『ソウル』:2002、日本&韓国
韓国。成田へ向かう飛行機の出発時間に遅れそうな早瀬祐太郎は、大量の荷物を抱えて空港へ向かっていた。その途中、パトカーに追跡された車が歩道を暴走し、赤ん坊を抱いた母親に突っ込む様子を彼は目撃した。早瀬は母子を救い、車に飛び乗って助手席の男と格闘になる。助手席の男が転がり落ち、早瀬は襲い掛かった。男が拳銃を構えて「この野郎」と怒鳴ったので、早瀬は日本語に驚いた。揉み合いの末、早瀬は誤って男を射殺した。そこへソウル市警の警官隊が駆け付け、早瀬は警察署へ連行された。
ソウル市警のアン刑事たちは早瀬の所持品を調べ、警視庁の警察手帳を発見した。警視庁に確認を取ったアンたちは、早瀬が逃亡犯を護送して来た刑事の一人だと知った。早瀬は手錠を外されるが、そこへ刑事部長のキムが現れて殴り掛かった。キムは「お前のせいで重要な犯人を死亡させた。ここは韓国だ。日本人の出る幕は無い」と怒鳴り、女性刑事のキョンヒが日本語で通訳した。アンは早瀬に72時間の滞在許可が出たことを知らせ、その間に目撃した犯人を特定するよう要求した。
早瀬はキョンヒから、65日間で32件の現金強奪事件が起きていることを教えた。キムたちが事件について話し合いを始めたので、早瀬は死んだ男が日本人であることを伝えた。韓国警察庁情報局のチェ主任が部下を率いて現れると、キムは露骨に不快感を示した。チョはキムに「市警の捜査が遅れているせいで、我々まで駆り出されることになった」と言い、会議室を借りて仕事を開始した。早瀬はパソコンに登録された前科者のリストをチェックするが、突如としてハングルのメッセージが表示された。それは早瀬の使っているパソコンだけでなく、全ての端末がハッキングされていた。
キョンヒは中央コンピュータのハッキングが毎日行われていること、「民族の夜明け」という組織がアジア首脳会議の開催阻止を要求していることを早瀬に説明した。アジア首脳会議は3日後であり、陸軍基地からはプラスチック爆弾が盗み出されていた。その夜、日本の外相である尾関は韓日合同銀行の開店記念式典に出席するため、韓国に到着した。警察の寮を探していた早瀬は、屋台を営むイ老人と少年のミンチョルがチンピラたちに絡まれている様子を目撃した。早瀬はチンピラたちを叩きのめし、その場から退散させた。日本語の達者なイ老人は、近くに韓日合同銀行が開店するので立ち退きを迫られていることを早瀬に語った。
次の日、早瀬が遅刻して警察署に赴くと、キムたちが出掛けるところだった。キョンヒから現金輸送車が見つかったことを聞いた早瀬は、強引にキムの車へと乗り込んだ。キムは犯人の身許を特定しろと要求するが、早瀬は「輸送車を見れば手掛かりになるかもしれない」と譲らなかった。同じ頃、韓日合同銀行では関係者を招いた説明会が開かれていた。為替担当重役のカン・ヨンスは、外務次官に挨拶した。かつてヨンスはソウル中央銀行の東京支店に勤務しており、外務次官も知るほど有名なディーラーだった。
新たな現金強奪事件の発生現場に到着した早瀬は、犯行規模に比べて強奪する金額が少ないことに疑問を抱く。野次馬に視線を向けた早瀬は、逃走車を運転していたペク・チョンスを発見した。早瀬はペクを追跡するが、捕まえることは出来なかった。ソウル市警と情報局は、死んだ犯人が加藤高明という新左翼の活動家であること、8年前に東アジア解放戦線に参加していることを突き止めた。東アジア解放戦線は民族の夜明けと手を組んでいる組織だ。そのため、ソウル市警は現金強奪事件も民族の夜明けの仕業ではないかと推測した。
