『斉木楠雄のΨ難』:2017、日本

PK学園2年生の斉木楠雄は超能力者で、サイコキネシスやテレパシーなど様々なパワーを使うことが出来た。16年前、國春と久留美の間に誕生した楠雄は、生後10日で「恥ずかしながら、大便の処理をお願いします」と口にした。1ヶ月で普通に歩けるようになり、1歳の頃には久留美のために大量のみりんを瞬間移動させた。しかし能天気でバカップルの両親は、息子が超能力を使っても全く驚かなかった。國春と久留美は疑問さえ抱かず、簡単に順応していった。
高校生になった楠雄は、超能力のせいで全てを奪われたと感じていた。怒りや悲しみが無い代わりに、彼には喜びや悲しみも無かった。平穏な生活だけが、彼の目標だった。とにかく目立たないことだけを心掛けており、学校でも普通の生徒として受け入れられていた。とは言え、彼はピンク色の髪の毛をしており、頭部に奇妙な球を装着しているとう目立つ格好だった。しかしピンクの頭髪は生まれ付きてあり、奇妙な球は力を制御するための装置だった。
担任教師の松崎は生徒たちに、昨年のPK祭で様々な問題が起きたこと、今年も何かあれば来年から中止になることを説明した。文化祭は出席しているかどうか分からないため、それを利用して楠雄は日帰り旅行を楽しんでいた。クラスの出し物を決めることになり、熱血生徒の灰呂杵志が仕切り始めた。生徒たちが「校庭に落ちていた面白い石展」に決めようとすると、灰呂は「それで完全燃焼できるのか」と熱く語る。しかし彼が千羽鶴を10万羽折ろうと言い出したので、結局は面白い石展のアイデアで決着した。
休み時間に廊下へ出た楠雄は、燃堂力から声を掛けられる。燃堂力は何も考えていないため、楠雄にも気配を読み取ることが出来なかった。ひょんなことから燃堂は楠雄を気に入り、「兄貴」と呼んでいた。そこへ海藤瞬が現れ、「見てほしい物がある」と楠雄に告げて屋上へ呼び出した。彼は謎の文字で書かれた手紙を見せ、下駄箱に入っていたと説明する。中二病を患う海藤は、「人類淘汰を目論む秘密結社、ダークリユニオンからの予告状が。俺の右手に宿るブラック・ビートが狙いだ」と語る。彼は正体がコードネーム「漆黒の翼」と自称しており、勝手に楠雄を同志扱いして「一緒に戦うしかない」と言う。彼は手紙の内容を全く理解していなかったが、「文化祭を襲う気だ」と確信に満ちた態度で告げた。楠雄は海藤から、その手紙を預かることにした。
PK祭の1週間前。楠雄は石展が地味な企画だと思っていたが、クラスはそれなりに盛り上がって様々な石を用意していた。そんな中で、照橋心美はクラスメイトからミスコン出場を進められて「無理」と遠慮していた。彼女は学校で一番人気の美人だが、楠雄は全く謙遜する気の無い彼女の本音が分かっているため、全く好きになれなかった。しかし心美の方は夏休みの出来事がきっかけで、楠雄を意識していた。町で楠雄に声を掛けた彼女は、他の男子と同じく「おっふ」という反応があると確信していた。しかし楠雄の反応が薄かったため、彼女は「自分が幻だと思ったのだ」と誤解して追い回す。面倒になった楠雄が瞬間移動で姿を消すと、心美は「自分が幻を見ていた」と感じ、彼を意識するようになったのだった。
PK祭の当日。國春と久留美は朝から些細なトラブルが重なると、楠雄の災難だと決め付けた。相手にせず家を出た楠雄は、心美の尾行に気付いた。心美は「PK祭を利用して100おっふを奪う。私の虜にする」と意気込んでいたが、そもそも楠雄は「おっふ」が何なのか全く理解できなかった。楠雄のクラスメイトが多種多様な石を持ち寄る中で、窪谷須亜蓮は赤く染まった石を披露した。彼は3ヶ月前に転校してきた生徒で、前の学校では暴走族の総長だった。転校を機にヤンキーを普通の高校生になろうとしている窪谷須だが、もちろん楠雄はすべてお見通しだった。
教室を出た楠雄は、心美が張り込んでいるのに気付いた。心美は3日前、楠雄の下駄箱に手紙を入れていた。返事は無かったが、その理由を心美は前向きに誤解していた。楠雄は問題を防ぐためにテレポートする必要もあると考えており、心美の尾行は面倒だった。だが、彼女のファンクラブ「ここみんズ」のメンバーが現れ、ミスコンに出るよう頼んで取り囲んだので楠雄は面倒から解放された。蝶野雨緑によるイリュージョンショーのポスターを見た楠雄は、事故の香りを嗅ぎ付けた。彼がショーの会場へ行くと、蝶野はやる気の無さそうな母親のジェシーをアシスタントに付けていた。蝶野の拙い喋りを聞いた楠雄は、失敗を確信した。
ミスコンの会場では校長の神田品助が解説席で欲情を語り、心美は審査委員長を務めていた。蝶野は脱出マジックを始めるが、その様子を見た楠雄は失敗して死ぬのではないかと感じた。トラブルを回避するため、楠雄は蝶野が閉じ込められている箱の中にテレポートした。だが、蝶野の手品は成功しており、既に脱出した後だった。10分が経たないと次のテレポートが出来ないため、しばらく楠雄は箱の中で留まる羽目になった。その間、ジェシーは箱に何本ものナイフを突き刺し、クレーンで持ち上げて落下させ、火を放つ。最後にローラーで潰す作業となったが、ギリギリで10分が経過したので楠雄は脱出できた。
海藤はダークリユニオンのメンバーだと称する男に声を掛けられ、彼の案内でアジトへ赴いた。そこには月光蝶の瞳を名乗る男が待っており、海藤は自分がダークリユニオンから抜けたことを語る。月光蝶の瞳から組織に戻るよう誘われた彼は、それを拒絶した。月光蝶の瞳は海藤に、ダークリユニオンの弱点が学校内に散らばる7つの聖なる玉だと語る。海藤が玉を集めるために走り去ると、月光蝶の瞳は後を追って捕まえるよう手下たちに命じた。
灰呂が10キロマラソンを企画したことを知った燃堂は、誰も集まらないだろうと考える。しかし灰呂が「照橋心美に10分間見つめられる権利」を優勝賞品に決めたため、大勢の男たちが集まった。燃堂も商品目当てで参加し、マラソンが始まった。当初は大勢で走ることだけで満足していた灰呂だが、燃堂が優勝して商品を手に入れた時のことを妄想し、絶対に勝とうと意欲を燃やす。燃堂は飲み物を飲みながら、後ろ向きで余裕たっぷりのまま燃堂と並走した。燃堂は灰呂を騙して優勝したものの、転倒してお尻が丸出しになった。
窪谷須の靴箱には大量の果たし状が届いていたが、彼は全て無視した。不良グループが学校に来て窪谷須を捜すが、見た目が大きく変化しているので全く気付かなかった。しかし玉を集めていた海藤は彼らから窪谷須について問われ、近くにいた彼を指差した。不良グループに気付かれた窪谷須は、簡単に叩きのめした。楠雄は心美からお化け屋敷に誘われ、仕方なく同行した。そこへ燃堂が現れたので、楠雄は3人でお化け屋敷に入った。燃堂はお化け役の生徒たちを逆に怖がらせようと提案し、楠雄にコスプレを指示した。楠雄が洗顔の時に眼鏡を外すと、興味を示した燃堂が手に取った。取り返そうとして楠雄が裸眼で見つめたため、燃堂は石化してしまった…。

