『センセイ君主』:2018、日本

桃光高校2年C組の佐丸あゆはは、電車で一緒になる蓮くんという男子生徒に恋をした。彼女は駅で告白するが、間髪入れずに「無理」と断られた。すき家に立ち寄ったあゆはは、泣きながら牛丼を何杯も食べる。これで告白7連敗となった彼女は、スマホで親友の中村葵に愚痴をこぼすが、クールに対応される。あゆはは狙った相手について詳しく調べたデータをノートに書いているが、葵は名前を書かれたら必ず告白される「デスノート」と周囲が呼んでいることを教えた。
あゆはは支払いを済ませようとするが、財布のお金が足りないことに気付いて焦った。すると眼鏡を掛けた1人の男性が、あゆはの分も支払ってくれた。あゆはは彼の顔に目を奪われ、お金を返すので連絡先を教えてほしいと頼む。しかし男性は「いいから」と告げ、その場を後にした。あゆはは葵から「男は星の数ほどいる」と言われ、あっさりと元気を取り戻した。登校した彼女は早速、次の恋の相手を探し始めた。幼馴染の澤田虎竹はあゆはが忘れた弁当を渡し、呆れた様子を見せた。
新しい担任教師として牛丼代を払ってくれたの男性が教室に現れたので、あゆはは驚いた。彼女が立ち上がって「この前のお兄さん」と口にすると、男性は冷静に「ではなく」と否定して弘光由貴だと自己紹介する。運命の相手だと感じたあゆはは点数稼ぎに出るが、弘光は淡々とした口調で「教師としての最低限の仕事を果たすだけ。勉強したくない人は、しなくても構いません」と述べた。何の熱も感じない彼の態度に、あゆはは「ホントに教師?」と戸惑った。
葵はあゆはを弘光の元へ連れて行き、「失恋記録を更新中で、どうすればいいですか」と相談する。恋人がほしい理由を問われたあゆはは、「イチャイチャしたい」と答えた。すると弘光は紙に「イチャイチャしたい人募集」と書き、それを背中に貼って歩くよう勧めた。腹を立てたあゆはが「もう結構です。すぐ好きになる人を見つけてみせます」と言うと、彼は「何回も振られてるのに、良く凝りませんね」と呆れたように告げる。あゆはは「好きなのに動かなかったら後悔する」と語り、その場を去った。
教室に戻ったあゆはは、自分のロッカーに手紙が入っているのを見つけた。ハート形の便箋に「放課後、噴水前で待っています」と書いてあり、あゆはが赴くと同級生の小林が「俺と付き合う気、ある?」と告白してきた。次の日、浮かれた気持ちでデートの待ち合わせ場所に向かったあゆはは、気付かずに赤信号で道路を横断しそうになる。近くにいた弘光が気付いて止めると、あゆはは告白されたことを自慢げに語る。「そいつのこと、好きなの?」と問われた彼女は、返答に困った考え込んだ。
待ち合わせ場所に着いたあゆはは、「これから好きになるんです」と呟く。しかし彼女は小林の服装にも言動にも、まるで好感を抱くことが出来なかった。相談を受けた葵は、本当に恋したら胸がドキドキするはずだと指摘した。葵と虎竹の助言を受けた彼女は、次の日に小林を呼び出して別れを告げる。小林は彼女を噴水に吹き飛ばし、罵って立ち去った。当然の報いだと感じるあゆはの元に弘光が現れ、手を差し伸べた。しかし、あゆはは彼の手を借りずに噴水から出た。
あゆはが「私だけ置いてけぼり。初めて好きって言ってもらえたのに」と嘆くと、弘光は「楽しようとしているからだよ。ジコチューが招いた結果だ」と指摘する。「好きな人が自分を好きって、奇跡じゃないですか」とあゆはが反発すると、彼は「じゃあ漫然と生きるのをやめたら?自分のやりたいことを考えなさい」と説いた。あゆはは弘光をギャフンと言わせるため、イケメンの彼氏が出来るまでは距離を取ろうと考える。しかし日直の彼女には、数学のノートを集めて弘光の元へ持って行く仕事があった。
あゆはが弘光の元ヘ行くと、クラスメイトの詩乃と夏穂が体を密着させて積極的にアプローチしていた。弘光が冷淡に2人を突き放す様子を目にしたあゆはは、鬼のような教師だと感じる。弘光はあゆはに、採点の手伝いを要求した。クールに採点を続ける弘光だが、あゆはが下手な金八先生の物真似を披露すると大笑いした。その姿を見たあゆはは、胸がドキドキしてしまう。彼女は好きにならないように努めるが、むしろ惹かれる気持ちは強くなる一方だった。
