『真田幸村の謀略』:1979、日本

慶長十五年、徳川家康は名古屋城を造営し、自ら視察に赴いた。それは大阪城にいる豊臣秀頼の一党を討つための準備工作であった。家康が天台僧の天海や儒者の林羅山、禅僧の金地院崇伝らと食事をしていると、側近の本多正純が石田光成の骸骨で作った黄金の器を運んできた。家康は満足そうな笑みを浮かべ、酒を入れて飲む。そんな中で真っ赤な隕石が名古屋城の上空に飛来し、武士や女中たちは大混乱に陥った。真田家の家臣である霧隠才蔵は城へ潜入し、寝間にいた家康を暗殺した。その直後、隕石は地上に激突した。
その翌朝、才蔵は家康の行列が街道を進む様子を目撃した。才蔵が暗殺したのは影武者だったのだ。彼の配下である耳助は寝返っており、家康配下の服部半蔵と手下たちが襲い掛かった。才蔵と配下の忍者たちは窮地に陥るが、不思議な術を使う猿飛佐助という男に救われた。「どこの者だ?」という才蔵の問い掛けに、彼は「草の者」と答えた。彼は「人が殺される所を黙って見ていてはいけないと、大親分から襲えられた」と語り、戸沢白雲斉の弟子であることを明かした。彼は丹波へ帰ると言い、その場から立ち去った。
石田の残党である海野六郎と望月六郎は、落人狩りで連行される一家が町で侍たちに殺される様子を目撃した。激昂して襲い掛かろうとする海野を、望月が必死で制止した。気付いた侍たちは刀を構えるが、後藤又兵衛が狂人として割り込んだので退却した。かぶき者の一団が連行される中に、筧十蔵も含まれていた。彼は付きまとう女に辟易し、火薬を使って逃亡した。切支丹の面々が磔にされた処刑場に、尹三英と名乗る男が乱入した。彼はジュリアおたあという女を捜しており、釜山浦で仕えた王城守備軍だと叫んだ。侍たちが襲い掛かると、彼は身軽な動きで蹴散らした。
穴山小助は大きな甕に入れた焼酎を運び、信州の上田から紀州の九度山へやって来た。川辺で男に話し掛けられた彼は真田昌幸を馬鹿と扱き下ろし、その息子である幸村に頼まれて焼酎を運んでいると話した。すると男は自分が幸村だと明かし、甕を背負って隠れ住む館まで案内した。小助は真田家に仕える父の小兵衛に叱責され、激しく反発して言い争いになった。幸村の妻である綾が仲裁に入り、監視の目があることを小助に教えた。
昌幸の元には、熊本の加藤清正から書状が届いていた。家康が嫡男の秀忠を二代将軍に据えてから、大阪城では不穏な空気が漂っていることが書状には綴られていた。清正は昌幸に、自重するよう釘を刺していた。昌幸は幸村に、「真田名を残すため家康に与したが、今となっては天下取りの決戦を一度はしてみたかった」と話す。さらに彼は、「家康は大阪城を必ず狙うであろう。その時は私も入城し、必ず夢を果たすぞ」と口にした。
昌幸に仕えて10年になる市兵衛が、館へ黒猫を持参した。昌幸は黒猫を可愛がるが、毒を仕込んだ爪で左腕を傷付けられる。昌幸は幸村に、左腕を切断するよう命じた。清正は片桐且元と織田有楽斉から、家康が二条城で秀頼と対面することを求めていると知らされる。それは豊臣家が一大名に過ぎないことを天下に知らしめるための策略であり、淀君は断固として反対する。清正は開戦を避けるため承知するよう説得するが、大野治長は反発する。清正は命に代えても秀頼を守ると約束し、淀君の気持ちを掴んだ。
盗賊の首領である由利鎌之助は女と財宝を略奪した後、「寄る所がある」と言って手下たちと別れる。根津甚八は天竺渡りのまやかしの葉を吸いながら、川で妻子の水浴びを眺める。そこへ由利が襲い掛かり、妻とまやかしの葉を渡すよう要求した。昌幸が息を引き取り、綾は自分のせいだと感じて成敗するよう幸村に頼む。しかし幸村は「父上は見果てぬ夢を見た。御他界で全てが終わった。家臣を兄のいる上田へ戻す」と言い、同行して行く末を見届けるよう頼んだ。
翌朝、幸村が家臣たちを見送ろうとしていると、綾の自害が知らされた。家臣たちが真田の旗を掲げるよう訴えると、彼は「ならん。父上の死も、綾の死も、無駄にはせん」と却下した。彼は小助だけを館に残し、家臣たちを上田へ向かわせた。清正は秀頼が二条城で家康と対面する際に同席し、出された食事に毒が混入されている可能性を考えて食べないよう指示した。無事に対面を終えた清正は安堵するが、放たれた忍者によって暗殺された。