脚本・監督は福田雄一、原作は『斉木楠雄のΨ難』麻生周一(集英社『週刊少年ジャンプ』連載)、製作は今村司&佐野真之&谷和男&弓矢政法&木下暢起&高橋誠&荒波修&久保雅一&本田晋一郎、プロデューサーは松橋真三&北島直明、エグゼクティブプロデューサーは伊藤響、アソシエイトプロデューサーは平野宏治、撮影は工藤哲也&鈴木靖之、照明は藤田貴路、録音は高島良太、美術は遠藤善人、ポスプロプロデューサーは鈴木仁行、編集は臼杵恵理、VFXスーパーバイザーは小林真吾、ラインプロデューサーは鈴木大造、音楽は瀬川英史、主題歌『恋、弾けました。』は ゆず。
出演は山崎賢人、橋本環奈、新井浩文、吉沢亮、笠原秀幸、賀来賢人、田辺誠一、内田有紀、ムロツヨシ、佐藤二朗、稲川淳二、山野海、川久保拓司、鎌倉太郎、今野鮎莉、菅登未男、酒井健太(アルコ&ピース)、大水洋介(ラバーガール)、足立理、黒澤はるか、猪塚健太、雨野宮将明、今井隆文、平埜生成、大村まなる、株元英彰、石原壮馬、新岩正人、上松大輔、志波清斗、南野明広、小玉雄大、櫻井圭祐、松田リマ、山崎果倫、大平有沙、井桁弘恵、花影香音、岡唯、佐藤涼平、本田結弓、長谷川大蔵ネイソン、藤本紘、森崎海來ら。


