側が存在する」「当センターの優秀なアポロジストのレクチャーを受ければ、どんなトラブルでも土下座で、場合によっては土下座を使わなくても切り抜けられる」と訴えるCMを映画館で流した。東京謝罪センターの所員は彼だけであり、オフィスも持っていない。彼は依頼者と喫茶店「泣きねいり」で会い、そこで謝罪の方法についてレクチャーする。
黒島に依頼して来た倉持典子は小さい頃から甘やかされて育った帰国子女で、謝ることが苦手だった。彼女は小磯一家の車に自分の車をぶつけてしまうが、謝罪せずに逃げ出そうとした。黄村家朗の屋敷に連行された典子は軽い態度で謝罪の言葉を口にするが、まるで気持ちが入っていなかった。顧問弁護士の高幡は、彼女に契約書を差し出した。典子は内容も読まずにサインしたが、黒島から「組織に示談金の400万を借金した形で、明日からデリヘルで働くことになっている」と聞かされた。
黒島は典子を連れて屋敷の前まで行き、怪我を押して謝罪に来たと偽装するために石で殴らせた。黒島は頭から血を流した状態で屋敷に駆け込み、典子の兄を詐称して土下座する。その後、黒島は屋敷に日参して掃除し、黄村の趣味であるカラオケに付き合い、献身的なサービスで相手の優越感を持続させた。その結果、彼は示談に持ち込み、典子は40万を支払うだけで済んだ。 司法書士を目指す典子は、黒島の下で働くことに決めた。典子がセンターのウェブサイトを作ると、すぐに依頼のメールが入った。

[CASE 2:沼田卓也]
系列会社で企画を担当している沼田卓也は、本社と共同でブラジャーを作るプロジェクトのために出向した。沼田は酔っ払って良く覚えていなかったが、食事会でプロジェクト担当者の宇部美咲に抱き付くなどセクハラ行為に及んで訴えられた。本人は美咲に謝罪したつもりだったが、軽薄で気持ちの感じられない態度だったため、余計に彼女を怒らせた。沼田は黒島と典子の前でも、平然と「商売柄、女を道具として見る傾向がある」と言い放った。
黒島は「日本人は誠意に弱い」と説明し、沼田を走らせて疲れた状態に追い込んでから美咲と会わせる。黒島は相手を見て言い分を聞くよう助言したが、沼田は典子の胸元ばかり見た。黒島は「人は怒ってる時に聞く耳を持っていない。相槌なんて何でもいい」と説明したが、沼田の変な相槌は美咲に気付かれる。黒島は「相手が怒りをぶちまけ終えたら褒めまくれ」と指示したが、沼田は褒め言葉のつもりで「エロいですね」と言って美咲を不快にさせた。
黒島が「目上の人に立ち会ってもらえ」と助言したので、沼田は父親を連れて行った。しかし父親も美咲をエロい目で見たので、逆効果でしかなかった。黒島が「大事な物を犠牲にしろ」と助言したので、沼田は自分の高級腕時計を美咲に差し出した。しかし、もちろん美咲を怒らせるだけだった。典子は黒島に、本社側が彼女に紹介した国際弁護士の箕輪正臣は大学時代の恩師だと話す。箕輪は典子と沼田に対し、「示談は120パーセント無い」と断言した。典子から報告を受けた黒島は、「150パーセントの謝罪をするだけです」と述べた。彼はセクハラで訴えられて自殺した男の幽霊に化けて美咲の前に現れ、彼女を動揺させた。その直後に沼田が美咲の元へ行き、頭を下げた。作戦は成功し、美咲は沼田を許した。