幸村は兄の信幸から、清正の死を知らされた。家康の配下にある信幸は、自分の口添えで仕官するよう幸村に持ち掛ける。しかし幸村は武人の義を大切にして生きたいと主張し、その話を断った。彼は才蔵の前で、父の遺志を継いで家康の首を取ると宣言した。正体を見せず家康に近付く忍びの浪士団を使おうと考えた幸村は、放浪の身である草の者を集めることを口にした。すると才蔵は心当たりがあると言い、戸沢白雲斉の名を挙げた。
才蔵が丹波へ行くと、佐助は白雲斉が殺されたことを知らせる。白雲斉は半蔵から家康への協力を求められ、卑劣な裏切り者と罵って殺害されたのだった。白雲斉は各地に散った同志の名を巻物に残していたが、燃やされて6人しか読み取れなくなっていた。才蔵が6人の名を教えるよう頼むと、佐助は仲間に入ることを志願した。佐助は6人の情報を才蔵に教えるため、くの一寺へ案内した。武田家の一族である比丘尼の望月千代女は、協力を快諾した。
比丘尼の八つ手たちは各地へ散り、巻物に記されていた面々に接触した。十蔵は九度山へ行くよう勧められ、海野と望月は性的誘惑に喜ぶ。尹三英は行き倒れになっていた所を、比丘尼に救われた。由利は鉄砲隊に襲撃され、手下を撃たれて逃亡する。甚八の一家が和歌山藩の武士たちに捕まっている現場を目撃した由利は、刀を構えて助けに入った。甚八は由利の前で、徳川家への復讐心を口にした。2人が会話を交わしていると、裸の比丘尼が現れた。
十蔵たちは九度山の真田邸に集まり、酒と博打の日々を過ごす。佐助は彼らに、幸村を頭目として家康を討たないかと提案した。他の面々が次々と賛同する中、尹三英だけは「朝鮮から連れて来られた捕虜なので、日本の武将は信じない」と拒否した。彼は手を貸してくれれば家来になると幸村に告げ、朝鮮王族の姫であるジュリアおたあを救いたいのだと話す。おたあは家康の屋敷で牢に入れられ、夜伽の相手を要求されていた。おたあが拒絶すると、家康は島送りを命じた。
おたあを移送する行列を、幸村たちは張り込んだ。彼らは行列を襲撃し、おたあを救い出す。幸村はおたあに、神ではなく草の者を信じ、自分の力で家康を討つよう説いた。おたあは反発するが、結局は幸村の仲間に加わることを承知した。こうしてジュリアおたあと尹三英が仲間になり、それぞれ三好清海入道と三好伊三入道の名になった。
豊臣家は家康の勧めを受け、秀吉供養の大仏殿を建立した。だが、それは開戦の口実を来るための家康の謀略だった。羅山、天海、崇伝は片桐を呼び出し、鐘の文字に言い掛かりを付けた。家康への反抗だと指摘された片桐は、慌てて否定する。羅山たちは問題を解決する方法として、大阪城を明け渡して秀頼と淀君が江戸に詰めることを要求した。報告を受けた淀君は激昂し、交渉役の片桐を家康の手先と責める。愛想が尽きた片桐は豊臣家への忠誠を捨て、家康側へ移ることにした。
十蔵たちは佐助の指導を受け、忍術の鍛錬を積む。だが、小助は鍛錬に参加せず、蔵を追って来た女と深い関係になった。そのことが露呈し、小助は甚八たちに暴行を受けた。小助が開き直ると、甚八たちは斬り捨てるべきだと主張した。幸村は小助に、女を連れて下山するよう命じた。才蔵の配下である重助の調べにより、家康がオランダから買ったフランキー砲をお忍びで視察に来ることが判明した。家康は大阪との決戦を覚悟し、大砲を使おうと考えていたのだ。その試射に使われるのは、和歌山藩の山場小屋だった。幸村は火薬蔵の近くを流れる水路に燃える水を流し、試射場ごと家康を吹き飛ばす計画を佐助たちに説明した。
家康が試射場を訪れる当日、幸村たちは燃える水が湧き出す山中の井戸へ赴いた。彼らは水路に燃える水を流し、火を放った。家康に同行した本多は幸村が動くと確信し、襲撃を避けるために信幸を連れて来ていた。しかし信幸は、自分がいても幸村を抑止することは出来ないと分かっていた。幸村は信幸の存在に気付くが、「既に今生の別れは済ませた」と計画を続行した。家康たちは炎が迫るのを知り、急いで避難する。幸村たちは退路を断とうとするが、裏切っていた重助が半蔵の一味と共に立ち塞がった。幸村は左目を射抜かれるが、何とか敵を撃退した。
幸村たちの作戦によって、フランキー砲は3つの内の2つが爆破された。しかし家康は、これを「大阪方の雇った浪人たちの仕業」と主張することで、開戦の口実に出来ると考えた。慶長十九年十月、徳川連合軍四十万が大阪城に向かって進撃を開始した。幸村は豊臣の使者から参戦を要請され、悩んだ末に承知した。佐助は草の者に対する裏切りだと激怒し、幸村を斬ろうとする。しかし清海が幸村の心中を説明し、佐助を納得させた。幸村は真田十勇士を伴い、大坂城へ向かった…。

