『貞子vs伽椰子』:2016、日本

民生委員の橘茜は、様子を見せなくなった老女の安江を心配して家を訪ねた。外から呼び掛けても返事が無いので、彼女は家に足を踏み入れた。台所にいる後ろ姿の安江を発見した橘は安堵し、「返事くらいしてよ」口にする。しかし戸を開けて台所に入ると食べ掛けの料理が置いてあるだけで、安江の姿は無かった。奥の部屋に入った橘は、恐ろしい形相で死んでいる安江を見つけた。テレビの電源は付いたままになっていたが、突如としてビデオが再生された。何も映らない画面を橘が凝視していると、背後に貞子が出現した。
成安文化大学の教授を務める森繁新一は、都市伝説に関して講義するが、体験した本人から聞いた生徒は誰もいなかった。森繁は都市伝説の多くが作り話だと説明するが、それでも呪いのビデオだけは自分の心を掴んで離さないのだと語った。彼は呪いのビデオについて研究した著書を、自費出版で刊行していた。講義にで居眠りしていた倉橋有里は、親友の上野夏美からビデオテープを見せられる。それは夏美の両親の結婚式を撮影したビデオであり、彼女はDVDに焼いて2日後の結婚記念日にプレゼントしたいと考えていた。そこで夏美は、機械に強い有里に学食5回分で仕事を依頼した。
高校生の高木鈴花は、両親の透&史子と共に引っ越し先の家へ到着した。「立入禁止」と塀に書かれた隣の家が呪われていることを、一家は全く知らなかった。有里は夏美と共にリサイクルショップを訪れ、ビデオデッキを購入した。彼女はマンションでビデオデッキを接続するが、テープが入ったままだと気付く。夏美は「気持ち悪いじゃん」と言うが、有里は好奇心から再生してみる。しばらく砂嵐が続いたが、どこかの場所が写し出された。
有里はメールが届いたので、確認するためスマホに目をやった。彼女が改めて画面に視線を戻すと砂嵐に戻っていたので、また再生しようとする。夏美は怯えた様子で電源を切り、「呪いのビデオかも」と口にする。有里が笑い飛ばしていると、夏美のスマホが鳴った。非通知の文字を見た夏美は、怖がってスマホを有里に渡す。有里が通話ボタンを押すと妙な音が聞こえ、部屋の照明が点滅した。夏美は貞子を見て絶叫するが、有里には何があったのか分からなかった。
リサイクルショップ店員の小林恵子は、店主の妻である美津子に呪いのビデオが入ったデッキが売れたことを話す。美津子は何も知らない夫の忠則に、呪いのビデオについて説明する。しかし美津子も恵子も、その話を信じているわけではなかった。恵子は実際にビデオを見たこと、2日後に無言電話が掛かって来たことを話す。「もうすぐ死んじゃいますね」と笑って口にした彼女は、直後に2階から飛び降りて死亡した。鈴花は恐ろしい夢で目を覚まし、隣の部屋を窓から覗いた。
翌日、鈴花はクラスメイトの遥と真来から、隣が幽霊屋敷であること、夫が妻と子供を殺害して自害したことを知らされる。さらに遥たちは、その後で家に入った者が全て死んでいることも語った。夜になって有里と夏美がリサイクルショップへ行くと、臨時休業の貼り紙が出ていた。忠則と美津子は2人がビデオテープを見たと知り、顔を強張らせる。忠則は自殺した老人の親族に頼まれて買い取ったこと、遺体を発見した役所関係の人も2日後に自殺したことを2人に教えた。2日前にビデオを見たバイト店員も死んだことを知らされ、夏美は激しく動揺した。
翌日、有里は森繁に事情を説明し、解決方法を相談する。判断するには材料不足だと口にした森繁は、夏美から「先生も見てみればいいじゃないですか」と提案されて承諾した。森繁がビデオを再生してDVDに焼くと、部屋の電話が鳴った。彼が受話器を取ると、キンキンとした音が聞こえた。「貞子なのか?」と尋ねた森繁は、耳を押さえて苦悶する。しかし有里と夏美が心配して部屋に入って来ると、彼は嬉しそうに「これ本物だよ」と言う。改めて助かる方法を問われた彼は、お祓いが出来る霊能者を捜すと約束した。
小学生の裕太は、いじめっ子グループの達也&健治&秋彦にランドセルへ大量の石を入れられる。彼は達也たちに強要され、呪いの家へと足を踏み入れた。佐伯俊雄を目撃した裕太は玄関のドアを開け、達也たちに石を投げ付けて屋内に戻った。怒った達也たちは家に駆け込むが、俊雄が次々に襲い掛かった。森繁は有里と夏美を呼び出して、霊媒師である法柳の元へ案内した。法柳は今までに扱ったことの無い恐ろしい物だと言い、このままだと確実に死ぬと断言する。
貞子が見たい森繁は除霊を断り、法柳は夏美を救うための祈祷を始める。しかし助手たちが変死し、法柳も「これは失敗だ。常盤経蔵を呼んでおいた。祭壇の下の現金を使え」と森繁に言い残して命を落とした。有里は「有里のせいだからね」と夏美に恨み言を浴びせられ、ビデオテープを自分に渡すよう促す。テープを受け取った彼女は、「森繁先生は言ってたわよね、人に見せたら助かるって。私、やってみる」と告げる。彼女がテープを再生すると、画面の中に貞子が出現した。
有里は背後に気配を感じるが、振り返ると誰もいなかった。そこへ夏美が来た直後、電話が鳴った。有里が受話器を取ると、キンキンという音が聞こえた。そこへ相棒を務める少女の珠緒を伴った経蔵が現れ、電話器を破壊した。有里もビデオを見たと知った彼は、「仕事増やすなよ、めんどくせえな」と声を荒らげた。金を受け取った経蔵の前で、夏美は貞子に憑依された。「貞子、来いよ」と経蔵が挑発的に言うと、夏美の口から頭髪の束が出て来た。経蔵は頭髪を袋に入れて封印すると、珠緒に「俺が考えたこと、分かるか。化け物に化け物をぶつけんだよ」と告げた。
経蔵は有里に、「やるだけのことはやってやる。下見をしてから詳細は決める。明日、迎えに来るから、おとなしくしてろ」と告げた。翌朝、鈴花は遥と真来から、近所で小学生の男児4人が行方不明になったことを聞かされた。前日に裕太たちを目撃していた鈴花は、そのことを思い出した。有里はシャワーを浴びている最中、天井に大量の頭髪が広がるのを目にした。しかし悲鳴を上げた彼女が再び見上げると、そこには何も無かった。
経蔵は珠美を伴って呪いの家を訪れ、「これしかねえだろうな」と口にした。経蔵が印を結んだ石を家の中へ投げ込むと、珠緒が「逃げた。伽椰子はこうは行かないよ」と告げる。珠緒は「いい物がある」と言い、家の近くにある古い井戸の存在を経蔵に教えた。経蔵は井戸を確認し、「使えるが、最後の手段だな」と呟いた。道路へ出た経蔵と珠緒は、鈴花が覗いているのに気付いた。珠緒が「この人、家に呼ばれてる」と指摘し、経蔵は「この家には近付くな。入ったら死ぬぞ」と鈴花に警告した。
その夜、夕食を終えた鈴花は裕太を目撃してハッとするが、母に声を掛けられると彼の姿は消えていた。夏美は有里に「どうしてこんな目に遭うんだろうって思ってさ。みんな死んじゃえばいいのにって」と言い、呪いのビデオをインターネットにアップしたことを告白する。有里が驚くと、すぐに削除したが既に拡散されてしまったことを夏美は語る。隣の部屋に駆け込んだ夏美はドアに鍵を掛け、首を吊って自殺しようとする。すると貞子が出現し、彼女を殺害した…。

