『魁!!男塾』:2008、日本

軟派で弱気な極小路秀麻呂は、男塾へ入塾させられることになった。彼は極小路組の姐御である母・しのぶに、なぜ男塾なのかと抗議する。しのぶは秀麻呂に、男塾は多くの英雄豪傑を育てて来た場所であり、祖父は卒業して一代で極小路家を築き上げたことを語る。母に命令され、秀麻呂は仕方なく入塾式へ赴いた。遅刻した彼は、教官の鬼ヒゲに「弛んどる」と殴り倒された。一緒に入塾する生徒たちの中には、秀麻呂が町で不良グループに絡まれた時に助けてくれた剣桃太郎の姿もあった。
塾長の江田島平八が簡単な訓辞を済ませ、塾生たちは教室へ移動した。2号生との対面式のために、1号生は校庭に集合させられた。作法に則り、瓶盃の儀式が行われた。酒好きの松尾が儀式の内容も知らずに名乗りを挙げ、大量のビールを一気に飲まされてダウンした。田沢は二号生筆頭代理・丹下の機嫌を取るために肩を揉むが、タコ殴りにされた。高志はギターを弾いて歌うが、すぐに退去させられた。丹下は両手を地面に着かないバック転を仲間の唐沢に披露させ、「これが男塾魂だ」と得意げに告げた。
二号生に嘲笑された一号生の富樫源次が「俺にも気合い入れてもらっていいですか」と名乗りを挙げると、隣にいた虎丸龍次が彼を遮って「俺にお願いします」と口にした。「一号生が二号生に逆らうなど1年早いわ」と丹下に殴られた2人は、二号生と喧嘩を始める。丹下が日本刀を使おうとすると、桃太郎が阻止して「自分が空いてさせて頂きます」と告げた。桃太郎が取り囲んだ二号生を一掃して丹下に詰め寄ったところに、二号生筆頭・赤石剛次が現れた。彼は桃太郎と刀を交え、その強さを認めた。2人が戦いを続けようとしていると、教官の鬼ヒゲと覇跿萬が駆け付けた。戦いを制止された赤石は、「お前をこの男塾に歓迎する」と桃太郎に告げて立ち去った。
男塾には、九九もマトモに出来ないような連中が集まっていた。鬼ヒゲに指名された富樫が計算に困っているのを見て、秀麻呂は助け船を出してやった。フンドシ以外は厳禁の男塾だが、覇跿萬は更衣室でブリーフを発見した。身体検査が行われ、順番が回って来た秀麻呂は焦りの色を浮かべる。すると富樫は、ブリーフは自分の物だと名乗りを挙げた。覇跿萬は「貴様の男気とやらを試してやろう」と言い、男塾名物の油風呂を富樫に用意した。熱した油の中に座らされた富樫は、それに耐えきってみせた。
男塾に嫌気が差した秀麻呂は、逃げ出すことにした。彼が夜中に窓を開けようとすると、起きていた桃太郎が「そっちじゃない。西の方なら開いてる」と教えた。男塾から脱走した秀麻呂が家に戻ると、しのぶが待ち受けていた。彼女は深刻な表情で、「極小路組は終わろうとしています。先代亡き後、もはや塩谷1人。もし貴方が男塾から逃げ帰って来るようなことがあれば、その塩谷に暇を出すつもりでいました。明日から、この家には私1人」と告げた。
秀麻呂が「俺がいるよ」と言うと、しのぶは「目の前から逃げるような弱い者は、極小路家の人間ではありません」と冷たく突き放した。塩谷は「自分、坊ちゃまが真の男になると信じてますから」と秀麻呂に告げ、屋敷を去った。夜の商店街を当てもなく歩いた秀麻呂は、路上で演奏しているウクレレガールの歌を聴き、大声で喚きながら走った。翌朝、男塾へ戻った彼に、鬼ヒゲは独居房行きを命じようとする。桃太郎が「勇気を出して戻った者に、その仕打ちですか」と意見すると、鬼ヒゲは彼にも独居房行きを命じた。
桃太郎と秀麻呂は、2人の人間を1人ずつ隣り合った部屋に閉じ込め、1人が鎖を引っ張り続けなければもう1人が石盤落下で命を落とす双生独居房に入れられた。桃太郎は鎖を引っ張る方を選択し、懲罰が終わるまで耐え切ってみせた。一方、授業を受けていた富樫は、窓の外から飛んで来た紙飛行機を拾い、それを開いて驚きの表情を浮かべた。それはラブレターで、デートを申し込む内容だった。しかし匿名なので、相手の素性は全く分からなかった。
次の日、富樫は待ち合わせの場所へ行き、秀麻呂、虎丸、田沢は物陰から様子を窺う。相手はブスだろうと思っていた虎丸だが、エリカという可愛い女子高生だった。緊張しながらデートに出掛けた富樫は、別れ際に「目をつぶって下さい」と言われ、キスだと確信して喜ぶ。しかし富樫が目を開けると、目の前には嘲笑するエリカの友人たちがいた。富樫は彼女たちに、からかわれたのだ。激怒した虎丸が駆け付けて殴り掛かろうとすると、富樫は制止して「やめろ。分かってんだ。俺なんかが女と付き合えるわけねえだろ」と告げる。彼はエリカに「生涯で一番楽しかったです」と言い、その場を去った。富樫が1人で泣いていると、桃太郎が迎えに来た。
関東豪学連総長の伊達臣人が手下たちを率いて男塾に殴り込み、塾生たちを次々に叩きのめした。かつて男塾を破門された彼は、校庭へ駆け付けた鬼ヒゲに「今日からここを仕切るのは俺だ。豪学連の力の前にひれ伏せ。さもなくば、男塾、殲滅」と宣告した。そこに赤石が現れ、伊達に戦いを挑む。だが、赤石は伊達に全く歯が立たなかった。伊達が止めを刺そうとしたところへ、桃太郎が駆け付けた。
桃太郎が伊達と刀を交えた直後、校庭に江田島がやって来た。「男塾を頂きに参りました」と伊達が告げると、江田島は「塾内での私闘は禁じておる。だが、塾外では話は別」と言い、男塾最大名物である驚邏大三凶殺で勝負を付けるよう持ち掛けた。男塾からは桃太郎、富樫、虎丸の3名、関東豪学連からは伊達、飛燕、月光の3名が驚邏大三凶殺に参加する。6名は修羅和尚と僧侶の風海、林海が待つ富士山麓の寺院・宝獄院へ赴いた。戦いは決められた3つの場所で行われることが決まっている。修羅和尚が封印を解き、ついに驚邏大三凶殺が開始された…。

