『サンブンノイチ』:2014、日本
キャバクラ嬢の茉莉亜は、川崎の仲見世通りにある「ハニーバニー」で昨日まで働いていた。そして彼女は、ボーイのコジ、常連客の健、雇われ店長のシュウという3人の内、ある1人に殺された。3人は銀行から金を奪い、オープン前の店で分配しようとしていた。3人はパトカーに追われ、それを撒いて店内に逃げ込んだのだった。コジと健は楽観的だったが、シュウは「外に警察がいるかもしれない」と不安を隠せない様子だった。
コジが早く金を分けようと提案すると、シュウは言いにくそうに「コジは運転手だったから3分の1は貰い過ぎじゃないかって」と告げる。健も賛同していることを知り、コジは激しい怒りを示した。「シュウなんて人質殺してもうてるからなあ」と健が言うと、シュウは「また死んだか分かりません」と反論した。しかし、茉莉亜は死んだ。彼女はハニーバニーで働く前、ミュージカル劇団で女優をやっていた。演出家は劇団員に、「アクシデントを利用しろ」と教えた。
健がコジに2割の分け前を持ち掛け、「実際にやってみてリスクの差を感じたんや」と言う。シュウが煙草を吸うために席を外すと、コジは分け前のことをどちらが言い出したのか健に尋ねる。「教えてくれたら3分の1は諦める」とコジが告げると、健はシュウだと明かした。するとコジは2人で山分けしようと持ち掛け、「健さんの拳銃、車に取りに行ってきます。弾入ってないんでしょ。それじゃシュウさん殺せないじゃん」と述べた。
その7日前、シュウはギャンブルで所持金の大半を使い果たした。凶暴なオーナーの破魔翔に持って行く店の売上金は持っていたが、それに手を付ければ人生が終わることを彼は理解していた。その昔、シュウは高校の先輩の風俗店でバイトをしていた。退屈な仕事だったのでレンタルビデオを片っ端から見まくった彼は、タランティーノの映画が好きになった。映画監督を夢見た彼は、脚本を書いて先輩に見てもらった。完全にラリっていた先輩は、ホラーなのに「すんげえ泣ける」と感想を漏らした。シュウは雑用係として『踊る海岸線』という同性愛ポルノ作品に携わり、急激に映画への情熱が冷めた。
馬の名前に運命を感じたシュウは所持金を突っ込み、見事に大穴を当てた。しかし換金している間に、売上金の入ったセカンドバッグを盗まれてしまった。ゴミ箱でセカンドバッグは見つけたが、金は消えていた。茉莉亜から声を掛けられたシュウは、事情を打ち明けた。すると茉莉亜は「ちょうど良かった。私も殺されるところだった。シュウに相談しようとしてたの」と言い、タクシーを停めた。彼女はシュウを高利貸しの渋柿多見子の元へ連れて行き、100万円を借りた。渋柿は「1週間で返さないと死ぬよ」と通達した。
店のフロアにシュウが戻って来ると、コジは入れ違いで「クルマに忘れ物取りに行ってきます」と外へ出た。シュウは健からコジの策略を聞かされ、「コジは金を独り占めする気です」と告げる。コジが2人とも殺す気だとシュウは語り、彼に8割を渡そうと提案する。コジがキレたら手の付けられない人間だと2人は知っており、死にたくなければ我慢しようとシュウは説く。シュウは電話で説得しようとするが、そこへコジが戻って拳銃を構えた。
6日前、シュウは茉莉亜から「銀行強盗やろうよ」と持ち掛けられた。彼女はシュウに、同じぐらい追い詰められている仲間2名を集め、自分のことは内緒にするよう指示した。その時に「絶対に裏切らない奴がいる。コジだ」と彼は話していたが、そのコジが拳銃を構えていた。しかし8割を払うと言われて、コジは納得した。健は「下の階にある潰れた居酒屋へ拳銃を捨てて来る」と言い、自分とコジの拳銃2丁を持って店を出て行った。
健がエレベーターに乗るのを確認し、シュウとコジは笑い出した。シュウは「俺が言った通りだろ」と告げ、健の割け前を減らすための策略が成功したことをコジと喜び合った。「茉莉亜さん、どうするんですか。健さん言ってましたよ、2人仲良く飲んでたって」とコジに言われたシュウは、「相談に乗ってたんだ」と答える。「女優に戻りたいってやつですか」とコジは口にした。茉莉亜は「ヒロインにしてやる」と演出家に騙されて関係を持ったので事故に見せ掛けて殺害し、劇団を去ったのだった。