あゆはが突然の大雨で下校できずに困っていると、弘光が車で家まで送り届けた。玄関の鍵が掛かっていて母も不在だったため、弘光は自分のマンションにあゆはを連れて行く。リビングには幾つものトロフィーが飾ってあり、あゆはは弘光がフランスに数学で留学していたことを知った。あゆはは告白しようとするが、先に弘光が「俺のこと、好きなの?」と問い掛ける。彼が冷淡に「どうもしないですよ」と拒むと、あゆはは負けん気を出して「先生を落としてみせますから」と宣言した。すると弘光は落ち着き払った態度で、「いいですよ。俺を落としてみなよ。絶対に落ちませんから」と言い放った。
翌日、あゆははヌーブラで巨乳を装って弘光の前に現れるが、「全方向で間違ってるから」と冷たく言われる。彼女はアピールする方法を虎竹に相談し、相手の喜ぶことをやろうと考える。あゆはは弘光の仕事を手伝ったり車を洗ったりするが、全く手応えは無かった。そんな中、学校の芸術祭で2年生はクラス対抗合唱コンクールを開催することになり、弘光は実行委員の志願者を募る。誰も挙手しなかったため、あゆはは立候補して虎竹も巻き込んだ。
あゆはが曲選びや歌の練習に励む様子を見て、彼女に密かな好意を寄せている虎竹は嫉妬心を覚えた。あゆはが音楽室で曲を選んでいると、詩乃と夏穂が来て弘光をギャフンと言わせようと持ち掛ける。2人は授業のボイコットも計画しており、弘光は生徒のことを何も考えていないと批判する。あゆはが「そんなことないよ」と反論していると、弘光が来てピアノを弾き始めるが、音が外れていた。しかし彼は気にせずに演奏し、3歳からピアノを習っているのでコンクールで伴奏を務めるつもりだと語った。その天然ぶりに詩乃と夏穂は笑い出し、弘光が「この前はちょっと言い過ぎましたね」と謝罪したこともあって彼に対する考えを改めた。
あゆはは弘光から「明日、時間あります?」と問われ、デートの誘いだと確信して喜ぶ。しかし翌日、迎えに来た弘光の車には虎竹も同乗していた。弘光の目的は曲選びで、あゆはと虎竹を連れて楽器店へ赴いた。虎竹は弘光と2人になり、「あゆはで遊ばないでもらえますか。大人なんですから」と対抗心を剥き出しにする。弘光は「俺も君と同じだよ」と言い、「俺に突っ掛かるより、まず自分の気持ちに正直になるのが先でしょう」と告げる。弘光は動揺し、先に帰ってしまった。
弘光はあゆはを連れて、ピアノリサイタルを聴きに行く。「SHU-KA」の名義で活動する柴門秋香は海外でも活躍する世界的なピアニストで、帰国の理由について「古い友人のユキちゃんに伝えたいことがあった」と話す。彼女は「ユキちゃんに捧げます」と言い、ジュディ&マリーの『Over Drive』を演奏した。弘光は秋香と一緒にその歌を聴いた高校時代を思い出した。あゆはは『Over Drive』を気に入って合唱曲に使うと決め、クラスメイトと練習を始めた。
あゆはは弘光との関係が全く進展しないことに焦りを抱き、葵に相談した。すると葵は、後夜祭の伝説に頼るしかないと告げる。その伝説とは、後夜祭のプロジェクション・マッピングの前でキスしたカップルは永遠に結ばれるというものだ。あゆはは伝説のことを弘光に話すが、「キスしませんよ」と冷たく突き放される。校内を歩く秋香に気付いた弘光は、驚いて呼び止めた。秋香は怪我で入院する教師の代理として、2週間だけ桃光高校で勤務することになったのだった。
秋香は合唱コンクールで2年C組の伴奏も引き受け、練習にも参加した。あゆはが強い嫉妬心を抱くと、弘光は「あいつとは、そういうんじゃないんで」と否定する。あゆはは単なる幼馴染だと知って喜ぶが、葵と彼氏は深い関係になる可能性が高いと警告する。「敵は駆逐せよ」と言われたあゆはは秋香に接近し、徹底リサーチを開始した。すると秋香はあゆはが弘光の家で見たのと同じペンギンのストラップを持っており、「初恋の人との思い出が詰まってる」と語った。
あゆはは弘光の元へ行き、激しく詰め寄った。弘光が「俺の言ったことが信じられないなら、そういうことでいいです」と冷たく言っていると、秋香がやって来た。あゆはは弘光に「しょうがないじゃないですか。先生のことが好きなんですから」と感情をぶつけ、その場を後にした。弘光はあゆはの元へ赴き、秋香との関係について説明した。彼は小学生の頃、誕生日に数学ドリルを欲しがるような子供だった。そんな彼を周りの人間は笑ったが、秋香だけは違っていた。弘光はあゆはに、「秋香は俺の世界を広げてくれた。先に夢に近付いたのは秋香だった。俺は自分の限界を知るのが怖くて逃げ出し、彼女は心配して帰国した」と語る…。

