『千夜一夜物語』:1969、日本

旅をしてバグダッドに辿り着いた水売り商人のアルディンは、女奴隷が売られている市場に足を向けた。ミリアムという女を見た彼は心を奪われるが、所持金が金貨1枚半では全く話にならなかった。競りが始まると金額は吊り上がり、警察長官の息子が金貨1万で落札した。竜巻が町を襲って人々が伏せている間に、アルディンはミリアムを拉致して逃亡した。誰もいない豪邸に忍び込んだ彼は、寝室のベッドでミリアムとセックスした。ミリアムは彼に、「アンタに買われたんじゃない。アンタが好きだから来たの」と話す。直後、寝室のドアと窓が封鎖され、隠し部屋に潜んでいたシャリーマンが姿を現した。彼は豪邸の持ち主で、一部始終を観察して楽しんでいた。彼はアルディンとミリアムに、警察に突き出されたくなければ今後も滞在して自分を楽しませるよう要求した。
警察長官の息子はミリアムを奪われたことを嘆き、母に泣き付いた。息子を溺愛する母は、夫に早く手を打つよう要求した。長官は部下のバドリーを呼び、アルディンとミリアムがシャリーマンの屋敷に監禁されていることを伝えた。シャリーマンはバグダッド王のお気に入りだが、バドリーは例の手で滅ぼしてはどうかと提案した。長官は承諾し、バドリーに全てを任せた。長官夫人はバドリーに同行し、2人は洞窟で盗賊の頭目であるカマーキムと会った。カマーキムは娘のマーディアと手下たちを追い払い、長官夫人とセックスした。川で泳いでいたマーディアは、バドリーに強姦された。
カマーキムはマーディアと盗賊を率いて洞窟を発ち、シャリーマンの屋敷を襲撃した。カマーキムは屋敷に火を放ち、シャリーマンの部下たちに襲い掛かる。マーディアはシャリーマンを殺害し、アルディンを発見した。カマーキムはアルディンとミリアムを捕まえ、警察長官の元へ連行した。長官はアルディンにシャリーマン殺害の罪を着せて逮捕し、バドリーにミリアムを息子の元へ連れて行くよう指示した。アルディンは拷問を受けて自白を強要されるが、罪を認めれば死刑になると知って必死に耐えた。
尋問官はアルディンに、「検死の医者は友達だ。話を通しておく。死んだフリをしたお前は千人墓地へ送られる。自分の力で抜け出せ」と告げる。千人墓地へ落とされたアルディンは、何とか這い上がって脱出した。ミリアムが1ヶ月経っても心を開かないため、長官の息子は興奮剤を飲んで彼女に襲い掛かる。しかし薬が強すぎてからだがおかしくなり、バルコニーから転落死した。それを見ていたバドリーは、ミリアムに「無実を証明する代わりに俺の物になれ」と要求した。
アルディンはミリアムの行方を捜索し、バドリーの屋敷にいることを突き止めた。ミリアムは女児を出産してジャリスと名付けるが、命を落とした。彼女の死を知ったアルディンは砂漠でバドリーを待ち受け、殺害しようとする。しかし命乞いするバドリーの前で彼は武器を捨て、「お前を殺したところでミリアムが戻るわけじゃねえし」と立ち去った。彼は盗賊の洞窟を発見し、忍び込んだ。盗賊が眠っている間に、彼は財宝を盗み出そうとする。マーディアに見つかったアルディンは、財宝を元手に大きく稼ぐ考えを話す。マーディアが興味を示すと、彼は付いて来るよう持ち掛けた。
マーディアは空飛ぶ木馬を持ち出し、アルディンを乗せて洞窟を出発した。2人が海上を飛んでいると、女護が島の女王が頭髪を絡ませて木馬を墜落させた。島の女たちはアルディンを歓迎し、島に留まるよう誘った。マーディアは島を出ようと持ち掛けるが、アルディンは拒んだ。マーディアは彼に幻滅し、1人で島を去った。アルディンは島の女たちに囲まれ、楽しい時間を過ごす。女王は彼に、ずっと今の暮らしを続けたければ森の奥にある扉は絶対に開けないよう誓わせた。
アルディンは女王との約束を簡単に破り、扉を開けて中を覗いた。女王が巨大な蛇に変身するのを見た彼は、慌てて逃げ出した。蛇に変身した島の女たちに追われたアルディンは、崖から海に飛び込んだ。帆船に救助された彼は、船長から漕ぎ手として働くよう命じられた。巨大なロクロク鳥の卵を見つけた帆船は、手に入れようとして近付いた。そこへロクロク鳥が現れて襲い掛かり、船は難破した。無人島に辿り着いた一行だが、巨大な食人鬼が現れた。食人鬼は船員を次々に飲み込み、アルディンも追い詰められる。しかしロクロク鳥が飛来して食人鬼と戦い始め、その衝撃で吹き飛ばされたアルディンは殺されずに済んだ。
アルディンは古い難破船を発見し、中に入った。すると船が彼に語り掛け、どんな用でも引き受けると告げる。アルディンの要求を受けた船は、豪勢な食事や服を一瞬にして出現させた。船はアルディンの指令を受け、港へ向かって航行を始めた。アルディンが何でも願いを叶えてくれる理由を尋ねると、難破船は魔王の所有だったこと、捨てられて5千年が経過したこと、自分を見つけてくれた人間に仕えると誓ったことを話した。アルディンは船を使って世界中の海を巡り、全ての宝を手に入れようと心に決めた。
15年後。ジニーとジンの魔神夫婦は、退屈を持て余していた。ジンは夜伽の工夫に楽しみを見出していたが、それもジニーは面倒に感じるようになっていた。そんなある日、ジニーは羊飼いのアスラーンに心を奪われ、誘惑して関係を持とうと考える。ジンは彼女にアスラーンを諦めさせるため、バグダッドに住むジャリスという娘を連れて来た。アスラーンとジャリスは一目で惹かれ合い、それを見たジニーは怒りを燃やす。ジニーの怒りに怯えたジンは、ジャリスを元の場所に瞬間移動させた。
ジャリスはミリアムの娘で、バドリーの屋敷で養育されていた。彼がジャリスを娘として育てたのは、王のハーレムに捧げるためだった。ジャリスはハーレム行きを嫌がるが、バドリーは命令に従うよう要求した。ジャリスはアスラーンに会うため、男装して屋敷を抜け出した。アスラーンもジャリスに会うため、バグダッドへ向かおうとする。ジニーは馬の姿に変身し、彼の前に出現した。バドリーはジニーに乗り、バグダッドへ向けて出発した。
夜になると、ジニーはアスラーンのためにテントを出現させた。そこへ男装したジャリスが現れ、アスラーンに気付いた。アスラーンは相手の正体に気付かず、泊めてほしいと頼まれて快諾した。アスラーンは彼女に、ジャリスという恋した女性に会うためバグダッドへ行く途中だと説明した。ジャリスは自分の胸に触らせ、正体を明かした。その途端、ジニーはテントを消失させ、その場から逃走した。そこへバドリーの手下たちが駆け付け、ジャリスとアスラーンを捕まえた。
バドリーは大臣に会い、シンドバッドという大商人がバグダッドへ来るので味方にして勢力を拡大すべきだと進言する。バドリーが「味方にするために手荒い方法があります」と言うと、大臣は全てを彼に任せた。バドリーはカマーキムの一味と今も繋がっており、父の元へ戻ったマーディアを愛人にしていた。バドリーはカマーキムに、シンドバッドの襲撃を命じた。カマーキムは盗賊を率いて、シンドバッド一行の野営地へ向かった。
カマーキムはマーディアに、シンドバッドを誘惑するよう指示した。マーディアがテントへ赴くと、シンドバッドはアルディンであることを明かした。バドリーは手下たちを率いて盗賊を全滅させ、マーディアは逃走した。バドリーはシンドバットの正体を知らないまま、今後の警護を担当すると告げた。バドリーはシンドバッドを屋敷に招き、バグダッドへ来た目的を問われる。するとシンドバッドは、王位を賭けて宝比べをするためだと答えた…。