麻生周一の同名漫画を基にした作品。
脚本&監督は『明烏 あけがらす』『HK/変態仮面 アブノーマル・クライシス』の福田雄一。
楠雄を山崎賢人、心美を橋本環奈、燃堂を新井浩文、海藤を吉沢亮、灰呂を笠原秀幸、窪谷須を賀来賢人、國春を田辺誠一、久留美を内田有紀、蝶野をムロツヨシ、神田を佐藤二朗が演じている。
他に、本人役で稲川淳二、ジェシー役で山野海、月光蝶の瞳役で川久保拓司、松崎先生役で鎌倉太郎、冒頭シーンに登場する若い女性役で今野鮎莉、アフリカ長老役で菅登未男が演じている。

最初に楠雄がしれっと登場した時点で、その見た目の奇抜さに「いや無理だわ」と言いたくなる。
その直前、超能力で車が浮遊するという非現実的な現象は起きているが、楠雄の容貌を受け入れさせるための前置きとしては全く足りていない。「あまりにも陳腐」という印象が、強く伝わって来る。
正直なことを言ってしまうと、どんな方法を使っても、この映画から陳腐な印象を排除することは難しいだろう。だから後は「その陳腐さを、いかに面白さへ持って行くか」ってことが必要になってくる。
だが、それを肯定的な感想に変化させるような力が、この映画には感じられない。

楠雄は「目立たないように心掛けている」と言いながら、ものすごく目立つ格好をしている。
ピンクの頭髪や頭部の球について「こういう事情がありまして」という説明はしているが、「それでも周囲の生徒が全く気にしていない。
まるで目立っていない」という状態が成立している理由については何も説明していない。
周囲のヘンテコな部分については基本的に楠雄がユルいツッコミ(というか指摘)を入れていくが、そこはボケっ放しで放置される。
っていうか、そこはツッコミを入れないことで、ボケとして成立しなくなっている。

文化祭が中止される可能性を松崎が示唆すると、「楠雄は文化祭は出席の有無が分からないことを利用して、毎年、日帰り旅行を楽しんでいた」というナレーションが入る。
しかし高校は3年生のでなので、「毎年」ってのは少し違和感がある。
実のところ、原作では「楠雄は毎年、高校2年生をループしている」という設定があるのだ。
それなら「毎年、日帰り旅行を楽しんでいる」ってのは腑に落ちる。でも、その設定に関する言及が映画だと何も無いので、そこに違和感が生じているのだ。

楠雄が「文化祭が中止になると、日帰り旅行を楽しめなくなる」と思った後、「中止になることは絶対に阻止しなければ」ってことで何か行動を取る展開に移るのかというと、それは無い。
出し物を決める手順に移り、さらに主要キャラを次々に登場させる手順がある。
そんな手順が続く中で、楠雄が「文化祭が中止になるのは困る」と思ったことは、すっかり忘れ去られている。そして「絶対に成功させないと」という楠雄の気持ちが改めて示されないまま、当日のシーンに入ってしまう。
それが雑な処理にしか思えない。

「文化祭が無事に終わるまでの話」を軸に据えて、それを進める途中でクセの強いキャラクターを次々に登場させていく。そういう構成が、この映画を失敗させた一番の原因だと思う。
ストーリー進行を優先すると、キャラクター紹介はナレーションによる説明だけで終わるという雑な処理になってしまう。だからといって、灰呂の時のように、彼の熱血キャラを紹介するために「ドッジボールでこんなことが」という回想シーンを入れると、今度は「邪魔な寄り道で話を停滞させている」という印象になってしまう。
ただ、ひょんなことから燃堂は楠雄を気に入って「兄貴」と呼んでいるという説明が入るが、「そう呼ぶようになったきっかけの出来事」を回想として挟まないのは、それはそれで説明不足を感じる。
どっちにしろ、問題は生じてしまうのだ。