ボーイの尾形が店に来て倒れ込み、その後ろから包丁を握った健が現れた。居酒屋に来た尾形が通報しようとしたので、思わず刺し殺してしまったのだと健は釈明した。その5日前、シュウはSM愛好者である健を騙してホテルに連れ込み、多額の借金を抱えている彼を計画に引き入れた。尾形の死に動揺を隠せないコジと健に対して、シュウは「切り替えるんだ」と告げる。対応を問われたシュウは、救急車を呼び、それを奪って逃げようと提案した。
4日前、シュウは裏カジノで負けまくっていたコジと会い、計画に引き入れた。その時と同じ「逆転する」という言葉をシュウは使い、「サイレンを鳴らして走れば警察の包囲網を突破できる」と説明した。しかしコジと健が問題点を次々に指摘するので、シュウは「文句ばかり言ってないで自分たちも考えろよ」と苛立った。サイレンの音が聞こえたので、シュウは「非常階段から外を見て来る」と告げ、店を出て行った。
シュウたちは拳銃2丁と盗難車を手に入れるため、コジの後輩である若槻に頼った。若槻は祖母の教えを受け、裏社会の便利屋をしていた。「仕事を成功させるのに一番大切なのチームワークです」という若槻の言葉も、祖母の教えだった。店に戻って来たシュウは、隣のビルの屋上にスナイパーがいるとコジたちに告げる。特殊部隊のような格好をした男がライフルを持っていたが、こちらには気付いていないという。ボーイの来る時間が近付いたため、シュウはノロウイルス発生という理由で臨時休業することにした。
2週間前、茉莉亜はハニーバニーのトイレに盗撮カメラが仕掛けてあることを知った。営業後、茉莉亜の報告を受けた破魔は、悪びれずに「俺がやったんだよ」と述べた。破魔は「ビジネスの邪魔しやがって。盗撮物は高く売れんだよ」と言い、稼ぎを台無しにした代わりに2週間で5千万を工面しろと要求した。彼は「俺に借りのある銀行の警備員がいる。メンツを集めて銀行強盗を計画しろ。出来なければAV女優だ。女優がダメなら演出しろ」と述べた。
2日前、茉莉亜はシュウに、銀行強盗は破魔の指示であることを告白した。彼女はシュウに、破魔を裏切って金を2人で分けようと持ち掛けた。シュウが「コジを裏切れない」と言うと、茉莉亜は3人で分けることで承諾する。コジに話してボロが出ることを危惧した彼女は、計画を内緒にしておくよう告げた。そして彼女は「銀行を襲った後、逃げ出すに隠れてほしいの。ハニーバニーに」と指示した。
健は「外に出る前に金を分けてほしい」とシュウに告げ、バッグを開ける。すると中身は全て新聞紙だった。コジは困惑し、「どういうことや」と健から説明を求められたシュウも「どういうことか分かりません」と狼狽する。コジは健の仕業だと決め付け、拳銃を構えて「出せよ」と怒鳴る。「俺とシュウさんはやらねえよ」というコジの言葉を聞いた健は、「お前らは俺を騙して9割の金を手に入れる。だから、やる必要が無いってことか」と口にした。
シュウが仲裁すると、健はバッグの中が金ではないと知っていたから落ち着いていられるのではないかと指摘する。同じ鞄を2つ用意してあったのではないかと告げた彼は、「この鞄、用意したのはどっちや」とコジに質問した。用意したのはシュウだったので、コジは説明を要求する。「他にも仲間があるんやろ。そいつと店で落ち合うつもりやろ」と健が言うと、シュウは「俺は裏切ったりしない」と告げる。しかしコジは納得せず、シュウに拳銃を突き付けた。
銀行強盗の前日、シュウはハニーバニーを出たところで渋柿のボディーガード2人に拉致された。渋柿はシュウと茉莉亜が同じ鞄を2つ購入したこと、拳銃と車を手に入れたことを調べ上げており、「銀行強盗やるんだろ。私も手伝ってやるよ」と言う。「茉莉亜に話すな。あの女に騙されるんじゃないよ」と話す渋柿に脅されたシュウは、一方的な協力の申し出を承諾するしか無かった。茉莉亜が自分を罠に掛けたのだと感じたシュウは、彼女を出し抜いてやろうと心に決めた。
シュウは「俺がお前を裏切ると思うか」とコジに話し、隙を見せた彼から拳銃を奪い取った。「ホンマモンのクズやな。金はお前か」と健に問われた彼は、「正解です」と認めた。「殺すんか」という質問には「たぶん、そうなります」と答え、「金はどこや」と問われると「茉莉亜が持ってますよ」と告げた。その様子を、盗撮カメラを通して破魔が観察していた。銀行強盗前日、シュウは茉莉亜から計画の説明を受けた。不安の多い内容ではあったが、シュウは彼女の計画に乗ったフリをする…。脚本・監督は品川ヒロシ、原作は木下半太『サンブンノイチ』(角川文庫)、製作統括は井上伸一郎&岡本昭彦、製作は安田猛&泉隆司&堀義貴&平城隆司&山本晋也&浅井賢二&笹栗哲朗&樋泉実&大辻茂、企画は池田宏之&藤原寛&桑田潔、プロデューサーは水上繁雄&仲良平&千綿英久、アソシエイト・プロデューサーは佐々木基、撮影は相馬大輔、照明は三善章誉、美術は相馬直樹、録音は湯脇房雄、編集は須永弘志、VFXプロデューサーは道木伸隆、アクションコーディネーターは諸鍛冶裕太、テーマ音楽「Triad」は→Pia-no-jaC←、音楽は樫原伸彦。