監督は山本暎一、構成脚本は手塚治虫&深沢一夫&熊井宏之、総指揮は手塚治虫、制作は富岡厚司、企画は川畑栄一&池内辰夫&米山安彦、構成協力は北杜夫&小松左京&大宅壮一、原画は宮本貞雄&中村和子、背景は伊藤信治、技術は土屋旭、技術監修は山浦栄二、音響は田代敦巳、美術は やなせたかし、編集は古川雅士、音楽は冨田勲。
声の出演は青島幸男、芥川比呂志、岸田今日子、伊藤幸子、小池朝雄、加藤治子、三谷昇、高木均、文野朋子、名古屋章、有馬昌彦、渥美国泰、内田稔、新村礼子、安藤孝子、遠藤周作、大橋巨泉、大森実、大宅壮一、木崎国嘉、北杜夫、小松左京、佐賀潜、立川談志、筒井康隆、野末陳平、前田武彦、吉行淳之介ら。


イスラムの説話集『千夜一夜物語』(『アラビアンナイト』)を基にした虫プロダクションの長編アニメーション映画。
「日本で最初の大人のためのアニメーション映画」として企画され、配給の日本ヘラルド映画が「アニメラマ」という呼称を付けた。『クレオパトラ』『哀しみのベラドンナ』と合わせて、アニメラマ3部作と呼ばれることもある。
監督は『鉄腕アトム 宇宙の勇者』『ジャングル大帝』の山本暎一が担当している。
アルディンの声を青島幸男、バドリーを芥川比呂志、ミリアム&ジャリスを岸田今日子、マーディアを伊藤幸子、カマーキムを小池朝雄、ジニーを加藤治子、ジンを三谷昇、警察長官を高木均が担当している。
また、各界の著名人が友情出演して、一言だけ台詞を喋っている。例えば、女奴隷市のシーンでは小説家の遠藤周作&北杜夫&小松左京&筒井康隆&吉行淳之介が野次馬の声を担当。競馬シーンでは落語家の立川談志、放送作家の野末陳平、テレビタレントの前田武彦が観客の声を担当している。

