『最高の人生の見つけ方』:2019、日本

宇宙航空研究開発機構、筑波宇宙センター。大勢のマスコミが取材のために集まり、職員が案内に来た。高田学たちが緊張しながら見守る中、火星探査機「サチ&マコ」を搭載したH2Aロケットは無事に打ち上げられた。そこから時間を遡る。70歳になる専業主婦の北原幸枝はスーパーで「ガン予防の健康メニュー」と書かれたサラダを見つめ、隣に来た主婦が呼び掛けても、なかなか気付かなかった。帰宅した彼女はテレビで相撲中継を見ている夫の孝道に、買って来た弁当を自分で温めてほしいと力なく告げる。息子の一慶は部屋に引きこもってTVゲームに没頭しており、幸枝はドア越しに「御飯、置いておくから」と呼び掛けた。
幸枝の娘の美春は女性ファッション誌で働いており、実家を出て暮らしている。幸枝は美春に電話を掛け、胃の調子が悪くて明日から検査入院だと説明する。彼女は孝道と一慶の様子を見に来てくれないかと頼むが、美春は「自分たちで何とかさせてよ」と突き放した。幸枝の検査入院という説明は嘘で、実際はステージ4の癌だと診断されていた。一方、高級リゾートホテル「ゴーダ・ホテル」浦安ベイの盛大なオープン・セレモニーが開かれ、社長の剛田マ子がスピーチに立った。彼女のホテルチェーンは世界に展開されており、総客室数は5万を超える規模になっていた。マ子は元気にスピーチするが、実は体調の悪さを隠していた。
東京都立芝総合医療センターに入院した幸枝は、同室の患者たちが仲良くする輪に入ろうとしなかった。同じ病院のVIP用の個室には、マ子が入っていた。彼女は病室でも仕事を続け、煙草を吸おうとする。秘書の高田は改めて火災報知器を指摘し、煙草を吸わないよう注意する。しかしマ子は高田が目を離した隙に煙草を吸い、病院内のスプリンクラーを作動させてしまった。彼女は2人部屋に移され、そこで幸枝と一緒になった。マ子は高慢な態度を取り、幸枝が自分を知らないことに呆れた。
マ子の病室には若い夫の三木輝男が来て、プリンを差し入れた。マ子は彼に、「株価に響くから入院は内緒にして」と告げた。幸枝が院内のコンビニで買い物をしていると、神崎真梨恵という少女が後ろからぶつかって来た。幸枝は注意しようとするが、真梨恵は全く悪びれた様子を見せなかった。コンビニを出た幸枝は、輝男が愛人と一緒にいる様子を目撃した。美春が見舞いに来ると、幸枝は癌だと打ち明けた。彼女は孝道と一慶に言わないよう頼み、2人の世話を任せようとする。しかし美春は「お父さんと一慶の面倒まで見切れない。何もかも私に押し付けないで」と反発し、病室を後にした。
マ子は幸枝を病室に連れ出し、自分も末期癌だが夫には言っていないと話す。彼女は輝男に愛人がいること、既に知っていた。マ子が煙草を吸っていると幸枝は興味を示し、「私も吸ってみようかな」と言う。マ子が煙草を差し出すと、真梨恵がやって来た。彼女が近くで煙草を吸い始めようとするので、幸枝は注意して煙草を叩き落とす。真梨恵が「うっせえな、死にぞこないのクソババアが」と口汚く罵ると、幸枝は「病院だからって好き勝手していいわけじゃないのよ」と諭す。すると真梨恵は、「好き勝手してるわけじゃない。ずっと我慢して来た。毎日、何回も注射打って。いつ低血糖で倒れるか分からないから、友達も遊んでくれない。こんなんじゃ生きてる意味無い。死んだ方がマシじゃん」と吐き捨てた。
真梨恵は立ち去ろうとするが、倒れて意識を失ってしまう。マ子は慌てて医師を呼びに行き、幸枝は真梨恵が落とした鞄を拾う。後で幸枝が小児科に行くと真梨恵の姿は無く、彼女の名札を看護師が抜き取っていた。看護師は真梨恵の荷物を片付け、弟の翔太に渡した。幸枝が鞄を渡そうとすると、翔太は「要らない」と拒む。「お姉ちゃん、どうしたの?」と幸枝が問い掛けると、彼は「死んだ。ずるいんだよ、お姉ちゃんばっかりママのこと独り占めにして」と告げた。
マ子は幸枝に、真梨恵が12歳で重度の糖尿病だったことを教える。幸枝が鞄の中身を確かめると、おくすり手帳には真梨の「死ぬまでにやりたいことリスト」が書いてあった。幸枝が久々に帰宅すると、家は散らかり放題になっていた。幸枝が家事をする間、孝道はノンビリとテレビを見ているだけだった。幸枝は死ぬまでにやりたいことリストを自分でも書いてみようとするが、何も思い浮かばなかった。輝男は会社の役員たちにマ子の病状を教え、自分を社長に指名するよう提案した。その動きに気付いたマ子は会議に乗り込み、輝男を批判した。しかし輝男は全く悪びれず、会社のためを考えて決断するよう促した。
