『SCOOP!』:2016、日本

フリーカメラマンの都城静は野球場の前に中古のベンツを停め、女とセックスする。金を渡して女を帰らせた彼は、試合を終えて出て来た須山の車を尾行する。須山が車を停めて女と出て来ると、静は気付かれないよう写真を撮影した。一方、写真週刊誌『SCOOP!』の編集部を訪れた行川野火は副編集長の横川定子と会い、現場へ行ってカメラマンと会うよう指示された。ナイトクラブに入った静は、須山が女たちと楽しむ様子を鞄に隠したカメラで盗撮しようとする。そこへ野火が表れて須山に近付き、怯えた様子でインタビューを始める。激怒した須山に脅され、野火は慌てて逃げ出した。
店を出た静は、身を隠している野火を見つけて編集部へ連れ帰る。「こんなド素人を現場へ寄越して」と彼が憤慨すると、定子は「あの子、アンタに付けるから面倒見てよ」と告げる。新人教育を頼まれた静は「俺は誰とも組まねえ」と冷たく断るが、定子に「これからアンタが撮るネタを30万円で買い取る。借金、大分あるんでしょ」と持ち掛けられ、しばらく専属として野火と組むことを承知した。定子から静と組むよう言われた野火は、露骨に嫌そうな表情を浮かべた。もう1人の副編集長である馬場は、彼女に「貧乏くじ引かされたな。都城静。元はウチのスターカメラマン。今はしがないパパラッチさ」と告げた。
静は野火を車に乗せ、街へ出てネタを探す。人気女優の長谷川真澄を見つけた静は写真を撮るが、ヘアメイクやスタイリストと一緒にいただけなので「俺はデカいネタしか狙わない」と野火に言う。あるバーの前で深夜12時を過ぎても車を停めて待機しているだけなので野火が文句を言うと、静は「この仕事の99%は何も起きない。カタギが寝ている間に俺たちの食い扶持は転がっている」と面倒そうに告げた。今の仕事を選んだ理由を訊かれた野火は、ファッション雑誌の編集をやりたかったが採用してもらえなかったのだと答えた。
アイドルの元気やシュウ、小島ルイたちが次々に店へ入って行くのを撮影した静は車を降り、店長と話を付けてくれた情報屋のチャラ源に金を渡した。静はカップルのフリをするよう野火に指示し、店へ入る。男女の人気アイドルたちが一緒に楽しむ様子を静が盗撮していると、元気がルイを連れてカーテンの奥へ消えた。静は野火に、スマホで2人を撮影して逃げるよう命じた。静は車を回しておくと言い、先に店を出た。困り果てた野火だが、仕方なく指示に従った。写真がブレブレだったので、静は文句を付ける。しかし野火が文章を執筆した記事には、彼女の写真も使われた。
定子は次のターゲットとして、将来の首相候補と言われている民自党青年局長の小田部新造を指名した。小田部は結婚しているが、人気アナウンサーの上原桃と不倫しているという情報が入ったのだ。小田部がホテルのパーティー後に宿泊する際に上原も合流するはずなので、ツーショットを必ず撮るよう定子は静に指示した。静と野火はホテルで張り込み、小田部と桃が来るのを確認した。静は野火を連れて、向かいの建物の屋上へ移動した。野火は静に指示し、花火を打ち上げさせる。それを見るために小田部と桃は寝室のカーテンを開け、そこを静が撮影した。
SPに気付かれたため、静は野火を車に乗せて逃亡した。静が急にキスしたので、野火は激しく叩いて抵抗した。静はチャラ源の麻雀バーへ行き、昔話に花を咲かせる。酒に溺れるチャラ源に、静は「程々にしとけよ」と忠告した。静と野火はスクープを連発し、雑誌の売り上げ部数は上昇していく。当初は「最低の仕事」と嫌悪していた野火も、パパラッチの活動に夢中となっていた。新人の頃からグラビアで重用してきた浜本ユウリの恋愛ゴシップを撮影した静と野火だが、馬場は定子に「事務所との関係もある」と抗議する。定子が「グラビア押しでやって来たから部数が落ちたんでしょ」と突き放すと、馬場は編集長の花井に記事を使わないよう求めた。
静は以前からの知り合いである多賀と再会し、文芸雑誌の編集長になったことを知る。多賀から巻頭企画のカメラマンを持ち掛けられた静は、「いやあ、無いっす」と軽く笑って遠慮した。「もういい年だろ。いつまでもアホな芸能人のケツ追っかけ回してどうすんだよ」と言われた彼は、「芸能人のケツも作家先生の顔も、同じようなモンじゃないですか」と静かに反発した。芸能だけでなく事件班も兼任することになった定子は、静に「私と組んでいた時のように事件や大きいネタも撮って、メジャーに復帰してほしい」と告げる。しかし静は「俺はマイナーリーグがお似合いなの」と言い、まるで興味を示さなかった。
定子はチャラ源と縁を切るよう忠告し、「あいつのせいで人生を棒に振ったんじゃない」と告げる。しかし静はチャラ源に罪を全て被ってもらった恩義があり、「あいつは大事な友達なんだよ」と述べた。定子は4人の女性が犠牲となった連続強姦殺人事件の特集を組むと決定し、犯人である松永の現在の写真を撮ると告げる。現場検証の時に狙うという彼女に馬場は「無理だろ」と冷たく告げ、グラビアを優先するよう花井に提案した。
以前は『SCOOP!』も大きな事件を積極的に取り扱っており、編集部員たちは昔話で盛り上がる。しかし馬場が呆れたように「雑誌が反体制とかジャーナリズムを背負ってた時代は、とっくに終わったんだよ」と吐き捨てると、全員が黙り込んだ。野火が「良く分かんないんですけど、とりあえず私は、そいつのことがすげえムカつきます」と言い、松永への憤りを漏らす。定子は彼女を呼び、「上は説得するから、さっきの件、アンタと静でやって」と指示した。
静の説得を任された野火は、「私はこのネタやりたいです」と言う。静は断り、張り込んでいた芸能人の撮影も「連れがヤバすぎる」と中止する。野火は腹を立て、「ビビってるだけですよね。一人でもやります」と告げて立ち去るが、ターゲットと不良仲間に捕まって強姦されそうになる。チャラ源から知らせを受けた静が駆け付けるが、あえなく殴り倒される。そこへチャラ源が現れ、笑いながら不良たちを軽く撃退した。チャラ源は静を誘って朝まで風俗店で楽しんだ後、別れた妻の和子が娘に会わせてくれないのだと漏らした。
野火は静の家を訪れ、助けに来てくれたことへの礼を述べた。静は松永の写真を撮影すると言い、野火は彼にキスしようとする。朝食を作りに来た定子は驚くが、すぐに平静を装って一緒に食べていくよう野火に告げる。野火は遠慮し、逃げるように走り去った。静と野火は定子からサポートを指示された編集部員の大久保&澤部と共に、松永の顔を撮るための作戦を練る。現場検証の当日、静は先輩カメラマンの宮嶋を見つけて挨拶する。現場はビニールシートで完全にガードされているため、撮影は難しい状態だった。静は過去に組んでいた馬場を呼び寄せており、彼に協力させてチャンスを狙う…。