[CASE 3:南部哲郎 壇乃はる香]
南部英里人という男が傷害事件を起こし、警察に逮捕された。彼は大物俳優である南部哲郎と壇乃はる香の息子だった。南部と壇乃は謝罪会見を開くことになったが、離婚しているので同席わけにはいかないのだと黒島に説明した。黒島は会場へ行き、南部にリハーサルを指示した。南部が若い新妻を紹介しようとしたので、黒島は呆れた。彼が臭すぎる芝居で謝罪したので、黒島は注意した。すると本番では肩の力を抜き過ぎ、お辞儀の時間も短く、頭を上げた時の表情も気が抜けたものだった。質疑応答でのコメントも酷いものであり、南部はマスコミからバッシングを浴びる羽目になった。
後日、今度は壇乃が謝罪会見を開くが、十二単を来て仕事の宣伝に利用したため、やはりバッシングを浴びた。その後、南部と壇乃は互いに釈明会見を行うが、完全に論点がズレていた。その後、2人は謝罪会見と釈明会見を繰り返すが、ことごとく論点がズレていた。だが、それも黒島の作戦の内だった。彼は「怒りという感情は時間が経つと、原因や発端はどうでも良くなる。その熱が冷める時こそ、謝罪する絶好のチャンス」と捉えていた。
だが、釈放された英里人の格好とコメントが世間の反感を買うものだったため、黒島の計画は狂ってしまった。すると典子が「なんでカメラの前で謝んなきゃいけないんですか」と言い、本当に謝ってほしいのは被害者Aではないかと疑問を呈した。典子は南部と壇乃を被害者Aの元へ連れて行き、頭を下げさせた。すると被害者Aは、「謝らなきゃいけないのは、むしろこっちなんで」と恐縮した。
被害者Aは典子たちに、事情を説明した。事件のあった夜、彼は酔っ払った状態で英里人に声を掛けた。失礼な態度だったにも関わらず、英里人は親切に対応した。しかし被害者Aは執拗に絡み、南部と壇乃を扱き下ろす言葉を浴びせた。そこで英里人がカッとなり、殴ってしまったのだ。話を聞いた南部と壇乃は、英里人の親を思う気持ちを知って涙を浮かべた。被害者Aは2人に、「私が言うのも何ですけど、いい息子さんですね」と告げた。

[CASE 4:箕輪正臣]
箕輪は26歳で司法試験に合格し、コロンビア大学のロースクールへ留学した。27ヶ国で弁護士資格を取得した一流の国際弁護士だったが、弱みを抱えていた。彼は黒島と会い、娘に謝りたいと打ち明けた。箕輪は娘が6歳の頃に離婚し、それからは別々に暮らしている。娘が3歳半の頃、箕輪はマンハッタンのアパートに家族3人で暮らしていた。彼はアメリカでの資格取得を目指し、猛勉強の日々だった。だが、そんなことを知らない娘は、構ってほしくて勉強中の箕輪の部屋に何度も入って来た。
娘は箕輪の前で、「わき毛ぼーぼー、自由の女神」と叫びながらポーズを取った。箕輪は知らなかったが、テレビ放映していた映画の有名な台詞だったらしい。箕輪が注意しても、娘は何度も部屋に入って来て同じことを繰り返した。試験当日の朝、寝過ごした箕輪は慌ててネクタイを探した。クローゼットに潜んでいた娘が同じことをやった時、彼は思わず平手打ちを浴びせてしまった。そのことを娘が覚えているかどうかは分からないが、謝りたいのだと箕輪は説明した。その娘が典子だと聞かされ、黒島は驚いた。

[CASE 5:和田耕作]
シネバーゲンセールという会社で映画プロデューサーをしている和田耕作が、黒島の元を訪れた。和田は60万部のベストセラー小説を基にした映画を製作したのだが、内容にクレームが入ったのだ。ヒロインに犬が駆け寄るシーンで、背後にマンタン王国の皇太子が写っていたことが問題だった。オタクの皇太子はお忍びで来日していたのだが、助監督が補充のエキストラとして使った。スタッフも誰一人として気付かず、皇太子はエキストラとして出演する形になったのだ。
マンタン王国では皇族の肖像権侵害に厳しく、懲役20年の刑になる。しかも監督の演技指導によって、皇太子にビールを飲ませたり串に刺さった肉を食べさせたりしていた。その行為は両方とも重罪であり、全て合わせると懲役90年か銃殺刑になるのだ。マンタン王国では反日デモも起きていた。黒島の指示を受けた和田、監督、配給会社社長は土産を持参し、謝罪のためにマンナン王国へ赴いた。しかし土産のこけしがマンタン王国では捕虜になった過去を思い出させる形だったため、逆に怒りを買う羽目になってしまった…。