これを解決するためには、ギャグ漫画と同じように、1話完結の短いエピソードを串刺し式に並べる構成にした方がいいんじゃないかと。
そして1話ごとに、「クセの強いキャラを順番に紹介する」ってのを目的に据えるのだ。それが終わってから、他のエピソードに移るという流れにするのだ。
文化祭のエピソードも、そんなに大きく扱わず、小さいエピソードの1つとして描いた方がいい。文化祭を無事に終わらせようとするエピソードだけで1本の長編映画にすると、「その程度のことで」というバカバカしさが強くなる。
「バカバカしいことを大げさに」ってのを意図的にやっている可能性もあるが、だとしても上滑りしている。

最初のエピソードで灰呂、燃堂、海藤を順番に登場させたのに、心美はPK祭の1週間前のエピソードまで引っ張る。そして1週間前の様子は、完全に「心美を紹介する」という目的を果たすためだけのシーンとなっている。
そのシーンにおける灰呂、燃堂、海藤は、チラッと姿を見せるだけだ。ストーリーも全く先に進んでいない。
とは言え、他のエピソードも同じような扱いなら、それは何の問題も無い。
先に「学園祭に向けた進行」ってのを提示したせいで、心美を紹介するためのエピソードが「間違い」みたいになってしまうのだ。

窪谷須は唐突に登場して紹介が無かったことを、楠雄に話し掛ける台詞でネタに使っている。そこを楽屋落ちにしているのだが、笑いには昇華できていない。
そこが窪谷須の登場する独立したエピソードとして用意されているなら、問題は無かったかもしれない。しかし文化祭の様子を描く一連の流れの中に組み込まれているため、ホントに唐突でキャラの出し方が下手なだけになっているのだ。
これは蝶野も同様で、こいつが登場する独立したエピソードなら別にいい。
しかし「楠雄が文化祭を見回る」というストーリーを設定し、そこに組み込もうとすると、流れに上手く乗っからないのだ。

海藤の「コードネームが漆黒の翼で云々」ってのは中二病を患っているだけだが、ダークリユニオンと称する秘密結社から予告状が届いたことは事実だ。
そして学園祭当日になると、そんなダークリユニオンのメンバーが現れる。
すると海藤は、自分もダークリユニオンに所属していたが離脱したことを真剣に語る。
海藤の妄想が現実になったような形だが、素人による学生ノリの三文芝居がダラダラと続いているだけにしか見えず、ひたすら苦痛だ。

後になって、「ダークリユニオンを名乗る連中は、海藤を楠雄から遠ざけるために心美が依頼した」という裏が判明する。それで事情は分かるものの、感じた苦痛が解消されるわけではない。
だけど、それを苦痛と感じるような人間は、それ以外の部分も厳しいだろう。
ってことは、そもそも福田雄一作品に向いていないのだ。
そういう人からすると、橋本環奈の顔芸を見るぐらいしか手が無いかもしれない。
ただし、それで耐えられるとしても最初の内だけで、出オチみたいなモンだから途中で飽きる。最悪の場合、その顔芸すら最初から苦痛になってしまうかもしれない。

終盤に入ると、大勢の不良たちが学校に押し掛けるとか、そいつらをテレポートさせるためにパワーを使い過ぎた楠雄が気絶するとか、心美がアンテナの片方を抜いてしまったせいで世界の危機が訪れるとか、色々と自体が大きくなる。
だけど、それで話のスケールが大きくなったり、一気にハラハラ感が高まったりするようなことは無い。
エラーが起きて楠雄と心美のいる体育倉庫の酸素が薄くなったり凍り始めたりという危機も生じるが、それで緊張感が高まるようなことも無い。
だからってオフビートなコメディーとしての面白さがあるわけでもなく、楠雄にも負けないぐらい無感情にさせられるだけだ。

(観賞日:2019年1月19日)

 

*ポンコツ映画愛護協会