監督・脚本は坂口拓、アクション監督は坂口拓&カラサワイサオ、原作は宮下あきら『魁!!男塾』(集英社刊)、企画・プロデュースは日下部圭子、プロデューサーは日下部孝一&木村俊樹、製作は日下部孝一&平井文宏&久松猛朗&安田正樹&日下部圭子&國實瑞惠&会田郁雄、ラインプロデューサーは星野秀樹、撮影は藤田真一、照明は三善章誉、美術は大庭勇人、録音は長島慎介、編集は張本征治、制服デザインは堂本教子、衣裳は宮田弘子、特殊メイクは西村喜廣、CGIディレクターは中島征隆、音楽は曽我淳一(トルネード竜巻)。
挿入歌はつじあやの『たんぽぽ』作詞・作曲:つじあやの。
主題歌はザ・バックホーン『刃』作詞:菅波栄純、作曲:THE BACK HORN、Produced by THE BACK HORN & 林憲一。
出演は坂口拓、麿赤兒、照英、尾上寛之、山田親太朗、田中哲司、榊英雄、中島知子(オセロ)、織本順吉、菅田俊、綾野剛、佳本周也、島津健太郎、浜崎貴司、HIRO、つじあやの、山田辰夫、三浦誠己、平田薫、矢沢心、与座嘉秋(ホーム・チーム)、タケタリーノ山口(瞬間メタル)、両國宏、伊達晃二、アース・穴、檜山豊(ホーム・チーム)、福嶌徹、前田ばっこー(瞬間メタル)、大西麻恵、吉田尚美、吉川まりあ、慈性果林、栗原夕梨花、坂井祐誓、吉野憲輝、佐々木陽向、中村龍之介ら。 ナレーションは千葉繁。