脚本・監督は白石晃士、エグゼクティブプロデューサーは井上伸一郎&高木ジム、製作は堀内大示&桜井秀行&横澤良雄&丸田順悟&江守徹、製作幹事代表は菊池剛、プロデューサーは今安玲子&山口敏功&平田樹彦、共同プロデューサーは小林剛、協力プロデューサーは福島聡司、ラインプロデューサーは田口雄介、撮影は四宮秀俊、照明は蒔苗友一郎、美術は安宅紀史、録音は湯脇房雄、編集は和田剛、特殊造形デザインは百武朋、VFXスーパーバイザーは村上優悦、音楽は遠藤浩二。
主題歌:『呪いのシャ・ナ・ナ・ナ』聖飢魔II 作詞:デーモン閣下、作曲:ルーク篁、編曲:聖飢魔II。
出演は山本美月、玉城ティナ、佐津川愛美、安藤政信、甲本雅裕、田中美里、松島正芳、堂免一るこ、菊地麻衣、おぞねせいこ、中野英樹、清瀬やえこ、佐藤みゆき、七海エリー、遠藤留奈、芝本麟太郎、三浦透子、森田想、内野かずえ、中尾壮位、太一、酒井天満、美濃孔之介、日野綾子、永嶋美佐子、松井晶照、住松侑佳、高村雛、渡辺龍之介ら。