監督 脚本は大根仁、原作映画『盗写 1/250秒』(監督・脚本:原田眞人)、製作統括は平城隆司&畠中達郎、共同製作は市川南&長坂信人&中川雅也、エグゼクティブプロデューサーは林雄一郎&原田知明、プロデューサーは川北桃子&政岡保宏&市山竜次、共同プロデューサーは山内章弘&高野渉&滑川親吾、撮影は小林元、照明は堀直之、録音は渡辺真司、美術は平井亘、編集は大関泰幸、脚本協力は黒住光、音楽は川辺ヒロシ、共同音楽は上田禎、音楽プロデューサーは北原京子、主題歌『無情の海に』TOKYO NO.1 SOUL SET feat. 福山雅治 on guitar。
出演は福山雅治、二階堂ふみ、吉田羊、リリー・フランキー、滝藤賢一、中村育二、斎藤工、塚本晋也、宮嶋茂樹、宇野祥平、今井隆文、松居大悟、平原テツ、政修二郎、森下剛、矢崎まなぶ、中村無何有、益山寛司、坂本慶介、鈴之助、泉里香、澤口奨弥、寿るい、七瀬公、護あさな、久保田悠来、遊屋慎太郎、森田想、阿部亮平、永井響、八城嵩司、小池惟紀、園田玲欧奈、城築創、高山玲子、藤本悠輔、尾倉ケント、井澤崇行、大津尋葵、嶺豪一ら。