宮下あきらによる同名漫画を基にした作品。
原作の大ファンだったアクション俳優の坂口拓が桃太郎を演じ、初監督を務めている。
江田島を麿赤兒、富樫を照英、秀麻呂を尾上寛之、虎丸を山田親太朗、赤石を田中哲司、伊達を榊英雄、しのぶを中島知子、修羅和尚を織本順吉、鬼ヒゲを菅田俊、丹下を三浦誠己、エリカを平田薫、飛燕を綾野剛、月光を佳本周也、松尾を与座嘉秋、田沢をタケタリーノ山口、両国を両國宏、覇跿萬を島津健太郎、風海を浜崎貴司、林海をHIRO、ウクレレガールをつじあやの、塩谷を山田辰夫が演じている。

全編に渡って、「コレジャナイ感」に満ち溢れている作品である。
もちろん、あの型破りな原作漫画を実写化することが無謀な行為であることは、百も承知である。
しかし、それにしても、あんまりじゃないかと思う。
そりゃあメジャー会社の製作じゃないし、予算的にかなり厳しかったという事情はあるんだろう。
ただ、この程度の低品質にしか仕上げることが出来ないのなら、作らない方がマシだった。

まず配役からして、あの漫画の非現実的なキャラクターを演じる役者を見つけるのは難しい。
でも、江田島役の麿赤兒なんかは、体格的には全く違うけど、顔付きや雰囲気はそれっぽいのでOK。秀麻呂の尾上寛之も悪くない。
そして何より素晴らしいのが富樫役の照英だ。この人だけは、この映画で文句無しに称賛できる。
照英って『スクール・ウォーズ HERO』でも素晴らしかったんだけど、ちゃんと合う役柄を用意すれば、ものすごく輝く役者なのよね。
日本の映画界やドラマ界は、彼を過小評価していると思う。

ただ、照英だけは素晴らしいけど、他の男塾生と関東豪学連の面々は、まるでダメ。
何よりガタイが華奢だわ。
主演の坂口拓のサイズが小さいので、そこに合わせたってこともあるのかもしれない。だから、そもそも坂口拓が桃太郎を演じている時点で無理はあるのだが、彼が熱望して製作に漕ぎ付けた映画なんだから、そこは受け入れるとしよう。
でも、別に彼のサイズに合わせる必要は無いのよ。もっとマッチョで体格のいい顔触れを揃えるべきだよ。

田中哲司の赤石とか、完全に学芸会の世界になってるもんな。
役者としての能力が低いってわけではなく、キャラと全く合っていないってことだ。
もっと体格を優先して配役を決めた方が良かったんじゃないかと。
中でも際立って酷いのが山田親太朗で、もはやガタイがどうとかいう問題じゃないよ。
男気のオの字も感じられないようなキャラで売っている人間を、なんで起用したのかと。

坂口拓のサイズに関しては許すが、ちっとも剣桃太郎に成り切っていないことに関しては受け入れられない。ホントに原作の大ファンなのかと疑いたくなってしまう。
台詞回しからして桃太郎に似ても似つかないが、そもそも彼は演技力が低いので、似せようとしても似なかったのかもしれない。声も高いしね。
しかしファイト・スタイルに関しては、明らかに似せようとしていない。速射砲のようにパンチを繰り出す、スピード重視のアクションをやっているのだ。
それって、いつもの坂口拓でしかないのよね。
そういうのが得意なのは分かるけど、この映画の主演を引き受けたからには、出来る限り「剣桃太郎の戦い方」を再現しようと努めるべきでしょ。

そして坂口拓だけでなく、他の連中も総じて、原作のキャラクターとは全く異なる戦い方をしている。
それは明らかに、監督を担当した坂口拓の責任である。
本来、『魁!!男塾』を実写化するのであれば、もっと重厚さにポイントを置いた、一撃必殺のアクションシーンを作るべきだ。
しかし坂口拓は原作に寄せるのではなく、自分のアクションのスタイルに寄せてしまった。それは大きな間違いだ。

