『サクラダリセット 後篇』:2017、日本

浅井ケイは生き返らせた相麻菫から、二代目の魔女だと告げられた。一方、管理局の室長を務める浦地正宗は、若い頃の魔女から「石になったお母様を恨んではいけない」と告げられる。「彼女を憐れんでいるの?」と問われた浦地は、「否定は出来ませんね」と答えた。「貴方の御両親が愛した能力を、憎まないでほしい」と魔女が言うと、「それは難しいな」と彼は答える。「私の望む未来は訪れますか」と浦地が訊くと、魔女は「咲良田の能力にとって、浅井ケイこそが希望の光」と述べた。索引さんは彼から「浅井ケイを拘束する必要がある」と言われると、二代目の魔女を名乗る女性から「浅井ケイには手を出すな」という電話があったことを伝えた。
9月22日。学園祭の演劇でケイの相手役を務める予定だった春埼美空は、急に出たくないと言い出した。演出担当の皆実未来から理由を問われた彼女は、「私には演じる資格が無い。ケイの相手なら、もっとふさわしい人がいます」と答えた。中野智樹はバンドでギターとボーカルを担当し、その演奏をケイが眺めた。村瀬陽香はケイに、写真を調べるために佐々野の家へ行ったこと、管理局が封鎖していて近付けなかったことを語った。
浦地が加賀谷と索引さんを伴って高校へ赴くと、菫は電話を掛けて「浅井ケイには近付くなと忠告したはずよ」と告げる。彼女は「咲良田をリセットするのが貴方の計画。自分の立場を利用して、咲良田から能力を一掃しようとしている」と指摘し、今夜7時半に『スモール・フォレスト』という喫茶店で会おうと提案した。それまで自分とケイを詮索しないのなら協力してもいいと告げ、菫は電話を切った。ケイは智樹に、これから美空に会いに行くことを菫に伝えてほしいと頼んだ。
美空はケイに、「私は相麻菫が嫌いです。写真の中から連れ出す計画に協力したことを後悔しています」と明かした。ケイは「能力なんて無くても、君の傍にいたい。出来るだけ、いつも一緒にいよう」と言い、美空に頼まれてセーブを指示した。その夜、帰宅したケイの元へ菫の声が届き、彼は2年前に智樹が託された声だと推測する。菫はケイに、「お願いがあるの。明日の10時頃、ショッピングモールで春埼と一緒にゴミ拾いをしてほしいの」と告げた。
菫は『スモール・フォレスト』で浦地と会い、彼が管理局に二代目魔女の存在を隠していることを指摘する。浦地は索引さんに特殊能力で菫の言葉が真実かどうかを確認させ加賀谷に特殊能力で店内にいる人々の動きをロックさせた。その未来をを知らなかった菫は驚き、浦地が起きた事実を手帳に記録すると自身の能力で定期的に破棄していることを悟った。浦地が「私の計画は成功するか」と尋ねると、彼女は「私はその未来を見ていない」と答える。「私の計画を阻止するかい?」という質問には「何もしない」と答え、嘘をついていないことを索引さんが浦地に知らせた。
23日。ケイと美空は菫の指示通り、ショッピングモールのゴミ拾いをする。美空はケイに、坂上が「今日、咲良田に戻って来てほしい」という手紙を菫から受け取ったことを聞かされる。ケイは管理局のアルバイトをしている宇川沙々音を目撃し、声を掛けた。菫が蘇ったことをケイが明かすと、彼女は驚いた。少し離れた場所では、クレープを買ったばかりの少女が道路を渡ろうとして転倒した。それを見た車の運転手が笑うと、少女は腹を立てた。
大きな物音を聞いたケイたちが現場に駆け付けると、車と運転手は建物の上へ飛ばされていた。その近くでは別の建物が突如として崩れ始め、能力が使われていると確信したケイは津島に電話を掛ける。すると津島は、「管理局から報告は受けてる。咲良田の至る所で能力が暴発している。これ以上は関わるな」と述べた。「使用者が制御できない状態で、能力が使われている」とケイが口にすると、沙々音は「意識しないで能力を使うなんてことは絶対に無い」と否定する。ケイは「対象となる能力者の時間を巻き戻せば可能となります」と語り、今までは名前の無いシステムがいたおかげで問題になる暴発が事前に処理されていたのだと説明する。 浦地は岡絵里に菫の記憶を操作させ、「早くここから出て行きなさい。悪いが役割が終わったんだよ」と冷淡に告げた。ケイは海辺に佇み、菫から聞いたことを思い出す。今から51年前、世界には3人の能力者しかいなかった。魔女と、彼女のピアノの先生と、その夫だ。魔女が咲良田のための計画を実行しようと考えると、ピアノ教師の夫は「能力者の町なんか要らない」と犠牲になることに反対した。特定の記憶や情報を消し去る能力を持つ彼は、病気で余命わずかと医師から宣告されていた。彼の妻は、指定した範囲で指定した物を失わない能力の持ち主だった。夫婦の能力が、ピアノ教室に境界線を作っていた。
