『サクラダリセット 前篇』:2017、日本

9月17日。高校生の浅井ケイは自宅を出て学校に向かい、クラスメイトの春埼美空と軽く挨拶を交わした。自転車を走らせていた同級生の皆実未来が車にはねられて死亡する事故が発生するのを目撃したケイは、美空から「前回のセーブは?」と問われて「2日前の12時35分」と答える。ケイが「リセットだ」と指示すると、美空は特殊能力を使って時間を2日前の12時35分に巻き戻した。9月15日。昼休みの屋上で、美空はスマホにセーブしたことを記録する。
眼前にいるケイから「リセットしたよ」と聞かされ、美空は時間の巻き戻しを認識した。「何かあったんですね」という彼女の質問にケイは事情を説明し、事故を阻止する考えを伝えた。美空がリセットすると、最大で3日間まで世界を巻き戻すことが出来る。巻き戻った時間は、能力を使った美空でさえ全て忘れ去ってしまう。見聞きした物を全て覚えている能力を持つケイだけは、巻き戻った事実も、それ以前の出来事も記憶している。
咲良田市には彼らの他にも、特殊能力を持つ人々が暮らしている。しかし咲良田の外へ出ると、その能力を忘れてしまう。ケイは親友の中野智樹に、明後日の朝に皆実未来へ声を届けてほしいと依頼した。智樹は自由自在に対象者まで声を届ける能力を持っている。管理局の索引さんは岡絵里と会い、「管理局にとって要注意の能力者が現れた」と資料を見せる。彼女は対象者に関する詳細な情報を教えず、能力を無効化するよう命じる。不快感を示す絵里に、索引さんは「強くなりたいんでしょ、浅井ケイより」と告げた。
17日の朝、未来の耳に「皆実、危ない」という声が届き、彼女は自転車を止めた。事故は起きずに済み、ケイは安堵した。ケイと美空は、管理局の下部組織である奉仕クラブに所属している。管理局の指示に従い、困っている人々を能力で助けるボランティア活動だ。管理局は咲良田に住む全ての能力者を統制している。顧問の津島信太郎は管理局の局員でもあるが、能力者ではない。佐々野宏幸という75歳の男性の失われた能力を取り戻すというのが、新たに奉仕クラブへ持ち込まれた依頼だった。ケイが会いに行くと、佐々野は写真に入り込む能力があったことを語った。
撮影されたのと同じ場所で写真を破れば、10分間だけ中に入ることが出来るのだと佐々野は説明した。佐々野は赤いコンタクトの少女と出会い、その目を見て能力が使えなくなっていた。佐々野の部屋に飾られている滝の写真を見たケイは、2年前の10月2日の夕方に撮影された物だと指摘した。ケイは津島からの電話で、管理局の頂点に近い人物が自分と美空に会いたがっていることを聞かされる。津島は生徒の村瀬陽香に「浅井ケイはどうして奉仕クラブなんかに入れられたの?管理局は彼を監視してるんでしょ」と言われ、「お前と同じ理由だ」と答えた。
18日、ケイと美空が指定された洋館へ赴くと、加賀谷という男が門の所まで出迎えに現れた。加賀谷はケイの質問を受けても、「お答えできません」と言うだけで、1人ずつ通すよう指示されていることを告げた。美空は待機させられ、ケイは書棚の並ぶ部屋に通される。加賀谷は「解除」と言いながら左手でドアを開け、「ロック」と言いながら右手でドアを閉めた。そこへ「魔女」と呼ばれる老女が現れ、加賀谷の能力が掛かった対象はロックされたように決して変化しないのだと教えた。
ケイは幼い頃に彼女と電話で話したことがあり、魔女という呼び名も知っていた。魔女はケイに触れ、「貴方に会って、ここに来させたことを謝りたかった」と告げる。ケイは幼い頃、電車に乗っている時に体の異常を感じた。そこへ女性が歩み寄り、電話が掛かっていることを告げて携帯を渡す。魔女はケイに、「次の駅を降りたら貴方の居場所がある。でもそこに踏み込めば、貴方は決して戻れなくなる。ご両親のいる世界に留まりたかったら、次の駅で降りてはダメよ。咲良田は貴方を捕らえて放さない」と語った。
魔女はケイから「貴方は管理局を作った人ですか」と問われ、「管理局を作ったのは、私の能力を利用した人たち」と答えた。魔女には未来を知る能力があり、管理局は彼女を利用して咲良田の治安を維持しているのだ。彼女はケイの未来を見たこと、自分が10日後に死ぬことを明かす。「私の終わりが幸福なものであることを、願ってくれますか?」という問い掛けに、ケイは「もちろん」と答えた。ケイを帰らせた後、魔女は美空に「浅井ケイが好きか」と質問した。ケイの目を潰して耳を削いで思考を奪っても好きかと訊かれても、美空の気持ちは変わらなかった。魔女は美空に、「赤い目の女の子が近付いている」と教えた。
ケイは赤いコンタクトの絵里に声を掛けられ、「久しぶりだね、岡さん」と冷たく告げる。以前とは雰囲気が変わったことにケイが触れると、彼女は笑いながら「昔から、こういう格好したかったんだよ」と言う。佐々野から能力を奪った理由を問われると、絵里は「無いよ。悪者は人の嫌なことをするもんでしょ。犯罪予告。次は美空からリセットを奪う」と述べた。洋館から美空が出て来たのでケイが呼び掛けようとすると、背後から陽香が現れて口を塞いだ。