脚本の仕上がりも酷い。
まず冒頭、山道を走っていた虎丸が、女の運転する車にはねられる。そんな山道を車が走っている時点で無理があるが、なぜ虎丸が山道を走っていたのかも分からない。「入塾式に間に合わない」と急いでいたのは分かるけど、だからって山道を走る意味は分からん。
それより問題なのは、「なぜ最初に彼が登場するのか」ってことだ。
次に富樫が登場し、それから不良たちに絡まれる秀麻呂と、彼を助ける桃太郎が登場する。
だけど、秀麻呂の視点から物語を描くんだし、最初に彼、次が桃太郎でいいでしょ。
そして秀麻呂が入塾してから、他の連中を登場させればいい。

新学期から物語を開始しているのも失敗で、秀麻呂は原作と同様に途中入塾の形を取ればいいのだ。
そうすれば、そこで桃太郎も含めた他の連中を見せることが出来る。既に他の連中は男塾のやり方に順応していて、秀麻呂が戸惑ったり驚いたりする様子を見せながら、男塾がどういう場所かってのを観客に紹介する形にすればいい。
それをやると、原作の序盤の部分を描くことが出来なくなってしまうのだが、どうせ全てを描くことは出来ないんだし、そこを削って再構成すればいい。
どうせ原作のようなバカバカしいテイストが消えて、ほぼシリアス一辺倒になっているんだし。

集団バトルの展開に入る前の部分で上映時間の半分ぐらいを使っているんだけど、ハッキリ言って、まるで面白くない。ただダラダラしているだけにしか感じない。
それは原作にあった荒唐無稽の面白さを表現し切れていないからだ。
その原因は、演出にもあるし、予算が少ないせいでスケールの大きさを出せなかったという事情もある。
で、だったら、いっそのことバトルに特化した内容にしちゃった方が、もうちょっと何とかなったんじゃないかと思ったりするのだ。

「男塾での様々なエピソード」ってのに時間を使い過ぎたせいで、赤石なんて単なるチョイ役みたいに扱いが小さくなってしまっている。
関東豪学連の連中も出番が遅くなるので、アヴァン・タイトルで姿を見せたり、桃太郎が独居房に入れられたタイミングで伊達が同じ懲罰を受けた時のことを回想したりと、何度か登場しているのだが、それはそれで構成として上手くない。目が散ってしまう。
その後、すぐに彼らが物語に絡んで来るならいいけど、ちゃんと絡むのは随分と先なんだから。

50分ぐらい経過して関東豪学連が男塾を襲撃し、驚邏大三凶殺で決着を付けることになる。
その男塾と関東豪学連の戦いが行われる後半部分と、それまでの前半部分が、完全に別物になっている。
そこを繋げるために前半から関東豪学連の搭乗するシーンを何度か挿入しているんだろうとは思うけど、接着剤としての役割は果たせていない。
そういうことを考えると、一号生と二号生の対決をクライマックスに配置して物語を構成するか、二号生はバッサリと切って「前半で愕怨祭が開催されるが関東豪学連との因縁が生じ、驚邏大三凶殺で決着を付けることになる」という構成にするか、ともかく全面的に構成を考え直した方が良かったんじゃないかと。

後半に入って驚邏大三凶殺が始まるのだが、これがホントに情けないぐらい、ちっとも盛り上がらない。陳腐で安っぽいし、必殺技を描写する時のケレン味も全く足りない。
高揚感が全く湧き立たないまま、虎丸と月光の第1試合があっけなく終了する。
月光の強さも、虎丸のタフさも、まるで感じられない。
虎丸が自らを犠牲にして桃太郎と富樫を先に行かせても、これっぽっちも心は揺り動かされない。

続く富樫と飛燕の戦いに関しても、虎丸と月光の時と印象は同じ。やっぱり盛り上がらないし、あっさりと終わるし、富樫が死んでも感動は皆無。
最後の桃太郎と伊達の戦いに関しては、さすがに最終決戦だし、しかも監督自らの見せ場だから、前の2つよりは時間を使って描いている。
しかし、その内容はシオシオのパー。何しろ、途中で2人とも武器を捨ててキックボクサーのような構えになり、ごく普通の格闘技者としての戦いを始めちゃうんだぜ。
もう男塾でも何でもねえよ、それって。
そういうのがやりたいなら、他の映画でやればいい。
男塾の名前を使って、男塾テイストの全く無いアクションをやるのは勘弁してくれ。

(観賞日:2013年9月10日)

 

*ポンコツ映画愛護協会