出演は藤原竜也、田中聖、小杉竜一(ブラックマヨネーズ)、中島美嘉、哀川翔、池畑慎之介、窪塚洋介、木村了、赤羽健一、増田修一朗、HG、河本準一(次長課長)、ぼんちおさむ、壇蜜、海原ともこ、ワッキー(ペナルティ)、庄司智春(品川庄司)、YASU-CHIN、松田大輔(東京ダイナマイト)、ケン(水玉れっぷう隊)、HAYATO(→Pia-no-jaC←)、HIRO(→Pia-no-jaC←)、六本木康弘、横田遼、青木哲也、中野高志、遠藤誠、岸本康太、渡辺隼斗、鈴木美徳、由愛可奈、永美優紀、水谷幸恵、大岩さや、花戸祐介、五頭岳夫、金子孝ら。
木下半太の同名小説を基にした作品。
脚本・監督は『ドロップ』『漫才ギャング』の品川ヒロシ。
品川監督は原作小説に惚れ込み、まだ映画化の権利も取得していない内からシナリオを書き始めていたらしい。
シュウを藤原竜也、コジを田中聖、健を小杉竜一(ブラックマヨネーズ)、茉莉亜を中島美嘉、渋柿を池畑慎之介、破魔を窪塚洋介、若槻を木村了、尾形を赤羽健一、ボディーガードを増田修一朗&HG、元店長を河本準一(次長課長)、演出家をぼんちおさむ、元キャバ嬢のSM嬢を壇蜜、キャバ嬢のマリアンを海原ともこ、ホモ男優をワッキー(ペナルティ)&庄司智春(品川庄司)&YASU-CHINが演じており、哀川翔が本人役で特別出演している。たぶん品川監督の中にはやりたいことが山のようにあって、それを出来る限り盛り込んでいるんだろうけど、その結果が「ものすごく散らかっている」という状態を生み出している。
どうやら品川監督は格闘アクションが好きらしく、「コジはキレたら手が付けられない」ということを示すための回想部分でチンピラ客との格闘シーンをスローモーションも入れつつ描写しているんだけど、そういうのってテンポが悪くしているだけなんだなあ。
この映画って119分もあるんだけど、ホントは85分ぐらいでサクッとまとめた方がいいと思うんだよなあ。
たっぷりと時間を費やして格闘アクションを見せたいのなら、そういうジャンル映画を撮ればいいわけで。クエンティン・タランティーノが1991年に『レザボア・ドッグス』で監督デビューして以降、世界各地で彼の影響を強く受けたフォロワーが多く出現した。
この映画も、そんなタランティーノ・シンドロームに冒された作品の1つである。
既に品川ヒロシは2作の監督を務めており、『レザボア・ドッグス』の日本公開から随分と経ってからデビューしているわけで、「今さらタランティーノ・シンドロームになったのか」と思ったりもするが、その症状は後から陥るケースもある。
それと、以前からタランティーノ・シンドロームの症状があったけど、隠していたという可能性もある。ただし、そもそも原作小説からして、クエンティン・タランティーノの影響を強く受けて執筆されたものらしい。
ってことは、この映画がタランティーノの影響を強く感じさせるのは、「原作のテイストを殺していない」という捉え方も出来る。
っていうか、ひょっとすると品川監督はタランティーノ・シンドロームになど陥っていなかったのかもしれない。
単に小説の味わいを生かしたまま映画化したら、タランティーノ的な仕上がりになったというだけなのかもしれない。監督が陥った症状なのか、原作者が陥った症状が現れているだけなのかはともかく、どっちにしろ本作品がクエンティン・タランティーノの強い影響下にあることは確かである。
そして、タランティーノ・シンドロームの映画に総じて言えるのは、「まず間違いなく傑作には仕上がらない」ってことだ。
私は映画評論家でもタランティーノの研究家でも無いから、世界中で作られたタランティーノ・シンドロームの映画を全て観賞しているわけではない。
しかし、今まで見た「タランティーノ・シンドロームを患っている」と感じた映画の中で、傑作に巡り合ったことは一度も無い。むしろ、駄作になる可能性の方が高いというイメージがある。この映画も、「むしろタランティーノっぽさから遠ざかった方がいいんじゃないか」と思うぐらい、タランティーノの影響を感じさせる演出が、ことごとく「外している」と感じさせる仕上がりになっている。