幸枝はマ子に電話を掛け、死ぬまでにやりたいことリストを書こうとしたが何も思い付かなかったと話す。「何をしても楽しくなりそうな気がしない。夢なんか何も無い。あの子のリストは溢れるぐらい夢が詰まってた」と彼女は語り、自分のために真梨恵のリストをやってみたいという考えを明かす。するとマ子は、「私も乗るわ」と口にした。2人はカリフォルニア州ロサンゼルスへ行ってスカイダイビングに挑戦し、高田も付き合わされた。幸枝は家を出る時、孝道に「旅に出ます」という置手紙を残していた。
リストの2番目は「お金持ちになる」で、幸枝は宝くじを買う。彼女はマ子のプライベートジェットで当選を確かめるが、全て外れていた。マ子はリストのハートマークを塗り潰し、「私は大金持ち。貴方もプライベートジェットに乗って気分は大富豪」と告げる。エジプトへ移動した2人はスフィンクスの写真を撮ったり、ピラミッドを眺めてシャンパンを飲んだりする。それはリストに書かれていない行動だが、マ子の「普通の観光がしてみたい」という希望を叶えるための旅だった。
幸枝とマ子は帰国し、ももいろクローバーZのライブに参戦した。唯一の70代ということで幸枝は注目を浴び、マイクを渡されてももクロから質問を受けた。幸枝は12歳の友達がライブに来られなかったこと、代わりに楽しみたいと思っていることを話した。ももクロは幸枝とマ子をステージに上げ、一緒に盛り上がった。幸枝とマ子はホテルに宿泊し、他のリストを確認した。「さかあがりが出来るようになる」という項目について、マ子は「運動神経が無いから無理」と幸枝に任せた。
マ子は「好きな人に告白する」「ウェディングドレスを着る」という項目についても、無理だと口にする。彼女から夫との出会いについて問われた幸枝は、帰省した時に夏祭りで出会ったこと、大学を出てすぐに結婚したことを話した。「パパとママにありがとうを言う」という項目を見た幸枝は、既に両親が死んでいるので自分は無理だと告げる。するとマ子は、母が早くに亡くなり、父は借金を作って逃げたことを話す。さらに彼女は、本名が「珠磨子(くまこ)」であること、両親を恨んでいることを語った。
幸枝とマ子は「日本一大きなパフェを食べる」という項目をクリアするため、京都の店を訪れた。あまりにも大きくて食べ切れないので、2人は店にいた若者たちに手伝ってもらった。幸枝は寄りたいと場所があると言い出し、ハイヤーで特別養護老人ホーム「栞湖苑」へ行く。彼は事前に連絡を入れており、職員がマ子の父を連れて来た。マ子が顔を歪めて去ろうとすると、幸枝は「逃げないで」と引き留める。マ子は父の借金のせいで辛い目に遭った過去への恨みをぶちまけると、幸枝に「逃げてるのは貴方の方でしょ。なんで旦那に病気のことを言わないの?」と指摘して走り去った。
マ子は鉄棒を見つけ、逆上がりに何度も挑戦したのに失敗を繰り返して嘲笑された小学生時代を思い出す。腹を立てたマ子が挑戦すると、逆上がりに成功した。そこへ父が現れ、マ子が娘だと分からないまま「偉いなあ」と言う。血に頭を撫でられたマ子は、涙を流した。彼女は旅館に泊まり、幸枝に「他人のために何をして喜んでもらう」というリストは消してもいいと告げた。幸枝は「貴方みたいに退屈な人生じゃなかった」というマ子の軽口に腹を立て、「主婦だって呑気で気楽なことばかりじゃないんです」と感情的になった。彼女は怒りを吐露している途中で腰の痛みに見舞われ、マ子は慌てて病院に運んだ。
幸枝は京都の病院に入院し、連絡を受けた孝道が面会に来た。孝道から「なぜ体が悪いのに旅に出たんだ?」と問われた幸枝は、「この家で、このまま死にたくないと思った」と答えた。彼女は孝道の了解を貰い、退院してマ子との旅を続けた。彼女は20年ぶりに長崎を訪れて両親の墓参りを済ませると、「パパとママにありがとうと言う」のリストを消した。マ子はリストの最後にある「宇宙旅行をする」という項目を確認し、「私たちには無理なんだけどね」と言う。彼女は「ウェディングドレスを着る」の項目について、幸枝にやらせることにした。彼女は内緒でエキストラを集め、孝道と美春も呼んで幸枝に結婚式を挙げさせた…。

