『戦国自衛隊』:1979、日本
伊庭義昭三尉の率いる陸上自衛隊・第54普通科連隊は、演習のために第五補給地へと向かっていた。その途中、県信彦准尉は金星の位置が昨夜と全く違うことに気付く。さらに、伊庭と県の腕時計が両方とも5時18分で止まっているという奇妙な現象も起きていた。やがて伊庭達は第五補給地に到着するが、わずかな部隊しかいなかった。
やがて彼らは不思議な光に包まれ、気が付くと地形は同じだが周囲の状況が一変していた。彼らは戦国時代にタイムスリップしてしまったのだ。やがて彼らの前に、武将・長尾影虎が現れる。自衛隊の装備に興味を示した影虎に、伊庭は機関銃を撃たせてやる。大喜びする影虎の様子を見て、伊庭は彼に好感を抱いた。
影虎と敵対する黒田長春の軍勢が、伊庭達を攻撃してきた。反撃を開始した伊庭達に、駆け付けた影虎の軍勢が加わった。影虎が長春の首を獲り、勝負は集結した。影虎から共に天下を取ろうと誘われた伊庭は、彼の軍勢と共に戦うことを決意する。
以前から伊庭に反感を抱き続けていた矢野隼人陸士長は、加納康治や島田吾一と共に部隊を離れ、哨戒艇を奪う。彼らは村を襲撃し、食料や女を略奪する。伊庭は部下達と共にヘリコプターに乗って矢野達の元へと向かい、彼らを始末した。
景虎は小泉行長に仕えていたが、自分達を長春と戦わせる一方で色部一族と和議を結ぼうとする主君に怒りを抱いていた。影虎は伊庭の協力を得て、行長を抹殺した。伊庭は影虎と京都で再会しようと約束を交わし、武田信玄の軍勢との戦いに挑む…。監督は斎藤光正、原作は半村良、脚本は鎌田敏夫、製作&音楽監督は角川春樹、撮影は伊佐山巌、編集は井上親弥、録音は橋本文雄 、照明は遠藤克己、美術は植田寛&筒井増男、アクション監督は千葉真一、音楽は羽田健太郎、音楽プロデューサーは鈴木清司&高桑忠男。
出演は千葉真一、夏木勲(夏八木勲)、渡瀬恒彦、江藤潤、中康次(中康治)、三浦洋一、角野卓造、勝野洋、宇崎竜童、にしきのあきら(錦野旦)、鈴木ヒロミツ、高橋研、かまやつひろし、竜雷太、小野みゆき、小池朝雄、岸田森、岡田奈々、草刈正雄、成田三樹夫、鈴木瑞穂、仲谷昇、河原崎健三、真田広之、薬師丸ひろ子、佐藤蛾次郎、三上真一郎、清水昭博、辻萬長ら。
半村良の小説を映画化した作品。伊庭を千葉真一、影虎を夏木勲(夏八木勲)、矢野を渡瀬恒彦、県を江藤潤、行長を小池朝雄、加納を河原崎健三が演じている。また、真田広之や薬師丸ひろ子がチョイ役で顔を見せている。
とっても都合良く、戦車、船、ヘリコプターが一台ずつタイムスリップする。いくら撃っても弾丸が切れることは無く、いくら走ったり飛んだりしても、戦車やヘリコプターの燃料が切れることは無い。その他、ツッコミを入れたくなるポイントは、たっぷりと揃っている。
タイムスリップ物としての時代考証なんて、そんなことは一切お構い無し。SF物としての科学考証なんて、そんなことは一切お構い無し。デタラメにデタラメを重ねた荒っぽい物語の中で、近代兵器の自衛隊員と戦国の武士達との戦いを見せようとする。組織として統率された集団ではなく、アクの強いバラバラの連中が集まっている。自衛隊というより、傭兵軍団の雰囲気がある。描かれるのは硬派の軍事アクションではなく、やるせない青春ドラマである。ここには敗れ去って行く男達の生き様、死に様がある。
彼らは最初から、死ぬために戦っている。武田信玄の軍勢との戦いなんて、もっと作戦を練ってから戦えよ、と言いたくなるバカっぷり。まず影虎の協力を得ずに自分達だけで戦うのがバカだし、わざわざ敵の軍勢に突っ込むというのもバカだ。デタラメな世界の中で、サニー千葉の演じるクレイジー伊庭が狂い咲き。不意に現れた見知らぬ男である影虎に、いきなり機関銃を撃たせる辺りからして、もう既にヤバイ匂いを漂わせている。しかし、そんな程度は、まだ序の口なのである。
伊庭は少しずつ、戦うために生まれてきた男としての本能に目覚めていく。攻撃を受けて「撃つな!撃ってはならんぞ」と部下に命令した後、すぐさま伊庭はマシンガンを撃ち、手榴弾を投げて敵を殺す。部下はダメだが、自分はOKってことなのか。やがて伊庭は、「戦って天下を取れば、そのショックで元の時代に戻れるはずだ」というメチャクチャな論理を持ち出す。根拠なんて、もちろん無い。ホントは、ただ戦国時代で戦いたいだけ。元の時代に戻る気なんて、これっぽっちもありゃしない。
矢野達との戦いでは、ヘリコプターからロープでぶら下がって銃を撃とうとするのだが、何しろ分かりやすいぐらい不安定な場所なので、空中でクルクルと回転して上手く撃てないという、果たして役に立っているのかどうか微妙な勇姿(?)を見せる。武田信玄の軍勢との戦いでは、なぜか刀を構えて敵の本陣に乗り込む伊庭。で、信玄を刀で斬るのかと思いきや、隠してあった銃をサッと抜いて発射するという、かなり姑息な技を見せる。で、信玄の首を掲げて高笑い。もう完全にイッちゃってるのね。
多くの仲間が死んで行く中、残った部下達は伊庭に「第五補給地に戻りましょう」と、とても正しい意見を述べる。ところがクレイジー伊庭は、「俺に逆らう奴は撃つ」と言い放ち、実際に威嚇射撃で脅す。おいおい、どんな主人公なんだよ。もはや誰も止められなくなっちゃったクレイジーマックス伊庭は、自分を殺しに来た影虎に対して、なぜか刀を構えて立ち向かう。で、相手が銃を持っているのに刀で斬りかかろうとするから、当然のように撃たれて死亡する。そりゃそうだわな。
間違いなく言えることは、この映画はホントにメチャクチャだが、同時にメチャクチャなパワー&エナジーも持っていたということだ。もう1つ、間違いなく言えることは、この映画が作られた頃の角川映画には、とてつもなく勢いがあったということだ。