『サラリーマンNEO 劇場版(笑)』:2011、日本

新城誠は第一志望ではなかった業界5位のビール会社、NEOビールに入社した。出社当日、オフィスビルを眺めていた彼は、人事部長のように見える老け顔の男に声を掛けられる。だが、それは同期入社の早川辰夫という22歳の男だった。受付係のマオに笑顔で挨拶された新城は、それを無視して通り過ぎる。営業一課に配属された新城は、上司の白石和弘から、課長への挨拶を促される。課長の中西一郎は、阪神タイガースのマニアックなクイズを新城に出した。
新城は同僚の川上健から、中西が名誉職のような課長であることを教えられる。12年前、NEOビールで最大のヒット商品である冷麦ビールを生み出したのが中西だった。新城は川上に同行し、安売りデパート「くらま」へ向かう。川上は鞍馬デパートに通い続けて5年が経つが、まだ契約は取れていなかった。社長の鞍馬さゆりと副社長の鞍馬琢磨に売りを問われた川上は、しどろもどろになった。
新城は中西からB地区の飲食店を担当するよう命じられるが、1つも契約は取れなかった。恒例になっているらしい中西のサプライズ・パーティーを途中退出した新城は、友人の岡崎と早井に呼ばれて合コンに参加した。人気企業に務める2人に、彼は引け目を感じた。会社でコピー機の紙詰まりを放置した新城は、スケバンOL3人組に脅された。一方、NEOビールの根尾幸三社長はゴルフコンペに参加し、業界1位である大黒ビールの布袋社長とラウンドして惨敗した。
布袋に笑われて悔しがった根尾は、経営会議でマーケティング部の桜木雅子が安定志向での方針をプレゼンするのを制止し、「大黒ビールを超えたい。今年はシェアナンバー1を目指す」と宣言し、1週間以内に新商品のアイデアを出すよう全社員に命じた。すぐに営業一課でも企画会議が開かれるが、中西が食い付くようなアイデアは出なかった。新城は転職を考え、早井の勤務するベンチャー企業を見学する。広告代理店「A1」社長の皆川康弘は、元NEOビールの社員だった。中西について問われた新城が「最悪です」と答えると、皆川は気に入って「ウチに来ないか」と勧誘した。考える時間を貰った新城は、出世する妄想を膨らませてニヤニヤした。
休日、新城は白石に頼まれ、彼の自宅にベッドを搬入する作業を手伝った。運び込んだのはリビングだったが、白石は「女房がいつでも寝られるようにって」と言い辛そうに述べた。そこへ妻の時子が帰宅して、色っぽい様子を見せる。白石とは御無沙汰だという彼女は、「セクシーって何?」と新城を誘惑するように尋ねた。第四回新商品企画会議の最中に時子のことを思い出していた新城は、アイデアを求められて咄嗟に「セクシービールがいと思います」と告げた。すると中西は、企画書にまとめるよう指示した。
中西は新城の企画書を経営会議でプレゼンし、馬鹿にする開発部長の斉藤豪太と言い争いになる。根尾から「大黒ビールに勝てるか」と質問された中西は、「勝てます」と力強く宣言した。社長のゴーサインが出て、セクシービールのプロジェクトが結成された。広報担当の大橋希美が、プロジェクトのメンバーを発表する。川上、白石、営業一課の小西健太、OLの田波直子、ブレンダーの東雲寺才五郎、桜木、デザイン部の遠山幹子といった面々が集まり、新城はチームリーダーに抜擢された。
新城は皆川に電話を入れ、返事を待ってほしいと頼んだ。その際、彼はセクシービールという企画が中西の判断で通ったことも話す。皆川は何食わぬ顔で電話を切ると、そのアイデアを布袋に流した。プロジェクト・チームはピンクに色付けしたビールを出すことに決め、川上は大口の販路開拓として「くらま」を落とすよう求められた。生け花をやっているさゆりは、「何でもします」と頭を下げた川上に対し、今度の発表会で使いたい未確認植物のウロジイコカローイをアマゾンで取って来るよう要求した。
プロジェクト・チームは苦労してセクシービールを完成させるが、中西はOKを出さず、甘みと苦みの両立を要求した。新城は中西に「採算を考えずにストレート果汁を使いたい」と訴え、承諾を貰った。試作品「セクシー13号」を完成させた新城たちは、白石に内緒で時子に商品を送り付け、「ご主人を元気にする魔法のビールです」「飲んだ人をセクシーに世界へ誘います」という注意事項を添えた。新城たちが様子を覗き見ていると、白石は元気になって時子をベッドに押し倒した。
桜木と遠山は「セクシー部長」という商品のキャラクターを用意するが、新城たちの反応は芳しくなかった。そんな中、大黒ビールがセクシービールという名前の新商品を発表する。根尾はプロジェクトの中止を決定し、新城は資材管理室に異動させられた。新城が早井に転職の件で電話を掛けると、「もう別の人間が採用されちゃったよ。ウチの社長がセクシービールの仕事をゲットしてさ」という言葉が返って来た。すぐに新城は、自分のせいで企画が漏れたのだと気付いた。
中西はセクシービールの広告代理店がA1だと知り、皆川と会った。皆川は同期の中西が大ヒットを飛ばしてチヤホヤされたことに嫉妬し、積年の屈辱を晴らす機会を狙っていたことを話した。新城が中西に呼び出されて廃工場へ行くと、そこにはプロジェクトのメンバーが待ち受けていた。中西は新城に、セクシービールのプロジェクトを再開するよう命じた。他の連中は会社には内緒でプロジェクトを進める意欲に満ちていたが、新城は「僕には参加する資格がありません」と断ってしまう…。