監督は中島貞夫、脚本は笠原和夫&松本功&田中陽造&中島貞夫、企画は高岩淡&日下部五朗&松平乗道&三村敬三、撮影は赤塚滋、イラストレーションは横尾忠則、監督補は清水彰、照明は増田悦章、録音は荒川輝彦、編集は市田勇、美術は井川徳道、助監督は藤原敏之、振付は藤間紋蔵、擬斗は菅原俊夫、特撮監督は矢島信男&佐川和夫、音楽は佐藤勝。
出演は松方弘樹、あおい輝彦、森田健作、萬屋錦之介、秋野暢子、岡本富士太、片岡千恵蔵、丹波哲郎、高峰三枝子、梅宮辰夫、寺田農、火野正平、成田三樹夫、金子信雄、小倉一郎、萩尾みどり、ガッツ石松、曽根晴美、真田広之、岩尾正隆、野口貴史、丹阿弥谷津子、上月左知子、亀井光代、渡辺とく子、桜町弘子、小林昭二、戸浦六宏、北村英三、茂山千五郎、浜村純、香川良介、梅津栄、野口元夫、有川正治、遠藤征慈、中村錦司、和崎俊哉、林彰太郎、市川好郎、谷川みゆき、橘麻紀、笹木俊志、壬生新太郎、白井滋郎、福本清三、崎津均、大矢敬典、小峰隆司、木谷邦臣ら。
ナレーターは小松方正。


東映が『柳生一族の陰謀』『赤穂城断絶』に続く大型時代劇の第3弾として製作した映画。
監督は『日本の首領 完結篇』『総長の首』の中島貞夫。
脚本は『仁義なき戦い』シリーズの笠原和夫、『女必殺五段拳』『恐竜 怪鳥の伝説』の松本功、『嗚呼!!花の応援団』シリーズの田中陽造、中島貞夫監督による共同。
幸村を松方弘樹、佐助をあおい輝彦、十蔵を森田健作、家康を萬屋錦之介、清海を秋野暢子、甚八を岡本富士太、昌幸を片岡千恵蔵、清正を丹波哲郎、淀君を高峰三枝子、信幸を梅宮辰夫、才蔵を寺田農、小助を火野正平、又兵衛を成田三樹夫、羅山を金子信雄、秀頼を小倉一郎、綾を萩尾みどり、海野をガッツ石松が演じている。

東映が力を入れて製作した大作映画なので、出演者の顔触れが豪華だ。
時代劇スターの萬屋錦之介、両御大の1人の片岡千恵蔵(もう1人は市川右太衛門)、東映城の三姫の1人の桜町弘子(残り2人は丘さとみと大川恵子)といった、東映時代劇が全盛だった頃に活躍した面々が登場(桜町弘子に至っては、かなり小さな扱い)。
さらに『砂の器』の丹波哲郎、『犬神家の一族』の高峰三枝子などのベテラン勢、あおい輝彦や森田健作、岡本富士太などの若手(?)俳優、NHK連続テレビ小説のヒロインだった秋野暢子、JACが若手スターとして売り出していた真田広之など、バラエティーに富んだ面々が顔を揃えている。

