『世界の中心で、愛をさけぶ』:2004、日本

松本朔太郎は婚約者・藤村律子との結婚を目前に控えているが、初恋の相手・広瀬亜紀の夢を見る。一方、引越しの準備をしていた律子は、1本のカセットテープを発見する。そこには、亜紀が死への恐れを語る声が録音されていた。あることを思い出した律子は、「しばらく出掛けてきます」と朔太郎に置き手紙を残し、姿を消した。
友人・大木龍之介の店を訪れた朔太郎は、律子に電話を掛けるよう言われる。その時、テレビのニュースでは台風接近を知らせる高松からの中継が映し出されていた。状況を伝えるアナウンサーの後ろの道を、律子が通り掛かった。その様子を見た朔太郎は、高松へと向かう。彼は思い出の地を巡りながら、高校時代のことを回想する。
1986年、朔太郎が通う高校の校長が亡くなり、葬儀が行われた。他の生徒と共に参列した朔太郎は、泣いているだけの女子の中で1人だけ落ち着いているクラスメイト、広瀬亜紀に目を奪われた。亜紀は容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の女性だ。学校に映画の撮影クルーが来た時には、映画監督に見込まれて写真撮影を求められたほどだ。
学校に無断でバイク通学をしていた朔太郎は、ある日の下校途中、亜紀に呼び止められた。彼女はバイクの後部座席に乗り、朔太郎に運転を促した。亜紀は「サクと話したかった」と告げた。2人は、深夜ラジオにハガキを出して、どちらが先に読まれるか競争することにした。朔太郎と亜紀の交際は、こうして始まった。
文化祭で『ロミオとジュリエット』を上演することになり、亜紀がジュリエット役に選ばれた。ジュリエットの気持ちが分からないと言う亜紀に、朔太郎は写真館の重蔵に話を聞くよう勧めた。重蔵の初恋の相手が校長だと聞いていた朔太郎は、彼なら愛する人に先立たれる気持ちが理解できるだろうと思ったのだ。重蔵は話をする条件として、校長の遺骨を持ってくるよう要求した。朔太郎と亜紀は深夜の墓地に行き、校長の墓から遺骨の一部を盗み出した。
朔太郎は、深夜ラジオに「ジュリエット役に決まった彼女が白血病になった」というウソのハガキを出して採用された。朔太郎は大喜びで亜紀に報告するが、彼女の反応は冷たかった。亜紀は朔太郎にカセットテープを渡し、聞くよう告げた。テープには、朔太郎の軽はずみなウソを責める亜紀の言葉が吹き込まれていた。それ以来、朔太郎と亜紀は、自分たちの声を録音したカセットテープを交換日記のようにやり取りするようになった。
夏休み、朔太郎と亜紀は無人島で2人きりになった。一緒に行った龍之介が気を利かせたつもりで、2人を置き去りにしたのだ。島を探索した朔太郎と亜紀は、フィルムの入った古いカメラを発見した。翌朝、龍之介が島に迎えに来るが、亜紀が急に倒れてしまう。町に戻った亜紀は、そのまま入院することになった。彼女は白血病を患っていたのだ…。

監督は行定勲、原作は片山恭一、脚本は坂元裕二&伊藤ちひろ&行定勲、製作は本間英行、プロデューサーは市川南&春名慶、製作統括は島谷能成&近藤邦勝&安永善郎&亀井修&細野善朗&伊東雄三、協力プロデューサーは濱名一哉、撮影は篠田昇、編集は今井剛、録音は伊藤裕規、照明は中村裕樹、美術は山口修、音楽はめいなCo.、主題歌は平井堅「瞳をとじて」。
出演は大沢たかお、柴咲コウ、長澤まさみ、森山未來、山崎努、宮藤官九郎、津田寛治、高橋一生、菅野莉央、杉本哲太、天海祐希、木内みどり、森田芳光、田中美里、渡辺美里、近藤芳正、草村礼子、ダンディ坂野、大森南朋、長野里美、谷津勲、高橋浩由、横川昌美、斉藤哲也、小林麻耶、古畑勝隆、松田一沙、内野謙太、西原亜季、宮崎将、川口真理恵、松本真衣香、寺崎ゆか、マギー、中村方隆、岡村洋一、岡元夕紀子、野口雅弘、尾野真千子、市岡しんぺー、山崎えり、浅野麻衣子、飯塚園子、堀北真希、樋口佳菜子、鎌田忠雄、津村優月ら。


片山恭一の大ベストセラー小説を基にした作品。
朔太郎を大沢たかお、律子を柴咲コウ、亜紀を長澤まさみ、高校時代の朔太郎を森山未來、重蔵を山崎努、大木龍之介を宮藤官九郎、亜紀の父を杉本哲太が演じている。他に、朔太郎の上司役で天海祐希、朔太郎の母役で木内みどり、映画監督役で森田芳光、律子の母親役で田中美里が出演している。
クレジットでは最初が大沢たかお、次が柴咲コウの順だが、実質的には長澤まさみと森山未來の主演作として考えるべきだろう。柴咲コウなどは(彼女の芝居が云々ではなく、演じているキャラクターが)、いない方がスッキリするんじゃないかという疑問が頭から離れない。
まあ柴咲コウは原作がヒットする際の火付け役を果たしたようなところがあるので、どうしても外せなかったのかもしれないが。

これはファンタジーである。1986年という回想シーンの時代設定を文字表示までしておきながら、その時代考証はあやふやにしてある。リアリティーのある1986年ではなく、寓話としての1986年の物語ということだ。
寓話だから、容姿端麗&成績優秀&スポーツ万能のアキが、何のきっかけも見当たらないのにサクに恋をするという話も、成立するのだ。
「感動作」「泣ける映画」として宣伝された作品だし、実際に涙した観客は大勢いたようだ。
私は全く涙は出なかったが、しかし同情は強く感じた。たまらなく可哀想だと感じた。
その感情は、ほとんど律子に対するものだ。
とにかく、彼女が不憫に思えて仕方が無かった。