魔女は2つの未来を見ており、「能力者のいない世界では夫は1年後に死亡するが、咲良田が能力者の町になれば20年は生きられる」と知っていた。魔女は能力者の町になれば男児が誕生すると教え、夫婦は協力することにした。3人は咲良田を能力者の町にして、魔女は名前の無いシステムになった。夫婦は管理局の建物で時間を止められ、その能力をによって咲良田の平和と秩序は維持されていた。ケイの元には菫の声が届き、「最後のお願いよ。フィリップ・K・ディックの本を明日の朝、美空の家のポストに投函してほしい。中に佐々野さんの写真を入れて」と告げられた。
浦地はケイたちの能力報告書を見ながら、幼少期のことを思い出す。最初の能力者であるピアノ教師夫婦は、彼の両親だった。父親は彼に、「君が生まれた時に分かったんだ。やっぱり能力には価値がある。だからこの町を守りたい。君は強いが、弱い人でも生きられる世界が正しいと、お父さんは信じてる」と語った。その言葉に納得できない彼の前で、1人の少年が「ごめんなさい」と父親に謝罪した。父親は少年を抱き締め、「謝らなくていい。君のやったことは正しい」と慰めた。
索引さんは浦地に、「最終的な解決方法が、議会で承認されました。管理局は咲良田の能力を一掃します」と報告する。津島は浦地に協力しており、ケイは限界まで情報を集めてからリセットするはずだと告げる。24日。ケイは菫から指示された通り、美空の家の郵便ポストに本を投函した。その夜、美空は浦地に眠らされ、ケイを知らない時間まで記憶を巻き戻された。菫はケイの家を訪れ、「私に何か訊きたいことがあったのよね」と言う。「君は相麻菫じゃなくなるために死んだんだろう」とケイが言うと、彼女は「正解よ。貴方だけが私を理解できた。浦地さんは今夜、咲良田から全ての能力を一掃する。私は貴方を守るために、協力するフリをしていた」と語る。相麻菫の偽者になることで、浦地の質問に答えても索引さんに嘘だと見抜かれないようにしたのだ。菫は「貴方に分かってもらえて、とっても幸せよ」と告げ、2年前に見た未来では自分がケイの隣にいなかったことを語って泣いた。
浦地は加賀谷に、「君がしたことは正しかった。でも今日で、石ころではなくなる。人間に戻る。母の能力を解放することで、境界線は消える」と語る。51年前、浦地の両親の時間をロックしたのは加賀谷だったのだ。浦地は「お母さん、夢から醒める時間だよ」と呼び掛け、サクラダリセットを実行した。咲良田から能力は一掃され、病院で目覚めた美空は自分が15歳だと思っていた。6年ぶりに故郷を訪れたケイは、偽りの記憶を植え付けられている実母の陽子を訪ねた。ケイは自分が息子とは知らない母と会話を交わし、「両親に取り返しの付かないことをしました。でも謝れないんです。その資格が無いから」と語る。「親に謝るのに資格なんて要らないでしょ」と言われたケイは謝る練習をさせてほしいと頼み、「お母さん、ごめんなさい」と告げた。
咲良田に戻ったケイは自分を覚えていない美空の元へ行き、「僕たちは面識がある」と告げる。貸した本と写真の存在を指摘する。「僕を信じて、付いて来てほしい」と言われた美空は、彼と一緒に写真の世界へ入り込んだ。美空が屋上で出会った時のことを思い出すと、ケイは泣きながら「僕を助けてくれ。君と約束したんだ」と言う。美空はリセットの能力を使い、ケイはセーブした9月22日に戻った。彼は美空を抱き締め、明後日の夜には咲良田から能力が消えることを教えた。
ケイが「咲良田の能力を支配する。そのためには管理局を利用する。共犯者になってほしい」と話すと、美空は承諾した。菫はリセットされたことに気付くと、ケイの邪魔にならないよう『リトル・フォレスト』へ行かずに逃亡した。浦地は手帳を見てリセットされたと悟り、「ケイと協力者を排除する」と宣言した。ケイは美空、智樹、坂上を滝に集めて「これから管理局と戦います。この武器を探すために未来を調べに行く」と告げた。
写真を使って過去に飛んだケイは、智樹に頼んで菫の能力を自分にコピーしてもらう。彼は菫に、5分だけ時間を稼げば逃げるルートを用意すると約束した。菫は浦地と索引さんに追い詰められて屋上へ逃げるが、時間を稼ぐために会話を持ち掛けた。彼女はケイの指示を受けて屋上から飛び降り、陽香が能力を使って受け止めた。菫はケイの指示を受け、咲良田の外へ逃走した。ケイは絵里にギブアップするから助けるよう頼み、他の能力者をカラオケボックスに集めて咲良田の未来を決める会議を開くと告げる。彼は意見を交換するため、浦地を呼び寄せた…。