しかし、そんな中で最も大きな勢力になっているのは、1970年代の東映で主流だった実録任侠路線の面々だ。
松方弘樹や梅宮辰夫、さらに成田三樹夫や金子信雄、他にもヤクザ映画で見掛ける大勢の役者が登場する。
普通に考えれば真田十勇士は有名な役者を起用しそうなモノだが、由利は岩尾正隆、望月は野口貴史と、かなり東映作品に詳しい人じゃないと「誰だよ」と言いたくなるメンツだろう。
服部半蔵にしても、曽根晴美だからね。なんちゅう偏ったキャスティングだよ。

オープニング、宇宙の映像から始まり、赤い隕石が迫って来る様子と共に「関ヶ原の合戦で石田光成が率いる西軍を打ち破った徳川家康は、江戸幕府を開いて、今まさに天下統一の野望を成就せんとする途上にあった」というナレーションが語られる。
映像と解説が全く合っていないので、のっけから困惑させられる。
その隕石が名古屋城の上空に飛来するが、これと家康の暗殺は何の関係も無い。
一応、後から才蔵が「妖星が来るのを幸村が予言していた」ってなことを言っており、その混乱に乗じて城に潜入した設定にはなっている。しかし、そんなのは家康(の影武者)の暗殺には全く必要の無いことだ。

いきなり隕石が出現するんだから、それを物語の中心に据えるのかと思いきや、完全に無視して進めて行く。
全てが終わり、最後の最後になって「実は佐助が隕石で地球に飛来した異星人」という事実が明らかにされるが、「だから何なんだよ」と言いたくなる。
そもそも隕石で飛来したのなら、戸沢白雲斉の弟子という設定と辻褄が合わなくなるぞ。
地球へ来たばかりなのに、いつの間に白雲斉と出会って、どういう経緯で弟子になったのかと。あと、異星人である佐助が、真田の味方になる理由も全く無いし。

何より酷いのは、佐助が異星人であろうとなかろうと、物語の中身には何の影響も無いってことだ。その突飛な設定は、まるで活用されていない。
ひょっとすると、『真田風雲録』を意識したのかもしれないし、「掴みのインパクトが何よりも大切」と考えたのかもしれない。
ただ、どういう理由であれ、「佐助が異星人」という設定を持ち込んだのであれば、そこはちゃんと使いこなさないとダメでしょ。
ただ設定を用意しただけで、オープニングのケレン味で思考停止して後は放り出しちゃうって、どういうことだよ。

し佐助は才蔵たちを助けに駆け付ける時、最初は「猿の顔をした人間」として出現する。そしてカットが切り替わると、人間の姿になっている。
ようするに、それが不思議な術ってことなんだけど、わざわざ猿の顔をした人間として登場する意味が全く無い。
また、才蔵の元を立ち去る時には、右手に注目させ、そこから光が放たれると一瞬で姿を消すのだが、ちょっと離れた木の上にいる。
それは中途半端だわ。そこで妖しい術を使わせるのなら、「光と共に一瞬で姿を消す」ってことでいいでしょ。

真田十勇士が登場すると静止画になり、「真田十勇士 誰それ」というスーパーインポーズと共に、その人物がイラストで描かれるという趣向を凝らしている。
だけど、その時点では、まだ真田十勇士ではないわけで。なので、その表記は変でしょ。
三好伊三入道に至っては、「真田十勇士 三好伊三入道」と表記されるけど、本人は「尹三英です」と叫んでいるので、混乱させられる。
そりゃあ、いちいち人物名を表記しないと分かりにくいので親切なサービスではあるんだけど、ちょっとズレているわ。

そもそも、真田十勇士を紹介する手順も上手くない。
「誰かがメンバーを集める」という形で順番に紹介する方式を取るのが便利で都合のいい形だと思うのだが、バラバラに動いている全く別々の連中として登場させている。
そのため、いちいち「この年、家康、諸国の落人狩りを強行」「この年、家康、諸国のかぶき者を取り締まり、処刑」「この年、家康、諸国の切支丹を逮捕、処刑」と表記し、それぞれのシーンを描かなきゃいけなくなっている。
何しろ、十勇士のメンバーが落人、かぶき者、切支丹と異なる背景を持っている設定なので、それに関連するシーンが必要になるのだ。
これが序盤からテンポを悪くする要因となっている。