絵里は「抵抗しない方が身のためだよ」とケイに言い、陽香はコールした対象を何でも消せる能力を披露した。さらに陽香は、既に美空のリセット能力を消し去ったことがあると話す。絵里は美空の能力を奪い、陽香は見取り図を描くようケイに要求する。ケイが目的を尋ねると、彼女は「咲良田の能力を支配する」と告げた。ケイは美空に、かつて絵里が市議会議員の父に怯えていたこと、脅迫できる材料を集めて渡したことを話した。両親が離婚して絵里は母親の元で暮らし始めたが、ケイは「彼女には、それしか方法が無かった。それは選択とは言えない。僕が悪い」と美空に言う。
ケイは能力をコピーできる坂上央介に事情を明かし、リセットを取り戻すための協力を要請した。絵里は記憶操作の能力を使い、美空にリセットの使い方を忘れさせたのだ。そこでケイは自分の記憶をコピーし、美空に能力を思い出させようと考えたのだ。しかし美空は、リセットの使い方を思い出せなかった。坂上は来ることも迷ったと明かし、「2年前、浅井くんに協力したせいで転校させられたからね」と言う。2年前、ケイは同級生の相麻菫から美空を紹介されていた。ケイは美空に「このまま私がリセットを使えなくなったとして、ケイとの関係は変わってしまいますか?」と問われると、少し考えて「もう、分からない」と答えた。
ケイは津島から、絵里が管理局の指示で佐々野の能力を奪ったと聞かされる。陽香について問われた津島は、かつて奉仕クラブに所属していたこと、彼女の兄が友人だったことを話す。陽香は兄が交通事故で亡くなった時、能力で生き返らせるよう管理局の庁舎で暴れたが聞き入れてもらえなかった。かつてケイも坂上と宇川沙々音の3人で管理局へ乗り込み、要求を聞き入れるよう脅したことがあった。沙々音は一瞬で物体を自在に変化させる能力があり、ケイは死んだ同級生を生き返らせるよう脅しを掛ける。しかし索引さんは、「サクラダに死者を蘇らせる能力は無い」と告げた。
佐々野は写真を破り捨て、若い頃の魔女と会話を交わした。能力が奪われたというのは嘘で、失ったように装っていただけだった。魔女は佐々野に、もうすぐケイが真実に気付くことを教えた。19日。ケイは洋館の見取り図を書き終え、絵里からの電話で放課後に来るよう指示される。ケイは津島と話し、洋館の警備が手薄だったことへの疑問を口にしていた。すると津島は、魔女が陽香と絵里に狙われる未来を知りながら、あえて管理局に伝えていないのではないかと口にした。
ケイは魔女の言葉を思い出し、彼女が洋館から抜け出したがっているのではないかと推理した。彼は佐々野と会い、能力が奪われていないことを指摘した。絵里は陽香からケイを嫌う理由を問われ、「先輩は私のヒーローだったから」と答えた。彼女は両親から救ってくれたケイに感謝していたが、死んだ菫を蘇らせようとした管理局への謀反が失敗した後、父親との和解を勧めるようになった。絵里はケイが弱くなったと感じ、嫌悪するようになったのだ。
佐々野はケイに、かつて魔女と恋人同士だったことを明かす。51年前にサクラダで初めて不思議な能力が観測され、すぐに管理局が誕生した。佐々野は魔女が隔離されると知って写真を隠し持ち、それを使って密会することにしたのだ。彼は魔女の指示に従い、「今すぐ逢いにきて。あとの二枚はプレゼント」というメッセージが添えられた3枚の写真をケイに渡した。ケイは美空を連れて海岸へ行き、魔女が写っている1枚目の写真を破った。2人は写真の世界に入り込み、若い頃の魔女と会う。
魔女は51年後の未来を予知し、死を前に果て佐々野と再会したいと考えた。そこで彼女は陽香と絵里を利用し、管理局から逃げ出すことにしたのだ。魔女は管理局に逆らった陽香たちが無事では済まないと告げ、行動を起こす日時を教えた。陽香はケイから見取り図を受け取ると、手を組まないかと持ち掛けた。管理局を倒して新しい組織に作り直すという野望を聞かされたケイは、「少し考えさせてください」と答えた。ケイはハッピーエンドを目指すと決め、佐々野&智樹&美空を集めて魔女を連れ出す作戦を説明した。
陽香と絵里は加賀谷にドアを開けさせるが、魔女はいなかった。すかさずケイたちが突入し、佐々野に部屋を撮影させた。ケイは陽香に、「こんな方法じゃ管理局には勝てません。勝負しましょう。僕が負けたら貴方に従います」と告げる。陽香が能力を発動しようとすると、ケイは「とっておきの能力者がいます」と智樹を紹介する。ケイは智樹に「3分後だ」と指定し、美空に「春埼、リセットだ」という声を届けるよう頼んだ。ケイは「彼女の説得、頼みましたよ」と陽香に言い残し、その手を引き寄せて自殺した…。