監督は水田伸生、脚本は宮藤官九郎、プロデューサーは飯沼伸之&和田倉和利&福島聡司、エグゼクティブプロデューサーは奥田誠治、製作指揮は城朋子、製作は門屋大輔&市川南&藤門浩之&伊藤和明&寺田篤&松田陽三&長坂まき子、撮影は中山光一、美術 タイトルデザインは都築雄二、照明は松本憲人、録音は鶴巻仁、編集は平澤政吾、振付は八反田リコ、VFXスーパーバイザーはオダイッセイ、音楽は三宅一徳、音楽プロデューサーは平川智司、主題歌「ごめんなさいのKissing You」はE-girls。
出演は阿部サダヲ、井上真央、竹野内豊、松雪泰子、高橋克実、岡田将生、尾野真千子、荒川良々、濱田岳、小野武彦、津嘉山正種、岩松了、松本利夫、嶋田久作、濱田マリ、白井晃、六角精児、中野英雄、松尾諭、川口春奈、小松和重、鈴木伸之、笠原秀幸、美波、真飛聖、井上琳水、大川ヒロキ、吉永秀平、若林瑠海、深水三章、田村健太郎、柄本時生、野間口徹、池田鉄洋、中村靖日、ジョン・カビラ、阿部祐二、広瀬すず、武田伸也、川崎秀明、tiaRa、花戸祐介、三沢幸育、尾畑美依奈、本田遼、相川由里、川合千里、荒井志郎ら。


監督・水田伸生、脚本・宮藤官九郎、主演・阿部サダヲという『舞妓 Haaaan!!!』『なくもんか』のトリオが結集して作った映画。
黒島を阿部サダヲ、典子を井上真央、箕輪を竹野内豊、壇乃を松雪泰子、南部を高橋克実、沼田を岡田将生、美咲を尾野真千子、和田を荒川良々、マンタン王国通訳のワクバルを濱田岳、国松を小野武彦、マンタン国王を津嘉山正種、映画監督を岩松了、船木を松本利夫、総理大臣の大戸谷を嶋田久作、外務大臣の枝下を濱田マリ、配給会社社長を白井晃、高幡を六角精児、黄村を中野英雄、小磯一家の運転手を松尾諭、沢尻エリカ風の清純派女優を川口春奈、マンタン王国皇太子を野間口徹、ラーメン店の店長を池田鉄洋が演じている。
[CASE 5]で問題になる劇中映画のヒロイン役で、広瀬すずが映画デビューしている。

[CASE 1]は黒島や東京謝罪センターを紹介するためのエピソードと言っても良く、短くまとめてある。
だが、紹介編なんだから、まずはオーソドックスなケースを描くべきだろうに、依頼人である倉持典子を「まるで謝罪する気の無い女」というクセの強い性格に設定してある。
彼女は語り手の役回りも担当するんだから、もっとフラットでクセの無いキャラクターに設定しておくべきじゃないのか。
そもそも、彼女は「謝ることが苦手」と自分のことを説明しているけど、そうじゃないだろ。「謝ることが苦手」なのと、「悪いことをしても、まるで悪いと思っていないから謝罪しない」ってのは全く別だぞ。

典子が黒島の元を訪れるタイミングは、ちょっと変だ。
彼女が契約書の内容を知り、「このまま放置しているとヤバいから相談する」ということなら分かる。だけど彼女は、その時点で契約書の内容を知らないのだ。自分が400万の借金をしたことになっており、デリヘルで働かされることを知らないのだ。
だったら、そこまでの彼女の軽すぎる態度からすると、今回も軽く考えて放置するんじゃないかと。
あと、典子が連行された先を「事務所」と説明しているけど屋敷だ。そりゃ事務所と家屋が一緒になっているケースもあるだろうけど、あそこは明らかに事務所じゃなくて屋敷だ。
それと、黄村のことを「組長」と言ってるけど、彼は幹部のはずだし。色々と雑だなあ。