監督は犬童一心、アダプテーション脚本は浅野妙子&小岩井宏悦&犬童一心、製作は高橋雅美&池田宏之&木下直哉&小杉周水&和田倉和利&有馬一昭&石垣裕之&森田圭&大西繁&飯田雅裕&兵頭誠之&久保田修&牧田英之&田中祐介&板東浩二&江守徹、エグゼクティブプロデューサーは小岩井宏悦、プロデューサーは和田倉和利、撮影は清久素延、照明は疋田ヨシタケ、録音は志満順一、美術は磯田典宏、編集は上野聡一、衣装は宮本茉莉、音楽は上野耕路、主題歌「旅のつづき」は竹内まりや。
出演は吉永小百合、天海祐希、前川清、賀来賢人、ムロツヨシ、満島ひかり、鈴木梨央、ももいろクローバーZ、駒木根隆介、大友律、林勝也、鳥越壮真、宮本裕子、浦井健治、クリス・ペプラー、筧美和子、吉見茉莉奈、荻野友里、嶋村太一、久保貫太郎、足立智充、原涼子、しゅはまはるみ、ド・ランクザン望、梅沢昌代、どんぐり(現・竹原芳子)、小林トシ江、福井裕子、吉野由志子、桜田ひより、井上音生、西本まりん、武野汐那、鈴木結和、大塚かなえ、ティーチャ佐川真、島田桃依、スティブン・レフィーバー、マイケル・キダ、島田七美、バランタン、マヌ、安藤知夏、クエンティン・ウィック、エドワード・ババジアン、ヤーセル、アリアキアニ、大原康裕、アミル、松井工、清水明彦、若松泰弘、外山誠二ら。


2007年に公開された同名のアメリカ映画を日本でリメイクした作品。
ちなみにオリジナル版は監督がロブ・ライナー、脚本はジャスティン・ザッカム、主演はジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマンだった。
リメイク版は、監督が『猫は抱くもの』『引っ越し大名!』の犬童一心。
脚本は『ママレード・ボーイ』『あのコの、トリコ。』の浅野妙子、ワーナー・ブラザース映画エグゼクティブディレクターの小岩井宏悦、犬童一心監督による共同。
幸枝を吉永小百合、マ子を天海祐希、孝道を前川清、三木を賀来賢人、高田をムロツヨシ、美春を満島ひかり、真梨恵を鈴木梨央、一慶を駒木根隆介が演じている。