監督・脚本は深川栄洋、原作は河野裕『サクラダリセット』シリーズ(角川文庫/角川スニーカー文庫)、製作は村田嘉邦&長澤修一&堀内大示&岡田美穂、企画は丸田順悟、プロデューサーは春名慶&二木大介&青木裕子、アソシエイト・プロデューサーは千綿英久、ライン・プロデューサーは石原真&陶山明美、撮影は清久素延、照明は三善章誉、美術は黒瀧きみえ、録音は小松将人、視覚効果は松本肇、編集は坂東直哉、音楽は河野伸、音楽プロデューサーは石井和之。
後篇エンディングテーマ『ナミダリセット』flumpool 作詞:山村隆太、作曲:阪井一生、編曲:百田留衣(agehasprings)。
出演は野村周平、黒島結菜、平祐奈、及川光博、健太郎(現・伊藤健太郎)、玉城ティナ、恒松祐里、岡本玲、吉沢悠、丸山智己、中島亜梨沙、八木亜希子、岩井拳士朗、矢野優花、奥仲麻琴、田中壮太郎、渡辺早織、宮澤美保、野中隆光、金原泰成、金子岳憲、永瀬圭志朗、山田日向、関沢美紘、福岡沙彩、渡辺志保、永山晶子、澤田尋斗、内田統、原優斗、江口信、松本善恵、倉持亮、清谷翼、蛭川大樹、横山将大、土井克馬、塚原龍之介、麻尾一志、五十嵐正貴、山本栄治、加藤基世祉、奥村美友、菊池紗理奈ら。


河野裕のライトノベル『サクラダリセット』シリーズを基にした2部作の後篇。
監督&脚本は前篇に続き、深川栄洋が務めている。
ケイ役の野村周平、美空役の黒島結菜、菫役の平祐奈、智樹役の健太郎(現・伊藤健太郎)、陽香役の玉城ティナ、絵里役の恒松祐里、紗々音役の岡本玲、津島役の吉沢悠、加賀谷役の丸山智己、索引さん役の中島亜梨沙、坂上役の岩井拳士朗、未来役の矢野優花、若き日の魔女役の奥仲麻琴は、前篇からの続投。
他に、浦地を及川光博、陽子を八木亜希子が演じている。

2部作にしたのは「それぐらい内容のボリュームがあるから」ってことよりも、「1本では黒字が出ない」という理由が強かったのだろうと思われる。
ただ、前篇が無残なコケっぷりで上映期間も大幅に短縮されてしまったため、おのずと後篇に金を払ってくれる観客も減ってしまった。
2部作にしたことは何の意味も無くなり、後篇に至っては「既に大失敗作であることが確定したのに、それなりの規模&期間で上映しなきゃいけない」という罰ゲームのようなシロモノと化してしまった。

厄介なことに、この映画は「1本目の状況を見てから2本目の撮影に入る」という作り方をしていない。前篇と後篇を一気に撮影して、それを順番に公開するという方法を取っている。
それは2部作として製作する場合、ごく普通に採用する方法だ。
ただ、このやり方だと、「前篇でコケてしまった場合、そこで酷評された問題点を後篇で修正することが出来ない」という問題がある。
だから本作品も、前篇でダメだった部分は全て引き継がれているのである。

前篇の批評で書いたことを軽くおさらいすると、放っておいてもリセット能力を使えば最大で3日間まで世界を巻き戻すことが出来るので、セーブの必要性がそんなに高くない。
説明の多くをナレーションに頼ってしまい、観客を引き込む力は弱くなっている。登場する面々が総じて陰気で、物語を牽引する力を発揮していない。
登場する特殊能力に、物語を進めるための御都合主義という印象が強い。能力者を巡る戦いが繰り広げられても、主人公の反応が薄いこともあって緊迫感が一向に高まらない。
処理しなきゃいけない要素が色々と多すぎて、かなり取っ付きにくい作品になっている。