「謝罪をビジネスにする」というコンセプトは面白そうなのに、それを膨らませる作業が雑だし、方向性も間違えていると感じる。
同じトリオで作った『舞妓 Haaaan!!!』と、全く同じ失敗を繰り返していると感じる。
コンセプトからすると、「黒島が巧みな方法で謝罪し、トラブルを解決する」というのを見せて行くべきだろう。
しかし、結果的にトラブルは解決しているものの、黒島の仕事ぶりは、お世辞にも見事だとは言えないのである。

最初のケースで黒島は、掃除をしようとして階段から転落し、煙草に火を付けようとしてライターの火を大きくしてしまい、肩を揉む時に強くやりすぎるという風にヘマを繰り返す。
それじゃダメでしょ。相手の機嫌を取るためにやっている行為なんだから、逆に怒りを買うような結果を生んだらダメでしょ。なぜか黄村は腹を立てることもないけど、それはラッキーに過ぎない。
しかも、その手口も面白味がゼロなんだよな。ただ相手を接待して機嫌を取るだけで、それを誇張して笑いに転化することも出来ていない。
阿部サダヲの騒がしい芝居に頼りまくって、それが空回りするだけという『舞妓 Haaaan!!!』と同じ現象が起きている。

[CASE 2]で沼田の美咲に対する軽薄すぎる謝罪について知った典子は、「それ、謝ってない」と腹を立てる。
だが、彼女が小磯一家とトラブルを起こした時の謝罪も同じようなモノだったし、やはり沼田と同様に悪いことをしたという感覚が欠け落ちていた。
だったら、黒島が「お前も同じだろ」的なツッコミでも入れるのかというと、そういうのは何も無い。
だから「典子が自分のことを棚に上げて沼田を批判している」と観客に思わせるだけで、そこはスルーされる。なんだよ、そりゃ。

沼田も典子と同じく、自分が悪いことをしたという感覚は全く無い。だから2つ続けて、「悪いことをしたのに謝罪の意思が全く無い奴の依頼を受けて、黒島がトラブルを解決する」というエピソードになっている。
別に人情劇やヒューマンドラマじゃないから、依頼人が同情を誘うような人物であることが必須というわけではない。
だけど、特に沼田のケースなんかは、こいつが示談で済むようになっても、そこに「トラブルが無事に解決された」という爽快感が無い。
とは言え、この映画の仕上がりからすると、仮に依頼人を可愛そうな人物に設定しても、黒島の仕事ぶりや解決までの筋書きがダメだから、まるで爽快感は得られないだろうけどさ。

黒島は典子のケースの時、彼女の代理のような立場で小磯一家へ出向いて謝罪する。しかし沼田の時は、彼に助言して本人に行動させている。
最初のケースで「謝罪の代行屋」という印象を受けたので、沼田のケースが違うパターンであることには少し戸惑った。だったら典子の時も、なんで本人にやらせないのかと。
で、沼田のケースでも、やはり「ヘマを繰り返す」とう内容にしてあるのね。
それは黒島のヘマじゃなくて沼田のヘマなんだけど、作戦に失敗していることは確かなわけで、そうなると黒島の助言に説得力が無くなる。そこは黒島の作戦通りに進むような内容にすべきだと思うんだけどなあ。

「黒島がセクハラで訴えられて自殺した男の幽霊に成り済ます」という作戦は、あまりにもデタラメすぎる。そのデタラメを許容できるような勢いもパワーも、この映画には無いぞ。そして、その作戦を納得させるための種蒔きも出来ていない。
そもそも、沼田のトラブルが解決に至ったのって、「沼田がイケメンであり、美咲は本気で彼を嫌ったり憎んだりしているわけじゃない」ってのが大きいんだよな。もしも本気で美咲が沼田を嫌っていたら、絶対に訴訟まで行ってるぞ。
つまり、このケースも典子の時と同様、ただラッキーだっただけにしか思えないのよ。
あと、黒島は典子に「これが150パーセントの謝罪だ」と言ってるけど、何がどのように150パーセントの謝罪なのかはサッパリ分からないぞ。