原田眞人が監督と脚本を手掛けた1985年のテレビ映画『盗写 1/250秒』のリメイク。
監督&脚本は『モテキ』『バクマン。』の大根仁。
『盗写 1/250秒』はDVD化されていない作品だが、大根仁は長きに渡ってリメイクを熱望しており、そのVHSを買い占めるという意味不明な行動まで取っていたそうだ。
静を福山雅治、野火を二階堂ふみ、定子を吉田羊、チャラ源をリリー・フランキー、馬場を滝藤賢一、花井を中村育二、小田部を斎藤工、多賀を塚本晋也、宮嶋を宮嶋茂樹が演じている。

公開された時は、「福山雅治が汚れ役を演じる」ってことが大々的にアピールされていた。
確かに静ってのは、酷いセクハラ三昧で借金まみれの男だ。ゴシップばかりを追い掛けて愚劣なことも平気でやるような奴であり、だから表面的には間違いなくクズと言ってもいい。
しかし、何しろ福山雅治なので、何をやってもカッコ良さが抜け切れていない。
そもそも福山雅治は下ネタを言いまくっている人であり、それでも女性たちからキャーキャーと騒がれる存在だったわけで。

汚れ役を演じるからって、必ずしも「クズにしか見えない」という状態にならなきゃいけないわけではない。それは作品やキャラクターによって違ってくる。
ただし静の場合、最初は野火から嫌悪されるような男なので、そこで問題が生じる。「態度はともかくイケメンだし、下ネタなんて福山雅治は普段から言いまくっているんだし、それを嫌がるのは不自然じゃないか」と感じてしまうのだ。
なので、そこは「だって福山雅治のスター映画だもの」という風に解釈しておく必要がある。
ホントはスター映画として作っている意識なんて無いはずだけど、そういう形じゃないと、そこの不自然さを受け入れるのは難しい。

この映画には二階堂ふみの濡れ場が用意されているが、下着を付けたままだ。見事なぐらい、ヌルくてチープなセックスシーンになっている。
「静は女に服を着せたままセックスする性癖」とでも解釈しろと言うのか。だとしたら、それは無理があるぞ。
どこかの監督みたいに、「脱げない女優は一人前と呼べない」なんてことは毛頭思っちゃいないよ。
ただ、全身がバッチリと写る状態での濡れ場を用意してあるのなら、そこで下着のまま男と絡むのは不自然極まりないでしょ。
そんなことになるぐらいなら、濡れ場そのものを入れなくても、その前後だけを描けば良かったのよ。「静と野火は肉体関係を持ちました」ってことを示すだけでも、充分に事足りるのよ。

っていうか、そもそも「静と野火が肉体関係を持つ」という展開そのものが、実は邪魔でしかないのよね。
と言うのも、この2人ってのは「師弟関係の絆」で結ばれているはずで。でもセックスしちゃうと、それよりも「肉体関係」の方が圧倒的に強くなってしまうわけでね。
とは言え、男女ペアを組ませる設定にした以上、そこに恋愛感情が芽生えないまま終わらせると、それはそれで不自然さに繋がる可能性も高いだろう。
誤解の無いよう補足しておくと、実際に男女が組んだら絶対に恋愛感情が芽生えるという意味ではないよ。映画の仕掛けとしては、そうした方が分かりやすいだろうってことね。

それはともかく、2人の恋愛感情を生じさせるのは別にいいと思うのよ。ただし、それは「ほのかな思い」とか、その程度に留めておくべきだった。プラトニックな関係に留めておくべきだった。特に静の方は、野火への気持ちを明確に示さないままで終わらせるべきだった。
セックスに及ぶほどハッキリした形で男女の関係に発展させることで、「静がセックスの後で野火の寝顔を撮っていた」ってのも、何のサプライズ効果も発揮されなくなる。「まあ、そうだろうね」という想定内の出来事に落ち着いてしまうでしょ。
っていうか、そもそも彼が寝顔を撮るシーンを見せちゃってるので、その時点でバレてるし。
後で「その写真を初めて見た野火が泣く」というシーンをオチ的に用意するなら、それを静が撮影するシーンは絶対に隠しておかなきゃダメでしょ。