おまけに、落人、かぶき者、切支丹といった設定も、ストーリー展開には全くと言っていいほど影響を与えていない。
どうせ白雲斉の巻物によって「草の者の同志」と一括りにされてしまうので、最初の分類は無意味に近い。最初から「草の者」として全員を登場させ、その中で差別化を図った方が遥かに得策だろう。
さらに困ったことに、真田十勇士は登場シーンでキャラクター設定が停止している。
草の者としての特技は佐助の幻術と伊三の格闘術ぐらいで、他の面々は何も用意されていない。

昌幸は裏切っていた市兵衛の持参した猫に左腕を噛まれ、毒にやられる。その時点で策略としてユルい印象があるのだが、幸村の左腕を切断させるので、まあOKかなと思った。
ところが、そのまま昌幸は呆気なく死んでしまうのだ。
だったら、わざわざ別のシーンを挟んでまで引っ張った意味が全く無いわ。
清正の暗殺シーンでは忍者が鋭い爪を付けて襲撃しているが、これまた全く意味が無い。飼っている虎の仕業に見せ掛ける狙いなのかとも思ったが、それに関する言及は無いし。
そもそも昌幸の時は明らかに他殺の形なので、清正の時だけ事故を装っても意味が無いし。爪による暗殺がケレン味を狙った趣向だとしても、かなり弱いし。

伊三は処刑場で暴れたトコでカットが切り替わるので、どうなったのかは分からない。後になって行き倒れになっている様子が写るが、そこまでの経緯はサッパリ分からない。
由利は甚八に襲い掛かるが、戦っているトコでカットが切り替わるので、どうなったのかは全く分からない。
後になって、鉄砲隊から逃れた由利が甚八を助けに駆け付ける様子が描かれるので、前述した戦いは決着が付かずに終わったことが分かる。しかし、どうやって戦いが終わり、由利が去ったのかはサッパリ分からない。
別に何から何まで経緯を丁寧に示さなきゃいけないわけではないが、その辺りは雑な片付け方だなあと感じる。

幸村は綾から成敗するよう頼まれると、「父上は見果てぬ夢を見た。御他界で全てが終わった。家臣を兄のいる上田へ戻す」と言う。綾が自害して家臣たちが戦いを求めると、「ならん。父上の死も、綾の死も、無駄にはせん」と却下する。
つまり、家康に反旗を翻すつもりは無いってことになる。
ところが、信幸から提案された仕官の話を断った直後、「生涯の義は定まった。父の遺志を継いで家康の首を取る」と宣言している。
そこまでに、どういう心境の変化があったのか。
きっかけとして考えられるのは清正の暗殺と仕官の話だが、どちらも「だから気持ちが変化して家康を討つと決める」というトコでの説得力は無い。

真田十勇士を集める手順は、ものすごく雑だし、高揚感もへったくれも無い。
比丘尼が各地に散らばって接触する方法を取っているが、裸になって誘惑するとか、まるで要らないだろ。そこは佐助と才蔵に集めさせればいいだろ。
あと、そこで十勇士が初登場でも充分だし。そこまでの手順を整理して短く済ませ、十勇士を集結させるタイミングを早くすればいい。
で、とりあえずの同志が集まったら直ちに作戦へ取り掛かればいいものを、酒を飲んでダラダラしている様子を挟む。
そんなの、まるで要らないだろ。すぐに幸村が事情を説明し、家康を討つ考えを語る展開に入ればいいだろ。

幸村は家康を討つために「放浪している草の者を集める」と言っていたのに、十勇士のメンバーに朝鮮王族の姫であるジュリアおたあが加わっているのは変でしょ。
なぜ幸村が彼女を仲間に入れようとするのか、まるで理解できない。家康を討つための能力なんて、彼女は何も持っていないでしょうに。心を読む能力はあるけど分かりにくい上、ほぼ役に立っていない。敵の心を読み、それを利用するようなことも無いし。あと彼女が信仰を捨て、幸村に協力すると決める展開は、まるで説得力が無いし。
それと伊三は格闘能力があるけど、朝鮮から連行された捕虜なのに「草の者の同志」として巻物に名が記されているのは変だろ。
この2人に関しては、どういう経緯で三好清海入道と三好伊三入道という名前になったのかという説明も全く無いし、すんげえ無理を感じる連中になっている。