早瀬はキョンヒから、かつてキムが合同捜査で日本に滞在していたこと、その頃は今と違って穏やかな性格だったことを語る。その頃のキムは韓国警察庁に所属しており、チェの上司だった。長官候補とまで呼ばれていたキムだが、1年前に職を解かれてソウル市警へ異動になったのだと彼女は話した。その夜、屋台を訪れた早瀬は、ミンチョルが両親を交通事故で亡くしていること、イ老人が引き取って育てていることを知った。ペクを目撃した早瀬は、追い掛けようとする。しかし走って来た車とぶつかり、犯人を見失った。車を運転していたカンは早瀬に謝罪し、「何かありましたら、こちらへ」と名刺を渡して去った。
翌日、5億ドルの現金が日韓合同銀行へ運び込む作業が行われ、キムは厳重な警備を指揮する。何事も無く無事に作業は終了するが、尾関が車ごと失踪したという知らせが届いた。警察署のパソコンがハッキングされ、拘束されている尾関の姿が写し出された。そして画面には、「50億ウォンを用意して明日の指示を待て」という民族の夜明けの要求が表示された。万が一の事態があれば外交問題にも発展するため、韓国政府も事件の解決に乗り出した。
早瀬は外務大臣を誘拐して5億円程度の身代金であることへの疑問を抱き、「どうやって現金を受け渡しするんだろう」と口にする。発信機からの電波をキャッチしたソウル市警の面々が江華島へ向かうと、早瀬はSWATに紛れて車に乗り込んだ。SWATは廃墟に突入し、武装グループを殲滅した。外で待機していたキムの前に、逃亡を図るペクが現れた。キムは拳銃を構えるが、過去の出来事を思い出して発砲できなかった。早瀬が拳銃を握り、ペクの右肩を撃った。駆け付けた刑事たちがペクを拘束し、チェは発砲しなかったキムを批判した。
廃墟に入った早瀬はジュラルミンケースを開き、時限爆弾を発見した。慌てて早瀬は刑事たちを避難させ、全員が外へ出た直後に爆発が起きた。廃墟に尾関の姿は無く、ソウル市警と情報局は犯人の仕掛けた罠だと確信した。キョンヒは早瀬に、キムが東京で捜査中に誤って部下を射殺してしまったことを明かした。事件が起きた日付を聞いた早瀬は、あることに気付く。早瀬が屋台にいるとキムが現れ、「お前の役目は終わった。日本へ帰れ」と告げた。早瀬は「滞在許可は13時間残ってます」と言い、部下の死を引きずっているキムに昔の自分を取り戻すよう説教した。東京の事件で命を落としたのは、早瀬の兄だった。
翌朝、早瀬が警察署で犯人の目的について考えていると、滞在許可の72時間が経過した。その直後、パソコンがハッキングされ、「3時間以内に50億ウォンを日本円に両替しろ」というメッセージが表示される。政府は事件解決のため、それだけの日本円がある韓日合同銀行に協力を要請した。金庫のロックが解除されるのは明日の御前9時を待たねばならなかったが、カンは「管理システムのメインコンピュータを切断すれば開く」と説明した。ただし、復旧までに時間が掛かるため、明日の開店は不可能になると彼は述べた。
政府は緊急事態という判断により、メインコンピュータの切断を要請した。金庫のロックが解除されると、警察署のパソコンには「女2人で競馬場に金を運ばせろ」という新たなメッセージが表示された。発信機が作動したため、刑事たちは出動する。しかしキムも行こうとすると、チェが「貴方の仕事は無い」と待機を命じた。他の刑事たちが競馬場へ出向く中、早瀬、キム、キョンヒの3人だけが警察署に留まった。早瀬は犯人の行動に疑問を抱き、考えを巡らせる…。監督は長澤雅彦、脚本は長谷川康夫、製作は亀山千広&島谷能成&気賀純夫&藤島ジュリーK.、企画は藤本俊介&関一由&武政克彦&藤原正道、プロデューサーは小滝祥平&遠谷信幸&松野博文&尾越浩文、アソシエイトプロデューサーは加藤悦弘&千野毅彦&関口大輔&青木真樹、撮影は山本英夫、照明は中村裕樹、録音は小野寺修&白取貢、編集は奥原好幸、音楽は住友紀人、音楽プロデューサーは慶田次徳。
韓国ユニット プロデューサーはチャ・スンジェ&イ・ジョンハク、特殊効果はジョン・ドアン&イ・ヒギョン、アクション監督はジョン・ドゥホン、美術はジョ・ソンウォン。