[CASE 3]でも、やはり「依頼人がヘマを繰り返す」というトコロで笑いを作ろうとしているけど、それが間違いなのは前述した通りだ。
このエピソードでは、お辞儀の角度や秒数について具体的な数字を出しているけど、そういう要素を厚くすりゃいいのに。謝罪に関する具体的な数値を幾つも並べてインチキなハウツー物っぽい仕上がりにするとか、そういうアプローチの方が良かったんじゃないかと。
釈放された英里人が謝罪する様子をテレビで見た時、典子は黒島に「なぜカメラの前で謝罪する必要があるのか。視聴者は面白がっているだけであり、本当に謝ってほしいのは被害者ではないかと」と指摘する。そう言われて、黒島は「南部と壇乃が被害者を訪ねて謝罪すればいいのだ」と思い付く。
だけど、それを典子から指摘されて初めて気付くようではダメでしょ。所長なんだから、むしろアンタが気付いて典子に教えるべきじゃないのかと。
この映画、黒島をボンクラなキャラにしてあるんだけど、それは間違いだと思うぞ。

それと、典子の指摘を受けた黒島が「南部と壇乃を被害者の元へ行かせて謝罪させる」という方法を取っているのも、実は間違っていると感じるんだよね。
「本当に謝罪すべき相手は誰なのか」という意味では、それが正解だとは思うのよ。だけど彼が南部と壇乃から依頼を受けたのは、「謝罪会見を開かなきゃいけないので何とかしてくれ」という内容だったはず。
つまり黒島が本来やるべきことは、世間やマスコミの批判を浴びない上手な謝罪会見の開き方をレクチャーすることじゃないのかと。
そこを放棄して被害者に謝罪させるってのは、ピントがズレてるでしょ。結局、南部と壇乃が会見でバッシングを受けた問題は放置されたままだし。

[CASE 4]で箕輪が黒島に依頼を持ち掛けるのは、筋書きとして無理がある。
そこまでに描写されていた箕輪のキャラ造形からすると、沼田の裁判を巡って対立する関係である黒島に、自分の弱みを簡単に打ち明けるようなことはしないだろう(このエピソードは示談が成立する前に起きており、時系列をシャッフルして構成されている)。
それと、そこは「CASE2のラストで典子が喫茶店に来た時に座っていた沼田は、実はゴムマスクを被った箕輪だった」ということで、「あの時のアレは、そういう意味だったんだよ」という種明かしがあって、伏線を回収しているんだけど、そもそも「ゴムマスクを被ると沼田に変身する」という無茶な設定に乗り切れないし、箕輪と典子の関係については解決されてないし。
そこは映画のラスト近くになって解決されるけど、[CASE 4]としている以上、構成としては、そのラストで箕輪の依頼も解決される形にしておくべきじゃないかと。

[CASE 5]については、マンタン王国のモデルになっているのがブータンという部分に引っ掛かる。
あの国を、こんな形で侮蔑するような扱いにするのは、果たしてどうなのかと。
そりゃあブータンや韓国や北朝鮮とは違うから、いちいち目くじら立てて抗議したりすることは絶対に無いと思うよ(実際、抗議は無かった)。
だけど、ちょっと無神経じゃないかと感じるんだよなあ。
国際的な問題に対して、意識がユルすぎるんじゃないかと。

それと、無駄にスケールを広げ過ぎているという印象も受けるんだよね。
マンタン王国が日本政府に対して公式に謝罪を要求するようなレベルになったら、もはや黒島の手に負える問題じゃないでしょ。
劇中では黒島が総理大臣に謝罪を求めているけど、インチキな会社の所長を務めているような奴が、そんな役回りを担当させてもらえるわけがないんだし。
そこも前述した「幽霊に成り済ます」とか「ゴムのマスクを被ると沼田に変身できる」ってのと同様、それを甘受させるための作業をやっていないので、「コメディーだから」ということで許容するのは無理なのよ。