清海と伊三が加わり、ようやく真田十勇士が集まっても、まだダラダラした展開が続く。合気道(はっけどう)、駆足走法(かけあくりほう)、整息法、飛転法を鍛錬する様子が描かれるのだ。
いやいや、今さらトレーニングなのかと。
既に行動に入るための能力を会得しているから、集めたわけではないのかよ。そんな手順、無駄に時間を使っているだけでしょ。
どうせトレーニングのシーンに大した面白さがあるわけでもないんだし、そんなの省いて、さっさと作戦に移ろうよ。

幸村はフランキー砲の視察に来る家康を抹殺する計画を立て、行動を開始する。その際、家康の行列に見える場所で清海が琵琶を演奏し、朗々と歌う。いかにも怪しい女なので、すぐに幸村の手下だとバレている。
どう考えたって秘密裏に行動した方がいいはずで、わざわざ歌と演奏で「ここにいるよ」とアピールする必要性なんて全く無い。
ただし家康サイドにしても、「幸村が乗って来た」と察知したにも関わらず、清海を捕まえようともせず、試射場で何もせずに待っているだけ。そして水路から炎が迫って来ると、慌てて逃げ出す。
信幸がいれば大丈夫と軽く見ていたとは言え、ものすごくバカな連中にしか見えない。

家康の退路を断とうと走り始めた幸村たちは、半蔵の一味に襲われる。
それは裏切り者の重助が密告していたからだが、ってことは最初から家康サイドは幸村の動きも居場所も分かっていたはずでしょ。
だったら、幸村が作戦を実行し、水路から炎が迫るまで待っている意味なんて全く無いでしょ。向こうが水路に火を放つ前に、さっさと幸村たちを襲撃すればいいでしょ。
チンタラしているから試射場が爆破され、余計な被害が出ているじゃねえか。

そんな風に家康サイドはボンクラ揃いなのだが、幸村のサイドも小助は女にうつつを抜かして追い払われるわ、重助は簡単に裏切るわと、ちっともチームとしての団結力が無い。
公開された当時のパンフレットには「幸村7大謀略」と「家康の暗躍(8つ)」が記されており、だから本来なら家康サイドと幸村サイドによる高度な知恵比べが展開されなきゃダメなはず。
しかし実際には、ボンクラ同士の低レベルな争いになっているのだ。
幸村に至っては、テメエらの作戦が原因で家康に決戦の口実を与えているわけで。そのことに対する罪悪感も責任も全く抱いていない様子だし、なんだかなあと。

大阪冬の陣のエピソードになると、大坂城には塙団右衛門直之と後藤又兵衛がそれぞれ名乗りを挙げて駆け付ける様子が描かれる。
だけど、そこで急に西軍の武将をフィーチャーされても、幸村や十勇士と何の関係も無い連中なのでピンと来ない。
又兵衛に関しては、序盤で海野&望月が会っているけど、「ああ、あの時の」という高揚感や驚きなんて何も無いし。
そもそも、序盤のタイミングで彼を登場させている意味が全く感じられないし。

この映画で大きなネックになるのは、「大半の観客が史実を知っている」ってことだ。
だから、幾ら幸村が家康を殺そうと目論んでも、その目的が果たせないことは分かっている。また、幸村と十勇士が家康サイドから攻撃を受けても、大阪夏の陣までは生き延びることも分かっている。
なので、ハラハラドキドキってのが無いのよね。
前半の時点で史実を大幅に逸脱するような展開でもあれば変わって来るけど、そういうことは無いしね。

幸村が西軍に参加すると、所詮は浪人に過ぎないので、作戦を立てても採用されず、軍議で籠城が決まってしまう。初戦で勝利しても、淀君が勝手に和議を決めてしまう。
あと、大阪冬の陣で終わらず、大阪夏の陣まで描かれるので、ダラダラしてしまう。しかも、夏の陣に幸村は参加していないし。
つまり終盤に入って、幸村も十勇士も参加しない合戦を見せられる羽目になってしまうのだ。
そんで幸村は草の者になって西軍から離脱し、勝利を収めて凱旋する軍勢を襲撃するのだが、家康の「ワシを殺しても徳川の天下は揺るぎはせぬ」という言葉は、その通りなんだよね。
幸村は家康の首を撥ねるけど、「1年後に家康は病死として公表された」という語りが入るし、カタルシスが全く無いエンディングになっている。

(観賞日:2017年10月16日)

 

*ポンコツ映画愛護協会