出演は長瀬智也、チェ・ミンス、キム・ジヨン、イ・チャンヨン、チェ・ソンミン、チェ・ソン、ジャン・フン、シム・ゼウォン、ゴ・ジンミョン、ジョン・ハンソク、ウォン・プンヨン、カン・ギウォン、イ・ドヒョン、チェ・ジェソン、パク・キョンファン、パク・ヨンジン、ハム・シンヨン、キム・ドンウク、リッキー・チャン、ヤン・ギルヨン、カン・ヒョンス、イ・ジョンホ、トットリ・カズミチ、パク・ヒョンスン、ジョン・ヘリョン、イ・ヨン、シン・シンボム、チェ・ソンウン、ジョン・ソンガップ、ヤン・ジェボン、ヤン・ヨンジュン、ジョン・ジェス、クォン・クァンオ、キム・テヨン、ジョ・ドゥリ、キム・ソンシム、アン・ソヨン他。
『ココニイルコト』の長澤雅彦が監督を務めた日本と韓国合作映画。2002年日韓国民交流年記念作品。
早瀬役の長瀬智也は、これが映画初出演にして初主演。日本人キャストは彼だけのようだ(外務次官役の「トットリ・カズミチ」は日本人の名前だし日本語の台詞を話しているが、カタカナ表記なので国籍が違うのかもしれない)。
ユンチョルをチェ・ミンス、キョンヒをキム・ジヨン、チェをイ・チャンヨン、ヨンスをチェ・ソンミン、イ老人をチェ・ソン、ミンチョルをジャン・フンが演じている。公開当時は「『ホワイトアウト』+『シュリ』の最強スタッフが贈る、新世紀フルメタル・アクション超大作、誕生!」というキャッチコピーで宣伝されていた。
脚本の長谷川康夫、撮影の山本英夫、音楽の住友紀人、録音の小野寺修が『ホワイトアウト』、特殊効果のジョン・ドアン、アクション監督のジョン・ドゥホンが『シュリ』のスタッフである。
この映画で特殊効果は重要な役割を持たないので、「アクション演出だけは韓国に任せた日本映画」って感じかな。冒頭、荷物を持って走る男が登場し、台詞を口にするが、その顔は画面に写らない。母親と赤ん坊を突っ込んで来る逃走車から助けた時、初めて長瀬智也の顔が画面に登場する。
主演俳優の顔を見せるまで勿体ぶるのは、かつてのスター映画では良く使われていた手法だ。
だが、この作品では、それが効果的な演出とは言えない。
冒頭で登場した男が長瀬智也なのは分かり切っていることで、だから彼の顔が初めて登場しても「でしょうね」と思うだけ。「よっ、待ってました」とか、そんな気持ちの高まりは無い。最初に空港のアナウンスがあるし、町の様子も写し出されるので、そこが日本じゃなくて韓国のソウルであることは伝わる。っていうか、公開前の情報をチェックしていれば、ソウルが舞台になっていることは知っているだろうしね。
ただし、アピールとしては物足りなさがある。だから「早瀬が銃を突き付けた犯人の日本語を聞いて驚く」という仕掛けが、ちょっと弱くなってしまう。
ハングルだらけの環境の中で、そいつだけが日本語を使うからこそ、その違和感が際立つわけで。
ってことは、そこまでに「早瀬がいる場所では人々が韓国語を喋っている」ってことをアピールしておいた方が良かったんじゃないかと。根本的なことを言ってしまうと、これってソウルを舞台にしている意味があんのかな。
いや、もちろん日韓の合作だから、韓国を舞台にしているってことはあるんだろうと思うのよ。あと、警察の銃撃戦を描いた場合、日本だとリアリティーが欠如してしまうという問題もあるだろうしね。
ただ、トータルで考えた時に、日本を舞台にして、そこに韓国サイドから数名の俳優を呼んで製作した方が良かったんじゃないかなあと。
オール韓国ロケによってスケール感を出したかったのかもしれんけど、まるで出てないし。早瀬がペラペラの軽すぎるキャラなのは、大きな欠点となっている。そんな奴が、なんで逃走犯を韓国まで護送する重要な任務を任されているのかと。
これが「面倒な仕事だから問題児に押し付けた」とか、「クビにしたい上司が、問題を起こすことを期待して厄介な仕事を任せた」とか、そういう設定なら、早瀬がボンクラでも分からなくはないのよ。だけど、そうじゃないわけで。