この[CASE 5]も今までのエピソードと同じく、謝罪する際にヘマをやらかすことで事態が悪化するという展開にしてある。
どうやら「ヘマが繰り返される」というトコロで笑いを作ろうとしているようだけど、その方向性は完全に失敗だろう。黒島のアイデアや作戦は、ちゃんと成功する形にしておくべきだよ。
阿部サダヲという役者の資質からすると、「ヘマの連続で事態が悪化」という形にした方が合うかもしれない。
だけど映画としての質や面白さを考えると、黒島を「優秀な謝罪のプロ」に設定すべきだわ。

マンタン王国の問題が解決される前に、[CASE 6]として黒島の過去や謝罪センターを始めるきっかけとなった出来事が描かれる。
だけど、黒島の過去とか謝罪センターを作るきっかけなんて、どうでもいいわ。
しかも、そういうのを描いたせいで整合性が取れなくなるし。
彼は幼い頃に悪戯をして土下座して人々の注目を浴び、それによって謝るのが快感になった男なんだけど、それならセンターで依頼人に謝罪の方法をレクチャーするのは違うでしょ。
自分が謝罪することが快感なら、謝罪の代行業務をやるべきでしょうに。

大人になった黒島はラーメン店で不愉快な思いをして、さらに店員の湯切りの湯が頬に当たったため、謝罪を要求する。
だけど、食べ終えて店を出て1時間以上も経ってから店に戻り、声を荒らげて謝罪を要求するんだよね。
それって、もう黒島に共感できないわ。
しかも、その店員が辞めた後も、店に対して本人の住所を教えるよう要求するなどして執拗に食い下がり、店は最終的に潰れちゃうんだぜ。それって、もはやタチの悪いクレーマーになってるじゃねえか。

その経験で黒島は、「本人に謝ってほしいだけという思いをしている人は他にも大勢いるはず。そして、謝りたいと思っている人も大勢いるはず」と考え、謝罪センターを始めている。
だけど、まず「本人に謝ってほしいだけだと思っている人は大勢いる」という考えから「じゃあ謝罪センターを作ろう」ってのは、ちょっと飛躍していると感じる。謝罪センターを作って依頼人にレクチャーしても、それが被害者に取って謝ってほしい本人かどうかは分からないんだし。
しかも、黒島は典子のケースで兄を詐称して謝っているし、マンタン王国の件でも閣僚を謝罪に行かせている。それは本人じゃない人間が謝罪していることになるでしょうに。
無駄な説明を入れて、それによって矛盾を生み出しているんだから、どうにもならんぞ。

「土下座の向こう側なんてホントは無い」と吐露した黒島だが、「わき毛ボーボー、自由の女神」は南部が過去にマンタン王国の将軍を演じた映画で最大級の謝罪として使っていた名台詞だということが判明し、それを総理大臣がやることで問題は解決する。さらに、黒島が謝ってほしかったラーメン店の店員が喫茶店へ来て、典子から教わった「わき毛ボーボー、自由の女神」で謝罪する様子も写し出される。
単なるアホなセリフのように思えた「わき毛ボーボー、自由の女神」を重要な要素として使い、張っておいた伏線を回収しているんだから、ホントは「見事な構成」となるべきなんだろう。
だけど、複数のキャストに何度も「わき毛ボーボー、自由の女神」をやらせるのは、どうしようもなく滑っている。
もちろん感動なんて無いし、笑いも無い。ひたすらに寒々しいだけだ。

ともかく、そんな寒い決着で全てが終わったと思いきや、[CASE 7]という表示が出る。
もうエンディングロールしか無いはずじゃないかと思っていたら、そのエンディングロールを[CASE 7]として扱っている。で、そこではE-girlsが登場し、阿部サダヲやVERBAL、Exileのパフォーマーなども加わって主題歌の「ごめんなさいのKissing You」をパフォーマンスする。
もはや、これがE-girlsのプロモーション・フィルムであり、そこまでの内容は全て歌が入るまでの前フリに過ぎないのかと思ってしまうぐらいだ。
ただしプロモーション・フィルムとして捉えた場合、エンディング部分の質はそれなりに高いと思う。でもプロモーション・フィルムとして捉えた場合、そこまでの本編は邪魔なだけ。

(観賞日:2015年3月29日)

 

*ポンコツ映画愛護協会