「リング」シリーズの貞子と「呪怨」シリーズの伽椰子を競演させた作品。
最初はエイプリルフールの企画として情報が出されたが、その時点で製作の話は進められていたらしい。
エイプリルフール企画の際に「本当にやるなら自分にやらせてほしい」というツイートをした『シロメ』『カルト』の白石晃士が、脚本&監督として起用された。
有里を山本美月、鈴花を玉城ティナ、夏美を佐津川愛美、常盤を安藤政信、森繁を甲本雅裕、史子を田中美里、透を松島正芳、法柳を堂免一るこ、珠緒を菊地麻衣が演じている。

まず気になったのは、一瀬隆重が全く関与していないってことだ。
一瀬隆重は映画プロデューサーとしてJホラーのブームを生み出した中心人物であり、「リング」シリーズも「呪怨」シリーズも最初から携わって来た。「リング」シリーズは『貞子3D』で彼の手を離れてしまったが、「呪怨」シリーズは『呪怨 -ザ・ファイナル-』にもクリエイティブ・スーパーバイザーと脚本で参加している。
そんな彼が全く関与しない形で、「リング」シリーズと「呪怨」シリーズの合体という作業が実施されたのだ。
つまり、この映画は一瀬隆重の発案で決まったわけではないってことだ。

「怪物を倒すために、別の怪物を当てて戦わせる」というアイデアは、今までも様々な映画で使われてきた。
『キングコング対ゴジラ』『ゴジラVSデストロイア』『メガ・シャークVSジャイアント・オクトパス』『メガ・シャークVSクロコザウルス』など、その多くは当然のことながらモンスター映画での使用だ。
ただしホラー系でもゼロってわけではなくて、『フレディVSジェイソン』はそのパターンを採用していた。
っていうか、この映画の企画は、間違いなく『フレディVSジェイソン』から着想を得ている。

『貞子3D』『貞子3D2』を手掛けたKADOKAWAの井上伸一郎は、映画の宣伝で貞子をマスコットキャラクターのように扱い、恐怖や不気味さを奪い取った。
また、3Dやスマ4Dという上映システムを採用し、ギミック映画へと変貌させた。
一方、ダブル・フィールドの丸田順悟はリブート作品『呪怨 -終わりの始まり-』と『呪怨 -ザ・ファイナル-』を制作したが、シリーズを続ける展望が見えているようには到底思えなかった。
いずれのシリーズも、かなりマズい状況に陥っていたのである。

そんな中で、井上伸一郎と丸田順悟が思い付いたのが、「両方のホラー・モンスターを対決させる」というアイデアだった。
「呪怨」シリーズでは俊雄の方が有名じゃないかと思うが、貞子と対決させることを考えると、やはり伽椰子になるんだろう。
前述したように、当初は『呪怨 -ザ・ファイナル-』を宣伝するエイプリルフール企画として発表された。
しかし、その時点で既に、実際に映画化する話が進行していたのだ。そして『呪怨 -ザ・ファイナル-』が上映された時、その最後に本作品の公開が告知された。

正直なところ、「貞子と伽椰子を対決させる」というアイデア自体は、そんなに意外性や新鮮味があるわけではない。むしろ、すぐに誰でも思い付きそうなアイデアだ。
前述した『フレディVSジェイソン』の他に、『エイリアンVS. プレデター』も公開されているしね。
ただ、いざ実現させようとすると、そんなに簡単ではない。
貞子にしろ伽椰子にしろ、出現させるための条件が設定されている。
そこをクリアした上で、互いに相手を殺そうとする状況へ追い込まなきゃいけないわけで、そりゃあ色々と大変だ。

貞子の場合、ビデオテープを見た人間が呪われるという設定がある。伽椰子の方には、呪いの家へ足を踏み入れた人間が襲われるという設定がある。
ってことは、まず登場人物の誰かがビデオテープを見て、別の誰かが呪いの家へ足を踏み入れる必要がある。両方を同じ人物が担当してもいいが、それはシナリオを作る上で難しいだろう。
ただし、ここまでなら何の苦労も無い。それぞれの単独シリーズで今まで何度もやってきた手順を、そのまま繰り返せばいいだけだ。
問題は、その後である。