色んな映像表現も、「登場人物が騙し合い、立場がコロコロと逆転する」ってのを回想シーンを何度も挟みながら描いていく構成も、映画ネタを盛り込んだ台詞も、全て「なんかカッコ悪くね?」と思わせるモノになっている。
騙し合いの部分に関しては、「狡猾な連中が相手の裏をかいたり一枚上を行ったりして」という繰り返しではなく、「バカとバカの化かし合い」でしかないので乗れないってことが大きい。
だってさ、例えば「隣のビルにスナイパーがいる。タイ特殊テロ部隊だ」という嘘で簡単に騙されちゃうような奴らなんだぜ。
それって、シュウが口にした時点で「いや、そんなわけねえし」と観客の大半は思うであろうバカバカしさのある嘘なのに、そういうのを「相手を騙すための巧妙な嘘」として使われたら、そりゃ乗りにくいわ。映画ネタに関しては、例えば「『トゥルー・ロマンス』のクリスチャン・スレイターっていいよね。実力あると思うんだけど、なんで日本の評価低いんだろ。『告発』とか、『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』とか、傑作に出てるのになあ。プラピとかジョニー・デップほど超イケメンってわけでもないし、ショーン・ペンとかゲイリー・オールドマンみたいに雰囲気を持ってることも無いし」「シュウはさ、クリスチャン・スレイターが出てる映画で何が好き?」「『クライム&ダイヤモンド』。面白くて3回見たよ」という茉莉亜とシュウの会話がある。
これなんかは、いかにも「タランティーノを気取ってみました」という感じが出まくっている。
「シュウやお前みたいな自称映画好きって奴は、自分以外の奴はみんな映画を見る目が無いと思ってやがる。自分だって1本も、1分も、1秒も映画なんて撮ったことなんか無いくせにだ、カット割りがどうの、音楽がどうの、役者がどうの、語るんだよ。そのくせ他の奴の映画論は右から左、聞いちゃいない」という破魔の台詞は、品川監督の愚痴にしか聞こえない。
「俺は映画を見る。年に2本ぐらいだし、一番好きな映画は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』だ。面白いけどなんかベタすぎない?なんてホザく奴が大嫌いだ」ってのは、「この映画でそれを言っちゃダメだわ」と思っちゃうし。たぶんタランティーノ本人とシンドロームに陥った人間の最も大きな違いって、「オタク魂」じゃないかという気がする。
タランティーノって、過去の映画から平気でネタをパクってくるんだけけど、そこに「マニアックな知識」だけじゃなくて「強烈な愛」も感じさせるから憎めない。
だけどシンドロームの人間が同じようなことをやっても、タランティーノに比べると知識が薄かったり愛が感じられなかったりするんだよね。タランティーノ・シンドロームに冒されている人たちの大半は、ただ単に技法の部分だけを模倣して、そこに込められるべき「オタク魂」が無いから、表面的で薄っぺらいと感じさせるのではないかという気がする。
良くも悪くも、タランティーノってオタク全開なのよね。「様々なジャンルをそつなく撮れる人」とか「職業監督をこなせる人」には無い、オタクならではの突き抜けた部分を持っている。いびつではあるけれど、それが魅力に繋がっている。
そういうのを、この映画には感じない。本作品の場合、単に「タランティーノのファロワー」というだけでなく、「シュウが好きなのはタランティーノの映画」とか「競走馬の名前がジャッキー・ブラウン」とか、ハッキリした形で「タランティーノが大好きなんです」ということをアピールしている。
ある意味では潔いけど、それは裏を返せば「私はタランティーノ映画を模倣しています」とアピールしているようなモノで。
もちろん、オマージュを捧げる気持ちがある時に、分かりやすい形で監督や作品名を盛り込むケースはある。ただ、この映画はタランティーノへのオマージュではなくて、単純に物真似をしているだけだ。
これが芸大生の卒業制作とか低予算の自主制作映画だったら物真似でも構わないだろうけど、角川文庫創刊65周年記念作品となるKADOKAWA配給の映画で、コレはマズいんじゃないかと。(観賞日:2015年4月25日)