『猿ロック THE MOVIE』:2010、日本

ひかり銀行の支店に3人組の覆面強盗が押し入り、行員と客を人質にして立て篭もった。江戸川警察署長の水樹瑛子も人質となり、強盗に 拳銃を突き付けられた。鍵師の猿丸耶太郎、通称「サル」は、仲間である刑事の山田に呼ばれ、裏口の鍵を開けた。SWATが突入し、 行内に発煙弾を投げ込んで強盗を取り押さえようとする。だが、強盗の一人・岩木はトランクを持ち、煙に紛れて銀行から脱出した。岩木 はボスの藤山に連絡を入れた。サルは人質となっていた女性・篠崎マユミに目を奪われた。
翌日、サルが自分の店で仲間のリツコ、山本と話していると、マユミがやって来た。彼女は「開けてほしい鍵があるんです」と言い、記憶 に障害があることを話す。両親を交通事故で亡くし、同じ車に乗っていた彼女は、その時に記憶を失ったらしい。マユミはサルに、勤め先 で任されている金庫の番号を思い出せなくなったので助けてほしいと依頼した。一方、警察が逮捕した2人は闇サイトで集められた面識の 無い面々であり、逃げた一人が主犯だということが明らかになった。
サルはマユミに連れられ、彼女が勤務するというパピヨン・スポーツクラブへ赴いた。そこは藤山が経営するスポーツクラブだが、彼は 手下と共に外出中だった。サルが中に入ると、山本の姿があった。彼はサルに、そこが必ず痩せられることで有名なスポーツクラブであり 、大勢の若い女性が通っていることを話す。山本の隣でトレーニング中の女性は、そこで売られているサプリを飲んでいた。
山田が銀行に残されていた錠剤を調査していると、山本から携帯にメールが届いた。添付された写真には、スポーツクラブの様子が写って いた。それを見た山田は、その錠剤がパピヨン・スポーツクラブで売られているサプリだと気付いた。サルはマユミの案内でオーナー室に 入り、金庫を開けた。いつの間にかマユミは着替えており、金庫の中からトランクを引っ張り出した。その時、マユミは車の音に気付いた 。外を見ると、藤山たちが戻って来たところだった。
マユミはサルに「これを運んで。誰にも見られたくない物が入っていて、悪い奴らに狙われているの」と頼んだ。サルとマユミは藤山の 手下に追われるが、山本の協力もあってスポーツクラブから脱出した。その様子を、ちょうど捜査に来た山田が目撃していた。彼は警察署 に戻り、銀行から盗まれたトランクをサルが持ち去ったことを瑛子に報告した。瑛子は、トランクを追うよう彼に指示した。
警視総監の小笠原はサルの写真を眺めながら、部下の金井に「この男にトランクの中身を知られるようなことがあれば」と口にした。金井 が「処分します」と言うと、小笠原は「内密に指示を出せ」と告げた。瑛子は藤山に電話を入れ、「二度とミスは許されないわよ。これ まで通りの関係を続けたいなら」と冷淡に述べた。山田はマユミを捕まえ、サルに「この女は強盗犯とグルなんだ」と言う。サルは激しく 抗議するが、マユミは不遜な態度に豹変して「この人の言う通りよ。バカみたい。記憶喪失なんて嘘よ」と言い放った。
山田の車で連行される途中、マユミは「あいつらの犯罪がバレなかったのは、警察が見逃していたからよ。トランクに入っているのは、 あいつらと警察がグルになって作った裏金よ」と告げた。「汚い金を良いことに使うんだから、別にいいじゃん」と彼女が言うと、サルは 「やっぱ盗みはダメだよ。お天道様は見てるから、バチが当たるよ」と口にした。そこへ岩木たちが車で襲い掛かって来た。彼らは山田の 車を横転させ、マユミとトランクを奪って走り去った。
サルがマユミを救うためスポーツクラブへ向かうと、リツコと山本も付いて来た。リツコは利用者として潜入し、岩木を尾行した。サルは 山本と共にオーナー室へ忍び込むが、金庫にトランクは入っていなかった。彼らは藤山を見つけ、後を追った。藤山は隠し部屋に入り、 瑛子に電話を掛けた。彼はトランクに入っていたUSBを手に取り、「裏金のデータが見つかった。ウチが流してる金なんて子供の小遣い みたいなモンだ。これがマスコミに流れたら、警察官僚の首が飛ぶだけじゃ済まないんじゃないか」と脅しを掛けた。
藤山は隠し部屋の金庫にトランクを入れ、その場を去った。藤山や岩木たちは、監禁しておいたマユミを車に乗せてスポーツクラブを出た 。サルは金庫を開けてトランクを手に入れ、藤山たちの後を追う。リツコと山本は、山田の車でサルを追い掛けた。藤山たちはマユミを車 に縛り付け、海に沈めようとする。そこへサルが駆け付けて救出しようとするが、マユミが乗せられた車は海に突っ込んだ…。