律子を不憫に感じた理由は、2つある。
その1つは、あまりにも朔太郎が薄情だということだ。
彼は律子の置手紙を見ても、彼女を捜そうともせず、電話連絡を試みようともせず、呑気に友人の店を訪れている。
台風中継に律子が映り込んで車にひかれそうになるというコメディーみたいな映像を見て、サクは高松へ行く。
しかし、それは律子を探しに行くためではない。
その証拠に、高松に到着したサクは、律子を捜す気配など微塵も見せず、アキとの思い出に浸り続ける。
「律子が高松にいる→高松はアキと過ごした思い出の場所→アキとの思い出に浸りたい→そうだ、高松へ行こう」という考えに基づいて、サクは高松へ向かうのだ。
律子なんて、どうだっていいのだ。

サクは、律子への愛とアキへの思いの狭間で揺れ動いたり、律子への罪悪感に苦悩したりして、それゆえに過去と真っ直ぐに向き合い、呪縛を断ち切り、律子との愛を大切にして前に進むことを決意するのではない。
律子とは全く無関係に、過去と向き合うのだ。
最後まで、律子はサクにとって都合のいい女でしかない。

終盤、律子がサクに詫びを入れ(むしろ悪いのはサクなんだが)、ようやくサクが律子に気持ちを向けるのかと思いきや、そうではない。自分がアキとの約束を果たす目的でオーストラリアに行くのに、律子を連れて行くという無神経っぷりを見せ付ける。
片足が悪い律子を気遣うような素振りは全く見せず、彼は相変わらずアキとの思い出に浸っている。
しかし、そこまでアキとの約束に強く固執していたはずのサクだが、なぜか彼女が行きたがっていたエアーズロックには行かないという適当な部分もさらけ出す。

律子に対しては、他の理由でも同情を覚えた。
ただし、それは律子だけに感じたものではない。
サクとアキに対しても、同じ理由で同情を覚えた。
それは、「あまりにも頭が悪くて可哀想だ」という感情だ。
例えば律子はカセットテープを発見した時、わざわざウォークマンを買ってまで中身を聞かないと、それが何なのか思い出せない。
というか、全く覚えていないのなら、わざわざ自腹でウォークマンを買ってまで中身を聞こうとするものだろうか。
ちょっと不可解な行動だ。
オツムが弱いんだろう。

高校時代のサクが島でアキと2人きりになるシーンで、彼女の名前が「秋」だと思い込んでいた事実が判明する。
同じクラスで、しかも好きな相手の名前を間違えて覚えているというのは、かなりのポンコツ頭である。
たぶん、彼の高校では学級名簿なども存在しないのだろう。
名簿を見れば、一発で分かるしね。
というか、調べる程度の知恵も無かったんだな、たぶん。

サクは台風の中、白血病でヘロヘロのアキを病院から連れ出し(かなり簡単に連れ出せている)、オーストラリアへ行こうとする無謀っぷりを見せる。
で、アキが倒れると、「助けてください」と叫ぶ。
自分が連れ出したから大変なことになっているんだが、そのことには気付いていないんだろう。
というか、叫んでいる暇があったら、病院に電話した方がいい。

サクは最後、オーストラリアにアキの遺灰を撒く。
しかし、アキは生きている間にオーストラリアに行きたがっていただけである。
永住を望んでいたわけではない。
アボリジニーの感覚がどうなのかは知らないが、少なくとも日本的な考えに基づくと、遺灰を撒いたらアキはオーストラリアで永眠することになるんじゃないのか。
そこまでの思い入れがアキにあったとは思えんが。
アキの生前の願いを叶えてあげたいのならば、彼女の遺品か写真でも持っていけばいいんじゃないのか。

前述したように、頭が悪くて可哀想なのはサクだけではない。
アキは、白血病をネタにしたサクに腹を立てるが、墓を荒らして遺骨を盗むことには何の罪悪感も感じていない。
白血病患者の気持ちを考えずにネタにするのは不謹慎だが、勝手に他人の墓を荒らすのは不謹慎ではないらしい。
その感覚が、私には良く分からない。
墓荒らしはバレていないから大丈夫ってことだろうか。

終盤、「律子が幼少の頃に入院していて、仲の良かったアキが恋人に渡すカセットテープを靴箱に届ける役目を果たしていた」ということが判明する。
そこまでは、別にいい。
問題は、律子が写真館でサクとアキの写真を見るまで、アキの恋人が自分の婚約者サクだと知らなかったことだ。
それって、かなりスゴいことだ。

何しろ、律子はサクの友人・龍之介の紹介で、サクと知り合っている。その関係で、高校時代のサクとアキの話が出ても不思議ではない。
また、律子の片足が不自由なのはアキのテープを届ける途中の事故が原因だから、その足のことをサクに話す中でアキとの関係が判明しても不思議ではない。
などなど、今までに2人の関係を知るチャンスは呆れるほど多くあったはずだが、なぜか律子は気付かぬまま今までサクとの交際を続けていたのである。
すげえな。
どういう人間関係なんだ、お前らは。

で、律子は引越し準備で見つけたカセットテープ(それはアキから託された物だが、届ける途中で事故に遭い、そのままになっていたのだ)を、あの頃の高校の靴箱に入れようとする。
それって、何の意味があるんだろう。
もし遅れ馳せながらアキの恋人に届けたいと思ったのだとすれば、無意味だぞ。
とっくに高校は卒業しているんだから、絶対にアキの恋人には届かないぞ。

 

*ポンコツ映画愛護協会