これまで虫プロは短編映画の『ある街角の物語』などで、アニメーション表現の可能性を追求してきた。この映画も、その延長線上にある。
虫プロが手掛けてきた子供向けアニメではあまり持ち込まないような、思い切った挑戦をやっている。極端なパース、陰影の極端な強調、簡略化した線描、色を抜いた白黒のカット、分割画面、などなど。また、ミニチュアで作ったセットや実際の砂漠や海の映像など、場面によっては実写との合成も行われている。
そういう映像は当時としては斬新だっただろうし、最初の内は目を引き付けるのに充分な力を持っている。
ただ、そういう要素だけで観客を引き付けていられるのは、せいぜい30分か40分程度じゃないかと思うんだよね。最初は「今まで見たことが無いアニメ表現だ」ってことで興奮したり驚いたりしても、しばらくすれば慣れたり飽きたりしてしまう。
やはり何よりも重要なのは、「映像としての斬新さ」よりも「映画としての面白さ」だろう。
そして本作品は、映画としての面白さに欠けているのだ。

この映画、物語の部分がちっとも面白くない。そこに引き付ける力が足りていないので、退屈になってしまう。
それと根本的な問題として、あまりにも上映時間が長すぎる。
この作品、なんと128分もあるのだ。あと30分ぐらいは削って、もっとテンポ良く進め、コンパクトにまとめた方がいい。
たぶん、映像的にやりたいことが幾つもあって、それを思い付く限り詰め込んで、どこもカットできなかったから、ダラダラと間延びした仕上がりになってしまったんだろう。

128分もあるんだから、アルディンとミリアムの恋愛劇に多くの時間を割けばいいものを、そこは淡白で雑に片付けてしまう。
「強い愛で結ばれた2人」という設定のはずだが、出会ってすぐに肉体関係を持って、その程度しか関係性が描かれていない。
それで「アルディンは命懸けで脱出してミリアムを見つけ出そうとする」「ミリアムは命を落としてでもアルディンの娘を出産する」ってのを見せられても、ドラマとしての深みなんて出ない。
「ミリアムの死を知ったアルディンが復讐に燃えるがバドリーを殺さずに去る」ってのを見せられても、何も心に響くモノは無い。

主人公のアルディンに何の魅力も無いってのも、大きな欠点だ。
前述したように彼はバドリーを殺さずに去るのだが、喪失感や虚無感に打ちひしがれるのかと思いきや、すぐに盗賊の洞窟で財宝を見つけて浮かれる。それを盗み出そうとしてマーディアに見つかると、一緒に行こうと誘う。
女護が島で女たちに出会うと鼻の下を伸ばし、楽しく過ごす。
マーディアに対して薄情すぎるし、ミリアムのことなんて軽く忘れちゃってるし、ただのクズ野郎なのだ。

とにかく話が無駄に長くて、全くまとまりが無い。上映時間が128分もあるんだけど、どう考えても長すぎる。
しかも「原作の内容を忠実に映像化した結果」というわけではなくて、ほぼオリジナルストーリーといっていいぐらいの内容なのだ。
それで2時間を超える尺になり、編集で削り落とすことも出来ていないんだから、どうしようもないぞ。
大人向けのアニメーションだから、「子供の集中力は云々」というのを気にする必要はないかもしれないよ。ただ、そういうのを抜きにしても、あと30分ぐらいは削っていいわ。

ロクロク鳥や食人鬼の登場シーンなんかは、これが実写なら「特殊効果を見せる」というセールスポイントになる可能性もあるだろう。
だけどアニメーションなので、デカい鳥やデカい鬼が暴れたところで、「そういうキャラクターだからこそ売りになる部分」ってのは特に何も見当たらないんだよね。
っていうかさ、「それから15年後」という展開も要らないんだよね。
青年期のシンドバッドの物語だけで全体を構成すりゃいいのよ。

シンドバッドは「王位を賭けて宝比べをする」と言い出すが、「なぜ宝比べで勝てば王様になれると思ったのか」と言いたくなる。しかし、なぜか国王は、その要求を受けちゃうのだ。
なんでだよ。そんで宝比べの描写に長い尺を割いているんだけど、ちっとも面白くならない。
で、そこで負けたシンドバッドは国王と家臣たちを騙して追放し、王の座を手に入れる。すると理不尽な命令を次々に出して、庶民を苦しめる。
話が進むにつれて、どんどんシンドバッドが不快な奴になっていくんだよね。そんな話に最後まで観客を引き込むって、簡単な作業じゃないぞ。
しかもシンドバッドって、最後まで全く反省しないし。

(観賞日:2020年9月8日)

 

*ポンコツ映画愛護協会