この後篇に入って、浦地正宗という男が登場する。彼が能力者を一掃しようと目論み、それに伴って対決の構図が浮かび上がるというのが、今回の話だ。
ここで真っ先に感じるのが、「なぜ前篇の内に浦地を登場させておかなかったのか」ということだ。
前篇から彼を積極的に動かせ、出番を多く用意しろと言いたいわけではない。前篇の内容に深く関与させる必要性は乏しいキャラなので、そこは別に構わない。
ただ、後篇のキーパーソンであることを考えれば、例えば終盤に顔見世だけでもさせておいて「今後はケイの敵になる男ですよ」ということを匂わせておいた方が絶対に得策だ。
これが「1作目を作った時点では続編の予定が無かった」ということなら仕方がないけど、最初から2部作として作っているんだから、そういう方法は簡単に採用できるはずで。

後篇から新キャラとして登場させたことで、浦地をゼロの状態から紹介しなきゃいけなくなってしまう。
なので、まず「彼は管理局の室長で、能力者の排除を目論んでいる」ということを説明する必要がある。また、浦地の持つ特殊能力を説明する必要もある。
自身も能力者である彼が、なぜ能力者の排除を企んでいるのかという理由を説明する必要もある。それに伴って、彼の過去を明らかにする作業も必要になる。
こいつのキャラだけでも、説明しなきゃいけないことが多くなってしまう。
だけど前篇で登場させておけば、「管理局の室長で、能力者の排除を目論んでいる」とかいう要素ぐらいは消化できただろう。

浦地は後篇におけるケイの敵というだけでなく、2部作を通してのラスボスと言ってもいい。
つまり、それだけ強敵であるはずなのだが、そういう意味での存在感は全く感じさせない。キャラとして、とても薄いのである。
もっとアクの強さをアピールしてもいいはずだし、きっとミッチーなら演出すれば「主役を食う程の怪演」もやってくれたはずだ。
しかし、あっさり風味が過ぎるのである。
「淡々としてクールだけど怖い」というキャラを狙ったのかもしれないが、単に「薄味で個性に乏しい」という印象となっている。

学園祭のシーンで浦地はコミカルな様子も見せるが、そういう味付けは申し訳程度。
っていうか、そこでの菫とのやり取りなどを見ていると、「隙がありまくりでラスボスの脅威ゼロ」と感じるし。「コミカルなトコもあるけど、本気を出したらシャレにならない強敵」という印象は全く感じない。
実際、彼は「記憶を消し去る」という能力は持っているけど、それで能力者を直接的に排除できるわけではない。
だから策を講じて目的を達成しようとはしているのだが、「ケイたちが本気になって一致団結すれば、簡単に始末できそうだな」と思ってしまうのよね。

菫は学園祭を訪れた浦地に電話を掛けて、「サクラダをリセットするのが貴方の計画。自分の立場を利用して、サクラダから能力を一掃しようとしている」と指摘する。
ここで初めて、浦地の狙いが明確にされる。
まだ映画が始まって10分程度なので、決してタイミングが遅いということは無い。
ただし、早い段階で計画を明示するのなら、それは浦地の口から言わせた方がいい。誰かが指摘して初めて観客が知るという形を取るのなら、もう少し引っ張った方がいい。

学園祭の日、ケイは智樹に「言葉を届けてほしいんだ」と言う。彼は智樹を通じて、菫に「これから美空に会いに行く」と伝える。
そんなこと、いちいち伝える必要性がどこにあるのかサッパリ分からない。
「自分で本人に言えばいいじゃねえか」とツッコミを入れたいところだが、そこは「菫の居場所が分からないから直接は無理」ということだろう。
だけどさ、「そもそも、そんなことのために特殊能力を使うなよ」と言いたくなるのよ。

そんでケイは美空に告白してセーブするんだけど、ここでも能力を使っているんだよね。
恋愛劇を描こうというるのは分かるけど、些細なことで安易に能力を使っているように思えて、「どうでもいいわ」と心底から思うわ。一方で「浦地が計画を進めようとしている」ということが既に示されているので、余計にそう思うわ。
根本的な問題として、恋愛劇に全く関心が持てないんだよね。
前篇で触れていなかったわけじゃないけど、その時から既に「全く引き付けられない」という印象だった。それが後篇に入って、急に変わるなんてことは無い。
相変わらず、応援したいという気持ちも、キュンキュンさせる気持ちも喚起しない、とても浅薄な恋愛劇なのだ。