監督は吉田照幸、脚本は吉田照幸&羽原大介&内村宏幸&平松政俊、製作は小崎宏&佐藤寿美&桐畑敏春&雨宮俊武&北川直樹&高橋典子&百武弘二&喜多埜裕明&町田智子、エグゼクティブプロデューサーは藤巻直哉&川合滋&北牧裕幸、企画プロデューサーは西村崇、プロデューサーは神林伸太郎&松本整&細谷まどか、制作プロデューサーは山際新平、プロダクション統括は山崎健治、撮影は村埜茂樹、照明は松隈信一、美術は池田正直、録音は間野翼、記録/編集は藤澤幹子、音楽はゲイリー芦屋。
主題歌『笑顔にカンパイ!』作詞・作曲:布袋寅泰、唄:郷ひろみ。
出演は小池徹平、生瀬勝久、沢村一樹、平泉成、麻生祐未、宮崎美子、大杉漣、郷ひろみ、伊東四朗、田口浩正、中越典子、入江雅人、堀内敬子、マギー、山西惇、田中要次、八十田勇一、池田鉄洋、中山祐一朗、中村靖日、野間口徹、深水元基、原史奈、奥田恵梨華、金子さやか、中田有紀、近藤良平(コンドルズ)、山本光二郎(コンドルズ)、藤田善宏(コンドルズ)、鎌倉道彦(コンドルズ)、石渕聡(コンドルズ)、篠田麻里子、瀬戸カトリーヌ、冨士眞奈美、野本光一郎(ONEOR8)、恩田隆一(ONEOR8)、冨田直美(ONEOR8)、和田ひろこ(ONEOR8)、大久保綾乃、木口亜矢、鈴木ちなみ、小出薫ら。


NHKのコント番組『サラリーマンNEO』シリーズの劇場版。
TVシリーズの演出を手掛けていた吉田照幸が監督を務めている。
中西役の生瀬勝久、川上役の沢村一樹、早川役の平泉成、時子役の麻生祐未、鞍馬役の宮崎美子、斉藤役の田口浩正、大橋役の中越典子、皆川役の入江雅人、桜木役の堀内敬子、白石役の山西惇など、TVシリーズのレギュラー陣が揃って登場。鏑木役のマギーはシーズン3までのレギュラー出演者。
他に、新城を小池徹平、布袋を大杉漣、根尾を伊東四朗、マオを篠田麻里子、コンペのキャディーを瀬戸カトリーヌ、フェミニスト団体代表を冨士眞奈美が演じており、郷ひろみが本人役で出演している。

この作品の抱えている問題はハッキリしていて、それは「映画化してしまった」ということにある。
TV番組が人気を呼ぶと安易に映画化するというパターンは民放の各局が乱発しているが、最近はNHKも平気でやるようになっちゃったんだね。しかも、ドラマじゃなくてバラエティー番組と来たもんだ。
いやいや、どう考えたって、それは無謀な行為だわ。冒頭、『NEO EXPRESS』のシーンで「ホントに映画になるとはね」「こういうの、無謀っていうんでしょうね」という会話があるが、その通り。
しかし、それが分かっていながら映画化したってことは、NHKとしては、どこかに勝算があったんだろう。
何をどう計算したら勝てるのかは全く分からないが。

そりゃあ、例えばアメリカなんかだと、コント番組をベースにしたコメディー映画が作られたりするケースはあるよ。
でも、アメリカと日本では期待できる観客動員数の桁がまるで違うし、笑いの質だって違っている。
だから「アメリカでもやってるんだから」ってのは、コント番組を映画化するための説得力には欠ける。
これはTVのスペシャル版で充分なコンテンツを、無理に映画館へ持って行っているだけだ。

TV番組は全てセット撮影だったが、映画では「映画らしさ」を出したり「コント番組っぽさ」を薄めようとしたりする狙いがあったのか、ロケーション撮影のシーンも盛り込まれている。
でも、これは明らかに逆効果。
それと、コントのシーンに関しても、カメラワークや細かいカットの切り替えなどを含めて映像的に「映画らしさ」を持たせようとしているようだが、それが完全に裏目に出ており、コントとしての面白さが薄まっている。

一応、「映画ならでは」ってことで、TVシリーズには無かった幾つかのアイデアは持ち込んでいる。
その1つは、全てのコントに関連性を持たせて、1つの長編ストーリーを組み立てているということだ。
しかし、これは「中堅ビール会社を舞台にした大まかなストーリー進行が定められた中でコントを作らなければいけない」という縛りを持ち込むことにも繋がっている。
そこから外れた内容のコントを作ることは出来ないってことだ。