これまで吉永小百合は、実年齢を無視したようなヒロインを何作も演じて来た。
それに比べると今回の幸枝は70歳なので、ちゃんと年相応のキャラクターになっていると言ってもいいだろう。
だが、それでも絶対に譲れない部分はあるようで、それは「母親」というポジションを守っているってことだ。
幸枝は70歳なのだから孫がいてもおかしくないのだが、あくまでも美春と一慶の「母親」なのだ。
決して孫から「お婆ちゃん」と呼ばれるような扱いにしてはいけないという暗黙のルールが、どうやら根強く残っているようだ。

マ子は幸枝と初めて病室で対面した時、自分を知らないことに驚いている。
でも、幾ら大手ホテルチェーンのオーナーであっても、そりゃ一般人なら知らない人の方が多いでしょ。テレビに出まくっている芸能人じゃないんだからさ。
なので、そこのリアクションには違和感を覚える。
マ子の「高慢で自分本位」というキャラ設定はいいんだけど、それを間違った方向で味付けしているんじゃないかと。「自分を知らないなんて有り得ない」という反応をさせなくても、彼女の高慢さは幾らでもアピールできるでしょ。

幸枝がマ子から煙草を貰おうとしていると、すぐに近くに真梨恵が来て煙草を吸おうとする。
生意気に反発するガキではあっても、煙草を吸う現場ってのは、出来れば他の人に見られない方がいいはずで。それなのに、わざわざ近くに来て吸うのは不自然でしょ。
さらに言うと、その場を去ろうとした途端に倒れて意識を失うってのも、なかなかの不自然さだ。こちらに関しては、真梨恵にコントロールできる行動ではないけど、いずれのケースも「下手な作為」が見えて苦笑させられる。
もうちょっと上手い処理方法があるでしょ。わざと最もダメなパターンを選んでいるのかと言いたくなるぐらい、質の低い三文芝居になっちゃってるぞ。

翔太は幸枝から「お姉ちゃん、どうしたの?」と訊かれ、彼は「死んだ。ずるいんだよ、お姉ちゃんばっかりママのこと独り占めにして」と話す。
だけど本当に姉が死んだのなら、「ずるいんだよ、お姉ちゃんばっかりママのこと独り占めにして」と反発するような言葉を口にするのは不可解極まりない。
入院中は「ずるい」と感じていたとしても、死んでしまったら悲しむんじゃないかと思うのよ。なので、そこが引っ掛かったままで、映画を見る羽目になってしまう。
終盤に入り、その引っ掛かりは解消されることになる。完全ネタバレを書くが、「真梨恵は死んでいなかった。手術を受けて元気になっていた」ってことが明かされるのだ。
でも、それはそれで「そんな形で観客を欺くやり方、嫌いだわあ」と言いたくなるぞ。

幸枝とマ子は真梨恵の「死ぬまでにやりたいことリスト」を見つけ、それを自分たちで実現しようと動き出す。
ここはオリジナル版から大幅に改変されている。
オリジナル版の場合、貧乏なモーガン・フリーマンが「やりたいことリスト」を書いているが、どうせ無理だろうと諦めている。そこで大富豪のジャック・ニコルソンか自分の願望も付け加え、一緒に実現するために動き出すのだ。
ここを「少女の願望を幸枝とマ子が代わりに叶える」という形にしたのは、改変の方向性を完全に間違えていると言わざるを得ない。

幸枝とマ子が実現しようとする「死ぬまでにやりたいことリスト」は、絶対に自分たちで考えて作成すべき道具だ。
リメイク映画だから改変はあってもいいけど、必ず踏襲すべきポイントってのがある。そこは「踏襲すべきポイント」の一番手に挙げてもいいような部分だぞ。
真梨恵のやりたいことを幸枝とマ子が代わりに実現して、何の意味があるのか。それを真梨恵から託されたわけでもないし、彼女と強い絆で結ばれていたわけでもないんだからさ。
真梨恵の「死ぬまでにやりたいことリスト」を順番に幸枝とマ子が実現しても、それは真梨恵にとっても、幸枝とマ子にとっても、まるで目的の見えない行動になっちゃってるでしょ。