監督は月川翔、原作は幸田もも子「センセイ君主」(集英社マーガレットコミックス刊)、脚本は吉田恵里香、製作は市川南&堀義貴、共同製作は木下暢起&吉崎圭一&弓矢政法&渡辺章仁&橋誠&吉川英作&舛田淳&細野義朗&田中祐介、エグゼクティブ・プロデューサーは山内章弘、企画・プロデュースは臼井央、プロデューサーは神戸明&馬場千晃、プロダクション統括は佐藤毅、ラインプロデューサーは阿久根裕行、撮影は花村也寸志、照明は加藤桂史、録音は久野貴司、美術は清水剛、編集は相良直一郎、音楽は得田真裕、主題歌「I WANT YOU BACK」はTWICE。
出演は竹内涼真、浜辺美波、佐藤大樹、川栄李奈、新川優愛、矢本悠馬、佐生雪、福本莉子、北川景子、山田裕貴、神保悟志、水石亜飛夢、篠原悠伸、オラキオ、宮本大誠、東野太一、上田惺華、アモーレ橋本、浅野智秋、カイル・カード、サンシャイン・サラフィナ、諏訪野怜二、山本直寛、渕野右登、秋谷柊弥、瀬羅純、石田大智、保紫萌香、御子柴彩里、真崎かれん、渡邊渚、尾形穂菜美、荒井レイラ、木村建人、瀬尾秀平、高山和、田島遼一、土居尋斗、中川誠志郎、森本翔太、若木耀斗、大川夏湖、河本優美、高田楽、林真梨亜、雛野あき他。


幸田もも子の同名少女漫画を基にした作品。
監督は『君の膵臓をたべたい』『となりの怪物くん』の月川翔。
脚本は『脳漿炸裂ガール』『ヒロイン失格』の吉田恵里香。
弘光を竹内涼真、あゆはを浜辺美波、虎竹を佐藤大樹、葵を川栄李奈、秋香を新川優愛、葵の彼氏を矢本悠馬、詩乃を佐生雪、夏穂を福本莉子が演じている。
あゆはの前に現れる謎の女性役で北川景子、anan風の雑誌の表紙モデル役で山田裕貴、校長先生役で神保悟志が演じている。

すき家の一件があった後、元気になったあゆはが学校にいるシーンに切り替わる。翌日のシーンかと思ったら弘光に「この前のお兄さん」と言っているので、何日か経過しているようだ。
そもそも新しい担任教師として弘光が来ているってことは、たぶん「2年になった1学期の登校日」ってことだよね。でも、それは全く伝わらない。
あと、あゆはは担任として弘光と会うのは初めてでも、以前から同じ学校にいたんじゃないのか。
あゆはは色んな男に目を向けている奴なのに、弘光を知らなかったという設定には無理があるぞ。

幸田もも子は映画化された『ヒロイン失格』の原作も手掛けている。2つの映画は、監督も脚本家も異なっている。
しかし原作者が同じで、どちらも原作漫画の特色をそのまま取り入れたからなのか、かなり似たテイストの仕上がりになっている。
ヒロインの顔芸が大きな売りになっていて、そこの力で引っ張っていくタイプの映画になっているのだ。
「人気のある若手の美人女優が、振り切った変顔を披露するコメディー」ってのがセールスポイントになっているわけだ。