30分ほど経過した辺りで、「少女を怒らせた車の男が建物の上へ飛ばされる」「近くの建物が崩れ始める」という現象が描かれる。これを受けて、「サクラダの至る所で能力が暴発している」ということが津島の口から説明される。
でも、その程度の描写で「能力の連続暴発」と言われても、あまり強い恐怖や緊迫感は伝わって来ない。
単純な問題として、描写が全く足りていないんだよね。もっと派手で見栄えのする映像を用意するとか、もう少し多くの現象を用意するとか、そういうことが無いとさ。
予算の都合があったのかもしれないが、かなりチープな印象を受けてしまう。

途中で何度も回想シーンが入るのは、説明のために必要な作業だ。ただ、そうやって何度も回想を入れることが、話のモタつきという印象に繋がっている。
テンポが悪くなっている要因は、間違いなく回想シーンの多用だ。現在のシーンだけでもテンポが悪くて盛り上がりに欠けているのに、回想シーンが入ることで余計に酷い状態となっている。
しかも困ったことに、回想シーンで説明しても、やっぱり分かりにくさが残るんだよね。
あと、恋愛劇に関する回想シーンに関しては、全く必要性を感じないし。

前篇を見た時に、なぜケイが両親を捨てて咲良田へ来たのか、その理由が全く分からなかった。しかし2部作なので、きっと後篇まで秘密にして引っ張るつもりなんだろうと思っていた。
ところが後篇に入っても、その理由は全く教えてもらえない。ケイが陽子に会って「両親に取り返しの付かないことをしました」と言うシーンはあるが、そこで「両親を捨てた理由」が明かされることは無い。おまけに、彼が捨てたのは両親なのに、父親には謝罪しないままで終わっちゃうし。
あと、陽子がケイに不審を抱かず穏やかに受け入れるのは不自然だし、そうまで無理をして2人の会話シーンを入れる必要性が乏しいのよね。
ケイは「もう一度、母を捨てる」と言っているけど、だったら会いに行かなくても良かったんじゃないかと。

菫はサクラダリセットが実行される前に、ケイに「フィリップ・K・ディックの本を明日の朝、美空の家のポストに投函してほしい。中に佐々野さんの写真を入れて」と指示する。サクラダリセットの後、ケイは写真を破って過去へ飛び、美空に自分と出会った時のことを思い出させる。
だけど、そこで使うのは、橋の写真なのよね。それって、ケイと美空にとっては何の思い出も無い場所のはずなのよ。そして美空が思い出すのは、ケイと屋上で出会った時のことだ。
これまでは「写真の場所に戻る」ということだったのに、そこだけは急に別の現象が起きているのよね。
「写真を使って過去に戻れば、その時代の記憶が蘇る」ってことなのか。理屈としては合っているのかもしれんけど、どうも腑に落ちないなあ。

ケイは菫を逃がした後、能力者をカラオケボックスに集める。そこから「能力者が結集して浦地の一味と戦う」というクライマックスへ向かうのかと思いきや、ケイは「未来を決める会議を始める」と言い出す。
それでも、まだ「計画を話し合い、そこから作戦実行へ移る」という手順という可能性も考えられる。
ところがケイは浦地を呼んでおり、他の面々を忍ばせておいて話し合いを始める。
「いよいよ最終決戦」という段階に及んで、この映画は「話し合い」という方法を選ぶのである。

ケイは浦地が自分を欺こうとすることを見抜いており、話し合いの場で策を講じて能力を使っている。
双方が能力で相手を上回ろうとしているので、一応は「能力を使った対決」になっている。だけど、ものすごく地味で、全く見栄えがしない。そして、「こういう方法で相手を欺いた」と説明されても、ちっとも爽快感や高揚感が無い。
その後に少しだけ「動き」があるが、すぐに「話し合い」へ戻ってしまう。そして最終的に、問題は全て話し合いで解決されるのである。
そんなアンチ・クライマックスを、誰を喜ぶと思ったのか。
アクションを繰り広げた上で「最後だけ話し合い」ならともかく、何の盛り上がりも用意せずに理屈っぽい話し合いをダラダラと続けて終幕ってのは、どういうセンスなのかと。

(観賞日:2018年9月27日)

 

*ポンコツ映画愛護協会