普通に仕事の出来る刑事のはずなのに、止むを得ない事情があるわけでもなく、いきなり遅刻しているし。しかも、翌日のシーンでも警察署へ行く時間に遅れているから、常習犯ってことになる。そのキャラ設定は、この映画には合っていない。
っていうかさ、他にも刑事が来ていた設定だなんだから、だったら彼だけが飛行機の時間に遅刻するのは不自然でしょ。同じホテルに宿泊していたはずだから、同僚が起こすでしょうに。早瀬は韓国語が理解できない設定だが、これが全く効果的に機能していない。
警察の人間と話す時にはキョンヒが通訳として仲介する形を取っているが、これは会話のテンポを悪くするだけだし、「言葉が通じない」という仕掛けまで半殺しにしている。
っていうか、通訳がいようがいまいが、「言葉の壁」という仕掛けは全く機能していない。
そこを使わない代わりに「韓国と日本のルールやマナーの違い」を使おうとしているのかもしれないが、こちらも申し訳程度だ。そんなことよりも、キムが早瀬に不自然なほど厳しく当たるのは、「個人的な感情」ってのが圧倒的に強いんだよね。
っていうか、それしか無いと言ってもいいぐらいなのだ。何しろ他の刑事たちは、早瀬に「韓国と日本の違い」ってのをアピールする様子は全く無いのでね。
そうなると、「日本人が一人で韓国の刑事たちの中に入り込む」とか「言葉が通じない環境で仕事をする」という要素が無意味になってしまうでしょ。
そういう設定を用意した以上、そこを活用するシナリオを構築すべきじゃないのか。キムは早瀬に対して憎いのかと思うほどキツく当たり、やたらと怒りまくっている。
「厳格なベテラン刑事と、熱血タイプの新米刑事」みたいな関係性を構築したいんじゃないかとは思うが、だとしても失敗している。
まず前述したように、早瀬は単に軽いだけ。
キムの方は、やたらと早瀬を殴るのが単なる乱暴者でしかない。キムが何でもかんでも「ここは韓国だ」の一言で片付けてしまうのは、ほとんどギャグにしか聞こえない。
どっちのキャラも造形がバカバカしすぎて、ちっとも魅力的ではない。キムの早瀬に対する「自分の仕事をしろ」という指摘は、百パーセント正しい。
早瀬が現金輸送車の発見現場まで強引に同行したり、新たな事件が発生した時に内緒で現場へ乗り込んだりするのは、どう考えたってメチャクチャな行動である。
「はみ出し者の熱血刑事」を意識したんだろうけど、そんなことより一刻も早く犯人の身許を特定しろと言いたくなる。
そっちを終わらせた上で捜査に参加するなら、まだ分からんでもない。でも、そっちを放り出しているんだから、「やるべき仕事をやっていない」ってことになる。そもそもキムが主張するように、強奪事件の捜査はソウル市警の仕事であって、たまたま犯人と揉み合って死なせてしまった日本の刑事が深く介入するのは御門違いも甚だしい。
指示された仕事だけを片付けて、後はソウル市警に任せるべきだよ。
これが例えば、早瀬の知人や友人が巻き込まれたとか、別のルートから調査を依頼されたとか、そういうことなら分かるのよ。
だけど、そうじゃなくて、勝手な使命感で突っ走っているだけでしょ。そんで実際には、邪魔をして迷惑を掛けているだけなのよ。発信機が作動して「尾関の居場所が判明したから刑事たちが江華島へ向かう」という時なんて、早瀬は「こんなドサクサだし、1人ぐらい分かりゃしませんって」と軽い調子でSWATに紛れて同行するんだけど、防弾チョッキも着用していないし、危機感ゼロなのかと。
そんで現場に到着したキムたちは早瀬に気付くのに、なぜか帰らせようとしないのよね。
そこは「大臣救出」「武装グループ殲滅」という重要なミッションが待っているんだから呑気に付いて行く早瀬も、追い払わないソウル市警の面々もボンクラすぎるわ。