監督・脚本は深川栄洋、原作は河野裕『サクラダリセット』シリーズ(角川文庫/角川スニーカー文庫)、製作は村田嘉邦&長澤修一&堀内大示&岡田美穂、企画は丸田順悟、プロデューサーは春名慶&二木大介&青木裕子、アソシエイト・プロデューサーは千綿英久、ライン・プロデューサーは石原真&陶山明美、撮影は清久素延、照明は三善章誉、美術は黒瀧きみえ、録音は小松将人、視覚効果は松本肇、編集は坂東直哉、音楽は河野伸、音楽プロデューサーは石井和之。
主題歌『ラストコール』flumpool 作詞:山村隆太、作曲:阪井一生、編曲:百田留衣(agehasprings)。
出演は野村周平、黒島結菜、平祐奈、健太郎(現・伊藤健太郎)、玉城ティナ、恒松祐里、加賀まりこ、大石吾朗、岡本玲、吉沢悠、丸山智己、中島亜梨沙、岩井拳士朗、矢野優花、奥仲麻琴、田港璃空、高田郁恵、金子岳憲、福井弘一、松本善恵、倉持亮、清谷翼、蛭川大樹、横山将大、土井克馬、塚原龍之介、麻尾一志、五十嵐正貴、山本栄治ら。


河野裕のライトノベル『サクラダリセット』シリーズを基にした2部作の前篇。
『くじけないで』『トワイライト ささらさや』の深川栄洋が監督&脚本を務めている。
ケイを野村周平、美空を黒島結菜、菫を平祐奈、智樹を健太郎(現・伊藤健太郎)、陽香を玉城ティナ、絵里を恒松祐里、魔女を加賀まりこ、佐々野を大石吾朗、紗々音を岡本玲、津島を吉沢悠、加賀谷を丸山智己、索引さんを中島亜梨沙、坂上を岩井拳士朗、未来を矢野優花、若き日の魔女を奥仲麻琴が演じている。

「美空がリセットすると、最大で3日間まで世界を巻き戻すことが出来る」「一度リセットしたら、24時間以内にセーブは出来ない。一日に一度きりのリセットの能力」というリセットに関する説明が序盤で入る。
ここで感じるのは、「ってことはセーブの必要性って、そんなに高くないよね?」ってことだ。
だって仮にセーブしなかったしても、それでリセットを使ったら3日前まで巻き戻るというだけでしょ。
これが「セーブしないとリセットは使えない」ってことならセーブは必要不可欠だけど、無くてもリセットできるんだったら、そこまで神経質になる必要は無いってことだよね。

ここって、実はものすごく大きな「設定の穴」だと感じるんだけど。本来なら、「セーブしておかないとリセットは使えない」という設定じゃないとマズいんじゃないのか。
っていうかさ、セーブにしたって、何か制限があるわけでもないんだよね。セーブしておきたいという考えを持つのなら、美空は頻繁にセーブしておけばいいだけなんじゃないの。
「リセットしたら24時間以内にセーブできない」という条件はあるけど、リセットするまでは例えば1時間に1度のペースでセーブしても問題は無いんでしょ。だったら、なんで「3日に1度」というペースでのセーブなのか。
っていうかさ、「セーブしたら、それより過去には戻れない」という縛りが生じることを考えれば、むしろセーブなんてしない方がいいんじゃないかと思うけど。