貞子と伽椰子を登場させたら、今度は両者を対決させるための手順が必要となる。具体的には、貞子を呪いの家へ招き入れる必要があるわけだ。
呪いの家を訪れた人間を殺すためなら伽椰子は出張するので、他の場所でも構わないっちゃあ構わないのよ。
ただ、他の場所で貞子と伽椰子が戦うように仕向けるのは、色々と面倒が多くなりそうだ。
呪いの家に招き入れてしまえば、その時点で貞子も伽椰子の攻撃対象に入るからね。

ただ、この映画では単純に「呪いの家に入った貞子を伽椰子が標的にする」という形を取らず、「獲物を奪い合う」という形を取っている。
そのために、「経蔵が貞子と伽椰子をぶつけようと画策する」→「貞子に狙われる有里と伽椰子に狙われる鈴花を呪いの家に行かせて、2人とも貞子&伽椰子の標的にしてしまう」という手順を用意している。
「家に足を踏み入れることで、有里には伽椰子の呪いが掛かる。鈴花は家の中で呪いのビデオを見ることで、貞子の呪いが掛かる」「2つの違う呪いに掛かることで、貞子と伽椰子が獲物を奪い合う」「拮抗する力を持つ貞子と伽椰子の呪いは、お互いを食い合って、やがて消滅するだろう」と、経蔵は説明する。

その計画は、一応の理屈は通っている。
ただ、経蔵が「これしかねえだろうな」と言うけど、「貞子を消すために伽椰子とぶつける以外に方法は無い」ってのは強引極まりないわ。
「他の方法を試して全て駄目だったから」という風に選択肢を全て消す作業を済ませているならともかく、そうじゃないからね。
っていうか選択肢を消していく作業を踏んだとしても、それでもなお「伽椰子とぶつける」という方法を選ぶのは強引だと感じるぐらいなのに。

導入部からして、演出がマズいと感じる。
橘が屋内に入る様子を写した後、カットが切り替わると台所で椅子に座っている後ろ姿の安江を捉える。これは橘の視線からの映像だ。
サイドから橘の上半身を写すカットが入り、彼女が戸を開けて台所に入ろうとする。カットが切り替わると、橘が台所を眺める様子が正面から写し出される。この時、台所に安江の姿は無い。
こういう風に文字で書き起こすと何のことやら分かりにくいかもしれないが、実際に映像として見せられた場合、「そこにいたはずの安江が一瞬で消えた」という不安や恐怖が伝わらないのだ。
それよりも、橘が全くリアクションしないのもあって、「何を描こうとしているのか良く分からない」という印象のシーンになってしまうのだ。

もっと根本的な問題としては、そもそも橘が台所で後ろ姿の安江を目撃する手順は本当に必要なのか」ってことが挙げられる。
そこを排除して、「台所には食べ掛けの食事が残されている」という形にしておいて、「奥の部屋で死んでいる安江を橘が発見する」という手順へ移行する流れにしても、受ける印象としては何ら変わらないのではないか。
何しろ前述のように、台所のシーンは全くと言っていいほど意味の無いモノになっているわけだし。

夏美はビデオを見ると、途端に怯えて「呪いのビデオかも」と口にする。
でも彼女は「何か変な感じがした」というだけなので、そこまで極度に怯える理由がイマイチ分からない。
むしろ「ただの都市伝説に過ぎない」ってことで笑い飛ばす有里の方が、反応としては理解できる。夏美の「そういうのを信じやすいタイプ」という設定が示されていればともかく、そうじゃないからね。
ただ、有里にしても夏美のスマホが鳴ると急にビビるので、それは態度の変化が早すぎるんじゃないかと言いたくなるぞ。

『リング』シリーズの「呪いのビデオ」と『呪怨』シリーズの「呪いの家」については、「もう皆さんご存知ですよね」ってことなのか、詳しい説明は無い。冒頭で森繁が呪いのビデオについてザックリと説明するが、『リング』シリーズを全く知らない人にとっては何の助けにもならない程度のモノだ。
しかも「お前は二日後に死ぬと告げられ、二日後には本当に死ぬ」というルールは、これまでのシリーズとは異なっている。
そこは変えちゃダメだろ。
「ビデオテープで拡散する」という部分は『リング』のルールを大切に順守しており、そのために「古いビデオデッキを有里たちが使う」という少し無理のある設定まで持ち込んでいるくせに、一方で死ぬタイムリミットに関しては変えちゃうのね。