ただ、『ヒロイン失格』にしろ本作品にしろ、主演女優の顔芸が高く評価されるポイントになっているんだけど、そこまで大したことでもないでしょ。
例えばヌードになるような挑戦に比べれば、体当たり演技でも何でもない。最近はバラエティー番組で弾けたことをやる若手の女優も多いしね。それに時代を遡れば、1980年代にはアイドルが体を張る番組もたくさんあったわけで。
決して浜辺美波の顔芸を否定するつもりは無いし、ヒロインとしての存在感は間違いなく発揮している。ただ、そこを「体当たり演技」のように称賛するのは、過剰な評価じゃないかなと。
言っちゃ悪いけど、たぶん同年代の他の女優も普通に出来ることだからね。その振り幅が広いか、質がどうかってを置いておくとして、顔芸自体は「浜辺美波だからこそ」ってモノじゃないからね。

この映画の大きな特徴として、「大人を徹底して排除している」ってことが挙げられる。
主要キャストとして登場する学生以外のキャラは、弘光と秋香に限定されている。牛丼屋の客や校長はチラッと登場するが、主要キャストとは言えないだろう。
そして、あゆはの家族も登場しない。家まで送ってもらうシーンはあるが、家庭内のシーンは全く無い。
学校のシーンでも、他の教師も大勢いるはずだが、まるで存在しないかのように描かれている。弘光が採点をしている場所があるのだが、職員室かと思ったらそうではない。彼だけが作業をするための、謎の場所になっている。

徹底的に大人を排除することによって、この映画はファンタジーとしての世界観を構築している。それを理解し、受け入れることが、この映画を観賞する上ではとても重要なポイントとなる。
例えば、あゆはが赤信号を渡ろうとする時に弘光が近くにいて助けるとか、あゆはが噴水に突き落とされた直後に弘光が来て手を差し伸べるってのは、あまりにも都合が良すぎる。
しかし、「実は弘光があゆはを好きで、ずっと近くで見ていた」ってわけではなく、「たまたま近くにいた」という設定だ。
そこの御都合主義は、「そういうルールで成立するファンタジー世界」という風に理解すべきなのだ。

幾ら雨が降り出したからって、男性教師である弘光が、女子生徒のあゆはを車で家まで送るのは教師として考えられない行為だ。幾ら家に誰もいなくて玄関に鍵が掛かっていたにしても、自宅に連れ帰るのも絶対に有り得ない。
生徒に「落としてみせます」と言われて、真正面から「いいですよ。俺を落としてみなよ」なんて口にするのも、これまた同様だ。
しかしファンタジーの世界なので、それを甘んじて受け入れるべきなのだ。
決して「実社会だったら有り得ない」なんて考えて、マジで批判しちゃいけない。

そもそも、この映画における「教師」という職業設定は、ただの記号に過ぎないのだ。っていうか、そこに限らず、この映画のほぼ全てが記号で出来ていると言ってもいいぐらいだ。
教室繋がりで言うなら、秋香が桃光高校の臨時教師として赴任する展開にはかなりの無理がある。怪我で教師が入院するからって、わずか2週間で復帰するのに代理の人間が来るかね。
しかも、それが世界的に活躍するピアニストって、どんなルートでオファーしたのかと。それを受けるスケジュールが空いているってのも不自然だしね。
ただし、そういうことが平気で成立する世界の物語だし、教師という役職も我々が知っている教師とは別物なので、マジに考えたら負けなのだ。

終盤に入り、初めて職員室のシーンが登場する。そこでは、弘光と秋香以外の教師も写し出されている。
ただ、そうなると、それはそれで「今さら職員室の存在を見せちゃうのかよ」と違和感を覚えてしまう。
こっちは「職員室も他の教師も存在しない世界観」ってことで観賞していたわけで、急にファンタジーを薄められても困るわ。
あと、職員室が存在するのなら、いつも弘光が作業をしている場所は何なのか。職員室で仕事をすればいいはずでしょうに。

(観賞日:2019年12月31日)

 

*ポンコツ映画愛護協会