ケイは未来の事故を止めるため、智樹に特殊能力で声を届けるよう頼む。
だけど、そこで智樹の能力を使う必要性って無いでしょ。
ケイは事故が起きることを事前に知っているんだから、未来が自転車を漕ぎながら自分に挨拶した時、急いで呼び止めればいいんじゃないのか。そうすれば、智樹の声を届けるのと同じ効果が得られるはず。
呼び掛けて確実に未来が停まってくれるとは限らないけど、それは智樹の声だって同じことが言えるわけで。

特殊な世界観設定があるので、観客にそれを説明する必要がある。どういう方法を取っているかというと、「全てケイのナレーション」という形だ。
ナレーションを全否定するつもりはないが、そこに全てを頼ってしまうことには賛同しかねる。
基本的には、関連する出来事の描写に附随させる形で説明のナレーションを入れている。だから、言葉だけが先走って内容が追い付いていないという状態は、そんなに重大な形では生じていない。
でも、その世界観や物語に観客を引き込む力は、著しく低い。

物語に引き込む力が弱いのは、「設定を全てナレーションで説明してしまう」ということだけが原因ではない。もう1つ、「やたらと陰気な雰囲気」ってのも大きく関係している。
主要キャラクターの面々が総じて何かしらの問題を抱えている暗い連中なので、そういう雰囲気になるのは当然と言えるかもしれない。
ただ、例えば主人公が陰を帯びた人物であっても、誰かに物語を力強く牽引させるとか、物語の展開で勢いを付けるとか、そういった作業で全体的な雰囲気を変えることは可能なはずで。
でも、この映画は無闇にジメジメしていて、やたらと重苦しいんだよね。

絵里だけは少し毛色が異なってアッパー系のキャラだけど、それは表面上だけで中身は陰気だし。
しかも、こいつに物語を牽引するほどの力は無いんだよね。自ら主張するように彼女は悪者として行動するんだけど、こいつが出て来ても全く物語にテンポが生じないのよ。
一応は変化を付けているけど、それで物語が面白くなったという印象は皆無。
その前から何度か姿を見せていた陽香も絵里の相棒として動いているけど、こっちにも観客を引き付ける力は無い。

「能力を奪う能力者」の絵里と「何でも消せる能力者」のた陽香が登場してケイたちを狙うんだから、そこで一気に緊張感が高まったり、「これからどうなるのか」と期待感を煽られたりしても良さそうなものだ。
でも実際のところ、気持ちはほぼフラットなままで、まるでハラハラドキドキしない。
何しろ、美空が洋館から出て来た時も、ケイは慌てて危機を伝えようとする様子が無く、普通に呼び掛けるだけ。リセットの能力を奪われても、焦る様子は全く無い。
主人公が淡々としていて危機感ゼロなんだから、そりゃあ観客がフラットな状態を保っても仕方がないでしょ。

「それを言っちゃあ、おしめえよ」ってことになるかもしれないが、能力者が現れて特殊能力を披露する度に、「それって物語を進めるための御都合主義じゃないのか」と思ってしまうんだよね。
例えば坂上は急に現れて「他人の能力をコピーできる」という説明が入るので、なんだかなあと。
ただ、それでも美空はリセットの使い方を思い出せないんだけど、これに関しては「なぜ?」と疑問が湧く。
ケイの記憶をコピーしても使い方を思い出せない理由については、何の解説も用意されていないのよね。

坂上よりも引っ掛かるのは沙々音で、回想シーンで急に登場してケイが「一瞬で物体を自在に変化させる能力がある」と説明した時には苦笑してしまった。
こいつに関しては、もはや「どういう特殊能力の持ち主か」なんてこと以前の問題なのよね。そこで登場させる必要性からして感じない。
だってさ、そこで必要なのは、「ケイが菫の蘇生を管理局に要求して却下された」という事実だけでしょ。つまり極端なことを言ってしまえば、仲間はゼロでも成立する。「反乱の失敗で3人はバラバラにされた」という設定があるけど、普通に坂上を呼び出すことは出来ているし。
だから坂上にしても、「同じ学校の同級生」という設定でも全く支障は無いでしょ。