早瀬が勝手にケースを調べても誰も注意しないんだから、どうなっているのかと。カンは登場した時点で「こいつが黒幕だな」ってことがバレバレなのだが、それだけではヒントが不充分だろうと思ったのか、彼が登場する度に「私は怪しい人間ですよ、裏で色々さ小細工をしていますよ」ってことを分かりやすくアピールする。
例えば早瀬を車でひきそうになり、名刺を渡して去った直後には、電話を受けて「気を付けろ」と指示している様子を描く。それによって、早瀬の前に車で走って来たのが偶然じゃなくて妨害工作だったことを観客にハッキリと教えているわけだ。
まあ親切っちゃあ親切だけど、それは余計なお世話でしかない。
そこまで何度も丁寧に「カンが悪党」ってことをアピールすると、もちろん「真犯人は彼だった」という驚きや意外性はゼロになるし、サスペンスとしての面白味も消えてしまう。後半、早瀬は屋台でキムと話す時、急に韓国語を喋り出す。いやいや、話せるのなら、最初から使えと言いたくなるわ。
ただし、ずっと韓国語で喋り続けるわけじゃなくて、チョロッとだけ喋るんだよね。なんだよ、その中途半端な語学の披露は。
で、少し韓国語を喋った後、彼が日本語で「貴方が傷付くのは勝手ですが、死んだ部下は今の貴方を見てどう思ってるんでしょうか。貴方の部下であることに誇りを持ち続けた部下のためにも、何より貴方自身のために、あの頃のキム・ユンチョルに戻らなければならないんじゃないでしょうか」と語ると、なぜかキムには通じてしまうのだ。
最後の最後で「実は最初から分かっていた」ってことが明らかにされるので、そこで一応の説明は付く。でも、その頃には「もはや、どうでもいい」という気持ちになっている。犯人グループが競馬場へ現金を運ぶよう指示する展開が訪れると、本来ならば「現金受け渡しに現れる犯人を警察が捕まえられるか」というサスペンスが生じるべきだ。
だが、それと並行して、早瀬が「今ならソウルの町で交通違反し放題だな。警官なんて一人もいないんだから」と呟く様子や、犯人グループの車がソウルの町に現れる様子を描いてしまうのだ。
だから、競馬場は囮で、別の場所に犯人の目的が隠されているってのがバレバレになってしまうのだ。その後で競馬場のゴミ箱に仕掛けられた爆弾が発見されるので、本来ならば「爆発によって多くの犠牲が出る事態を回避できるのか」というサスペンスが生じるべきだろう。
ところが、カンが手下に命じて銀行員を次々に始末させる様子を描いてしまうので、「爆弾の仕掛けはフェイクでした」と現場の刑事たちが報告する前に、それがダミーってこともバレバレになってしまう。
先にネタをバラして緊迫感を削いでしまうって、どういうつもりなのかと。
大臣が保護されて爆弾がフェイクだと判明し、警察が「どういうことだ?」と不思議がった後で初めて「カンの一味が本当の目的に向かって行動しています」ってのを示さないと、その仕掛けが死んじゃうでしょうに。終盤、犯人グループが逃走の途中でバスジャックして客を人質に取ると、チェはSWATに突入を指示する。すると早瀬が「やめろ」と叫び、催涙弾を撃ち込もうとするSWATを妨害して「大切なのは命だろ」と言う。
で、そこまで言うなら、どうやって事件を解決するのかというと、「逃走するバスを追い掛けてタイヤに発砲する」→「バスに乗り込んで犯人たちに襲い掛かる」という行動を取るのだ。
いやいや、結局は突入するんかい。だったら、テメエが単独で突入するより、SWATに任せた方が遥かに人質救出の可能性が高いだろ。
たまたま上手く事件は解決したけど、人質が殺されるリスクの高い方法にしか思えないぞ。
早瀬の協力で捜査が進展することもあるけど、結果的に上手く転がっただけであって、それによって彼の行動が全面的が称賛されるってのは、どうにも腑に落ちないわ。(観賞日:2016年10月16日)