TVシリーズだって「サラリーマン&OLを題材にしたコント」という条件は付いていたが、しかし前後のコントとの関連性や、全体の流れを見なきゃいけないという縛りは無かった。
何かしらの条件があった方がコントが作りやすいということはあるかもしれないが、そのせいでコントの内容が限定されてしまうという問題も生じる。
それと、流れに沿った形でコントを並べているせいで、1つ1つのコントのキレ味が悪くなっている。

しっかりと「コント」→「繋ぎのシーン」→「コント」という切り替えをした方がいいと思うんだけど、何となくヌベーッとコントに入り、ボンヤリと抜け出して次に移っているんだよな。
チェンジ・オブ・ペースも無くてダラーッと流れて行くので、複数のコントを串刺し式に並べているという印象を受けず、「イマイチ弾けて切れていない、まとまりに欠けるコメディー映画」という感じになっている。
いっそのこと、TVシリーズの時と同様に、コントに入る時はタイトルを表示しちゃうぐらいでも良かったんじゃないかと思うけど。

おまけに、「全てのコントを1つのライン上に乗せなきゃいけない」ってことで、ストーリー進行がかなりギクシャクしたモノになってしまっているから、「1つの長編」という大枠を作ったことでプラスに作用した部分ってのは何も無いんだよね。
ただし、じゃあTV版と全て同じようにしたら、「だったらTVのスペシャル版で充分でしょ」ということになるだろうけど。
でも、そんなことが無くても「TVのスペシャル版で充分でしょ」とは思うので、どうであれ、やっぱり映画にしたことが間違いなのよ。

この映画は、「1人の役者が1つのキャラクターを演じることしか出来ない」という縛りも用意している。
生瀬勝久が『NEO EXPRESS』の報道男や『会社の王国』の丸の内豊も演じていたり、山西惇がアマゾンの原住民も演じていたりという例外はあるが、基本的には1人が1つのキャラクターだけをやっている。
TVシリーズでは1人の役者が色々なキャラを演じていたが、それをやっていない。
「1つの長編ストーリー」という枠を作って全体を構成したからって、別に複数のキャラを演じても何とかなるんじゃないか。
そこに縛りを設ける必要は無いと思うんだが。

で、そこに縛りを用意したことで、かなり大きな問題が起きている。例えば沢村一樹は、『がんばれ川上くん』と『セクスィー部長』という2つのコントで別々の役柄を演じていた。
しかし映画版では1つの役柄に限定されているので、川上が終盤になって急にセクスィー部長に変身するという違和感たっぷりな事態が起きている。
TVシリーズを見ていた人からすると、川上くんとセクスィー部長は全くの別人なのよ。そこを同一人物にしてしまうってのは、TVシリーズのファンに対する冒涜じゃないのか。
セクスィー部長がフェロモンでクラクラさせるフェミニスト団体の連中が話題作りのためのサクラだという設定も、やはりファンに対する冒涜だ。

「1つのコントは1度限り」という形になっていることも不満で、『セクスィー部長』なんかは前半、中盤、後半で3つぐらいやったっていいんじゃないかと思うぐらいだ。
『セクスィー部長』って、どういうキャラなのかをアピールするための「登場編」としてのコントをやって、次に似たようなパターンでの2本目、そして内容をエスカレートさせた形での3本目というぐらいにした方が、面白くなると思うんだよね。
でも映画版だと、終盤でいきなりセクスィー部長が登場するので、キャラの描写が雑になっちゃうんだよな。

TVシリーズのレギュラーではないゲスト俳優を出演させているというのも、製作サイドとしては「映画版としてのアイデアの1つ」という考えなんだろうと思う。
しかし、これに関しては、TV版の方でもゲストが出演するコントが何本も作られていた。
なので、ゲストが出ているからって、そこに映画らしさを感じるわけではない。
せめて、「とてもTV版には出演してくれそうもない大物俳優が出ている」ということなら、そこにスペシャリティーを感じられただろうけど、そういう顔触れではないからね。

しかも、そういうゲストの面々を投入したことが、むしろマイナスに作用している部分の方が大きい。
というのも、この映画は基本的にTVシリーズでやっていたコントのパッケージを「ビール会社を巡る出来事」という条件の中でやっているんだけど、本来ならレギュラーが担当していた役回りを、ゲスト俳優に担当させている箇所があるのだ。
それはTVシリーズのファンからすると、違和感を抱くだろうし、あまり好感が持てない改変なのではないだろうか。

しかも、TVシリーズではレギュラーがやっていた役回りを担当するのは基本的に小池徹平なんだけど、あまり上手くコントに入って行けてないんだよな。
なんか妙にテンションが低くて、その低さも笑いにつながるようなモノじゃないし。それはコントが跳ねない要因の1つになっている。
そこは彼の演技力だけの問題じゃなくて、そんなテンションが低いだけで喜劇に馴染んでいない演技をさせた監督にも責任はあるぞ。
まあしかし、繰り返しになるけど、そもそも映画にしたことが間違いなので、それ以前の問題なんだけどさ。

(観賞日:2013年12月12日)

 

*ポンコツ映画愛護協会