あと、実は「静と野火の師弟関係」という部分についても、実は大いに引っ掛かる部分があるのよね。
途中で忘れてしまいそうになるけど、野火って新人記者として編集部に来ているのよ。ところが、静と野火は「カメラマンの師匠と弟子」みたいな描かれ方をしているのよね。
そりゃあ「記事も書くけど写真も撮る」という記者だっているだろうけど、静と野火はカメラマンと記者という関係のはず。でも、野火が記事の文章について悩んだりすることは一切無いし、「いかにネタを入手するか」といったことも描かれないし、そっち方面での成長は全く見られない。
後で詳しく触れる終盤のシーンにしても、静は写真を撮るよう指示するけど、それはカメラマンの仕事であって。
「野火がカメラマンとして一歩踏み出しました」みたいな形になってしまうので、どうにも違和感を覚えてしまうのよね。

この映画が抱えている最も厄介な問題は、「ヒリつくようなリアルを感じさせた方がいいはずの作品なのに、ファンタジーになっている」ということだ。
最初からではなく途中からファンタジーに入っていくのだが、その手口もマズい。
終盤に入って急ハンドルを切って強引にファンタジーへ突入するため、「単にドライビングが下手なだけ」という形になっている。
そしてファンタジーに入った後も、やはり描写に難があるため、「単に不自然で不可解なだけ」という形になっている。

前半戦はコミカルなテイストで描かれており、ヒリヒリした空気は無い。だが、それは一向に構わない。
リアルさは全く感じないが、それも別に構わない。その辺りの展開は、リアルを求めるような内容じゃないからだ。
静と野火がスクープを狙って行動する様子が面白いのかと問われると、「TVドラマなら面白いかもね」という微妙なトコではあるのだが、それはひとまず置いておこう。
静たちが小田部のSPから逃げるカーチェイスは全く要らないとか、かつて担当した事件について編集部員たちが楽しげに語り合ったり馬場が否定したりするシーンが上手く機能していないとか、幾つかの難点はあるが、それも些細なことだ。

松永事件を追うことを定子が決めた辺りでシリアスな雰囲気が強まるが、まだヒリついた空気ではないし、リアルさも薄い。
っていうか、「馬場がハカを踊った後、ラグビーの格好で走り回ることで囮になって警官隊をおびき寄せ、その間に静が松永の顔を撮ろうとする」というシーンなんて、完全にコメディーだ。
でも、まだリアル度数が低くても全く問題は無い。
重要なのは、「ヒリつく空気」になった時のリアルさであって、まだそれは訪れていないからだ。

さて、開始から1時間半ほど経過した辺りで、いよいよ厄介な展開が訪れる。
「チャラ源が和子と彼女の恋人を銃殺して静に電話を掛け、自分の写真を撮るようリクエストする。彼は娘を人質に取り、警官も殺して外を徘徊する」という展開だ。
それまでにチャラ源が酒浸りってのも、娘に会えなくて寂しさを感じていることも触れているから、伏線がゼロだったわけではない。だけど、そういう展開に至るのであれば、やはり撒き餌が足りないと言わざるを得ない。
前述したように、急ハンドルでシリアス路線へ突入したという印象が否めない。
その転換は、とてもじゃないがスンナリと入り込めるモノではない。

チャラ源が娘と会えないことで寂しさを感じていたにしても、「だから妻と男を殺す」という方向へ動くのは、違和感を覚える。
そこまでの描写からすると、むしろラリって自殺するとか、ヤバい連中を相手に暴れて始末されるとか、そういう形の方が納得しやすい。
それに、チャラ源が拳銃で別れた妻と恋人と警官を射殺するってのも、違和感が強い。
彼は不良グループを撃退する時、ステゴロで戦っている。相手は大勢いるのに余裕の笑みを浮かべ、簡単に全員を叩きのめすのだ。そんな腕っぷしを持っていて、しかも相手を殴ることを楽しめるような男が、わざわざ拳銃に頼るだろうか。

チャラ源が拳銃を発砲して喚きながら街を徘徊し、それを静がなだめる様子を、少し離れた場所から警官隊が眺めている。
この警官隊が、ビックリするぐらい無能なのだ。
ここに「日本の警察の無能っぷり」を風刺する意味合いが込められているのなら、ある程度は不自然であっても、まだ方向性としては理解できる。しかし、そういう意図があるようには思えない。
なので、「静が殺されるまで何もせずに傍観しているだけ」ってのは、「不細工なファンタジー」と化しているのだ。

(観賞日:2018年3月1日)

 

*ポンコツ映画愛護協会