幸枝とマ子が真梨恵のリストをやると決めるとシーンが切り替わり、1発目としてロサンゼルスでスカイダイビングに挑戦している。
でも、それがリストに書かれていたことって、実は明確に示されていないのよね。幸枝がリストを見つけた時、「ビングをする」という部分の文字がチラッと映るだけなので、気付かない人もいるんじゃないか。
そこは「リストをやる」と決めた時点で、改めてリストに書いてある内容を観客に教えた方がいいんじゃないかと。そうじゃないと、急にスカイダイビングをやられても唐突に感じるのよ。
飛び終えた後で「スカイダイビングをする」という文字を見せるけど、そこは順番が逆だわ。

っていうか、なぜ1発目がロサンゼルスでのスカイダイビングなのかと。
そりゃあリストの1つ目に、スカイダイビングと書かれていたんだろうとは思うよ。でも、その順番に潰していかなきゃいけないわけじゃないでしょ。
まずは身近で、あまり手間を掛けずに実現できることから潰していけばいいんじゃないのか。
「海外でスカイダイビング」って、かなりデカい夢でしょ。そういうのを1発目に持って来てしまったら、そこがピークになっちゃう恐れもあるでしょ。

あと、「なぜロサンゼルスなのか」ってのも疑問なのよね。
「スカイダイビングをする」ってだけなら、国内でも出来そうな気がするのよ。真梨恵はロサンゼルスという場所まで特定していたわけじゃないんだし。
っていうか、そもそも「スカイダイビング」という部分からして、実は大いに引っ掛かるのよね。
それ以降の「やりたいこと」の数々を見て思うのが、「吉永小百合がやりそうにないことに挑戦してもらう」というファン的な思い付きに、周囲のキャストが付き合っているだけの話なんじゃないかと。

リストの2つ目にして、もうマ子の「私はお金持ちだから」という説明だけで済ませてしまっている。いきなりルールを外れるような形で、そこを片付けているのだ。
さらに3つ目にして、もうリストに書かれていない行動を取っている。
「真梨恵のリストを実現する」という明確な目標を掲げて行動を開始したはずなのに、2つ目でルール違反、3つ目でリストに書かれていない行動って、どういうセンスなのよ。
もう3つ目にして「マ子の個人的な希望」を持ち込んじゃうのなら、いっそのこと最初から「幸枝はリストを作ろうとするが何も思い浮かばず、マ子がリストを作って幸枝に付き合ってもらう」という形にしちゃえばいいでしょうに。

2つ目の「お金持ちになる」という夢を叶えるために宝くじを買う行動は、日本でも出来る。でも幸枝は日本に戻らず、アメリカの宝くじを買っている。3つ目で日本に帰国してもいいのに、エジプト旅行に出掛けている。
そういう展開なので、ずっと海外旅行を続けるのかと思いきや、帰国してももいろクローバーZのライブへ行くシーンが用意されている。
その展開、全く乗れないわ。
しかも、ライブを楽しむ様子をサラッと描くだけで次へ進むのかと思いきや、ももクロのメンバーとの掛け合いまであるんだよね。
ももクロをスペシャルゲスト的に扱っているんだけど、「それも違うだろ」と言いたくなるわ。

「パパとママにありがとうを言う」という項目を見つけた幸枝とマ子は、どちらも「これは無理だ」と諦める。
だけど、「いや、そうじゃないだろ」と呆れてしまう。
そもそも、そのリストを実現したいと思っていたのは真梨恵なのだ。そのことを、幸枝とマ子は完全に忘れている。
「真梨恵が両親に感謝を伝えたいと思っていた」と言ったのなら、それを真梨恵の両親に教えようと、なぜ思わないのか。真梨恵のことを本気で思っているのなら、残りのリストを自分たちで消化していくことよりも、まずは「彼女の思いを両親に伝えてあげよう」と考えるべきじゃないのかと。
後で幸枝が両親の墓参を済ませてリストを消すが、「そういうことじゃないわ」と言いたくなる。