この作品は現実世界を舞台にしているわけではなく、「特殊能力を使える面々を管理局が支配下に置いて統括している」という設定がある。特殊能力に関しても、サクラダという街に関しても、非現実としての設定が色々と用意されている。
ってことは、それを観客に説明し、その世界に引き込む作業が必要になるわけだ。
さらに本作品は厄介なことに、そんな特殊な世界観の中で、「過去にこんなことがあって」というミステリーまで用意されている。
当然のことながら、そっちは「最初は情報を隠しておいて、少しずつ明らかにしていく」という手順になる。

だが、特殊な世界観を少しずつ把握していく作業の中で、そこに別のミステリーが入ってくると、ものすごく取っ付きにくい状態となってしまうのだ。なので序盤から、観客を引き込む力が弱くなっている。
原作がどのように処理していたのかは知らないが、ここはもう少し上手く解決しないと厳しい。
たぶん、もっと時間に余裕があれば、「まずは世界観を説明し、チュートリアル的なエピソードを用意する。それを踏まえて、ケイたちの過去を掘り下げて行く」という構成に出来たんだろう。
それが2部作でも出来ていないってことは、根本的なトコから問題があって、かなり大幅に改変する必要があったんじゃないか。

中盤、ケイは魔女が予知した未来を管理局に伝えてないい理由や、洋館を抜け出したがっている理由について推理を巡らせる。
だけど、そこに観客が謎解きとしての面白さを感じ取ることは不可能に近い。なぜなら、推理のヒントになるような情報が、綺麗に整理して観客に対して丁寧に与えられているわけではないからだ。
おまけに、そこでの解説も、親切とは言い難い。
ケイは推理の内容についてモノローグで説明するが、それでも分かりにくい。

どうやら「未熟な若者たちの苦悩や葛藤を描く切ない青春ドラマ」として描こうとしているようで、だから超能力バトルとしての面白さを期待すると肩透かしを食らうことになる。ケレン味たっぷりのVFX映像による超能力の描写とか、派手で見栄えのするアクションシーンとか、そういうのは全く無い。
私は未読だが、たぶん原作もそういうテイストなんだろう。
ケイや美空が陰気でアクションが乏しいのなら、こっちを「静」として捉え、絵里や陽香の行動を描く「動」のパートを何度か作るという構成も考えられる。
しかし絵里や陽香はケイたちと絡む時以外、ほとんど登場しないのよね。

佐々野は登場した時、自分の能力について「撮影されたのと同じ場所で写真を破れば、10分間だけ中に入ることが出来る」と説明する。
ところが後半、ケイと美空が海辺で写真を破ると、2人は過去にタイムスリップする。つまり、写真の中に入り込むのだ。
それって佐々野が持つ特殊能力のはずなのに、なぜケイと美空が同じことを出来ているのか。坂上に能力をコピーしてもらうような描写も無かったぞ。
ケイは若い頃の魔女に「佐々野さんの能力で来ました」と説明するけど、佐々野が撮った写真なら誰が破っても同じ現象が起きるのかよ。
そんな説明、全く無かったでしょうに。

この映画、恐ろしいことにクライマックスが存在しない。
構成からすると、「ケイが美空のリセット能力を取り戻し、魔女を無事に脱出させる」という辺りがクライマックスになるんだろう。そこにアクションを使って躍動感やスピート感を持ち込むのではなく、「知恵を凝らした計略で任務を成功させる」という内容にしてある。
ただ、その作戦が分かりにくいから成功しても達成感や心地良さが無いし、「なんか都合が良すぎねえか」と思っちゃうし。
あと、テンポもモタモタしているんだよね。アクション主体じゃなくても、躍動感やスピード感は欲しいぞ。

終盤、ケイは菫を生き返らせる作戦を思い付き、それを実行する。まずケイ、美空、陽香、坂上の4人で写真を破り、菫のいた過去に戻る。まず陽香が「全身リセット」と能力を消し去るコールを唱える。次に坂上が陽香の能力をコピーし、菫に移動させる。最後に美空がリセットすると、その影響を受けない菫が自分たちの世界に蘇るという作戦だ。
それが成功して、菫は蘇る。ここもリセットを取り戻す時と同じで、知略で問題を解決するわけだ。
ケイの作戦は、理屈としては間違っちゃいないんだろう。ただ、それが無駄に分かりにくいのと、「都合が良すぎるだろ」という思いが強いので、成功して菫が蘇っても気持ちの高まりは皆無だ。
っていうか、そもそも描写としても、まるで盛り上がっていないし。

(観賞日:2018年9月25日)

 

*ポンコツ映画愛護協会