監督は前田哲、原作は芹沢直樹「猿ロック」(講談社ヤンマガKC刊)、脚本は長谷川隆、脚本協力は金沢達也、 エグゼクティブプロデューサーは細野義朗、製作は西川孝&丸山公夫&堀越徹&吉鶴義光&阿部秀司&喜多埜裕明&大宮敏靖、企画は S・D・P、企画協力は春名慶、プロデューサーは安藤親広&堀口良則&東海林秀文、撮影監督は梅根秀平、編集は高橋幸一、 録音は尾崎聡、ガファーは山本孝二、美術は北谷岳之、VFXスーパーバイザーは石井教雄、アクションコーディネイトは中瀬博文、 音楽は吉岡聖治。
主題歌はmihimaru GT『Love Letter』作詞:hiroko、mitsuyuki miyake、作曲:mitsuyuki miyake、編曲:Hideyuki Daichi Suzuki。
エンディングテーマはmihimaru GT『道しるべ』作詞:hiroko、mitsuyuki miyake、作曲:SiZK from ☆STARGUiTAR、hiroko、mitsuyuki miyake、編曲:SiZK from ☆STARGUiTAR。
出演は市原隼人、比嘉愛未、高岡蒼甫、芦名星、小西真奈美、國村隼、西村雅彦、光石研、渡部豪太、和田聰宏、田中要次、半海一晃、 池田成志、榊原毅、深水元基、山中聡、佐伯新、児玉貴志、本田清澄、佐藤旭、藤井聖子、両國宏、浅川稚広、石鍋正寿、中島愛里、 島さくら、諏訪太朗、九太朗、薄井伸一、内藤トモヤ、木下貴矢、福西龍輝、奈良木未羽、内田陸斗、下田翔大、角田明彦、綿城志朗、 西明彦、中西一樹、白濱孝次、中村覚司ら。


芹沢直樹の漫画を基にした深夜ドラマの劇場版。
監督は『ブタがいた教室』の前田哲。
サル役の市原隼人、山田役の高岡蒼甫、リツコ役の芦名星、山本役の渡部豪太は、テレビ版からのレギュラー。山田はドラマでは巡査 だったが、この映画版では刑事になっている。
他に、瑛子を小西真奈美、マユミを比嘉愛未、金井を西村雅彦、小笠原を國村隼、藤山を光石研、岩木を和田聰宏が演じている。

マユミを演じる比嘉愛未は、完全にミスキャスト。
彼女は清楚なイメージの女優であり、それはサルを騙している間は合っているのだが、途中でクール・ビューティーであったり、ファム・ ファタールであったりという女性像に変貌する必要がある。
だが、彼女には、そこで不可欠である「魔性」が決定的に欠けている。
単なる「可愛いお嬢さん」では困るのだ。
それならば、むしろ最初から「いかにも男を虜にする小悪魔っぽい」という感じが出ているような、エロティックな女優を配置した方が いい。

ドラマ版は、第1回放送の視聴率は木曜ナイトドラマ枠で最も高かったが、逆に平均視聴率は最も低いという結果に終わった。
どうやらドラマ放送時点で映画化は決まっていたようだが、視聴率が振るわなければ、撤退を決める勇気も必要だ。
っていうか、ドラマ版は最初の数話を見ているが、あのユルさと言うか、大雑把な加減と言うか、ああいうのって深夜枠だから許される モノだと思うんだよね。

民間の鍵師を呼ばなければ、警察が銀行のドアを開けられないというのは考えにくい。
SWATが銀行に発煙弾を投げ込み、犯人に煙に紛れて逃げられるというミスをやらかすのも考えにくい。
後で警察が藤山とグルになっていることが明らかになるが、それは上層部の関係であり、下っ端の連中は強盗計画を知らないはすだから、 「わざと不可解な行動を取った」ということでもないはずだ。
そういう話の粗さは、深夜ドラマなら「まあ、いっか」で許されても、映画だとアウト。

そもそも、そのトランクには裏金のデータを記録したUSBが入っているわけで、そんな物を、そこらの銀行の支店に預けているという 時点でメチャクチャだ。
どんだけ警察の管理体制はユルいんだよ。
そんなモン、警察内部で保管しておけば安全だろうに。
あと、マスコミにも取り上げられるような有名スポーツクラブで、そこのロゴが入った違法ドラッグを堂々と配っているのもメチャクチャ。

サルとマユミがスポーツクラブの連中に追われるシーンを、サスペンス・アクションとして盛り上げたい意識はあったようだ。
しかし、例えばスポーツクラブ内の追いかけっこなんかも、サルたちの動きがモタモタしていて小気味良さが無い。
あと、サルのピッキング技術を描写することが無いのはドラマ版を見ていたので分かっていたが、そのくせ「鍵穴の無い金庫をどうやって 開けるのか」という場面で盛り上げようとしているんだよね。
だけど、そこにスリルは見つからない。

前述のように、スポーツクラブではハイテンションになる違法ドラッグをサプリと称して配っているんだが、その設定に全く意味が無い。
サプリでパワーアップした山本がサルたちの逃亡を手助けするシーンはあったが、そこで利用されている程度。
そのサプリを巡って物語が進行するようなことは無い。
サプリの設定を完全に削除したとしても、ストーリー展開には何の影響も無いと断言できる。

序盤で山本がサルにエッチ動画を見せるシーンでUSBメモリーを握っていて、その時のことをサルが思い出し、藤山が盗んだUSBに 考えが至るという展開がある。
で、そんな風に伏線として使うのであれば、もっと有効な使い方があったんじゃないか。
ベタと言えばベタかもしれないが、山本のUSBを飾りの付いたモノではなく普通のモノにしておいて、サルが瑛子から盗まれたUSBを 渡すよう要求された時、そのエッチなUSBメモリーと密かに摩り替えるという展開にしたらどうだったのかなと。

(観賞日:2011年11月3日)

 

*ポンコツ映画愛護協会