京都でジャンボパフェを食べた後、マ子が「日本一のジャンボパフェって、京都に来ること無かったんじゃないの?」と疑問を口にするが、その通りだ。
真梨恵はリストで「京都のパフェ」と限定していたわけじゃないからね。
「なぜ京都なのか」という疑問に対して、納得できる答えは何も用意されていない。
だって、納得できる答えなんて無いからね。単に「2人があちこちを巡って旅をする」という内容にしたかっただけだからね。
でも、それならそれで、「その場所に行かなきゃダメな理由」を用意すりゃいいでしょうに。

マ子が父と再会するシーンをお涙頂戴のエピソードにしてあるが、これっぽっちも涙腺は刺激されない。それどころか、むしろ気持ちは冷め切ってしまう。
「どんな父でも愛していた」ってことで綺麗にまとめたいのは分かるけど、マ子は父のせいで辛い幼少期を過ごしたんでしょ。そのことは本人が吐露しているけど、父の愛を感じさせるエピソードは何も用意されていないわけで。
それを示す回想シーンも何も無い中で「父に頭を撫でられて泣く」というシーンを描かれても、感動ドラマとしての説得力が皆無なのよ。
あと、幼少期に逆上がりが出来ず、その後も全く運動していなかった奴が、急に逆上がりをやって成功するのも嘘臭いし。

幸枝は「貴方みたいに退屈な人生じゃなかった」というマ子の軽口に腹を立て、「主婦だって呑気で気楽なことばかりじゃないんです」と声を荒らげる。
そもそもマ子が「貴方みたいに退屈な人生じゃなかった」と言い出す展開に無理があるが、それはひとまず置いておくとして、幸枝の「主婦だって呑気で気楽なことばかりじゃないんです」という怒りは論点がズレているように思うぞ。
苦労は多かっただろうと思うけど、「退屈な人生」だったのは事実じゃないのか。だからこそ、リストを作ろうとして何も思い浮かばなかったんじゃないのか。
そう思っていたら「諦めたことも一杯ある」と言い出すけど、だったらリストを考えた時に、それを書けよ。

マ子は幸枝に「まだ間に合うんじゃないの」と告げ、ウェディングドレスを着るよう促す。着替えた彼女を見たマ子は「綺麗ねえ。悔しいけど、良く似合ってる」と絶賛するが、いや無理があるだろ。とてもじゃないけど、似合っているとは言い難いぞ。
で、その後の結婚式のシーンもお涙頂戴のエピソードにしてあるが、これまた全く感動なんて無い。
何しろ、面倒を全て幸枝に押し付けて来た家族の反省や改心が見えないからね。
孝道に結婚式で改めてプロポーズさせるより、「幸枝が帰宅したら台所や部屋が片付けてある」という様子でも見せた方が、よっぽど愛や思いやりを感じるわ。

結婚式のシーンが終わった後、大晦日に孝道が幸枝たちの夕食を作っているシーンがある。
だけど、今まで家事を何もやっていなかった人なのに、最初から美味しい料理を作れており、しかも美春からは「幸枝の味になっている」とまで評されるってのは変だろ。
むしろ、そこは「料理は美味しくないけど、自分なりに頑張っている」という不器用な姿を見せた方がいいんじゃないかと。
そこで重要なのは、「家事をちゃんと出来るかどうか」という「結果」じゃなくて、「やるかどうか」という「経過」のはずなんだからさ。

それとさ、結婚式のエピソードの後、まだ30分ぐらい話が続くのは、すんげえダラダラして蛇足になってると感じるのよ。
そりゃあ、まだ一慶の問題は解決していないし、マ子と輝男の関係や会社の問題も残っているのよ。ただ、結婚式で孝道にプロポーズされた幸枝が、「私の旅は終わり」と言っちゃってんのよね。
もう彼女の目的は「真梨恵のリストを全て消化すること」から「自分の旅」に摩り替わっており、その旅が終わったと感じたのなら、後は話を締め括るだけでしょ。
だからホントなら結婚式の段階で、一慶の問題もマ子の問題もほぼ片付いていた方がいいのよ。そして、後はエピローグで終われるような状況を整えておいた方が望ましいのよ。

(観賞日:2021年3月29日)

 

*ポンコツ映画愛護協会