森繁は「ビデオが廃れて、この都市伝説も消えた。今でも貞子がいるとすると、インターネットによって、より広がるよね」と語る。
でもインターネットで拡散するってのは、『貞子3D』で実際に描いていたのよね。つまり、この作品は『貞子3D』を無視しているってことになる。
パラレルワールド的な作品だと考えれば、「二日後に死ぬ」というルールも有りなのかもしれない。
だけど『貞子3D』を無視するのはいいとしても、第1作の『リング』で提示されたルールを変えるのは、いかがなものかと。これがシリーズを最初からやり直すリブート作品ならともかく、そうじゃないわけで。

夏美がテープを見た直後に部屋に貞子が出現するのは、すんげえ早いなあと感じる。
もはや貞子も伽椰子も有名なキャラクターになっているし、この2人が登場するのはタイトルで明らかにしているので、出し惜しみしても全く意味は無いと考えたのかもしれない。ただ、そこも冷静に考えると、ルールを変えているよね。
あと、貞子も伽椰子もピンで登場するのは早いけど、肝心の対決は終盤に数分しか用意されていない。だけどホラーとしての演出を意識する前に、この映画で何よりも重要なのは「貞子と伽椰子の戦いを盛り上げる」ってことじゃないのかと。
そこを申し訳程度のシーンに留めてしまったら、仮に恐怖描写が優れていたとしても、やっぱり本末転倒じゃないかと思うのよね。

遥は呪いの家について鈴花に話す時、タロットカードを使っている。
なので、まるでタロットカードで出た内容を話しているかのようにも見えるが、そういうことでもなさそうだ。
しかし彼女はカードを並べると、「あの家、絶対に入っちゃダメだよ。これ、最悪の組み合わせだから」と口にする。
いやいや、タロットカードなんて関係ないでしょ。呪いの家が持つ恐怖のパワーは、そんな占いなんかで表現するべきモノじゃないでしょ。

有里と夏美が呪いのビデオから助かる方法を必死に考え始めた時点では、まだ親しい人間が1人も死んでいない。
バイト店員や老人が死亡したことは聞いているが、その現場を見たわけではないし、知っている相手ではない。
でも、もう観客は呪いで死ぬことを知っているので、「親しい人間の死によって呪いが本物だと確信し、ヒロインが心底から恐怖を抱く」という手順を踏む必要が無くなっているわけだ。
ホントのことを言うと、それでも手順を踏んだ方が望ましいとは思うけど、そこは尺の問題を考えれば省略してもOKだ。

小学生の達也たちは呪いの家に入り、俊雄の襲撃で姿を消す。
もちろん俊雄も『呪怨』の重要なキャラクターだから、登場させるのは当然っちゃあ当然だ。
ただ、今回はタイトルで「貞子vs伽椰子」と謳っているので、俊雄の存在が邪魔に思えてしまう。そこも俊雄じゃなくて、伽椰子でいいんじゃないかと。
あと、鈴花と両親は呪いの家に入っていないんだけど、それでも伽椰子に狙われるというのは理不尽な展開だよな。それはホラーとしての理不尽さとは別物でしょ。

貞子と伽椰子を「ちゃんと観客を怖がらせるための存在」として扱おうとしている意識は感じられるし、そのための演出が大きく外れているとは思わない。
だけど、やっぱり「VS」にした時点で真っ当なホラーにするのは無理なのよね。その段階で、「キャラクター物」の分類からは逃れられなくなってしまうわけで。
っていうか、貞子や伽椰子の見せ方に関しては真っ当なホラーとして演出しようという意識を見せる一方で、経蔵&珠緒の存在は明らかに異なるベクトルを向いているのよね。
この2人の動かし方は、どう考えても観客が恐怖に浸ることを妨げている。

「バカみたいな噂を信じたんだよ、バッカだね」と有里を馬鹿にしたり、法柳の死体を見ながら「この人、凄い無駄死にだね」と冷淡に言ったりする珠緒の存在は、キャラクターとしては面白い。
経蔵と珠緒のコンビだけ使って、別の作品を作ってもいいと思うぐらいだ。
だけど、じゃあ恐怖を煽るために貢献しているのかというと、それは違うんだよね。
っていうかさ、実は白石監督って、この企画を利用して経蔵と珠緒のキャラを使いたかっただけじゃないのかと邪推したくなるぞ。

(観賞日:2017年10月1日)

 

*ポンコツ映画愛護協会